恰も、赤い靴を履いた孤児の様に。
目が覚めた、疲れは取れているな……時間は朝の7時だ。丁度いい時間……起き上がって、二人を見る。
「よく寝てるな……起きろ、業。不知火……朝だぞ」
「……?」
「おはよう。いい夢は見られたか?」
機嫌よく飛び回っている……悪い夢は見ていないらしい。よかった……
「絶対にあやめを助ける。だから、一破さん達と一緒に待っててくれよ」
「……」
「不安か? 安心しろ、俺は負けないさ……俺は二人のご主人様のあやめに、一回は勝ってるんだ。どんな奴が出てきたって……絶対に勝つよ」
そう言ってやると、安心してくれたのか俺に擦り寄ってきてくれた。さて……ウォーミングアップのために、体操やストレッチをしておこう。
「……よし。体が温まった……飯食いに行くから、着いてこい。食べ終わったら、すぐにあやめのところに向かうからな」
「……!」
「しっかり体を整えていかないとな、奴らが何をしてくるかわからない……」
カイザブレイガンを背負い、体を捻りながら食堂へと向かうと……温かい出迎えがあった。
「雪村さん、待ってたよ。ほら、座って!」
「え? どうしたんですか?」
「今日、大切な戦いがあるんだろ? ほら、ご飯でスタミナつけてから行きな」
そこには肉や揚げ物など、体力のつきそうな物が並べられている……朝からこれを食べるのか。
「胃もたれしちゃいそうだな……」
「しないよ、若いのに! 血だって毎回流すんだから、鉄分取らないと!!」
「……じゃあ、いただきます」
食べてみると……案外いけるな。いい肉を使っているのか、お腹に溜まることもなく……スムーズに胃に入ってゆく。揚げ物はきつね色に揚がっていて、見た目に違わず食感と匂い、味……その全てで俺を激励してくれた。肉も炊きたてのご飯も、優しい味の野菜スープもだ……
「味はどうだい?」
「ありがとうございます……とても美味しかったです。だけど、どうしてここまで?」
「口に合ってよかった……私達にはこのくらいしかできないけど、できることがないかと思ってね」
十分だ……ずっとここでご飯を作っているであろう、おばさんやおじさんの心も確かに受け取った……
「そんなことはありません、確かに僕の力になりましたよ……皆さんも一緒に戦ってください」
「あぁ、もちろんさ! 前々から気に入らなかったんだよ、一発ぶん殴ってきてよ!!」
「わかりました。絶対に一発……奴らにぶち込んでやりますよ。あなた達の恨みも込めて! 行ってきます!!」
戦うのは一破さんや、警察の人達……鷹嶺先生。色んな人達が来るけど……ここにいない人の気持ちも、俺は背負ってるんだ。
「尚更、負けられない戦いだな……覚悟しやがれ!!」
「……!」
「もちろん、二人の気持ちも持っていくよ。誰がやったかわからんから、探し出してぶん殴ってやるさ!!」
自信満々で、今の俺にできる精一杯の笑顔。作り笑いでも……ないよりマシだ。学園に行くと、警察の車が学園前で待っていた。車の前に一破さんがいる……サイガフォンがポケットに入ってるな。
「……おはようございます、雪村さん。よく眠れましたか?」
「えぇ、お陰様で……準備の方は?」
「整いました。ライオトルーパーから回収した、アクセレイガンを私の仲間に持たせて、三方向から一斉に突入します……そのためにはあなたが必要不可欠なんですがね」
十分だ、後は俺に任せてくれればいい。
「後は俺に任せてください、合図があるまではコーヒーでも飲んで、リラックスしていてくださいよ」
「そう言ってもらえると、ますます気合いが入りますね。地図に書いてある場所は……ここです」
「今井カンパニー……デカいな、如何にもって感じだ」
