※この作品はR-18です。

仮面を被った、人間達の英雄譚   作:とも667

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 お待たせしました。


燃ゆる意思

「……」

 

 真っ暗になった後、ずっと俺は『落ちて』いた。どこに落ちるのかはわからない、だけど……落下しているんだ。それだけはわかる……その理由もわかってる。

 

「あやめ……柊真さん、百合香さん……父さん、母さん……ごめんよ」

 

 何度謝っても、足りない。俺が無力なせいで……あやめや父さんに母さんは死んだし、柊真さんや百合香さんは意識不明。俺のせいだ……

 

「俺は……どれだけ修行しても……」

 

 所詮は人間。その事実がのしかかる……手を伸ばしても届かない物や命が多すぎるのだ……目の前にあるものすらも、掴もうとした瞬間に無くなることがある。諦めたくないのに、諦めの感情が浮かんでくる……その方が楽だから、だろう。

 

「諦めてたまるか……って、言いたいけど」

 

 立ち上がろうとしても、落ちているのでは立てない。踏みしめる地面がないのだ……そもそも、俺は何故ここに来てしまったんだ? 曖昧な記憶を必死に辿る。

 

「……そうだ。何のために戦うか、わかってなかったんだよな」

 

 二人には最後まで戦えって言われた。最後まで戦うために最後まで戦うんじゃ、意味が無い……

 

「俺の目的は……復讐、かな?」

 

 いや、違う気がする……無論、それもゼロではないけれども。憎しみはあるし、それに従って復讐心もあるのだ……

 

「……みんなを守るため、か?」

 

 きっとそうだ。日常を奪い去り、命をゴミのように扱う輩が許せないんだ……復讐心や憎しみはそれからきているんだろう。だけど……

 

「誰も守れてないよな、俺」

 

 幾ら沢山の敵を殺せたって、勝利したって……罪のない人の死体がそこらへんに転がってるんじゃ意味がない。虚しいだけじゃないか。

 

「俺は何をやってるんだ……?」

 

 昔からそうだ。あの時も、俺が弱すぎたから……殴られたし、あの人に怖い思いをさせた。それが嫌だから、必死で……死に物狂いで努力したのに……

 

「その結果がこれかよ……」

 

 報われないことも知らず、汗水を流して血反吐をぶち撒けて……俺は相変わらず無力なまま。仮面ライダーを何人殺しても、オルフェノクを何人灰にしても……目の前の人に手が届いてないんじゃ、意味が無い。

 

「あやめ……俺を恨んでるかな?」

 

 恨んでいてくれた方がいい……俺は目の前のあやめを助けられなかった。死んでしまったのに、それを笑って許されたら……どんな言葉を言えばいいのか、わからないから。

 

「もしかしたら……これが罰なのかな」

 

 暗闇の中を落ち続けることが、罰。死ぬことすらできないまま……

 

「それなら仕方ないな……落ちよう」

 

 抵抗することはあやめや柊真さん、百合香さん……何より、父さんと母さんへの侮辱になる。囚人が鉄格子を握りしめて出せと叫んでも、滑稽でしかないように。そう思って、俺は……目を閉じて、落下に身を任せた。

 

 

 

 百鬼あやめが殺害された。その事実は……学園や先生達、そして当事者の雪村康太にも……重くのしかかっている。会議室は重い空気に包まれていた。

 

「……クソッ!! 先生がいる意味は一体何だ……!? これじゃ、私達のいる意味がゼロじゃないか!! 私達先生は生徒を導いて、守るための存在なのに!!」

 

「人々の頼みの綱である雪村くんは戦闘不能。私達も、戦闘で疲労している……最悪の状況だと言わざるを得ないね」

 

「雪村くんの思考力や機転は常人以上だ。だが……財団Xは、その上を行ってきている」

 

 世論は一気に敗北を確信し、諦めの色が日に日に強くなっている。最早、抵抗しても……無駄だと思っているのだろう。当然の話だ、普通なら人がどう足掻いても勝てるはずのない相手……希望は倒れてしまったし、最早逃げるしか方法がないのだ。

