ご覧下さい。
夥しい量の殺意が、全て俺に向けられた。それを向けられた相手であろう罪なき人達は、真っ赤な肉の塊になって血の海に沈んでいる。凶器を握りしめた者もいれば、拳で殴ろうとする者もいる……何故? それを考える間もなく、狂気達が俺を襲った。
「ぶっ殺してやるッ!!」
「どけ!! 俺が殺すんだぁっ!!」
「っ、くそ……!!」
どうにか躱して、構える。明らかに異常だ、何が原因なんだ? 昨日の出来事を記憶から引っ張り出す。昨日はあやめに勝って、ライオトルーパー部隊とライオンオルフェノクを殺して、それから薬を……
「あの薬になにか入ってたのか……!? やめてください、どうしてこんなこと!?」
「黙りやがれ、いい子ちゃんが!!」
「ぐっ!!」
ナイフが身体に突き刺さる。お気に入りの服に赤い染みができていく……今わかることはひとつ、このままでは殺される。なら、やるしかない。次のナイフの一撃を躱して、出来る限り手加減して殴る。
「がっ……そんなもんかぁ!?」
「効いてない!? いや、戦闘本能の方が強いのか……!」
「隙あり!!」
その男の手から赤い電撃が放たれ、俺は拘束された。雷の魔法はないはず……ってことは、これも財団X関係の力か。今回のは規模がデカいな……!! 一般人をこんなに巻き込むとは……!!
「ぎぃっ……がぁぁぁ!!」
「なに、破られ……」
「うぉらぁぁぁっ!!」
仕方なく、急所を外して全力で殴る。手応えあり……肋骨をへし折った。倒れ込んで、白目を剥いている……気絶してるな。
「ぐはぁ……!!」
「こいつで終わりだ!!」
「がぁぁぁぁ!!」
違う人が電撃を食らって動けなくなっている、丸焦げになっている死体はこれを食らったんだな……止めないと死んでしまう。体を倒して素早く接近し、拳の一閃。俺の拳が相手にめり込む……
「ふんっ!!」
「ぐはぁっ!?」
「隙あり!!」
解放された人が一切怯まず、こちらに電撃を放ってきた。どうにか避けて、正中線を捉えた反撃の拳を打ち込む。男女関係なくこうなっているのか……惨すぎる。
「ぎぃっ……」
「死ね!!」
「あやめとの約束があるんだ……まだ死ねんな!!」
そう言って、次々殴り飛ばす。ここだけでも50人はいるな……避難所にいた人全員か……ってことは……
「ぐぁぁ!!」
「うげっ……」
「……父さん、母さん……」
二人も例外ではない。早く行かないと、死んでしまうかもしれない。それも、愛する人の手で……そんなの、絶対にダメだ……!
「どこ見てんだ!?」
「だぁらっ!!」
「ぐふっ!!」
だが、今はとりあえず仕事をしないと……鷹嶺先生は大丈夫だろうか? 取り残された人はいないかな? 俺が普通よりも早く起きるとはいえ、早く来ている真面目な人もいるかもしれない。
「急がねぇとな……ん?」
「死ねぇ!!」
「カウンターファイト!!」
攻撃をたまに受けながらも、怯まずに倒していく。どんどん数も減り、最後の一人だ。
「この野郎!!」
「らぁっ!!」
「ぎっ……」
倒し終わったが、罪悪感がないわけではない。この人達に罪は無いのに……財団Xのせいで。
「ごめんなさい……」
助けられなかった人達全員にそれを言って、学園内へと向かった。全員無事でいてくれ……!