高さはそこまでないが、幅が広い……凄まじい財力だ、どこから出ているんだろう。やっぱり、出資者からだろうか。
「雪村さん……絶対に勝ってくださいね」
「わかってます。それだけは約束しますよ」
「……では、出発します」
アクセルが踏まれて、警察車両の行列が街を通っていく。いつも人通りの多い街中は静まり返ってしまって、廃墟のようだ……
「経済打撃も凄まじいでしょうね……」
「はい。経済的にも物資的にも、最悪の状況……雪村さんが敗北すれば、この国に未来はない」
「それはわかってます……奴らを野放しにしたらどうなるかは、火を見るより明らかですもの」
罠をかけて、ネズミ捕りにかかったネズミを見てやるつもりなんだろうが……自分でかけたネズミ捕りに手を挟んで、苦しむことになるぞ。そう思っていると、到着した。
「……ここだな」
「三方向に分散しろ。それぞれ、指定位置で待機だ……では、私も行きますね」
「また後でお会いしましょう……二人も、一破さんと一緒に行きな」
こちらに敬礼して、指定の場所へと向かうために車に乗り込む一破さん……鷹嶺先生もきっともう、いるんだろう。
「……!」
「大丈夫さ、俺を信じろ……一破さん、二人も連れていってあげてください!!」
「わかりました! さぁ、乗って!」
こちらを何度か振り向きながらも、二人は車に乗り込んで……指定の場所に行った。
「……さてと。ネズミ捕りにかかってやるとするか」
中に入ると、順路がご丁寧に書いてあった。そこで、アナウンスが流れ始める。
『やはり来たな、雪村康太……自己紹介をしておく、私は
「テメェの自己紹介なんざどうでもいいんだよ。仲良くしてやるつもりもねぇし……それよりも、あやめは生きてるんだろうな?」
『おー、怖い怖い。百鬼あやめだろ? もちろん生きているぞ、ピンピンしている……五体満足だ。あと安心しろ、ちゃんと処女のままだぞ? 私が止めておいたからな』
黙れ。その話題を出す時点で、精神性が透けて見えるんだよ……
「俺はそんなこと聞いてねぇんだよ……それで人が喜ぶと思ったのか? 風呂の排水溝にこびりついたチンカス野郎が……」
『言葉が汚いなぁ……その辺に吐かれて、ネズミすらたからない酔っ払いのゲロ以下の汚さだ。恥ずかしいと思わんのか?』
「お前の心はさらにそれ以下の汚さだがな。自覚がないからもっと汚い……恥ずかしいと思わねぇのか?」
奴の声に怒気が混じってきている……怒りは俺の方が強いけどな。
『口の減らないゴミクズめ……!! 今すぐ百鬼あやめを殺してやろうか!? できないと思うなよ!?』
「それをやった瞬間に、俺は貴様や暁を皆殺しにするまで止まらない殺戮マシンになるぞ。できないと思うのか?」
『チッ!! 貴様のせいで最悪の気分だ……!! 覚えておけよ、その汚わしい口をすぐに塞いでやるぞ!!』
アナウンスが終了した……順路に沿って、長い廊下をとにかく進み続ける。どこから敵が出てくるかわからないから、カイザブレイガンをしっかり握りしめながら。
「……デカい扉だ、あそこが目的地か?」
扉を開けて、中に入る……真っ暗な部屋だ。不意打ちでもするつもりか? そう思って、カイザブレイガンを構えたが……そこで、明かりがついた。とんでもなく広い部屋だ、テレビで見た東京ドーム並にデカいぞ……ここが『ショー』とやらの会場か?
『レディース&ジェントルメン!! お待たせしました!! 皆さんお待ちかね、財団X主催……仮面ライダーショーの始まりです!!』
「……今井ィィィッ!!!」
『あちらにいるのが……我ら財団Xの敵にして、口汚い最低の男……今回のやられ役、雪村康太です!! 皆さん、盛大なブーイングをお送りください!! せーのっ!!』
Boo!! Booo!! Booo!! Boooo!!
