お待たせしました。
「……」
真っ暗になった後、ずっと俺は『落ちて』いた。どこに落ちるのかはわからない、だけど……落下しているんだ。それだけはわかる……その理由もわかってる。
「あやめ……柊真さん、百合香さん……父さん、母さん……ごめんよ」
何度謝っても、足りない。俺が無力なせいで……あやめや父さんに母さんは死んだし、柊真さんや百合香さんは意識不明。俺のせいだ……
「俺は……どれだけ修行しても……」
所詮は人間。その事実がのしかかる……手を伸ばしても届かない物や命が多すぎるのだ……目の前にあるものすらも、掴もうとした瞬間に無くなることがある。諦めたくないのに、諦めの感情が浮かんでくる……その方が楽だから、だろう。
「諦めてたまるか……って、言いたいけど」
立ち上がろうとしても、落ちているのでは立てない。踏みしめる地面がないのだ……そもそも、俺は何故ここに来てしまったんだ? 曖昧な記憶を必死に辿る。
「……そうだ。何のために戦うか、わかってなかったんだよな」
二人には最後まで戦えって言われた。最後まで戦うために最後まで戦うんじゃ、意味が無い……
「俺の目的は……復讐、かな?」
いや、違う気がする……無論、それもゼロではないけれども。憎しみはあるし、それに従って復讐心もあるのだ……
「……みんなを守るため、か?」
きっとそうだ。日常を奪い去り、命をゴミのように扱う輩が許せないんだ……復讐心や憎しみはそれからきているんだろう。だけど……
「誰も守れてないよな、俺」
幾ら沢山の敵を殺せたって、勝利したって……罪のない人の死体がそこらへんに転がってるんじゃ意味がない。虚しいだけじゃないか。
「俺は何をやってるんだ……?」
昔からそうだ。あの時も、俺が弱すぎたから……殴られたし、あの人に怖い思いをさせた。それが嫌だから、必死で……死に物狂いで努力したのに……
「その結果がこれかよ……」
報われないことも知らず、汗水を流して血反吐をぶち撒けて……俺は相変わらず無力なまま。仮面ライダーを何人殺しても、オルフェノクを何人灰にしても……目の前の人に手が届いてないんじゃ、意味が無い。
「あやめ……俺を恨んでるかな?」
恨んでいてくれた方がいい……俺は目の前のあやめを助けられなかった。死んでしまったのに、それを笑って許されたら……どんな言葉を言えばいいのか、わからないから。
「もしかしたら……これが罰なのかな」
暗闇の中を落ち続けることが、罰。死ぬことすらできないまま……
「それなら仕方ないな……落ちよう」
抵抗することはあやめや柊真さん、百合香さん……何より、父さんと母さんへの侮辱になる。囚人が鉄格子を握りしめて出せと叫んでも、滑稽でしかないように。そう思って、俺は……目を閉じて、落下に身を任せた。
百鬼あやめが殺害された。その事実は……学園や先生達、そして当事者の雪村康太にも……重くのしかかっている。会議室は重い空気に包まれていた。
「……クソッ!! 先生がいる意味は一体何だ……!? これじゃ、私達のいる意味がゼロじゃないか!! 私達先生は生徒を導いて、守るための存在なのに!!」
「人々の頼みの綱である雪村くんは戦闘不能。私達も、戦闘で疲労している……最悪の状況だと言わざるを得ないね」
「雪村くんの思考力や機転は常人以上だ。だが……財団Xは、その上を行ってきている」
世論は一気に敗北を確信し、諦めの色が日に日に強くなっている。最早、抵抗しても……無駄だと思っているのだろう。当然の話だ、普通なら人がどう足掻いても勝てるはずのない相手……希望は倒れてしまったし、最早逃げるしか方法がないのだ。
「彼には早急に目覚めてもらいたいんだが……そう都合よくはいかないだろうね。特に精神ダメージが酷い」
「あやめ様を殺されたショックを味わっているのは、私達だけじゃない。康太様は特に……あやめ様とは友情を築いていたし、喧嘩しちゃって仲直りもできないままで……当然よ」
「敵は人の心がないのか……!? 本当に何を考えている!?」
生徒を失い続ける鷹嶺先生が、歯を食いしばって手を強く握った……それに対して、学園長が答える。