 

「彼には早急に目覚めてもらいたいんだが……そう都合よくはいかないだろうね。特に精神ダメージが酷い」

 

「あやめ様を殺されたショックを味わっているのは、私達だけじゃない。康太様は特に……あやめ様とは友情を築いていたし、喧嘩しちゃって仲直りもできないままで……当然よ」

 

「敵は人の心がないのか……!? 本当に何を考えている!?」

 

 生徒を失い続ける鷹嶺先生が、歯を食いしばって手を強く握った……それに対して、学園長が答える。

 

「ないだろうね。間違いなく……そもそも、人かどうかも怪しい。オルフェノクかもしれないし……別の何かの可能性もある。やった理由は精神ダメージのためだろう、事実成功しているわけだし……」

 

「それに……どうして、あやめ様の死体まで? 鬼の細胞が欲しいだけなら、他の鬼人でもいいはずなのに」

 

「わからない……不明点がとにかく多すぎる。雪村くんでも、本拠地の場所はわかってないんだからね」

 

 財団Xとライダー、そしてオルフェノク。突如現れ、この世界を蹂躙し始めた謎の超人達。それへの対抗策は雪村康太一人のみ……今、その男は度重なる喪失と精神ダメージによって、意識を失っているのだ。

 

「お願いだから……早く起きてくれよ、雪村くん……私達には、君が必要なんだ」

 

「彼は功績を上げすぎた……日本中の……いや、全ての人々の希望が雪村くんになってしまっている」

 

「こんなことになっちゃうなんて……悪夢なら覚めてよ……」

 

 ある者は泣いた。ある者は歯軋りで憤りを露わにしていた……そんなことは知る由もなく、雪村康太は闇の中に沈み続けている……

 

「兎も角、今やるべきことは二つ。医療機関の復旧と、財団X本拠地の場所解明だ」

 

「医療機関は時間があればどうにかなるけど……財団Xは、どうやっても……」

 

「そうだね……ここでずっと話を続けても仕方がない。今日は一旦解散しよう」

 

 先生達が解散し、鷹嶺ルイが雪村康太のいる場所へと来た。雪村康太が罪悪感によって、落下を続けているとも知らずに。

 

「失礼します、雪村くん……起きてはないね」

 

「……」

 

「いつもなら元気な返事が帰ってくるところだけど……やっぱりダメか」

 

 鷹嶺ルイが雪村康太の隣の椅子に座る。鷹嶺ルイの目には、そうであって欲しい光景が浮かんでいた……

 

『こんにちは、鷹嶺先生! 僕は大怪我しましたけど、いつも通り無駄に元気ですよ!!』

 

「……そんな君はもういないんだね。頑張って明るく振舞おうとしてたみたいだけど……わからないわけないだろ? なんたって鷹だし……」

 

「……」

 

 ノリのいい言葉はない。みんなを笑顔にする明るさはない。

 

「そりゃあ、ショックだよね……何の罪もない人々を次々殺されて、唯一の両親を失った上……追い討ちをかけるように守ろうとしていた人と、大切な友達を失ったんだ」

 

「……」

 

「こうなるのは当然の帰結……なぁ、雪村くん。君は今どんな気持ちでいるんだい? 悲しい? 苦しい? 財団Xが憎い? 教えてくれよ……」

 

 返事はない。雪村康太に、その言葉は届かない。

 

「……」

 

「君が諦めてしまったら、誰がみんなを救うんだい? 仮面ライダーを倒せるのは君だけなんだよ……」

 

「失礼します……鷹嶺さんもいたんですね」

 

 来たのは一破誠二だ。この男も雪村康太に用があるらしい……

 

「一破さん……あなたも?」

 

「はい……やっぱり、雪村さんは寝たままですか」

 

「そうですね……何を言っても、反応がありません」

 

 一破誠二は、いつになく暗い顔をしている。

 