「嫌がらせのつもりか、今井……!? 俺を見せ物にして何が楽しい!?」
『何やらうるさく叫んでいますね……私はこの最高の舞台にて、皆様に仮面ライダーの力を見せられることを心待ちにしていました!! 皆様もそうですよね!?』
『あぁ、楽しみだ!! もう待ちきれないよ!!』
歓声が一気に上がる……人の死ぬ姿がそんなに見たいのかよ。人々の趣味の悪さに吐き気がする……
「貴様ら!! こんなことの何が楽しい!? 人が死んでいるんだぞッ!!」
『黙ってろ、雪村康太!!』
『やられ役は喋るな!!』
Boo!! Booo!! Booo!! Boooo!!
激しいブーイングが俺の耳を貫く……今井がまた話を始めた。
『ありがとうございます、皆様!! ここでルール説明です、今回のルールは単純……雪村康太VS最強の仮面ライダーです!! どちらかが死亡すれば終了、簡単でしょう?』
「あやめを出す約束だろうが、早く連れ帰らせろ!!」
『そんなに叫ばなくても出してやるよ……それでは、皆さんお待ちかね、主役の入場です!! 今度は、盛大な拍手でお迎えください!!』
重たそうな扉が開いて、ゆっくりと人が歩いてくる……間違いない、あやめだ。凄まじい量の拍手に包まれながら、こちらに来ている。有り得ないとわかっていても、一縷の望みに賭けている自分がいた……
「あやめ!! よかった……!!」
『あれが最強の仮面ライダー……? そうは見えんのだが……』
『見た目で判断してはいけませんよ、堀川様!! あれは種族の中でも最強と謳われる鬼人、その中でも特に強い血統書付きの物です……!! 名を百鬼あやめ、そして……今から、最強の仮面ライダーとなるのです!!』
業と不知火の教えてくれたことを思い出して、思わず冷や汗を流した……俯いたあやめに話しかける。
「あやめ……どうした? 帰ろう、みんな待ってるぞ?」
「……ア、は」
「な……ッ!!」
その顔は笑顔だった。光のない目で、笑っている。
『さぁ、皆様!! 練習はしてきましたよね!? みんなで一緒に叫びましょう!!』
「今井ッ!! 貴様やっぱり……!!!」
『ん? もう知ってんのか? それなら話が早いなァ……』
……忌々しい記憶が思い起こされた。あの日の記憶、母さんと父さんが死んだ日の……ナノマシン。
「あの電波……!!」
『そうさ!! デモンズスレートをたっぷりくれてやったんだよ!! あと、記憶を少しだけ弄って、幻覚剤と身体強化薬を投与したんだ……!! 皆さんお待たせしました、今度こそ!! せーのっ!!』
「……今井、貴様ァァァァァッ!!!」
オーガ!! オーガ!! オーガ!! オーガ!! オーガ!!
俺の憤怒の叫びは、夥しい数の大声にかき消された。あやめがそれに反応して、他とは床の色が違う場所に歩いてゆく。何か仕掛けがあるのは、遠目でもわかった。あやめに俺を殺させるために、こんな用意周到なことを……!!
「やめろ、あやめ!!!」
『お前も叫べ、楽しいぞ!?』
「ふざけるな!! よくも、あやめを……俺の友達をこんな目に!!!」
オーガ!!! オーガ!!! オーガ!!! オーガ!!! オーガ!!!
あやめがその場所に辿り着くと、ベルトがあやめに取り付けられた。カイザやサイガと同じようなガラケーが、あやめの手に渡される……すると、あやめが笑い始めた。
「あハハハアははアははッ!! 康太様、鍛錬しようよ!! 今日も一緒に!!!」
「あやめ、やめてくれ!!!」
「何言ってるの!? 今……余はこんなに楽しいのに!!!」
オーガ!!! オーガ!!! オーガ!!! オーガ!!! オーガ!!!