「ないだろうね。間違いなく……そもそも、人かどうかも怪しい。オルフェノクかもしれないし……別の何かの可能性もある。やった理由は精神ダメージのためだろう、事実成功しているわけだし……」
「それに……どうして、あやめ様の死体まで? 鬼の細胞が欲しいだけなら、他の鬼人でもいいはずなのに」
「わからない……不明点がとにかく多すぎる。雪村くんでも、本拠地の場所はわかってないんだからね」
財団Xとライダー、そしてオルフェノク。突如現れ、この世界を蹂躙し始めた謎の超人達。それへの対抗策は雪村康太一人のみ……今、その男は度重なる喪失と精神ダメージによって、意識を失っているのだ。
「お願いだから……早く起きてくれよ、雪村くん……私達には、君が必要なんだ」
「彼は功績を上げすぎた……日本中の……いや、全ての人々の希望が雪村くんになってしまっている」
「こんなことになっちゃうなんて……悪夢なら覚めてよ……」
ある者は泣いた。ある者は歯軋りで憤りを露わにしていた……そんなことは知る由もなく、雪村康太は闇の中に沈み続けている……
「兎も角、今やるべきことは二つ。医療機関の復旧と、財団X本拠地の場所解明だ」
「医療機関は時間があればどうにかなるけど……財団Xは、どうやっても……」
「そうだね……ここでずっと話を続けても仕方がない。今日は一旦解散しよう」
先生達が解散し、鷹嶺ルイが雪村康太のいる場所へと来た。雪村康太が罪悪感によって、落下を続けているとも知らずに。
「失礼します、雪村くん……起きてはないね」
「……」
「いつもなら元気な返事が帰ってくるところだけど……やっぱりダメか」
鷹嶺ルイが雪村康太の隣の椅子に座る。鷹嶺ルイの目には、そうであって欲しい光景が浮かんでいた……
『こんにちは、鷹嶺先生! 僕は大怪我しましたけど、いつも通り無駄に元気ですよ!!』
「……そんな君はもういないんだね。頑張って明るく振舞おうとしてたみたいだけど……わからないわけないだろ? なんたって鷹だし……」
「……」
ノリのいい言葉はない。みんなを笑顔にする明るさはない。
「そりゃあ、ショックだよね……何の罪もない人々を次々殺されて、唯一の両親を失った上……追い討ちをかけるように守ろうとしていた人と、大切な友達を失ったんだ」
「……」
「こうなるのは当然の帰結……なぁ、雪村くん。君は今どんな気持ちでいるんだい? 悲しい? 苦しい? 財団Xが憎い? 教えてくれよ……」
返事はない。雪村康太に、その言葉は届かない。
「……」
「君が諦めてしまったら、誰がみんなを救うんだい? 仮面ライダーを倒せるのは君だけなんだよ……」
「失礼します……鷹嶺さんもいたんですね」
来たのは一破誠二だ。この男も雪村康太に用があるらしい……
「一破さん……あなたも?」
「はい……やっぱり、雪村さんは寝たままですか」
「そうですね……何を言っても、反応がありません」
一破誠二は、いつになく暗い顔をしている。
「……雪村さん。警察すら、抵抗を諦めている節があります。財団Xの捜査は結果が出ないからと打ち切られてしまいました……奴らはどこにいると思いますか?」
「……」
「何とか言ってくださいよ……ガルーダコーポレーションの時は、私も驚きました。あなたの発想力は財団Xを上回る武器になる……力を貸してください」
その嘆願は、雪村康太に聞こえることはない。意識が戻ることもない……
「無理だよ……あんなことがあったんだ。すぐ立ち直れって方が無茶さ」
「ですよね。両親を失っても、どうにか自分を奮い立たせて、戦いを続けていたのに……大事な友人の喪失を受けては、こうなるのも無理はないか」
「だけど、雪村くんがいないと……すごく困る」
それを受けて……二人が考え始めた。
「シザースの情報を受けた時……私も最初は、耳を疑いましたよ。パンチ一発で強化コンクリートが砕け散る強化装甲に、人間を喰らう生物なんて……」
「だけど……本当だった。武器も盾もどこかから飛んできたと思ったら、軽々振り回して人の命を奪う。化け物より恐ろしい……」
「それに勝ってみせたのが……雪村さんだったんですね」
決して被害が少なかったわけではない。雪村康太自身も、見つかった時は死にかけだった。それでも、結果は勝利……世界を手に入れられる強化装甲『仮面ライダーシザース』は、一人の人間の前に敗れ去ったのだ。
