※この作品はR-18です。

仮面を被った、人間達の英雄譚   作:とも667

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完全なる喪失

夥しい量の殺意が、全て俺に向けられた。それを向けられた相手であろう罪なき人達は、真っ赤な肉の塊になって血の海に沈んでいる。凶器を握りしめた者もいれば、拳で殴ろうとする者もいる……何故? それを考える間もなく、狂気達が俺を襲った。

 

「ぶっ殺してやるッ!!」

 

「どけ!! 俺が殺すんだぁっ!!」

 

「っ、くそ……!!」

 

 どうにか躱して、構える。明らかに異常だ、何が原因なんだ? 昨日の出来事を記憶から引っ張り出す。昨日はあやめに勝って、ライオトルーパー部隊とライオンオルフェノクを殺して、それから薬を……

 

「あの薬になにか入ってたのか……!? やめてください、どうしてこんなこと!?」

 

「黙りやがれ、いい子ちゃんが!!」

 

「ぐっ!!」

 

 ナイフが身体に突き刺さる。お気に入りの服に赤い染みができていく……今わかることはひとつ、このままでは殺される。なら、やるしかない。次のナイフの一撃を躱して、出来る限り手加減して殴る。

 

「がっ……そんなもんかぁ!?」

 

「効いてない!? いや、戦闘本能の方が強いのか……!」

 

「隙あり!!」

 

 その男の手から赤い電撃が放たれ、俺は拘束された。雷の魔法はないはず……ってことは、これも財団X関係の力か。今回のは規模がデカいな……!! 一般人をこんなに巻き込むとは……!!

 

「ぎぃっ……がぁぁぁ!!」

 

「なに、破られ……」

 

「うぉらぁぁぁっ!!」

 

 仕方なく、急所を外して全力で殴る。手応えあり……肋骨をへし折った。倒れ込んで、白目を剥いている……気絶してるな。

 

「ぐはぁ……!!」

 

「こいつで終わりだ!!」

 

「がぁぁぁぁ!!」

 

 違う人が電撃を食らって動けなくなっている、丸焦げになっている死体はこれを食らったんだな……止めないと死んでしまう。体を倒して素早く接近し、拳の一閃。俺の拳が相手にめり込む……

 

「ふんっ!!」

 

「ぐはぁっ!?」

 

「隙あり!!」

 

 解放された人が一切怯まず、こちらに電撃を放ってきた。どうにか避けて、正中線を捉えた反撃の拳を打ち込む。男女関係なくこうなっているのか……惨すぎる。

 

「ぎぃっ……」

 

「死ね!!」

 

「あやめとの約束があるんだ……まだ死ねんな!!」

 

 そう言って、次々殴り飛ばす。ここだけでも50人はいるな……避難所にいた人全員か……ってことは……

 

「ぐぁぁ!!」

 

「うげっ……」

 

「……父さん、母さん……」

 

 二人も例外ではない。早く行かないと、死んでしまうかもしれない。それも、愛する人の手で……そんなの、絶対にダメだ……!

 

「どこ見てんだ!?」

 

「だぁらっ!!」

 

「ぐふっ!!」

 

 だが、今はとりあえず仕事をしないと……鷹嶺先生は大丈夫だろうか? 取り残された人はいないかな? 俺が普通よりも早く起きるとはいえ、早く来ている真面目な人もいるかもしれない。

 

「急がねぇとな……ん?」

 

「死ねぇ!!」

 

「カウンターファイト!!」

 

 攻撃をたまに受けながらも、怯まずに倒していく。どんどん数も減り、最後の一人だ。

 

「この野郎!!」

 

「らぁっ!!」

 

「ぎっ……」

 

 倒し終わったが、罪悪感がないわけではない。この人達に罪は無いのに……財団Xのせいで。

 

「ごめんなさい……」

 

 助けられなかった人達全員にそれを言って、学園内へと向かった。全員無事でいてくれ……!

