※この作品はR-18です。

仮面を被った、人間達の英雄譚   作:とも667

13 / 51

 あの後どうなったのでしょう。


破滅の足音

……財団X、東京支部。そこの鍵が開かれた……開けたのは無論、山崎だ。ふらつく足取りで現れた山崎は、扉にカードを挿入した。電子音声と共に、扉が開かれる。

 

『お帰りなさいませ、山崎様。現在の時間は19時42分です』

 

「山崎支部長!? その怪我は……!?」

 

「雪村康太に、やられた……くそっ、サイガの力を受け取っておきながら……こんな屈辱を……!! 暁様、会長、申し訳ありませんっ……!!」

 

 腹部に刺さったアクセレイガンを抜くと同時に、変身が解けた。その場に膝をついて、山崎が座り込む。血が地面に垂れて、山崎の服に染みを作った。

 

「山崎支部長、暁様から書類がFAXで届いていますが……」

 

「……とりあえず、治療だ……後で確認させてもら、う……ぐっ、がはっ! ごほっ、ごほ……」

 

「支部長!? お前ら、治療の用意をしろ!! 早く!!」

 

 慌ただしく動き回る山崎の部下……倒れ込んだ山崎の顔は、強い憎しみに満ちていた。ただの人間如きに手傷を負わされた挙句、痛み分けで終わってしまったのだから。

 

「許さん、ぞ……雪村、康太……そして、一破誠二……絶対に、今度こそは絶対に私の、手で……」

 

「支部長!! しっかりしてください!!」

 

「手術の用意できました!! こちらに!!」

 

 山崎は担架に乗せられて、手術室へと運び込まれていった……

 

 

 

 ……ここはどこだ? 病院は崩れたはずだが……周りを見渡すと、見覚えのある景色だった。

 

「ここは……保健室か? 少し設備が増えたような……」

 

「起きた? 康太様……」

 

「癒月先生……そうだ、一破さんと勇気くんは!? 死んでませんか!?」

 

 必死に尋ねる。死んでいたら、戦った意味が無いから。

 

「大丈夫よ。一破さんも傷は浅かったし、勇気くんは無傷だったわ。だけど……勇気くんは、完全にオルフェノクになってしまったみたいね」

 

「やっぱりか……山崎のせいで……」

 

「えぇ……身体検査をしてるけど、細胞の構造から何から、全てが変化してしまっているみたい。治すのは困難だって、お医者さんが……」

 

 勇気くん……なんてことだ。大量の死者を出した上、病院は破壊され……勇気くんも、オルフェノクにされてしまった。

 

「……僕が、僕が弱いから……こんなことに……!!」

 

「動いちゃダメ。康太様の心臓を治すのに大手術したのよ? 下手に動いたら、傷が開いちゃうって……今度こそ本当に死ぬかもしれない」

 

「やっぱり傷が……くそっ……」

 

 サイガの必殺技をまともに食らってしまった。咄嗟に庇ったから、防御姿勢も取れずに……

 

「康太様……あなたは優しいわ。自分が死ぬ可能性が高いとわかっているのに、男の子一人のために……だから今は、ゆっくり休んで。死んじゃったら、きっと勇気くんも悲しむ」

 

「……わかり、ました」

 

「そんなに落ち込まないで、康太様? 相手が悪かったのよ。罪のない人を……それも子供を人質に取るなんて、人のやることじゃないわ」

 

 だけど……そんなの、言い訳だ。

 

「それは言い訳ですよ。失われた命は、帰ってこないんです……皆さんみたいに理性を失わされていたわけでもない。全力でやって、負けたんです……奴が帰ってくれたからよかったけど……次は絶対に、こうはいかない」

 

「やぁ、雪村くん……起きてくれたんだね」

 

「学園長……康太様に何かご用ですか?」

 

 学園長が直接来るのは珍しいな……

 

「あぁ……由々しき事態だ。これを見てくれ」

 

「これは……犠牲者のリスト?」

 

「今回の件の犠牲者総人数さ。合わせて……1000人超。恐ろしい数だ……こんな大虐殺を続けられたら、日本は遠くない未来に壊滅する」

 

