※この作品はR-18です。

仮面を被った、人間達の英雄譚   作:とも667

22 / 51

 陽はまた昇る。


幕間1
希望が照らす日常


眠気に任せて、血の中で眠りについたら……変な場所で目が覚めた。周りを見回しても、誰もいない。

 

「俺……死んだのかな? だったら、ここはあの世?」

 

 前とは違って、辺り一面真っ白だ。意識の底じゃないことは確かだな。ってことは、やっぱり死んだのか。

 

「まぁ……あれだけ血が出たら死ぬよな。業と不知火に寿命もあげちゃったし。こんなことなら、全部あげておくんだったな」

 

 死因は多分失血死だろう。自分で言うのもなんだが、死んだというのに妙に冷静だな。何故だろうか。

 

「死ぬ時ってこんな感じなんだな……すごくあっさりしてる」

 

 人間って死ぬと諦めついちまうもんなんだな……そう思いながら、歩き出す。

 

「傷も治ってるみたいだし、閻魔様に舌を抜かれに行くか」

 

 人間は殆どが地獄行きだと聞くし、俺だって例外じゃないはずだ。喚き散らす気にもならん。

 

「閻魔様、次の死人だぞ。地獄に落としてくれ」

 

 そう言ってみたが……誰も返事を返してくれない。

 

「……不在か?」

 

 そんなことを言っていると、何かが見えてきた。

 

「あれは……なんだろう」

 

 三途の川ってやつか? そう思って、それに近づく。

 

「……鏡?」

 

 意識の底にいた時のアレに似ているけど……これは、なんだろう。

 

「あ、映し出された……」

 

『いました!! 雪村康太さんです!!』

 

『なんて量の血だ、失血死してるんじゃないのか!?』

 

 どうやら、俺の死体の周りに人が集まっているらしい。すみません、もう死んでるんですよ。

 

「俺の魂が抜けて、上から見下ろしてる状態なのかな? なんか不思議だ……」

 

『心臓が止まってる……!!』

 

『輸血だ!! 心臓マッサージと酸素注入!! 急げ!!』

 

 頑張ってくれている……ご苦労様です、でも無理なんだ。

 

「戻り方もわからないしな……自分で自分が嫌になる」

 

『止血完了しました!!』

 

『よし、緊急手術準備!!』

 

 緊急手術か……運び込まれて、俺の体が切り裂かれていく。

 

「うわっ、グロいな……見ないでおこうっと」

 

『電気ショックだ、心肺機能を回復させる!!』

 

『了解!! 電気ショックを行います!!』

 

 俺の体が跳ねて……心臓に電流が流された。だけど、俺に変化は見られない。

 

「やっぱり完全に死んでるんだな、俺……もうやめてくれ、もういいんだ」

 

『もう一回だ!! 諦めるな!!』

 

『私達は患者の命を救うのが使命、それが確実になるまで諦めるわけには……!!』

 

 この人達も信じているものがあるんだ……でも、それすら無駄になる。

 

「ごめんなさい……でも、もういいんです。もうやめてください!」

 

『酸素、再注入!!』

 

『心臓マッサージを続けろ!!』

 

 ……努力を無駄にしてしまっている罪悪感が、またのしかかってきた。突然場面が切り替わる……

 

「これは……みんな、か?」

 

『おーい、康太様!』

 

『どこに行ったんだい? 出てきてくれよ!』

 

 みんなが俺を探してくれている……でも、もうこの世にいないんだ。

 

「早く、誰か真実を伝えてくれよ……ただの時間の浪費じゃないか」

 

『あの人はいつもこんな感じなのか、あやめ?』

 

『いつもはその場で倒れちゃうんだけど……今日は違うみたい』

 

 その場で倒れたら、感動の再会が台無しじゃないか。せっかく、家族が元通りになってハッピーエンドなのに……俺が目の前で倒れてしまえば、全部台無しだ。

 

「でも、すごく楽しそうだ……よかった」

 

『全くいつも、手間ばかりかかる人だ……!』

 

『本当にね……!』

 

 そう言われて、また申し訳ない気持ちになる。

 