「学園内も酷いな……あっちから音がする」
音の方へと向かうと……いた。鷹嶺先生だ……何人かは倒れてる、流石だな。数は少ないし、あとはどうにかなりそうだ……
「ふぅ、流石に骨が折れるな……」
「なんだテメェ!?」
「おっと、見つかったか!」
好都合……見つけさせる手間が省けた。攻撃を避けつつカウンターファイト……
「ぐぁぁ!」
「退いてもらうぜ、その人は俺の先生なんだ!!」
「ぎぃぃっ!!」
粗方なんとかできたな……やはり、倒れている人達が可哀想だ。倒さなければならなかったとはいえ……
「やぁ、その様子だと元気そうだね? 雪村くん」
「鷹嶺先生こそ、怪我がないみたいで良かったです……多分、原因は昨日の薬だと思うんですが……」
「薬? そういえば、そんなことを聞いたような……」
説明しておいた方がいいかな……そう思って、簡潔に経緯を話した。
「……というわけでして」
「そうか……今、癒月先生が調べてくれている。もうすぐ……おっと、噂をすれば」
「お待たせ、ルイ様……康太様も居るのね、ちょうどよかったわ。まず、これを見て? 血液検査の結果、血液中から見つかったものよ」
一枚の写真……なんだこれ? 虫?
「これは……?」
「ナノマシンよ。特殊な電波を放ってるみたい。それがなんなのかは、わからないけれど……効力は戦闘本能の異常な増幅……そして、赤い電撃の使用を可能にする効果もあるみたい」
「これが雪村くんの言う、薬に仕込まれていたのか……財団Xの仕業と見てよさそうだね」
どうやら、そうらしいな……くそ。逆に利用してやるなんて言っといて、ダサすぎるだろ……
「倒したくないですけど……その感じだと、気絶させる以外の方法は……」
「残念だけど、なさそうね。機能を調べたけど、脳内に血液を通して侵入した際に、強力な電波を一斉に放つことで起こすみたい……解除する方法はわからないけど、人工透析の後、色々と試すしかないわ。でも、今はとりあえず倒すしかないと思う……ごめんね、康太様」
「やはりそうか……雪村くん、いけそうかい? もし無理なら……」
無理だなんて言うはずない、言えるわけもない。俺がやるんだ、怪我なんてさせやしない。
「無理なんて言葉、とっくの昔に捨てましたよ。僕は僕にやれることを全力でやる。それ以外できませんから」
「そうか……君らしいね。じゃあ、行こうか」
「私はここに残るわ。学園を好き放題されたらたまったものじゃないからね……」
……大丈夫だろうか。相手は数だ、それも殺しちゃいけない。
「大丈夫ですか? よかったら僕は残って……」
「心配してくれるの? ありがとう……けどね、私だって強いのよ? 先生なんだから……それに、アキロゼ先生もいる。もうすぐ来るわ……さぁ、行って! 暴れてる人々だって、こんなこと望むはずないわ!!」
「……わかりました! ご武運を、癒月先生!!」
そう言って、鷹嶺先生と共に駆け出す。進むも地獄、退くも地獄なら……俺は進もう。みんなのために、父さんや母さんのために!!
「来たわね……少し大人しくしててもらうわよ」
「黙れ、アバズレがぁ! ……うぎっ!!」
「アローナ……ごめんね、待った? 癒月先生」
街に出ると、殺し合う人々がひしめいていた。辺りに響く狂気と苦痛の声は、心の強い者でなければ精神崩壊しかねない代物であろう。
「死体が……くそ、本当に酷いな……」
「あぁ。だからこそ……これ以上やらせるわけにはいかない。そうだろ? 雪村くん」
「台詞取られちゃったな……」
そう言いつつ、後ろから来ていたナイフを躱して構える。
「カウンターファイトォ!!」
「な……げふっ!!」
「流石だね、もう戦闘モードか……切り替えが早くて大変よろしい!」
鷹嶺先生だって、準備万端だ。もう空を飛んでいる。
「そっちこそ……準備はできてるんでしょう?」
「当然。だって先生なんだ……怪我はさせないよ」
「自分のことだけ考えててください! 自分のことは、自分で何とかしますので!!」
そう言って、先陣を切った……つもりだったが、もう追いつかれた。流石のスピード……もっと速くなってる気がする。
「心強いね、相変わらず!!」
「お褒めに預かり光栄ですっ!!」
「さっきから……二人で騒いでんじゃねぇ!!」
放たれた電撃を寸前で躱し、握り拳を握り直す。鷹嶺先生は……もう、敵の後ろに回っていた。
「らぁっ!!」
「ギャッ……」
「耐久力は変わってない……気絶させるのは容易だね。おっと、危ない!」
喋りながらも周りを警戒し、効率良く気絶させていく。スマートかつ、素早い戦闘スタイル……俺には真似できないな。
「どこ見てんだ!?」
「お前らの急所じゃないところだよ!!」
「ごぶぁ!?」
攻撃を打った後の後隙は消えてきているが、まだまだお世辞にも素早いとは言えない……だから、俺は俺の強みで戦うしかない。敵を観察しろ、動きを読むんだ!! これだけは負けない、一番の得意分野だ!!
