お待たせしました。
学園の開校期間が終わり、また休校となったホロライブ学園だが……俺達のやることは、依然変わりない。学園内を駆け回り、奴らが来ていないか確かめるのだ。手がかりなしに日本を駆けずり回ったら、財団Xに警戒されて逆効果になることは誰だってわかる。
「一破さん、大丈夫でしたか?」
「そっちこそ、異常はなかったんでしょう? 怪我してるかどうかでわかります」
「流石に連続では来なかったようですね。そこだけは、不幸中の幸いか……」
ゾディアーツはあれ以来来ていない、仮面ライダーやオルフェノクもだ。
「仮面ライダー系統の敵は開発が難しいのでしょうね。ライオトルーパーは開発が簡単な代わりに、スペックが大幅に落ちていたし……できる限り時間がかかって欲しいですが」
「でも、いつ来るかはわからない。だからこそ、デルタや警察は休めないんですよね……ん、電話か。ちょっと失礼します」
「わかりました、ここで待っています」
警備をしてくれている皆さんの邪魔にならないよう、物陰で電話に出る。
「もしもし、雪村ですが……」
『雪村くんだね? 君の耳にも入れておいた方がいいことがあったから、電話で言わせてもらうよ』
「その感じだと……仮面ライダー関連の事象ですかね?」
というか学園長がこうして言ってくるなら、それ以外考えられない。
『そうさ。君は戦いが忙しいから、知らないと思うけど……最近、対ライダー兵器を開発しようとしている企業がたくさん現れているんだ』
「へぇ……それが私と関係あるんですかね?」
『うん。だから今、企業間では誰が一番早く成果を上げて、日本政府からの援助を受けられるようになるか……競走になっていたんだよ。これは君にとっても好都合なことだ。新兵器などが供給されれば、君の戦闘も幾分か楽になるからね』
ってことは……
「もしかして、何かしら協力を?」
『流石だね。その通り……彼らにデルタやオーガ、君のお陰で奪取できた書類などの情報を公開していたのさ。そして……先日とある会社が、仮面ライダーに感しての研究で成果を上げた』
「あ、私の知らない間に!?」
どんなことがわかったのだろうか。普通に気になる。
『簡潔に言えば、オルフェノクの性質がわかったんだ。ニュースにもなっていた……君がちょうど、ゾディアーツと戦った後だね』
「あぁ、あの後か……最近テレビ見てないんだよな」
『無理もないよ、それだけ大変な仕事だからね……この際だから、簡単に説明しておくよ。まずオルフェノクは病気ではない……』
病気ではない……まぁ、そうだよな。
「まぁ、そうですよね」
『すまない、言い方が悪かったね。正確には『治療するものではない』んだよ。噛み砕いて言えば、勇気くんは治療の必要が無いんだ』
「えっ……? どういうことですか?」
話の続きを促す。勇気くんのことなら、聞かないわけにはいかない。
『奴らの基地から奪った書類に書いてあったんだ、オルフェノクは『人類の進化』であり、誰もが成り得るものだとね……とはいえ、そんなことはこの世界では一度も起こっていない。だが今回の研究によって、人間の細胞には、書類に書かれていた『オルフェノク因子』と呼ばれるものが存在することが明らかになった』
「ってことは……私もなってたかもしれないんですか!?」
『あぁ、そうなる。ただ……これが覚醒する確率は凄まじく低い。宝くじの一等よりも……どれくらい低いかと言うと……君が壁にもたれかかって、そのまますり抜けて学園を突き抜けていくくらいの確率だ』