「ごめんなさい……迷惑ばかりかけてたな」

 

『そんなこと言ってる割には、嬉しそうな顔ですよ?』

 

『そりゃそうさ、手間がかかるのには慣れっこですから! 生徒も仲間も手間がかかるくらいで丁度いい!』

 

 鷹嶺先生が言うのに、一破さんも続ける。

 

『その手間の分、彼は精神も肉体も強い……だからこそ信頼を寄せられるし、気に入られるんです。私も、その一人ですね』

 

『流石、あやめに勝っただけのことはあるな……心·技·体が揃ったいい戦士だ!!』

 

「褒めすぎですよ……僕、そこまでできた人間じゃないですって」

 

 当然の謙遜も、彼らには届かない。だって死人は死人なんだから……

 

『どこを探してもいない余~……康太様、どこなの?』

 

『病室にもいなかったし、一体どこに……』

 

「……あ、看護師さんだ」

 

 知らせに来てくれたんだろうか? ありがたい、是非そうしてくれ。時間の無駄なんだ……

 

『皆さん! 雪村さんが……!!』

 

『雪村くんがどうかしたんですか?』

 

『大量の血を流して……心肺停止状態です!!』

 

 全員の顔が一気に変わった、探しても無駄なんだよ。俺はもう居ないんだから。

 

「諦めてくれよ、みんな……俺のことは忘れて、な?」

 

『心肺停止!? 言わんこっちゃない!! こうなるから、動くなって言ったのに……!!』

 

『デルタに変身したのがトドメになって、出血を激しくさせたのか……!! だから死ぬって言ったんだ!!』

 

 大変申し訳ない。でも、結果としてあやめは助かったし……みんながハッピーエンドなんだ、これでいいと思う。

 

『今の容態は!?』

 

『まだ心肺機能が戻らないらしくて……』

 

『無茶する人ですね、あなたのライバルは……あやめ? どうしました?』

 

 あやめが顔を上げてくれない。どうした? みんなと再会できたし、これからは普通の日常に戻れる。何一つ足りないものなんて……

 

「ないはず……」

 

『……康太様のバカ!!』

 

『あ、あやめ!? 先に走って行くなよ!!』

 

 顔を上げたあやめの顔は……泣いていた。俺が死んだことが悲しいんだろう。だけど、それはハッピーエンドより優先すべきことなのか? あやめは確かに優しい、でも人間には限界があるものだ。両親が戻ってきたことよりも、自分が生きることを許されたことよりも……俺が死んだことの方が悲しいのか?

 

「なんだよそれ……あやめはそんなにお人好しだってのかよ?」

 

『あぁ、走っていっちゃった……』

 

『とにかく死ぬなよ、雪村くん!』

 

 死ぬなと言われてもな、もう死んでるんだけど。

 

『康太様……あんなの戦いじゃない余、戦ってくれるんでしょ!? 約束、守ってくれるんじゃ、なかったの……?』

 

「約束……そうだ、戦う約束してたんだ。でも、戻れないんだよな……あやめを絶対に守るって約束との両立はできなかったのか?」

 

『百鬼さん、大丈夫ですよ』

 

 一破さんが来た、横に座って自信満々な顔をしている。

 

『一破さん……でも……』

 

『彼は……雪村康太は、こんなことでくたばるような人じゃありませんよ。仮面ライダーシザースが襲ってきた時からずっとそう……彼ほどしぶとい人を私は知りません。ゴキブリの生まれ変わりだったりして』

 

「例えが酷いよ、一破さん……」

 

 このボヤきも彼には聞こえない。悲しいな……死んでしまったんだ。その事実が俺を苦しめる。

 

『……!』

 

『業、不知火……あの人は死なないって? 自分達に寿命をくれても平気そうだった……え、そんなことしてたの!?』

 

『はい、それでしか助けられないとわかって……迷いなく』

 

 言わないでくれって言っとけばよかったな。少しだけ未練ができた……幽霊になるのも御免だけど。

 

『康太様は優しい……でも、自分にはすっごく厳しい余ね。なんでだろう?』

 

