百鬼組の皆様、申し訳ありません。
弱りきって消えかかっている業と不知火を、優しく撫でる。とりあえず、この二人を何とかしてあげないとな。このままじゃ、確実に消えてしまうだろう……
「幽世の人なら何とかできるかな……?」
「そうですね……ですが、サイガの一件があってから幽世はこちらとの繋がりを一時的に厳しく制限しているらしく……そもそも、入れるかどうか」
「やれるかやれないか……してみないとわかりませんよ。行ってみましょう」
命を懸けて、一破さんや俺に情報を伝えてくれたんだ。情報を絶対に無駄にはしないし、二人の命も守ってみせる。
「雪村さんらしいな……わかりました。私が着いて行きます……学園長さんは警察に連絡しておいて下さい」
「任せてください。雪村くん、早めに戻ってきてくれよ? 君にも、作戦などを説明しなければならないからね」
「はい、わかってます……それでは、行ってきますね」
早く行こう。そう思って、幽世へのゲートに急ぐ。
「ここだったよな……」
「カードを入れて、ボタンを押したら……よし、繋がった」
「行きましょうか」
ゲートが作動して、俺達を幽世へと飛ばす。行ってみると、関所のようなものがあった。ここで検査をしているらしい……
「身体検査と身分証明をお願いしております、ご協力をお願いします」
「……僕達もお願いできますか」
「はい……って、あれ? 雪村さんですか?」
俺のことを知っているのか? 知っていても不思議ではない、サイガを倒したのは俺だしな……
「そうですよ。僕が雪村康太です」
「やっぱり……! なら、そちらの警察さんは……」
「こんにちは、一破誠二です。この先に行きたくて来ました」
好印象らしいな、これはいい空気だ。
「そうか……一応お聞きするんですが、目的は?」
「……この二人が凄く弱ってて、治せないかなって」
「鬼火……これは百鬼のお嬢様の……事情はわかりました。一応身体検査をしますね」
身体検査か……まずいかも。主に一破さんが。
「一破さん、サイガフォンは……」
「大丈夫、置いてきてありますよ」
「……問題なしですね。あとは身分証明書をお願いします」
俺は運転免許証、一破さんは警察手帳をそれぞれ差し出した。
「こちらも問題なし……大丈夫そうですね。お通りください」
「ありがとうございます!」
「お仕事頑張ってくださいね」
そう言って、また幽世に入ると……
「あの時はよく見られなかったけど……酷いな」
「サイガの攻撃に、ライオトルーパー部隊……その上、オルフェノクの強襲までありましたからね」
「全員偽物だったらしいですけど、本物は生きてたんですか?」
奴らなら、殺していたとしても不思議じゃない。大丈夫だったんだろうか?
「流石に、死んだら国際社会が大変なことになる偉い人達もいましたからね。殺さなかったようですよ、遠くの廃墟に囚われていました」
「それならよかった……さてと、鬼火の病院はあるかな」
「やっぱり、酷い有様だ……財団Xめ……!!」
綺麗だった桜の木が横たわっている。ずっと吹き続けていた桜吹雪は、しばらく吹かないだろう。
「……あった、病院」
「完全に破壊されてはいませんね……オルフェノク数体だけでは、完全破壊は無理だったらしい」
「失礼します……」
鬼火を診てくれるんだろうか、まずそこが疑問だ。
「こんにちは、ご予約はされていますか?」
「いえ、初診で……この二人をお願いしたくて」
「鬼火……ですか? それなら、動物担当の方に連絡しますので、ここに名前を書いて少々お待ちください」
どうやら、診てくれるらしいな……よかった。
「お金は持ってきてあります……あと、45万ありますよ」
「大丈夫そうですね……そもそも、お医者さんがいるかどうか」
「雪村康太さん、一破誠二さん、お待たせしました」
連絡が取れたらしい、どうだろう?
