あの後どうなったのでしょう。
……財団X、東京支部。そこの鍵が開かれた……開けたのは無論、山崎だ。ふらつく足取りで現れた山崎は、扉にカードを挿入した。電子音声と共に、扉が開かれる。
『お帰りなさいませ、山崎様。現在の時間は19時42分です』
「山崎支部長!? その怪我は……!?」
「雪村康太に、やられた……くそっ、サイガの力を受け取っておきながら……こんな屈辱を……!! 暁様、会長、申し訳ありませんっ……!!」
腹部に刺さったアクセレイガンを抜くと同時に、変身が解けた。その場に膝をついて、山崎が座り込む。血が地面に垂れて、山崎の服に染みを作った。
「山崎支部長、暁様から書類がFAXで届いていますが……」
「……とりあえず、治療だ……後で確認させてもら、う……ぐっ、がはっ! ごほっ、ごほ……」
「支部長!? お前ら、治療の用意をしろ!! 早く!!」
慌ただしく動き回る山崎の部下……倒れ込んだ山崎の顔は、強い憎しみに満ちていた。ただの人間如きに手傷を負わされた挙句、痛み分けで終わってしまったのだから。
「許さん、ぞ……雪村、康太……そして、一破誠二……絶対に、今度こそは絶対に私の、手で……」
「支部長!! しっかりしてください!!」
「手術の用意できました!! こちらに!!」
山崎は担架に乗せられて、手術室へと運び込まれていった……
……ここはどこだ? 病院は崩れたはずだが……周りを見渡すと、見覚えのある景色だった。
「ここは……保健室か? 少し設備が増えたような……」
「起きた? 康太様……」
「癒月先生……そうだ、一破さんと勇気くんは!? 死んでませんか!?」
必死に尋ねる。死んでいたら、戦った意味が無いから。
「大丈夫よ。一破さんも傷は浅かったし、勇気くんは無傷だったわ。だけど……勇気くんは、完全にオルフェノクになってしまったみたいね」
「やっぱりか……山崎のせいで……」
「えぇ……身体検査をしてるけど、細胞の構造から何から、全てが変化してしまっているみたい。治すのは困難だって、お医者さんが……」
勇気くん……なんてことだ。大量の死者を出した上、病院は破壊され……勇気くんも、オルフェノクにされてしまった。
「……僕が、僕が弱いから……こんなことに……!!」
「動いちゃダメ。康太様の心臓を治すのに大手術したのよ? 下手に動いたら、傷が開いちゃうって……今度こそ本当に死ぬかもしれない」
「やっぱり傷が……くそっ……」
サイガの必殺技をまともに食らってしまった。咄嗟に庇ったから、防御姿勢も取れずに……
「康太様……あなたは優しいわ。自分が死ぬ可能性が高いとわかっているのに、男の子一人のために……だから今は、ゆっくり休んで。死んじゃったら、きっと勇気くんも悲しむ」
「……わかり、ました」
「そんなに落ち込まないで、康太様? 相手が悪かったのよ。罪のない人を……それも子供を人質に取るなんて、人のやることじゃないわ」
だけど……そんなの、言い訳だ。
「それは言い訳ですよ。失われた命は、帰ってこないんです……皆さんみたいに理性を失わされていたわけでもない。全力でやって、負けたんです……奴が帰ってくれたからよかったけど……次は絶対に、こうはいかない」
「やぁ、雪村くん……起きてくれたんだね」
「学園長……康太様に何かご用ですか?」
学園長が直接来るのは珍しいな……
「あぁ……由々しき事態だ。これを見てくれ」
「これは……犠牲者のリスト?」
「今回の件の犠牲者総人数さ。合わせて……1000人超。恐ろしい数だ……こんな大虐殺を続けられたら、日本は遠くない未来に壊滅する」
そこには……夥しい数の犠牲者の名前が書かれていた。
「どうして、こんなことを……危険因子を殺したいだけなんじゃ?」
「恐らく、彼らの狙いは……日本という、国の壊滅だ。本人を今潰せないなら、周りの環境を完全に潰した後にゆっくり潰す……普通なら無謀な考え方だが、奴らならそれができる。できてしまう……理由は、わかるね?」
「仮面ライダーの力……ですか」
学園長が、ゆっくり頷く。その顔に、いつものような笑みはなく……冷や汗が流れ落ちる。
「その通り。奴らは一方的に攻撃が可能、だがこちらは手がかりゼロで財団Xのアジトを探さねばならない……敵からすれば、まさにチェックメイトってところだろう」