「……読めてきたぞ、次は……そっちだな!?」
「ぐげぇ!?」
「当たり……! 鍛えたのは間違いじゃなかったな!!」
鷹嶺先生と違って、相手の骨は折ってしまっているが……誰も殺してないから、及第点だ。
「まだまだいるね……いけるかい?」
「そっちこそ、ダメそうなら……下がってくださいよ」
「こっちのセリフだよ、君は私の生徒なんだし……」
お互い引く気はゼロ……ならば。
「生徒だからってご心配なく! こういう時のために、鍛えてますんで!!」
「まぁ、君ならそう言うよねぇ……わかってたさ!!」
「わかってくれて助かります!!」
「うるせぇぞ、女とガキ!!」
散開。次々気絶させていく……際限なく出てきているが、諦めるわけにはいかない。俺が……父さんと母さんを助けに行かないといけないんだ。
「さっさとどいてくれないと、俺の身内が危ないんだよ!! どけ!!」
「知ったことか!!」
「だったら倒して進むだけだ!! うらぁぁ!!」
地面を蹴りつけて、膝を折り曲げ……相手の鳩尾に思い切りぶつけた。暴徒の一人は骨が折れ、後ろに倒れ込む。ドミノ倒しのように人々が倒れていく。
「かはっ……」
「うぉあっ!?」
「ぐぇぇ!!」
隙あり。立ち上がってきた人達の隙をついて、次々に殴り飛ばしていく。殺さないように全力で手加減しながら……難しいな。
「うらっ、だらぁっ!!」
「ぐふぅ!!」
「ハァァァッ!!」
鷹嶺先生は上手だな……手早く、それでいて傷がつかないよう丁寧に気絶させていく。先生だから、鎮圧術も練習してるのかな?
「ぎっ……」
「このクソ野郎共が!!」
「うぐっ!?」
いけない、電撃を食らってしまった。先生は大丈夫か?
「お前も喰らえ!!」
「っ、く……!!」
「うざい蚊みたいな逃げ方しやがって……そこだ!!」
あぁ、捕まった……!! 破るのだって簡単じゃあない、時間もかかる。攻撃を食らったら、俺も先生もただじゃ済まないぞ……
「ぐぅっ……!!」
「撃ち殺す!!」
「鷹嶺先生ッ……!! ぐぅぅぅ……あぁぁ!!」
どうにか振り払って、助けに行こうとしたが……人の津波が俺を押し流す。
「どこ行くんだ!?」
「先生のところだよ……!! どけっ!!」
「やなこった!!」
いけない、あのままじゃ死んでしまう。それだけは、それだけはダメだ……!!
