お待たせしました。
財団Xとの大きな戦いが終わって、一ヶ月が経過した。そんな中、俺は……いつもの日課として、桜を見に来ていた。今は夏場で、少し乾燥している……だから持ってきたジョウロで水をあげているのだ。
「桜ちゃん、早く大きくなーれ……っと」
「いつもありがとう、康太様!」
「お礼はいらない、俺が植えたんだし……何より、俺たちは友達だろ?」
桜に水をあげつつ、少しカッコつけて笑いながら言う。友達同士、それなら一緒に植物育てるくらいはいいだろう。
「……うん! ずっと友達だ余!!」
「いつも熱心ですね、雪村さん? あと、水ありがとうございます」
「柊真さん! はい、今日も元気に修行中です!! 桜は俺達に任せてください、絶対元気に咲きますから!!」
元気にピースして答える。そんな俺を見て、笑いを零す柊真さん。
「そろそろ次の桜が咲く頃だし、また花見ができるかもな……その時は雪村さんも招待しますよ、あやめも喜ぶでしょうし」
「今度こそ、いっぱいおもてなしするから!! 期待しててね、康太様!!」
「ありがとうございます! 期待を膨らませて待ってるよ、あやめ!! じゃあ、俺はこれで……ん?」
そう言って、走り去ろうとした時……電話がかかってきた。
「……電話ですか?」
「そうですね……もしもし?」
『私だよ、雪村くん。ランニング中すまないね』
学園長だ、ということはまさか……
「まさか、仮面ライダーですか!?」
『いや、そうではない。心配しなくていいよ……鷹嶺先生から連絡があってね……仮面ライダー達を連れてきてくれ、とのことだ。研究をしたいらしくて……holoxに来てくれってさ』
「そういえば、そんなことも言ってたっけ……わかりました。あやめも連れていきます」
電話を切って、あやめに事情を話す。
「どうしたの、康太様? 仮面ライダー?」
「違うらしい。どうやら……俺達、デルタとオーガのデータ採取がしたいようでな。あやめも連れてこいって学園長が……」
「オーガ……そっか、余はもう……」
落ち込んでしまった、やっぱりトラウマになってるんだな……当然だ、あんな目に遭わされたら、誰だってそうなる。
「大丈夫だよ。オーガに変身しても、あやめはあやめさ……『仮面ライダーオーガ』は俺が殺した。あやめがオーガに戻っちゃうわけじゃないよ」
「でも……余はもう、変身したくない……ベルトを持つのが、怖い余……」
「あやめ……雪村さん。何とかなりませんか?」
こんな状態のあやめを無理矢理変身させるのは、財団Xと何も変わらない。よし……
「わかった、じゃあ……一緒に言いに行こう。あやめが嫌なことは絶対しない、約束する」
「ホント……?」
「ホントさ! 両親に誓って言えるぜ!!」
そう言うと……日頃の行いがいいからか、信頼してくれた。
「わかった! お父さん、行ってきます!」
「気をつけてな……娘をよろしくお願いします、雪村さん」
「仮面ライダーデルタに任せてくださいよ!!」
そう言って、歩く。とりあえず……holoxの場所がどこなのかわからんのだが……そう思っていると。
「……待ってたよ、雪村くん」
「鷹嶺先生……もしかして、holoxへの案内役ですか?」
「うん、総帥がね……鷹使いの荒い人だよ」
あやめが怖がっているな……絶対に、嫌な結果にはさせないさ。そう思って歩いていると……着いた。
「デカいビルだな……秘密感はないけど」
「ここがholox……?」
「そう。中でみんなが待ってるよ、行こうか」
階段を上がって、部屋の中に入る……真っ暗だ。
「うわっ、暗いなぁ……電気どこだ?」
「あれ……鷹嶺先生は?」
「そういえば……どこに?」
辺りを見回していると……スポットライトが光った。色は紫、赤、ピンク、緑、青……人が出てきて、何かを言い始めた。
「掃いて捨てるような現実を!!」
「一刀両断! ぶった斬る!!」
「終わりなき輪廻に迷いし子らよ!!」
決めポーズとってる。黒っぽい人に、刀持ってる人に薬持ってる人……次に先生が出てきた。黒っぽい人は灰色の服に赤いチェックスカート、アイマスクをしていて目は見えない。上からフードを被っているから、尚更見えにくいな……刀を持ってる人は、金髪に和装……髪はポニーテールにしている……薬を持っている人は、ピンクの髪と獣の耳に尻尾。獣人のようだな……白衣を着ていて、腰には試験管がいくつかついている。
「漆黒の翼で誘おう……」
「我ら、エデンの星を統べる者ッ!!」
秘密結社! holox!!