 

「学園内も酷いな……あっちから音がする」

 

 音の方へと向かうと……いた。鷹嶺先生だ……何人かは倒れてる、流石だな。数は少ないし、あとはどうにかなりそうだ……

 

「ふぅ、流石に骨が折れるな……」

 

「なんだテメェ!?」

 

「おっと、見つかったか!」

 

 好都合……見つけさせる手間が省けた。攻撃を避けつつカウンターファイト……

 

「ぐぁぁ!」

 

「退いてもらうぜ、その人は俺の先生なんだ!!」

 

「ぎぃぃっ!!」

 

 粗方なんとかできたな……やはり、倒れている人達が可哀想だ。倒さなければならなかったとはいえ……

 

「やぁ、その様子だと元気そうだね? 雪村くん」

 

「鷹嶺先生こそ、怪我がないみたいで良かったです……多分、原因は昨日の薬だと思うんですが……」

 

「薬? そういえば、そんなことを聞いたような……」

 

 説明しておいた方がいいかな……そう思って、簡潔に経緯を話した。

 

「……というわけでして」

 

「そうか……今、癒月先生が調べてくれている。もうすぐ……おっと、噂をすれば」

 

「お待たせ、ルイ様……康太様も居るのね、ちょうどよかったわ。まず、これを見て? 血液検査の結果、血液中から見つかったものよ」

 

 一枚の写真……なんだこれ? 虫?

 

「これは……?」

 

「ナノマシンよ。特殊な電波を放ってるみたい。それがなんなのかは、わからないけれど……効力は戦闘本能の異常な増幅……そして、赤い電撃の使用を可能にする効果もあるみたい」

 

「これが雪村くんの言う、薬に仕込まれていたのか……財団Xの仕業と見てよさそうだね」

 

 どうやら、そうらしいな……くそ。逆に利用してやるなんて言っといて、ダサすぎるだろ……

 

「倒したくないですけど……その感じだと、気絶させる以外の方法は……」

 

「残念だけど、なさそうね。機能を調べたけど、脳内に血液を通して侵入した際に、強力な電波を一斉に放つことで起こすみたい……解除する方法はわからないけど、人工透析の後、色々と試すしかないわ。でも、今はとりあえず倒すしかないと思う……ごめんね、康太様」

 

「やはりそうか……雪村くん、いけそうかい? もし無理なら……」

 

 無理だなんて言うはずない、言えるわけもない。俺がやるんだ、怪我なんてさせやしない。

 

「無理なんて言葉、とっくの昔に捨てましたよ。僕は僕にやれることを全力でやる。それ以外できませんから」

 

「そうか……君らしいね。じゃあ、行こうか」

 

「私はここに残るわ。学園を好き放題されたらたまったものじゃないからね……」

 

 ……大丈夫だろうか。相手は数だ、それも殺しちゃいけない。

 

「大丈夫ですか? よかったら僕は残って……」

 

「心配してくれるの? ありがとう……けどね、私だって強いのよ? 先生なんだから……それに、アキロゼ先生もいる。もうすぐ来るわ……さぁ、行って! 暴れてる人々だって、こんなこと望むはずないわ!!」

 

「……わかりました! ご武運を、癒月先生!!」

 

 そう言って、鷹嶺先生と共に駆け出す。進むも地獄、退くも地獄なら……俺は進もう。みんなのために、父さんや母さんのために!!

 

「来たわね……少し大人しくしててもらうわよ」

 

「黙れ、アバズレがぁ! ……うぎっ!!」

 

「アローナ……ごめんね、待った? 癒月先生」

 

 

 

 街に出ると、殺し合う人々がひしめいていた。辺りに響く狂気と苦痛の声は、心の強い者でなければ精神崩壊しかねない代物であろう。

 

「死体が……くそ、本当に酷いな……」

 

「あぁ。だからこそ……これ以上やらせるわけにはいかない。そうだろ? 雪村くん」

 

「台詞取られちゃったな……」

 

 そう言いつつ、後ろから来ていたナイフを躱して構える。

 

「カウンターファイトォ!!」

 

「な……げふっ!!」

 

「流石だね、もう戦闘モードか……切り替えが早くて大変よろしい!」

 

 鷹嶺先生だって、準備万端だ。もう空を飛んでいる。

 

「そっちこそ……準備はできてるんでしょう?」

 

「当然。だって先生なんだ……怪我はさせないよ」

 

「自分のことだけ考えててください! 自分のことは、自分で何とかしますので!!」

 

 そう言って、先陣を切った……つもりだったが、もう追いつかれた。流石のスピード……もっと速くなってる気がする。

 

「心強いね、相変わらず!!」

 

「お褒めに預かり光栄ですっ!!」

 

「さっきから……二人で騒いでんじゃねぇ!!」

 

 放たれた電撃を寸前で躱し、握り拳を握り直す。鷹嶺先生は……もう、敵の後ろに回っていた。

 