よくわからんが、低すぎるってことはわかった。
「なるほど、だからか……あれ? でも、オルフェノクはたくさんいて……」
『他にも方法があるんだよ。人為的に因子を埋め込み、覚醒を促す方法。奴らはこれを採用していたらしい……強さも覚醒した者と変わりないようだ。そして、最後の1つは『使徒再生』。君の言っていた触手や武器を心臓に突き刺して、オルフェノクエネルギーを注入して覚醒させる。最も確率が高いが、代わりに強さは劣るようだ……これは書類に書かれていたんだがね』
「使徒再生……そういえば、山崎がそんなこと言ってましたね。ということは、山田さんもオルフェノクになるかもしれなかったんだな……」
死ぬくらいなら、そっちの方がいい気がする……
『うん。だけど……財団Xの技術で確率が大幅に上がっているとはいえ、人間に急速な進化を促して凄まじい力を付与するわけだから、殆どの人間は進化に耐えきれずに灰になってしまうらしい。殺人鬼が進化したオルフェノクは、財団Xの技術を使用せずに使徒再生した……消滅は必然だっただろうね』
「そうですか……他にわかったことは?」
『あとはオルフェノク因子と、ヒト以外の生物についてだね。人間以外はオルフェノクになれない……つまり、進化できないんだ。あやめちゃんがオルフェノクにならなかったのも、オルフェノク因子は人間の細胞以外には影響を及ぼさないから……オルフェノクエネルギーは、人間以外にはただの致死毒になるわけだ』
そうなんだ、じゃあオルフェノクになることはないんだな……
「それで今、兵器を開発中なんですか?」
『あぁ、書類のデータを元に開発が進んでいるらしい。ライオトルーパーのアクセレイガンを元に、対未確認生命体用の武装を量産する気でいる。政府も援助する気のようだし……これで警察や自衛隊も対抗できるかもね』
「とりあえず、いいニュースを聞けてよかったです! 悪いニュースばっかりだったからなぁ……」
学園長の声も明るい、俺も明るい気分だ。
『本当にね……さて、ご飯の邪魔をしてすまなかった。昼休憩に入ってくれ』
「はい、失礼します……一破さーん!!」
「随分明るいですね。いいニュースだったんですか?」
満面の笑みで返事を返す。
「はい! オルフェノクに関しての研究が進んで、新しい武器が開発中なんですって!! 財団Xに自衛隊や警察が対抗できるようになるんですよ!!」
「へぇ……! それはいいことだ、私達が戦えるに越したことはない!」
「機嫌よくなったし……ご飯食べに行きましょー!!」
俺も久しぶりにテンションが高い……だって、こんないいニュースは久しぶりなんだ。
「ふふふ、明るいですね……さて、私も行くかな」
「きちんと食べて、昼からも仕事頑張らないとな……!! 一破さんも早く!!」
「そうか……やっとか。もっと強くならなければ……良い警官であるためには、どんな犯罪者も捩じ伏せる力がないといけないんだ……」
一破さんの足が止まっている、何か言っているようだが……
「一破さん? どうかしました?」
「いや、すみません……仕事の疲れがね。行きましょうか」
「無理しないでくださいね? 私がその分頑張りますので」
そう言うと……一破さんは首を横に振った。
「できませんよ、警察としてそんなことは……あなたも自分の身は大切にね?」
「一破さんの次のセリフは『だってあなたを好きな子がいるんだから』……ですよね?」
「流石、バレましたか!」
