仮面ライダーの、仮面の意味は。
時間は少し遡り、今井カンパニー外部。一破達は、雪村康太からの合図を今か今かと待っていた。ここはA班、一破がいる班だ。一破には珍しく落ち着きがなく、壁の前を意味もなく歩き回っている。
「……遅いな。雪村さんなら、もう終わってもいいような気もするが」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、一破さん。雪村くんのことだし……手間暇かけて、罠でも張ってるんじゃないですか?」
「鷹嶺先生……雪村さんのことを信頼しているんですね。あなたが一番心配しているものかと……」
心底意外そうに、一破が言う。だが、鷹嶺ルイは首を横に振った。
「昔はそうでした。彼が毎回酷すぎる目に遭うものだから、寿命がどんどん縮む……けれど、彼はいつだって自信満々で挑んで、最後には勝つ。もう、心配するのはやめました」
「フッ、なるほど。一理ありますね……じゃあ、私も彼を信頼することにします」
「それがいいかと……寿命が縮んで、この場でショック死しちゃったら、本末転倒ですよ?」
一破はそれを聞いて、少し笑う。
「ふふっ、そうですね……殉職もショック死も御免ですから、反省しないとな」
「彼は絶対に勝つ。彼がそう宣言したんですから、信じていましょう」
「はい。そういうことだ、二人とも……信じて待っていてくれよ」
鬼火二人に、一破が言う。鬼火に首は無いが……体を振って、頷いた。その時……
「……隊長! 雪村さんから合図が!!」
「何だって!? 噂をすればだな……やってくれたらしい、一斉に突入するぞ!! 壁を爆破しろッ!!」
「ほら、言った通りでしょ……彼はやるって言ったら、やるんですよ!!」
ズガドォォォン!!
爆裂音と共に、壁が吹っ飛ぶ。三方向からの一斉突入……今井の部下達も大混乱だ。
「仮面ライダーオーガ、機能停止!! 今井様も一方的にやられています!!」
「くそっ、何とかならんのか!?」
「警察だ!! 両手を上げて、兵器類や変身道具を全て捨てろ!!」
一破はサイガフォン、他はアクセレイガンを構えている。
「なっ……馬鹿な!? どうなって……」
「課長、西方向と東方向からの侵入が確認されました!! ライオトルーパー警備隊は壊滅!!」
「はぁ!? 重要な資料や設計図もあるんだぞ、奪われたら我々は処刑だ!!」
財団X職員が、大慌てしながら対応に追われている。
「ライオトルーパー警備隊だ、お前らが両手を……」
「お前らに構ってる暇はないんだ!! 『オーバード』!!」
「グハァ!?」
ライオトルーパー達の急所が突き刺されて、全員蒼炎と共に灰になる。
「流石ですね、鷹嶺さん……体は?」
「フゥ、フゥ……まだまだ、やれますよ!」
「……そういうことだ。戦っても意味はないぞ、やめておけ!! 最終警告だ、応じない場合は撃つ!!」
夥しい量の銃が構え直されて、鷹嶺ルイも自分の魔力で生み出した光の爪を輝かせる……
「わ、わかった……!! ほら、全て捨てたぞ!!」
「それでいい、そこを動くなよ……ん? 警報?」
「課長!! 今井様が……最終コード『Genocide』を実行しました!!」
その言葉と共に、そいつの顔が一気に青ざめる。
「なんだと!? 今井様は……私達を見捨てたのか!? そんな、嫌だ……死にたくない!! 助けてくれぇ!!」
「おい、どこへ行く!? 待てっ!!」
「これは何が起こっているんだ? 説明しろ」
一破が説明を求めると、研究員らしき男が震えながら答えた。
