えっち大好きな美人家庭教師が可愛い教え子くんに手を出した結果押しかけてきたカノジョがやばすぎた話 作:萩萩
先週、受け持つ生徒を知った。
名前は[[rb:天橋聡 > あまはしさとる]]。高校1年生、年齢は15歳。
私が家庭教師として会う、初めての人間。
そして今日、ついに対面する。呼び鈴を鳴らすのは時刻ちょうどがいいか、それとも5分前がいいか。そんなどうでもいいことを、その子の自宅の玄関の前で考えていた。迷っているうちに5分前、3分前というような選択肢はなくなり、結局時刻ちょうどを狙うことにした。腕時計を見るとあと数秒しかなかった。
「……よし」
あと2秒というところで小さく意気込んで、その勢いで呼び鈴を鳴らすとちょうどになった。どこの家でも鳴りそうな音が玄関の扉から微かに漏れた。
その瞬間に玄関の扉が開く。ずっと前からそこで待っていたかのような素早さだった。私と同じく時計とにらめっこしながら玄関前に立ち尽くしていなければ実現できないほど、一瞬だった。
顔を出したのは小柄な男の子。挨拶は私からすると決めていた。
「あ、初めまして!」
「…………あ、こ、こんにちは」
その子は小さな声で私を迎え入れた。学校のジャージらしきものを着ていたので名前の刺繍を探したが、見当たらない。
「お、お邪魔しますー……」
そのまま、彼は私を家に上げてくれた。こちらを何度も振り返りながら廊下を進み、階段を上っていく。私はそれについていった。彼はずっと黙っている。
わからないことが多すぎる、すべて私の方から聞き出さなければならないのか。
「あの……きみが、[[rb:天橋聡>あまはしさとる]]君?」
「あ、あ……はい」
「あ、そうだったんだ。よろしくね」
尋ねてようやく、高校生にしては少し小柄な彼がかの[[rb:天橋聡 > あまはしさとる]]であると確信できた。違かったらどうしようかと思った。
天橋君の前髪は目にかかるより少し短く揃えられ、控えめに伏せた目はもっと自信を持つべきだと思わせられるほどに美しく透き通っている。まだ中学校を卒業したばかりとは言え、あまりに頼りない双眸に不安を煽られた。
私が大学生バイトなのがいけないのか。バイト家庭教師だから、舐めてるのか。それか、大学生自体が怖いのかもしれない。確かに私が高校生の頃も派手な格好をした大学生に恐怖していた……いや、今も怖いが、私はそんな見た目だけの人間じゃないことを知ってほしい。
我ながら自信のある高身長に黒髪ストレートのせいで思春期男子をドキドキさせてしまった可能性は否めないけれど……それでは私の身長と髪が縮まない限り授業にならなくなってしまうので、大変困る。がしかし思えば天橋君と私の身長差はかなりバランスが良いかもしれないから、なるべくこのままで居たいと思った。立ち並べばまさに理想、美しい『先生と生徒の図』が出来上がりそうだ。
なんて思案に耽っているうちに、2階の勉強部屋らしき所へ到着した。部屋の中から、早く入ってと言わんばかりにこちらを見つめている。私は焦った。
「あ、あの、天橋君は、いつもここで勉強してるんだ?」
「まぁ……は、はい……」
その部屋には物が多く、綺麗に整頓されているかと思いきやそういうわけでもない。だけど、その生活感のおかげで少し気が和らいだような気がする。仕事で人の家に上がるのは初めてのこと。そのせいで過度に引き締まっていた私の心は、この部屋に救われた。
「まずは自己紹介、だね」
「え、あ……は、はい」
天橋君があたふたしながら何かを言いかけて、なにも言わなかった。まぁ、こういうのは先生の方から喋るものだろうし、別にいい。
「先生は[[rb:井川麗華 > いがわれいか]]って言います。井川先生って読んでほしい、かな。実は天橋君が初めての生徒で……少し緊張してます」