何回も話してれば、言うことくらい見えてくるさ。
「それ何回も擦られるんですよ、一体何処から漏れたんだ……?」
「噂によると、明らかに百鬼さんと雪村さんの距離が前より近かった……らしいですよ?」
「壁に耳あり、障子に目ありってことか……気をつけないとな」
外出る時は変装とかした方がいいのかな。そう思いつつ、食堂に着いた。
「お~、賑わってるな……俺は日替わりAにしてみようかな。一破さんは何にします?」
「じゃあ、私もそれにしようかな……お願いします」
「はい! 日替わりA二つ、入ります!!」
次々に手際よく作られていく料理達……全て美味しそうだ、ハンバーグや魚のフライ、唐揚げ……
「みんな美味そうだなぁ……」
「お待たせしました、日替わりA二つです!!」
「今日は白身魚フライの野菜あんかけと、卵スープみたいですね」
響きだけでもう美味しいな。色とりどりの野菜が色鮮やかなあんの中に浸かって、二割増で綺麗だ。フライは綺麗なきつね色と、揚げ物の濃い匂いが食欲をそそり、あんをたっぷり吸って柔らかくなった部分が、美味しいことを見た目でアピールしてきた。名脇役の卵スープも、チキンブイヨンの匂いで食欲増進効果を高めてくれている……
「なんだろう、すっごいお腹空いてきた……」
「奇遇ですね。私もですよ」
「いただきます……!」
たっぷりかかった野菜あんと一緒に、一口齧った……美味い。野菜の甘みとあんの旨みが合わさって、フライの美味しさを、これ以上ないくらいに引き上げてくれている。噛めば噛む程、旨みが溢れ出す……あんをよく吸ったことによる柔らかな食感も、湯気の立ち昇るご飯を掻き込む手を止まらなくさせてくれる……まだあんを吸っていない硬い部分や、野菜のそれぞれ違う食感のおかげで、いつまでも噛んでいられそうだ。
「すみません、ちょっとおかわり取ってきます!」
「えっ、もうですか? 早いですね~……」
「これくらい盛ってもいいか……」
こんもりと、山のように盛る。これだけあれば流石に足りるだろう……
「うわっ、とんでもない高さ……」
「これくらいないと……足りませんよ!!」
「すごい勢いだな……戦いでの動きが激しいから、よく食べるのか?」
味を変えるために、スープを一口……こちらもとても美味しい。強い旨みはないが、チキンブイヨンの優しい鶏の匂いと、たまに口内にやって来る卵の食感で飽きずに飲める。それらでリセットをかけた後、今一度強烈な旨味に手を伸ばすと……また、美味しい。気がつくと……
「あれ? さっきまで食べてたような……」
「もう全部食べちゃいましたよ」
「えぇっ!?」
あんかけもスープもご飯も、綺麗に消えてなくなっている。まるで、その場に元々無かったかのように……
「すごい勢いでしたよ、雪村さん? 私はまだ食べてるのに……」
「だ、だって……あまりにも美味しいから……!!」
「気持ちはわかりますけど……もう少し、よく噛んで食べた方がいいかと」
痛いところを突かれる。一破さんから思わず目を逸らすと、テレビがあった。否応なしにそちらに目が向く。
『えー、ただいま入ったニュースです。現在、対財団X対策衛星『Astro Dream』が打ち上げに成功したことが明らかになりました。繰り返しお伝えします……』
「へぇ……対策衛星なんて作ってたのか」
『これを作成した会社は、GALAXYコーポレーション。オルフェノクの研究で成果を上げ、補助金を受け取っている会社です』
もしかして……学園長が言ってた会社か?