「こんのぉぉ!!」
「げふっ!!」
「よそ見しないで俺達の相手をしろ!!」
凶器を躱すので精一杯だ、仮面ライダーと違って装甲も耐久力もパワーも並より少し高い程度。それは先生も同じなのに……助けに行けない。
「ぐ、ぎぃぃっ……『オーバード』ォ!!」
「な……がはっ!?」
「ぐぅぅ!?」
鷹嶺先生が紅き閃光となり、電撃を振り払った。あれは先生の切り札だ……こんなところで使わせられるなんて。あれは負担がすごいはずなのに……俺が助けに行けなかったばっかりに。先生はその代償に見合う速度で、次々と暴徒達を鎮圧していく。俺の周りにいた人達はいなくなったが……先生が地に降りて、膝をつく。
「先生、大丈夫ですか!? ごめんなさい、助けに行けなくて……!!」
「君のせいじゃないさ……はぁ、はぁ……やっぱりこれは多用できないな。一瞬だけだからよかったけど……負担は減ってないや」
「もうあれは使わないでくださいね……俺が守ります。後ろに」
そう言って、下がるように促す。また倒れてしまったら、流石に先生をおんぶして戦える自信はない。
「頼もしいのは結構、だけど……先生として退くわけ、にも……いかないんだよね!!」
「しかし……このまま戦い続けたら、先生は……!!」
「……君は私が退けと言ったら、今退いてくれるかい? 退かないだろ? そういうことさ……この命が燃え尽きるまで、私は生徒を守る……!!」
覚悟……これはもう、説得しても意味が無いな。目的のために殉じる覚悟、誰かのために罪を背負う覚悟……俺と変わらない。なら……止める資格はないだろう。
「じゃあ……最後まで付き合ってくださいよ!!」
「元々そのつもりさ!! 君こそ下がってな、雛鳥!!」
「抜かせ、不死鳥!!」
先生と生徒とは思えない会話を交わして、また現れた悪夢へと身を投じる。誰かに悪夢を見せぬために、死を与えぬために。
「……なんだ!?」
「ダァァァッ!!」
「だぁらぁぁぁ!!」
女性へと電撃を放っていた男性に、攻撃を加えてやめさせる。
「ぐぅっ!!」
「邪魔するな、クソガキ!!」
「させるかァ!!」
鷹嶺先生の拳が首に叩き込まれて、女性の方も意識を飛ばした……
「……同じデザインの指輪、この人達は夫婦なんだ……愛すら否定するのかよ、貴様らは……!!」
「何言ってんだ、今が良けりゃそれでいいのさ!! ヒャヒャヒャ!!」
「くそっ……!!」
狂気を隠す気すらなく向かってきた暴徒に、また拳を叩き込み、吹っ飛ばした……家の壁も壊れてる、すごい暴れ方だ……
「……あれは、まさか!?」
「あはは、どうしたのパパ!? ママも!! みんなも!! さっきまで、あんなに楽しそうに遊んでくれたのにぃ!! もっと、もっと楽しいことしようよ!!」
「勇気くん……おい、やめろっ!!」
電撃を喰らいすぎて黒焦げの死体に、死んだことにも気づかず、笑いながら電撃を放ち続ける子供……勇気くんだ。なんてことを……
「お兄さん!! そっか、お兄さんが遊んでくれるんだね!? 遊ぼう遊ぼう、ヒーローごっこ!! みんなが悪いやつで、僕がヒーローなの!!」
「そうじゃない!! 本当に死んでるんだ、目を覚ませ!!」
「何言ってるかわかんないよ!! みんな遊んでくれるんだからさ、お兄さんも遊んでよ!! いっけー、ヒーロービーム!! ずびびび~!!」
勇気くんの手から、赤い電撃が放たれる。こんなにも純粋で優しい子でさえも、こんな狂人にしてしまうのか。その純粋さをいいように使って、狂わせている……これが人間の悪意の成せる所業なのか。
「うぉっ……やめてくれっ!!」
「やめない!! 僕は正義の味方なんだぁ!!」
「正義の味方はこんなことしない!! みんなは、悪い人じゃな……ぐぁぁ!!」
電撃を受けて、拘束される。
「あははは!! 楽しいねお兄さん!! お兄さんも笑おうよ!! 殺すとかそういうこと言ってよ!! 悪いやつなんだからさ!!」
「違、う……断じ、て……違う! みんなは言いたくて、言ってんじゃないんだよッ……! 悪いやつに操られて、言わされてるんだ! 本物のヒーローはその人を殺せない! 今の君は全然、ヒーローじゃない!!」
「え……違うの?」
電撃が止まった……頭を抑えている。
「そうだ、違う!!」
「うぁ、ぁぁ……痛い痛い痛い!! 僕はヒーローじゃ、ない……パパ、ママ……どうし、て……」
「……勇気くん!!」
抱き止めて、呼吸を確認する。息はしてる、生きている。気絶したらしい……
「どうやら、強い精神的ショックを与えると正気に戻るみたいだな……父さんと母さんも、これなら……!!」
「このぉっ!!」
「ぎぃぃ!?」
その人が何にショックを受けるかはわからないから、一般人には使えないが……父さんと母さんには使える。希望が見えたぞ!!