一気に電気がついた。全員、決めポーズをとってる。こういう時は……
「かっこいいぞー!! ホロックスー!!」
「いやぁ、どうもどうも……ごめんね? こんなことに付き合わせちゃって。ビックリした?」
「客人達よ、我々の本拠地へようこそ!!」
あやめは相変わらず怖そうにしてるな……話さないと。口を開こうとしたが……
「あの……!」
「雪村さん、私もいますよ」
「人間様も……!!」
警察として視察に来たのか? 確かに、しない理由がないな。
「仮面ライダーのことを一番よく知るお前が行け、とのことです……よろしくお願いしますね」
「自己紹介が遅れちゃったね、ボクは博衣こより! holoxの頭脳だよ!!」
「そして風真はholoxの用心棒の侍、風真いろはでござる!!」
侍……だから刀を持ってたのか。
「ふむ……そちらの人達は?」
「holoxの掃除屋でインターン、シャチの沙花叉クロヱでーす!! 以後よろしく!!」
「そして、吾輩こそ! holoxの総帥にして、この世界を統べるラプラスの悪魔……ラプラス・ダークネスだ!!」
この人が……? そうは見えん。背は低くて、髪は銀髪に紫が混じっている。紫色の服に重たそうな飾りが、両腕と両足と首に一個ずつ……あと、大きな角とXの連なった尻尾……悪魔か? 魔族は見かけで年齢が判断できんからな……けど、強者のオーラが感じられない。
「う~ん……鷹嶺先生、そんなすごい人なんですか?」
「一応ね。力の大半が封じられてるから、今はそんなでもないよ」
「おい、かんぶ!! 雰囲気考えろ!!」
仲が良さそうだな……でも、あやめの望まないことをするわけにはいかないんだ。
「じゃあ、二人とも! こっちに来て、変身してくれる?」
「それなんですけど……あやめの変身、ナシにしてくれませんか」
「え……?」
あやめが怖がっているのを見て、明らかに鷹嶺先生の様子が変わる。
「あやめちゃん……怖いの?」
「……うん」
「この通り、すっかり萎縮してしまって……当然ですよね、あんな目に遭ったんですから。一破さんと鷹嶺先生はよく知ってますよね?」
二人が俯く。俺は約束したんだ、絶対に守り抜いてみせるさ。
「吾輩も、かんぶから大体のことは聞いた。だが……どうしても必要なんだ」
「僕からなら、データは幾らでも差し上げます。四肢を一本もいだっていい……だから!!」
「そ、そんな……!!」
あやめが困っているようだが……これくらいしないと納得しないだろう。
「う~ん、やめたいのは山々なんだけどさ……オーガのデータのあるなしで、研究の速さとかも変わるんだよね」
「でも、無理矢理やるのは……心が痛むでござるよ」
「結構怖い目に遭ってるわけだし……やめといたら?」
みんなそう言ってくれているが、やっぱり必要なのか……
「私も絶対に持ち帰るように言われてしまったので……すみません」
「康太様……」
「ッ……」
思わず汗が流れる。どうする? 考えろ、約束を違えるわけにはいかないんだ……あやめを傷つけないことはできないか?