モニターにあやめの手元が映し出されている。あやめが、0のキーを三回押した。待機音が冷酷に鳴り響く……どうして、何故こんなことに……答えは出ない。
『Standing by』
「アははハはははァ!! 変身ッ!!!」
『Complete』
オーガ!!! オーガ!!! オーガ!!! オーガ!!!! オーガ!!!!
泣き叫ぶような音と共に、金色の線があやめの体に走り……あやめは黒と赤のライダーになってしまった。黒いローブはまるで、あやめの絶望を表しているかのように、どこまでも黒く……赤い顔の部分は血を流しているようにも、泣き腫らした目にも見える……あやめの悲しみが、ライダーにそのまま現れているように見えた。
「そ、んな……嘘、だろ……」
『皆さん、ご覧あれ!! あれこそ……帝王のベルトの片割れ……サイガを超えるスペックを備える、真の帝王!! 仮面ライダーオーガでございます!! 皆様、最強の帝王の誕生に盛大な拍手をお送りください!!!』
「アハッハッハッハッハ!!!!」
ワァァァァァァァッ!!!!
歓声とあやめの悲痛な笑い声が、俺の耳を二重に貫いていく。
『さぁ、戦え!! 百鬼あやめ、雪村康太!! 真の絶望を味合わせてやるよ!! 絶望に染まりきって死ぬがいい!!!』
「ふざけんじゃねぇぇぇッ!!!」
『Ready』
カイザブレイガンにメモリを入れて、剣を出す。どうにかして、元に戻さないと……あやめはそう思っている間に、斬りかかってきていた。
『Ready』
「ぐぅッ……一撃が、重い……!!」
「どうしたの!? いつもみたいに、切りに来てよぉ!! 余の刀を流してさぁ!!!」
『クヒャヒャヒャヒャヒャ!! 昨日よりも酒が美味いぞ、もっと苦しめ雪村康太ァ!!! 暁様にこの映像を渡せば、会長からお褒めの言葉を賜ることができるのだから!!!』
Fooooooo!!!
さらに歓声が上がり、あやめの剣がカイザブレイガンを押してくる……どうにか受け流して、距離を取った。
「目を覚ませ、あやめ!! これは訓練じゃない、殺し合いだ!! お前が気づいてないだけなんだよ!!!」
『無駄だ、そいつは幻覚を見てる!! 百鬼あやめはすごく楽しそうなお前と戦ってるだろうさ!!!』
「そんなこと言って、楽しそうじゃん!! 康太様も!!」
言っていることは本当らしい、あやめは殺す気で来ている……ガラケーのスイッチが押された。必殺技を出す合図だ。
『Exceed Charge』
「……なっ、剣が伸びた!?」
『出ました!! あれこそ仮面ライダーオーガの必殺技、オーガ・ストラッシュ!!! その射程は無限、逃げ場は地球上のどこにもありはしないッ!!!』
無限に伸びる剣だと……!? ふざけるな、間合いを取る意味ゼロじゃねぇか!!! 剣を使うという基本を無視した剣が、こちらに振り下ろされた。
「アはハハ、アハハハははっ!!!」
「なんて振り回し方してんだよ……!!」
「うりゃあぁ!!!」
子供のような掛け声で振り下ろされたそれは、容赦なく地面や後ろの壁を切り裂いた。凄まじい切れ味だ……いや、仮面ライダーそのものの力か? どちらにせよ、食らったら無事で済まないことだけは確かだ。
「いい加減に目ぇ覚ませよ、あやめッ……!! いつまで夢見てんだ!?」
「何言ってるか……全然聞こえない余!!」
『いいぞ、殺せ!! そいつを真っ二つにしろぉ!!』
今度は剣が縦ではなく、横になった。俺を切り裂くために横なぎに振られる、無限射程の剣……どうにか飛び越えたが、次の一振りが来た。喰らったら真っ二つになるのは確実、絶対に当たれない……!! 奴らへの怒りを込めて、全力で叫んだ。
「貴様ら……それでも人間かぁぁ!?」
『あぁ、立派な人間だとも!! 辛い時に何かに縋りたくなるのは人間の心理、それに従っているのみさ!!!』
「そんなことのためにあやめを……俺の父さんと母さんを、柊真さんに百合香さんを……罪のない人達をあんな目に遭わせたのか!? ふざけるな!!! ミラーモンスターよりも、オルフェノクよりも……貴様らこそ、化け物だ!!!」
Boo!! Booo!! Booo!! Boooo!!