「お待たせしました!!」
「ぐぁぁ!?」
「お疲れ様、こっちは大丈夫だけど……キリがないね」
やはり問題はそこだ。ライオトルーパーの時のように人数に終わりが見えない……
「でも、やるしかない。そうですよね?」
「わかってるね……! じゃあ……!!」
「待った!!」
今のは一破さんの声だ。どこから? そう思っていると、パトカーがサイレンを鳴らしながら次々来て、ヘリコプターから特殊部隊と思わしき人達が降下してきた。
「お待たせしてしまい、大変申し訳ありません……警察及び特殊部隊、ただいま到着!!」
「一破さん……!!」
「サツが怖くて戦いがやれるかァ!!」
電撃を準備している、当たっちゃいけない。叫ぼうとしたが……
「一斉射撃用意!! 撃て!!」
「ぐぎぃ!?」
「げぁぁ!?」
暴徒達に銃弾が殺到し、次々に気絶していく。心臓や眉間は撃っていないみたいだが……
「麻酔弾ですか?」
「ご名答。流石ですね、状況説明が要らなくて助かります」
「ここでの助けはありがたい……おかげでかなり有利になった」
これで早く終わらせられるぞ。さっさと片付けて、父さんと母さんのところへ行かないといけないんだ。間に合わなくなってしまう。
「早めに片付けましょう、先生!! 一破さん!!」
「もちろん!!」
「そのつもりだよ!!」
一破さんも麻酔銃を構えた。先生と共に、暴徒達へと走り出す。銃弾達は俺達を綺麗に避けて、敵を狙い撃ち倒していく……流石はプロ。俺も負けてはいられない、こっちも命懸けで警備員やってんだ!!
「ガキだからって舐めてかかるなよ!?」
「ぐがぁ!?」
「雛を守る鷹は強いよっ!!」
そう言って、素早く空中から処理していく先生……やっぱりかっこいい。
「ぐふっ!!」
「……なにか他のことが気になるんですか? 雪村さん」
「え、なんでバレた!?」
急に言われて、ビックリしてしまう。
「いや……少し、目線が横にずれたりしていたのでね。いつもと違うなって思いまして」
「……父さんと母さんも、件の薬を飲んだんです。だから多分、殺し合ってる……早く行かないと、取り返しがつかなくなってしまうので……」
「なるほど……こちら側の量は減っていますし、離れた場所とはいえ、二人に多くの人数は欠けない。だからといって、命を選ぶわけにもいかないし……行ってください。あなたに任せます」
一破さんはそう言って、背中を押してくれた。だが、いいのか?