 そこには……夥しい数の犠牲者の名前が書かれていた。

 

「どうして、こんなことを……危険因子を殺したいだけなんじゃ?」

 

「恐らく、彼らの狙いは……日本という、国の壊滅だ。本人を今潰せないなら、周りの環境を完全に潰した後にゆっくり潰す……普通なら無謀な考え方だが、奴らならそれができる。できてしまう……理由は、わかるね?」

 

「仮面ライダーの力……ですか」

 

 学園長が、ゆっくり頷く。その顔に、いつものような笑みはなく……冷や汗が流れ落ちる。

 

「その通り。奴らは一方的に攻撃が可能、だがこちらは手がかりゼロで財団Xのアジトを探さねばならない……敵からすれば、まさにチェックメイトってところだろう」

 

「僕が、負けたからですか……? サイガに……」

 

「……そうとも言えるね」

 

 やっぱりか……それを聞いた癒月先生が、珍しく叫んだ。

 

「学園長、そんな言い方……!!」

 

「癒月先生、やめてください。事実なんです……」

 

「……今まで仮面ライダーに対して戦果を上げてきた、雪村康太の敗北。この事実は……大幅に日本全体の士気を下げてしまったんだ。仮面ライダーサイガは、恐怖の対象になると同時に……助かるために信仰を始めている人もいる。それ程までに脅威なんだよ、仮面ライダーという存在は……」

 

 そうだ、長らく忘れていた……仮面ライダーは一発で即死しかねない威力の攻撃を、簡単に放つことができる。必殺技ともなれば、威力はさらに上昇する……その上、何十体もそれがいるんだ。

 

「だからって! 雪村くんを攻めても……」

 

「わかっているさ。攻めたいわけじゃない……その上、奴らは卑劣だ。今回のように罪なき子供を人質にしたり、一般人をミラーモンスターの餌にしたり……そんな手段を取られてしまっては、ただでさえ薄い勝てる見込みがさらに薄くなる。奴らは重武装、こっちは生身……勝てるのがおかしいんだ」

 

「仮面ライダーの解析の方は?」

 

 そう聞いてみたが……首は横に振られた。

 

「難航しているらしい……フォトンブラッドも、カードデッキやオルフェノクエネルギーも……全てが意味不明かつ、原理不明なんだ。無理に決まってるさ……魔法とも違うし、この世界に存在するどの分子構造とも一致していない」

 

「そうですよね……」

 

「医療機関は財団Xに尽く破壊されていっている。緊急手術は学園で行ったけれど……ベッドも器具も全く足りない状況さ。残念ながら、現在は休校中だね」

 

 今度は兵糧攻めかよ、お前ら……俺に何ができるだろう。

 

「……僕はどうしたら? 僕に、何ができますか?」

 

「兎に角、今は休んでくれ。君は希望なんだ、我々の、唯一のね。仮面ライダーの力がない以上、こちらにあるのは……君の力だけ」

 

「こんな重荷を……雪村くんに背負わせるなんて、残酷すぎます……本来なら、先生がやるべきなのに……」

 

 みんな俯いている。残酷でも、背負わなきゃならないんだ。そう思っていると、珍しく学園長が声を大きくした。

 

「そんなことはわかっている!! 重々承知さ、この状況そのものが、間違いであることくらいは……でも……私も君も……何もできない。無力すぎるんだよ、私達はね」

 

「鷹嶺先生は……? あの人も強いですよ?」

 

「確かにそうだね。でも……勝率が一番高いのは君だ。切り札の『オーバード』も、負担が大きすぎて使う度に入院しなくちゃいけない。克服しようと、鍛錬を積んでいるけれど……次の襲撃に間に合うかは、些か疑問だ」

 

 やっぱり、サイガを殺せるのは俺だけか……最後まで戦えって、言われたしな。これも運命ってことだ……

 

「何もしてあげられないなんて……」

 

「……あと、君にこれを」

 

「これ、封筒……?」

 

 中を開けると……すごい量の金が入っていた。

 

「これまでの分と仮面ライダーの戦闘の分だよ。君は、親を失ってしまった。ここを出れば、食べていくことができなくなってしまう……だから、せめてこれだけでも受け取ってくれ」