『……彼から聞いたことがあるよ』

 

『鷹嶺先生……』

 

 次は鷹嶺先生が来て、あやめの横に座る……

 

『雪村くんはね、今からは考えられないくらいに普通の一般人だったそうだ……困ってる人がいても、自分に危険が及ぶなら助けない。そして骨が折れたら、怖くて動けなくなるくらいにはね』

 

『そうなんですか!? 今からじゃ考えられない余……』

 

『だろ? でも、彼はそんな自分が嫌で……死に物狂いで努力した。その結果……彼はここまで強くなったらしい。彼の成長速度は、あやめちゃんもよく知ってるだろう?』

 

 努力すれば伸びる。俺は為せば成るを体現したような人間だけど……それにも死は平等なわけだ。

 

「はぁ……そんな俺でも、死は不可抗力なんだな」

 

『康太様って、強い人なんだね……』

 

『うん。彼はそんな努力をしてても、全く表に出さずに明るく笑って……陽気に歩き回る。そんな子だ』

 

 そういう意味では、俺は弱くなっちまってるのか?

 

「ダメじゃねぇか。俺には何が足りないんだ? なぁ、教えてくれよ……」

 

『でも……死んじゃったら、もうそれも見られない』

 

『あやめ。お前が諦めてどうする?』

 

 最後に来たのは、柊真さんと百合香さんだ。

 

『父上、母上……』

 

『あなたは雪村さんに生きていて欲しいのでしょう? なら、それを望む人がまず希望を抱かなくてはいけませんよ』

 

『最後まで信じろ。雪村さんはお前のライバルだろう? 鬼人のライバルが簡単に死ぬわけがあるまい』

 

 希望……か。

 

『……そうだね。ありがとう! 余も信じる、康太様は生きてる!! 絶対に……戻ってくる余!!』

 

『えぇ、彼は死にません!! 寿命は10年あげてしまいましたが、それでも長生きするでしょう!!』

 

『ハッハッハ、無茶をする人だな!!』

 

 みんな俺が帰ってくるのを信じているのか……

 

「どうやって帰ったらいいんだ……?」

 

 辺り一面真っ白だ、俺が何かに気づけばいいのか?

 

「俺に足りないものがある……? 何が足りない?」

 

 今ここで手に入れられるものなら、心で生み出す物のはずだ。明るくなくなってしまった理由とも、関係しているかもしれない。

 

「……そうか」

 

 なんだ、簡単なことじゃないか。

 

「俺がみんなに持てって言ってたのに、俺が持ってないんじゃお笑い草だな」

 

 ようやくわかった……みんなのおかげで。

 

「希望だ……俺が希望を持ってなかったんだ」

 

 どんな状況でも……昔の俺が陽気だったのは、明日への希望があったからだ。今日がどんなに散々な日でも明日はきっといい日だって……無根拠に信じ込んでいた。だから笑ってたんだ、財団Xがムカつくくらいに。

 

「自分で自分の心を考察するなんて、変なの……」

 

 確かに、酷いことがあったさ。でも……前も自分で言っただろ? ずっとウジウジしてたって、なんにもならないって。だから……明日はきっと、いい日だ。

 

「何の根拠もないけどな……!」

 

 絶対にいい日にしてみせる。自分の力でやってやる、今の俺にはそれができるんだから。『変身』しろ、俺。

 

「……戻れるな」

 

 直感的にそう思った。このままここにいたら、きっと死んでいただろうが……今なら、いける。

 

『雪村さんの心肺が回復しました!!』

 

『よしっ!! すぐに機材の準備だ!!』

 

『了解!!』

 

 ……体も反応してるな。

 

「心配をかけた……早く戻ろう」

 

 そうだ、まだやるべきことがたくさんある。暁を殺すことも、財団Xを潰すことも。その目的はふたつ……

 

「みんなの夢を守るため、それと……みんなの明日を、いい日にするためだ!!」

 

 そのためには、俺が笑ってないといけないよな。そう思って……明日への希望を抱く。自然に笑顔が浮かんでくる……目覚めるのが楽しみになってきた。

 

「まだまだ死んでやらねぇぞ、財団X!! 勝負はここからだぜ!!」

 

 光の中に飛び込んで……俺は心地よい眠りに落ちた。

 

 

 

「……康太様、苦しくない? 欲しいものある?」

 

 あやめの声が聞こえる……どうやら、起きたらしい。頭に何か乗ってるな、冷たいけど……タオルかな?