「……こより、少し落ち着いてから……」
「そうだ!!」
「わっ!?」
思いついた……いけるかはわからんが、やるしかない。
「あやめ……俺と一緒にやれば、守りながらなら……どうだ?」
「え……?」
「俺がオーガフォンも、ドライバーも持ってあげるよ。ずっと、俺が傍にいながらやる……勿論、俺はデルタになって。ヒーローと一緒に変身すれば……少しはマシじゃない? 皆さんは構いませんか?」
精一杯考えた策だが、受け入れてもらえるかな?
「うん、支障はないだろうし……大丈夫だけど」
「無理そうなら、他のを考える。怖いなら言っていいぞ?」
「……康太様、ありがとう。それだったら、余も何とか大丈夫かも」
よし……!! 喜びで思わず、ガッツポーズする。
「そっか……ありがとう、よく言ったな!! すごいよ、あやめ!!」
「ベタ褒めだね……」
「当たり前でしょ、怖いのを認めて……それでも挑戦することを選んでくれた!! こんなに凄いことがありますか!?」
あやめは勇気を出してくれた、一歩踏み出すのがどれだけ勇気のいることか……
「よし、そうと決まれば……こっちにどうぞ!!」
「行こう、あやめ。仮面ライダーデルタがついてるぞ」
「うん……」
雪村康太じゃなくて、仮面ライダーデルタとして……あやめを守りながら進んでいく。すると、訓練室と書かれた部屋に入った。
「ここでテストするから……はい、ベルト!」
「おっと! よし……まずは俺だな!!」
「スキャン開始……始めていいよ!」
あやめの前に立ちながら、叫ぶ。
「変身!」
『Standing by』
「エネルギー充填を確認……変身は音声認識なんだね」
何やらメモをとっているが……気にせずに、デルタフォンを差し込んだ。
『Complete』
「仮面ライダーデルタ、参上!!」
「形状記憶光子……? すごい技術、それでここまでの鎧とエネルギーを生み出すなんて……体にエネルギーが流されてる、これで戦うんだね。次、オーガお願い!」
さて……ここからだ。震えるあやめの肩に手を置いて、オーガフォンを開ける。
「一緒に押すか?」
「……うん」
「よし、いくぞ?」
0のキーを、三回押して……エンターキーを押し込む。
『Standing by』
「う……」
「大丈夫、仮面ライダーデルタがいる……何も怖くないよ。深呼吸して……」
何とか落ち着かせつつ、ベルトを巻いてあげた。
「キツくないか?」
「……大丈夫」
「じゃあ……落ち着いて、ゆっくり一緒に……」
待機音が鳴る中、あやめの手を握りしめて……差し込んで、一緒に携帯を倒す。
『Complete』
「もっと高出力のエネルギーが……なんて量なの!?」
「……康太様、やっぱり怖い余……」
だろうな……恐怖を取り除くために、あやめの頭に手を置いた。
「平気さ……強くてかっこいい仮面ライダーデルタは、君の味方だよ」
「……ありがとう」
「これから、どうすれば? あやめの方を先にお願いします」
早めに終わらせよう、それが一番の解決策だ。
「じゃあ……剣のテストをしたいから、的を切ってみせてくれる? そのメモリー入れて……」
「……あやめ、大丈夫だぞ。いつも通りに切りかかればいい」
『Ready』
恐怖がある程度弱まったのか、的に向かってオーガストランザーが振り下ろされる。それはスパッと一刀両断されてしまった。