弱気なことは言わない方が良かったか……と一瞬で自省しつつ、天橋君の心に寄り添えたならそれでいいかと割り切った。互いがきょろきょろし出すくらいに微妙な間が空いてから、天橋君も口を開いた。
「あ、えっと、あの……[[rb:天橋聡 > あまはしさとる]]、です」
「うん、よろしくね、[[rb:天橋>あまはし]]君」
「よ、よろしくお願いします……」
「親御さんはお仕事って聞いてて、いつかは直接お会いしたいなって思ってるんだけど、厳しいかな……。電話越しではご挨拶させてもらったんだけど」
「あ、すみません……」
「い、いや、謝ることじゃないんだけど」
「え、あっ……そ、そうですよね……」
それからまた微妙な間があった。天橋君は目を泳がせていた。本棚に目をやって、それから壁のポスターを一通り眺める。そんな天橋君を私が眺める。不安を帯びていても明るい瞳だな、そう思った。とりあえず話題がないかと、本棚に目をやる。
「漫画、好きなの?」
「え、えっと、少し」
「少し……?」
「あの、読んでます……た、たまに……」
「……うん。そうなんだ」
普通に話しているだけなのに、なんだか彼をいじめているような気分になってくる。私が喋るたびに天橋君は身体をビクビクと震わせる。俯きがちの瞳で、いつ私が話し出すか伺っていた。
「あ、あの、座る……?」
「え、ぁ、す、すみませんっ……! す、座ってくださいっ……」
言うべきかずっと悩んでいたことをようやく口にし、ここまでのやりとりは不完全ながらに着地する。天橋君が慌てて指をさした方には組み合わせ自由自在のよく見る机と、その前に二つ並べられた椅子がある。私がそこに着くと天橋君もふらふらとついてきた。
「椅子、用意してくれてたんだ。ありがとね」
「あ、は、はい」
「まぁ、仲良くなるのはこれからってことで」
そんな諦めか期待かわからないような締めで、話だけは先へと進んだ。それからは、用意してた通り。今後の学習計画を立てたり諸々の説明をしたり、余った時間は余ったままで、初日を終えた。
そして、ぎこちない天橋君との初対面からしばらくが経った頃。週明けから始まった指導も今日で3回目。天橋君には数学を指導することになっている。先日あったテストの結果が悲惨だったために家庭教師に頼ろうという、ありきたりといえばありきたりな理由。取り返しのつかなくなる前に数学だけでもと、縋ってきた。
「それじゃあ、今日もよろしくお願いします。今回も宿題の確認からね」
天橋君は「はい」と言うかわりに宿題のプリントを私に差し出してくれた。宿題と言っても、問題集の中身を印刷して天橋君に渡しただけのものだ。あまり嫌われたくないという思いから量は少なめにしている。
採点を始めるとすぐ、天橋君がどんよりしている理由が分かった。
「うーん、惜しいね」
「すみません……」
「いやいや、謝ることないよー? 簡単に解けたら先生いらないじゃん」
なんて冗談でまた変な間が走り、私は空気を乱した責任を取るように慌てて口を開いた。
「先生の教え方が悪かったとかもあるし」
「え、えっと……すみません」
「まぁ、難関大学目指すとかじゃなければ大丈夫だよー。あ、まだ一年生だし、進路とかピンと来てないかもしれないけど……」
決めつけたのは早計かと反省する一方で、特に反論がなかったことから少し肩の荷が下りる。
「でも、目標はあったほうがいいと思うよ。目標がないとやる気もなくなっちゃうと思うから」
「そ、そうですよね……がんばります」
目標。自分にも言い聞かせるつもりだった。しょせんバイトと舐めてかかれば思ったより大変なこの仕事。給料だけを目標にしてやっていくのは厳しいところがあった。大げさかもしれないけど、天橋君の成績を私が担うつもりで頑張ろうと心に決めている。
「なんかあるの? 好きなこととか、将来やりたいこととか」
