VS仮面ライダーシザース。
信じられない。何の変哲もないただの人間が、鎧を一瞬で纏ったのだ。どこから出てきたんだ? その四角いのはなんだ? 考えれば考える程、疑問が増える。
「何なんだ、お前は……!?」
「排除する……!」
「うぉっ!!」
奴は腕についているハサミらしきものを振り下ろして、攻撃してきた。それだけで壁が砕け散る……なんて威力だよ!!
「どんな威力してんだよ……!!」
「流石はこいつの力……パンチ力12tは本当らしい」
「12t!?」
tって……車とかに使う単位だろ?
「十分弱らせた後に、ゆっくりモンスターの餌にしてやる……」
「っ……くそ……!!」
「逃がすか……!」
奴は四角い何かから紙を取り出し、ハサミの持ち手を開いて入れた。そして、持ち手を閉じると……
『ADVENT』
「なっ……デカい蟹!?」
「やれ」
奴が命令を出すと、人形の蟹はハサミで俺を殴ろうとしてきた。
「うぉ……っく!!」
「逃げ足の早い奴だな……」
「な、なに? 何が起こってるの?」
エルフさんと潤羽さん達……逃げろ。そう言う前に、奴らが来た。
「危険因子、三匹発見。まとめて排除する」
「え……?」
「な、なんだ? 何が起こってるんだ!?」
男の子が出てきた、どうやら隠れていたようだが……そのまま隠れてればよかったのに。蟹が出てきて、その人の前に立った。
「な、なに!? でっかい蟹が……!!」
「お、お前誰だ!? バトルロワイヤルは中止で……」
「片付けろ、ボルキャンサー」
奴が命令すると、ボルキャンサーと呼ばれたそいつはその人をハサミで殴打した。すると……
「あ……?」
「えっ……」
「邪魔をするからそうなるのだ」
その人の体が、軟体動物のようにひしゃげた。血反吐を吐いて、骨が飛び出して……壁に吹っ飛んで、最後には。
べちゃっ
「……ぇ……ぁ……」
「食っておけ。生き残られてはまずい」
「やめろ!! ……っく!!」
奴が邪魔をしてきた。彼はもう真っ二つだ、もう何もできない。それなのに……ボルキャンサーは、女性の目の前で……死ぬ前の僅かな時間すら、無慈悲に奪った。その人に喰らいついたのだ。肉を食い千切る音が、無慈悲に響く。咄嗟に、近くにいたエルフの目を塞いだ。
「見るなっ!! ぐ……」
「うぁ……ぁ……」
「るしあ、見ちゃダメだよ……!!」
やがてその音が止むと、ボルキャンサーは血塗れになっていた。
「ボルキャンサーは生物の命を、特に人間の命を主食とする。弱肉強食ということだ」
「テメェ……!!」
「お前達もすぐに餌にしてやる。安心しろ!!」
許さん。そう思って、握り拳を握り……奴の腹を狙って、殴りつける。だが、それは……指一本で止められてしまった。
「……弱いな」
「なっ……」
「相手する価値もない」
嫌な音がした時には、もう遅かった。一撃で腹の骨が砕かれ、肉の抉れる音がしたのだから。感じたことがない程の激痛……傷ついた場所が熱い。血が出すぎて、意識が朦朧とする。口から力無く血が溢れていく……死ぬのか。
「が、ぁは……」
「そこで大人しくしていろ……次は貴様らだ」
「う……!!」
挟み撃ちにされている。逃げられない……でも、俺は動けない。痛みよりも、何よりも……勝ち目がないと、悟ってしまった。あの一撃で……蛇に睨まれた蛙って、こういうことか……圧倒的な力の差。人間がどれだけ背伸びしたって、努力したって……否、生物が何をしても倒せない。それ程までに、あいつは強い……強すぎるのだ。
「近づくなっ!! 撃つよ……!?」
「やってみろ」
「……この!!」
乾いた音が響いた……硬いものにぶつかって、銃弾が弾かれる音が聞こえた。奴らの装甲に弾かれたんだ。
「き、効かない……」
「ふぁ、ふぁんでっどさん……!!」
「ボルキャンサー、やれ」
奴の命令に従って、ボルキャンサーが容赦なくゾンビ達を薙ぎ倒していく。噛み付いたゾンビの歯の方が折れているし……なんて硬さしてんだよ。ゾンビがそこら中に倒れている……
「あ、あ……そん、な……」
「どいてっ!!」
「む……?」
エルフさんが構えた、物凄い冷気だ……今までずっと溜めてたのか?
