夢を守る者。
ジェットスライガーから放り出されて、変身が解除された雪村康太に、三人が駆け寄ってくる……必死に隠していた惨たらしい傷が、全て露になってしまった。
「なんでこんな状態で嘘をつけたんだよ、あの人は!? 鷹嶺先生、わかります!?」
「いや、これは流石に……成長というか、人間でなくなってきているような気もする……」
「こ、康太様……死なないで!!」
必死に手を伸ばすあやめ。骨が折れているのに……
「無理しちゃいけません、大人しくしてなさい!!」
「でも、康太様が!!」
「というか、なんでこの状況で笑ったまま気絶できるんだ? エラスモテリウムはどうなった……?」
そう言っていると、今井カンパニーが完全に崩落してしまった。
「崩れた……これで、奴らの計画は完全に失敗か……エラスモテリウムが出てこないってことは、雪村さんが本当に倒したのか? どこまでも規格外な人だな……」
「今井って奴がどうなったのかも気になるけど、兎も角今は……!!」
「早く、早くしない、と……う……」
余程疲れていたのか……倒れ込むように、百鬼あやめも眠ってしまった。
「雪村さんは私が持ちます、今救急車を呼びますね!! 死なないでくださいよ、雪村さん!!」
「これがデルタギアか……この赤い欠片が何なのかがよくわかんないけど……こよりに渡して見てもらおう」
「雪村さんはよくやってくれました……おかげで仮面ライダーの力を、こちら側も使役できるようになったんですからね。変身者は雪村さんですし、誰も文句はないでしょう」
安心したように言う一破。それもそのはず、今までは仮面ライダーの力に怯えるしかない日々だったが、その力と装甲をこちらも使用できるようになった……それだけでも十分すぎる収穫なのに、雪村康太は財団Xに大打撃を与えて、切り札の化け物を倒し、変身アイテムを持ってきたのだ。
「そうですね……雪村くん、君は本当に何をやるかが読めない男だね。無論、いい意味だけど……そこだけはどんなことがあっても変わらない」
「ただの一般人だって彼は名乗ってますが……それも嘘八百だったりしてね? 本当は、何か凄い一族の末裔だったりして」
「ないと思いますよ? それなら、何回も死にかけてる時に、能力が発動しないのがおかしいですし……」
雪村康太は努力と闘志でここまで登りつめて、財団Xと戦っている。文字通り死にものぐるいで努力したからだ……一般人にもできることを、普通ならできない程にやった。ただ、それだけ……
「それもそうか……おっと、来てくれたか」
「患者を搬送します!!」
「この二人、お願いしますね。私達も付き添いますので」
担架で二人が運び込まれる……扉が閉じられて、車が走り出した。
「二人の症状は?」
「わかりません……本人達が何をしていたのか、全く不明でして」
「困ったな……それでは治療ができない」
それを伝えた鷹嶺ルイも、考え込んでいる。そんな時、一破が目を開いた。
「そうだ! 少し待ってくださいね……あぁ、一破だ。重要参考人の職員に繋げ……」
「一破さん、何をするんですか?」
「もしもし……お前にこの場で尋問を行う。百鬼あやめさんに何をした?」
自分達がわからないなら、やっていたであろう人達に聞く。合理的な考えだ……
「なるほど、その手があったな……」
「……そうか。百鬼あやめさんはデモンズスレートの投与や、身体強化剤による身体強化が成されているそうです。人工透析が必要ですね」
「わかりました。仮設病院の方に連絡しておきます」
だが、もっと重篤なのは雪村康太だ。回復薬が点滴で繋がれているが……雪村康太の体が少しだけ、灰になる。
「体が灰になったぞ!? どうなってるんだ!?」
「オルフェノクエネルギーか!? そういえば、腕に穴が空いていたが……聞かせてくれ、雪村康太の腕に穴が空いていて、灰になってきている。穴の空いた腕は喪失しているが……何が起こった? ……これもエラスモテリウムなのか!? わかった……ありがとう」
「わかりましたか?」
そう言われて、一破がゆっくり頷く。