「正気か!? お前らも全員殺される!! あいつにだけは誰も勝てない、たとえ今井様でも、仮面ライダーでも!! エラスモテリウムが来る、みんな殺されて……」
「グギャアァァァァッ!!!」
「なんだっ!? ……あれは!?」
課長と呼ばれた男が逃げていた道が、えぐり取られている。落ちた床を見てみると、まるでプレス機でプレスされたかのような……無残な姿になっていた。
「あ、ああ……来た、奴が来た……建物が崩れる!!」
「エラスモテリウム……? どういうことかはわからんが、ともかく回収できるものを回収するぞ!! 回収前に建物が崩れたら、せっかくの努力が水の泡だ!!」
「正気かよ!? とにかく俺は逃げ……うげっ!?」
どさくさに紛れて逃げようとした男に、手錠がかけられた。
「一緒に来てもらう、参考人としてな。他の奴らも順に逮捕して、外に出しておけ」
「了解!!」
「さてと……目ぼしいものはあるかな」
今回は準備万端だ、書類を入れるための鞄などがきちんと用意されている。目に付いた書類を次々に放り込んでいく……
「あ、あっちとこっちにも資料室がある……雪村康太なら、このコロシアムにいるはずだけど……」
「そちらの資料室は、B班とC班に回収させるとして……よし、資料を回収した者から撤退してくれ。私と鷹嶺さんは雪村さんを追いかける。それで構いませんか?」
「嫌だなんて言うとでも? どんなことになったって、彼は私の生徒さ……」
外に連れられて、職員が警察と共に逃げてゆく。それを見守りながら、一破が思考していた。
「エラスモテリウム……何のことだ? 確か、恐竜の名前だった気が……」
「雪村くんにあやめちゃん、無事でいてくれよ……!!」
「そうですね、ともかく早く向かわないと……! 雪村くんなら、何か知っているかもしれない!!」
希望を抱きながら、コロシアムへ向かう一破達。その希望が叶うかはまだわからない。一方、雪村康太は……
目の前のデカブツを退かすために、全力で走る。こいつさえ退かすことができれば……あやめを救えるんだ。気合入れろよ、俺!!
「聞こえねぇなら……無理やり退かして進むだけだ!!」
「ギャオォォォォン!!」
「うるせぇよ、騒音被害で訴えられるぞ!?」
エラスモテリウムのうるさい咆哮に文句をつけながら、地面を踏みつける。勢いを利用して、膝を奴の足に突き刺した……だが。
「……効かないのか!?」
「グォォォォッ!!!」
「うぉっと……!! 危ない危ない、こいつは一発が即死級だ……だけど、何とか退いてもらわねぇとな……!!」
でも、どうしようか……攻撃は効かない、多分この感じだと銃も通用しないだろう。なら、あと効果があるのは……
『Leady』
「これっきゃないな!! チェック!!」
『Exceed Charge』
漏れ続けるフォトンブラッドを手で抑えながら、光を銃に収束させる……ただ撃つんじゃダメだ、今の目的はあやめを助けること……なら!!
「ほら、恐竜!! こっち向け!!」
「ギャオォォォ!!」
「喰らえ!!」
暴れているが……構わず蹴り込む。
「だぁりゃあぁぁっ!!」
「グギ……グォォォォォッ!!!」
「うぐっ!?」
やっぱりダメだ、貫ききれない。こいつ、アホみたいに硬いな……だけど!! それも計算のうち!! 崩れた体勢を空中で立て直して……壁を蹴る。ライダーのジャンプ力で大きく跳んだ。
「……っし、乗った!!」
「ウギャオォォォン!!」
「すぐ降りてやる……よ!!」
あやめの方へと飛び降りて、オーガフォンとあやめを回収する。
「あやめは……寝てるな、疲れてたんだろう……うぉあっ!?」