「僕が、負けたからですか……? サイガに……」
「……そうとも言えるね」
やっぱりか……それを聞いた癒月先生が、珍しく叫んだ。
「学園長、そんな言い方……!!」
「癒月先生、やめてください。事実なんです……」
「……今まで仮面ライダーに対して戦果を上げてきた、雪村康太の敗北。この事実は……大幅に日本全体の士気を下げてしまったんだ。仮面ライダーサイガは、恐怖の対象になると同時に……助かるために信仰を始めている人もいる。それ程までに脅威なんだよ、仮面ライダーという存在は……」
そうだ、長らく忘れていた……仮面ライダーは一発で即死しかねない威力の攻撃を、簡単に放つことができる。必殺技ともなれば、威力はさらに上昇する……その上、何十体もそれがいるんだ。
「だからって! 雪村くんを攻めても……」
「わかっているさ。攻めたいわけじゃない……その上、奴らは卑劣だ。今回のように罪なき子供を人質にしたり、一般人をミラーモンスターの餌にしたり……そんな手段を取られてしまっては、ただでさえ薄い勝てる見込みがさらに薄くなる。奴らは重武装、こっちは生身……勝てるのがおかしいんだ」
「仮面ライダーの解析の方は?」
そう聞いてみたが……首は横に振られた。
「難航しているらしい……フォトンブラッドも、カードデッキやオルフェノクエネルギーも……全てが意味不明かつ、原理不明なんだ。無理に決まってるさ……魔法とも違うし、この世界に存在するどの分子構造とも一致していない」
「そうですよね……」
「医療機関は財団Xに尽く破壊されていっている。緊急手術は学園で行ったけれど……ベッドも器具も全く足りない状況さ。残念ながら、現在は休校中だね」
今度は兵糧攻めかよ、お前ら……俺に何ができるだろう。
「……僕はどうしたら? 僕に、何ができますか?」
「兎に角、今は休んでくれ。君は希望なんだ、我々の、唯一のね。仮面ライダーの力がない以上、こちらにあるのは……君の力だけ」
「こんな重荷を……雪村くんに背負わせるなんて、残酷すぎます……本来なら、先生がやるべきなのに……」
みんな俯いている。残酷でも、背負わなきゃならないんだ。そう思っていると、珍しく学園長が声を大きくした。
「そんなことはわかっている!! 重々承知さ、この状況そのものが、間違いであることくらいは……でも……私も君も……何もできない。無力すぎるんだよ、私達はね」
「鷹嶺先生は……? あの人も強いですよ?」
「確かにそうだね。でも……勝率が一番高いのは君だ。切り札の『オーバード』も、負担が大きすぎて使う度に入院しなくちゃいけない。克服しようと、鍛錬を積んでいるけれど……次の襲撃に間に合うかは、些か疑問だ」
やっぱり、サイガを殺せるのは俺だけか……最後まで戦えって、言われたしな。これも運命ってことだ……
「何もしてあげられないなんて……」
「……あと、君にこれを」
「これ、封筒……?」
中を開けると……すごい量の金が入っていた。
「これまでの分と仮面ライダーの戦闘の分だよ。君は、親を失ってしまった。ここを出れば、食べていくことができなくなってしまう……だから、せめてこれだけでも受け取ってくれ」
「……」
「癒月先生は来てくれるかい? 職員会議があるんだ」
そう言われて、癒月先生も立ち上がった。
「……くれぐれも動かないようにね?」
「早く元気になることを祈っているよ」
「金か……虚しいなぁ、これ」
バイト代とかを貯めて……親孝行したい。そんな夢もあったんだけどな……もう、いない。贅沢したって仕方ないし……
「最後まで戦わないと……父さんと母さんの死んだ意味がない……」
母さんと父さんは命を投げうってまで、俺を助けてくれたのに……それを無駄にする気か? 願いを無下にする気か? 自分への怒りがどんどん募る。まるで、掃除をしていない部屋に埃が積もっていくみたいに。
「……サイガァ……!!」
そうだ……あいつが邪魔なんだ。みんなの人生を踏みにじる山崎が憎い。たとえ刺し違えてでも、殺す。そう考えていると、ドアが開かれた。
「誰です?」
「お兄さぁん!!」
「……勇気くんか?」
泣きながら飛び込んできた。勇気くんを抱き止めて、慰める。
「ひっぐ、ぐす……ごめんなさい、逃げなかったから……僕がのろまだから……!!」
「君は悪くない。悪いのはサイガだ、山崎って奴だ……かっこいいお兄さんに任せろ! 俺がバシッとやっつけるからな!!」