「……雪村さん。警察すら、抵抗を諦めている節があります。財団Xの捜査は結果が出ないからと打ち切られてしまいました……奴らはどこにいると思いますか?」

 

「……」

 

「何とか言ってくださいよ……ガルーダコーポレーションの時は、私も驚きました。あなたの発想力は財団Xを上回る武器になる……力を貸してください」

 

 その嘆願は、雪村康太に聞こえることはない。意識が戻ることもない……

 

「無理だよ……あんなことがあったんだ。すぐ立ち直れって方が無茶さ」

 

「ですよね。両親を失っても、どうにか自分を奮い立たせて、戦いを続けていたのに……大事な友人の喪失を受けては、こうなるのも無理はないか」

 

「だけど、雪村くんがいないと……すごく困る」

 

 それを受けて……二人が考え始めた。

 

「シザースの情報を受けた時……私も最初は、耳を疑いましたよ。パンチ一発で強化コンクリートが砕け散る強化装甲に、人間を喰らう生物なんて……」

 

「だけど……本当だった。武器も盾もどこかから飛んできたと思ったら、軽々振り回して人の命を奪う。化け物より恐ろしい……」

 

「それに勝ってみせたのが……雪村さんだったんですね」

 

 決して被害が少なかったわけではない。雪村康太自身も、見つかった時は死にかけだった。それでも、結果は勝利……世界を手に入れられる強化装甲『仮面ライダーシザース』は、一人の人間の前に敗れ去ったのだ。

 

「はい。だからこそ……私は、それに追いつけるように努力している。雪村康太くんは私の生徒です……本来、私が守らなきゃいけないんだから」

 

「それは私も同じですよ。私は警察官です……一般の市民である雪村さんは、私達警察が守り……平穏な生活を送らせなければならない」

 

「だけど、今はこうして雪村くんに頼るしかない。無力ですね……私達は」

 

 無力感と罪悪感は、決して雪村康太だけのものではない。この場にいる二人も、他の先生達も学園長も……全員が味わっているものだ。

 

「……私はそろそろ、帰りますね。私だけでも財団Xを探します……諦めてたまるか」

 

「私はしばらく……ここにいることにします。私がベルデにやられた時は……自分が大怪我してるのに、雪村くんは必死になって止めに来てくれた。そんな手のかかるお人好しな生徒だから……起きた時、面倒を見てあげないと」

 

「そうですね……雪村さんをずっと一人にしたら、どんな無茶をするかわかりません。雪村さんはお願いしますね、鷹嶺先生」

 

 笑いながらそう言って……一破は財団Xを探しに行った。

 

「雪村くん……君の力が必要なんだ。だから頼む、目を覚ましてくれ……いつもみたいに、思いつかないようなアイデアをくれよ……」

 

「……」

 

「君にしかできないことがあるんだ……寝坊してると、あやめちゃんも怒っちゃうよ? 『早く仇を討って余!』って……」

 

 呼びかけても、返事はない。それでも……雪村康太が反応しそうな言葉を、鷹嶺ルイはずっとかけ続けた。

 

 

 

 一方その頃、今井のいる財団X日本支部にて。今井が倫理観のない指示を部下達に出していた。

 

「……そこの記憶は消去しろ。その記憶は改竄だ」

 

「了解しました」

 

「今井様、暁様からお電話です」

 

 今井に専用の機械が手渡される。ビデオ通話用の物だ。今井がスイッチを押すと、空中に映像が投影された。

 

『私だ、今井。百鬼あやめの改造は順調か?』

 

「はい……それはもう、順調ですよ。オルフェノク因子の影響もきちんと出ているし、記憶の改竄や消去も順調です」

 

『それならいいんだ……開催場所はお前の会社だからな、準備はできているか?』

 

 今井は笑ってそれに答えた……その顔には余裕が滲んでいる。

 

「もちろん、真っ先に準備してありますよ。当然でしょう? あそこはどうせダミー、壊れても大丈夫です……書類や不良品の隠滅と破壊もできて一石二鳥!」

 