 

「……」

 

「癒月先生は来てくれるかい? 職員会議があるんだ」

 

 そう言われて、癒月先生も立ち上がった。

 

「……くれぐれも動かないようにね?」

 

「早く元気になることを祈っているよ」

 

「金か……虚しいなぁ、これ」

 

 バイト代とかを貯めて……親孝行したい。そんな夢もあったんだけどな……もう、いない。贅沢したって仕方ないし……

 

「最後まで戦わないと……父さんと母さんの死んだ意味がない……」

 

 母さんと父さんは命を投げうってまで、俺を助けてくれたのに……それを無駄にする気か? 願いを無下にする気か? 自分への怒りがどんどん募る。まるで、掃除をしていない部屋に埃が積もっていくみたいに。

 

「……サイガァ……!!」

 

 そうだ……あいつが邪魔なんだ。みんなの人生を踏みにじる山崎が憎い。たとえ刺し違えてでも、殺す。そう考えていると、ドアが開かれた。

 

「誰です?」

 

「お兄さぁん!!」

 

「……勇気くんか?」

 

 泣きながら飛び込んできた。勇気くんを抱き止めて、慰める。

 

「ひっぐ、ぐす……ごめんなさい、逃げなかったから……僕がのろまだから……!!」

 

「君は悪くない。悪いのはサイガだ、山崎って奴だ……かっこいいお兄さんに任せろ! 俺がバシッとやっつけるからな!!」

 

「ねぇ、お兄さんは……なんで僕を庇ってくれたの?」

 

 それは……何故だか自分でもわからない、だけど答えなきゃ……

 

「それは……なんでだろう?」

 

「僕を助けたら、死んじゃうって……わからなかったの?」

 

「……わかってたと思う」

 

 勝手に言葉が出てきた。そのまま続ける。

 

「え……?」

 

「お兄さんはな。もう……親もいないし、思い出もないんだ。家も滅茶苦茶になっちゃって、もう住めない……全部無くしちゃったんだよ。だから……まだ無くしてないものがある君には、死んで欲しくなかったんだと思う」

 

「……僕だって、お父さんやお母さんいないよ?」

 

 そうだけど……それでもだ。

 

「でもさ。君はまだ小さな子供だろ? 俺みたいに重たい責任も持ってない……お友達ができるかもしれない、俺より強くなるかもしれないし、こうやって人を気遣える優しさもある。立派だよ……それに、奴の思い通りに事を進めさせるなんて、嫌だったから」

 

「……お兄さん、なんだか苦しそう」

 

「えっ……」

 

 子供特有の感性だろうか。俺の本質を突かれて、思わずビクッとしてしまう。

 

「笑ってるのに、死んでるみたい……本当に大丈夫?」

 

「そんなことはないよ……俺は元気さ! 例えそうでないように見えるとしても、明日には元気いっぱいになる!! 何たってお兄さんは無敵のヒーロー、雪村康太だからね!! 俺を信じろ、勇気くん!!」

 

「そう、かな……早く元気になってね? あと、これ……似顔絵書いたの。よかったら……じゃあね、お兄さん!」

 

 クレヨンで書いたと思わしき、似顔絵が置かれている。手に取ると……俺の絵と一緒に、字が書かれていた。

 

『お兄さんありがとう』

 

『ぼくのヒーロー ゆきむらこうたさんへ』

 

「……言えないよ。あんな現実知らなくていい……あんな子供が関わるべきじゃ、ないのに……」

 

 彼はもう、オルフェノクになってしまった。巻き込まれてしまったんだ……

 

「俺はどこまで行っても、普通の人間以上にはなれないんだな……」

 

 どうやっても、零してしまう命がある。それでもう、何人も取りこぼした。母さんも父さんも、あの人もこの人も……

 

「だけど、仇討ちくらいはしてやる……サイガも暁も、絶対に殺してやるよ」

 

 首を供えなきゃならない人達が、どんどん増えてゆく。自分の無力さに、ため息が出てしまった。

 

「はぁ……電話? もしもし……」

 