「そうか……行動が早いな」
『現在公開されている情報によりますと……この衛星は宇宙からの財団Xの捜索や、衛星攻撃兵器などの役割を有しているそうです。これからの活躍に期待が集まっているようですね』
「見つかるのは早い方がいい……暁を殺すのは決定事項だからな」
そう言っていると、一破さんの声が久々に聞こえた。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございます、今日もすごく美味しかったですよ! 夜もよろしくお願いしますね!!」
「ありがとうございまーす!!」
ギャラクシーコーポレーションの皆さんにも、これを食べさせてあげたいな。きっと病みつきになるぞ……
「さて、仕事に戻りましょうか」
「ですね。どんな時でも油断は禁物ですし……変身」
『Standing by』
デルタフォンを挿入するのにも慣れたものだ、もう挿入口を見なくても、正確に入れることができるようになっている。
『Complete』
「一般人とは思えませんね、その切り替えの早さは……いいことですけど」
「当然ですよ、できないと死にますからね!」
そう言って走り出す。デルタのスピードにもすっかり慣れた……
「ここを壊されたら、最後の砦が無くなるも同然だ……世論は一気に絶望へと向かうだろうし、緊急の医療施設や避難所としての大型施設が一つ無くなるのは痛手だ。あの財団Xが、それをわかってないはずがない……」
そうさせないために、俺達がいるんだ。
「鷹嶺先生だって、ベルデの言う通りなら『危険因子』のはずだし……先生や職員の皆さんも、そうである可能性があるんだ。先生方は休校中でも、書類仕事やリモート授業のために学園に来ている、ライダーに襲われたらその時点で終わり……」
早く突き止めたいところだが……どこにも手がかりがない。佐上のチップにもなかったみたいだし、学園長が行動しないところを見るに、書類にも書かれてなかったんだろう。徹底的に情報統制を行っている……目的は『逃がさない』ためだろう。それ以外に考えられん……
「あやめが死んだ時、ただでさえ世論は絶望に傾いてたのに……適当に危険因子を決めつけて逃がしたら、学園破壊のついでに殺されて……また、あんなことになりかねん」
暴徒達による病院の破壊、そこへのサイガ投入による追い討ち……今度は間違いなく、サイガよりも強い奴が来るだろう。もしも、学園を対象に行われたら……今度こそ、奴らに全てが掌握されてしまう。それだけは避けねばならん……
「責任は凄まじく重大だが……俺しかやれる人はいないんだよな」
走りながら、ガラスに写った自分を見る。ここにいるのは、自分の姿ではなく『みんなのヒーロー』のデルタなんだ。チヤホヤされるなんて、嬉しくもなんともない。寧ろ、凄まじい心の負担になる……それでも。
「やってやろうじゃねぇか……俺は仮面ライダーだからな」
そう呟いて、俺は三階に飛び移った。
……その日の真夜中。丁度デルタが警備を行っている時間帯だが……生憎、学園とは遠く離れた場所にて。
「クソ、クソォ……!! なんでだ!? どうして俺の作品を誰も認めてくれないんだよぉ!?」
インクを滅茶苦茶に壁に塗りたくり、迷惑行為を働く男がいた。日頃の鬱憤を、公共の壁で晴らしているらしい。
「認められたいのかね?」
「なっ……誰だ!? お前も俺をバカにしに来たのか!?」
「違うさ。私は全てを量る天秤……君の芸術を手伝ってあげようじゃないか。さぁ……星に、願いを」
リブラが差し出した握り拳を広げて、インクに塗れた男にゾディアーツスイッチを渡した。男は困惑しているようだ……
「これは……?」
「使うといい。君の芸術を鮮やかに彩ることを約束しよう……君の輝きを私に見せてくれ」
「使うって……こうか? うぉっ!?」
男が黒い煙に包まれ、星座の輝きが灯る。それが消えて、姿が見えた。
「ほう……ペルセウス座か。よい輝きだな……」
「これが……芸術に役立つ力になるんですか?」
「好きに使うといい。君の芸術が世に認められるまでね……」
杖が地面に叩きつけられ、リブラの姿が夜の闇の中に消える。男はスイッチをもう一度押し込んで、元の姿に戻った……
「俺の美術が……みんなに……?」
「……ああいうタイプは利用しやすくて助かるな。今度こそ、ラストワンを超えて欲しいが……目を離さないようにせんとな。我が天秤に狂いは無い……絶対にだ」
「よ、よし……やってやる!! きっと最後のチャンスだ、これを逃したら次はない!! 絶対に成功させないと!!」
震える手を抑えながら、その男は道具を持って去っていく……と思いきや、戻ってきて何かし始めた。気づいたリブラの足が止まる。
「む? なんだ……?」
「せめて、後片付けくらいはしないとな……そのための掃除用具だ」
「……わざわざ、怒りに任せて書いた落書きを消すか? 普通……」
ちょっとコケそうになりながらも、リブラは今度こそその場を去った。自分の塗りたくった絵の具を拭き取る男を尻目に……
早朝のランニングやトレーニングを済ませたら、いつも通り警備に入る。
「一破さん、お疲れ様です」
「はい。今日も学園には異常ありません」
「それならよかった……でも、いつまで平和かわからないですからね。財団Xが完全に潰れるまで、油断は禁物です」
ゾディアーツもオルフェノクもライダーも、一体いつ出てきて、蹂躙を始めるかわからない。一瞬の油断が命取りだ。
「もちろん、わかっていますよ。今日もお互い頑張りましょう」
「はい! 変し……ってあれ、電話? ちょっと失礼します……あ、雪村です」
『雪村くん。今度は悪いニュースだ……ゾディアーツが出現した。早急に鎮圧してほしい』
ゾディアーツ……噂をすれば!! デルタフォンを構え直す。
「もう出てきたのか……わかりました、すぐ向かいます!! 場所はどこですか!?」
『場所を送ろう、その場所に急行してくれ』
「わかりました!!」
すぐに情報が送られてきた……大型スーパーじゃないか。こんなところに出るなんて、何が狙いだ? 食料の供給を断つため……?