「ねぇ、お兄さんは……なんで僕を庇ってくれたの?」
それは……何故だか自分でもわからない、だけど答えなきゃ……
「それは……なんでだろう?」
「僕を助けたら、死んじゃうって……わからなかったの?」
「……わかってたと思う」
勝手に言葉が出てきた。そのまま続ける。
「え……?」
「お兄さんはな。もう……親もいないし、思い出もないんだ。家も滅茶苦茶になっちゃって、もう住めない……全部無くしちゃったんだよ。だから……まだ無くしてないものがある君には、死んで欲しくなかったんだと思う」
「……僕だって、お父さんやお母さんいないよ?」
そうだけど……それでもだ。
「でもさ。君はまだ小さな子供だろ? 俺みたいに重たい責任も持ってない……お友達ができるかもしれない、俺より強くなるかもしれないし、こうやって人を気遣える優しさもある。立派だよ……それに、奴の思い通りに事を進めさせるなんて、嫌だったから」
「……お兄さん、なんだか苦しそう」
「えっ……」
子供特有の感性だろうか。俺の本質を突かれて、思わずビクッとしてしまう。
「笑ってるのに、死んでるみたい……本当に大丈夫?」
「そんなことはないよ……俺は元気さ! 例えそうでないように見えるとしても、明日には元気いっぱいになる!! 何たってお兄さんは無敵のヒーロー、雪村康太だからね!! 俺を信じろ、勇気くん!!」
「そう、かな……早く元気になってね? あと、これ……似顔絵書いたの。よかったら……じゃあね、お兄さん!」
クレヨンで書いたと思わしき、似顔絵が置かれている。手に取ると……俺の絵と一緒に、字が書かれていた。
『お兄さんありがとう』
『ぼくのヒーロー ゆきむらこうたさんへ』
「……言えないよ。あんな現実知らなくていい……あんな子供が関わるべきじゃ、ないのに……」
彼はもう、オルフェノクになってしまった。巻き込まれてしまったんだ……
「俺はどこまで行っても、普通の人間以上にはなれないんだな……」
どうやっても、零してしまう命がある。それでもう、何人も取りこぼした。母さんも父さんも、あの人もこの人も……
「だけど、仇討ちくらいはしてやる……サイガも暁も、絶対に殺してやるよ」
首を供えなきゃならない人達が、どんどん増えてゆく。自分の無力さに、ため息が出てしまった。
「はぁ……電話? もしもし……」
『……雪村くんかい? 私だ』
「学園長……サイガですか? それとも仮面ライダー? オルフェノク?」
もう戦闘態勢だ。この会話も慣れたものだな。
『今回は違うよ。君のお父さんやお母さんの葬儀を行う準備が整ったそうだ……』
「え……お金は?」
『給料から差し引いておいたよ。そちらに請求書が行くことはない』
そうか……ありがたい。家族葬だろうし、俺だけしか来ないだろう……
「ありがとうございます……場所は?」
『車椅子を持っていくから、それで移動してくれ。足を使うのはまずい……』
「わかりました」
電話は切れた。しばらくすると、癒月先生が車椅子を持ってきてくれた。
「ちょっこーん、康太様……気分はどう?」
「お気になさらず、いい感じですよ」
「そう……じゃあ、乗ってくれる?」
車椅子に乗って、後ろから押してもらう。いつも賑やかな学園は、静まり返ってしまっている。
「……さっさと財団Xを潰さないと、これがずっと続くことになる……」
「……ねぇ。康太様の趣味って、何?」
「え……急になんですか? そうだなぁ……昔はゲームや漫画だったけど……もう、読む気にもならないな」
多分、感覚そのものが変わってるんだ。戦いってのは人格すらも歪み、二度と戻れなくなる程のダメージをその人に与える……俺もそうだからな。
「初めて見た時は、とっても元気そうな子だったのに……変わっちゃったわね……」
「仕方ないですよ。俺一人で済んでよかった、あやめも他の人達も……癒月先生だって、性格は変わりない」
「……あ、いつの間にか着いてたわね」
ここに父さんと母さんがいるのか……車椅子で押されながら、葬儀場に入ると……二人の死体があった。父さんは真っ二つだし、母さんは体に大穴が空いている。
「この度は……ご愁傷さまです」
「どうも。あとは大丈夫なので、癒月先生は先に」
「じゃあ……ごゆっくり」