「え……」
「生徒にやる気出させるのも仕事だーって、研修のときに言われて」
天橋君はなんとなく、私に慣れてくれた気がするが、気を遣わなくなった分だけむしろ口数が減ってしまったのかもしれない。案の定、はっきりとした返事はなかった。こんな無駄話も研修のせいにして、天橋君の部屋をぐるりと見まわすとやはり、本棚が目立った。そのひとつ、上半分はほとんど空いていたが、初日には気に留めなかったところに気になるものがあった。
「天橋君……絵、描くの?」
「あ、あの……少し」
描き方がなんとか塗り方がなんとかみたいな本がいくつか、本棚の端に寄って並んでいた。よくわからないまま話のとっかかりにしたけど、天橋君の表情をみるにきっと正解だったのだろう。明るくなった顔で私の方を見てくれた。
「『少し』って言うの、なんか上手い人っぽいじゃん。絵じゃなくて、スポーツとかでもなんでも、みんなそう言うよね」
「あ、あの、本当に大したことなくて……」
「あー、それも上手い人っぽいなぁ」
彼は俯いて首を振った。
「は、早く、授業始めませんか……?」
あれだけ数学の嫌いな天橋君が、授業をしたがるなんて。趣味に踏み込まれるのがどれだけ嫌なのだろう。だが、私は先生。生徒について知ることも立派な仕事だ。
「いや、ダメ。もう先生の方が気になっちゃったから、授業できせーん」
職権乱用の気配もあるが、せっかく見つけた話題だからもう少し掘り下げたかった。やはり、勉強を教えるということはそのまま勉強を教えるということではないって、研修で言っていた通りなのだろう。数学の前に、先生のことを好きになってもらわないといけないのだ、多分。
「ね、今。描いて見せてよ」
「え、えっ……い、今ですかっ?」
「いま」
「でも、だって……今日の授業は……?」
「そんなのいいよぉ、描いてよぉ」
「え、ええ……」
私がめんどくさい女であることに気がついた天橋君。仕方なさげにペンを走らせる。宿題のプリントの隅にしゅっしゅとペン先から線がたくさん出る。それが美しかった。
絵心のない私には、その仕組みが全くわからない。魔法のような筆使いにしばらく見惚れていた。一本のシャープペンで濃淡を表現できる意味がわからない。光と影のように堺目が曖昧なものもペンが走ればそこが境目になる、なぜ……。絵の上手い人にはわかるのだろうか。少なくとも、絵の上手い人に私の気持ちはわからないだろう。
「わー、すごい上手いじゃん」
描かれていたのは、美術の教科書か何かで見たような『手』だった。上手いなんて言葉じゃ足りないと思う。そう言い切れるほどの現象が目の前で起きている。人が絵を描くところくらい今まで何度も見てきたが、これは明らかに普通じゃない。
「あ、ありがとうございます……」
「なんかこう、絵はもちろん上手だけど。それ以上に筆づかいがさ、プロだね」
どう褒めたらいいのかわからない。私なんかじゃなくてもっと、こう、詳しい人が見たら、大変なことになるのではないか。そう思った。
「い、いや、プロなんて……あはは、そんな……」
あからさまに褒めると天橋君はやわらかく笑ってくれた。
やっと天橋君を知れた。そんな気がした。私は嬉しかった。天橋君の優しい表情は、とても可愛らしかった。こんな顔を見せてくれたのは初めてだと思う
つんつんと短い線を乗せるみたいにしたのがたぶん仕上げで、天橋君はふっと息をついた。
「最近、たくさん練習して」
「すごいよ! な、なんか、本格的……!」
「そ、そうですか……? あの、おもしろくないですよね……すみません」
面白くないなんてこと、決してない。もっと自信を持って欲しいと強く思わされるくらいに天橋君の絵は素晴らしかった。それでも、天橋君は淡々としている。こんなの普通ですみたいに顔を澄ませている。