『……雪村くんかい? 私だ』

 

「学園長……サイガですか? それとも仮面ライダー? オルフェノク?」

 

 もう戦闘態勢だ。この会話も慣れたものだな。

 

『今回は違うよ。君のお父さんやお母さんの葬儀を行う準備が整ったそうだ……』

 

「え……お金は?」

 

『給料から差し引いておいたよ。そちらに請求書が行くことはない』

 

 そうか……ありがたい。家族葬だろうし、俺だけしか来ないだろう……

 

「ありがとうございます……場所は?」

 

『車椅子を持っていくから、それで移動してくれ。足を使うのはまずい……』

 

「わかりました」

 

 電話は切れた。しばらくすると、癒月先生が車椅子を持ってきてくれた。

 

「ちょっこーん、康太様……気分はどう?」

 

「お気になさらず、いい感じですよ」

 

「そう……じゃあ、乗ってくれる?」

 

 車椅子に乗って、後ろから押してもらう。いつも賑やかな学園は、静まり返ってしまっている。

 

「……さっさと財団Xを潰さないと、これがずっと続くことになる……」

 

「……ねぇ。康太様の趣味って、何?」

 

「え……急になんですか? そうだなぁ……昔はゲームや漫画だったけど……もう、読む気にもならないな」

 

 多分、感覚そのものが変わってるんだ。戦いってのは人格すらも歪み、二度と戻れなくなる程のダメージをその人に与える……俺もそうだからな。

 

「初めて見た時は、とっても元気そうな子だったのに……変わっちゃったわね……」

 

「仕方ないですよ。俺一人で済んでよかった、あやめも他の人達も……癒月先生だって、性格は変わりない」

 

「……あ、いつの間にか着いてたわね」

 

 ここに父さんと母さんがいるのか……車椅子で押されながら、葬儀場に入ると……二人の死体があった。父さんは真っ二つだし、母さんは体に大穴が空いている。

 

「この度は……ご愁傷さまです」

 

「どうも。あとは大丈夫なので、癒月先生は先に」

 

「じゃあ……ごゆっくり」

 

 二人の頬を撫でた……冷たい、完全に固まっている。顔は苦痛に歪んだままだ。

 

「約束だ。二人の願いは叶えるよ……例え、俺が死んでもな」

 

「失礼します。今回この葬儀を行わせていただく僧の者です」

 

「宜しくお願いしますね」

 

 そこからは……流れ作業。何一つ不思議なことなどなく、火葬場へと向かった。

 

「お墓はお祖父様やお祖母様と同じお墓で?」

 

「はい、お願いします」

 

「わかりました。では、そのように」

 

 骨だけになった二人が、骨壷に入れられて運ばれていく。二人の死は受け入れた……あとは、奴らを殺すだけだ……

 

「散々泣いたから……もう、泣けねぇな」

 

『笑ってるのに、死んでるみたい……本当に大丈夫?』

 

「……大丈夫さ。大丈夫じゃなくても、殺し合うだけだ」

 

 もしかして、心が死んでしまっているのかもしれないが……関係ないし、気にする必要もない。最後まで戦うのには必要のないものだ……

 

「ついでだ、カイザブレイガンを取りに行っておこう」

 

 あれがあれば、多少サイガへの勝率も上がるだろう。いつあいつが来るかはわからない……それに。

 

「大分痛い目に遭わせてやったし、あいつの口ぶりからして、俺がいるなら最優先で狙うのは俺になるはず……さっさと治れよ、俺の体」

 

 何回目かもわからない、自分の体への叱咤。そんなことをしても、治りが早くなるわけがないのだが……

 

「……お別れは済ませた?」

 

「はい。大丈夫です……あと、カイザブレイガンを取っていきたいので……俺の家の跡地に」

 

「わかった……回収しに行くのね」

 

 カイザブレイガンは、あそこで落としたはずだ。カエル野郎は殺したし……回収はまだのはず。そう思って向かってもらうと……案の定、落ちていた。

 

「……完全に崩れてるな」

 

「柱が壊れちゃってたみたい……修復は無理ね」

 

「見ればわかります……あれ?」

 