「はい、原因がわかりました……血液中にオルフェノクエネルギーを流し込まれているそうです。刺さった部分がなくて、血がたくさん出ているなら少しはマシだろうけど、それでも一日で灰になると……」
「エラスモテリウムか……なんて攻撃を……!!」
「人工透析が必要だな。血は止まっているが……出血性ショックの状態だ」
輸血パックが取り替えられつつ、病院へと向かう救急車。
「もしもし、一破だ。尋問は一旦終わりだ、あとはお前達に任せるよ。私は二人について行かせてもらうよ、用事があれば電話してくれ」
「到着したぞ!! 早く運び出すんだ、他の臓器も灰になる前に!!」
「私も手伝います!!」
そう言って、全員が二人を運び出していく。ICUへと運ばれた雪村康太は、すぐに治療を受け始めた。目まぐるしくベッドや機材が動き回る。百鬼あやめも、個室で人工透析を受けている。
「先生、二人の状態は?」
「百鬼さんの方はデモンズスレートさえ抜ければ大丈夫です……ですが、雪村さんの方はよくありませんね。体を何針も縫いました。片腕は全損なので、回復魔法で時間をかけても直せない……あんな状態で動けるはずがないのに、本当に戦っていたんですか?」
「はい。信じられないことですけど……」
医者が頭を抱えている、何故動けたのかが謎なのだ。
「彼は理屈や作戦で勝つ人なのに、理屈の通じない部分があるなんて……」
「でも、そのおかげで私達は救われてきた」
「確かに、それはそうですが……兎も角、しばらくは絶対安静です。回復薬で傷が塞がるのを待つしかできない状態なのでね……」
寝かされた雪村康太が見えている。大怪我が、酷く痛々しい。
「……まだ起きませんよね」
「はい、恐らくは」
「じゃあ、目覚めたら連絡してください。私も、警察の仕事をしに行くので」
二人が立ち上がって、それぞれ違う方へ歩いていく。
「私も学園長の方に報告しに行きます」
「雪村さんが目覚めたら、またお会いしましょう」
「はい。では、また」
二人はそう言って、病院を離れた……それぞれの役割を果たすために。
……起きてみたら、片腕の感覚がない。そうだ、超大型犬にくれてやったんだったよな。指は動く、足もあるな。
「起きても痛いな……大分やられたもんなぁ。あやめはどこだろう? まぁ、二人なら無事に連れ帰ってくれただろうし……大丈夫か」
エラスモテリウムはそれ程までに強かった、乾さんが助けてくれなかったら……今頃、俺はミンチにされて奴の飯になっているだろう。
「だけど、俺はやったんだ……今井は食われて確実に死んだし、出資者達もこれで愛想を尽かすだろう。最強の仮面ライダー、オーガを破られた以上、次を作るのは時間がかかるはずだ。普通の仮面ライダーを作ってるだけじゃ、勝てないからな」
財団Xは阿鼻叫喚だろう、せっかくの作戦は大失敗。金はないし、会社は物理的に潰れたし……少なくとも、大ダメージが入ったことは確かだ。
「ざまぁみろ、財団X……ついでに、デルタギアもぶん盗ってやったし……こちらにあるのはメリットばかりだ」
失ったものはある。それでも、勝ったんだ……
「……お目覚めですか、雪村さん」
「あ、お医者さん。お久しぶりです、何日寝てました? あやめは?」
「三日間です。あまりに酷い怪我だったので、ビックリしましたよ。百鬼さんなら大丈夫です、ぐっすり寝てますよ」
よかった、あやめ……お医者さんには迷惑をかけてるな。
「ありがとうございます、それと……怪我した代わりに色々やってきましたよ」
「えぇ、そのようで……財団Xの支社と見られる今井カンパニーは壊滅。仮面ライダーに変身できる者が現れたことで、士気は上がってきているようです」
「それはよかった。変身したのは間違いじゃなかったな……仮面ライダーデルタは僕だってことも、知れてるんですかね?」
お医者さんが首を縦に振った。当たりらしい……
「そうですね。仮面ライダーデルタに変身したのが雪村康太だって、でかでかと書いてありましたよ」
「……待てよ? それが知れてるなら、オーガがあやめだったことも……」
「はい……書いてありましたね。デモンズスレートと幻覚剤で洗脳されていたと……」