「うん……! やぁぁぁっ!!」
「すごい威力、普通なら切れないのに……他にも機能はある? 視力とか聴力は?」
「すごくよく見える余……全部、よく聞こえるし……これも機能なのかな。あとは必殺技が撃てるはず、だけど……」
それを聞いた彼女の言葉は、わかっている。
「じゃあ、やってみて?」
「オーガストラッシュだな? いくぞ、あやめ。きちんと構えとけ?」
「わかった……!」
携帯のボタンを押してあげると、電子音が鳴って……光が走り始めた。
『Exceed Charge』
「……ホントに伸びた!!」
「うりゃぁぁぁっ!!」
剣が振り下ろされて……的が全て両断される。
「あと、先端には拘束能力もあるんですが……それは別にいいですかね」
「そうだね……走る力はさっきわかったから、あとはパワーかな。パンチとキックを一発ずつ、この的に頼める?」
「……あとちょっとだ、一緒に頑張ろう」
ゆっくり頷いて、拳の一撃。大きく的が吹っ飛ぶ……跳ね返ってきた的に、突き出された足裏が直撃した。粉々に砕け散りながら、壁に激突する。
「パンチ力4t、キック力は9tか……やっぱり凄まじいね。インパクト時に光子エネルギーの放出を確認……これが、フォトンブラッドの性質か……協力してくれてありがとう、これでオーガはおしまいだよ」
「よく我慢したな……あやめ。ありがとう、勇気を出してくれて」
「こっちこそ……康太様のおかげだ余」
「変身、解こうか」
オーガフォンを抜き取ると、光が消えて……変身が解けた。
「じゃあ……余はあっちで待ってるから」
「あぁ、すぐ終わらせるよ……お待たせしました」
「同じようにパンチとキック、頼める?」
的へ近づいて、思い切り殴打し……地面を蹴りこんで、膝を突き刺してやる。人型の的の上半身と下半身が泣き別れになり……その場に倒れた。
「パンチ力は3.5t、キック力が8tか……インパクト時にエネルギー放出があるのも同じだね。出力はオーガよりか低いけど、これで十分。他の機能は?」
「ショルダータックルと、銃と……必殺技ですね」
「全部やってもらえるかな?」
頷いて、肩に力を込める。出現した的に突撃し、バラバラに砕いた……いい威力してるな。
「ショルダータックル、強力だね……」
「ファイア!」
『Burst Mode』
銃を構えて……撃ち込んだ。白い閃光が炸裂して、的が吹き飛んでいく……
「こっちも十分出力高いね……必殺技、いける?」
「はい、じゃあ準備しますから……」
『Ready』
メモリを刺すと銃が伸びた、必殺技モードだ。
「いけそう?」
「はい。チェック!」
『Exceed Charge』
光を撃ち込むと……紫色のドリルに変わる。それに向かって走り、飛び上がった。足をそのまま突き出して、ドリルに突っ込む準備をする。
「足も早いね……オーガと同様、時速60km超ってところかな」
「だぁりゃあぁぁっ!!」
「……的の原子構造が分解されてる!? すごい技……!! 光子と人間が一体化するなんて、どんな技術で……」
そこから飛び出すと……Δの模様が描かれて、的が灰化した。
「これでいいですか?」
「仮面ライダー……やっぱり謎が多いね。ご協力、どうもありがとう」
「それでは……」
変身を解いて、あやめの方に行く。泣いてないだろうか?