「らぁっ!!」

 

「ギャッ……」

 

「耐久力は変わってない……気絶させるのは容易だね。おっと、危ない!」

 

 喋りながらも周りを警戒し、効率良く気絶させていく。スマートかつ、素早い戦闘スタイル……俺には真似できないな。

 

「どこ見てんだ!?」

 

「お前らの急所じゃないところだよ!!」

 

「ごぶぁ!?」

 

 攻撃を打った後の後隙は消えてきているが、まだまだお世辞にも素早いとは言えない……だから、俺は俺の強みで戦うしかない。敵を観察しろ、動きを読むんだ!! これだけは負けない、一番の得意分野だ!!

 

「……読めてきたぞ、次は……そっちだな!?」

 

「ぐげぇ!?」

 

「当たり……! 鍛えたのは間違いじゃなかったな!!」

 

 鷹嶺先生と違って、相手の骨は折ってしまっているが……誰も殺してないから、及第点だ。

 

「まだまだいるね……いけるかい?」

 

「そっちこそ、ダメそうなら……下がってくださいよ」

 

「こっちのセリフだよ、君は私の生徒なんだし……」

 

 お互い引く気はゼロ……ならば。

 

「生徒だからってご心配なく! こういう時のために、鍛えてますんで!!」

 

「まぁ、君ならそう言うよねぇ……わかってたさ!!」

 

「わかってくれて助かります!!」

 

「うるせぇぞ、女とガキ!!」

 

 散開。次々気絶させていく……際限なく出てきているが、諦めるわけにはいかない。俺が……父さんと母さんを助けに行かないといけないんだ。

 

「さっさとどいてくれないと、俺の身内が危ないんだよ!! どけ!!」

 

「知ったことか!!」

 

「だったら倒して進むだけだ!! うらぁぁ!!」

 

 地面を蹴りつけて、膝を折り曲げ……相手の鳩尾に思い切りぶつけた。暴徒の一人は骨が折れ、後ろに倒れ込む。ドミノ倒しのように人々が倒れていく。

 

「かはっ……」

 

「うぉあっ!?」

 

「ぐぇぇ!!」

 

 隙あり。立ち上がってきた人達の隙をついて、次々に殴り飛ばしていく。殺さないように全力で手加減しながら……難しいな。

 

「うらっ、だらぁっ!!」

 

「ぐふぅ!!」

 

「ハァァァッ!!」

 

 鷹嶺先生は上手だな……手早く、それでいて傷がつかないよう丁寧に気絶させていく。先生だから、鎮圧術も練習してるのかな?

 

「ぎっ……」

 

「このクソ野郎共が!!」

 

「うぐっ!?」

 

 いけない、電撃を食らってしまった。先生は大丈夫か?

 

「お前も喰らえ!!」

 

「っ、く……!!」

 

「うざい蚊みたいな逃げ方しやがって……そこだ!!」

 

 あぁ、捕まった……!! 破るのだって簡単じゃあない、時間もかかる。攻撃を食らったら、俺も先生もただじゃ済まないぞ……

 

「ぐぅっ……!!」

 

「撃ち殺す!!」

 

「鷹嶺先生ッ……!! ぐぅぅぅ……あぁぁ!!」

 

 どうにか振り払って、助けに行こうとしたが……人の津波が俺を押し流す。

 

「どこ行くんだ!?」

 

「先生のところだよ……!! どけっ!!」

 

「やなこった!!」

 

 いけない、あのままじゃ死んでしまう。それだけは、それだけはダメだ……!!

 

「こんのぉぉ!!」

 

「げふっ!!」

 

「よそ見しないで俺達の相手をしろ!!」

 

 凶器を躱すので精一杯だ、仮面ライダーと違って装甲も耐久力もパワーも並より少し高い程度。それは先生も同じなのに……助けに行けない。

 

「ぐ、ぎぃぃっ……『オーバード』ォ!!」

 

「な……がはっ!?」

 

「ぐぅぅ!?」

 

 鷹嶺先生が紅き閃光となり、電撃を振り払った。あれは先生の切り札だ……こんなところで使わせられるなんて。あれは負担がすごいはずなのに……俺が助けに行けなかったばっかりに。先生はその代償に見合う速度で、次々と暴徒達を鎮圧していく。俺の周りにいた人達はいなくなったが……先生が地に降りて、膝をつく。

 