そうか、やはり書かれているか……それだと少し心配だな。
「心配ですね、また暴れる民衆が出てくるかも……」
「いえ、それはないかと。一度財団Xに皆殺しにされてからは、テロは収まっています……行動する心より、恐怖の方が強いようですね」
「……嫌な気分だな。市民のテロをテロリストが止めたなんて、最悪じゃねぇか」
扇動された市民も、財団Xも……テロリストって点では何ら変わりない。テロでテロを止める、それじゃ何一つ解決してないだろ……違うテロリストが出てきただけだ。罪のない人達が死ぬ事実は変わらん。
「財団Xが完全に無くなれば、テロも自然消滅すると思うのですが……それまでは相手をしなければならないのが辛いですね」
「怖いからって私達に八つ当たりしても、被害者が増えるだけなんですが……」
「テロをする奴らはそれが分からなくなっているんですよ。だから警察や軍隊があるんです、そういう奴らを力ずくで抑え込むために」
そうだな……俺も暴力機関である以上、テロリストの相手をしなければならない。
「そうですね。一破さんも私も、命懸けでそういう奴らと戦うためにいるんです……」
「でも、今は休まないと。絶対に動けませんから」
「やろうと思えばいけるような……」
そう言ったら、ため息を吐かれた。
「はぁ……とにかく、安静と言ったら安静なんです。わかりましたか?」
「……わかりました」
「先生! 百鬼さんが意識を取り戻しました!」
看護師さんが来た。起きたのか、よかった。
「わかった、すぐ行く。では……私は行きますので」
「ありがとうございました」
「またお食事をお持ちしますね」
こんな時まで大変だな、皆さんは……本当に迷惑ばかりかけている。
「すみません……」
チップでも払いたい気分だな……そう思って、ベッドに寝転がり続ける。
「……雪村さん、失礼します」
「一破さん、鷹嶺先生も……お久しぶりです」
「無事でよかったよ、本当に死ぬところだったんだ……まさか、腕が吹っ飛ぶなんてね」
腕を食わせたんだ。あいつの餌にした……全ては、勝利のために。
「エラスモテリウムに食わせたんですよ、灰になってきていたので……奴の動きを止めるために」
「自分から腕を食べさせようだなんて……本当に無茶苦茶だな」
「褒め言葉として受け取ります」
俺がそう言うと……目の前にデルタギアが出てきた。俺が装着していた奴だ。
「今日来たのは、他でもない……これが気になるからです」
「デルタギアですか……見ての通り、仮面ライダーの変身アイテムですよ」
「変身する時の感覚とか、その後はどうだった?」
質問攻めだ、よっぽど気になるんだな。
「変身する時は特に……目の前が光に包まれたくらいで、何ともなかったです。でも、これ……デモンズスレートが脳に注入されるみたいでね。僕は何とかできましたけど、普通に使ったら惨事が起こりますよ」
「そんなに危険なものなのか……!? 建物の中に普通に置いておくなよ!!」
「多分、建物を崩すと同時に廃棄するつもりだったのかと……エラスモテリウムで、あやめも使い捨てにするつもりだったみたいですし」
それを聞いて、怒りを露にする鷹嶺先生。
「ふざけるなよ……私の生徒を使い捨てだと?」
「やはり……外道の集団か。山崎の話を聞く限りだと異世界から来たらしいが……何故、この世界に来た?」
「ライダーを殲滅したい、らしいんですけど……奴らが憎い仮面ライダーに、何度も辛酸を舐めさせられたみたいなので。僕が仮面ライダーになったのは、完全に想定外だったようで……滅茶苦茶焦ってました」
こちら側の仮面ライダーとして、俺が加わった。おかげで大きな戦力アップだ……
「でしょうね……仮面ライダーなら、やっぱり異常なパワーを備えているんでしょう?」
「具体的に何tくらいかはわかりませんが、そうみたいです。仮面ライダーにはこれで対等ですね」
「それはめでたいことだけど……犠牲は大きいね」
本当にそうだな……失ったものはその分多い。俺も罪のない人達も、あやめも。たくさんの人を奴らのせいで失った。