「ギャウゥゥゥッ!!!」
「背中に乗られたのが、余程ご不満だったと見える……短気だな!!」
あやめとオーガフォンを持って、攻撃を避ける。とりあえず、安全な場所に向かわせないとな……そう思っていたのだが。
「いい加減にしろよ、デカブツ……この子は関係ないんだよ!!」
「ガルアァァァァッ!!!」
「しまった、避けられな……」
咄嗟にあやめを安全な方へ投げる。まともに食らって壁にめり込んだ。血反吐が止まらない、内蔵が大分傷ついたらしい……なんて威力してんだよ。
「ぐ、ぶっ……あやめ!!」
「……こう、た、さま……?」
「グルオォォォォォッ!!!」
血反吐を吐きながら、奴を見つめていたが……赤色が目についたのか……俺を執拗に狙ってくる。針を避けたが、奴に踏みつけられた。
「うっ……グゴッ!!」
「康太様ぁ!!」
「ギャウゥゥゥン!!」
怒りのままに何度も、何度も踏みつけられる。地面に埋め込まれながら、内蔵が傷つく度に目の前が紅に染まる。地面に重たいものが叩きつけられる音が、体に響いて骨を叩き割る。
「ギ、ゲァッ、ガ……カ……」
「ヴォォォォォォッ!!!」
「やめてっ!! やめてよ!! 康太様が死んじゃう!! お願い、やめてぇぇ!!」
あやめが必死に叫んでくれている……優しいなぁ、あやめは。だけど、こいつに言葉は通じないんだ。攻撃が避けられないから、地面に埋まり続けるしかない……やがて、地面の方が耐えきれなくなって……地盤沈下が起きた。地盤と一緒に崩れ落ちて、岩の中に埋まる。
「ゴ、ガッ……」
「ギャオォォォォッ!!」
「そんな、康太様……やだよ……!! ねぇ、返事してよっ!!」
奴の勝利の雄叫びが聞こえた。それと同時に、あやめの悲痛な声も聞こえる……奴の足音が響く、あやめを殺すつもりか? させるかよ……そう思って、瓦礫を殴り飛ばす……
「……勝手、にっ、殺す、な……ごふっ、ガハァ!!」
「ギャウゥゥゥゥン!!」
「効か、ねぇな……もっと強い攻撃はできねぇのか!? 怪獣、野郎が……!!」
ぶっ飛ばされても、声を張る。こちらに注意を引きつけろ……あやめを逃がすんだ。
「康太様!! やめて、死んじゃう!! 勝てないよ、お願いだから逃げて!!」
「言った、だろ? ついちゃいけない嘘はつかないさ……絶対にな。俺は……あやめを助ける。今言ったから、嘘はつけなくなった、なぁ……わかったら逃げろ、あやめ!!」
「やだよぉ……!! もう二度と会えなくなるのに、なんで行かなきゃならないの!?」
あやめは言うことを聞いてくれない……二度と会えなくなるから、か。確かにな……まずい状況だ、でも言ったからには守らないといけないんだよ。
「グォォォォォーッ!!!」
「え……こっちを向いた!?」
「おい!! ふざけんな、こっちを向けぇ!!」
叫びながら殴っても……効果がない。ルシファーズハンマーは間に合わないだろう。
「……いいよ。食べるなら、余を食べて!!」
「なっ……あやめ!! お前何を……!!」
「グルルルルルッ!!」
あたかも、餌の前で『よし』と言われた犬のように、あやめに向かっていくエラスモテリウム……何故?
「いいの。康太様は逃げてよ……お願い!! だって、余は康太様を苦しめた……痛い思いも、たくさんさせた。だから、もういいの。二人だって……起きないだろうし」
「ガァァァァァッ!!」
「……じゃ、ねぇ……」
俺の顔が仮面で見えないのはわかっている。でも……今だけはわかる。俺の顔は……混じりっけなし、100%の怒りに満ちていた。
ふざけんじゃねぇぇぇッ!!!