もう一押し掘り下げたいとかそういうことでなく、私は純粋に、授業よりも天橋君に興味を持った。
「手って、なんか上手い人がいっぱい書いてるじゃん。目とかも、あれ、なんで?」
「え、そ、そうですかね……」
「うーん、勝手なイメージだったかぁ」
「難しいので、やりごたえあるっていうか。見るのはつまんないかもしれないですけど、描くのは楽しいですよ」
「いやでも、先生はもっと可愛いの想像してたな。犬とか」
「つまんなくてすみません」
「い、いや……、謝らなくていいっていうかむしろ先生のほうがありがとうっていうか……あの、ごめんっていう気持ちになっちゃうな……」
そして、私は思い立った。
ちょうど持っていた赤ペンで、花丸をつけてあげた。
「え……せ、先生?」
「ふふ、ごめん。小学校みたいかも」
これ、一回書いてみたかった。天橋君の良いところを引き出せた私にも花丸、なんて。
「天橋君にも得意なことがあるって、知れてよかったよ」
「あ……あの、ありがとうございます。絵のこと褒めてくれる人、あんまりいなくて」
「そうなんだ、すごいのに」
この世界で天橋君のことを理解しているのは私だけ。そんな、妙な感覚があった。
「隣の席の人は、なんか褒めてくれるんですけど」
「うーん……もっと、みんなに知ってほしいなぁ」
「がんばるので、応援してて下さい」
「ふふ、応援するね」
その日から、私と天橋君はすぐに打ち解けた。無駄話が増えた気もするが、結果として授業は円滑に進むので良いことづくしだった。週3回、月曜、木曜、金曜。その決まった周期で授業を進行していくと、私のマネジメントが功を奏したか、天橋君の学力がみるみる向上していった。数学しかやっていないので数学に限るが。
ところで、わからないところを聞けずにそのままにしてしまうのが天橋君の悪いところだ──家庭教師・井川麗華の見解。私に対してであれば気兼ねなく質問してくれるようになったのはかなり大きな進歩だが。学校では相変わらず、コミュニケーションを取るのは苦手らしい。
「他の教科もあるんでしょ? 学校の先生とか友達とかとも仲良くしなよー」
「いや……できたらそれは、いいんでしょうけど……」
助けてあげたかった。天橋君はいい子だし、私が教えている数学に限ってはすでに苦手を克服したと言える域にまで来ていた。期末考査も近づいて挽回のチャンス! というところだけど、私の手に負えるのは数学だけというこの歯痒さ。
「他の教科も教えてください、井川先生が」
「い、いや、数学で手いっぱいだから、先生めっちゃ忙しいから」
「うわぁ……どうしよう」
やはり最後は天橋君自身のやる気に委ねられるのだ。実際は成長しているはずなのになんだか振出しに戻った気分になる。
「うーん、先生も頑張るからさぁ。どうしたら他の教科も頑張ってくれる?」
「英語も教えてください」
「いや、話聞いてた……? 終わったら、頑張ってくれたら、なんでもするからさ〜」
「うぇ、なんでも」
「うん」
テストが終わればすぐ夏休みがやってくる。そのころには天橋君と出会って、2か月が過ぎていることだろう。
「デートとか」
「え、い、いやっ……そ、それはだめじゃ……」
「したいなぁ」
「だ、だめですって……いや、校則とか……」
「ここは学校じゃないし」
「え、ええっ……」
半分冗談のつもりで言ったけど案外盛り上がってくれた。そして、天橋君の表情はわかりやすい。
「6割取ろう、全教科の6割。前回の2倍は取ることになるけど、数学を武器にして頑張ってよ。デートしたいでしょ?」
「ご褒美がおかしい……」
「えー」
天橋君は、感情が顔に出やすい子だ。私もそうだった。互いにずっとにやにや笑いながら喋っていたから、傍から見られたら恋人同士みたいかもしれない。
「テスト範囲はとっくに終わってるし、宿題も満点だったし! 早めに終わろっかー。他の教科も、自習見るくらいならできるからさ、多分」