「はい。だからこそ……私は、それに追いつけるように努力している。雪村康太くんは私の生徒です……本来、私が守らなきゃいけないんだから」
「それは私も同じですよ。私は警察官です……一般の市民である雪村さんは、私達警察が守り……平穏な生活を送らせなければならない」
「だけど、今はこうして雪村くんに頼るしかない。無力ですね……私達は」
無力感と罪悪感は、決して雪村康太だけのものではない。この場にいる二人も、他の先生達も学園長も……全員が味わっているものだ。
「……私はそろそろ、帰りますね。私だけでも財団Xを探します……諦めてたまるか」
「私はしばらく……ここにいることにします。私がベルデにやられた時は……自分が大怪我してるのに、雪村くんは必死になって止めに来てくれた。そんな手のかかるお人好しな生徒だから……起きた時、面倒を見てあげないと」
「そうですね……雪村さんをずっと一人にしたら、どんな無茶をするかわかりません。雪村さんはお願いしますね、鷹嶺先生」
笑いながらそう言って……一破は財団Xを探しに行った。
「雪村くん……君の力が必要なんだ。だから頼む、目を覚ましてくれ……いつもみたいに、思いつかないようなアイデアをくれよ……」
「……」
「君にしかできないことがあるんだ……寝坊してると、あやめちゃんも怒っちゃうよ? 『早く仇を討って余!』って……」
呼びかけても、返事はない。それでも……雪村康太が反応しそうな言葉を、鷹嶺ルイはずっとかけ続けた。
一方その頃、今井のいる財団X日本支部にて。今井が倫理観のない指示を部下達に出していた。
「……そこの記憶は消去しろ。その記憶は改竄だ」
「了解しました」
「今井様、暁様からお電話です」
今井に専用の機械が手渡される。ビデオ通話用の物だ。今井がスイッチを押すと、空中に映像が投影された。
『私だ、今井。百鬼あやめの改造は順調か?』
「はい……それはもう、順調ですよ。オルフェノク因子の影響もきちんと出ているし、記憶の改竄や消去も順調です」
『それならいいんだ……開催場所はお前の会社だからな、準備はできているか?』
今井は笑ってそれに答えた……その顔には余裕が滲んでいる。
「もちろん、真っ先に準備してありますよ。当然でしょう? あそこはどうせダミー、壊れても大丈夫です……書類や不良品の隠滅と破壊もできて一石二鳥!」
『フッ、抜け目のないお前らしいな……』
「そういえば……何故、せっかく兵士にした百鬼あやめを廃棄なされるのですか? 幾ら体に負担をかけるとはいえ、修理すればまだ使えるような……」
人を物としか考えない、狂気の価値観。それに対し、暁が答えた。
『普通に考えるなら、そうだな。だが……前も言った通り、この世界にはライダーの世界と同様の世界法則がある。ライダーの世界と同一と考えるなら、百鬼あやめは何れ……記憶が戻ってしまう可能性がある。それこそ、『園田真理』のようにな……万が一そうなってしまえば』
「忌々しいライダーをこの世界でも敵に回すことになるわけですか……」
『あぁ。そんなリスクを負ってまで、危険因子である百鬼あやめを利用し続けるよりも、危険因子を確実に二匹排除する方がいい……異論はあるか?』
人の人生を弄び、散々利用した後は殺処分する。何の感情もなく、ただ会長の邪魔になる危険因子とライダーの排除のみを考える暁と今井。
「いいえ、ございませんよ……確かにライダー共はそういうことをやる。忌々しい原初のライダー、『五代雄介』と『クウガ』も……自己の精神力と受け取った言葉を使い、凄まじき戦士の力を自分の物にしましたし……」
『あぁ。同じ失敗は絶対にしない、ライダーと同じような奴らが相手なら尚更な……我々の目的は飽くまで会長の理想を叶えること。それ以外は考えるなよ……』
「はい、全ては会長のため……ライダー殲滅のため!! 我々はそのために生まれ、存在しているのですから!!」
暁が笑みを零して、通話が終了した。そこで手術室のランプが消える。
「今井様、改造は無事終了しました。生命レベルは標準値まで回復し、脳波も正常です」
