陽はまた昇る。
希望が照らす日常
眠気に任せて、血の中で眠りについたら……変な場所で目が覚めた。周りを見回しても、誰もいない。
「俺……死んだのかな? だったら、ここはあの世?」
前とは違って、辺り一面真っ白だ。意識の底じゃないことは確かだな。ってことは、やっぱり死んだのか。
「まぁ……あれだけ血が出たら死ぬよな。業と不知火に寿命もあげちゃったし。こんなことなら、全部あげておくんだったな」
死因は多分失血死だろう。自分で言うのもなんだが、死んだというのに妙に冷静だな。何故だろうか。
「死ぬ時ってこんな感じなんだな……すごくあっさりしてる」
人間って死ぬと諦めついちまうもんなんだな……そう思いながら、歩き出す。
「傷も治ってるみたいだし、閻魔様に舌を抜かれに行くか」
人間は殆どが地獄行きだと聞くし、俺だって例外じゃないはずだ。喚き散らす気にもならん。
「閻魔様、次の死人だぞ。地獄に落としてくれ」
そう言ってみたが……誰も返事を返してくれない。
「……不在か?」
そんなことを言っていると、何かが見えてきた。
「あれは……なんだろう」
三途の川ってやつか? そう思って、それに近づく。
「……鏡?」
意識の底にいた時のアレに似ているけど……これは、なんだろう。
「あ、映し出された……」
『いました!! 雪村康太さんです!!』
『なんて量の血だ、失血死してるんじゃないのか!?』
どうやら、俺の死体の周りに人が集まっているらしい。すみません、もう死んでるんですよ。
「俺の魂が抜けて、上から見下ろしてる状態なのかな? なんか不思議だ……」
『心臓が止まってる……!!』
『輸血だ!! 心臓マッサージと酸素注入!! 急げ!!』
頑張ってくれている……ご苦労様です、でも無理なんだ。
「戻り方もわからないしな……自分で自分が嫌になる」
『止血完了しました!!』
『よし、緊急手術準備!!』
緊急手術か……運び込まれて、俺の体が切り裂かれていく。
「うわっ、グロいな……見ないでおこうっと」
『電気ショックだ、心肺機能を回復させる!!』
『了解!! 電気ショックを行います!!』
俺の体が跳ねて……心臓に電流が流された。だけど、俺に変化は見られない。
「やっぱり完全に死んでるんだな、俺……もうやめてくれ、もういいんだ」
『もう一回だ!! 諦めるな!!』
『私達は患者の命を救うのが使命、それが確実になるまで諦めるわけには……!!』
この人達も信じているものがあるんだ……でも、それすら無駄になる。
「ごめんなさい……でも、もういいんです。もうやめてください!」
『酸素、再注入!!』
『心臓マッサージを続けろ!!』
……努力を無駄にしてしまっている罪悪感が、またのしかかってきた。突然場面が切り替わる……
「これは……みんな、か?」
『おーい、康太様!』
『どこに行ったんだい? 出てきてくれよ!』
みんなが俺を探してくれている……でも、もうこの世にいないんだ。
「早く、誰か真実を伝えてくれよ……ただの時間の浪費じゃないか」
『あの人はいつもこんな感じなのか、あやめ?』
『いつもはその場で倒れちゃうんだけど……今日は違うみたい』
その場で倒れたら、感動の再会が台無しじゃないか。せっかく、家族が元通りになってハッピーエンドなのに……俺が目の前で倒れてしまえば、全部台無しだ。
「でも、すごく楽しそうだ……よかった」
『全くいつも、手間ばかりかかる人だ……!』
『本当にね……!』
そう言われて、また申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい……迷惑ばかりかけてたな」
『そんなこと言ってる割には、嬉しそうな顔ですよ?』
『そりゃそうさ、手間がかかるのには慣れっこですから! 生徒も仲間も手間がかかるくらいで丁度いい!』
鷹嶺先生が言うのに、一破さんも続ける。
『その手間の分、彼は精神も肉体も強い……だからこそ信頼を寄せられるし、気に入られるんです。私も、その一人ですね』
『流石、あやめに勝っただけのことはあるな……心·技·体が揃ったいい戦士だ!!』
