※この作品はR-18です。

仮面を被った、人間達の英雄譚   作:とも667

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 今回は珍しく、康太くんの戦闘シーンなしです。


透明の舌と気高き爪

「……た? ……うた?」

 

 誰かの声が聞こえる……すまないが、モーニングコールは頼んでない。俺は眠いんだよ……

 

「あと1時間くらい……寝かしてよ~」

 

「……元気そうだね、康太」

 

「……なんだ、母さんと父さんか」

 

 二人には余計な心配をかけてしまったな。そう思いつつ、寝たまま振り向いた。

 

「本当に心配したぞ、危篤だって言うから……仕事休んで来たんだ」

 

「悪いな、父さん……こんなはずじゃなかったんだけど」

 

「とにかく、助かってよかったよ」

 

 まぁ、そうだな。命があってよかった……あんなクソ野郎と相討ちなんて嫌だ。

 

「もう話は聞いてる? 『仮面ライダー』のこと……」

 

「謎の強化スーツと化け蟹だろ? 知ってるよ……よく勝てたな、お前」

 

「俺も無理かなって思ってたんだけどさ、死に物狂いで頑張ったらいけた」

 

 でも、今回は偶然に偶然が重なってどうにか倒せたに過ぎない。次はきっと……こう上手くはいかないだろう。

 

「これは……誰かが置いて行ったのか?」

 

「あぁ、潤羽るしあさんと雪花ラミィさんがね。置いて行ってくれたんだよ」

 

「へぇ……いい人達だな」

 

 本当にそうだ。罪のない人が、それも彼女達のような善人が死ななくてはならない理由など、どこにもない。それなのに、『仮面ライダー』を名乗るクソ野郎は彼女達や俺をつけ狙い、殺そうとする。黙っていられるかよ。

 

「あぁ、本当に……だから俺は、奴らを殺したんだ」

 

「痛かったんじゃないの?」

 

「うん。けどさ、死んじゃったら痛いことすらも分からない。痛いってのは、生きてる証だ……それすら奪い取るようなクソ野郎が居るっていうなら、俺が殺してやる」

 

 仮面ライダーが何なのか、ミラーモンスターってどういう生き物なのか、ボルキャンサーはどうして消えたのか……分からないことだらけだが、一つ確実に言えることがある。奴らは罪のない人を痛めつけ、全てを奪い去り、生きていた事実にすら唾を吐く。そんなクソ野郎が好き勝手しているのを黙って見ていることなんて、俺にはできない。

 

「……死にに行くような真似はして欲しくないんだが、功績があるんじゃ、なぁ……」

 

「止められたってやるぜ。俺はもう決めたんだ」

 

「じゃあ……やるからには、全力でやりなさい。いいわね?」

 

 決まりだな。じゃあ……戦おう。みんなのために、誰かのために。イカれた強さの化け物共に……拳を叩き込んでやる。

 

「わかってるさ。俺は……勝つ!!」

 

「死ぬんじゃないぞ」

 

「死んでやる気なんかないさ」

 

 一番大切な家族に向かって、啖呵をきった。これで、後戻りはできない。

 

「……じゃあ、俺は家に帰るよ。家事の手伝いしなきゃいけないからな」

 

「俺の分まで頼んだぜ?」

 

「母さんと父さんで十分さ、任せときな!」

 

 頼もしいな……二人は俺に手を振って、帰って行った。さて……今一番の問題は……

 

「暇だ……」

 

 何にもできない。時間が空いてる時は専らトレーニングをするので、それができないとなると退屈で仕方がない。

 

「……テレビでも見るか」

 

 テレビの電源を入れると、ニュースがやっていた。

 

『それでは、次のニュースです。ホロライブ学園に突如出現した、『仮面ライダー』と『ボルキャンサー』と呼称される実体について、新しい情報が入ってきました』

 

「新情報……?」

 

『武器や盾の破片を採取しようとしましたが、その全てが消えてなくなってしまっていたようです。あったのは、雪村康太さんが破壊した『カードデッキ』のみでした』

 

 あれは……何処からともなく飛んできていたな。あのカードが関係してるのか? デッキを壊したら、一斉に消えてなくなったのだが。

 

「どうなってんだ、本当に……」

 

『それでは、次のニュースです』

 