「よし、デモンズスレートを点滴で投与しろ。百鬼あやめを完全に戦闘マシンにする……急げよ、約束を違えるわけにはいかん」
「承知いたしました、今井様。早急に準備を始めます」
研究員達が目まぐるしく動き回る……手術用の薄い服を着て、眠り続けるあやめを見て……今井が狂気の笑みをまた浮かべた。
「せいぜい利用されてくれよ? 百鬼あやめ……我らの愛しい会長のために死ねるんだ。ありがたく思えよ? クヒャヒャヒャヒャ!!」
「今井様、準備完了しました」
「早速投与しろ。私は色々とやらなければならんことがあるからな……ちゃんとやっておけ」
そう言って、今井は部屋を出ようとした……のだが。今井の服の中に、突然青い光が潜り込んだ。
「熱ッ!? なんだ!?」
「……鬼火か? 怒っているようですが」
「チィッ……人間でもない、ゴミの分際で!! 図に乗るなよ!!」
今井にオルフェノクの模様が浮かび上がり、姿が変わる。スパイダーオルフェノクだ。
「あ、逃げた……」
「逃がすかァ!!」
「吹っ飛んだな……瀕死のようですが、どうします? とどめを刺しますか?」
研究員が聞いたが、今井が人間態に戻りながら言った。
「殺すなり放るなり好きにしろ、私は機嫌が一気に悪くなった……酒を飲んでくる!!」
「あ、はい……」
「はぁ……それはそれとして、明日は楽しませてくれよ。百鬼あやめ……危険因子が自分の手で仲間を殺めるのが今から楽しみだ!! 今日は一足早く祝杯といこうかな!! クヒャヒャ、ヒャヒャヒャヒャ……!!!」
今井の嗤いが、全てを壊していく。あやめの人格も、大切な思い出も……何もかも。
「……ん?」
落下が止まった。あんなに落ちたのに痛みもなかったし、骨も折れていない……
「地面……だよな」
ここが終着点と見てよさそうだ……真っ暗なのは変わんないなぁ。
「それにしたって殺風景だ……ここはどこなんだ?」
地獄? もしかして過労死したのか? それは勘弁して欲しいんだが……
「ここがあの世なら……父さんや母さんに会えるのかな」
会えるなら、教えて欲しい。最後まで戦えってどういうことなんだ? 仮面ライダーを全滅させればいいのか? それとも……
「なぁ、教えてくれよ……ん?」
足元に何か硬いものがある……ガラス片のような物だ。透明で……暗闇なのに光っている。
「沢山あるぞ……?」
もう一つ拾い上げると、自動的にくっついた。これは何か……大事な物なのか?
「これも、これも……すごい量だ」
次々にくっつけて、一枚の板にしていく……
「板になった、けど……浮いた!」
ふわふわと浮いて、板が何かを映し出した。これは……
「父さん、母さんっ……!!」
手を伸ばしても届かない、それでも……二人だ。その隣には……小さい頃の俺がいた。
『パパ、ママ! あそんで!!』
『よし! サッカーやるか!!』
『怪我しないようにね?』
外に出て、サッカーボールで遊んでいる……
『将来康太は何になりたい?』
『そうだな~……誰かのために頑張れる人になりたい!!』
『よし、それなら強くならないとな!!』
こんなこともあったな……すっかり忘れていた。次の思い出がすぐに現れてくる……
『いだっ!!』
『あ、転んじゃった……大丈夫?』
『痛いか、康太?』
顔面から思いっきり転んだ、これは痛い……
『痛く……ないもん……!!』
『無理しないでいいんだよ?』
『僕は強くなるんだ! これくらいで泣いてたら、強くなんてなれないよ!!』
忘れていた記憶が、どんどん掘り起こされてゆく。
「昔は純粋だったんだな……現実を知って、あんな弱いやつになったのか」
『強いなぁ、康太は!』
『そうかな? えへへ!!』
次の思い出が、また映る。
『ほら、頑張れ! 筋トレは走るのが一番だ!!』
『これで……はぁ、はぁ……強くなれるの?』
『あぁ! 自分を信じて努力すれば、絶対強くなれる!! どんな人でもな!!』
努力した俺は、昔より強くなれているだろうか?
「強くたって……誰も守れなかったら、意味ないだろ……」
『じゃあ、もっと頑張らなきゃ……!!』
『その意気だ!!』
また、思い出が移り変わる。これは何の意味があるんだ? 今度見た俺は、少し大きくなっていた……怒られている?