「後から怖くなってるかも……あやめ!」
「このお菓子美味しい、おかわり!!」
「まだまだあるでござるよ?」
……美味しそうにお菓子食べてた。
「あー……心配いらなかったな、幸せそうでなによりだよ」
「康太様も食べな余、美味しい余!!」
「……ホントだ、美味い!」
お菓子を一つ摘む……なんか献血の後みたいだな。
「いろははお菓子作るの上手いからね、気に入ってくれてよかった」
「侍さんが作ったんですか!? へぇ~……意外と家庭的だなぁ、用心棒って言ってたけど」
「用心棒は戦うだけが仕事じゃないのでござる!!」
鷹嶺先生が個性的なだけあって、メンバーも個性的だ。それをまとめる総帥なら、さぞかし見た目と違って威厳のある人で……
「さむらい、おかわり!!」
「またでござるか~?」
「ご飯食べられなくなっちゃうよ、ラプ?」
……見た目と違わなそう。
「それでいいのか、総帥……」
「実質、私が取り纏め役やってるし……期待しない方がいいよ」
「最初はちょっと怖かったけど……慣れたら、いい人達だね」
そんな雰囲気のおかげか、あやめも慣れてきている……
「怖い思いさせたお詫びだから、遠慮せず食べてね? 康太くんも、協力のお礼と思って……」
「じゃあ、お言葉に甘えます!」
「お待たせ、一破さん。データ書き出し、終わったよ」
博衣さんが紙を何枚かまとめて持ってきて、一破さんに渡している。あれが俺達のデータか……
「ありがとうございます。警察の方でも研究に協力しているので、大変助かってますよ」
「こっちこそ……公的な援助を得られて助かってます。運営にもお金が要るのでね」
「では、私はこれで……ごゆっくり、百鬼さんに雪村さん」
資料に目を通しつつ、いつも通り微笑を浮かべながら一破さんは去っていった。
「カッコいいなぁ、一破さんは……やっぱりベテランは違うね~」
「人を褒めるのは変わってないね?」
「変わってないというか、元に戻ったっていうのが正しいんですけど……」
この性格はみんなに好印象を与えられるし、雰囲気を明るくできる。俺の性格も捨てたもんじゃないな。
「……外が騒がしくなってない?」
「いや、これは極秘で行ってるし……」
「あれは……みんな、見るでござる!!」
窓の外を見てみると……マスコミが押しかけてきていた。
「嗅ぎつけられたか……間違いなく、仮面ライダー目当てだろうね」
「拒否すれば、陰謀論が飛び交うのは明白……チッ!!」
「こ、康太様……怖い余……」
そりゃあ、怖いよな。短時間じゃない、変身して見せ物にされろだなんて……財団Xと何ら変わらん。
「大丈夫、任せろ……僕がマスコミを何とかします。その間に先生があやめを連れて行ってください」
「……どうするつもりだい?」
「まぁ、見ててくださいよ。あやめ、また明日な?」
手をひらひらさせながら、部屋を出る。階段を降りると、マスコミの喧騒が耳を突いた。
「仮面ライダーはここにいるぞ!!」
「出てきてくれ、デルタにオーガ!!」
「質問に答えてください!!」
ああ、いいぜ……ご期待に答えようじゃないか。そう思って、喧騒の中でも聞こえるように……全力で叫んだ。
「変身!!」
『Standing by』
「これは……仮面ライダーか!? おい、カメラ回せ!!」
喧騒が、ピタリと止まる。あたかも……見せ物が出てくるのを待つように。
『Complete』
「さぁさぁ、皆さんご注目!! 話題沸騰中の、スーパーヒーロー!! 仮面ライダーデルタ!! 皆さんの期待にお答えして~……ただいま参上ッ!!!」
「うぉぉぉぉ、デルタだぁぁぁー!! 撮れ、撮れ!!」
カメラのフラッシュが目に染みる……そんな中、俺はポーズを決めたり、銃を構えてみたり……奴らの気を引く行為を繰り返す。
「デルタさん! 変身するってどんな感じですか!?」
「目の前が眩しくなって、気がついたら変身してるって感じです!! 痛くはないですよ!!」
「初めてなった時、どんな感じでしたか?」
質問攻めに遭いながらも、ポーズを取ったりして俺に気を引きつけてゆく。