「別のチャンネルは……」

 

 ……全部同じこと言ってる。仮面ライダーとボルキャンサーのことで持ちきりだ……みんな奴らが怖いんだな。

 

「そりゃそうだよな……パンチが12t、化け蟹の力は150tある、って言うし……こいつらが何かしらの組織に所属しているって言うんだから……」

 

 あんな奴らがどこかにいるかもしれない。次に死ぬのは自分かもしれない……それじゃあ、とても外には出られないよな。

 

「早くどうにかしねぇと……平和な生活が送れねぇな。せっかく死に物狂いで勉強して、ホロライブ学園に入学したのに……」

 

 今はそれよりも、奴らのことを考えよう。奴らのおかげで、犠牲者がたくさん出た。俺は俺で、学園生活が送れないし……恨みはたくさんある。

 

「覚悟しとけよ、誰かは知らんが……俺はお前らの敵だ!!」

 

 拳を掲げて、宣戦布告。戦意を奮い立たせつつ……

 

「とりあえず、骨を直さねぇとな」

 

 俺は骨のことを気にするのであった。

 

 

 

「……大丈夫そうですね。骨は治りましたので、退院して結構ですよ」

 

「マジですか!? いぃやったぁぁぁーっ!!」

 

「えっ!?」

 

 嬉しさのあまり、今度こそ某配管工ばりのジャンプを決めると、お医者さんと看護師さんに驚かれた。上手くいったな……だが、一つだけ問題があった。

 

「……天井、思ったより低かったわ……抜けねぇ……」

 

「さ、刺さった……君、抜いてあげて」

 

「はい……大丈夫ですか?」

 

 某RPGの室内でルーラ使ったみたいになってた俺は、看護師さんによって引っこ抜かれた。ピ〇ミンみたいな感じで、スポッと。頭に葉っぱはついてないけどね。

 

「大丈夫だ、問題ないっ!!」

 

「頑丈ですねー、だからあんなに元気だったのか」

 

「鍛えてますんで!!」

 

 やっててよかったトレーニング。みんなも筋肉ゲットじゃぞ!

 

「そんなに元気なら、絶対大丈夫ですね」

 

「はい! ありがとうございました!!」

 

「お大事に、雪村さん」

 

 お世話になった皆さんにさよならを言って、病院を出る。そよ風が俺の頬を撫で、空は雲ひとつない晴天。

 

「う~ん……シャバの空気が美味いぜ!!」

 

 まるでムショ帰りのセリフだな。セルフツッコミをしつつ、家に帰る。明日からは学校に行ける……何の情報もないのに休んだって仕方がない。無策で突っ込むだけが戦いじゃないさ。学園側も情報収集してるらしいし、それを聞くのが確実だ。

 

「とりあえず家に帰って、家事手伝いしねぇとな」

 

 だが、その前に……やるべきことがあるよな。

 

「帰る前にランニングだ……!!」

 

 せっかく外に出てるんだ、やっておこう。そう思って俺は、地面を蹴って駆け出した。

 

 

 

「……ただいま!」

 

「おかえり……って汗だくじゃねぇか、ランニングしてから帰ってきたのか?」

 

「うん、スポーツドリンクある?」

 

 俺がそう言うと、父さんは俺の頬にスポーツドリンクを押しつけてきた。よく冷えていて、火照った体に心地よい冷たさを提供してくれる……

 

「子供の行動読めなくてどうすんだ? ほれ、飲みな」

 

「ありがとう、父さん……! かぁ~、美味い!!」

 

「元気そうだね、康太は」

 

 元気が一番、元気があればなんでも出来るって誰かが言ってた。

 

「まぁね! しっかり休んで元気100倍だぜ!!」

 

「お前の場合、100倍で済んでない気がするぞ?」

 

「ハハハ、言えてるな!!」

 

 いつもの光景。しばらくこうしてると、決まって母さんが……

 

「こら、康太! 帰ってきたらまず手を洗いなさいって言ってるでしょ!? お父さんも楽しそうに話さないの!!」

 

「はーい、ごめんなさい!」

 

「すいませんでしたー!」

 

 こんな感じで、手を洗えと言われるのだ。蛇口を水の方に捻って、冷たい水を出す。手を石鹸で洗ったら、顔にも水をかける……

 