『な、何すんだよ親父……!!』
『一度決めたことを曲げるな!! 勉強するんだろ!?』
『なんでそんなに拘るんだ!? 関係ねぇだろうが!!』
反抗期だったな、この時は……ぶん殴られたらしい、顔が凹んでる。
『男は一度決めたことは絶対にやらなきゃならない!! あと、約束も絶対に守らなきゃいけない!! それを破るなら……お前でも許さん!!』
『畜生……!!』
『いいか、よく聞け。一度決めたことがあるなら、その目的は絶対に果たすんだ……自分で決めたこともできないような奴は、何もかもできなくなっていく。最後までそれのために……戦え!!』
……似てるな。あの時の言葉に……俺の目的のため、か。
「それが果たせてないんだ……父さん、母さん……誰一人守れない……手を伸ばしても届かない。どうしたらいいと思う?」
『……わかったよ』
『それでいい……やり遂げて見せろ』
俺の言葉に応えるように、場面が変わる。まだ若い俺が悔しそうにしている……
『クソッ!! また点数が低い……授業では恥かくし、初恋は実らねぇし……はぁ、最初から何もしない方がいい気がするな』
『そうとは限らんぞ、康太』
『父さん……?』
笑いながら、父さんは言った。
『お前は努力するってどういうことだと思う?』
『そりゃあ……適切なことをすることだろ? 勉強なら、毎日勉強することだし……スポーツなら、運動することだし』
『そうだな。だけど……大事なものが抜けてる』
大事なもの? 何のことだ?
『……大事なものって、なんだ?』
『失敗さ。努力するってことは、失敗するってことなのさ』
「……!?」
思い出した……言われていたんだ。父さんに……
『失敗? 失敗しちまったら、何かを失うじゃねぇか』
『確かにそうだな……だけどな。リスクも背負わねぇ奴に願いは叶えられない。何のリスクも背負いたくないなんて、そんな情けない考えのまま成功しようなんて思うなよ』
『……それが取り返しのつかないものでもか?』
次々、思い出が蘇ってくる。
『あぁ、そうだ。取り返しのつかない失敗をするような奴は、いつか絶対にヤバいことをやる。だから……まともになる努力をしなきゃならない。そのために小さな失敗……悪ガキの悪ふざけをやって、こっぴどく叱られる。それで反省して、殆どの奴はしなくなるんだ……人間には失敗が必要不可欠なのさ。人間は絶対に悪いことをしちまう、だから、親父の拳骨があるんだよ』
『……!!』
『よく覚えとけ。『絶対に失敗したくない』『リスクを背負いたくない』なんて言葉は、努力ができない奴の言葉だ!! 努力家なら失敗しろ!! リスクを背負い、その上で行動しろ!! リスクを背終えて、失敗ができるから努力家はみんなに賞賛されるんだ。わかったか?』
全部、思い出した。あったじゃないか……頭の中に、解決策が。
「……ここで沈んでたって、父さんや母さん、それにあやめが戻ってくるわけでもない。柊真さんや百合香さんが目覚めるわけでもない。誰一人幸せになれないだけだ……だからこそ、反省して……リスクを背負って、行動しなきゃならないんだよな」
わかったよ、父さん。母さん……ありがとうね。ここはきっと……俺の心の底なんだ。悩む俺に応えて、思い出を引っ張り出してくれた。サンキュー、俺……助かったよ。
「決めた。もう一回戦う、今度こそ誰も零してやらない……絶対に守ってやる」
ここから出るために、見えない壁を殴りつけた。バラバラに崩れて、光が見える。
「行くか……」
やってやるさ……あやめの仇、父さんと母さんの仇、柊真さんに百合香さんの仇……他の人の仇も、全部まとめて討ってやる。
「覚悟しろ、暁!!」
……起きてみると、誰かの声が聞こえる。この声は……鷹嶺先生だろうか。
「なぁ、雪村くん……頼むから起きてくれよ。このまま君が起きなかったら、あやめちゃんも泣いちゃうよ? 優しいあやめちゃんのことだから、もう……」
「それは困りますね……女の子を泣かせたら、犯罪者になっちゃいます」
「……え?」
鷹嶺先生がフリーズした。そりゃそうだろう、これまでずっと寝てた奴が急に起きたら、誰だって驚くさ。
「遅れてすみません。思いっきり遅刻しました……」
「……本当に遅かったね。君にしては珍しいほどに……」