「先生、大丈夫ですか!? ごめんなさい、助けに行けなくて……!!」

 

「君のせいじゃないさ……はぁ、はぁ……やっぱりこれは多用できないな。一瞬だけだからよかったけど……負担は減ってないや」

 

「もうあれは使わないでくださいね……俺が守ります。後ろに」

 

 そう言って、下がるように促す。また倒れてしまったら、流石に先生をおんぶして戦える自信はない。

 

「頼もしいのは結構、だけど……先生として退くわけ、にも……いかないんだよね!!」

 

「しかし……このまま戦い続けたら、先生は……!!」

 

「……君は私が退けと言ったら、今退いてくれるかい? 退かないだろ? そういうことさ……この命が燃え尽きるまで、私は生徒を守る……!!」

 

 覚悟……これはもう、説得しても意味が無いな。目的のために殉じる覚悟、誰かのために罪を背負う覚悟……俺と変わらない。なら……止める資格はないだろう。

 

「じゃあ……最後まで付き合ってくださいよ!!」

 

「元々そのつもりさ!! 君こそ下がってな、雛鳥!!」

 

「抜かせ、不死鳥!!」

 

 先生と生徒とは思えない会話を交わして、また現れた悪夢へと身を投じる。誰かに悪夢を見せぬために、死を与えぬために。

 

「……なんだ!?」

 

「ダァァァッ!!」

 

「だぁらぁぁぁ!!」

 

 女性へと電撃を放っていた男性に、攻撃を加えてやめさせる。

 

「ぐぅっ!!」

 

「邪魔するな、クソガキ!!」

 

「させるかァ!!」

 

 鷹嶺先生の拳が首に叩き込まれて、女性の方も意識を飛ばした……

 

「……同じデザインの指輪、この人達は夫婦なんだ……愛すら否定するのかよ、貴様らは……!!」

 

「何言ってんだ、今が良けりゃそれでいいのさ!! ヒャヒャヒャ!!」

 

「くそっ……!!」

 

 狂気を隠す気すらなく向かってきた暴徒に、また拳を叩き込み、吹っ飛ばした……家の壁も壊れてる、すごい暴れ方だ……

 

「……あれは、まさか!?」

 

「あはは、どうしたのパパ!? ママも!! みんなも!! さっきまで、あんなに楽しそうに遊んでくれたのにぃ!! もっと、もっと楽しいことしようよ!!」

 

「勇気くん……おい、やめろっ!!」

 

 電撃を喰らいすぎて黒焦げの死体に、死んだことにも気づかず、笑いながら電撃を放ち続ける子供……勇気くんだ。なんてことを……

 

「お兄さん!! そっか、お兄さんが遊んでくれるんだね!? 遊ぼう遊ぼう、ヒーローごっこ!! みんなが悪いやつで、僕がヒーローなの!!」

 

「そうじゃない!! 本当に死んでるんだ、目を覚ませ!!」

 

「何言ってるかわかんないよ!! みんな遊んでくれるんだからさ、お兄さんも遊んでよ!! いっけー、ヒーロービーム!! ずびびび~!!」

 

 勇気くんの手から、赤い電撃が放たれる。こんなにも純粋で優しい子でさえも、こんな狂人にしてしまうのか。その純粋さをいいように使って、狂わせている……これが人間の悪意の成せる所業なのか。

 

「うぉっ……やめてくれっ!!」

 

「やめない!! 僕は正義の味方なんだぁ!!」

 

「正義の味方はこんなことしない!! みんなは、悪い人じゃな……ぐぁぁ!!」

 

 電撃を受けて、拘束される。

 

「あははは!! 楽しいねお兄さん!! お兄さんも笑おうよ!! 殺すとかそういうこと言ってよ!! 悪いやつなんだからさ!!」

 

「違、う……断じ、て……違う! みんなは言いたくて、言ってんじゃないんだよッ……! 悪いやつに操られて、言わされてるんだ! 本物のヒーローはその人を殺せない! 今の君は全然、ヒーローじゃない!!」

 

「え……違うの?」

 

 電撃が止まった……頭を抑えている。

 

「そうだ、違う!!」

 

「うぁ、ぁぁ……痛い痛い痛い!! 僕はヒーローじゃ、ない……パパ、ママ……どうし、て……」

 

「……勇気くん!!」

 

 抱き止めて、呼吸を確認する。息はしてる、生きている。気絶したらしい……

 

「どうやら、強い精神的ショックを与えると正気に戻るみたいだな……父さんと母さんも、これなら……!!」

 

「このぉっ!!」

 

「ぎぃぃ!?」

 

 その人が何にショックを受けるかはわからないから、一般人には使えないが……父さんと母さんには使える。希望が見えたぞ!!