「褒めすぎですよ……僕、そこまでできた人間じゃないですって」
当然の謙遜も、彼らには届かない。だって死人は死人なんだから……
『どこを探してもいない余~……康太様、どこなの?』
『病室にもいなかったし、一体どこに……』
「……あ、看護師さんだ」
知らせに来てくれたんだろうか? ありがたい、是非そうしてくれ。時間の無駄なんだ……
『皆さん! 雪村さんが……!!』
『雪村くんがどうかしたんですか?』
『大量の血を流して……心肺停止状態です!!』
全員の顔が一気に変わった、探しても無駄なんだよ。俺はもう居ないんだから。
「諦めてくれよ、みんな……俺のことは忘れて、な?」
『心肺停止!? 言わんこっちゃない!! こうなるから、動くなって言ったのに……!!』
『デルタに変身したのがトドメになって、出血を激しくさせたのか……!! だから死ぬって言ったんだ!!』
大変申し訳ない。でも、結果としてあやめは助かったし……みんながハッピーエンドなんだ、これでいいと思う。
『今の容態は!?』
『まだ心肺機能が戻らないらしくて……』
『無茶する人ですね、あなたのライバルは……あやめ? どうしました?』
あやめが顔を上げてくれない。どうした? みんなと再会できたし、これからは普通の日常に戻れる。何一つ足りないものなんて……
「ないはず……」
『……康太様のバカ!!』
『あ、あやめ!? 先に走って行くなよ!!』
顔を上げたあやめの顔は……泣いていた。俺が死んだことが悲しいんだろう。だけど、それはハッピーエンドより優先すべきことなのか? あやめは確かに優しい、でも人間には限界があるものだ。両親が戻ってきたことよりも、自分が生きることを許されたことよりも……俺が死んだことの方が悲しいのか?
「なんだよそれ……あやめはそんなにお人好しだってのかよ?」
『あぁ、走っていっちゃった……』
『とにかく死ぬなよ、雪村くん!』
死ぬなと言われてもな、もう死んでるんだけど。
『康太様……あんなの戦いじゃない余、戦ってくれるんでしょ!? 約束、守ってくれるんじゃ、なかったの……?』
「約束……そうだ、戦う約束してたんだ。でも、戻れないんだよな……あやめを絶対に守るって約束との両立はできなかったのか?」
『百鬼さん、大丈夫ですよ』
一破さんが来た、横に座って自信満々な顔をしている。
『一破さん……でも……』
『彼は……雪村康太は、こんなことでくたばるような人じゃありませんよ。仮面ライダーシザースが襲ってきた時からずっとそう……彼ほどしぶとい人を私は知りません。ゴキブリの生まれ変わりだったりして』
「例えが酷いよ、一破さん……」
このボヤきも彼には聞こえない。悲しいな……死んでしまったんだ。その事実が俺を苦しめる。
『……!』
『業、不知火……あの人は死なないって? 自分達に寿命をくれても平気そうだった……え、そんなことしてたの!?』
『はい、それでしか助けられないとわかって……迷いなく』
言わないでくれって言っとけばよかったな。少しだけ未練ができた……幽霊になるのも御免だけど。
『康太様は優しい……でも、自分にはすっごく厳しい余ね。なんでだろう?』
『……彼から聞いたことがあるよ』
『鷹嶺先生……』
次は鷹嶺先生が来て、あやめの横に座る……
『雪村くんはね、今からは考えられないくらいに普通の一般人だったそうだ……困ってる人がいても、自分に危険が及ぶなら助けない。そして骨が折れたら、怖くて動けなくなるくらいにはね』
『そうなんですか!? 今からじゃ考えられない余……』
『だろ? でも、彼はそんな自分が嫌で……死に物狂いで努力した。その結果……彼はここまで強くなったらしい。彼の成長速度は、あやめちゃんもよく知ってるだろう?』
努力すれば伸びる。俺は為せば成るを体現したような人間だけど……それにも死は平等なわけだ。
「はぁ……そんな俺でも、死は不可抗力なんだな」
『康太様って、強い人なんだね……』
『うん。彼はそんな努力をしてても、全く表に出さずに明るく笑って……陽気に歩き回る。そんな子だ』
そういう意味では、俺は弱くなっちまってるのか?