全力で叫んでも、返ってくるのは激しいブーイングのみ。今が楽しければそれでいい、今の絶望から逃れるためならば……それが人間なのか。
「やっぱり楽しいや!! 康太様躱すの上手いもん!!!」
「楽しくない!!! あやめ、お前は人殺しが好きなやつなんかじゃねぇだろ!? 奴らに利用されて……悔しくないのか!?」
『あー、言い忘れてたな……記憶を弄ったって言ったろ? それで……私達のことを恩人として刷り込んだ。だから、その言葉は意味ないんだよ……他のを試してみろ? 頑張れ~』
淡々と言う今井……奴はそれを酷いことだとすら思っていない様子だ。気でも狂ったか? こんなことをしておいて……
「財団Xッ!! 貴様らは一体どこまで腐り切ってやがるんだァァ!!!」
『愛しき会長の崇高なる計画のための尊い犠牲だ!! 我慢して大人しく運命を受け入れろォ!! クヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!』
「今井さんも優しいよね、康太様と戦うために、こんないい場所を用意してくれるなんて!! 最高だよ……!! ありがとう今井さん!!!」
操られたあやめを見ていると、すごく辛い……だけどこのまま逃げ回ってるだけじゃ、埒が明かない。やるしかないか!!
「うぉぉぉぉぉっ!!」
『……剣の上に乗って走った!? 無駄だ、振り落とせ! 百鬼あやめ!!』
「康太様らしい、けど……甘い余!!!」
振り落とすために、剣が思いっきり振られる。そこで飛び降りて、銃弾を撃ち込んだ。
「うぉらぁぁぁっ!!!」
「ッ……!!」
「目を覚ませってんだよ、あやめ!!」
銃弾は目くらまし……こっちが本命だ。急所は外して、胴を狙った……これは当たる、切った……はずなのに。
『ハッ……愚かな』
「な……切れないだと!? 馬鹿な……!?」
「うりゃぁぁっ!!」
思いっきり殴り飛ばされて、壁に激突する。そこから落下して、血を吐いた。
「ご、ぶっ……な、何故……!?」
『言い忘れていたな、仮面ライダーオーガが帝王である証、ワイズマンローブは太陽の表面温度にも耐え切る。カイザブレイガンに切断能力はなく、熱で切り裂く剣なんだ……あとはわかるな?』
「カイザブレイガンは、効かない……」
嘘だろ、それじゃあ……カイザブレイガンはただの棒きれだ。
『ついでに言っとくと、銃弾もそこまで効いてねぇぞ。サイガと同等の装甲だからな……ほら、よそ見するな!!』
「がッ!?」
「捕まえた……!!」
オーガ・ストラッシュの先端に胴体を挟まれて……そのまま、壁に叩きつけられた。壁がヤスリの様になって、俺の肉を削っていく……
「ご、ぐっ、が……かっ……!!」
『オーガ、いいぞぉ!!』
『もっとやれー!!』
あやめが目を覚ます気配はない。奇跡は起きず、俺は壁に叩きつけられている……
「アはハハハは!! どうしたの!? いつもみたいにかっこよく反撃してよ!!」
『無様だな、雪村康太……それは決して外れんぞ、もう諦めろ!!』
「嫌、だ……ごぉぉっ!!」
振りかぶって、地面に投げられる。俺は地面を削りながら転がり……体中の骨が砕けてしまった。
「どうしたの!? もうおしまい!?」
『馬鹿め……無駄だといつになったらわかる!? 立つのをやめろ、そうすれば楽になれるぞ!! お前のような一般人にはそれがお似合いだ!! 地面を這いつくばって一生強い者に媚びていろ!!』
「……断る。それが嫌だから、努力してんだよ……」
立ち上がる。諦めない、負けるわけにはいかないんだ。奴らを殺すまでは、まだ死ねない……!!