 

「お待たせしました!!」

 

「ぐぁぁ!?」

 

「お疲れ様、こっちは大丈夫だけど……キリがないね」

 

 やはり問題はそこだ。ライオトルーパーの時のように人数に終わりが見えない……

 

「でも、やるしかない。そうですよね?」

 

「わかってるね……! じゃあ……!!」

 

「待った!!」

 

 今のは一破さんの声だ。どこから? そう思っていると、パトカーがサイレンを鳴らしながら次々来て、ヘリコプターから特殊部隊と思わしき人達が降下してきた。

 

「お待たせしてしまい、大変申し訳ありません……警察及び特殊部隊、ただいま到着!!」

 

「一破さん……!!」

 

「サツが怖くて戦いがやれるかァ!!」

 

 電撃を準備している、当たっちゃいけない。叫ぼうとしたが……

 

「一斉射撃用意!! 撃て!!」

 

「ぐぎぃ!?」

 

「げぁぁ!?」

 

 暴徒達に銃弾が殺到し、次々に気絶していく。心臓や眉間は撃っていないみたいだが……

 

「麻酔弾ですか?」

 

「ご名答。流石ですね、状況説明が要らなくて助かります」

 

「ここでの助けはありがたい……おかげでかなり有利になった」

 

 これで早く終わらせられるぞ。さっさと片付けて、父さんと母さんのところへ行かないといけないんだ。間に合わなくなってしまう。

 

「早めに片付けましょう、先生!! 一破さん!!」

 

「もちろん!!」

 

「そのつもりだよ!!」

 

 一破さんも麻酔銃を構えた。先生と共に、暴徒達へと走り出す。銃弾達は俺達を綺麗に避けて、敵を狙い撃ち倒していく……流石はプロ。俺も負けてはいられない、こっちも命懸けで警備員やってんだ!!

 

「ガキだからって舐めてかかるなよ!?」

 

「ぐがぁ!?」

 

「雛を守る鷹は強いよっ!!」

 

 そう言って、素早く空中から処理していく先生……やっぱりかっこいい。

 

「ぐふっ!!」

 

「……なにか他のことが気になるんですか? 雪村さん」

 

「え、なんでバレた!?」

 

 急に言われて、ビックリしてしまう。

 

「いや……少し、目線が横にずれたりしていたのでね。いつもと違うなって思いまして」

 

「……父さんと母さんも、件の薬を飲んだんです。だから多分、殺し合ってる……早く行かないと、取り返しがつかなくなってしまうので……」

 

「なるほど……こちら側の量は減っていますし、離れた場所とはいえ、二人に多くの人数は欠けない。だからといって、命を選ぶわけにもいかないし……行ってください。あなたに任せます」

 

 一破さんはそう言って、背中を押してくれた。だが、いいのか?

 

「え……本当にいいんですか?」

 

「大丈夫です! 我々だって戦えます……それに私は指揮担当、暴徒鎮圧特別部隊隊長ですよ? だから、改めて。雪村康太さん、あなたに別の場所の暴徒鎮圧を命令します。迅速に向かい、鎮圧を行ってください!!」

 

「……はい隊長、僕にお任せを!!」

 

 俺は『命令』に従って、家の方へと向かった。ありがとう、一破さん……そして……頼むから生きててくれよ、父さんと、母さん……!! 全力で家の方に走った……家がボロボロだ。ガラスも割れてるし……中から物音がする。

 

「二人とも!! やめてくれ!!」

 

「康太……?」

 

「そうだよ、康太だよ!! もうやめ……っ!!」

 

 俺に電撃を放ってきた……やっぱり、正気じゃない。目は血走って、歯は食い縛られ……お互いに付け合ったと思われる傷が体中にある。

 

「邪魔するな、康太。殺されたいのか?」

 

「そんな子に育てた覚えはないわよ」

 

「いい加減目ぇ覚ませよ!! アンタらはそんなこと言わないだろうが!!」

 

 叫んでも、届かない。帰ってくるのは暴言と攻撃だけだ。

 

「黙れ!!」

 