「っ、ふぅ……」

 

 こうすると、顔の熱が一気に取れるのだ。トレーニングを始めてからは、俺の日課になっている。

 

「さてと……フリーウェイトとか、まだまだやることは山積みだ!!」

 

「おう、頑張れよ!」

 

「病み上がりなのに、元気な子だね……」

 

 父さんには応援され、母さんには少し呆れられながら部屋に向かう。一通りこなしたら、家事手伝いをして、歯を磨いた後風呂に入って、眠るのだ。こんな光景が、みんなにもあったはずなのに……それを次々と、なんの躊躇いもなく奪い取る。カス共が……!! そう思うと、殺意がまた湧いてきた。

 

「今日も一日……よくできた!」

 

 明日からはまた学校に行く。とりあえず、情報収集もしなきゃならないしな。

 

「おやすみなさい!」

 

 誰に言うでもないそれを呟き、布団を被った。トレーニングをしてからは、寝付きも早くなったし……いい事づくめだ。トレーニングの素晴らしさを実感しながら、眠りに落ちた。

 

 

 

「……朝か!」

 

 よし、時間ピッタリだ。一通りこなしたら、飯を食って準備をする。

 

「お弁当できてるよ?」

 

「ありがとう! じゃあ、行ってきます!」

 

「俺も、昨日の分片付けるから遅くなるぜ!!」

 

 そう言って、二人で家を飛び出した。

 

「車には気をつけるのよ!」

 

「わかってまーす!」

 

「心配ご無用!!」

 

 足取り軽く、学校に向かう。そういえば、仮面ライダーやボルキャンサーに破壊された学校はどうなっているだろうか? 一抹の不安を抱きながら、学校に駆けていく。

 

「……外見は問題ないな」

 

 学園の様子を確認しつつ、怪しい奴がいないかの確認だ。危険因子だと言われていたのは、確認できた限りだと『雪花ラミィ』さんに『潤羽るしあ』さん、そして『宝鐘マリン』さんだ。奴は『39人』と言っていたから、俺を含めると……

 

「あと35人いるのか……」

 

 今のところ、奴らに勝ったのは俺だけだ。俺がいなくとも、『危険因子』を排除するために奴らは来るだろう。正攻法でないとはいえ、切り札のひとつであろう『仮面ライダー』と『ボルキャンサー』を殺した俺がいるというのは、抑止力になりうるはずだ。中途半端な奴を送り込んだら、また戦力が減ってしまうのだから。

 

「要するに……俺は情報が来るまで、ここにいたほうがいいわけだな」

 

 奴らが来ないという確証があるまでは、ここを離れられそうもない。その人達を学園に来ないようにしようにも、残り35人が誰なのかは判明していない。かといって何ヶ月も学校を閉鎖するわけにはいかないだろう。

 

「色々考えても、今はどうにもならん……迎え撃つしかない」

 

「……少しよろしいですか?」

 

「ッ!?」

 

 つい、過剰に反応してしまう。俺は後ろに飛び退いてしまった……職員さんの服を着ている、どうやら学園の人らしい……青髪に大きな青いリボンが目立つ人だ。服装はストライプシャツ、その上に黒い服を着ている。ズボンの色はグレーで、職員らしい服装だな。

 

「すみません、驚かせてしまいましたか? 私、学園職員で学園長補佐のAと申します」

 

「な、なんだ……職員さんか。ビックリした……俺に何かご用ですか?」

 

「学園長がお呼びです。お願いしたいことがあるとかで……同行していただけますか?」

 

 何のことだろう……仮面ライダー関係か? 多分そうだな。

 

「わかりました、行きましょう」

 

「ありがとうございます! では、こちらに……」

 

「こんな美人さんが補佐って、学園長もいい環境で働いてるなぁ……」

 

 学園長と言うからにはさぞ忙しいんだろうが、それでもこんな人がお茶を淹れてくれたら、もう少し頑張れる気がする。

 

「雪村さん、誰にでもそういうこと言ってると、女の子に嫌われちゃいますよ?」

 

「そうですか? 本心でも言っていいことと悪いことがあるって言うしな……」

 

「でも嬉しいですよ、ありがとうございます」

 