「だいふく、行くよ! 『コキュートスハリケーン』!!」
「……」
『GUARD VENT』
猛吹雪が奴とボルキャンサーに容赦なく襲いかかる。床や壁が次々凍ってゆく……終わったか? さっき何かが吹雪の中に入っていったように見えたが……奴とボルキャンサーは、白い濃霧に包まれて見えなくなった。
「……やった、の?」
「はぁ、はぁ……完全に凍った、はず……!」
「誰を凍らせたって……?」
奴の声が聞こえた。生きてるのか? 今のを喰らって?
「え……!?」
「中々いい技だったな。流石は危険因子……だが、私を倒すには不足だ」
「あ、ああ……!!」
奴が構えた盾は、凍っていなかった。あの男は本当に無敵だ……あの盾一枚で、自分の体を守りきったのだ。ついた雪を払い、凍りついた足元を容易に動かす。化け物じゃねぇか……
「ついでに言っておくと、私の胸部装甲であるボルチェストは、海底一万mの環境でも活動を可能とする……猛吹雪程度で破ることなどできん。残念だったな……わかったら、大人しく死ね」
「ひっ……!!」
「おっと、逃がさんぞ」
奴が手を前にかざすと、逃げようとした潤羽さんの前にボルキャンサーが立ちはだかった。最大の必殺技すらノーダメージだったのだ。最早、できることはない……
「い、いや……!!」
「お前もボルキャンサーの餌にしてやるさ。どこから食われたい? 肩か? 足か? それとも……頭か?」
「やだ……やだぁ……!!」
泣いている……絶対的な死が目の前にあるのだ。当然だろう……どうにもできない。これが絶望、か……待て。俺よ……本当にそれでいいのか? 戦えない自分を変えたいから、必死こいて努力したんだろう? それなのに、ここで戦わなくていいのか? 本当にそれで後悔はないか? 誰も助けられないままでか!? そんなの……昔と変わらないじゃないかよ!! 立ち上がれ……やるんだ!! あいつに一矢報いてやる……どんな手段を使ってでも!!
「泣き喚くな、やかましい。踊り食いだ、ボルキャンサー。好きな奴から喰らうがいい!!」
「こ、ない、で……!!」
「死ぬがいい、危険因子!!」
奴に向かって、走る。痛みを無理矢理押さえ込んで……ボルキャンサーを掴んだ。
「なっ……!?」
「え……」
「……ずぉりゃあぁぁ!!」
習った通り投げ飛ばす。地面が凍っていたのもあって、ボルキャンサーはバランスを崩して動けなくなった。
「貴様……!!」
「おいっ!! そこの三人!! 死にたくねぇならとっとと逃げろ!!」
「そ、そんなこと言われても……こ、腰が、抜けちゃって……!」
逃げられないか……なら、守るしかない。もう二度と誰も守れない俺には戻りたくない……!!
「そこでじっとしてろよ……!!」
「私に逆らって、そんなに苦しんで死にたいか?」
「苦しんで死ぬことになるのはテメェだ……!! 覚悟しやがれ!!」
拳を握りつつ、奴の前に立ちはだかる。啖呵をきったのはいいが、どうするか……正攻法では勝てない。何か手段があるはずだ……!!
「そんなに死にたいなら、お望み通り……貴様から叩き潰してやる!!」
「やってみろ、蟹野郎!! テメェの甲羅剥いで蟹鍋にしてやるよ!!」
「抜かせ、ただの人間が……仮面ライダーに勝てるか!」
ぶち殺してやる、蟹が。この人達に手を出させないようにしないと……それに、攻撃が通らないと何もできない。とりあえず、あの盾をどうにかしなければ……奴がカードを抜いた! ……やってみるか!!
『STRIKE VENT』
上から武器が降ってきた……! 今だ!!
「……なっ!?」
「もーらった……!!」
「返せっ!!」
腕につけて……顔面をぶん殴る!!
「ぐっ……!!」
「効いてる……!?」
「どうやら有効らしいな……!」
だが、これだけでは決定打になり得ない……さっきの様子を見るに、奴は挑発に乗りやすい気がする。なら、奴を怒らせることさえできれば!!
「ぬぅぅ……小癪な真似を!!」
「お褒めの言葉、どうも……!!」
「くそったれ……!!」
あと少しだ、もう一押しでいい……何かないか?