 

「う~ん、そうだな……とりあえず、腹が減った」

 

「そっか……って、え?」

 

「おはようあやめ! あとタオル、ありがとう!」

 

 そうだ、俺はこんな感じに笑ってたよな。思い出してきた、希望って活力になるな……

 

「……」

 

「あやめ? 驚かせちまったかな? もうちょっとゆっくり起き上がった方がよかったか……」

 

「康太様のバカ!!」

 

 いきなり怒られた。今回はこっちに全面的に非があるけど……胸板を叩かれている。

 

「あ、ごめんなさい……」

 

「バカ、バカバカバカ!!!」

 

「罵倒のレパートリー少なっ」

 

 俺が思わずそう言うと、あやめの言葉が変わった。

 

「あんぽんたん!! あほ!! おたんこなす!!」

 

「だからって、無理に変えんでも……」

 

「心配ばっかりかけたんだから、当然でしょ!!」

 

 それはごもっとも。

 

「ご最もです、はい……ごめんな、心配かけて。でも、この通り。完全復活だ!」

 

「余がどれだけ心配したと思ってるの……? 無理に変身なんかするから……」

 

「ごめん……でも、やっぱりあやめには俺と同じ思いをして欲しくなかったから」

 

 こういう時に孤独に戦わなきゃならないのは、すごく辛い。それを背負うのは俺だけでいいさ。

 

「っ……それでもダメ! 本当に死んじゃうかと思ったんだ余!!」

 

「本当に心配ばっかりかけたな……悪かった」

 

「……傷が治ったら、康太様は何をするの?」

 

 それは決まってるさ。

 

「財団Xをまた迎撃する。俺がやらなきゃいけないんだ」

 

「じゃあ……余と約束して。そしたら許してあげる」

 

「うん、俺なんでも聞くよ」

 

 あやめが顔を上げた。そして、言ってくる。

 

「康太様は、みんなを助けようとするけど……生き残る対象に、自分も入れること!!」

 

「……自分も?」

 

「そう! みんなだけじゃない、康太様も生きてて!!」

 

 俺も助かるように動け、か……そうだな。

 

「よし、わかった! これからは自分も含めて……生き残れる作戦にする!!」

 

「じゃあ、もう一回!」

 

「そうだな、指切りしよう!!」

 

 小指を合わせて、約束。

 

「指切りげんまん!!」

 

「嘘ついたら……針千本飲ます!!」

 

「指切ったっ!!」

 

 もう、死ねないな。俺も生き残らなきゃいけない……ハードルが高いぜ。

 

「これで約束だな! 死ななかったから、今回は針千本回避だ!! 危うく二回死ぬところだったぜ!!」

 

「フリじゃない余? 本当に飲ませるからね!」

 

「わかってますって!! そういえば……あやめこそ体は大丈夫か? 変な薬打たれたり、ルシファーズハンマー食らったりしたけど……」

 

 ルシファーズハンマーの威力は高い、幾らオーガの鎧があったとはいえ……

 

「余は大丈夫、傷は治った余!! 取ってきた資料のおかげで、『反デモンズスレート電波』っていうのもできたらしいし!!」

 

「そうか……時間を稼いだ甲斐があったってものだ!!」

 

「康太様が死んだら意味ないんだ余?」

 

 今約束したばかりだもんな。だが、心配無用だ。

 

「心配ご無用、言ったろ? 俺は約束を絶対破らない!! 針千本飲んで死ぬのは御免だしな!!」

 

「……ふふっ、そうだね! 康太様は約束破らないもん!! 一回約束したなら、心配ない!!」

 

「よし、信頼してくれた!!」

 

 こういうところは日頃の行いが物を言うからな。みんな! 一度した約束は絶対に破っちゃダメだぞ!! 雪村お兄さんとの約束だ!!