「えぇ……雪村さんと百鬼さんは両親を、デモンズスレートによる暴走で、たくさんの人が望まぬ争いをして犠牲になり……惨たらしいことこの上ない」
「今井と山崎は死にましたが……人の命は戻ってきませんものね。決着が着いても、心はボロボロのままですから」
「雪村くんもそうだろ? どうしてそんなに客観的なんだい?」
疑問そうに言われた……なんでだろう。憎しみがとりあえず無くなったら、次に出てくるのは悲しみのはずなんだけどな……
「……戦いには邪魔だったので。無理矢理心から排除しましたよ……それで殺し合いができなくなるなんて以ての外ですもの。もう二人は死んだんです、悲しんでる暇があったら戦わないと……」
「戦いは終わったのに、感覚はそのままか……くそ!! こんなに優しい子ですら……こんな惨いことに……」
「私も警察をやっていると、心を殺さねばならない時があります。その場で殺してやりたくなる程に邪悪な相手でも、仕事なら……捕まえて法の裁きを受けさせねばならない。そのせいで心を壊す同期を何人も見てきましたよ……何度見ても惨すぎる」
戦いって厳しいな、本当に。敵が人間でも、オルフェノクでも……そこだけは変わらない。
「戦争が惨いってことは耳にタコができる程聞かされてきましたけど、実際に体験すると……よくわかりましたよ」
「だから言ったんだ、こういうのは先生の仕事だってね……もう手遅れだけど……」
「とりあえず、世論は少し落ち着いたようです。希望を持つ人もだんだん現れ始めているようで……経済回復も望めるかと」
それはよかった。無茶した意味があったな……
「よかった、これで一旦は安定しますね……」
「はい、一件落着です……次が来るのが、できる限り遅いことを願いたいですね」
「大丈夫だと思いますよ。スポンサーはオーガが負けて離れてしまいましたし、大事な切り札のエラスモテリウムも殺された……間違いなく大打撃でしょう」
その上、こっちに仮面ライダーを取られたんだ。暁の焦った顔が目に浮かぶ……
「とりあえず、ゆっくり傷を治してください。治ったらデルタギアを装着してもらって、様々な検査をするから来てくれって……こよりが言ってたよ」
「こより……有能な科学者さんだっけ。わかりました」
「それでは、私達はそろそろ……ん?」
足音が聞こえる。誰だろう?
「……あやめちゃん!?」
「えっ!?」
「泣いていた……余程辛いんだな……」
当然のことだ……二人はまだ目覚めない、自分は暴れてしまった。俺もそうなるだろう……俺だったら自殺するかもしれない。
「止めに行かないと……!!」
「動かないで、私が行く!!」
「そこを動かないで、死ぬかもしれないんですから」
傷口がまだ痛む。動くと開く可能性があるらしい……だけど、あやめが……そう思っていた時。
『緊急事態発生!! 外部にオルフェノク出現、数量5!! 直ちに患者の安全を確保せよ、繰り返す……』
「なっ……こんな時に!?」
「雪村さんを安全な場所に移動させるぞ!! 外に行った百鬼さんもだ!!」
ベッドごと運ばれる。だが……行くわけにはいかないんだ。点滴を無理やり引き抜いて、ベルトを巻き付ける。
「なっ、やめろ!! それだけは……!!」
「死ぬ気か!? 抑えつけろ、絶対に変身させるな!!」
「雪村くん、ダメだ!! 本当に死ぬぞ!!」
それがどうした、関係あるかよ……
「そんなもん関係あるか!!」
「ある!! どうして、そこまで無茶を……!?」
「決まってるだろ……!! 今のあやめは戦えない、戦えても多勢に無勢だ!! あやめは今すぐ助けが欲しいんだ、絶対に助かる助けがな!! それができるのは……俺だけなんだよ!! 変身ッ!!!」
点滴を抜いた後の血の溢れる手で、デルタギアを握りしめる……
『Standing by』
「変身させるな!! アイテムを奪うんだ!!」
「うぐぐ……邪魔だァッ!!」
手を振り払って、差し込む。
「なんてパワーだ、骨が砕け散ってるんだぞ!? そんな力、一体どこから……!?」
『Complete』
「邪魔を……するな!!」
白い光と共に変身して、一気に人を振り払う。急いで走る……死ぬなよ、あやめ!!