古文とか日本史とかは全て忘れたに等しい、英語もだいぶ怪しい。かなり弱めの「多分」だった。今日の宿題を天橋君へ手渡すと、彼はそれを解き始めた。だいぶレベルの高い問題にまで手を付けた天橋君は、学校のテストじゃ敵なしかもしれない。
「数学やるんだ」
「はい」
「時間はまだあるし、見ててあげる」
なんだか、ペットにエサをあげているみたいな気分だ。凛々しい表情のままたびたび何かをひらめいたように目を見開いたり、行き詰まって悩むような顔をしたりと、天橋君は犬のようにめまぐるしく表情を変えた。様々な可愛らしい顔がそこに展覧される。
それを私のものにしたいと思った。
このままじゃ、私はなんてことないバイトの家庭教師で終わり。
週3回。嫌いでたまらない数学だけを教えて、それで終わり。
「数学、好きになってくれた?」
「えっ……な、なんですか、急に」
「問題解いてる顔が格好よくなったなって、思って」
「え……なんですか、それ……」
いいじゃん。格好いいなって、可愛いなって、思ったって。いじわるしたい気持ちだって、きっと自然だ。天橋君はどこか否定するような目つきで私を見つめていた。
「先生がそういうこと言うの、ダメ?」
「だめといえば……だめ、です」
天橋君はわかりやすく顔を赤らめて伏せてしまう。うるうるとした可愛らしい瞳で数式を何度もなぞっている。
やっぱり天橋君には可愛いが似合う。
「ダメかぁ」
私の遠回りは、天橋君には届かないようだった。むしろ、避けられているようにさえ思えた。
重苦しい沼で溺れている私に、甘くほろ苦い恋をのんびり楽しむ余裕などなかった。生きるか死ぬかの境にいる。
君にも、一緒に溺れてほしかった。
──ちゅっ。
「えっ、え──」
口づけされた頬に手を添えて、目を見開いた。あの大人しい天橋君が跳ねて、すごく驚いていた。
「……ふふっ」
私はいたずらに笑った。得たものは、口づけ以上に大きい。平手打ちでもされたみたいに、赤くなった天橋君は自分の頬を優しく擦る。
「な、なに!してるんですか……っ」
「ダメ?」
「そ、そんなっ、だめにきまって──」
「……うるさい」
──ちゅ、ちゅっ。
「や、やめっ……」
「ん……?」
「や、やめてくださいっ……!」
強い力で身体を突き放される。それでも、驚いた顔をしているのは天橋君の方だった。初めて出会ったときと同じ、怯えるような瞳で私を見つめている。
「せ、先生っ……あ、ご、ごめん……なさいっ……」
「……嫌?」
私が喋るたび、天橋君はその臆病な身体をびくびく震わせる。そうして私がいつ話し出すかを伺っているのだ。
「天橋君は先生のこと、嫌い……?」
天橋君が用意してくれた椅子。授業のときに私が座る席は、学校の隣の席よりも遥かに近いだろう。一つの机に目を落として授業をするのだから当然だが。そんな些細なことにも、私たちを沈ませるだけの重みはある。
「…………嫌い、です」
「本当に?」
「え……」
「からかってるだけだって思ってるでしょ」
顔を手に取りこちらに向かせた。天橋君の涙が私の手に滴り落ちる。
「先生はね、天橋君のことが大好き」
「う、あっ……や、やめっ──」
「男の子がこんなに可愛いなんて知らなかった」
どうすれば良いかは本能が知っていて、それを遮るものは何もなかった。天橋君の後頭部を両手で押さえて、逃がさないようにキスをした。掠れた泣き声に交じるの可愛らしい呼吸が聞こえた。
「ん、んっ、ちゅっ」
「せんせいっ、ん、うっ……」
視界が、思考が。天橋君でいっぱいだ。身体では支配したつもりでも、心は侵食され続けている。ずっとこうしたかった。こうなりたかった。それが叶うところからはもう、抜け出せない。天橋君もきっと、そのはず。