二人の頬を撫でた……冷たい、完全に固まっている。顔は苦痛に歪んだままだ。
「約束だ。二人の願いは叶えるよ……例え、俺が死んでもな」
「失礼します。今回この葬儀を行わせていただく僧の者です」
「宜しくお願いしますね」
そこからは……流れ作業。何一つ不思議なことなどなく、火葬場へと向かった。
「お墓はお祖父様やお祖母様と同じお墓で?」
「はい、お願いします」
「わかりました。では、そのように」
骨だけになった二人が、骨壷に入れられて運ばれていく。二人の死は受け入れた……あとは、奴らを殺すだけだ……
「散々泣いたから……もう、泣けねぇな」
『笑ってるのに、死んでるみたい……本当に大丈夫?』
「……大丈夫さ。大丈夫じゃなくても、殺し合うだけだ」
もしかして、心が死んでしまっているのかもしれないが……関係ないし、気にする必要もない。最後まで戦うのには必要のないものだ……
「ついでだ、カイザブレイガンを取りに行っておこう」
あれがあれば、多少サイガへの勝率も上がるだろう。いつあいつが来るかはわからない……それに。
「大分痛い目に遭わせてやったし、あいつの口ぶりからして、俺がいるなら最優先で狙うのは俺になるはず……さっさと治れよ、俺の体」
何回目かもわからない、自分の体への叱咤。そんなことをしても、治りが早くなるわけがないのだが……
「……お別れは済ませた?」
「はい。大丈夫です……あと、カイザブレイガンを取っていきたいので……俺の家の跡地に」
「わかった……回収しに行くのね」
カイザブレイガンは、あそこで落としたはずだ。カエル野郎は殺したし……回収はまだのはず。そう思って向かってもらうと……案の定、落ちていた。
「……完全に崩れてるな」
「柱が壊れちゃってたみたい……修復は無理ね」
「見ればわかります……あれ?」
瓦礫の下から、水が漏れている。あんなところに水道管あったか? 開けてみると……見覚えのある水筒があった。蓋が開いている……
「これは……水筒?」
「……スポーツドリンクだ……正気を失う前に、用意してくれてたのか……いつも用意してくれてたもんな」
「思い出の品ね……持って帰る?」
持って帰るために、手を伸ばす。持ち上げた瞬間、ヒビだらけのそれは……バラバラに砕けてしまった。
「あ……まぁ、世の中そんなに甘くないですよね。帰りましょう。ここにはもう、何もない」
「……そうね。ここにいても辛いわよね……」
「さよなら、二人とも。次会うのは、奴を殺した後だ」
そう呟いて、俺達は幸せな音も匂いも二度としない、家だった瓦礫を後目にその場を去った。
時間は経って、二日後。お医者さんに、様子を見てもらったが……
「……また早くなったな。もう治ってる……大丈夫そうですね。運動を始めていただいて構いませんよ」
「ありがとうございました」
「修行するのよね? ……無理はしないように、って……いない!?」
すみません、癒月先生。俺はさっさと強くならないといけないんです。重りをさらに増やして、70kmだ。
「ダァァァァッ!!」
帰ってきたら……銃と剣の基本の練習をやり直して、秘伝書を図書室から取ってきた。剣の秘伝書だ。
「覚えられれば有利になるぞ……それぞれ『グレイトスラッシュ』、『サイクロンスラッシュ』、『ダッシュスラッシュ』か……さっさと覚えねぇとな」
サイガを滅多切りにするためには、必須の技だ。奴は頭がいい……俺の動きを読んでくるはずだ。なら……予測できない、新技を使うしかないだろ。
「やり方は……構えはこうで、この状態をキープ……!!」
次々にやっていく。仮面ライダーへの憎しみを燃料にして、集中力に変換する……
「サイ……ガァァッ!!」
……まずは成功、サイクロンスラッシュ……秘伝技の原理も不明なようだが、お伽噺では神様の贈り物だとか。俺は信じてないけどな……
「次……!!」
御伽噺には、こんな話もあったな……昔は、秘伝書がなくても……努力をすれば、神様がプレゼントをくれていたらしい……プレゼントキャンペーンはおしまいか。そんなことを考えながら、こんなことを続けて……一週間くらいだろうか。トレーニングを終えた後……
「よし……使えるようになったな……」
ずっと重りをつけたままで修行をしている……重さは今、50kgまで増やすことができた。
「これでも……フライングアタッカーには追いつけないけどな」