「……雪村さん、未確認生命体ですか?」
「ゾディアーツです!! すぐに向かいますので、学園はお願いしますね!! 変身!!」
『Standing by』
走りながら、デルタフォンを挿入した。
『Complete』
「お前らの好きにはさせねぇぞ、財団X!!」
「あ、もう行っちゃった……私もあれくらい早く動ければな」
デルタのスピードをフル活用して、全力疾走する……車すら追いつけていない。流石だ……すぐに着いたな。
「落ち着いて! 落ち着いて避難してください!!」
「うわぁぁぁっ!! 化け物だぁぁぁー!!」
「助けて!! 誰か助けに来てぇ!!」
入口は人が詰まって出られていない。ならば……ガラスに向かって突進する。
「お邪魔しますっ!!」
「あれは……デルタか!?」
「デルタが来てくれたぞ!!」
みんなが少し落ち着いた。これで避難もしやすいはずだ……目の前には、野菜を次々取っていくゾディアーツがいる。
「これと、これも……よし、ここをこうして……」
「泥棒は良くないぜ、化け物!!」
「なに!? ぐげぇ!?」
先手必勝だ。一気に接敵して踏み込み、奴の頬に一撃ぶち込む。奴は思いっきり怯んで、持っていたキュウリを落とした……あれ?
「このキュウリ……色も硬さもおかしいぞ? まるで石ころみたいだ」
「くそ……俺の芸術の邪魔を、するなぁ!!」
「お前こそ……主婦の皆さんの買い物の邪魔なんだよ!!」
奴は身の丈程ある大剣を、軽々とこちらに振り下ろしてきた。体を捻って躱すと……お肉が置かれていた棚がそのまま、真っ二つになってしまった。
「このぉ!!」
「当たってたまるか……なに!?」
「ッ、外した……!!」
触られた野菜の棚が、野菜ごと石になってしまった。この能力でやったのか!?
「美味しい野菜を石にしやがって……野郎!!」
「邪魔するなと言っているだろうが!! あと少しで完成なんだよ!!」
「完成だと!? 何がだ!? 会長とやらの計画がか!?」
奴はそれを否定して、俺の前に石ころを突きつけてきた……
「会長……? 違う、これのことだ!!」
「何これ……もしかして鳥?」
「鷹さ、人参を削って作ったんだ……この剣でな。あと少し待ってろ、完成品を見せてやる」
大剣を彫刻刀のように使って、石ころと化した人参を器用に削っている。上手いなぁ……って、いやいや!! ダメだろ!!
「やめろ、売り物だぞ!! この野郎……!!」
「できた!! 会心の出来栄えだ……ほら、見てくれ!!」
「これは……!!」
美しい造形だ、今にも動き出しそうな躍動感……羽が一枚一枚作り込まれている、正に芸術品……じゃなくて!!