「ダメじゃねぇか。俺には何が足りないんだ? なぁ、教えてくれよ……」
『でも……死んじゃったら、もうそれも見られない』
『あやめ。お前が諦めてどうする?』
最後に来たのは、柊真さんと百合香さんだ。
『父上、母上……』
『あなたは雪村さんに生きていて欲しいのでしょう? なら、それを望む人がまず希望を抱かなくてはいけませんよ』
『最後まで信じろ。雪村さんはお前のライバルだろう? 鬼人のライバルが簡単に死ぬわけがあるまい』
希望……か。
『……そうだね。ありがとう! 余も信じる、康太様は生きてる!! 絶対に……戻ってくる余!!』
『えぇ、彼は死にません!! 寿命は10年あげてしまいましたが、それでも長生きするでしょう!!』
『ハッハッハ、無茶をする人だな!!』
みんな俺が帰ってくるのを信じているのか……
「どうやって帰ったらいいんだ……?」
辺り一面真っ白だ、俺が何かに気づけばいいのか?
「俺に足りないものがある……? 何が足りない?」
今ここで手に入れられるものなら、心で生み出す物のはずだ。明るくなくなってしまった理由とも、関係しているかもしれない。
「……そうか」
なんだ、簡単なことじゃないか。
「俺がみんなに持てって言ってたのに、俺が持ってないんじゃお笑い草だな」
ようやくわかった……みんなのおかげで。
「希望だ……俺が希望を持ってなかったんだ」
どんな状況でも……昔の俺が陽気だったのは、明日への希望があったからだ。今日がどんなに散々な日でも明日はきっといい日だって……無根拠に信じ込んでいた。だから笑ってたんだ、財団Xがムカつくくらいに。
「自分で自分の心を考察するなんて、変なの……」
確かに、酷いことがあったさ。でも……前も自分で言っただろ? ずっとウジウジしてたって、なんにもならないって。だから……明日はきっと、いい日だ。
「何の根拠もないけどな……!」
絶対にいい日にしてみせる。自分の力でやってやる、今の俺にはそれができるんだから。『変身』しろ、俺。
「……戻れるな」
直感的にそう思った。このままここにいたら、きっと死んでいただろうが……今なら、いける。
『雪村さんの心肺が回復しました!!』
『よしっ!! すぐに機材の準備だ!!』
『了解!!』
……体も反応してるな。
「心配をかけた……早く戻ろう」
そうだ、まだやるべきことがたくさんある。暁を殺すことも、財団Xを潰すことも。その目的はふたつ……
「みんなの夢を守るため、それと……みんなの明日を、いい日にするためだ!!」
そのためには、俺が笑ってないといけないよな。そう思って……明日への希望を抱く。自然に笑顔が浮かんでくる……目覚めるのが楽しみになってきた。
「まだまだ死んでやらねぇぞ、財団X!! 勝負はここからだぜ!!」
光の中に飛び込んで……俺は心地よい眠りに落ちた。
「……康太様、苦しくない? 欲しいものある?」
あやめの声が聞こえる……どうやら、起きたらしい。頭に何か乗ってるな、冷たいけど……タオルかな?
「う~ん、そうだな……とりあえず、腹が減った」
「そっか……って、え?」
「おはようあやめ! あとタオル、ありがとう!」
そうだ、俺はこんな感じに笑ってたよな。思い出してきた、希望って活力になるな……
「……」
「あやめ? 驚かせちまったかな? もうちょっとゆっくり起き上がった方がよかったか……」
「康太様のバカ!!」
いきなり怒られた。今回はこっちに全面的に非があるけど……胸板を叩かれている。
「あ、ごめんなさい……」
「バカ、バカバカバカ!!!」
「罵倒のレパートリー少なっ」
俺が思わずそう言うと、あやめの言葉が変わった。
「あんぽんたん!! あほ!! おたんこなす!!」
「だからって、無理に変えんでも……」
「心配ばっかりかけたんだから、当然でしょ!!」
それはごもっとも。
「ご最もです、はい……ごめんな、心配かけて。でも、この通り。完全復活だ!」
「余がどれだけ心配したと思ってるの……? 無理に変身なんかするから……」
「ごめん……でも、やっぱりあやめには俺と同じ思いをして欲しくなかったから」
こういう時に孤独に戦わなきゃならないのは、すごく辛い。それを背負うのは俺だけでいいさ。
「っ……それでもダメ! 本当に死んじゃうかと思ったんだ余!!」
「本当に心配ばっかりかけたな……悪かった」
「……傷が治ったら、康太様は何をするの?」