「体から力が湧き上がってきて、なんでもできそうな気がしました!!」
「おぉ、やっぱりすごい!!」
「今回は出血大サービスです!! デルタの超パワーをお見せしましょうっ!! カメラもチャンネルもそのままでお願いしますよ!?」
こちらに、全カメラが向く。囲まれている中から……デルタの力で地面を蹴って、空中で回転しつつ……holoxとは真反対の方向にカメラを向けさせた。
「凄いジャンプ力だ!! これがライダーの力なのか!!」
「高層ビルくらい跳んでたぞ!?」
「これがライダーパワーですよ!! 見逃しちゃった人もいそうなので……今回は、特別にもう一回跳びます!! 今度は見逃さないようにね!?」
もう一回跳んで、さらに距離をとった。マスコミ達がこちらに寄ってくる……
「すごいぞ、もっと見せてくれ!!」
「ご覧下さい!! あれこそが、仮面ライダーデルタの力です!! 我々はあの力に守られたのです!!」
「デルタ!! デルタ!!」
デルタコールで、他に何も聞こえなくなっていく……この間に出てくれよ、二人とも。そう思いながら、色々やり続けて……マスコミが居なくなった後。
「ふぅ……仮面ライダーは戦うだけが仕事じゃないな。二人は帰ったかな……? 失礼しまーす……」
「あ、帰ってきた」
「二人ならもう帰ったよ? 君が気を引いてる間に」
よかった……効果はあったらしいな。
「それならいいんです! では、失礼します!!」
ドアを閉めて、寮の方に帰ってゆく……でも、流石に疲れたな。
「休憩するか……」
学園のベンチに座り込んで、空を見上げる。もう夕暮れだ……
「乾さんは、しばらくこの世界を見て回るって言ってたけど……楽しんでくれてるかな? そうだといいな……」
「何の話ですか?」
「わっ、一破さん……!? いつからそこに!?」
顔を上げると、一破さんがいた。
「すみません、下を向いて何か言っていたので、ついね……学園長と財団Xについて話をした帰りだったので」
「そうですか……こっちの話なので、お気になさらず」
「ふふ……あと、ニュース見ましたよ。無茶をしますね、あなたも」
デルタのことか……
「方法はあれしかなかったので……」
「わかっていますよ。お疲れ様でした……だからこれ、良かったらどうぞ」
「ブラックの缶コーヒー……?」
冷たくて、俺の体に心地いい冷却を齎してくれる……
「私のお気に入りです。私からはお礼ができていなかったので……私達のために、いつもありがとうございます」
「そんな……! 僕がやりたくてやってるんですから、お礼なんていいですよ!!」
「私個人として、あなたに何度も頼ったので……そのお礼ですよ。受け取ってください……では」
そう言って、一破さんは去っていった。プルタブを開けて、真っ黒な液体を口の中に流し込むと……
「……うぐっ、苦い」
苦味と酸味が口の中に広がってゆく……でも、不快な感じじゃない。
「大人の味かな……一破さんは大人だな~」
体がいい感じに冷えたので、まだ動けそうだ。
「感謝しないとな……ありがとうございます」
その後、すっかり夜になって……夜ご飯を食べに行くと。
「やぁ。また会ったね、雪村くん」
「鷹嶺先生……こんばんは」
「君のおかげで、ホロライブ学園の株も上がってるよ。世論も支持を一層強めている」
効果はあったらしいな、それならいいんだ。
「よかった……」
「どうしようかと思っていたんだが、また君に救われたね……ライダーになれるようになって、策にも磨きがかかったかな?」
「やれることが大幅に増えたのでね、その分考えの幅も広げられるって感じです」
ご飯を食べながら、話す。俺はもう仮面ライダーデルタになったんだ、『仮面ライダー』は俺一人でいい。こんな辛い役割、背負わせたくないから。
「あやめちゃんが言ってたよ、いつも無茶ばっかりして心配だって……」
「あやめは優しいですから……そうなりますよね」
「気持ちはわかるけど、くれぐれもやり過ぎは禁物だよ? 自分のことが好きな女の子に、嬉し涙以外流させちゃいけないからね」