「……よし! 潤羽! アンタのゾンビ、貰うぞ!!」
「え……?」
「腸を引っ張り出すっ!!」
引っ張り出して、繋ぎ合わせる。
「これでお前を縛るロープの完成、ってわけだ……!」
「そんなもので縛れると思っているのか!? 舐めやがって!!」
「これで縛りつけて……ボコボコにしてやるぜ!!」
そう言うと、奴はさらにムカついているようだ。
「クソッタレ野郎め……!! 今すぐ殺してやるぞ!!」
「……FINAL VENT……必殺技か!?」
「これで……終わりだぁ!!」
あれで殺す気か……あれをどうにかできれば、あいつは俺にターゲットを移すはず……やってみるっきゃないな!!
「……や、やめろぉ!! こっちに来るな! うわぁぁ!!」
「逃げるな、臆病者!!」
「え、どこに……!?」
教室に入った。俺は屈んで……腸を抜いたゾンビを、代わりに座らせる。
「……馬鹿め、安心して座っているな? 無駄だ!! そんな程度でこれを防御できるかぁ!!」
『FINAL VENT』
「ダァァァァッ!!」
グルグルと回って、鏡を突き破ってきた。それは……俺の代わりに、ゾンビにぶつかった。
「……やった!! ……むっ!?」
「確保ぉ!!」
「ぐぅ……!?」
縛った! 今だ!! このハサミで……もう一個のハサミごと盾を外す!!
「切れろっ!!」
「し、しまった……!!」
「盾も貰ったぞ……!!」
これであいつの武器は無くなったな……!
「くっそぉぉ! 貴様ァァ!!」
「蟹さんこちら、手の鳴る方へ~!!」
「ボルキャンサー! 来い!!」
よし……誘導できた!!
「どうした、蟹さんよ……その程度か!?」
「舐めるなよクソガキ!!」
「おっと!!」
盾で防御して、ハサミでぶっ叩く。危険なのはこいつよりボルキャンサーだ、こいつをどうにかしないと……硬いし強いし、主食は命だ。害獣そのものじゃないか。誰かが駆除しないといけない……!!
「この野郎……!!」
「こっちだぞ、蟹さん!!」
「ちぃぃ……!! っ、ボルキャンサー……ん?」
ボルキャンサーの様子がおかしい……苦しんでいる?
「どうなってるんだ?」
「……まさか、時間切れか!? まずい、早く戻さねば!!」
「何だかよくわからんが……戻れなきゃまずいようだな!!」
それなら……やらせるわけにはいかない!! デカい方のハサミでボルキャンサーを挟んで、地面に押さえつける。
「ッ!? 何をする!?」
「ここから先は通さんぞ!!」
「この……やめろ!! 早く戻さないと……!!」
どんどん砂のようなエフェクトが大きくなっている……多分、何かが起こる!
「やめろぉぉ……!! 早くしなければ……!!」
「行かせねぇって、の!!」
「ぐっ……!」
盾付きのハサミで奴をぶん殴った後……あいつの姿が消えてしまった。ハサミも盾も、色を失ってしまったし……奴の色もなくなってる。どうなってるんだ? ボルキャンサーがいた場所の上空から、黄色い何かが飛び去っていく……なんだ、UFOか? でも、今は気にしてる場合じゃないよな!!
「ま、まずい……ボルキャンサーが消えてしまった!! 帰って報告を……」
「させねぇっての!!」
「邪魔するな!!」
奴のパンチで、盾にヒビが……あんなに硬かったのに!?
「弱くなってるのか……じゃあ、今ならお前も!!」
「ちぃ……それでも、人間如きに遅れは取らんぞ!!」
「っ……」
身体能力は俺達より上だ。だから、正攻法じゃ倒せない……弱点か何かあれば……多分、あのハサミも使えて後一回ってところだろう。
「テメェの弱点は……どこだ!?」
「言うと思うか!?」
「言ってはくれないよな、そりゃ……!!」
考察しろ、弱点はないのか……? いや、ある。変身のために使ったのは……カードを出してるのは、あの四角いものだ。あれを傷つければ、奴は人間に戻るかもしれない……!! 問題はどうやって狙うかだが……あいつは今弱くなってる。それを利用できれば……よし!!
「……ほらほら、こっちだぜ蟹さん!?」
「待てぇ!!」
「ふぅ……け、結構疲れるな……血が止まんねぇし……」
疲れたふりをして、天井のある場所に来るのを待つ。
「そこだぁ!!」
「……な~んてな!!」
「なっ……!?」
盾をハサミごとぶん投げた。それは奴を掠めて、二階の床にぶつかる。
「驚かせおって、どこ狙ってるんだ!? これでお前も、今度こそ終わりだ!!」
「……死ぬ前に一つだけいいか? 頭上注意、だぜ」
「な……ぐはっ!?」
盾を失ったハサミが、上を見上げた奴の顔面に落下した。怯んだところに……!!