「くそっ、このわからず屋!! ……なにっ!?」

 

「子供の動きがわからない親がいる?」

 

 止められた。この人達は俺の親、修行してるところも間近で見ている……軌道くらい読めないはずない。

 

「だぁらぁっ!!」

 

「ぐぅ……!!」

 

「お前も所詮、その程度の存在なのね……戦いの楽しさすらも理解できない」

 

 首を掴まれた。締め上げられる……腕を掴んで振り払おうとしたが……電撃を流された。

 

「う、ガァ……!!」

 

「無様だな。愚か者の最期など、そのブスの性悪女が相応しい」

 

「さっきからムカつくわね。こいつを殺したら次はお前よ」

 

 喧嘩をしてる……こんなこと、なかったのに。

 

「ふざけるな、死ぬのは貴様だ」

 

「何度言ったらわかるの? お前よ」

 

「……やめ、ろ……!!」

 

 電撃を喰らいながらも、母さんの手を引き剥がして、殴った。

 

「ぐぎっ……何をする!? 肉親に向かって!!」

 

「決まってるだろ……元に戻すんだよ、荒療治でな!!」

 

「低能で臆病な男が……そんなことを抜かすな!!」

 

 放たれた電撃を躱して、攻撃を加えに行く。放った拳は……やはり空を切った。

 

「当たらん。無駄だ」

 

「当たるまでやるだけだ!!」

 

「剣も銃も使わんとは……舐めているのか?」

 

 カイザブレイガンは持ってきている、だが使うつもりはないし、使ってはならない。殺してはいけないんだ、誰一人。この人達に罪なんてない、罪があるとしたら……胡散臭いと思いながらも止められなかった俺だ。

 

「アンタ達を殺したく、ないからだよ!!」

 

「がっ……それを舐めていると言うんだ、クソ野郎が!!」

 

「戦争でもないのに……強制的に殺し合いをさせられて、正気を失って……肉親同士で殺し合うなんて、あんまりだ!!」

 

 母さんにも拳をぶち込む。確実にダメージは入ってる、これなら……そんな時だった。

 

「隙あり!!」

 

「な……ガハッ!?」

 

「やはりお前は、人間をやめられていないな。胃を刺されれば血反吐を吐く……ふん!!」

 

 胃に包丁が突き刺されて、殴り飛ばされた。本棚にぶつかって、本に埋もれる。アルバムが見える……幸せな写真だ。それを無言で見せつけたが……

 

「そんなもの要らん……お前ごと、こうしてやる!!」

 

「うっ、が……あ……」

 

 思い出達が消えていく。大切な写真が……全て。俺が生まれた時の写真まで……全部。

 

「終わりだな……消えろ。出来損ないのヘタレめ」

 

「ぐぅ、お……オォォォォッ!!!」

 

「な……がぁぁ!?」

 

 二人を腕を使って押し、外にぶん投げる。包丁を胃から引き抜いて、血反吐をまた吐いた。

 

「ごぉ、っ……お前ら、いい加減にしやがれ……こんな、こと……望んでやってるわけ、ねぇだろ……!?」

 

「何を言う……望んでやっている。それが真実だ!!」

 

「それは捻じ曲げられた真実だろうが!! 捻じ曲がったなら……ぶっ叩いて、元に戻してやる!!」

 

 ただ殴るだけじゃダメだ。思いの丈をぶつけるしか、ない。

 

「お前なんて、産まれたこと自体が間違いなのよ!!」

 

「母さんはそんなこと言わない!! 俺の耐久力も、今の精神力も……全部、きっと二人からもらったものだ!! 成長して、それを出せるようになったんだよ……!! 俺が強くなったら、真っ先に喜んでくれた……!! だから!!」

 

「な、何をする!?」

 

 母さんに向かう。拳じゃない、平手だ。胸倉を掴んで叫ぶ。

 

「アンタはそんなんじゃねぇだろうがァ!! いい加減、元に戻りやがれ!! 最高の母親!!」

 

「ぶっ!?」

 

「こ、こっちにも来た!?」

 

 次は後ろの父さんだ。

 

「昔……俺が何度言ってもわからねぇ、クソガキだった時!! いつもこうしてくれたよな!! 今ならわかるぜ、込められてた愛情がな!! だから……とっとと元に戻れよ、最高の父親!!」

 

「ぎっ……ぐぅ……」

 

「ハァッ、ハァッ……」

 