「え……本当にいいんですか?」
「大丈夫です! 我々だって戦えます……それに私は指揮担当、暴徒鎮圧特別部隊隊長ですよ? だから、改めて。雪村康太さん、あなたに別の場所の暴徒鎮圧を命令します。迅速に向かい、鎮圧を行ってください!!」
「……はい隊長、僕にお任せを!!」
俺は『命令』に従って、家の方へと向かった。ありがとう、一破さん……そして……頼むから生きててくれよ、父さんと、母さん……!! 全力で家の方に走った……家がボロボロだ。ガラスも割れてるし……中から物音がする。
「二人とも!! やめてくれ!!」
「康太……?」
「そうだよ、康太だよ!! もうやめ……っ!!」
俺に電撃を放ってきた……やっぱり、正気じゃない。目は血走って、歯は食い縛られ……お互いに付け合ったと思われる傷が体中にある。
「邪魔するな、康太。殺されたいのか?」
「そんな子に育てた覚えはないわよ」
「いい加減目ぇ覚ませよ!! アンタらはそんなこと言わないだろうが!!」
叫んでも、届かない。帰ってくるのは暴言と攻撃だけだ。
「黙れ!!」
「くそっ、このわからず屋!! ……なにっ!?」
「子供の動きがわからない親がいる?」
止められた。この人達は俺の親、修行してるところも間近で見ている……軌道くらい読めないはずない。
「だぁらぁっ!!」
「ぐぅ……!!」
「お前も所詮、その程度の存在なのね……戦いの楽しさすらも理解できない」
首を掴まれた。締め上げられる……腕を掴んで振り払おうとしたが……電撃を流された。
「う、ガァ……!!」
「無様だな。愚か者の最期など、そのブスの性悪女が相応しい」
「さっきからムカつくわね。こいつを殺したら次はお前よ」
喧嘩をしてる……こんなこと、なかったのに。
「ふざけるな、死ぬのは貴様だ」
「何度言ったらわかるの? お前よ」
「……やめ、ろ……!!」
電撃を喰らいながらも、母さんの手を引き剥がして、殴った。
「ぐぎっ……何をする!? 肉親に向かって!!」
「決まってるだろ……元に戻すんだよ、荒療治でな!!」
「低能で臆病な男が……そんなことを抜かすな!!」
放たれた電撃を躱して、攻撃を加えに行く。放った拳は……やはり空を切った。
「当たらん。無駄だ」
「当たるまでやるだけだ!!」
「剣も銃も使わんとは……舐めているのか?」
カイザブレイガンは持ってきている、だが使うつもりはないし、使ってはならない。殺してはいけないんだ、誰一人。この人達に罪なんてない、罪があるとしたら……胡散臭いと思いながらも止められなかった俺だ。
「アンタ達を殺したく、ないからだよ!!」
「がっ……それを舐めていると言うんだ、クソ野郎が!!」
「戦争でもないのに……強制的に殺し合いをさせられて、正気を失って……肉親同士で殺し合うなんて、あんまりだ!!」
母さんにも拳をぶち込む。確実にダメージは入ってる、これなら……そんな時だった。
「隙あり!!」
「な……ガハッ!?」
「やはりお前は、人間をやめられていないな。胃を刺されれば血反吐を吐く……ふん!!」
胃に包丁が突き刺されて、殴り飛ばされた。本棚にぶつかって、本に埋もれる。アルバムが見える……幸せな写真だ。それを無言で見せつけたが……
「そんなもの要らん……お前ごと、こうしてやる!!」
「うっ、が……あ……」
思い出達が消えていく。大切な写真が……全て。俺が生まれた時の写真まで……全部。
「終わりだな……消えろ。出来損ないのヘタレめ」
「ぐぅ、お……オォォォォッ!!!」
「な……がぁぁ!?」
二人を腕を使って押し、外にぶん投げる。包丁を胃から引き抜いて、血反吐をまた吐いた。
「ごぉ、っ……お前ら、いい加減にしやがれ……こんな、こと……望んでやってるわけ、ねぇだろ……!?」
「何を言う……望んでやっている。それが真実だ!!」
「それは捻じ曲げられた真実だろうが!! 捻じ曲がったなら……ぶっ叩いて、元に戻してやる!!」
ただ殴るだけじゃダメだ。思いの丈をぶつけるしか、ない。
「お前なんて、産まれたこと自体が間違いなのよ!!」
「母さんはそんなこと言わない!! 俺の耐久力も、今の精神力も……全部、きっと二人からもらったものだ!! 成長して、それを出せるようになったんだよ……!! 俺が強くなったら、真っ先に喜んでくれた……!! だから!!」
「な、何をする!?」
母さんに向かう。拳じゃない、平手だ。胸倉を掴んで叫ぶ。
「アンタはそんなんじゃねぇだろうがァ!! いい加減、元に戻りやがれ!! 最高の母親!!」
「ぶっ!?」
「こ、こっちにも来た!?」
次は後ろの父さんだ。
「昔……俺が何度言ってもわからねぇ、クソガキだった時!! いつもこうしてくれたよな!! 今ならわかるぜ、込められてた愛情がな!! だから……とっとと元に戻れよ、最高の父親!!」