人間がどれだけ背伸びしたって、ジェット機に走って追いつくなんて無理だ。奴はジェット機より速い、追いつくのは生物である限り無理だ。
「どうにかしてフライングアタッカーを壊さねぇと、勝負にならねぇ……」
人質を取られないように立ち回らないといけないし、やることは山積みだ……それでも、俺が殺す。
「山崎、お前は今どこにいる……来いよ、殺してやるから」
そう呟いた時……非通知で電話が来た。
「……誰だよ。もしもし?」
『よう、雪村康太……よくもやってくれたな、え?』
「山崎……貴様ァ!!!」
切ろうとしたが、そこで奴が言った。
『おっと、待て……切っていいのか? お前の大事な女が死んでしまうかもしれんぞ?』
「なに……?」
『ハッハッハ、興味を持ったようだなぁ。私達の計画の一環として……襲撃場所が決まったんだ。お前にそれを教えてやることにした……襲撃は明日さ』
何のつもりだ? 隠れてやった方がいいだろうに。
「罠か?」
『おぉ、そうだよ。罠さ……だけど、来なけりゃお前の大事な子が死ぬぞ?』
「その子は誰だ? 覚えがないが」
俺が言うと……奴は驚きの名前を出した。
『百鬼あやめだよ。奴を狙わせてもらう……止められるなら、止めに来るといい……ただし、お前と一破だけでな』
「なに!?」
『もしも破った場合、今すぐに屋敷に仕掛けた爆弾を炸裂させる。奴らは木っ端微塵だ……俺達は殺せるだろうけどな。どうする?』
……どこまでも卑怯なヤツだ。
「卑怯な手ばっかり使いやがって……」
『なんとでも言え……私は会長と暁様のために死力を尽くすのみ。そのための犠牲になってくれよ』
「断る……覚悟しておけ、お前の命はねぇぞ!!」
電話に向かって、叫ぶ。
『おー、怖い怖い……お前が二人以上で来たなら、その時点で発破する。電話は監視してある、知らせたり逃がすのも禁止だ。いいな……?』
「いいよ、テメェらの舐め腐った態度……今すぐに叩き潰してやる!!」
『その威勢を潰してやるよ、雪村……お前の死を知って悲しむ顔が楽しみだな? ハッハッハッハッハ……!!!』
電話は奴の高笑いと共に切れた。兎も角、これを一破さんに知らせなければ。そう思って、俺は警察署へと急いで、一破さんを呼んだ。
「雪村さん……元気そうでなによりです」
「そちらこそ、怪我は痛くないですか?」
「私は平気です。奴の攻撃は少ししか食らっていませんし……それで、話というのは?」
耳を貸してもらって、事情を話す。
「なっ……そん……むぐ!?」
「しーっ……奴らの脅しはハッタリじゃない。あやめを守るために……お願いします」
「……わかりました。準備をしてきます、少しお待ちを」
二人一緒に袋叩きにしようって魂胆だろうが、そうはいくか。今から幽世の方に行って、監視してやる。
「僕は準備OKです」
「私も……できる限りは。役に立つかは疑問ですけどね」
「というか、態々あやめを襲うなんて……何の目的があるんでしょう?」
それはわからないけど……とりあえず、行くしかないよな。
「あやめさんより、雪村さんを襲ったほうがいいような気もしますけどね……」
「でも、とりあえず行きましょう。あやめに何かさせるわけにはいきません」
「そうですね……市民を守るのが私の使命。ライダーが相手なら、行かないわけにはいきませんから」
幽世はワープゲートを使わないと行けない。あやめの住んでいる場所は日本との行き来が自由だから、行って大丈夫だ。
「行先、幽世……用意はいいですか?」
「私はとっくにできていますよ」
「僕もです……!!」
準備が完了されて、目の前の景色が一瞬で変わる……幽世に来るのは初めてだな、テレビで見たことはあるけれど。角が生えている人もいる、あやめと同じ鬼人だと思う……一破さんを見てみると、メモを取っていた。
「今のところ、異常なし……と」
「そんな目立つところに仕掛けてないと思いますよ? 今日はここに泊まり込みましょう、僕がお金を出すので」
「いや、そんな……悪いですよ」
俺が言って連れてきたんだ、当然だろう。お金貰ってよかったな……
「大丈夫です、もう予約してあるので。僕のわがままで連れてきたんですから……」
「そうですか……じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「人間様? 何してるの?」