「グォォォォォォ!! ……グッ!?」
「え……なんで……? なんで!!」
「俺に痛い思いさせたのがなんだ、それはあやめのせいじゃねぇだろ!! 二人が起きない!? 未来予知でもできんのか!? そんなわけねぇだろ、これからの運命なんて誰にも分からない!! だからこそ……運命ができる限りいいものになるように、人生を精一杯生きるんだろうが!! それをもういいとか……ふざけんな、お前が俺を嘘つきにする気か!! 柊真さんも百合香さんも、業も不知火も、先生だって……みんなあやめの帰りを待ってる!! 勝手に自分の人生を……諦めてんじゃねぇぇッ!!!」
折れている腕で、エラスモテリウムの足を受け止めた。ブチブチと音が鳴っているが……気にしない。気にしている余裕はない。
「康太、様……でも、だって……」
「どうしても生きてるのが嫌なら……俺を痛めつけた罰だ、生きろ!! どんなに嫌でも、精一杯生き切れ!! 一生かけて償うんだ!!」
「……ぐすっ、うっ……なん、で、どう、して……そんな、にっ……」
また泣いている……そんなに嫌なのか。でも、生きてくれないと困るんだよ。俺も、業も、不知火も先生も。だから頼む、生きてくれ。
「ウォォォォォッ!!」
「この……クソッタレが!! チェック!!」
『Exceed Charge』
一瞬手を離して、無理矢理ドリルを打ち込む。そこから、急いで蹴りこんだ。
「だぁぁりゃあぁぁぁッ!!!」
「グォ、ォ……ガァァァァッ!!」
「……ようやく、もう一撃、入った、な……痛ぇ、だろ……?」
周りから顔は見えないだろうが、仮面の下でニヤニヤと笑っている。いつもの俺の十八番、挑発的な笑いだ。奴はバランスを崩して横転した……
「康太様……余は……」
「続きは帰ってから、聞いてやる……帰れたらだけど、な……」
「えっ……康太様、後ろ!!」
後ろを振り返った……奴が針を撃ってきていたのだ。あやめを突き飛ばして、咄嗟に腕で防御したが……いとも容易く貫かれ、腕に大穴が何個も開いた。そこから何か注入されている……
「康太様ぁぁぁっ!!!」
「グルルルルッ!!」
「……痛くて怒り心頭か? 超大型犬よ……ぬぁぁっ!!」
抜いた地点から、血が溢れ出す。ダメだ、毒はどんどん回っている……だけど。
「康太様、やだよ……!!」
「やだも何もあるか、お前だけは……」
「うぉらぁっ!!」
ここにいない人の声がして、扉が吹っ飛ぶ。一破さんと鷹嶺先生……来てくれたらしい。エラスモテリウムはまだ倒れたままだ……攻撃が当たって満足か、エラスモテリウム?
「あれが……エラスモテリウム!? デカい……!!」
「灰色ってことは、オルフェノクなのか!? 大きすぎるぞ、本当に人間が変身しているんだろうな!?」
「……二人とも、ちょうどいいところに!! 待ってましたよ!!」
精一杯、元気な声を出す。二人に心配をかけないようにだ。
「雪村さん……ですか? でも、その姿は……!?」
「仮面ライダーデルタ……要するに、仮面ライダーになれたんですよ!!」
「そうなのか……とりあえず、あいつはどうにもできない!! 一旦撤退だ!!」
先生達に撤退を促されたが……それはできないな。
「そうだよ、早く撤退して……」
「いや、僕はこいつを灰にします。あやめを連れて逃げてください」
「なっ……無謀だ!! こんなデカブツと一人でやり合うなんて、それにこの建物は崩れる!! 生き埋めになりますよ!!」
一破さんが訴えかけてくるが、聞けない。聞くわけにはいかないんだよ。
「こいつを放っておいたら……絶対に被害が出る!! たくさんの人が犠牲になる!! そんなことは許しておけない……だから、戦う!! 絶対に殺すんだ!!」
「無理だよ、何度も血反吐吐いてたし……踏みつけられすぎて、骨だって砕け散ってるよ!!」
「なんだって!? なら、尚更無謀で……」
その時だけは……仮面ライダーが、『仮面ライダー』であったことに感謝した。何故なら。
「……でも証拠がないぜ、あやめ?」
「え?」
「俺は血反吐なんて吐いてない、攻撃だって少し受けただけだ。胸の傷も浅いし……大丈夫だと思いますよ?」
嘘だけど……バレることはない、何故なら『仮面』があるからだ。顔が見えないなら、確認のしようがない。
「確かにそうだけど……でも!!」
「僕はまだまだやれます、だってほぼ無傷なんですもの!! 早くあやめを連れて、撤退してください!! 記憶も混濁しちゃってるみたいで!!」
「そ、そんなっ……!!」
これで戦い続ける理由ができたな。オーガフォンも、一破さんに預ける。
「勝てるんですか、こんな化け物に!? うわっ……!?」
「勝てる見込みがないのに、僕がこんなこと言ったことありますか!? それは仮面ライダーオーガの携帯ですよ!!」
「……そうだね。君はこれまでも、無謀に思える戦いに勝ってきたし……わかったよ。あやめちゃんは私が持ちます、一破さん。しつこいようだけど……死なないでね、雪村くん!!」
よかった、信じてくれた……そしてごめんなさい、平気なのは嘘だ。でも、これは……最悪の嘘を避けるための嘘だから許して欲しい。
「ここは僕が食い止めます……!! 早く行ってください、建物が崩れる前に!!」
「わかりました……行きましょう、鷹嶺先生!! 百鬼さん!! B班とC班に告ぐ、直ちに調査を終了して帰還しろ!! 繰り返す……!!」
「ダメぇっ!! 康太様が死んじゃう!! 離してよっ!! なんで、なんでなの!? 康太様ぁぁぁぁ!!!」
あやめの叫びが遠ざかる。三人が逃げてゆく……ハンデなしのタイマンだ、絶対に勝たねばならない。たとえ死んでも……こいつは道連れにする。奴らの嫌いな仮面ライダーとして……!!