 

「そういえば……康太様こそ、体は痛くない?」

 

「大丈夫だぞ? ほら、腕だってこの通り……あれっ!? 腕が……生えてる!?」

 

「あ、義手だ余! 康太様が寝てる間につけたんだって! 最新式で動かしやすい……らしい余!!」

 

 そう言われて、腕を回したりしてみる……自分の腕と何ら変わらんな。感覚もあるし、かがくの ちからって すげー!

 

「そうなのか……皆さんに感謝しないとな。だけど、ビックリしたよ。一瞬、自分はナメック星人だったのかって疑っちゃった」

 

「あはは、そんなわけないでしょ!? この世界は何でも願いが叶うボールない余!!」

 

「うん、俺も嫌。俺の父さんも母さんも体は緑じゃないしな。そもそも俺、卵から生まれてないし……」

 

 あービックリした。自分の種族を疑う事態になるとは思ってなかったよ。

 

「それにしても……違和感ないね、義手なのに」

 

「あぁ……もう少し、メカメカしいとありがたかったんだけど」

 

「ワガママ言わないの!」

 

 かっこいいのを要求してたら怒られた。すいません。

 

「はーい……お金はどこから出たんだろう、高性能なら結構な金が……」

 

「学園が支払ってくれたって言ってた余? これは労働災害だから、って言って……」

 

「あ、そういう扱いになるのか……助かった」

 

 体に痺れみたいなのはない、後遺症はなさそうだ……あったら戦いが不便になるから、非常に困る。

 

「それと……業と不知火のこと、ありがとう。二人が消えかけだったって……」

 

「うん。でも、元気に生きてただろ?」

 

「元気そうだ余、元気がなかったなんて嘘みたい!」

 

 寿命をやったことも聞いてたみたいだし、怒られるかなと思ったが……今回は怒られなかった。

 

「それならよかった、二人も俺の友達だからな……」

 

「入るよ、雪村くん」

 

「あ、鷹嶺先生! お久しぶりです!!」

 

 先生が来た、元気そうで何よりだ。

 

「あやめちゃんもいるんだね? 一緒に聞いて欲しい」

 

「わかりました!」

 

「まず……今回の事件で、二人は仮面ライダーになることが可能になった。よって、二人を野放しにしておくことはできない……それが政府の決定らしい」

 

 野放しにはできない、どういうことだろうか?

 

「拘束されるんですか?」

 

「いや、拘束といってもそこまで厳重なものではないよ。外出時に記録と行先を書いてもらうだけさ」

 

「そっか……わかった余!!」

 

 鷹嶺先生は申し訳なさそうにしている。拘束するのが辛いのかな?

 

「君達を拘束するのは、私達の本意ではない。学園長も悔しがっていたよ。雪村くんやあやめちゃんを拘束する必要性がないって……」

 

「構いませんよ。そんなに落ち込まないでください! 外出自体ができないわけじゃないんですから……その措置も当然です! ほら、笑ってください!!」

 

「懐かしいね。昔の雪村くんに戻ったみたいだ……そうだね、落ち込む必要はないか!」

 

 俺達は『仮面ライダー』になってしまった。ならば、こういう措置が取られるのも納得だ。余りにも力がありすぎるしな。

 

「僕はこれからどうすれば?」

 

「あぁ、それなら学園長から伝えるように言われてるよ。たくさん頑張ってもらったから、しばらく有給休暇だってさ。財団Xが出るまでは休んでいてくれって! あとこれ、戦闘分のボーナスだってさ!」

 

「すっごいホワイト!! ありがとうございます!!」

 

 休暇を貰った、よし。色々とやりたいこともあるし、利用させてもらおう。

 

「じゃあ、私はこれで……学園も今回の一件で大変でね」

 

「余もそろそろ帰らないと、心配されちゃう余……ごめんね?」

 

「別に謝る必要ないだろ、俺を重度のメンヘラと勘違いしてないか?」

 

 俺はあやめを束縛するつもりはない。友達は、損得を考えて付き合うもんじゃないからな。

 