『フッ、抜け目のないお前らしいな……』

 

「そういえば……何故、せっかく兵士にした百鬼あやめを廃棄なされるのですか? 幾ら体に負担をかけるとはいえ、修理すればまだ使えるような……」

 

 人を物としか考えない、狂気の価値観。それに対し、暁が答えた。

 

『普通に考えるなら、そうだな。だが……前も言った通り、この世界にはライダーの世界と同様の世界法則がある。ライダーの世界と同一と考えるなら、百鬼あやめは何れ……記憶が戻ってしまう可能性がある。それこそ、『園田真理』のようにな……万が一そうなってしまえば』

 

「忌々しいライダーをこの世界でも敵に回すことになるわけですか……」

 

『あぁ。そんなリスクを負ってまで、危険因子である百鬼あやめを利用し続けるよりも、危険因子を確実に二匹排除する方がいい……異論はあるか?』

 

 人の人生を弄び、散々利用した後は殺処分する。何の感情もなく、ただ会長の邪魔になる危険因子とライダーの排除のみを考える暁と今井。

 

「いいえ、ございませんよ……確かにライダー共はそういうことをやる。忌々しい原初のライダー、『五代雄介』と『クウガ』も……自己の精神力と受け取った言葉を使い、凄まじき戦士の力を自分の物にしましたし……」

 

『あぁ。同じ失敗は絶対にしない、ライダーと同じような奴らが相手なら尚更な……我々の目的は飽くまで会長の理想を叶えること。それ以外は考えるなよ……』

 

「はい、全ては会長のため……ライダー殲滅のため!! 我々はそのために生まれ、存在しているのですから!!」

 

 暁が笑みを零して、通話が終了した。そこで手術室のランプが消える。

 

「今井様、改造は無事終了しました。生命レベルは標準値まで回復し、脳波も正常です」

 

「よし、デモンズスレートを点滴で投与しろ。百鬼あやめを完全に戦闘マシンにする……急げよ、約束を違えるわけにはいかん」

 

「承知いたしました、今井様。早急に準備を始めます」

 

 研究員達が目まぐるしく動き回る……手術用の薄い服を着て、眠り続けるあやめを見て……今井が狂気の笑みをまた浮かべた。

 

「せいぜい利用されてくれよ? 百鬼あやめ……我らの愛しい会長のために死ねるんだ。ありがたく思えよ? クヒャヒャヒャヒャ!!」

 

「今井様、準備完了しました」

 

「早速投与しろ。私は色々とやらなければならんことがあるからな……ちゃんとやっておけ」

 

 そう言って、今井は部屋を出ようとした……のだが。今井の服の中に、突然青い光が潜り込んだ。

 

「熱ッ!? なんだ!?」

 

「……鬼火か? 怒っているようですが」

 

「チィッ……人間でもない、ゴミの分際で!! 図に乗るなよ!!」

 

 今井にオルフェノクの模様が浮かび上がり、姿が変わる。スパイダーオルフェノクだ。

 

「あ、逃げた……」

 

「逃がすかァ!!」

 

「吹っ飛んだな……瀕死のようですが、どうします? とどめを刺しますか?」

 

 研究員が聞いたが、今井が人間態に戻りながら言った。

 

「殺すなり放るなり好きにしろ、私は機嫌が一気に悪くなった……酒を飲んでくる!!」

 

「あ、はい……」

 

「はぁ……それはそれとして、明日は楽しませてくれよ。百鬼あやめ……危険因子が自分の手で仲間を殺めるのが今から楽しみだ!! 今日は一足早く祝杯といこうかな!! クヒャヒャ、ヒャヒャヒャヒャ……!!!」

 

 今井の嗤いが、全てを壊していく。あやめの人格も、大切な思い出も……何もかも。

 

 

 

「……ん?」

 

 落下が止まった。あんなに落ちたのに痛みもなかったし、骨も折れていない……

 

「地面……だよな」

 

 ここが終着点と見てよさそうだ……真っ暗なのは変わんないなぁ。

 