「どうでしたか?」
「今は動物の方は予定が空いているそうです、待合室でお待ちください」
「よし……」
二人は死なずに済みそうだ、よかった……
「もうすぐ楽になるからな? 業、不知火……」
「大事な子なんですか?」
「はい。あやめと四人で、一緒に修行した仲なので……友達ですよ」
喋らなくても、友達だと俺が勝手に思っている。二人もそう思ってくれているかな? そうだと嬉しいな……
「雪村康太さん、一破誠二さん。お待たせしました」
「失礼します……」
「こんにちは。今日はどうされましたか?」
鬼人のお医者さんに、消えかけの二人を見せる。
「この二人が怪我をしていて……」
「酷いな……かなりのダメージを負わされたと見える、何か……強い打撃を食らったみたいな傷だ」
「オルフェノクか、仮面ライダーか……どちらにせよ財団Xがやったと見て間違いなさそうですね」
やってくれるな……二人は関係ないだろうに。
「助けられますか?」
「……これは、あなたの鬼火ですか?」
「いや……友人の、百鬼あやめさんの子です」
お医者さんが目を丸くした。
「そうか、あやめちゃんの子か……よく知っていますよ」
「知ってるんですか?」
「えぇ、本当に好奇心旺盛で……鬼火も着いてきていたので、私もよく火傷しそうになったものです」
この空気だと……まさか、ダメなのか?
「……それで、二人の容態は?」
「よくない状態ですね……炎が弱くなってきている。妖力の繋がりが切れてしまっている……燃料の供給がなされていないんだ。この感じだと、一日持たないかもしれない」
「そんな……!! どうすれば!?」
あやめをせっかく取り戻しても、二人が死んじゃ意味ないぞ。どうする!?
「方法は二つ。一つ目はあやめちゃんに力を分けてもらうこと……もう一つは、誰かの命を吸うことです」
「命を吸う……?」
「鬼火も幽世にいる妖怪の一匹。妖怪は全て、人の生気を吸うことができる……だから、野良妖怪は害獣として処理されるのですよ」
生気か……人の寿命ってことかな?
「そうなんですね……」
「鬼人は鬼火を生み出したり……そっちで言うところの魔法のような、俗に言う妖術を使うことができる。生まれつき、体内に妖力を溜め込んでいる唯一の種族が鬼人なんです……ですが、人間にはそれがない」
「だから、命をあげるしかないってことですか?」
命をあげれば……二人は生き返るんだな。
「えぇ、寿命を削ることになりますがね……二人にもなると、十年は削られるかと……私の妖力を差し上げたいのですが、私は妖力がかなり少なくて……申し訳ない」
「……僕がやりますよ。どうやったらあげられるんですか? 生気ってやつ」
「なっ……正気ですか!? 人間が妖怪に生気を吸われたら、凄まじい苦痛を伴うことに……ショック死してしまう人もいるんですよ!?」
知るか。業も、不知火も……もっと苦しかっただろう。それなのに……俺達に情報を教えてくれたんだ。死なせたら、一生後悔する。
「……こうなったら、雪村さんは止まりませんよ」
「お願いします、教えてください」
「わかりました……では二人に手を当てて、掌に力を込めてください」
言われた通りにする……二人が死なないよう、願いを込めて。
「二人とも……受け取れ!!」
「いきますよ……」
「ッ……」
お医者さんが俺の手に紋章のようなものを書くと……体が焼けるような激痛に襲われた。本当に焼けてはないようだが、それでも……だが、まだまだ。
「頑張ってくださいね……」
「……!!」
「炎がどんどん強く……」
二人が元の大きさに戻ってゆく。それに比例して痛みはどんどん強くなり、脱力感がどんどん出てくる……寿命を吸われるってこんな感じなんだな。
「よし……終わりです。二人とも完全に回復しましたよ」
「ありがとうございます……二人も起きたか」
「元気そうですね……」
ふわふわ浮いて、俺の周りを飛んでいる。なんでって思ってる顔だ……死にかけだったもんな。
「この人が君達に寿命をくれたんだ。無茶をしてね」
「……なんでそんなことしたんだ、って顔だな。だって、友達だろ? 少なくとも、俺は勝手にそう思ってるぜ……おいおい、泣くなよ。また消えたらどうする? もうあげないぞ?」
「財団Xやオルフェノクのことは知っていますよ……あなた達だけが希望なんです……お願いしますね」
怖いんだろう。仕方ない、相手が余りにも脅威すぎるんだ……絶対に勝ってやる。
「任せてください。この場で約束しますよ……絶対に叩き潰しますから、待っていてくださいね」
「私もいます。後は任せてください」
「では……くれぐれもお気をつけて」
二人がずっと、俺の周りを飛び回っている。治療代を払って、病院を出た。
「そんなに心配か? 平気さ、大したことなかったぜ。俺は大丈夫だ」
「……誤魔化すのが上手いですね、雪村さん?」
「何のことだか……?」