 瓦礫の下から、水が漏れている。あんなところに水道管あったか? 開けてみると……見覚えのある水筒があった。蓋が開いている……

 

「これは……水筒?」

 

「……スポーツドリンクだ……正気を失う前に、用意してくれてたのか……いつも用意してくれてたもんな」

 

「思い出の品ね……持って帰る?」

 

 持って帰るために、手を伸ばす。持ち上げた瞬間、ヒビだらけのそれは……バラバラに砕けてしまった。

 

「あ……まぁ、世の中そんなに甘くないですよね。帰りましょう。ここにはもう、何もない」

 

「……そうね。ここにいても辛いわよね……」

 

「さよなら、二人とも。次会うのは、奴を殺した後だ」

 

 そう呟いて、俺達は幸せな音も匂いも二度としない、家だった瓦礫を後目にその場を去った。

 

 

 

 時間は経って、二日後。お医者さんに、様子を見てもらったが……

 

「……また早くなったな。もう治ってる……大丈夫そうですね。運動を始めていただいて構いませんよ」

 

「ありがとうございました」

 

「修行するのよね? ……無理はしないように、って……いない!?」

 

 すみません、癒月先生。俺はさっさと強くならないといけないんです。重りをさらに増やして、70kmだ。

 

「ダァァァァッ!!」

 

 帰ってきたら……銃と剣の基本の練習をやり直して、秘伝書を図書室から取ってきた。剣の秘伝書だ。

 

「覚えられれば有利になるぞ……それぞれ『グレイトスラッシュ』、『サイクロンスラッシュ』、『ダッシュスラッシュ』か……さっさと覚えねぇとな」

 

 サイガを滅多切りにするためには、必須の技だ。奴は頭がいい……俺の動きを読んでくるはずだ。なら……予測できない、新技を使うしかないだろ。

 

「やり方は……構えはこうで、この状態をキープ……!!」

 

 次々にやっていく。仮面ライダーへの憎しみを燃料にして、集中力に変換する……

 

「サイ……ガァァッ!!」

 

 ……まずは成功、サイクロンスラッシュ……秘伝技の原理も不明なようだが、お伽噺では神様の贈り物だとか。俺は信じてないけどな……

 

「次……!!」

 

 御伽噺には、こんな話もあったな……昔は、秘伝書がなくても……努力をすれば、神様がプレゼントをくれていたらしい……プレゼントキャンペーンはおしまいか。そんなことを考えながら、こんなことを続けて……一週間くらいだろうか。トレーニングを終えた後……

 

「よし……使えるようになったな……」

 

 ずっと重りをつけたままで修行をしている……重さは今、50kgまで増やすことができた。

 

「これでも……フライングアタッカーには追いつけないけどな」

 

 人間がどれだけ背伸びしたって、ジェット機に走って追いつくなんて無理だ。奴はジェット機より速い、追いつくのは生物である限り無理だ。

 

「どうにかしてフライングアタッカーを壊さねぇと、勝負にならねぇ……」

 

 人質を取られないように立ち回らないといけないし、やることは山積みだ……それでも、俺が殺す。

 

「山崎、お前は今どこにいる……来いよ、殺してやるから」

 

 そう呟いた時……非通知で電話が来た。

 

「……誰だよ。もしもし?」

 

『よう、雪村康太……よくもやってくれたな、え?』

 

「山崎……貴様ァ!!!」

 

 切ろうとしたが、そこで奴が言った。

 

『おっと、待て……切っていいのか? お前の大事な女が死んでしまうかもしれんぞ?』

 

「なに……?」

 

『ハッハッハ、興味を持ったようだなぁ。私達の計画の一環として……襲撃場所が決まったんだ。お前にそれを教えてやることにした……襲撃は明日さ』

 

 何のつもりだ? 隠れてやった方がいいだろうに。

 

「罠か?」

 

『おぉ、そうだよ。罠さ……だけど、来なけりゃお前の大事な子が死ぬぞ?』

 

「その子は誰だ? 覚えがないが」

 

 俺が言うと……奴は驚きの名前を出した。

 

『百鬼あやめだよ。奴を狙わせてもらう……止められるなら、止めに来るといい……ただし、お前と一破だけでな』

 