「それにしたって殺風景だ……ここはどこなんだ?」

 

 地獄? もしかして過労死したのか? それは勘弁して欲しいんだが……

 

「ここがあの世なら……父さんや母さんに会えるのかな」

 

 会えるなら、教えて欲しい。最後まで戦えってどういうことなんだ? 仮面ライダーを全滅させればいいのか? それとも……

 

「なぁ、教えてくれよ……ん?」

 

 足元に何か硬いものがある……ガラス片のような物だ。透明で……暗闇なのに光っている。

 

「沢山あるぞ……?」

 

 もう一つ拾い上げると、自動的にくっついた。これは何か……大事な物なのか?

 

「これも、これも……すごい量だ」

 

 次々にくっつけて、一枚の板にしていく……

 

「板になった、けど……浮いた!」

 

 ふわふわと浮いて、板が何かを映し出した。これは……

 

「父さん、母さんっ……!!」

 

 手を伸ばしても届かない、それでも……二人だ。その隣には……小さい頃の俺がいた。

 

『パパ、ママ! あそんで!!』

 

『よし! サッカーやるか!!』

 

『怪我しないようにね?』

 

 外に出て、サッカーボールで遊んでいる……

 

『将来康太は何になりたい?』

 

『そうだな~……誰かのために頑張れる人になりたい!!』

 

『よし、それなら強くならないとな!!』

 

 こんなこともあったな……すっかり忘れていた。次の思い出がすぐに現れてくる……

 

『いだっ!!』

 

『あ、転んじゃった……大丈夫?』

 

『痛いか、康太?』

 

 顔面から思いっきり転んだ、これは痛い……

 

『痛く……ないもん……!!』

 

『無理しないでいいんだよ?』

 

『僕は強くなるんだ! これくらいで泣いてたら、強くなんてなれないよ!!』

 

 忘れていた記憶が、どんどん掘り起こされてゆく。

 

「昔は純粋だったんだな……現実を知って、あんな弱いやつになったのか」

 

『強いなぁ、康太は!』

 

『そうかな? えへへ!!』

 

 次の思い出が、また映る。

 

『ほら、頑張れ! 筋トレは走るのが一番だ!!』

 

『これで……はぁ、はぁ……強くなれるの?』

 

『あぁ! 自分を信じて努力すれば、絶対強くなれる!! どんな人でもな!!』

 

 努力した俺は、昔より強くなれているだろうか?

 

「強くたって……誰も守れなかったら、意味ないだろ……」

 

『じゃあ、もっと頑張らなきゃ……!!』

 

『その意気だ!!』

 

 また、思い出が移り変わる。これは何の意味があるんだ? 今度見た俺は、少し大きくなっていた……怒られている?

 

『な、何すんだよ親父……!!』

 

『一度決めたことを曲げるな!! 勉強するんだろ!?』

 

『なんでそんなに拘るんだ!? 関係ねぇだろうが!!』

 

 反抗期だったな、この時は……ぶん殴られたらしい、顔が凹んでる。

 

『男は一度決めたことは絶対にやらなきゃならない!! あと、約束も絶対に守らなきゃいけない!! それを破るなら……お前でも許さん!!』

 

『畜生……!!』

 

『いいか、よく聞け。一度決めたことがあるなら、その目的は絶対に果たすんだ……自分で決めたこともできないような奴は、何もかもできなくなっていく。最後までそれのために……戦え!!』

 

 ……似てるな。あの時の言葉に……俺の目的のため、か。

 

「それが果たせてないんだ……父さん、母さん……誰一人守れない……手を伸ばしても届かない。どうしたらいいと思う?」

 

『……わかったよ』

 

『それでいい……やり遂げて見せろ』

 

 俺の言葉に応えるように、場面が変わる。まだ若い俺が悔しそうにしている……

 

『クソッ!! また点数が低い……授業では恥かくし、初恋は実らねぇし……はぁ、最初から何もしない方がいい気がするな』

 

『そうとは限らんぞ、康太』

 

『父さん……?』

 

 笑いながら、父さんは言った。

 

『お前は努力するってどういうことだと思う?』

 

『そりゃあ……適切なことをすることだろ? 勉強なら、毎日勉強することだし……スポーツなら、運動することだし』

 

『そうだな。だけど……大事なものが抜けてる』

 

 大事なもの? 何のことだ?