 それならよかった……談笑しながら、学園長室に着いた。

 

「学園長。雪村さんを連れてきました」

 

「うん、入ってくれ」

 

「失礼します」

 

 俺でも真面目モードだ。いつでもボケるわけじゃないさ。

 

「よく来てくれたね。君のことはよく知っているよ」

 

「ここで起きた事件ですもんね。それで……私にご用があるとAさんから聞きましたが」

 

「あぁ。立ち話もなんだし、座ってくれ。Aくん、悪いがお茶を頼めるかい?」

 

 学園長が言うと、Aさんは手際よくお茶を淹れ始めた。

 

「どうぞ、二人とも」

 

「ありがとうございます……ん、温かい」

 

「君も熱いお茶が好きかい? 趣味が合うね」

 

 一口、二口と飲む度、空気が解れていく。雰囲気もいい感じに解れたところで、本題だ。

 

「っはぁ……では、そろそろ要件をお聞きしても?」

 

「あぁ、悪いね。用というのは簡単さ、君に情報提供をお願いしたいんだ」

 

「情報提供……仮面ライダーと、財団Xのことですか」

 

 yagooさんは、静かに頷く。

 

「察しが良くて助かる……君は脅威的な力と能力を持つ『仮面ライダー』、そして『ミラーモンスター』と戦闘し、勝利を収めた。これは信じ難いことだよ……人間が生身で核弾頭を止めるようなものだからね」

 

「勝てなかったら、殺されるだけでした。勝つしか生き残る方法はなかったってだけです」

 

「それでもすごいさ。その上、君はうちの学生を3人も守りながら倒してみせた。学園長として、お礼を言わせて欲しい」

 

 ……当然か。攻撃力が150tって、意味わかんねぇもんな。

 

「私は奴らを倒したい。そのためなら、傷ついたり……最悪、死ぬ覚悟だってあります」

 

「いや、我々は未来ある若者にそんな悲しい覚悟をして欲しいわけじゃない。単刀直入に聞こう……奴らに弱点はあるかな? 戦っている最中で気づいたことはなかったかい? 情報が映像だけなんだ、今は少しだけでも戦闘データが欲しい……不確かでもいい、何かないか?」

 

「……一つだけ。本体を弱体化させて、ミラーモンスターを排除する方法があります。憶測ですけどね」

 

 俺がそう言うと、yagooさんはメモ用紙を手に取っていた。

 

「その方法は?」

 

「ミラーモンスターは……恐らく、現実世界に長く存在していられない。何故かはわかりませんが……その時は体から砂のようなものが出始めます」

 

「確かに……消えていくところが映っていたね」

 

 ボルキャンサーが消滅した後、あの男は明らかに焦っていた。装備や奴自身も、かなり弱くなっていたし……

 

「その時は鏡に戻せばいいみたいですが……もし戻せなかった場合、消滅してしまうようです。ミラーモンスターが消滅すると、『仮面ライダー』は大幅に弱体化して装備も弱くなる……あの状態なら、デッキを攻撃できるかもしれない」

 

「デッキ……四角い物体のことか。あれが弱点なのかい?」

 

「えぇ。どうやら、あれが壊れるとあの体を保っていられないらしく……奴はデッキに強い執着を見せていた。あれを破壊することができれば、奴は人間に戻る……こんなところですね」

 

 俺がそう言うと、yagooさんは鉛筆を置いた。

 

「ありがとう。十分だよ……仮面ライダーは脅威だが、倒せない相手ではない。それがわかっただけでも、収穫があったというものだ……君も何か、質問はあるかい?」

 

「財団Xについて、今のところわかっていることは?」

 

「……残念ながら、ゼロだ。先生の一人に裏社会に通じている人がいるから、その人にもお願いしてはいるんだが、それでも収穫がない。相当巧妙な隠蔽を行っているらしい……すまないね、力になれなくて」

 

 やっぱりダメか……申し訳なさそうな顔をしないでくれ、悲しくなってしまう。

 

「責めてるわけじゃありません。だから、謝らないでください……悲しくなっちゃいます」

 

「そうか……君は優しいな」

 

「そうですかね……誰だって、人が浮かない顔してたら悲しくなっちゃいませんかね?」

 

 そう言うと、yagooさんは首を横に振った。

 