それは決まってるさ。
「財団Xをまた迎撃する。俺がやらなきゃいけないんだ」
「じゃあ……余と約束して。そしたら許してあげる」
「うん、俺なんでも聞くよ」
あやめが顔を上げた。そして、言ってくる。
「康太様は、みんなを助けようとするけど……生き残る対象に、自分も入れること!!」
「……自分も?」
「そう! みんなだけじゃない、康太様も生きてて!!」
俺も助かるように動け、か……そうだな。
「よし、わかった! これからは自分も含めて……生き残れる作戦にする!!」
「じゃあ、もう一回!」
「そうだな、指切りしよう!!」
小指を合わせて、約束。
「指切りげんまん!!」
「嘘ついたら……針千本飲ます!!」
「指切ったっ!!」
もう、死ねないな。俺も生き残らなきゃいけない……ハードルが高いぜ。
「これで約束だな! 死ななかったから、今回は針千本回避だ!! 危うく二回死ぬところだったぜ!!」
「フリじゃない余? 本当に飲ませるからね!」
「わかってますって!! そういえば……あやめこそ体は大丈夫か? 変な薬打たれたり、ルシファーズハンマー食らったりしたけど……」
ルシファーズハンマーの威力は高い、幾らオーガの鎧があったとはいえ……
「余は大丈夫、傷は治った余!! 取ってきた資料のおかげで、『反デモンズスレート電波』っていうのもできたらしいし!!」
「そうか……時間を稼いだ甲斐があったってものだ!!」
「康太様が死んだら意味ないんだ余?」
今約束したばかりだもんな。だが、心配無用だ。
「心配ご無用、言ったろ? 俺は約束を絶対破らない!! 針千本飲んで死ぬのは御免だしな!!」
「……ふふっ、そうだね! 康太様は約束破らないもん!! 一回約束したなら、心配ない!!」
「よし、信頼してくれた!!」
こういうところは日頃の行いが物を言うからな。みんな! 一度した約束は絶対に破っちゃダメだぞ!! 雪村お兄さんとの約束だ!!
「そういえば……康太様こそ、体は痛くない?」
「大丈夫だぞ? ほら、腕だってこの通り……あれっ!? 腕が……生えてる!?」
「あ、義手だ余! 康太様が寝てる間につけたんだって! 最新式で動かしやすい……らしい余!!」
そう言われて、腕を回したりしてみる……自分の腕と何ら変わらんな。感覚もあるし、かがくの ちからって すげー!
「そうなのか……皆さんに感謝しないとな。だけど、ビックリしたよ。一瞬、自分はナメック星人だったのかって疑っちゃった」
「あはは、そんなわけないでしょ!? この世界は何でも願いが叶うボールない余!!」
「うん、俺も嫌。俺の父さんも母さんも体は緑じゃないしな。そもそも俺、卵から生まれてないし……」
あービックリした。自分の種族を疑う事態になるとは思ってなかったよ。
「それにしても……違和感ないね、義手なのに」
「あぁ……もう少し、メカメカしいとありがたかったんだけど」
「ワガママ言わないの!」
かっこいいのを要求してたら怒られた。すいません。
「はーい……お金はどこから出たんだろう、高性能なら結構な金が……」
「学園が支払ってくれたって言ってた余? これは労働災害だから、って言って……」
「あ、そういう扱いになるのか……助かった」
体に痺れみたいなのはない、後遺症はなさそうだ……あったら戦いが不便になるから、非常に困る。
「それと……業と不知火のこと、ありがとう。二人が消えかけだったって……」
「うん。でも、元気に生きてただろ?」
「元気そうだ余、元気がなかったなんて嘘みたい!」
寿命をやったことも聞いてたみたいだし、怒られるかなと思ったが……今回は怒られなかった。
「それならよかった、二人も俺の友達だからな……」
「入るよ、雪村くん」
「あ、鷹嶺先生! お久しぶりです!!」
先生が来た、元気そうで何よりだ。
「あやめちゃんもいるんだね? 一緒に聞いて欲しい」
「わかりました!」
「まず……今回の事件で、二人は仮面ライダーになることが可能になった。よって、二人を野放しにしておくことはできない……それが政府の決定らしい」
野放しにはできない、どういうことだろうか?
「拘束されるんですか?」
「いや、拘束といってもそこまで厳重なものではないよ。外出時に記録と行先を書いてもらうだけさ」
「そっか……わかった余!!」
鷹嶺先生は申し訳なさそうにしている。拘束するのが辛いのかな?