 

『……大事なものって、なんだ?』

 

『失敗さ。努力するってことは、失敗するってことなのさ』

 

「……!?」

 

 思い出した……言われていたんだ。父さんに……

 

『失敗? 失敗しちまったら、何かを失うじゃねぇか』

 

『確かにそうだな……だけどな。リスクも背負わねぇ奴に願いは叶えられない。何のリスクも背負いたくないなんて、そんな情けない考えのまま成功しようなんて思うなよ』

 

『……それが取り返しのつかないものでもか?』

 

 次々、思い出が蘇ってくる。

 

『あぁ、そうだ。取り返しのつかない失敗をするような奴は、いつか絶対にヤバいことをやる。だから……まともになる努力をしなきゃならない。そのために小さな失敗……悪ガキの悪ふざけをやって、こっぴどく叱られる。それで反省して、殆どの奴はしなくなるんだ……人間には失敗が必要不可欠なのさ。人間は絶対に悪いことをしちまう、だから、親父の拳骨があるんだよ』

 

『……!!』

 

『よく覚えとけ。『絶対に失敗したくない』『リスクを背負いたくない』なんて言葉は、努力ができない奴の言葉だ!! 努力家なら失敗しろ!! リスクを背負い、その上で行動しろ!! リスクを背終えて、失敗ができるから努力家はみんなに賞賛されるんだ。わかったか?』

 

 全部、思い出した。あったじゃないか……頭の中に、解決策が。

 

「……ここで沈んでたって、父さんや母さん、それにあやめが戻ってくるわけでもない。柊真さんや百合香さんが目覚めるわけでもない。誰一人幸せになれないだけだ……だからこそ、反省して……リスクを背負って、行動しなきゃならないんだよな」

 

 わかったよ、父さん。母さん……ありがとうね。ここはきっと……俺の心の底なんだ。悩む俺に応えて、思い出を引っ張り出してくれた。サンキュー、俺……助かったよ。

 

「決めた。もう一回戦う、今度こそ誰も零してやらない……絶対に守ってやる」

 

 ここから出るために、見えない壁を殴りつけた。バラバラに崩れて、光が見える。

 

「行くか……」

 

 やってやるさ……あやめの仇、父さんと母さんの仇、柊真さんに百合香さんの仇……他の人の仇も、全部まとめて討ってやる。

 

「覚悟しろ、暁!!」

 

 

 

 ……起きてみると、誰かの声が聞こえる。この声は……鷹嶺先生だろうか。

 

「なぁ、雪村くん……頼むから起きてくれよ。このまま君が起きなかったら、あやめちゃんも泣いちゃうよ? 優しいあやめちゃんのことだから、もう……」

 

「それは困りますね……女の子を泣かせたら、犯罪者になっちゃいます」

 

「……え?」

 

 鷹嶺先生がフリーズした。そりゃそうだろう、これまでずっと寝てた奴が急に起きたら、誰だって驚くさ。

 

「遅れてすみません。思いっきり遅刻しました……」

 

「……本当に遅かったね。君にしては珍しいほどに……」

 

「いや、申し訳ない……ここから挽回しますので、どうかお許しを」

 

 起き上がって、言う。体は治ってるな……よく寝たからかな。

 

「それで構わないよ、私はね……!」

 

「状況が良くないのはわかってます……今すべき行動は?」

 

「とりあえず、学園に向かおう。学園長が話があるらしくて……」

 

 なら、早く向かおう。

 

「善は急げです、早く向かいましょう」

 

「わかった。じゃあ、今すぐ行こうか」

 

「よし……体は動くな」

 

 軽く準備運動をして、先生と一緒に走る。

 