「いや、申し訳ない……ここから挽回しますので、どうかお許しを」
起き上がって、言う。体は治ってるな……よく寝たからかな。
「それで構わないよ、私はね……!」
「状況が良くないのはわかってます……今すべき行動は?」
「とりあえず、学園に向かおう。学園長が話があるらしくて……」
なら、早く向かおう。
「善は急げです、早く向かいましょう」
「わかった。じゃあ、今すぐ行こうか」
「よし……体は動くな」
軽く準備運動をして、先生と一緒に走る。
「学園は大丈夫ですか!?」
「今のところはね……!!」
「なら、よかった!」
学園に着いて、学園長室の前に立つ。
「学園長。私です……」
「入りたまえ」
「失礼します」
俺も一緒に入って、顔を見せる。すると……学園長は目を丸くした。
「……随分目覚めるのが早いんだね」
「遅い方がよかったんですか?」
「いや……流石だ。君に大事な話があって、呼ばせてもらった。座って欲しい」
椅子に座って、用意されていたお茶を飲む。相変わらず熱い……
「Aさんもお久しぶりです」
「私も心配してたんですよ?」
「ありがとうございます……でも、もう心配いりませんから」
学園長が、いつになく真剣な顔だ。
「……仮面ライダーが信仰の対象になっているのは、知っているよね?」
「もちろん。それのせいでみんなが諦めてたり、暴動になりかけてるわけでしょ?」
「ハッキリ言わせてもらうと……今の警察には、財団Xと仮面ライダー信仰の暴動を同時に処理する力がない」
そりゃあそうだ……できるはずがない。
「まぁ、そうですよね」
「だが……いつ起きるかわからないのが現状で、悩みの種が二つもある状況なんだよ。でも……唯一、どうにかできるかもしれない方法がある」
「あるんですか!? 教えてください!!」
俺にやれるなら、すぐやろう。やってみせるさ……
「単純さ。信仰しなくても大丈夫だと、みんなに示す。君が仮面ライダー相手にまた勝利を収めて……それを大々的に報道することで、信仰より強い安心を与えるのさ。そうすれば必然的に狂信は自然消滅する……それができれば苦労はしない、ってところだろうけどね」
「それでもやりますよ。方法はそれしかないんです」
「相手も対策をして来てる……だから、君にはそれすら掻い潜ってもらわなきゃならない。でも……君ならできるって、思えるんだ。やってくれるね?」
お願いじゃない、これは指示だ。俺はそれだけ信頼に足るということ……名誉なことじゃないか。
「もちろん、喜んでお受けします。命を懸けて遂行しますよ」
「ありがとう……君はもう、立派な戦士だね」
「僕はまだまだですよ。でも……成長することならできます」
成長しなきゃならない。プラスプラスで上がってやるさ……
「期待しているよ、雪村康太くん」
「絶対にやります。期待していてください」
「心強いね……」
心強い存在でなきゃならないんだ……俺はみんなの頼りなんだから。
「……雪村さん、ここにいましたか!!」
「一破さん……おはようございます」
「起きてくれて嬉しいですよ……ですが、今はそれよりも! この子達が……」
一破さんの手の中には……酷く弱っている業と不知火がいた。
「業!? 不知火も……どうした、酷い怪我だぞ!?」
「二人が紙に文字を書いてくれたんです。読んでください」
「これは……!!」
そこには、衝撃の真実が書かれていた。あやめは生き返らせられたことや、今井という男が非人道的な改造を施したこと……あと、明日今井が『ショー』をしようとしていることも。
「……というわけです。財団Xの場所までは、必死で逃げたので覚えていないようですが……」
「十分だ……ありがとうな……疲れたろ? 寝てるといい」
「眠ってしまった……相当疲れていたんだな」
情報は手に入った。あとは……明日に備えるだけ。
「そうとわかれば、明日に備えて準備をしなければ……本部に行ってきます」
「ホロライブ学園も全力で協力するよ。百鬼さんが生きているなら……助けないとね。やってくれるかい?」
「もちろん。絶対に助けますよ」
待ってろ、あやめ。絶対に助けてやるからな……そう思って、拳を握りしめた。他でもない、今井への恨みをたっぷり込めて。
そろそろ反撃します。