目の前がぐらぐらとしている……寿命を吸われたのが相当まずかったらしい。だけど、心配をかけるわけにはいかないんだ。
「早めに戻らないとな。二人は離れてくれそうにないし、連れていくか」
「それがいいかと……この子達もついて行きたそうですしね」
「とりあえず、戻りましょう」
ゲートまで殺風景で静かな道を歩く……あんなことがあったら、外出できなくなるよな。
「もうお帰りですか? 早いですね……ゆっくりしていけばいいのに」
「すみません、用事があって……次来ることがあったら、今度こそ観光を楽しませてもらいますよ」
「私もまた来たいですね……観光旅行に来てみるのも良さそうですし」
二人でそう言うと、その人も笑顔になってくれた。
「わかりました。では……またのお越しを心よりお待ちしております」
「はい、また来ますね!」
「お仕事頑張ってください!」
そう言って、ゲートを通り……学園まで歩いて戻る。言われた通りに学園長室に戻ってきた……
「失礼します、雪村康太です」
「一破誠二もいます」
「うん、入ってくれ」
一破さんもいる、作戦の説明を受けたいようだ。
「二人はどうだった? 治ったかい?」
「あっちの技術ですぐに完治しましたよ!!」
「……それはよかったね。元気そうで何よりだ」
多分、気づかれてるけど……言わないでいてくれた。ありがとうございます……
「それで、作戦の方は?」
「うん。早速だけど、こんなものが届いたんだよ……雪村くん宛てにね。読んで欲しい」
「これは……手紙か? 送り主は……財団X!?」
一破さんが手紙を覗き込んで、驚いた。俺もだ……奴らが手紙を送ってくるなんて。
「そうらしい。中身はこれだった……」
「珍しいな、小細工無しとは……さて、内容は……」
『雪村康太へ。両親に続き、百鬼あやめを殺されて傷心中か? そんなお前にいいニュースをくれてやる、私は優しいからな……なんと、百鬼あやめは生きているんだ。どうだ、驚いたか? 嬉しいか? 飛んで跳ねて喜んでいるであろう、この世で一番愚かなお前に朗報だ……百鬼あやめを助けられるチャンスをくれてやるよ。指定の場所に一人で来たら、お前の前に百鬼あやめが現れる……』
ムカつく文章だ……俺を煽っているのか?
「この文章、挑発か……?」
『お前の前に現れたら、後はお前の自由だ。勝手に連れ帰るといいさ……ただし、来たのがお前一人でない場合や、あとお前が来なかった場合……その時点で百鬼あやめは処刑する。いいな? 絶対にお前一人で入ってこい。寄り道せず、順路に沿ってくるんだ……わかったな? お前が日本語を読めることを祈っているぞ……お前は仲間を見捨てられないだろうからな。じゃあ、明日……その地図に書いてある場所で待っているぞ』
「……そういうわけだ。雪村くん一人で来いと言っている、場所までご丁寧に書いてあるし……二人の証言と照らし合わせるなら……誰にだってわかる、罠以外の何物でもない」
確かにそうだ。だが……行くしかないだろう。あやめを見捨てることは出来ないし……このチャンスを逃す手はない。
「止められても、僕は行きますよ。あやめを見捨てたくないですしね」
「無論、止める気などありませんが……一人で入らねばならない、というのが辛いな……どうしますか?」
「それをみんなで考えるのさ。雪村くんも、いつも通り頼むよ。アイデアが出たら、すぐに言ってくれ」
やっぱり、こういうのは俺の担当だ。さて、どうするかな。
「隠れて入ったら、どうにかなりませんかね?」
「無理でしょう。奴らの技術は常軌を逸していますし、設置するセキュリティが監視カメラ程度だとは思えない……もしも見つかったら、その時点で百鬼くんは死んでしまう」
「……言われた通り、僕が行きます。奴らの意識をこちらに向けさせるので……壁を爆破して、玄関じゃないところから入ってください。正面玄関は、間違いなく封鎖されると思うので。合図を出すための道具も欲しいですね、できる限りバレにくいやつが……」
これしかない。俺にしては脳筋な方法だが……時間も利用できるものもないんだ。
「やはり、それしかないか……やれる自信はあるかい?」
「自信がないなら、言ってませんよ。そんなことを言える立場でもないですしね」
「……君を見くびっていたな。じゃあ、君を信じさせてもらうよ。その方向で話を進めておく……君は明日に備えて、よく休んで欲しい。合図を出すための道具も用意しておくよ」
決まりだ、明日は小細工無し……全力で俺が奴らの相手をする。その間に皆さんが侵入して、内部調査を行う……それしかないんだ。やってやるさ……
「わかりました。では、その方向でお願いします……そういえば、柊真さんや百合香さんは?」
「……目覚めていないらしい。これから先、ずっと目覚めないかもしれないって……」
「そうですか……クソッ、やっぱりダメか……」
あやめを取り返しても、二人は目覚めていないんだ。こんな残酷なことがあっていいのか……?