「学園は大丈夫ですか!?」

 

「今のところはね……!!」

 

「なら、よかった!」

 

 学園に着いて、学園長室の前に立つ。

 

「学園長。私です……」

 

「入りたまえ」

 

「失礼します」

 

 俺も一緒に入って、顔を見せる。すると……学園長は目を丸くした。

 

「……随分目覚めるのが早いんだね」

 

「遅い方がよかったんですか?」

 

「いや……流石だ。君に大事な話があって、呼ばせてもらった。座って欲しい」

 

 椅子に座って、用意されていたお茶を飲む。相変わらず熱い……

 

「Aさんもお久しぶりです」

 

「私も心配してたんですよ?」

 

「ありがとうございます……でも、もう心配いりませんから」

 

 学園長が、いつになく真剣な顔だ。

 

「……仮面ライダーが信仰の対象になっているのは、知っているよね?」

 

「もちろん。それのせいでみんなが諦めてたり、暴動になりかけてるわけでしょ?」

 

「ハッキリ言わせてもらうと……今の警察には、財団Xと仮面ライダー信仰の暴動を同時に処理する力がない」

 

 そりゃあそうだ……できるはずがない。

 

「まぁ、そうですよね」

 

「だが……いつ起きるかわからないのが現状で、悩みの種が二つもある状況なんだよ。でも……唯一、どうにかできるかもしれない方法がある」

 

「あるんですか!? 教えてください!!」

 

 俺にやれるなら、すぐやろう。やってみせるさ……

 

「単純さ。信仰しなくても大丈夫だと、みんなに示す。君が仮面ライダー相手にまた勝利を収めて……それを大々的に報道することで、信仰より強い安心を与えるのさ。そうすれば必然的に狂信は自然消滅する……それができれば苦労はしない、ってところだろうけどね」

 

「それでもやりますよ。方法はそれしかないんです」

 

「相手も対策をして来てる……だから、君にはそれすら掻い潜ってもらわなきゃならない。でも……君ならできるって、思えるんだ。やってくれるね?」

 

 お願いじゃない、これは指示だ。俺はそれだけ信頼に足るということ……名誉なことじゃないか。

 

「もちろん、喜んでお受けします。命を懸けて遂行しますよ」

 

「ありがとう……君はもう、立派な戦士だね」

 

「僕はまだまだですよ。でも……成長することならできます」

 

 成長しなきゃならない。プラスプラスで上がってやるさ……

 

「期待しているよ、雪村康太くん」

 

「絶対にやります。期待していてください」

 

「心強いね……」

 

 心強い存在でなきゃならないんだ……俺はみんなの頼りなんだから。

 

「……雪村さん、ここにいましたか!!」

 

「一破さん……おはようございます」

 

「起きてくれて嬉しいですよ……ですが、今はそれよりも! この子達が……」

 

 一破さんの手の中には……酷く弱っている業と不知火がいた。

 

「業!? 不知火も……どうした、酷い怪我だぞ!?」

 

「二人が紙に文字を書いてくれたんです。読んでください」

 

「これは……!!」

 

 そこには、衝撃の真実が書かれていた。あやめは生き返らせられたことや、今井という男が非人道的な改造を施したこと……あと、明日今井が『ショー』をしようとしていることも。

 

「……というわけです。財団Xの場所までは、必死で逃げたので覚えていないようですが……」

 

「十分だ……ありがとうな……疲れたろ? 寝てるといい」

 

「眠ってしまった……相当疲れていたんだな」

 

 情報は手に入った。あとは……明日に備えるだけ。

 

「そうとわかれば、明日に備えて準備をしなければ……本部に行ってきます」

 

「ホロライブ学園も全力で協力するよ。百鬼さんが生きているなら……助けないとね。やってくれるかい?」

 

「もちろん。絶対に助けますよ」

 

 待ってろ、あやめ。絶対に助けてやるからな……そう思って、拳を握りしめた。他でもない、今井への恨みをたっぷり込めて。




 そろそろ反撃します。
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