「ごぶっ、がはっ、ごほ……!! かかってこいよ、超大型犬!! 火葬して灰にしてやるぜ!!」
「ガァルルルルルッ!!!」
「食うはずだった餌を取られて、イライラしてるのか!? 俺を殺してみろよ、俺に集中しやがれ!!」
明らかに怒っている。なら、あとは殺処分するのみ……なんだけど、攻撃が効かない。
「手の光が消えて……胸を切られたのが痛かったか……!!」
「グルァァァァァッ!!!」
「グガッ!!」
突撃を受けて……壁に叩きつけられた。毒はどんどん回っている、腕から灰が漏れてきた……もう、長くは持たないか。
「まだ、まだ……ここから、だぜ……」
「ウォォォォォッ!!!」
「ッ……ゴ、カァァ……ァ……」
腹を角に貫通されて、思い切り投げ飛ばされた。何個も部屋を突き破って、頭をぶつける。頭から血が出てる、ダメだ……何も出来ずに死ぬのか? ふざけるな、約束を守れ。無理矢理立ち上がる……目の前が片方見えないな、カメラが壊れたんだろうか。
「へ、へっ、それで、勝ったつもり、か?」
「グルルルルッ!!!」
「……まだ、やれる……」
どうにか針を躱した。腕がどんどん灰になって、使い物にならなくなっていく。
「何か、ないか……奴を殺せる、手立ては……あ?」
「グルァァァァッ!!!」
「これは……金庫?」
厳重すぎる……デルタギアより厳重だ。ならば……そう思って、こちらに向かってきているエラスモテリウムに投げた。案の定、俺と他の物の区別はつかないらしく……奴はその場で停止した。金庫が無理やり開けられる。
「これは……なんだ? 赤い道具?」
『万が一撃破された場合、神谷勇気に使用される可能性あり。よって、ファイズアクセルと共に使用を永久凍結する』
『不良品。ブラスターフォームへの変身に必要な、人工衛星のイーグルサット開発断念のため、廃棄する。フォトンブラッドの充填をしていないので使用不可』
……その横に、『555』の数字が描かれていた。赤くて一際大きな道具に、付箋が貼り付けられている……
『555 BLASTER Blade Mode→143+ENTER』
『555 BLASTER Buster Mode→103+ENTER』
「やってみるっきゃねぇな……」
というか、賭ける以外に方法がない。充填をしてないなら、バスター……銃は無理だ。なら、剣しかないだろう。番号を入力する……
『Blade Mode』
「出たけど……消えかけ、か。こいつも長く持たないな」
「グォォォォォッ!!!」
気づかれたらしい、こっちを見ている。どうにか避けているが……クソ、隙がない。本当にどうする? 攻撃を俺が喰らえば、こいつは止まるだろうけど……急がないと剣が消える。そうなったら、また振り出しだ……待てよ、攻撃を食らったら止まる? それなら。
「うぉぉぉっ!!」
「ガォォォォーッ!!!」
「……ほら、念願の餌だぞォ!!」
灰になって消えかけの腕を奴に差し出す。目の前に何かあることがわかったのか、腕に食らいついてきた……そのまま引き抜く。血が凄まじい勢いで溢れているが、奴は止まった。腕を味わっているようだ。
「最後の晩餐、よく味わって食べやがれ!! 隙ありだ!!」
「グギャアァァァァーッ!?」
「効果抜群だな……!!」
そのまま切り下ろそうとしたのだが……やはり、失敗した。暴れるあいつに跳ね飛ばされたのだ。
「ぐぶっ……人生初の激痛は、どうだ?」
「ギャオォォォォン!!!」
「……仮面が割れた……」
仮面の片側が割れて、顔が出た。血溜まりに顔が映る……あぁ、青白い。ほとんど死んでる……でも。
「諦めて……たまるかァァ!!」
「ギャオォォォッ!!!」
「滅茶苦茶な撃ち方しやがって……それが命取りだ!!」
隙をついて……飛び上がる。奴から剣が抜けかけてる、このチャンスを逃したら、絶対に勝つことはできないだろう。だから、頼む。俺に力を貸してくれ……!!