「雪村さんには、過酷な人生を強いてしまっている……我々警察が無力なせいで。本当に、申し訳ない……」
「謝らないでくださいよ、一破さん。戦うって決めたのは僕だし……何より、俺だって奴らが憎いんです。仕返しさせてくださいよ」
「そう言ってもらえると、心が軽くなりますね……では私も、準備をしに行きます。お互い頑張りましょう、雪村さん」
一破さんは微笑を浮かべて、警察署へと歩いていった。俺もしっかり休んで、明日の戦闘に備えておかないとな……業と不知火、二人がくれた千載一遇のチャンスなんだ。無駄にしてたまるかよ……ここで奴らに特大のダメージを与えてやる。
「あれ? 業と不知火も着いてくるのか?」
「……!」
「そっか……そうだよな。二人は部屋がないもんな? 今日は俺の部屋で寝るといい」
あやめとずっと一緒にいて、寝る時も一緒に寝ていたんだろう。二人の部屋は用意されてないし、何より寂しいはずだ……
「さてと、休みに行くか……」
早めに休まないと、明日の戦闘で寝不足だったら笑い話にもならん。軽く運動したら、一通りして寝よう。
「っと、その前に……二人を部屋に案内しないとな、着いてきてくれ」
「……!」
「よしよし、いい子だ」
俺の部屋に二人を誘導する。二人には休んでいてもらおう、余計なエネルギーを使わないように……
「ここが俺の部屋だぞ、ちょっと狭いけどな……しばらく我慢してくれ」
「……!」
「そんなことないって? ありがとう。言葉を話せなくても、表情や体の動きで言いたいことがよくわかる……ペットになるのも納得だ」
二人は置いていこう、とりあえず外を走ってくるから。体に重りをつけた……
「俺は出かけてくる。ベッドで寝てるといい!」
「……!」
「あぁ、行ってきます!」
走らないと最近は眠れない、いいことだな。
「今日も頑張って走ろう……!!」
そう呟いて、俺はいつものコースを走り始めた。それから、終わった後の帰り道……
「……ちょっと寄り道するか」
ここは緊急の病院、柊真さんも百合香さんもここにいる。二人に意思表明だ……
「柊真さん、百合香さん……こんにちは」
「……」
「返事がないと、寂しいな……俺が気絶してる時もこんな感じだったのかな?」
そう思いながら、言う。
「明日、あやめを助けに行きます……絶対に助け出してみせますから」
「……」
「応援しててくださいね。絶対に勝ちますから……柊真さんと百合香さんのためにも」
あやめは今も苦しい思いをしてるはずだ……奴らに利用されてるんだからな。お前らの思い通りに事を進めさせてたまるか……!! そう思っていると……柊真さんの目から、涙が出た。
「……」
「っ!」
「……」
零れ落ちた涙を拭き取る……これ以上の涙を流させるわけにはいかない。だからこそ……勝たなきゃならないんだ。
「生きて返しますよ……あやめとは絶対に再会できますからね」
「……」
「それじゃあ、また……あやめがここに帰ってきたらお会いしましょう!」
そう言葉を残して、病院を出た。涙の意味はわからない、ただの生理現象かもしれない……それでも、他人が涙を流すのは辛い……この状況だから、尚更。
「財団X……覚悟しとけよ……!!」
漸く、手が届く。奴らを殺せる日が来たんだ……無駄にはしない。
「父さんに母さん……頼む、俺に力をくれ……!!」