「おぉ、夢中になってくれている……!! やっぱり、あいつらは間違ってるんだ!!」
「……それはともかくとして、店を荒らしたのは許せん!! お前を倒させてもらう!!」
「人参ときゅうりの金なら払ったぞ。あそこに置いてあるだろ」
なるほど、それなら……
「いいわけねぇだろうがぁ!!」
「ぐはぁっ!?」
「調子狂うなぁ……!! ともかくこれ以上はやらせんぞ、デルタとして!!」
俺がそう言うと、ゾディアーツの動きが止まった。
「……デ、デルタ!? まずい、デルタが来た!!」
「今の今まで気づいてなかったんかい!?」
「とりあえず逃げなければ……!!」
そんな強そうな武器持っといて、結局逃げるのかよ。無論、逃がすわけがない。
「ファイア!!」
『Burst Mode』
「うわぁぁぁっ!?」
白い閃光が奴に炸裂する。撃ちながら接敵し、デルタムーバーを規定の位置に戻して……地面を蹴りつけた。その勢いのまま、奴に膝を突き刺す。ゾディアーツは大きく打ち上げられて……天井にぶつかった。
「やるなら……今しかないな!!」
『Ready』
「チェック!!」
奴が地に伏せている間に、トドメの準備をする。どんな奴であれ、破壊行為を働いた迷惑な怪物であることに変わりはない。なら……倒すほかないだろう。
『Exceed Charge』
「や、やめろ!! 私は、まだ作りたい芸術が……」
「罪を償ってからにしろ!!」
奴に紫色の光が飛んでいく。奴が拘束されるのを確認して……飛び上がった足を突き出して、飛び蹴りの体勢を取る。
「ぐぎぃ……!!」
「だぁりゃあぁぁっ!!!」
「グワァァァァッ!!!」
奴の体を光のドリルが貫くと、その場で小規模な爆発を起こして……ゾディアーツが消滅した。だが、これで終わりにはならない。それがゾディアーツの厄介なところなんだ……X線カメラで、爆炎の中の奴を探す。
「……そこだな!? 逃がさんぞ!!」
「待て」
「なに!? ギッ……!!」
突然、何者かに頬を殴られた。奴を見失ってしまう。
「そいつを追わせるわけにはいかん。私が相手をしよう」
「お前も……ゾディアーツか!?」
「如何にもそうだ。さらに言うと、私はゾディアーツの中でも12星座に選ばれし者……『ホロスコープス』だ。要するに、特別な存在というわけだ。私の名はさそり座のスコーピオン……覚えておけ」
「わかった、覚えといてやるよ……ついでにお前の中身もな!!」
ガワをひっぺがして、中身まで見てやる。そう思って走り出した。
「ククク、お手並み拝見といこうか……?」
「すぐに後悔させてやる!!」
「フンッ!!」
その場で地面を蹴りつけて、奴は膝を打ち込もうとしてきた。俺もその場で地面を蹴り、膝で返す。超人の蹴り同士がぶつかり合って、大きな音を立てる。
「流石は仮面ライダーデルタ。一筋縄ではいかんな」
「隙あり……ファイア!!」
『Burst Mode』
空いていた手で、メモリを抜いたムーバーを構える。白い閃光が奴に炸裂……することはなく、体を捻って躱されてしまった。
「油断大敵というわけか……フム、侮っていて勝てる敵ではなさそうだ。想像の3倍は強い……これならどうだ?」
「うぉっ、と……!!」
「反応速度も十二分に早い……流石に、猟犬座を倒しただけのことはあるな」
奴の頭の後ろから生えている針が、俺を突き刺そうとしてきているが……どうにか躱している。避けている間に読めてきた……次は右斜め上からだ!!