「人に優しいのはいいことだ。誰もが誰かを助けようと思えるわけじゃないし……その心があるからこそ、仮面ライダーに勝てたのかもね」

 

「いやぁ……そんなに褒められると、ちょっと照れちゃうなぁ」

 

「学園長はいつもこんな調子ですよ?」

 

 そうなのか……人気が高いのも納得だ、温和だし話しやすい……

 

「じゃあ、そろそろ失礼します」

 

「私から鷹嶺くんに連絡しておくよ。今回だけ君を出席判定にしておくように、とね」

 

「ありがとうございます、それでは!」

 

 そう言って、一礼する。彼らの見送りを受けて、俺は学園長室を出た。授業中だから誰もいねぇな……

 

「完全に遅れたな……出た判定らしいけど、一応行くか」

 

 誰もいない廊下に、足音だけが響く。辺りを警戒しつつ、教室に進む。

 

「……遅れてすみません、雪村康太です」

 

「あぁ、康太くん。学園長から話は聞いてる、座りなよ」

 

「ありがとうございます」

 

 席に座り込む。周りからの視線が痛いな……

 

「じゃあ、康太くんも来たし……今回の内容をまとめようかな」

 

 そう言って、鷹嶺先生がホワイトボードにまとめを書き始めた。俺は急いでノートを取る……チャイムが鳴るまでにどうにか写せた。セーフ……!

 

「じゃあ、今回はここまでだよ。次の授業の準備をしておいてね」

 

「はーい!」

 

「雪村くん! おはようなのです!」

 

 ……潤羽さんがこっちに来た。なんだろう?

 

「おはようございます」

 

「遅れたみたいだけど……何かしてたのですか?」

 

「ちょっと、仮面ライダーの件で学園長と話をね……大したことじゃないですよ」

 

 嘘でも、そう言っておく。心配はかけられない、そうさせないために警察や軍隊……そして俺がいるんだ。何も捨てずに何かは手に入らない……誰かのために、俺は安全な生活を捨てよう。とりあえず、それが前金だ。

 

「それならいいのですけど……」

 

「人間様ぁー!」

 

「……百鬼さん?」

 

 百鬼さんの顔が少し険しい、何故だろう?

 

「結局中止になって、戦えなかった余……余は人間様と戦ってみたかったのに!」

 

「それに関してはすみません……ライダーが来ちゃったので」

 

「今度戦わないか? 仮想訓練室なら、怪我する心配もない余!」

 

 そうだな……誰かと戦うというのは貴重だ。一人より二人の方が実戦経験を積める。ジムのスパーリングで何発か打たれてはいるが、鬼人の拳には正直興味がある。仮面ライダーの拳に近いものがあるはずだ……鬼人の拳を受けられるようになれば、完全でなくともライダーの拳を受け流すこともできるかもしれない。

 

「はい、喜んで」

 

「じゃあ約束だ余? 指切りげんまん!」

 

「嘘ついたら針千本のーます……ですか? 胃が破けそうなので、何年かかけて水で飲んでいいですか?」

 

 いつもの調子で言っておく。無論破るつもりなどない、冗談だ。

 

「ダメだ余! 一気に全部飲むんだ余!!」

 

「う~ん、じゃあ……ヤスリで削って粉にして、それから飲むか? それならワンチャン……」

 

「ワンチャンない! 固形で飲まなきゃダメだ余~!! もう、人間様!! なんで約束破る前提で話してるの!?」

 

 針の対策を講じていたら怒られた。でも、百鬼さんは楽しそうだ。

 

「いや、破りたくないし破らないですけど……一生は100年なので、いつか飲むことになった時のためにね。まぁ、それまでに百鬼さんの納得いく対策を考えておきますよ」

 

「どんな対策もダメだ余!!」

 

「う~ん、頑固だな……これは困った」

 

 チョコレートで全部作って、一気に噛めば……これ、いいかもな。真面目にバカなこと考えるのも楽しいものだ……

 

「人間様って面白いんだな! ふふふ……」

 

「そう思います? そんなにユーモアの素質あるなら、芸人にでもなろうかな……」

 

「あっははは、え~!?」

 

 二人して笑う……なんだか教室内の空気が明るいや。

 

「あ、先生来たよ!」

 