……耳が早い。もう知ってたのか……
「もう知られてたのか……耳が早いことで」
「足も耳も早いのが取り柄だからね、私からスピードをとったら、笑いのセンスしか残らないよ!」
「そ……そうですね」
ギャグセンスがあると思っているのか……こういうところ見てると、真面目な時とどっちが本当かわからなくなるな。
「ごちそうさま、また明日ね?」
「はい!」
俺も食べ終わって、返却し……一通り済ませて、警備に入る。この仕事も久しぶりだな……そうだ、せっかくなら。
「交代です、お疲れ様でした」
「はい……って、デルタ!?」
「変身すると目が良くなるので、こっちの方がいいかなって」
周りも明るくなってる、ライトいらずだな。
「そ、そういうことか……では、失礼します」
「はーい……さて、頑張るか。財団X、いるなら出てこい。俺が相手だ」
しっかり構えながら、深夜警備。これも仕事のうちだ。
「ずっと、これが続くといいな……」
そう言いながら、俺は暗い学園を歩き続けた。
ここは財団X日本支部……作戦失敗で帰ってきた暁が、手と目から血を流している。
「うがぁぁァァァッ!!! 何故だァ、何故だ何故なんだ!? オーガとエラスモテリウムが……あんなゴミ共に負けただとォ!?」
「は、はい……」
「私は間違っていたのか……? 私は何も間違えるはずがない、会長の右腕は私だぁ……!!」
手から流れていた血が、ドス黒く変色する。体から、煙のようなものが上がり始めた……
「なっ、これは……!?」
「アァァァ、絶望した……生きた心地がしない……」
「みんな逃げろ!! 死ぬぞぉ!!」
研究員達が、慌てて逃げ出し始めた。ドス黒い煙や、血が当たった場所が……次々、腐敗しては煙になり、他のものを腐らせてゆく。
「ひ、ヒィィ……!!」
「そうだ……悪いのは貴様らだ、貴様らも絶望しろ!! ダッハッハッハッハァ!!!」
『デスペアー!!』
暁の絶望を表したかのように真っ黒な、長方形の物体……ガイアメモリが、首筋に差し込まれると……辺りの物を煙に変えながら……暁自身も煙に包まれて、皮膚が腐り落ち……脱皮するように、化け物が現れた。顔は苦痛に歪んでいるようにも、嗤いにも見え……体には無数のケーブルや、亡者の腕や内蔵が張り付いている。暁の背中にあしらわれた光輪のようなものは、骨と人肉で構成されている。開いた口と手の穴と眼球から、ドス黒い液体が流れ落ちた。
「な、床が溶けて……!?」
「絶望に沈めェ……!!」
「ギャアァァァァッ!!」
液体に触れてしまった研究員が、無数の手に足を取られて引きずり込まれた。それはタールの塊のようになり、暁に入る。その瞬間……体から、その男の顔が出てきた。それに反応して、顔が次々に出現する。
『イタイ……ツライ……クルシイ……』
『コロシテ……タスケテ……コロシテ……』
『イッショニ、ナッテヨー……』
その声が響くと同時に、手の装飾が蠢き……研究員達を掴んで、液体に沈めていく。
「うわぁぁぁぁっ!? 嫌だ、死にたくない!!」
「絶望を共有しろ、そして……我が力となれ」
「う゛わ゛あ゛ぁぁぁぁぁーッ!!!」
取り込まれるのに比例して、液体の範囲は広くなり……やがて、支部全てを飲み込んでしまった。かつて命だった塊が、暁に取り込まれてゆく……建物は全て煙となり、上に登ると……ドス黒い雲を作って、黒い雨を降らせ始めた。植物は枯れ、木々は腐食してゆく。
「……嗚呼、やはり素晴らしいな……絶望を共有すれば、何一つ苦しむことはない。永久の安心を得ることが出来るのだ……さて。次の作戦を考えなくてはなァ……建物が消えてしまったし、建て直さなくては……」
黒い雨の降り注ぐ中、暁は背中から黒い血を流し……骨と血で構成された、羽を出現させた。
「我は救済の神……総てに絶望を等しく与える、会長の下僕なり……!!! ダァーハハハハハッ!!!!」
開かれた翼から、血液が撒き散らされて……暁は黒い雨の中を、笑いながら飛んでゆく。会長のため……この世界に、絶望を齎すために。