「追いかけましょう、鷹嶺さん!!」
「わかってます!! 急ぎましょう!!」
「あやめ、死ぬんじゃねぇぞ……希望を捨てるな!!」
その前に寄りたいところがある……彼らの病室だ。
「柊真さん、百合香さん……まだ起きないんですか」
「……」
「いつまでも寝てんじゃねぇ……! あやめがどれだけ悲しんでると思ってんだ!! 生きてるならさっさと起きてこい、あんたの娘が生きるか死ぬかなんだぞ!!」
それを言っても……起きなかった。
「くそっ……早く起きろよ、もう昼だぜ!!」
あやめのところへ急ぐ。あやめ、希望を捨てるな……まだ二人は生きてるぞ!!
「……あ、やめ……?」
時間は少し遡って、病院の外。百鬼あやめは罪悪感に耐えきれず、外に出ていた。
「二人を置いてきちゃった……でも、余と居てもいいことないし……その方が、いいよね……」
あのようなことがあれば、誰であろうと罪悪感を感じるだろう。
「康太様があんなことになったのだって……余のせいだし……ぐすっ、うぅ……ごめんなさい……」
だが、言ったところで許されることではない。百鬼あやめはそう思って、自分を責め続けていた。その時……
「見つけたぞ、危険因子」
「……オルフェノク!?」
「如何にも。名乗っておこうか、私は今井様の忠実なる部下、ライノセラスビートルオルフェノクだ……失敗作である貴様を処分しに来た。今井様が死んだ今も、私は今井様のために動くのみ。お前には悪いが、死んでもらうぞ?」
後ろのオルフェノク達が、ブロンズのベルトを取り出す。ライオトルーパーだ。
「変身」
『Complete』
「余は……」
百鬼あやめは悩んだ。生きろとは言われた、だが……生きる気力が湧いてこないのだ。それでも……
「死ぬ気か? ちょうど良かった、そのまま死ね」
「……嫌だよ、余は生きろって言われたんだ……!!」
「無駄な足掻きを……!!」
百鬼あやめが、必死に言う。だが、今は刀を持っていない。なので、逃げ回るしかない……
「逃がすか」
「ッ……」
「囲まれたな……諦めろ。こういうことくらい計算済みだ……雪村康太は致命傷、他の奴らでは力不足。詰みということだ……」
囲い込まれて、追い詰められる。
「や、やだっ……」
「嫌だ? この期に及んで見苦しい……大人しく死ね、失敗作。負けた以上、貴様はこの世に必要ないのだ」
「……余は……!!」
死を望む心がある、でも……言葉が頭をよぎるのだ。
『どうしても生きてるのが嫌なら……俺を痛めつけた罰だ、生きろ!!』
「死にたく、ない……!!」
「命乞いか? ここまでくると、最早哀れだな……すぐ地獄に送ってやる!!」
奴が目の前に来た瞬間……百鬼あやめは、叫んだ。
「助けてっ、康太様……!!!」
「雪村康太だと!? 来られるわけが無いだろう!! 何を言うかと思えば……今度こそ、死ぬがいい!!」
「ッ……!!」
百鬼あやめは、思いっきり目を瞑った。わかっていたのだ、助けに来てくれるはずがない。致命傷を負っているのだから……でも、それでも……雪村康太に助けを求めてしまったのだ。その小さな願いは……届いた。
「ファイア!!」
『Burst Mode』
「なにッ!? ぐぅおぉぉッ!?」
聞き覚えのある音が響いて、白い閃光がライノセラスビートルオルフェノクに炸裂した。この場にいることが有り得ない、仮面ライダー……だが、確かにいるのだ。百鬼あやめもオルフェノク達も、自分の目を疑っている。
「……康太、様……?」