「もう始まる時間ですか……時間が経つのって早いですね」

 

「人間様が面白いから……とにかく、今度戦おうね!! それじゃ!!」

 

 そう言って、百鬼さんは自分の席に戻った。その後、授業をやり終わり……時間は過ぎて、放課後。

 

「さてと、家に帰るとするか……母さんも父さんも心配しちゃうよ……それに、危険因子の家族ってことで殺しに来るかもしれない」

 

 そうなったら、俺は立ち直れる気がしない。親が死んでもノーダメで済む程、俺の精神は頑丈に出来ていないのだ。だが、トレーニングはサボらずキッチリやったので……結局、帰ったのは夜の7時になった。

 

「母さん、ただいま!」

 

「康太、おかえり! ご飯できてるよ! 手を洗ってきなさい!」

 

「わかりましたよ!!」

 

 みんなにもある、こんな日常が脅かされる。そう考えるとゾッとした……一刻も早く情報が欲しい……どこだ、どこにいる!?

 

「そんな険しい顔してると、飯が不味くなるぞ?」

 

「あ、ごめん……!」

 

「心配なのはわかるけど、情報がないんじゃ……」

 

 何も出来ないのが本当にもどかしい。その後ベッドに入っても、やはり眠れない。

 

「あー、辛いな……」

 

 これが無力感か……でも、それは諦める理由にはならない。今は時を待つべきなのだ。

 

「……俺がやらなきゃならない。誰かがやるんじゃなくて俺がやるんだ」

 

 誰かに任せきりの俺は殺した。他でもない、俺が……生まれ変わらなきゃいけなかった。あのままだったら、俺は死ぬ時後悔してた。死ぬ時に後悔するのだけは嫌だ……後悔しないように、精一杯人生を楽しんで生きたい。

 

「奴らを残しておいたら、俺は絶対後悔する……自分の弱さで後悔するのだけは嫌だからな。そのためなら……命を懸ける覚悟はできてるさ」

 

 そう呟きつつ、目を閉じ続けていると……雨が降り出した。それのおかげで、俺はようやく眠りについた。

 

 

 

「……康太、起きな! 遅刻するよ!」

 

「はっ……やべっ! 急げ!」

 

「もう、早く寝ないからだよ!?」

 

 バレてた……流石母さん、お見通しらしい。

 

「ごめん、考え込んじゃって……!!」

 

「ほら、パン! 咥えて行きな!!」

 

「ありがとうっ!!」

 

 用意してもらった鞄を肩にかけて、走り抜ける。まだ間に合う、急げ俺。雨は止んでいた……水たまりを蹴りつけて、先を急ぐ。

 

「ギリギリセーフッ!!」

 

 そう叫んで、門を通過し……靴を脱いで、扉の前に来た時だった。

 

「……ん?」

 

 視線を感じる……誰かいるのか? 辺りを見回す……誰もいない。気配はすれど、姿は見えない……

 

「気にしてる場合じゃないか……!!」

 

 そう思って、ドアを開ける。

 

「あ、雪村くん」

 

「先生、セーフですかね……!?」

 

「うん、ギリギリだけどね。座るといい、ホームルーム始めるよ」

 

 そう言われて、席に座る。寝坊するとは、一生の不覚だ。

 

「ふぅ……」

 

「さて、みんな揃ったのでホームルームを始めます……特にこちらからはありません。なにか質問は?」

 

「先生! また仮面ライダーが入ってきたりしませんか?」

 

 生徒がそう尋ねたが、鷹嶺先生は優しい目で言った。

 

「大丈夫だよ。情報を元に鏡面には基本、カーテンをかけてあるし、警備員も追加で雇ってる……心配は要らないよ」

 

「いざとなったら、僕だっていますよ」

 

「雪村くん……気持ちは嬉しいよ。けど、それは大人の仕事だ。あの時は本当にお世話になった……でも、もう傷つけさせない。この命に変えてもね」

 

 そう言う鷹嶺先生の目には、確かな覚悟が宿っていた。おちゃらけているように見えて、先生としての責任感が人一倍強いようだ。

 

「……っ?」

 

「どうしたの、雪村くん? 忘れ物?」

 

「いえ……なんでもありません」

 

 まただ。今度は近くから感じる……靴の音がする。誰も動いてないのに……! ……百鬼さんのところか? まさか……!!