 胃に空いた穴を抑えながら、息を切らす。呼吸が上手くできない……血がまた上がってきた。

 

「私は……うぅ……違う、こんなこと……望んでない……!! ぐぅぅっ!!」

 

「俺は……こんなの間違ってる……どうして、こんなことして……ぐぁぁぁ!!」

 

「二人とも……よかった……!」

 

 元に戻る。目に優しい光が宿る……やった、俺の努力は無駄じゃなかった。一気に眠気が襲いかかってくる、ヤバい、ここで寝たら怒られちゃう……そう思っていたのに、物陰から人影が飛び出してきた。

 

「私がいて正解だったな。暁様はやはり、英断を下せるお方だ」

 

「っ、オルフェノ……」

 

「死ね、雪村康太」

 

 避けられない。倒れ込んでいた体勢から、起き上がろうとしている最中なのだ。鉄砲を持ってる……受けちゃいけないのに。こんなことって……

 

「康太危ない!!」

 

「母さん!?」

 

「やめっ……」

 

 そいつの銃から液体が飛び出した。それは、母さんにかかると……体を一気に、液体に変えていく。

 

「あ……?」

 

「うあぁぁぁぁぁーッ!!!」

 

「邪魔が入ったか。まぁいい、今の貴様ならいつだって殺せるからな……我が名はフロッグオルフェノク。暁様の命により、お前を粛清する」

 

 こちらにフロッグオルフェノクが向かってくる。母さんの体が液体になって地面に落ちていく。内蔵が零れていく……あぁ、血が……

 

「そのままじっとしていろ。殺してやる」

 

「このクソッタレ野郎!!」

 

「邪魔だ、クソッタレ野郎」

 

 また、放たれた。体が溶けていき……上半身と下半身が綺麗に分離してしまった。

 

「ご、ぐげぁ……」

 

「父さん、母さん……」

 

「安心しろ。すぐに同じところに行かせてやる」

 

 悲しい。目の前で結局、肉親を失ったことが。だが、それ以上の感情がある。ドス黒い、血よりも沸き立つ、この感情……思考回路や倫理観を麻痺させる感情。俺はこれを知っている、今までにない程の黒い感情……そうだ、これは……憎悪だ。

 

「黙れ」

 

「は? 今なんと言った?」

 

「黙れっつったんだよ、鳴くのと跳ぶことしか能がねぇ難聴野郎」

 

 殺す。その言葉しか脳裏に浮かばない……特殊な電波を受けた人達はこんな感情なのかな。そう思いながら、メモリーをセットした。

 

『Ready』

 

「カイザブレイガン……ついでだ、お前を殺して回収する」

 

「やってみろ。できるならな、難聴の下等な爬虫類が」

 

 自分が自分じゃないみたいだ。凄まじく汚い言葉が、機関砲のように飛び出してくる……

 

「いい加減にその口を閉じろ!!」

 

「……ごばぁっ」

 

「フン、口答えするからだ」

 

 二発撃たれた。腎臓が片方と、胃が吹っ飛んだ。溶けた内蔵が地面に落ちる……お腹に血が溜まっていく。

 

「それで勝った、つもりかよ……ゴミクズ」

 

「これでもわからんのか? 下等生物め」

 

「そっくりそのまま返すぜ、下等生物」

 

 今、俺はどんな顔をしているんだろう。自分の顔が、わからない。また、放たれた。避けきれずに当たり……目が見えなくなった。溶かされたんだ。

 

「眼球、いただき……これで何も見えんな?」

 

「……康、太……!」

 

「黙れ、もう一回溶かし……ごぉあぁ!?」

 

 ようやく近付けた。何度も執拗に、傷口を抉るように袈裟斬りを繰り返す。相手が離れた……追い討ちに銃を打ち込む。

 

「がぁぁぁぁぁッ!!」

 

「死ね」

 

「人間如きが……オルフェノクに勝てると思うなよ!!」

 

 物音がした、上に跳んだらしい。キックか、銃か? 判断はできない。なら、殺られる前に殺る。

 

「死ね!!」

 

「お前こそ死ねよ」

 

「ぐがぁぁぁぁ!?」

 

 撃ち落とした。何故だろう、全てわかる……憎い敵がどこにいるのか……これが憎しみが齎すものか。

 

「く、来るな……来るな化け物!!」

 

「化け物は貴様だ」

 

「これで終わり……ぎぃやぁぁぁぁぁーッ!?!?」

 