「喰らえ、クソ蟹!!」
「がっ……し、しまった! デッキが……!!」
「よっしゃあ!!」
あれはデッキって名前らしい……とにかくヒビが入った、もうすぐ崩れるな……!!
「変身していられる間に逃げなくては……!!」
「逃がすかよ!!」
「この……クソ野郎が!!」
俺の傷ついた腹を、奴の腕がぶち抜いた。熱いものが登ってくるが……寧ろ好都合!! 奴の顔に、俺の血反吐をぶちまける!!
「おげぇあっ!!」
「がぁ!? くぅ、前が見えんっ……!!」
「腹なんて、貫くからだよ……!!」
これで捕まえた。逃がさんぞ!! 奴のデッキにパンチをぶち込む。
「や、やめっ……変身が……!!」
「がぁぁぁぁ!!」
「解けるっ……!!」
デッキが、ついに壊れてしまった。奴の姿が変わり、人間に戻る。
「まずい、これでは……っ!?」
「だぁりゃあぁぁぁっ!!」
「ぐぉぉぁぁっ!?」
奴にスマッシュビートを叩き込む。これでトドメだ。
「メテオ……!!」
「ぐぉはっ!?」
「スマッシュッ!!」
打ち上げた後、ガラスに向かって叩き落としてやった。
バリィィィィン!!
「ぐぅ、が、は……」
奴は血反吐を吐いた後、動かなくなった。死んだのか……やったんだ。俺は、『仮面ライダー』にどうにか勝利を収めた。
「ざまぁ、み、ろ……」
そう呟いて、俺は倒れ込んだ。血が止まらない……俺も死ぬのか。だけど、俺は変われた……悔いはないな。完全勝利だ……!! 心の中でガッツポーズしながら、俺は意識を飛ばした。
「……ん」
背中が柔らかい。ここは雲の上? ってことは天国か? いや、もしかして今から裁判される感じ!? 目を開けたらこわーい閻魔様がこっちを見て……
「お願いします、閻魔様! 舌抜きだけは勘弁して!?」
……あれ。誰もいない……白い天井と壁があるだけだ。目の前にはテーブルがあるし……ここはベッドか? 要するに……
「俺、助かっちゃった!? イヤッホォォイ、やったぁぁぁ!!」
俺は生きているぞぉ!! ざまぁみろ蟹!! そう思ってリアルにガッツポーズを取ろうとした、その時。
「……ぎぃやぁぁぁぁッ!? いっでぇぇぇぇ!!」
痛い、超痛い!! そうだった、腹ぶち抜かれたんだった!! 患者の皆さん騒いでごめんなさい!!
「あの、雪村さん……病院ではお静かに……」
「すみませんでした! 謝るから、とりあえず痛み止めちょうだい!?」
「は、はい! 今点滴に繋ぐので、少々お待ちを……!」
その後、看護師さんは手際よく痛み止めを繋いでくれた。痛みが嘘のように引いていく、流石プロだね。
「ありがとう看護師さん、流石はプロ! 手際が違う!」
「元気そうですね……致命傷だったのに」
「あ、やっぱし? じゃあ俺、超ラッキーだったんですね! 今年の運勢は大吉だ!!」
看護師さんは苦笑している……生きてたことが超嬉しいので、テンションが上がっているのだ。怪我さえしてなければ、今すぐ某配管工ばりに大ジャンプ決めるとこなんだけど……無念。
「そんな軽く言っていいことじゃないですよ? 本当に死にかけてたんですから。近くにいたエルフの人が応急処置として回復魔法を使ってくれたから、なんとか一命を取り留めたのに……」
「えっ、マジ? 逃げてなかったんだ……優しいなあの人。あの人の好きな物とか聞いてます? お礼の品でも持っていこうかなぁ……」
「その話は後で本人に聞いてくださいね……ともかく、救急車で運ばれてきた後に5時間かけて大手術したことで、ようやく危篤を脱したんですから」
要するに残りHP1だったわけね、俺。病院の先生方、お疲れ様でした。肩揉みしましょうか? なんてことを考えつつ、一番の心配事を尋ねる。
「そういえば……奴はどうなりましたか? 俺のパンチでガラスに突っ込ませてやったところまでは、覚えてるんですけど……生きてません? ちゃんと死にましたか?」
「はい。その後監査が入りましたが、死亡が確認されているみたいですよ」
「よっし! そうか、ちゃんと奴は死んだんだな……!! よかったぁ……!!」
奴だけは殺しておかなければならなかった。悲惨な死を遂げた人を何とも思わず、唾を吐き、化け蟹の餌にしやがったクソ野郎……生きていたら、また繰り返すだろう。
「……抵抗、ないんですね。極悪人とはいえ、人を殺しちゃったのに……」
「あいつは……殺さなきゃならないって、思ったので。躊躇してたらやられてました……罪のない人がああいう奴らに殺されるくらいなら、俺が奴らを殺します。罪のない人達の分まで、戦いますよ」