「そうこなくっちゃ、面白くない余ね!! 最後まで楽しもう余、康太様!!」
「来いよ……!!」
『無駄だ、力の差を思い知らせてやれ!! 百鬼あやめ!! お前は仮面ライダーオーガなんだからな!!』
それなら俺は……みんなの思いを背負ってる、戦士だ。絶対にあやめを止めるし、奴らも殺してみせる。
「うぉらぁぁっ!!」
「効かない、余っ!!」
「カウンターファイトォ!!!」
剣を躱して、無理矢理体を動かす……あやめの顔面を殴った。だが……効いていない。剣が振り下ろされる……カイザブレイガンが真っ二つにされて、壊れてしまった。
「その程度かぁぁ!!」
「っ、カイザブレイガンが……ごふっ!!」
『だから無駄だと言ったんだよ……やれやれ、まだ立つのか? しつこい男は嫌われるぞ?』
まだだ。終われない……立ち上がれ、無理やりにでも拳を握れ……倒すんだ。仮面ライダーオーガを……!!
「嫌われても、いい……あやめが死なないなら……!!」
『何を抜かす? お前、まさか百鬼あやめに恋愛感情を……』
「あると、思うか……?」
ゆっくり近づいてくるあやめを、しっかり見据える。
『そう見えるがな。気色悪い男だ……』
「ねぇよ、そんなもん……あやめを大切に思ってる人達がたくさんいるんだ!! 俺もそうだけど……みんなの気持ちを背負ってきてる以上、裏切るわけにはいかないんだ!!」
『もっとくだらん理由だった……はぁ、さっさと終わらせてやれ。百鬼あやめ』
酒を飲みながら、呆れたように言う今井……
「これで……終わりだ余!!!」
「誰が終わって、やるか……みんなの、ためにも!!」
『……いつもそうだな。貴様も仮面ライダー共も、そうやって、みんなのためだとか……くだらん大義名分を掲げて、我々を殺しに来る。正義の味方を気取って何が楽しいんだ? 裁判官にでもなったつもりかよ?』
答えを少し考えて……思いついた。
「じゃあ……お前らは、自分の行動が間違っていると思ってやってるのか?」
『そんなわけがないだろう。我々は会長の下僕……その責務を果たすのみだ』
「だろうな……お前らだって、お前やお前の仲間から見たら正義に見える……!!」
奴の酒を飲む手が止まっている……怒りか、それとも困惑か。
『……で? そんな当然のことを言って、どうした?』
「だからだよ……正義程、不確かで変化が激しいものもない……!! お前らがこの世界の人間じゃないのも知ってる……でもな!! お前らはこの世界の常識とか、法律に著しく反してる!! 法律とか、マナーとか常識とか、全部正義が生み出した……正義がないと、俺達人間は生きていけないんだよッ……!! それが凄まじく危険なものだとしてもな!!!」
「喰らえ!!」
攻撃をどうにか避けながら、叫ぶ。
「だから警察や軍隊がある、平和を維持するための……正義が生み出した暴力機関として!! それが、警察や軍隊なんだ……!! そしてお前らは全員、この世界で人が生きていくのに不都合極まりないッ!! だから、俺はお前らを憎む……わざわざこの世界にまで来て、自分の正義を押し付けるお前らを!! 俺は……俺の周りの人の、この世界で精一杯生きている人達の『正義』の味方で、お前らの敵だ!!!」
『ご高説ありがとうございました、っと……感想言うぞ、二度と口開くな。以上!! ぶっ殺せ、仮面ライダーオーガ!!!』
『さっさと死ね、ウザいんだよ!!』
精一杯生きている人達を害し、傷つける……精一杯生きることを諦めて、悪に堕ちた者達。奴らも警察に逮捕され、場合によっては軍隊に撃たれる者達。要するに、俺にとっての敵……向かってくるなら、殺害対象だ。
『Exceed Charge』
「ふんっ!!」
「ぎっ……ぐっ、がぁぁ……ごぉ、ぐがっ!!!」
また、掴まれた。体を削られて、壁の方に吹っ飛ばされる……壁に突っ込んで、瓦礫と一緒に倒れた。意識が朦朧とする……どうすれば、どうすればオーガを倒せる? あやめを救える? 考えろ……俺はそれが得意技だろ!?