「チェック!!!」
『Exceed Charge』
「ウガァァァァァッ!!!」
力が溜まって、フォトンブラッドの光が消える。もう残量がないらしい……放てるのはこれ一発だけだ。跳んで、狙いを定めた。練習の時を思い出せ……冷静になるんだ。
「そこだァ!!」
「グォォォォォォッ!!!」
「よし!!」
ジャストヒットだ。あとは……俺の力に賭けるしかない。
「だぁぁりゃあぁぁぁーッ!!!!」
「グゥオォォォォォッ!!!!」
「ぎ、ぎぎぃ……!!!」
ルシファーズハンマーで、剣を無理矢理押し込んだ。剣にヒビが入っているが、気にしている暇はない……今にも吹っ飛ばされそうだ。意識がどんどん、消えていく。
「こんな、ところでっ……終われ、ない……お前だけは、殺さないと……!!!」
「グギャアァァァァァッ!!!」
「く、そ……」
意識を失いかけた、その時。『何か』が見えた。走馬灯? いや、こんな記憶俺にはないぞ。聞こえてくる、鮮明な音声が……
『俺はオルフェノクとして生きていく!!』
『ファイズは……闇を切り裂き、光を齎すのよ!!』
『キッついなぁ、お前の期待に応えるのは……!!』
オーガだ。でも、あやめじゃない……誰だ? 女の人が囚われていて、その人に応えるように赤いライダーが立ち上がっている。
『木場さん!!』
『約束して……俺のできなかったことを、君が……!!』
『どけ。俺の歩く道だ!!』
……木場さん? 仮面ライダーオーガは、木場という名前の人が変身するのか? 最後に映ったあの人は……? 状況は何ら変わりない……
「ぐぅぅ……!!」
「ギャアァァァァッ!!!」
「ッ……!!!」
ダメだ、振り払われる。そう思った時……誰かに背中を押された気がした。
『……諦めんな。行け!!』
「ぐっ……だあぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「グ……ガ……」
キックが終わって、ドリルから飛び出した。バラバラになったファイズブラスターが、横たわっている……暴れていたエラスモテリウムは静止して、ピクリとも動かない。だが、すぐに……理由はわかった。
Δ
大きな青白い記号が浮かんで、奴が赤い炎に包まれていく。灰の零れ落ちる音が聞こえる……死んだんだ。
「……あ……」
血溜まりに沈む。終わった、俺も死ぬんだな……そう思って、目を閉じる。次に目を開けると、そこには……静かな原っぱがあった。
「ここは? 天国って感じじゃないけど……」
「それの一歩手前だ」
「あなたは、さっきの声の人……あの、ありがとうございました!!」
お礼を言うと、その人は俺の隣に座って言った。
「別に、礼言われるようなことはしてねぇよ。ただ……見てられなかっただけだ」
「それでも、ありがとう……!! あなたのおかげで勝てました!!」
「あー……お前、啓太郎みたいだな」
啓太郎? 誰だろうか?