「……そうですか」
俺は迷わない。もう、昔の俺じゃない……誰かを救いたいなら、守りたいものがあるなら、戦わなければならない。殺さなければならない……戦えない人の分まで、力が足りない人達の分まで……俺が全部背負って、殺し合おう。もう、覚悟はできている。
「俺が蟹野郎から守ってたあの三人……どうでしたか? 怪我とかはしてませんか?」
「それなら大丈夫ですよ。あなたのおかげで無傷です。あと、警察が色々と聞きたいと言ってました」
「そうなんですね……わかりました。ありがとうございます」
ボルキャンサーと、謎の鎧。奴は『仮面ライダー』と呼んでいたが……兎も角、知っていることは全て話そう。奴の拳を喰らって生きているのは、現状俺だけだ。
「では、私はこれで。お静かにお願いします」
「は~い……奴は一体、何だったんだ? 『危険因子』がどうとか、ミラーモンスターがなんとか言ってたが……」
しばらく考え込んでいると……警察の人が来た。
「失礼します。リモートで任意聴取を行わせていただきますね」
「はい、わかりました」
「よし、準備しろ」
警察の人達が機材を運んできた……何でもリモートでできる、便利だよな。
『……はじめまして。聴取を行いますので、可能な限り答えてください』
「なんでも聞いてください、知ってることは全部話します」
『では……お尋ねします。あなたは……財団Xという組織について、知っていますか?』
財団……X?
「財団X……知りませんね。なんですか、それは?」
『あの男が、たびたび電話をかけていた組織です。携帯電話の履歴から判明しました』
「関わった覚えは全くないですね……すみません」
いきなり協力できない。俺、いてもいなくても同じなんじゃね?
『いえ、責めているわけではありませんよ。次に、これは確認ですが……『仮面ライダー』『ミラーモンスター』という単語や存在に、聞き覚えは?』
「全くありません……いきなり襲いかかられたんです、危険因子がどうとかって言ってて……」
『やはりか……大体のことは監視カメラで把握しています。情報に相違はないようですね……『デッキ』を鏡にかざすと虚空から物が出現する? どんな御伽噺だ?』
どうやら、あっちも全くわからないようだ。
「……あの、質問いいですか?」
『構いませんよ、どうぞ?』
「その携帯から、財団Xを逆探知ってできないんですかね?」
できればやっている、と言われるのだろうか……そう思っていると。
『えぇ、我々もそう思いました。なので、即座に実行したのですが……逆探知して、私達が向かった場所はもぬけの殻……人がいた形跡すらありませんでした。警察犬すらも、匂いを辿れず……捜査は難航しています』
「……なんでだろう?」
『わかりません……手がかりはありますか?』
一つ、心当たりがある。ボルキャンサーの移動方法だ……
「……奴が言っていた『ミラーモンスター』、ボルキャンサーの移動方法……鏡面に入り込んで移動ができるようで。もしかしたら、それを使ったのかも……」
『なるほど……有り得ない話ではないが、やはり憶測の域を出ませんね。今のところ、入れる裏取りが取れているのは『ボルキャンサー』という個体のみ』
「やっぱりそうですか……あ、思い出した。聞きたいこと」
それよりも気になるのは、あれのことだ。奴は言っていた、『パンチ力が12tある』と。
『何かあったんですか?』
「はい……奴は『パンチ力12t』と言っていた、あれって本当なんですか? それとも、ただのハッタリだったのか」
『……本当です。現場検証などを行った結果、奴のパンチで壊れた壁にかかった圧力は凡そ12.5t。信じられない話ですが……とてつもない力だと、言わざるを得ません』
やっぱり……そうなのか。俺、よく生きてたな。
「監視カメラで既に見ているとは思いますが……奴は『デッキ』と呼ぶ四角いものからカードを取り出して、ハサミに挿入することで、武器や防具を呼び出したり、特殊な技を使うことができる……」
『えぇ……ですが奴の恐ろしいところは、それだけに留まらない。奴が使役する個体、通称『ボルキャンサー』ですが、ボルキャンサーの攻撃を受けた人の飛んでいくスピードや、ぶつかった時の壁の凹み方などを計測した結果……奴の力は、凡そ150tでした』
「イカれてんのか……?」
150t? わけが分からない。何をどうしたら、そんな威力が出るんだ?