「あはは、ごめんね? じゃあ……また!!」

 

「またな!! 鷹嶺先生も、次会う日までお元気で!!」

 

「君こそね!!」

 

 二人が出ていった……笑ってくれたな、二人とも。

 

「そうだ、俺はこういう人間だった……」

 

 人に希望を与えられるって、素晴らしいことだな……これからもそうでありたい。

 

「さてと……休暇中にやることは決まってる」

 

 傷を治したら、修行をやりつつ……あれをやる。

 

「全部を元に戻す……まだ完全じゃないけど、それでもだ」

 

 決意を固めつつ、明るい外を見つめた……それから、時間は経って3日後……

 

「……体は大丈夫ですね。本当に回復の早い人だ……退院して大丈夫ですよ」

 

「よっしゃあぁぁぁーっ!!」

 

「え!?」

 

 思わずジャンプしてしまった。天井がさらに低くて、前のようにぶっ刺さる。

 

「……外が綺麗だなー」

 

「刺さってるのに呑気ですね……君、抜いてあげて」

 

「はい……大丈夫ですか?」

 

 ピ○ミン化パート2、椅子に降ろされた。

 

「大丈夫だ、問題ない!」

 

「そんなに元気なら大丈夫です。お大事に」

 

「はい、大事にします!」

 

 病院を出て、体を動かす。

 

「うーん、シャバの空気が……って、犯罪者じゃないぞ? 俺は」

 

 言い切る前にセルフツッコミしつつ、学園まで走る。寮で重りをつけたら外出理由を書いて、修行開始だ。

 

「この感じも、懐かしいな!!」

 

 走り込みをやって、一通りこなしたら……本当の理由を実行する。

 

「よし……買っていこう!」

 

 必要な物を買って、幽世へと走る。金を貰っておいてよかった! あの日と同じように、門番さんが立っている。

 

「……あ、雪村さん! こんにちは!! 遊びに来ていただけたんですか?」

 

「はい! おかげさまで……!!」

 

「ゆっくりしていってください、とはいっても……完全に直ってはないですけどね」

 

 少し荒れているが……それでも元に戻ってきている、頑張ってるな。

 

「……後で手伝うか。でも、今は!」

 

 桜の木の方を見る……もう倒木はどかされて、桜吹雪は相変わらず吹いていない。

 

「でも……!! 今日は久々に、桜吹雪が吹くぜ!! すみません、少し脚立を置かせてください!!」

 

「構いませんが……うわっ、高い!?」

 

「鍛えといてよかったな……あやめを呼んでこないと!!」

 

 残りの荷物を背負って、屋敷の前に行く。

 

「……雪村康太さんですね。何の御用でしょうか」

 

「すみません、あやめに会いたくて。いらっしゃいますか?」

 

「外出はなさっていませんが……お呼びしますね」

 

 門番の人が呼んでくれた。お手数おかけします……

 

「康太様! 来てくれたの?」

 

「あぁ。少しあやめに用事がな」

 

「立ち話もなんだし、中で聞く余。入って!」

 

 いや……今日は中には入らない。

 

「外でもう用意してあるんだ! 着いてきてくれ!!」

 

「……? わかった! ちょっと待ってて!!」

 

「書類を書き終わるまで、暫くお待ちを」

 

 少し待っていると、すぐ書き終わって戻ってきた。

 

「できた余! それで……どうするの?」

 

「ちょっと待ってろ? とびきりのサプライズだ!!」

 

「なんだろう……気になる!」

 

 脚立を立てた場所に向かい……デルタフォンを取り出す。

 

「よし、皆さん! 離れててください! 変身!!」

 

『Standing by』

 

「え……!?」

 

 あやめが驚いているな……これには、仮面ライダーの力が必要不可欠なんだ。

 

『Complete』

 

「康太様、変身してどうするの?」

 

「あれが仮面ライダーデルタか……初めて見た」

 

 写真を撮られている……活躍もあって、警戒は薄いな。

 

「まぁ、見てろ!! あの時の光景を再現してやるぜ!! あやめ、そこを動くなよ!?」

 