「君達を拘束するのは、私達の本意ではない。学園長も悔しがっていたよ。雪村くんやあやめちゃんを拘束する必要性がないって……」
「構いませんよ。そんなに落ち込まないでください! 外出自体ができないわけじゃないんですから……その措置も当然です! ほら、笑ってください!!」
「懐かしいね。昔の雪村くんに戻ったみたいだ……そうだね、落ち込む必要はないか!」
俺達は『仮面ライダー』になってしまった。ならば、こういう措置が取られるのも納得だ。余りにも力がありすぎるしな。
「僕はこれからどうすれば?」
「あぁ、それなら学園長から伝えるように言われてるよ。たくさん頑張ってもらったから、しばらく有給休暇だってさ。財団Xが出るまでは休んでいてくれって! あとこれ、戦闘分のボーナスだってさ!」
「すっごいホワイト!! ありがとうございます!!」
休暇を貰った、よし。色々とやりたいこともあるし、利用させてもらおう。
「じゃあ、私はこれで……学園も今回の一件で大変でね」
「余もそろそろ帰らないと、心配されちゃう余……ごめんね?」
「別に謝る必要ないだろ、俺を重度のメンヘラと勘違いしてないか?」
俺はあやめを束縛するつもりはない。友達は、損得を考えて付き合うもんじゃないからな。
「あはは、ごめんね? じゃあ……また!!」
「またな!! 鷹嶺先生も、次会う日までお元気で!!」
「君こそね!!」
二人が出ていった……笑ってくれたな、二人とも。
「そうだ、俺はこういう人間だった……」
人に希望を与えられるって、素晴らしいことだな……これからもそうでありたい。
「さてと……休暇中にやることは決まってる」
傷を治したら、修行をやりつつ……あれをやる。
「全部を元に戻す……まだ完全じゃないけど、それでもだ」
決意を固めつつ、明るい外を見つめた……それから、時間は経って3日後……
「……体は大丈夫ですね。本当に回復の早い人だ……退院して大丈夫ですよ」
「よっしゃあぁぁぁーっ!!」
「え!?」
思わずジャンプしてしまった。天井がさらに低くて、前のようにぶっ刺さる。
「……外が綺麗だなー」
「刺さってるのに呑気ですね……君、抜いてあげて」
「はい……大丈夫ですか?」
ピ○ミン化パート2、椅子に降ろされた。
「大丈夫だ、問題ない!」
「そんなに元気なら大丈夫です。お大事に」
「はい、大事にします!」
病院を出て、体を動かす。
「うーん、シャバの空気が……って、犯罪者じゃないぞ? 俺は」
言い切る前にセルフツッコミしつつ、学園まで走る。寮で重りをつけたら外出理由を書いて、修行開始だ。
「この感じも、懐かしいな!!」
走り込みをやって、一通りこなしたら……本当の理由を実行する。
「よし……買っていこう!」
必要な物を買って、幽世へと走る。金を貰っておいてよかった! あの日と同じように、門番さんが立っている。
「……あ、雪村さん! こんにちは!! 遊びに来ていただけたんですか?」
「はい! おかげさまで……!!」
「ゆっくりしていってください、とはいっても……完全に直ってはないですけどね」
少し荒れているが……それでも元に戻ってきている、頑張ってるな。
「……後で手伝うか。でも、今は!」
桜の木の方を見る……もう倒木はどかされて、桜吹雪は相変わらず吹いていない。
「でも……!! 今日は久々に、桜吹雪が吹くぜ!! すみません、少し脚立を置かせてください!!」
「構いませんが……うわっ、高い!?」
「鍛えといてよかったな……あやめを呼んでこないと!!」
残りの荷物を背負って、屋敷の前に行く。
「……雪村康太さんですね。何の御用でしょうか」
「すみません、あやめに会いたくて。いらっしゃいますか?」
「外出はなさっていませんが……お呼びしますね」
門番の人が呼んでくれた。お手数おかけします……
「康太様! 来てくれたの?」
「あぁ。少しあやめに用事がな」
「立ち話もなんだし、中で聞く余。入って!」
いや……今日は中には入らない。
「外でもう用意してあるんだ! 着いてきてくれ!!」
「……? わかった! ちょっと待ってて!!」
「書類を書き終わるまで、暫くお待ちを」
少し待っていると、すぐ書き終わって戻ってきた。