「間に合ったな……危ないところだった」
「その声は……貴様、雪村康太か!? 何故だッ、何故ここにいる!?」
疑問の声が上がる。雪村康太は余裕そうに返す……
「決まってるだろ? お前らが来たから変身して走ってきたんだよ!! あやめ、ギリギリだったな……逃げろ!!」
「な、なんで……どうして……!? 傷は……」
「治ったよ!! 治らないと思うのか!?」
仮面と鎧で顔も体も見えない以上、確認のしようがない。
「だが、寧ろ好都合!! 今のお前なら殺せる、殺してやるぞ!! 雪村康太ァァ!!」
「やってみろ!!」
「このぉ!!」
ライオトルーパーの銃撃が、雪村康太に突き刺さる。だが……雪村康太は気にせず銃を構えた。
「効かねぇなぁ!!」
「グエッ!!」
「チッ、それならこれでどうだ!!」
ナイフが突き刺さりそうになり、雪村康太は思い切り踏み込んで、膝をライオトルーパーに突き刺す。
「甘いんだよ!!」
「甘いのはテメェだ!!」
「ッ……!?」
深々とナイフが刺さり、殴り飛ばされた。
「康太様っ!!」
「骨を折った……やっぱり治ってないな、勝てる!!」
「誰に勝てるって!?」
雪村康太は平気そうにナイフを引き抜いて、ライオトルーパーに投げつけた。そこに、追い討ちでデルタムーバーの銃弾が炸裂する。
「グァァァッ!!」
「感覚が狂ってるらしいな、お前ら……完治してるのに何を抜かす!? そら、かかってこい!!」
「ふざけるなぁ!!」
二人同時にかかられたが……攻撃を食らいながらも反撃し、確実に倒してゆく。
「ぐふっ!!」
「ガハァッ!! し、しまった……!!」
「お前も喰らえ!!」
銃弾が炸裂して、最後の一人も灰になる。
「グォォォッ!!」
「おのれ……本当に化け物か!?」
「お前の方が化け物だろ!!」
そう言って、格闘を始めたところで……一破と鷹嶺ルイが出てきた。
「先生、人間様も……」
「あやめちゃん、ここにいたのか……怪我はないかい!?」
「戦っている……何故だ? 体中の骨は粉砕されているし、生きているのが不思議なくらいと言われていたのに……」
それを聞いて、百鬼あやめの顔が変わる。
「康太様、やめて!! 本当に死んじゃう!!」
「この……クソッタレが!!」
「ゴブッ!!」
薙刀を食らって、跳ね飛ばされてきた。腹を切られている。それでも、立ち上がってくる……
「な……何故そこまで!? 自分が死ぬ程の理由があるのか!?」
「そんなの、決まってるだろ……俺と同じ思いをして欲しくないからだ!! 俺は両親を殺されたし、色んな物を無くした!! 俺はもう、誰もそんな目に遭って欲しくない!! その辛さは死ぬより辛いから……俺はお前をここで殺さなきゃ、ならないんだ!!!」
「下らんことを……!! 死ね!!」
薙刀が振り下ろされて、引かれることで体に食い込む。無論、血が溢れ出した……
「雪村さん!! このッ……!!」
「……かかったな」
「は? ……お、おい離せ!!」
薙刀の長い柄を、雪村康太が掴んでいた。その状態のまま、膝がオルフェノクの腹に叩き込まれる。大きく怯んで、薙刀の抜けた部分から血液が凄まじい勢いで溢れている……だが、それでも雪村康太は、攻撃の手を緩めることはない。
「ごふっ!!」
『Leady』
「チェック!!」
音声入力が成されて、強い光が銃に走っていく……それは紫色の閃光となり、オルフェノクに突き刺さった。光のドリルがオルフェノクを拘束する。
『Exceed Charge』
「ぐぅおっ!?」