「……三脚?」

 

「何をするんだ?」

 

 すぐに見せてやるさ。高い脚立の上に仮面ライダーの力で飛び乗る……これがみんなの日常なら、俺が元に戻そうじゃないか。

 

「皆さん、シャッターチャンスです! 瞬き厳禁ですよ!?」

 

「袋……?」

 

「枯れ木に花を咲かせましょうっ!!」

 

 木は無いけど、黒い脚立が木の代わりだ。買ってきたのは、自然素材の桜の花。売ってて助かった、その花弁を撒き散らす……人力で桜吹雪だ。もう一方の脚立にデルタの力で飛び乗る。

 

「あ……!!」

 

「桜吹雪だ!!」

 

「まだまだ、ここからだぜ!!」

 

 両方の脚立にジャンプで移動しつつ、花弁をばら撒いていく。そよ風に乗って、ゆっくりと桜が舞い散る……あの日を思い出すな。桜吹雪を見て笑う、あの日のあやめを……何度か飛び降りて、桜吹雪が無くなる前に急いで花弁を回収する。

 

「撮れ! 今しか見られんぞ!!」

 

「これは……素晴らしい!!」

 

「折れてるのに、もう一回見られるなんて!」

 

 たくさん見てくれ、みんな。そのためにたくさん用意してきたんだ……写真を撮ったり、飲み会を始める人もいた。そして、三時間くらいすると……あやめ以外はいなくなっていた。最後の一掴みを投げて……飛び降りる。

 

「あやめ! 今のうちだ! 写真を撮ろう!!」

 

「え……!?」

 

「ほら、早く! 桜吹雪が吹いてるうちに!! 業と不知火も出てこいよ!! 一緒に写ろうぜ!!」

 

 写真のタイマーをセットする。変身を解除して……カメラの範囲に入った。

 

「みんな笑って!! はい、チーズ!!」

 

「……!!」

 

「うん、よく撮れてる……! また写真渡すから!」

 

 花弁は土に還って栄養になるだろう……脚立や三脚をしまい込む。あとはこれで……

 

「それ……桜の苗?」

 

「これを育てる! そしたら……いつかは、元に戻るだろ? 気の長い話だけどな」

 

「……余が育てるから、大丈夫。余に育てさせて欲しい」

 

 そうか、なら……

 

「1つずつ育てようぜ、こっちがあやめでこっちが俺だ! 俺の生きる理由にもなって、一石二鳥!!」

 

「……懐かしい、なぁ……前まで、普通に見てたはずなのに」

 

「わかるぜ、俺も懐かしいもん……前見たばっかりなのにな」

 

 桜吹雪が止んでしまっても……きっと、またいつか吹く日が来る。何度植えても踏み躙られるなら、踏み躙る奴は俺が倒してやる。だから……もう一回、育てよう。希望を持って……

 

「康太様は……なんで、これをやろうと思ったの?」

 

「え? それは……これだって、あやめや幽世の人達からすれば日常、だろ? 桜吹雪がないと、日常に戻った感じがしないかなって……ダメ?」

 

「ううん、ありがとう……もう一回見られて、嬉しい余」

 

 それならよかった。明日への希望が、また一つできたな。

 

「よかった……じゃあ、俺はこれで!」

 

「待って!!」

 

「ん……?」

 

 一陣の風が吹き抜ける。地面に落ちていた花弁が……また、宙を舞った。

 

「ありがとう、康太様! 戦いが全部終わったら、また一緒に……桜、見ようね!!」

 

「うん、約束だ!! じゃあ、またな!!」

 

「……康太様大好き」

 

 その言葉を聞いて、思わず足が止まった。

 

「あやめ、大好きって……」

 

 もう、あやめはそこにいなかった。

 

「大好き? この流れだとlikeじゃないよな……」

 

 まぁ……好意を抱かれて、悪い気はしないし……

 

「いいか!! さてと、帰ったら何食べようかな?」

 

 今日の晩御飯に何を食べるかを考えつつ……俺は、学園に帰っていった。




 ヒーローは戦うだけが仕事じゃないのです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。