「ぎっ……ぐぅ……」
「ハァッ、ハァッ……」
胃に空いた穴を抑えながら、息を切らす。呼吸が上手くできない……血がまた上がってきた。
「私は……うぅ……違う、こんなこと……望んでない……!! ぐぅぅっ!!」
「俺は……こんなの間違ってる……どうして、こんなことして……ぐぁぁぁ!!」
「二人とも……よかった……!」
元に戻る。目に優しい光が宿る……やった、俺の努力は無駄じゃなかった。一気に眠気が襲いかかってくる、ヤバい、ここで寝たら怒られちゃう……そう思っていたのに、物陰から人影が飛び出してきた。
「私がいて正解だったな。暁様はやはり、英断を下せるお方だ」
「っ、オルフェノ……」
「死ね、雪村康太」
避けられない。倒れ込んでいた体勢から、起き上がろうとしている最中なのだ。鉄砲を持ってる……受けちゃいけないのに。こんなことって……
「康太危ない!!」
「母さん!?」
「やめっ……」
そいつの銃から液体が飛び出した。それは、母さんにかかると……体を一気に、液体に変えていく。
「あ……?」
「うあぁぁぁぁぁーッ!!!」
「邪魔が入ったか。まぁいい、今の貴様ならいつだって殺せるからな……我が名はフロッグオルフェノク。暁様の命により、お前を粛清する」
こちらにフロッグオルフェノクが向かってくる。母さんの体が液体になって地面に落ちていく。内蔵が零れていく……あぁ、血が……
「そのままじっとしていろ。殺してやる」
「このクソッタレ野郎!!」
「邪魔だ、クソッタレ野郎」
また、放たれた。体が溶けていき……上半身と下半身が綺麗に分離してしまった。
「ご、ぐげぁ……」
「父さん、母さん……」
「安心しろ。すぐに同じところに行かせてやる」
悲しい。目の前で結局、肉親を失ったことが。だが、それ以上の感情がある。ドス黒い、血よりも沸き立つ、この感情……思考回路や倫理観を麻痺させる感情。俺はこれを知っている、今までにない程の黒い感情……そうだ、これは……憎悪だ。
「黙れ」
「は? 今なんと言った?」
「黙れっつったんだよ、鳴くのと跳ぶことしか能がねぇ難聴野郎」
殺す。その言葉しか脳裏に浮かばない……特殊な電波を受けた人達はこんな感情なのかな。そう思いながら、メモリーをセットした。
『Ready』
「カイザブレイガン……ついでだ、お前を殺して回収する」
「やってみろ。できるならな、難聴の下等な爬虫類が」
自分が自分じゃないみたいだ。凄まじく汚い言葉が、機関砲のように飛び出してくる……
「いい加減にその口を閉じろ!!」
「……ごばぁっ」
「フン、口答えするからだ」
二発撃たれた。腎臓が片方と、胃が吹っ飛んだ。溶けた内蔵が地面に落ちる……お腹に血が溜まっていく。
「それで勝った、つもりかよ……ゴミクズ」
「これでもわからんのか? 下等生物め」
「そっくりそのまま返すぜ、下等生物」
今、俺はどんな顔をしているんだろう。自分の顔が、わからない。また、放たれた。避けきれずに当たり……目が見えなくなった。溶かされたんだ。
「眼球、いただき……これで何も見えんな?」
「……康、太……!」
「黙れ、もう一回溶かし……ごぉあぁ!?」
ようやく近付けた。何度も執拗に、傷口を抉るように袈裟斬りを繰り返す。相手が離れた……追い討ちに銃を打ち込む。
「がぁぁぁぁぁッ!!」
「死ね」
「人間如きが……オルフェノクに勝てると思うなよ!!」
物音がした、上に跳んだらしい。キックか、銃か? 判断はできない。なら、殺られる前に殺る。
「死ね!!」
「お前こそ死ねよ」
「ぐがぁぁぁぁ!?」
撃ち落とした。何故だろう、全てわかる……憎い敵がどこにいるのか……これが憎しみが齎すものか。
「く、来るな……来るな化け物!!」
「化け物は貴様だ」
「これで終わり……ぎぃやぁぁぁぁぁーッ!?!?」
銃を持っていた方の手……利き手だと思われるほうを切り落とした。
「雪村くん、大丈夫……なっ!?」
「惨い……!! 何故こんなことに……あれはオルフェノク!? ということは、二人はこいつに……大丈夫ですか!?」
「や、やめろ……やめてくれぇ!!」
なにを言っているのかわからない。誰の言葉も聞こえなくなってきた、聞こえるのは……奴の命乞いと悲鳴、それだけ。殴られる前に、切り落とす。
「康太……を……たす、け……」
「うぎぃあぁぁぁぁーッ!!!」
「足もだ」
こいつは跳べる。足を切っておかないと、何をするかわからないからな……簡単に切れた。
「ぐぎゃあぁぁぁぁーっ!!!」
「あれ、は……本当に雪村くん、なのか……?」
「鬼だ……復讐鬼……体に穴が空いているのに……」
憎い。殺したい。憎い憎い憎い憎い!!!