「できた余! それで……どうするの?」
「ちょっと待ってろ? とびきりのサプライズだ!!」
「なんだろう……気になる!」
脚立を立てた場所に向かい……デルタフォンを取り出す。
「よし、皆さん! 離れててください! 変身!!」
『Standing by』
「え……!?」
あやめが驚いているな……これには、仮面ライダーの力が必要不可欠なんだ。
『Complete』
「康太様、変身してどうするの?」
「あれが仮面ライダーデルタか……初めて見た」
写真を撮られている……活躍もあって、警戒は薄いな。
「まぁ、見てろ!! あの時の光景を再現してやるぜ!! あやめ、そこを動くなよ!?」
「……三脚?」
「何をするんだ?」
すぐに見せてやるさ。高い脚立の上に仮面ライダーの力で飛び乗る……これがみんなの日常なら、俺が元に戻そうじゃないか。
「皆さん、シャッターチャンスです! 瞬き厳禁ですよ!?」
「袋……?」
「枯れ木に花を咲かせましょうっ!!」
木は無いけど、黒い脚立が木の代わりだ。買ってきたのは、自然素材の桜の花。売ってて助かった、その花弁を撒き散らす……人力で桜吹雪だ。もう一方の脚立にデルタの力で飛び乗る。
「あ……!!」
「桜吹雪だ!!」
「まだまだ、ここからだぜ!!」
両方の脚立にジャンプで移動しつつ、花弁をばら撒いていく。そよ風に乗って、ゆっくりと桜が舞い散る……あの日を思い出すな。桜吹雪を見て笑う、あの日のあやめを……何度か飛び降りて、桜吹雪が無くなる前に急いで花弁を回収する。
「撮れ! 今しか見られんぞ!!」
「これは……素晴らしい!!」
「折れてるのに、もう一回見られるなんて!」
たくさん見てくれ、みんな。そのためにたくさん用意してきたんだ……写真を撮ったり、飲み会を始める人もいた。そして、三時間くらいすると……あやめ以外はいなくなっていた。最後の一掴みを投げて……飛び降りる。
「あやめ! 今のうちだ! 写真を撮ろう!!」
「え……!?」
「ほら、早く! 桜吹雪が吹いてるうちに!! 業と不知火も出てこいよ!! 一緒に写ろうぜ!!」
写真のタイマーをセットする。変身を解除して……カメラの範囲に入った。
「みんな笑って!! はい、チーズ!!」
「……!!」
「うん、よく撮れてる……! また写真渡すから!」
花弁は土に還って栄養になるだろう……脚立や三脚をしまい込む。あとはこれで……
「それ……桜の苗?」
「これを育てる! そしたら……いつかは、元に戻るだろ? 気の長い話だけどな」
「……余が育てるから、大丈夫。余に育てさせて欲しい」
そうか、なら……
「1つずつ育てようぜ、こっちがあやめでこっちが俺だ! 俺の生きる理由にもなって、一石二鳥!!」
「……懐かしい、なぁ……前まで、普通に見てたはずなのに」
「わかるぜ、俺も懐かしいもん……前見たばっかりなのにな」
桜吹雪が止んでしまっても……きっと、またいつか吹く日が来る。何度植えても踏み躙られるなら、踏み躙る奴は俺が倒してやる。だから……もう一回、育てよう。希望を持って……
「康太様は……なんで、これをやろうと思ったの?」
「え? それは……これだって、あやめや幽世の人達からすれば日常、だろ? 桜吹雪がないと、日常に戻った感じがしないかなって……ダメ?」
「ううん、ありがとう……もう一回見られて、嬉しい余」
それならよかった。明日への希望が、また一つできたな。
「よかった……じゃあ、俺はこれで!」
「待って!!」
「ん……?」
一陣の風が吹き抜ける。地面に落ちていた花弁が……また、宙を舞った。
「ありがとう、康太様! 戦いが全部終わったら、また一緒に……桜、見ようね!!」
「うん、約束だ!! じゃあ、またな!!」
「……康太様大好き」
その言葉を聞いて、思わず足が止まった。
「あやめ、大好きって……」
もう、あやめはそこにいなかった。
「大好き? この流れだとlikeじゃないよな……」
まぁ……好意を抱かれて、悪い気はしないし……
「いいか!! さてと、帰ったら何食べようかな?」
今日の晩御飯に何を食べるかを考えつつ……俺は、学園に帰っていった。
ヒーローは戦うだけが仕事じゃないのです。