『まだ生きてるぞ、早くトドメを刺せ!!』
『もう一回エクシードチャージだ!!』
「……これは、なんだ?」
突っ込んだ衝撃と、落下した衝撃で鍵が壊れてしまったらしい……鍵の開いた箱がある。デカデカと『使用禁止』って書いてあるが……それを開けると……
『危険!! デモンズスレートによる暴走の危険あり』
「……デルタ、ギア……?」
『さっさとトドメを刺せ、敵はあそこだぞ!!』
どうする? 使うか、使わないか……暴走してしまったら、それこそ奴らの思う壷だろう。悩んでしまっていると……あの言葉が頭をよぎった。
『リスクを背負って行動しろ!!』
「父さん……そうだよな」
『雪村康太もこれで終わりだな!!』
終わってなんかやるものか。ここからが本番だ……!! 急いで説明書を読み、使い方を頭に叩き込む。ベルトを腰に巻きつける……
『Exceed Charge』
「これで……余の勝ちだね!!」
「……それはどうかな」
あやめには多分、聞こえてないけど……そう言って説明書の通りにデルタフォンを持ち、トリガーを引く。
『行け、百鬼あやめ!! あのクソッタレ野郎を……地獄に落とすんだ!!!』
『トドメだ、仮面ライダーオーガ!!!』
「……スゥーッ……」
大きく息を吸い込んで……全力で叫んだ。
変身ッ!!!
『Standing by』
『……変身? 何のことだ? 奴は変身アイテムを持っていない、何かの適合者でもない……幻覚でも見ているんだろう。あやめ、トドメを刺してやれ!! 生かしておくのが可哀想だ!!!』
「これで終わりだぁぁ!!!」
デルタギアの待機音が鳴り響くなかで、オーガ・ストラッシュが振り下ろされた。俺は読んだ通りに、デルタフォンを差し込んだ。体に青白い線が次々に現れて、目の前が光に包まれてゆく……
『Compleat』
『やった、死んだッ!! 早く死体を回収して、暁様に献上するんだ!!! そうすれば……ん? 百鬼あやめ、何をしている?』
「あれ……切れない、どうなってるの? 剣が先に進まない余?」
間に合ったな……頭にケーブルが何本か刺さってる。それのせいで戦いたい衝動が湧き出してきているが……あやめは今、これで苦しい思いをしてる。ならば、俺も同じ状態で戦おうじゃないか。
『まさか……止めているのか!? オーガの必殺技を!? どうやって!? 何が起こったんだッ!!!』
「……うぉぉぉぉぉッ!!!」
「ッ……逸らされた!?」
ゆっくりと歩いて、壊れた壁からジャンプして飛び降りる。
『あれは……!!』
「……康太様、なの?」
「あぁ。俺は雪村康太であり……仮面ライダー……」
デルタだッ!!!
花魁淵で踊らされた花魁達は、踊っている最中に床を落とされ、滝に落ちて全員死亡したとされています。悲しき花魁の踊りを、落ちる前に止められるか。