「なに!?」

 

『もしも破った場合、今すぐに屋敷に仕掛けた爆弾を炸裂させる。奴らは木っ端微塵だ……俺達は殺せるだろうけどな。どうする?』

 

 ……どこまでも卑怯なヤツだ。

 

「卑怯な手ばっかり使いやがって……」

 

『なんとでも言え……私は会長と暁様のために死力を尽くすのみ。そのための犠牲になってくれよ』

 

「断る……覚悟しておけ、お前の命はねぇぞ!!」

 

 電話に向かって、叫ぶ。

 

『おー、怖い怖い……お前が二人以上で来たなら、その時点で発破する。電話は監視してある、知らせたり逃がすのも禁止だ。いいな……?』

 

「いいよ、テメェらの舐め腐った態度……今すぐに叩き潰してやる!!」

 

『その威勢を潰してやるよ、雪村……お前の死を知って悲しむ顔が楽しみだな? ハッハッハッハッハ……!!!』

 

 電話は奴の高笑いと共に切れた。兎も角、これを一破さんに知らせなければ。そう思って、俺は警察署へと急いで、一破さんを呼んだ。

 

「雪村さん……元気そうでなによりです」

 

「そちらこそ、怪我は痛くないですか?」

 

「私は平気です。奴の攻撃は少ししか食らっていませんし……それで、話というのは?」

 

 耳を貸してもらって、事情を話す。

 

「なっ……そん……むぐ!?」

 

「しーっ……奴らの脅しはハッタリじゃない。あやめを守るために……お願いします」

 

「……わかりました。準備をしてきます、少しお待ちを」

 

 二人一緒に袋叩きにしようって魂胆だろうが、そうはいくか。今から幽世の方に行って、監視してやる。

 

「僕は準備OKです」

 

「私も……できる限りは。役に立つかは疑問ですけどね」

 

「というか、態々あやめを襲うなんて……何の目的があるんでしょう?」

 

 それはわからないけど……とりあえず、行くしかないよな。

 

「あやめさんより、雪村さんを襲ったほうがいいような気もしますけどね……」

 

「でも、とりあえず行きましょう。あやめに何かさせるわけにはいきません」

 

「そうですね……市民を守るのが私の使命。ライダーが相手なら、行かないわけにはいきませんから」

 

 幽世はワープゲートを使わないと行けない。あやめの住んでいる場所は日本との行き来が自由だから、行って大丈夫だ。

 

「行先、幽世……用意はいいですか?」

 

「私はとっくにできていますよ」

 

「僕もです……!!」

 

 準備が完了されて、目の前の景色が一瞬で変わる……幽世に来るのは初めてだな、テレビで見たことはあるけれど。角が生えている人もいる、あやめと同じ鬼人だと思う……一破さんを見てみると、メモを取っていた。

 

「今のところ、異常なし……と」

 

「そんな目立つところに仕掛けてないと思いますよ? 今日はここに泊まり込みましょう、僕がお金を出すので」

 

「いや、そんな……悪いですよ」

 

 俺が言って連れてきたんだ、当然だろう。お金貰ってよかったな……

 

「大丈夫です、もう予約してあるので。僕のわがままで連れてきたんですから……」

 

「そうですか……じゃあ、お言葉に甘えようかな」

 

「人間様? 何してるの?」

 

 後ろを振り向くと……噂をすれば何とやら、あやめがいた。

 

「うおぉぉっ!?」

 

「なんでそんなに驚くの!?」

 

「いや……ごめん、いきなり話しかけられたから……」

 

 一破さんは初対面だな。さて、どう誤魔化そうか……

 

「私は一破誠二と申します。以後お見知り置きを」

 

「余は百鬼あやめだ余! よろしくね、人間様! それで今日は何をしに来たの?」

 

「……息抜きの旅行にね。友達と一緒に……ですよね? 一破さん」

 

 そう言うと、一破さんも反応してくれた。

 

「あ……そ、ソウデスネ。イ、イキヌキノ、リョコウニ……」

 

「ロボットかっ!! 一破さん、しっかりして!!」

 