私は何も言わず、天橋君のふとももに触れた。水を掬い上げるような手つきで布越しの肌を撫で、答えを求めた。
「意外としっかりしてるね。やっぱり男の子だ」
天橋君は俯いて、目を閉じて、現実から逃れようとしていたのかもしれない。彼はまだ、子供なんだ。もう少し勇気を出せば気持ちいいところにいける。それを教えてあげたかった。そんなことも知らない天橋君がやっぱり可愛かった。
「もしかして、年上は苦手?」
「そ、そういうのじゃ……」
「じゃあ、なに……?」
こうして急かすのは、良くないことのように思う。だけど、そこまでしてでも私は欲しかった。私のこの気持ちを正当化する言葉が今すぐ必要だったのだ。
ふとももから手を這わせて、上っていく。しだいに天橋君の顔が青ざめるけど、否定されることはなかった。
「だ、だめ、ですっ……先生っ……」
「誰が決めたの? だめっていうのは天橋君にとって? それとも他の誰か?」
立ち上がろうとするのを両手で押さえ込んで顔を覗き込む。泣き腫らした目が赤くなって力なく私を見つめていた。脚の間、股に手をやって、布の温かさがわかるほどに力をかけた。跳ね返る勢いをそのまま押し固める。
「あ、っ……せ、せんせいっ……!」
「触らせて」
「だめ、です……だめ……」
「ダメ」
じりじりと焦らすようなことはしなかった。ベルトを外して、ボタンを外していると、天橋君は狼狽えながら腰を上げて、脱がしやすいようにしてくれた。結局期待してるのか、それとも逆らうのが怖かったのか。どちらにしても、私はもう悪者ではないだろう。言い逃れのできないほどに硬くなった肌色のものが見えて、私はそれをからかうようにつつく。指先で数回つついた。挨拶のようにぴくぴく跳ねてくれた。少し皮を被っている。
「かわいいじゃん」
「あ、あっ……ほ、ほんとに、だめですって……」
「もう、つまんないことばっかり言ってないでさ」
濃い香りが漂ってきたところでにやりと微笑みかけると、天橋君は恥ずかしそうに目線を逸した。
「どうせ、こういうの初めてなんでしょ」
「あ……あの っ……」
「ふふっ、なに?」
ぴんっと上を指すのは可愛げがあった。いままで見慣れてきたのよりは細い。これから成長するのか、それともこれが天橋君なのか。つまむといっぱいに硬かった。きゅっと少し強く締めると、天橋君は声を漏らして全身をびくつかせる。
「あ、あ……っ」
「ふふ、何か言いたかったんじゃないの?」
「う、うあ……せ、せん、せいっ……」
黙らせるために手を上下させて天橋君の弱点をいじめ抜く。先っぽがすっかり赤い。ここから白いものが出るなんてこと、純粋だった頃の私には全く予想がつかなかったのに。今までとなっては当たり前のようにそれを待ち望んでいた。なにか言い淀んでいた天橋君も私の施しに包まれて、今となっては「あー」とか「うー」とかを繰り返すだけの情けない玩具になっていた。
天橋君の慎ましいそれは、私の細く長い指なら二本で十分。人差し指と親指で段差の部分をちゅこちゅこ、たった1、2センチほどの往復にもかかわらず、天橋君はすぐに屈服した。
「いつも一人でしてるんでしょ? 週何回くらいするのかな?」
「あ、ぁっ……」
私の問いにも一切答えず天橋君は身体をよじる。とても苦しそうな顔とは裏腹に全身が歓喜に跳びまわっていた。
「先生知ってるよ? 天橋君が先生のことを変な目で見てたって。これは仕返し」
半開きの口をパクパクさせて、天橋君は一生懸命に喋る。
「ご、ごめんっ、なさいっ……ごめんなさいっ……」
「別にダメって言ってるわけじゃないけど。お互いにそういう目で見てるなら、行動に起こした方がお得だと思わない?」
「うぁ、あっ……で、でもっ……あ、あっ……」