 

「百鬼さん! 避けろォッ!!」

 

「え?」

 

「どけぇ!!」

 

 そう叫んで、俺は急いで……虚空を殴りつけた。

 

「ほう……私に気づくか」

 

「なっ、何も無いところから出てきた……!? いや、透明になっていたのかッ!!」

 

「その通り……あの阿呆が負けたのも納得だ、奴は怒りやすい上に頭が悪い」

 

 そう言って出てきた、緑色のライダー。カードデッキがある、蟹野郎の仲間だな!?

 

「お前も『危険因子』を殺しに来たのか? 蟹野郎の仲間だろ、お前」

 

「そうだ。察しが良くて助かる……名乗っておこうか、俺の名は仮面ライダーベルデ。あの阿呆が世話になったようなのでな、礼をしに来たのだ」

 

「やってみろよ。テメェの相手は……」

 

 俺だ、そう言おうとした時……

 

「私だよ」

 

「なっ!?」

 

「ほう……」

 

 鷹嶺先生の目が、輝いた。すごい威圧感だ……!

 

「もう二度と私の生徒を傷つけさせない。お前にはここで死んでもらうよ」

 

「フン、小鳥如きが……俺に勝てるとでも? 笑わせる」

 

「小鳥かどうか、確かめてみるといい」

 

 そう言って、羽ばたく。ガラスを破って、二人は外に出て行った。俺はそれを追って、外に出る。

 

「ちょ、ちょっと!? 危ない余!?」

 

「嫌な予感がするんだ……! 俺も行っておく!!」

 

「雪村くん!」

 

 潤羽さんと百鬼さんが引き止めてきたが……こればっかりは、止まれない。

 

「……獲物になる覚悟はできてるかい?」

 

「貴様こそ……バイオグリーザの餌にしてやる」

 

「やってみなよ……できるなら!!」

 

 そう言って、鷹嶺先生は俺の視界から消えた。上空に上がったらしい……

 

「生意気な……地に落としてやるぞ、野生動物が!!」

 

「はぁぁぁっ!!」

 

「遅いっ!!」

 

 二人とも速いな……蟹野郎もあれくらいはあったけど、そのスピードについていける先生もすごい。奴はクリップを取り出し、そこにデッキから出したカードを挟み込むと……ワイヤーが戻り、カードが入った。

 

「鷹嶺先生、気をつけて!! 何かしてきます!!」

 

「……!?」

 

『CLEAR VENT』

 

 ベルデは忽ち消えて、姿をくらました。

 

「……ホークアイ!!」

 

「目が光った……!?」

 

「そこだっ!!」

 

 上空から落下の勢いを乗せた爪が、空を切る……それを避けたベルデが虚空から出てきた。

 

「貴様にクリアーベントは意味を成さないらしいな……」

 

「まぁね。私は鷹だし、これで万策尽きたんじゃない?」

 

「フン、そんなわけがなかろう?」

 

 そう言って、奴はまたカードを使った。上空から指輪と、それから伸びるヨーヨー……ハサミの次はヨーヨーかよ。

 

『HOLD VENT』

 

「ヨーヨー? そんなもので……捕まってたまるか!!」

 

「どうだかな、小鳥一匹が!!」

 

 そう言って、二人が格闘を始めた。

 

「おっと、危ない……! お返しだ!!」

 

「チッ……ちょこまかと!!」

 

『ADVENT』

 

 あの音は……バイオグリーザってのが来るのか!!

 

「先生、ミラーモンスターが来ます!!」

 

「大丈夫、鏡にはカーテンをかけて……!?」

 

「迂闊だったな、小鳥!」

 

 水たまりから、人型のカメレオンが出てきた。

 

「鷹嶺先生! 俺だって……」

 

「ダメだ! 私は先生なんだよ……!? 生徒の一人も守れない先生なんて、必要ない!!」

 

「その威勢がどこまで続くかな!?」

 

 覚悟の宿った目が、輝きを増して……鷹の羽が、風と共に散った。

 

「でぇやぁぁぁっ!!」




 気高き鷹の爪は、果たしてライダーの喉笛を切れるのか。

 戦わなければ、生き残れない。
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