「え!? なんでそんな片言!?」

 

 ヤバい、怪しまれている。どうにかしないと……

 

「こ、この人すごい人見知りでさ……人を前にすると、あがっちゃうみたいで……ね、一破さん!?」

 

 頭を持って、無理矢理縦に振らせる。

 

「そうなんだ……ごめんなさい、人間様。知らなくって……」

 

「なぁ、あやめ……人間様だとどっちかわかんないからさ、俺は康太って呼んでくれない?」

 

「あ、そっか……じゃあ、康太様! 幽世を案内する余、着いてきて!」

 

 とりあえず今は、固まっている一破さんを何とかしないと……

 

「ちょっとこの人どうにかするから、待っててね!?」

 

「え……あ、うん?」

 

「一破さん……何やってるんですか!?」

 

 無理矢理起こすと、元に戻った。

 

「はっ……しまった、私は嘘がつけないんだった……」

 

「致命的じゃないですか!! どうするんです!?」

 

「と、とりあえず……会話の方は雪村さんに任せます」

 

 ダメだこりゃ……

 

「わかりましたよ……先に言っといてくださいよ、そういうのは」

 

「はい……ご迷惑おかけしました」

 

「お待たせ、あやめ! 案内してくれよ!!」

 

 演技モードだ。頑張るぞ……

 

「うん! 康太様、人間様! 着いてきて!!」

 

「そういえば、あやめ。聞いときたいんだけど、明日は家で何かイベントがあったりするか?」

 

「え? 確か……明日は恒例の、親睦を深めるためのパーティーを行うらしいけど……どうかした?」

 

 ……それが狙いか。山崎め、権力者をまとめて殺すつもりだな!?

 

「いや、なんでもないんだ……一破さんは避難誘導をお願いします」

 

「それなら得意分野です、任せてください」

 

「到着だ余! これが幽世名物、不死吹雪!」

 

 綺麗な桜……お花見してる人もいる。

 

「季節外れですね……今は夏のはずですが」

 

「幽世の桜は特別でね。両端に桜の木があって、それが時間を置いて、ゆっくりゆっくり咲くの……だから年中咲いてる。散っても散っても、いつまでも桜吹雪が吹き続ける。だから……不死って呼ばれてるんだ余」

 

「なるほど……それにしても、綺麗な桜だな」

 

 お気に入りの場所なのか、すごく優しい顔をしている……

 

「康太様もそう思う? 昔から……ここで鍛錬したり、業や不知火と遊んだり……その時もずっと桜が吹いてた。疲れたら、それを見てひと休みして……懐かしいなぁ」

 

「……案内してくれるんだったよね、次行く?」

 

「あ、そうだった! 行こう!! 余が眺めのいい場所、知ってるんだ!!」

 

 それから……連れて行ってもらったのは、山の上だ。

 

「おぉ……!」

 

「青い光は鬼火。現代じゃ見れない余?」

 

「すごい……こんなすごい夜景、見たことがない」

 

 鬼火があたかも蛍のように、光ったり消えたりしている。

 

「でも、どうして俺達をここに?」

 

「だって……友達、でしょ? それだけじゃダメ?」

 

「……こんな子を巻き込むなんて……」

 

 一破さんが、小さく呟いた。俺も同じ気持ちだ、絶対許せない。

 

「そうだな、友達だよ。それだけで十分だ」

 

「うん! そろそろ時間だから、余は帰るね?」

 

「あぁ、またね!!」

 

 明日会うことになる。絶対に殺させはしない……覚悟しろ、山崎!! 激情を燃やしながら、あやめに手を振った。それから、ホテルに泊まってご飯を食べて……

 

「部屋は違うし……ここで一旦お別れですね」

 

「おやすみなさい、一破さん」

 

「また明日……頑張りましょう」

 

 お風呂に入ったら、早く寝よう。明日は大変なことになる……被害拡大を防がなければ……一通り終えて、ベッドに入る。

 

「……おやすみなさい」

 

 誰に言うでもなく……もう、言う人がいないその言葉を呟いて、俺は眠りについた。明日の戦いを想像しながら……




 次回決戦です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。