祈りながら、学園への道のりを走り抜ける。もう真っ暗だ……飯を食べて行かないとな。
「すみません、日替わり定食ひとつ」
「はい、日替わり一丁!」
「……お待たせしました」
少し待ったら、すぐにできた。今日のメニューはトンカツらしい。
「いただきます……ん、サクサクだ。キャベツと味噌汁もついて、バランスもいい……」
「……前の席、もらうね」
「鷹嶺先生……明日は来ますか?」
先生なら、侵入部隊に入ってそうだ。
「もう志願したよ、許可された……これまでの分、暴れてやるさ」
「やっぱり……スピードがすごいですね、戦闘以外でも」
「フッ……君も言うようになったね?」
そんなことを言い合いながら、ご飯を食べる。もしかしたら、これが最後になるかもな……今回は本気で死ぬ可能性がある。無論、死力は尽くすが……あやめだけしか、助けられないかもしれない。
「そうですか?」
「君も変わったね……実を言うと、明るい時の君が私は好きだったんだ。もちろん恋愛的な意味じゃなくて、人間としてね……どんな辛いことがあっても、笑顔を崩さずに……軽いノリで笑って、みんなを笑わせてくれる。今の君がダメなわけじゃないけど……私はちょっと寂しいかな」
「……ごめんなさい」
俺も昔とは変わったんだな……良くも悪くも。強さは手に入れたけど……その分、明るさとかは失ってしまった。そういうのを失うのが、戦いなんだろう……
「いいんだよ、君が悪いんじゃない……明日は頼んだよ。あやめちゃんは……君に任せる」
「任せてくださいよ」
「……ずっと思ってたんだ。なんで私は、君に何もしてあげられないんだろうって……精神も肉体も、一番傷ついてるのは君だし……失った物が多いのも君だ。今回もあやめちゃんの命は、君の手の中にある……本来、先生である私の手の中にあるべきなのにね」
ホロライブ学園の先生達はみんな優しくて、真面目で強い……だけど、その分罪悪感を感じやすいんだ。責任感が強いから……悪いことじゃない、寧ろいいことだけど、それも過ぎれば毒だ……
「責任を感じることがどこにありますか? 僕が勝手に背負ったんです。戦うと決めたのも僕だし、先生も含めて守るって決めたんですよ……だから、僕は明日も戦うんです。先生もあやめも、他の人達も。手の届く範囲の人くらいは……助けたいって思うから。要するに僕の自己責任だから、先生は何も気にしないでってことです!!」
「……君らしいね。じゃあ、任せようかな……頑張り屋のヒーローさんに」
「大船に乗ったつもりでいてくださいよ。絶対に沈まない保証付きのね」
ご飯を食べて、返却し……部屋に戻る時。
「明日は大変になりそうだし……お互い頑張ろうね」
「えぇ、絶対に勝ちますよ……期待していてください。必ず……また、あやめが学園で笑えるようにしますから。では、また明日」
「うん……私はそれでも、君にも笑っていて欲しいんだよ。欲張りかもしれないけどね……」
その言葉は、聞こえないフリをした。きっと……一生叶わないだろうから。部屋に戻り、二人の出迎えを受けた。
「ただいま、二人とも……あやめにも、こんな感じでお出迎えしてるのか?」
「……!」
「真っ暗な中でやられたら、普通の人は腰が抜けそうだな……」
そう言いながら、手を洗う。そういえば、二人はお腹減らないんだろうか?