後ろを振り向くと……噂をすれば何とやら、あやめがいた。
「うおぉぉっ!?」
「なんでそんなに驚くの!?」
「いや……ごめん、いきなり話しかけられたから……」
一破さんは初対面だな。さて、どう誤魔化そうか……
「私は一破誠二と申します。以後お見知り置きを」
「余は百鬼あやめだ余! よろしくね、人間様! それで今日は何をしに来たの?」
「……息抜きの旅行にね。友達と一緒に……ですよね? 一破さん」
そう言うと、一破さんも反応してくれた。
「あ……そ、ソウデスネ。イ、イキヌキノ、リョコウニ……」
「ロボットかっ!! 一破さん、しっかりして!!」
「え!? なんでそんな片言!?」
ヤバい、怪しまれている。どうにかしないと……
「こ、この人すごい人見知りでさ……人を前にすると、あがっちゃうみたいで……ね、一破さん!?」
頭を持って、無理矢理縦に振らせる。
「そうなんだ……ごめんなさい、人間様。知らなくって……」
「なぁ、あやめ……人間様だとどっちかわかんないからさ、俺は康太って呼んでくれない?」
「あ、そっか……じゃあ、康太様! 幽世を案内する余、着いてきて!」
とりあえず今は、固まっている一破さんを何とかしないと……
「ちょっとこの人どうにかするから、待っててね!?」
「え……あ、うん?」
「一破さん……何やってるんですか!?」
無理矢理起こすと、元に戻った。
「はっ……しまった、私は嘘がつけないんだった……」
「致命的じゃないですか!! どうするんです!?」
「と、とりあえず……会話の方は雪村さんに任せます」
ダメだこりゃ……
「わかりましたよ……先に言っといてくださいよ、そういうのは」
「はい……ご迷惑おかけしました」
「お待たせ、あやめ! 案内してくれよ!!」
演技モードだ。頑張るぞ……
「うん! 康太様、人間様! 着いてきて!!」
「そういえば、あやめ。聞いときたいんだけど、明日は家で何かイベントがあったりするか?」
「え? 確か……明日は恒例の、親睦を深めるためのパーティーを行うらしいけど……どうかした?」
……それが狙いか。山崎め、権力者をまとめて殺すつもりだな!?
「いや、なんでもないんだ……一破さんは避難誘導をお願いします」
「それなら得意分野です、任せてください」
「到着だ余! これが幽世名物、不死吹雪!」
綺麗な桜……お花見してる人もいる。
「季節外れですね……今は夏のはずですが」
「幽世の桜は特別でね。両端に桜の木があって、それが時間を置いて、ゆっくりゆっくり咲くの……だから年中咲いてる。散っても散っても、いつまでも桜吹雪が吹き続ける。だから……不死って呼ばれてるんだ余」
「なるほど……それにしても、綺麗な桜だな」
お気に入りの場所なのか、すごく優しい顔をしている……
「康太様もそう思う? 昔から……ここで鍛錬したり、業や不知火と遊んだり……その時もずっと桜が吹いてた。疲れたら、それを見てひと休みして……懐かしいなぁ」
「……案内してくれるんだったよね、次行く?」
「あ、そうだった! 行こう!! 余が眺めのいい場所、知ってるんだ!!」
それから……連れて行ってもらったのは、山の上だ。
「おぉ……!」
「青い光は鬼火。現代じゃ見れない余?」
「すごい……こんなすごい夜景、見たことがない」
鬼火があたかも蛍のように、光ったり消えたりしている。
「でも、どうして俺達をここに?」
「だって……友達、でしょ? それだけじゃダメ?」
「……こんな子を巻き込むなんて……」
一破さんが、小さく呟いた。俺も同じ気持ちだ、絶対許せない。
「そうだな、友達だよ。それだけで十分だ」
「うん! そろそろ時間だから、余は帰るね?」
「あぁ、またね!!」
明日会うことになる。絶対に殺させはしない……覚悟しろ、山崎!! 激情を燃やしながら、あやめに手を振った。それから、ホテルに泊まってご飯を食べて……
「部屋は違うし……ここで一旦お別れですね」
「おやすみなさい、一破さん」
「また明日……頑張りましょう」
お風呂に入ったら、早く寝よう。明日は大変なことになる……被害拡大を防がなければ……一通り終えて、ベッドに入る。
「……おやすみなさい」
誰に言うでもなく……もう、言う人がいないその言葉を呟いて、俺は眠りについた。明日の戦いを想像しながら……
次回決戦です。