この期に及んでも何かひっかかるものがあるという様子。人間である以上、単純なものを取り巻く複雑な糸を解く作業は欠かしてはならないのかもしれないが、私は手を激しく速めて、何も考えられないくらいに刺激してあげた。叫びだした天橋君にも構わず快楽の神経を直に炙っていく。天橋君は、自分が獣であることを思い出したみたいに叫んだ。
「あ、あっ……だめっ、せんせっ、ああっ……!」
「ふふ、正直になりなよ」
射精の準備のカウパーが垂れだして水音が聞こえ始めた。すると天橋君は見開いていた目をぎゅっと閉じて俯く。
「も、もう……あ、うあっ……」
天橋君は全身に力が籠りきったかのように硬直したまま、寂しそうな声を漏らした。
私は手を離す。
「……ぁ」
「勝手にイこうとしたでしょ」
知識でしか知らずピンとこなかった寸止めも、実際にやってみると楽しいものだった。意外と簡単でもあった。天橋君は、怒りと悔しさが混ざったような表情で悲しい声を出す。
「な、なん、でっ……」
なぜか。それは楽しいからに他ならない。だけど、訳も分からずくちゃくちゃにされるときの顔以外見たくないから、理由を教えるのはまだ先だ。
「先生のこと好きって言うまで許さない」
そろそろ本気を出そうかと、私は天橋君の座る椅子の前にしゃがみ込む。天橋君の濃い香りが近くなって、私の方まで顔が熱くなりそうだった。物欲しそうな顔をする天橋君を驚かすように手の動きを再開する。
「嫌いって言ったの、取り消して?」
「ご、ごめっ、なさいっ……っ」
すでに絶頂の崖縁にまで追い込まれた男性器を寸前で何度も放り出し、どうにもこうにも消化ができない甘い快楽を奥底までに刻み込んでみる。ほんの数秒擦り上げれば精液が溢れてしまうところ、限界を迎えては手放すのを繰り返し、天橋君の平常心が着実に削げ落ちていく。
「あ、あっ、ああっ……す、好き、すき、です……っ!」
「先生のこと、好きなの?」
「ゆ、ゆるしてっ、せんせいっ……」
「気持ちがこもってないなぁ」
「なん、でっ、う、うっ……」
刺激して離す。刺激して離す。その繰り返し。透明な液で艶だらけになった天橋君の性器。それを繊細な手つきで磨き上げていく。
そもそも、射精させるつもりなどなかった。今日のような日をずっと待ちわびていたし、天橋君をどのようにいじめ抜くかはあらかじめ決めていた。
「ふふ、まずは100回、言ってみよっか。『麗華先生大好きです』って、言って?」
「あ、あ……れいか、せんせいっ、大好きですっ……」
「ほんとぉ? 嬉しいなぁ」
ずっと欲しかった言葉が何度も反復される。にやにやと天橋君の顔を覗き込む私は幸せに満ち溢れていた。
「れいかせんせいっ……大好きですっ、れいかせんせい、大好きですっ……!」
「ふふ、下の名前呼ばれると、どきどきしちゃうなー」
「は、ぁ、あ……せ、せんせっ……」
ただ言わせているに過ぎないかもしれないが、天橋君の口から出たものであれば偽りでもいい。それに、その言葉はきっと、心の中に跡を残すはず。口の形で覚えてくれるはず。
「あ、あ……先生っ……しゃせい、したいっ……お、おねがいっ……」
「えー、まだだよー。あと90回くらい残ってるよ? もっともっと可愛いところ見せてよぉ」
暴発寸前の性器から手を離すとそれは寂しそうに震え、凍えているように見えた。これ以上は触れられないと察した。可愛らしく怯える天橋君を横目に、次の行動へ移る。
立ち上がり、天橋君を優しく見下ろす。椅子に座る天橋君は下半身だけが裸で、弱々しいおちんちんは天井を向いて真っ赤に腫れている。私は、そんな天橋君の膝の上に跨った。天橋君の小さな身体が私を押しのけようとするが、体格で勝る私は容易にそれを抑え込む。真っ赤な先っぽから垂れる透明な汁が私のふともものあたりに滴った。
「は、はぁっ……ああっ……」
「ふふ、すっごく近いね」
くたくたに疲れ果てたような天橋君は、もう諦めたようだった。ぐったりした表情を間近にした私も、興奮を抑えることを諦めていた。