「ゆ、許してくださいぃ……やめてぇぇ……!! なんでもする、なんでもする……だから……!!!」
「命を捧げて償え。全員分の命、貴様が暁の代わりだ」
「ひっ……嫌だ、嫌だぁぁぁ!!!」
聞く耳は持たない。憎悪にそんなもの入り込む余地はない。まずは袈裟斬りだ……
「ダァリャアァァァァ!!」
「ウァァァァァァーッ!!」
「ダァァリャアァァァァッ!!!」
今度は逆側の肩から、切り下ろす。
「ウギィアァァァァァァーッ!!!」
「ダァァァァァァァ!!!」
「ゲゴォッ!?!?」
口の中に剣をぶち込んで、貫通させた。そのまま……思いっ切り、真っ二つにした。
「ダァリャアァァァァァーッ!!!!」
「ゲェアァァァァァァァーッ!!!!」
「……ア、ア」
終わった。凄まじい脱力感が俺を襲う……誰かがいるみたいなので、後ろを向いておく。
「なっ……!?」
「目までない……なんて顔だ……!!」
「警察、さん……最後の、頼み……聞いて……」
俺は倒れた。確かな死を感じる、終わったな。
「え……なんですか!?」
「私、達の……を……」
「……わかりました」
結局、話を聞けずに意識を絶った。
「……あ?」
生きている? 何故? 内蔵はなかったはずだ。目が、見えている。なんだこれ?
「お目覚めですか、ここは集中治療室です」
「これ……どうなって……」
「簡潔に言いましょう。あなたはお父さんとお母さんに助けられました」
助けられた? どういうことだ?
「助けられた……?」
「二人は自分の内蔵を、あなたにあげたんですよ。お母さんの方は生きているままね……お母さんは内蔵と眼球を、真っ二つになっていたお父さんからは血を……二人とも死因はそれです」
「……あ……」
じゃあ、これは……二人のものなのか。結局親孝行のひとつもできずに、それどころか……自己犠牲で死んで行ったのか。
「あと、遺言ですが……二人とも『最後まで戦え』だそうです。では、失礼します」
「……」
憎しみは消えてない。でも……少しはマシになった。だから……悲しみが込み上げてくる。涙が止められない、もう二度と会えない。思い出は焼けて無くなった。全てが、ない。
「あ、ぐぅぅ……うっ、くぅぅぅ……!!」
声を殺して、泣く。机から涙が零れてしまう。しばらくして……泣き終わって。
「……わかったよ、父さんに母さん……俺が決めたんだもんね」
最後まで戦えって、言われたんだ。俺の命が消えて無くなるまで、殺し合ってやる。そうじゃなきゃ、死んだ二人が報われない。
「皆殺しだ、クソ野郎共」
静かに、溢れる程の殺意と憎しみを込めて……そう言った。
参考資料
『仮面ライダークウガ』EPISODE35『愛憎』
『最後まで戦うように』(沖縄県平和祈念資料館・資料より引用)
この言葉に呪われ、沢山の兵士達が『最期まで戦って』自殺し、命を落としました。康太くんは呪いにかかったのです。