「だぁりゃあぁぁッ!!!」
紫色のドリルの中に、雪村康太が突撃した。ドリルが実体になって、オルフェノクに食い込んでゆく……
「うぐぁぁぁぁぁーッ!!!」
「や、やったの……?」
「何か浮かんだぞ……?」
Δ
その文字が浮かび上がり、赤い炎がオルフェノクから上がる……オルフェノクは膝をついて、灰になった。
「……ふぅ。任務完了!」
「康太様!! なんで……!?」
「なんでって、さっき言っただろ? それと……助けを求めてくれたよな? ありがとう、信頼してくれて」
雪村康太は変身を解こうとしない……
「早く戻って治療を受けないと……!!」
「そうですね、戻りますか……ん?」
「……あれはなんだ?」
誰か走ってくる。全員、見覚えのある人達だ。
「え……うそ……!!」
「あやめ!!」
「どこへ行ってたんだ、探したぞ!?」
百鬼柊真と百鬼百合香……あの呼びかけを、聞いていたのだ。一緒に来た業と不知火も、百鬼あやめに飛びついた。
「父上、母上……業に不知火も……」
「奇跡だ……奇跡が起きた……!!」
「心配したぞ、酷い目に遭ったんだって? 許せんな……」
財団Xへの怒りを露にする百鬼柊真に、百鬼あやめを抱きしめる百鬼百合香。
「怖かったでしょう、助けてあげられなくてごめんね?」
「……父上、母上……余は生きてて、いいのかな? 康太様に酷いことしちゃったけど……」
「馬鹿者め……一人娘に生きるなという親がいるか! お前は私達より長く生きておらねばならないんだ!!」
そう言われて……親に泣きつく百鬼あやめ。耐えられなかったのだろう……
「……っ、うぅ、ひぐっ……!!」
「本当に心配をかけたな。もう大丈夫だぞ……」
「よかった、本当に……」
その場にいる全員が、感動で泣いている……しばらく泣き続けた後、百鬼あやめが泣き止んだのを確認し、百鬼柊真が口を開いた。
「聞こえましたよ、雪村さん。あなたのおかげで目覚められたんだ……ありがとうございました!」
「えっ、そうなの……!? 康太様!!」
「……あら? どこへ行ったのかしら?」
雪村康太は、もうその場にいなかった。
「そう遠くへは行けないはずだが……病院に戻ったのか?」
「きっとそうでしょう……抜け目のない人だ!!」
「康太様……ありがとう」
それを言った百鬼あやめの眼は、未来への希望に満ちていた。
……意識が朦朧とする。立っていられない……それでも、みんなの前で倒れるわけにはいかなかったんだ。
「感動の再会の、邪魔できる、かよ……」
白い光が消えて、変身が解除された……血が止まらない、どんどん寒くなってきた。どうやら、あれは本当だったらしいな……でも、後悔はない。血反吐を吐きながら、笑う。
「ごぶっ、ごっぼぉ……仮面があって、よかった……あやめ、幸せそうだった、な……」
やっとあやめは、幸せになれた。あやめの夢は叶っただろうか?
「……あんなに幸せそうに、泣いてたんだし……ごっぼ、ごえっ!! 叶った、よな……乾さん、やったよ……」
壁にもたれかかって、血反吐の中で座り込む。みんな気づいてないな……背中からも血が大量に出ているのがわかった、壁から血が垂れてきているから。
『俺の夢は……』
「……世界中の、洗濯物が……」
『みんな、真っ白になるみたいに……』
それを言いながら、ゆっくりと……目を閉じる。
「みんなが、幸せに……なります、ように……」
そう言って、俺は眠った。血の滴り落ち続ける壁を、枕にしながら……
ファイズ編、完。