思えば、初めて会った時から変わっていなかったのかもしれない。背の低い男の子を目にしたときから。先生と生徒という揺るがない関係性が築かれたときから。私の心の中の小さな炎が様々な感情へ延焼していった。その炎は、誰もが生まれながらにして内に秘める情念であるように思う。自分より弱い者を目の前にしたとき。それを自分の好き勝手に支配できるのだと確信してしまった時。確信が、目の前の事実へと変わった時。もう戻れないと知った。人間である以上は仕方がない。これはきっかけに過ぎないのだ。
天橋君には悪いけど、私は君にしか満たされない。
「先生のこと、怖い?」
答えなど求めていない。首を横に振ろうとするのを両手で押さえて、目が合うより前に口を塞いだ。
「……かわいいっ、はむ、んんっ」
「ぁ、あっ…………」
天橋君は完璧だった。顔も声も体格も、性格も態度も。少しずつ私に懐いていった過程も、まだ心を開けていないところも、まだ私の知らないことがあっても、それらすべてを愛したいと思えるほどに完璧。天橋君は天使のようでいて、私を誑かした悪魔でもあった。
「あまはし、くんっ……ん、ん」
体重をかけると天橋君の温もりがより鮮明に伝わり、私の全身が歓喜する。身体がぴったりくっつくほどに抱き着いて、置いてけぼりの肉棒に股を擦り付けると天橋君の吐息が大きくなった。
「はっ……んあ、はあ、先生っ……はあっ」
「気持ちいい……?」
ぐいぐいと天橋君を全身で刺激する。服は着たままだった。授業の時間はとっくに過ぎていて、教えることなどもう何もない。
少し冷静になった私は、早く事を済ませなければと思った。
「このまま、ぴったりくっついたまま。イかせてあげる」
「……はい」
「よく我慢できました」
「は、はいっ…………」
伏し目がちに黙り込む天橋君を見つめる。いじめたいという気持ちと、かわいそうという気持ち。今日はもう、かわいそうの方に針が振れた気がした。嫌われたくないという気持ちも、きっとあった。
ぎゅっと背中に手を回して、抱き着いて、私が座っているのは天橋君の膝の上。むき出しの天橋君の性器に体重をかけて、ぐいぐいと擦る。
「あ、あっ……ご、ごめんなさいっ……あ……」
「もう、出そう……?」
天橋君はまばたきを速くして口をぱくぱくさせていた。それを抱き寄せて、顔をやわらかな胸元で受け止めた。
「むぐっ」
「先生のおっぱいに包まれて、幸せでしょ」
「う、うぐ、うっ……」
ビクンと強く跳ねたかと思うと脱力して、天橋君の嗚咽が聞こえる。
「先生の服に擦られて、出しちゃうんだ」
「う、ううっ、うぐ、う……」
「いいよ」
「う、ううっ、ぐっ──」
あれほど恥ずかしがりの天橋君が。私に思い切り抱き着いた。
──ぴゅっ、ぴゅくっ……びゅく。
温かいものが私に垂れかかる。
「ごめんなさいっ、ごめん、なさいっ……先生っ……」
「ふふ、そんなに謝らなくていいよ」
泣き声がしだいに増していく。天橋君は私の胸元で崩れ落ちた。大きな声で涙を流していた。
「……どうしたの、そんなに泣いて」
「う、うっ、う、ぐっ……ごめんなさいっ……う、ううっ……」
初めは、理解ができなかった。どうしてこんなにも涙を流すのか。
理由を知らず、訳のわからないままでいられたとしたら、持ち合わせる優しさの全てが途切れることはなかっただろう。
「…………す、すきな、ひと……いるんですっ……」
「……え?」
「こ、こんなこと……もう、やめてください……」
事後、男の子は冷静になるらしい。
釣られて冷静になった私の頭に心当たりが浮かんだ。
「隣の席の人?」
天橋君は何も答えなかった。
その日はもう口を利いてくれなかった。
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