「もしかして……友達の名前?」
「……そうだな。あいつは友達だよ、大切な。ふぅ、ここは落ち着くな」
「そうですね、なんか安心します」
一緒に寝転がる。風が心地いい……
「俺は色んな世界を旅してきた。俺みたいに、人の夢や平和を守る奴らが、他の世界にもいて……見る度に嬉しくなってたもんだ」
「……旅人なんですか?」
「そんなところだ。まぁ……もう死んでるけどな」
死んでいる? そうか、だから……
「幽霊って……ことですか?」
「まぁ、そうなんのかな……なんだよ、幽霊だったら悪いか?」
「悪いわけじゃないです、そうか……死んでるのか。この世界にも旅をして?」
彼はゆっくり頷く。
「あぁ……それと、ありがとな」
「え? 感謝されるようなこと、したっけ?」
「お前、変なもん見ただろ。あれ……別世界の俺の記憶なんだ。俺も見たんだよ、死んだ後に……だけど、俺の世界でも、その世界でも……木場は死んでた。たくさん守りたいヤツがいたけど、みんな死んじまった」
悲しそうに言うその人は、ぶっきらぼうな雰囲気だけれど……誰よりも優しいってことが、わかる。
「でも、それとどう関係が?」
「あいつに殺されたんだよ、別世界の木場は。でも……お前はあいつを倒して、木場じゃなくても……いいやつを助けてくれた。だから……ありがとな」
「……こちらこそ。力になれて嬉しいです」
お礼を言い返す……
「俺はしばらく、この世界を見て回る。お前はどうする?」
「戻りたいですけど……無理ですよね」
「まだ行ける。お前は死んでねぇ……戻るなら急げ」
そう言われて、少し急いで走る。
「あ、そうだ!! あなたの……名前は?」
「……乾巧だ。お前は?」
「雪村康太です……!! あなたはなんで、戦ったんですか? どうしても気になって……」
聞いてみると、話してくれた。
「みんなの夢を守りたかったからな……そのおかげで俺も夢を持てたんだ」
「……その夢、教えてください!!」
「いいぜ。……だ」
とても素敵な夢を聞かせてくれた、乾さん……なら。
「最高じゃないですか……僕も同じ夢を持ちたい。あなたの夢を継いでいきたい!!」
「……勝手にしろ」
「ありがとうございます! じゃあ、ボンボヤージュ (いい旅を)!!」
そう叫んで、光の方へと全力で走る。
「……ありがとな、雪村」
「どういたしまして……」
「ヘッ……」
その声を最後に……草原は消えた。激しい苦痛が襲いかかる。
「グ、ごはっ……建物、が……」
どんどん崩れている。ダメだ……走れない。どうする? 何ができる? 考え込んで……やっと思いついた。あそこに書いてあった、コードが使えれば……!!
「スリー、エイト、ツー、ワン……」
『Jet Sliger, Come Closer.』
「ジェット、スライガー……?」
ファイズブラスターの欠片を持つ。これは持ち帰りたいんだ……そう思っていると、地面から大きなバイクが出てきた。
「これが……く、そ……」
這って乗り込む。もう崩れる、間に合わないか……タッチパネルを急いで操作した。
「フォトン、ブレイカー……方向、上……行けぇぇッ!!」
タッチパネル通りにレバーを引いて、出発させた……エンジン音が鳴り響き、上空に向かって大きく飛ぶ。目の前に光の壁のようなものが生成されて、瓦礫を吹き飛ばしてゆく。外が見えた……風圧がマシなのは、これの機能なんだろうか。
「うっ、ぐ……こっち、だよな……!!」
思いっきりレバーを動かして、入口の方へと行った。下に降りて……ブレーキの警告が出たので、その通りにする。勢いを殺しきれず、放り出された。
「あれは……まさか!?」
「雪村くんなのか!?」
「康太様!!」
地面を転がって、光が消える……変身が解けたんだ。
「酷い怪我……ハッタリだったのか!? この怪我で!?」
「腕がない!? なんてことだ、これじゃ戻せないぞ……!!」
「康太様ぁ、死なないで……!!」
もう、意識を保てない。でも……勝ったんだ。それくらいはいいか……いつものことだし。そう思って、俺はいつものように気絶した。
仮面ライダーは、みんなのヒーロー。