「呑気に話してていいのかよ!?」
「なに……? これは……」
「スマッシュビート!!!」
伸びてきた奴の針を掴んで、奴を無理矢理引き寄せた。思い切り踏み込んで……その場で殴打の雨あられを浴びせていく。
「グ、ギッ、ガ……ゴフッ……!!」
『Ready』
「こいつで終わりだ、チェック!!」
『Exceed Charge』
銃から放たれた光のドリルが、スコーピオンを拘束した。俺はもう、飛び蹴りの体勢に入ってる!!
「なるほど、な……強いと言われるわけだ……」
「だぁぁりゃあぁぁーッ!!!」
「グゥッ……ガァァ……!!」
このままぶち抜いてやる。そう思って、力を強めたが……
「貫けぇぇ!!!」
「グゥゥッ……アァァァ!!!」
「っが!! なに……!?」
もうすぐ貫けそうだったのに、寸前で弾き飛ばされてしまった。もう一度叩き込んでやろうとしたが……奴はもう、どこにも見当たらない。
『……デルタ、お前の強さはわかった。次に戦う時は、必ずお前を殺してみせよう……首を洗って待っているのだな。ハハハハハ……!!』
「ッ、待て!! どこにいる!? 出てこいサソリ野郎!!」
「あ……あの……」
完全に逃げられたな……くそっ、俺としたことが。
「……なんですか?」
「あっ、いや……大丈夫かなって思いまして……」
「……それなら心配要りません!! 全然平気ですよ、ノーダメージ!! 今回もデルタの大勝利です!!」
雰囲気が目に見えて明るくなった、完全勝利かと言われると微妙だが……こう言っておかないと、また暴動が起きかねないからな。
「デルタありがとう!!」
「サインください!!」
「そういうのはまた今度!! 私は行かなければならないので……この辺で失礼しまーす!!」
いつもの調子で走る。学園に戻って、このことを報告しないとな……そう思っていると、学園に着いた。変身したまま、駆け寄ってきた一破さんと話す。
「雪村さん、大丈夫でしたか?」
「私は大丈夫なんですけど……ゾディアーツは逃がしてしまって……」
「え? 雪村さんが敵を逃がす……? もしかして、何かあったんですか?」
流石一破さん、鋭いな。
「はい……『ホロスコープス』っていう、12星座の特別強いゾディアーツがいるみたいで……ゾディアーツを追ってたら、さそり座のスコーピオンに邪魔されちゃいまして……」
「そんなことが……もしかして、ハウンドの男が言っていた『進化』というのは、それになることか?」
「可能性は高いと思います……とりあえず、私はこれを報告してきますね」
学園長室の前で、変身を解いて二回ノックする。
「雪村です」
「入ってくれ」
「失礼します……今回のゾディアーツについて、報告をさせていただきますね」
学園長はもう聞く姿勢に入っている、早いな。
「うん、頼む」
そこから俺は、今回あったことを全て話した……
「……報告は以上となります。ゾディアーツ二体を取り逃してしまい、大変申し訳ございません。重ねてお詫び申し上げます」
「謝らなくてもいいよ、雪村くん。そのおかげで新しい情報も入ったわけだし……怪我の功名だ」
「ありがとうございます……」
奴らはどこに行ったのだろうか。さっさと見つけたいが……
「それにしても、会長のことを知らないとは……財団Xと関係はないのかな?」
「財団X以外の組織に、あんな異常な力を出せる生物兵器が作れるとは到底思えませんが……」
「私も同意見だが……事実、今回出現したあいつは財団Xのことを知らなかった。一体どうなっているんだ……?」
わからないことがどんどん増える……お前らは一体、何者なんだ? 奴らへの疑問が増えすぎて、思わず天を仰ぐ……
「兎も角、奴らの捜索を早急に行うことを提案します」
「無論そのつもりだ。奴らを野放しにはできないからね……頼んだよ」
「はい、お任せ下さい!」
早く出てこいよ、迷惑な芸術家にサソリ野郎……俺が相手になってやる。この街のどこかにいる奴らを、睨みつけながら……俺は心の中で啖呵を切った。
スコーピオンゾディアーツ、参上。