 銃を持っていた方の手……利き手だと思われるほうを切り落とした。

 

「雪村くん、大丈夫……なっ!?」

 

「惨い……!! 何故こんなことに……あれはオルフェノク!? ということは、二人はこいつに……大丈夫ですか!?」

 

「や、やめろ……やめてくれぇ!!」

 

 なにを言っているのかわからない。誰の言葉も聞こえなくなってきた、聞こえるのは……奴の命乞いと悲鳴、それだけ。殴られる前に、切り落とす。

 

「康太……を……たす、け……」

 

「うぎぃあぁぁぁぁーッ!!!」

 

「足もだ」

 

 こいつは跳べる。足を切っておかないと、何をするかわからないからな……簡単に切れた。

 

「ぐぎゃあぁぁぁぁーっ!!!」

 

「あれ、は……本当に雪村くん、なのか……?」

 

「鬼だ……復讐鬼……体に穴が空いているのに……」

 

 憎い。殺したい。憎い憎い憎い憎い!!!

 

「ゆ、許してくださいぃ……やめてぇぇ……!! なんでもする、なんでもする……だから……!!!」

 

「命を捧げて償え。全員分の命、貴様が暁の代わりだ」

 

「ひっ……嫌だ、嫌だぁぁぁ!!!」

 

 聞く耳は持たない。憎悪にそんなもの入り込む余地はない。まずは袈裟斬りだ……

 

「ダァリャアァァァァ!!」

 

「ウァァァァァァーッ!!」

 

「ダァァリャアァァァァッ!!!」

 

 今度は逆側の肩から、切り下ろす。

 

「ウギィアァァァァァァーッ!!!」

 

「ダァァァァァァァ!!!」

 

「ゲゴォッ!?!?」

 

 口の中に剣をぶち込んで、貫通させた。そのまま……思いっ切り、真っ二つにした。

 

「ダァリャアァァァァァーッ!!!!」

 

「ゲェアァァァァァァァーッ!!!!」

 

「……ア、ア」

 

 終わった。凄まじい脱力感が俺を襲う……誰かがいるみたいなので、後ろを向いておく。

 

「なっ……!?」

 

「目までない……なんて顔だ……!!」

 

「警察、さん……最後の、頼み……聞いて……」

 

 俺は倒れた。確かな死を感じる、終わったな。

 

「え……なんですか!?」

 

「私、達の……を……」

 

「……わかりました」

 

 結局、話を聞けずに意識を絶った。

 

 

 

「……あ?」

 

 生きている? 何故? 内蔵はなかったはずだ。目が、見えている。なんだこれ?

 

「お目覚めですか、ここは集中治療室です」

 

「これ……どうなって……」

 

「簡潔に言いましょう。あなたはお父さんとお母さんに助けられました」

 

 助けられた? どういうことだ?

 

「助けられた……?」

 

「二人は自分の内蔵を、あなたにあげたんですよ。お母さんの方は生きているままね……お母さんは内蔵と眼球を、真っ二つになっていたお父さんからは血を……二人とも死因はそれです」

 

「……あ……」

 

 じゃあ、これは……二人のものなのか。結局親孝行のひとつもできずに、それどころか……自己犠牲で死んで行ったのか。

 

「あと、遺言ですが……二人とも『最後まで戦え』だそうです。では、失礼します」

 

「……」

 

 憎しみは消えてない。でも……少しはマシになった。だから……悲しみが込み上げてくる。涙が止められない、もう二度と会えない。思い出は焼けて無くなった。全てが、ない。

 

「あ、ぐぅぅ……うっ、くぅぅぅ……!!」

 

 声を殺して、泣く。机から涙が零れてしまう。しばらくして……泣き終わって。

 

「……わかったよ、父さんに母さん……俺が決めたんだもんね」

 

 最後まで戦えって、言われたんだ。俺の命が消えて無くなるまで、殺し合ってやる。そうじゃなきゃ、死んだ二人が報われない。

 

「皆殺しだ、クソ野郎共」

 

 静かに、溢れる程の殺意と憎しみを込めて……そう言った。




参考資料
『仮面ライダークウガ』EPISODE35『愛憎』
『最後まで戦うように』(沖縄県平和祈念資料館・資料より引用)
この言葉に呪われ、沢山の兵士達が『最期まで戦って』自殺し、命を落としました。康太くんは呪いにかかったのです。
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