「なんか食べるか? 食堂空いてるぞ?」
「……」
「いらないのか……やっぱり、鬼火って特殊な生物だな。とりあえず、風呂入ろう……二人はダメだぞ、水かけたら消えるからな」
そう言って止めて、頭と体を洗っていく……しばらくそうしていると。
「いっ……そうか、傷がまだ治ってないのか」
こういうこともあるよな……痛々しい生傷にボディソープが染みる。だけど、この程度で痛いなんて言ってられないよな。
「さっさと終わらせよう……」
シャワーを浴びて、湯船に浸かったら……風呂を出る。
「お待たせ。一緒に寝ようぜ?」
「……!」
「布団燃やすなよ? 明日は大切な仕事があるからな」
ベッドに入って、目を閉じる。
「あやめ……待ってろよ。絶対に助けてやる、どんなことがあっても……二度目はない」
「……」
「二人はもう寝たか……俺もさっさと寝ないとな」
奴らのいる場所に行ける期待、何をしてくるか分からない不安。どっちもある……
「でも、寝ないとな……明日は絶対に大変になる」
「……」
「熟睡してる……いい夢見てるかな」
寝顔は安らかだ、よく寝てる……あやめの隣にいる夢でも見てるんだろうか。俺はそれを現実にする義務がある……絶対にそうしなきゃならない。
「たっぷりいい夢を見ろよ、二人とも……全部、現実にしてあげるからな」
二人を撫でていると、だんだん眠気が襲ってきて……やがて、眠ってしまった。
決戦前夜の財団X。暁と今井は、またしても通話していた。
『どうだ、今井。百鬼あやめは……?』
「大丈夫です、最強の兵器になりましたよ。余りにもうるさく暴れるので、鎮静剤で眠らせていますが……これなら、雪村康太は確実に死ぬでしょう」
『そうか……長かったな。奴には何度も辛酸を舐めさせられてきた、シザースもベルデも、カイザもライオトルーパー部隊も、あのサイガでさえ……奴に破られてきた。だが……』
その言葉と共に、今井が狂った笑みを浮かべた。
「忌々しい因縁もここまでだ……!! ククク、今から勝利の美酒が美味いなぁ……!! 暁様もどうです?」
『そうだな……今日くらいはいいか。二日酔いにならない程度にしておけよ?』
「わかっております! それでは……乾杯!!」
今井と暁は画面越しにグラスを合わせて、酒を一気に飲み干した。乱暴に今井が机にグラスを叩きつける……
「グハァァ……美味い!! 勝利の美酒ほど美味い酒はありませんね!!」
『酒癖が悪いのは変わらんな……お前が有能でなければ、とっくに殺しているところだ』
「これは手厳しい……ほら、もっと飲んで飲んで!!」
酒を勧めてくる今井にため息をつきつつ、ゆっくりワインを飲む暁……
『だが、酒は美味いな……奴が死んだら、死体を持ってこい。私の物にするからな』
「あの力ですね? クヒャヒャ、羨ましいです……私も、強い力が欲しいな」
『我慢しろ。お前ももっと活躍を上げれば、もしかすると貰えるかもしれんぞ?』
暁にそう言われて、今井はさらに奮い立った。
「では、雪村康太を殺せば……暁様から会長に進言していただけますか?」
『まぁ……ホロライブ学園の危険因子共を皆殺しにした後なら、考えてやろう』
「本当ですかっ!? クヒャヒャヒャヒャ!! やったぞ、私も会長から褒美を賜ることができるんだ!!」
そろそろうざったくなってきたのか、暁が顔を顰めている。
『……もう切るぞ。明日の計画、くれぐれも失敗するな』
「あぁ……もっと勧めようと思っていたのに、つれない人だ……だが、それ以上にいい気分だし、よしとしよう!! クヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
狂気的な笑いを抑えようともしない今井は、勝利の美酒を味わいながら、眠るまでずっと笑い続けていた……そして、今井が眠り……寝静まった中で、少女が一人……壁に縛られていた。百鬼あやめだ……
「……にんげん、さま」
だが……その顔は何故か笑っている。激しい記憶改変と、投与されたデモンズスレートにより……戦闘本能や身体能力が、限界を超えて増幅されているのだ。
「あ、あハ、アはハハ……!! まえ、みたいにいっしょにしゅぎょうしようよぉ、こわれちゃったから、あたらしいのかってもらったんだ!!」
あやめは虚空に向かって、話を続ける。ガチャガチャと、鎖達が激しく音を立てている……
「にんげんさま!! どこ? いるんだよね、でてきてよ!! しゅぎょうしないと、からだなまっちゃうよ!! あはははハハハ!!」
子供のように笑い続けるその体は……鎖の痕だらけになり、注射針を刺された痕もある。勝利のためなら、友情すらも平気で踏みにじり、利用する……それが財団Xという組織なのだ。
「なんかいってよ~!! にんげんさま~!!」
子供のように笑い、話を続けるあやめの目から一粒の涙が零れる。それが拭き取られることはなく……ただ、冷たい鉄の床を濡らし、誰にも気づかれることなく……染み込んで、無くなるだけ。笑い続けるあやめの心が、晴れるのはいつになるだろうか。それは神すら知る由もない。
希望が、消えてゆく。