『これで情報は全部ですか?』
「……そうだ、ひとつあった。ボルキャンサーが消えたのはご存知ですよね?」
『えぇ、勿論……撮影されていましたからね。砂のように消えてしまいました』
この様子だと、あれは知らないようだな。
「実は、ボルキャンサーが死んだ後……あいつの消えたちょうど上空に、黄色い玉が浮かんでいて……ヘリウム風船みたいに、どっかに飛んで行っちゃいました」
『そんなことが……確認してみます。貴重な情報、ありがとうございます』
「いえいえ、こちらこそ……協力できて嬉しいですよ」
役に立ててよかった。俺がいらない子になってたからな。
『奴は余りに強すぎた上、警察が来てもどうにもならなかった。よって、緊急避難として不起訴処分となりました。ご安心ください』
「ありがとうございます」
『では、私はこれで。ご協力ありがとうございました』
そう言って、通信は切られた。これで……俺にできることは終わりか。
「ご協力感謝します」
「いえいえ、また協力できることがあれば……」
「では、私達はこれで」
彼らは機材を回収して、帰っていった。
「……仮面ライダー、ミラーモンスター……財団X……全部聞き覚えないぞ? 一体なんなんだよ……」
どこかの国の先制攻撃? まさか宇宙人? そんなわけない……何一つわからん。
「倒した本人がわからねぇんじゃ、お手上げだな」
諦めて、自分の無力さをボヤいていると……また扉がノックされた。
「どうぞ?」
「……よかった! 起きてくれた!!」
「本当に、本当によかった……!!」
泣いている……泣かせてしまったのは、水色のエルフさんと潤羽さんだ。水色のエルフさんは、水色のロングヘアと水色のコート、目は金色で……白い帽子と白い服、あと花の髪飾りをつけている。腰にはベルトが巻かれているな……上品な感じだ、お嬢様だったりして?
「な、何もそんなに泣かなくても……」
「怪我は、怪我は痛くないですか!?」
「痛くない、元気元気! ほら、このとお……り!!」
起き上がってサムズアップしようとすると……痛み止めでも抑え切れない痛みが、襲いかかった。余計な心配はさせられない、耐えろ俺。
「無理しないで、寝てていいのです!」
「じゃあ寝てます」
「あっ、素直だね……」
寝てる体勢が一番楽だ。この体勢でいよう。
「改めて、助けてくれてありがとう……なのです!」
「私も……ありがとうございました!!」
「こっちこそ。水色エルフさん、回復魔法ありがとうございます。あれ無かったら、今頃俺はあの世で閻魔様に土下座してますよ」
本当によかった、宝くじの一等よりラッキーだ。
「あ、名前……私、雪花ラミィっていいます! あなたのお名前は……?」
「私ですか? 私は雪村康太。18歳学生です!」
「雪村、さん……いいお名前ですね」
そうか? 俺の名前、結構モブネームだと思うんだけど。でも、褒められたら嬉しいな。
「褒めても何も出ませんよ? あっ、でも現在進行形で血は出てますね」
「ふふふ……面白いですね、雪村さんって! なんだか、罪悪感とか感じてたのがバカバカしくなってきました」
「るしあも……!」
この二人に罪悪感を被せるのは、俺の本意ではない。取り除けてよかった……
「そうだ、これ……お見舞いです! 怪我が治ったら、食べてくださいね!」
「お菓子……! ありがとうございます、またいただきますね!」
「るしあはこれ……いい匂いのするお花! ここに置いとくのです! マリンがこれにするといいって!」
おぉ……なんか、気分が安らぐ匂いだな。
「ありがとうございます! その心遣いが嬉しいです!」
「じゃあ、また学校で……!」
「はい、わざわざありがとうございました!」
……優しい人達もいるんだな。こんなにたくさん……
「ちょっと寝るか……」
潤羽さんが置いて行った花の香りを吸い込みながら、俺は眠りについた。
これから、雪村康太くんをよろしくお願いします。