※この作品はR-18です。

仮面を被った、人間達の英雄譚   作:とも667

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 前回から続きます。


蠍・座・覚・醒

少々時間は遡り……誰も歩いていない、真っ暗な夜道にて……赤い眼をした怪物が、足を引き摺っている。明らかに疲弊した様子で、怒りの声を上げた。

 

「はぁっ、はぁっ……くそ!! メテオめぇ!!」

 

 歩いてくるその怪物……もとい、『元』ホロスコープスのスコーピオン・ゾディアーツは、現実を受け入れられずにいた。それもそのはず、味方のはずのライダーシステムが、自分に襲いかかってきたのだから。

 

「クソォ、何故ライダーシステムが私を襲う!? 普通はデルタを襲うだろう!!!」

 

 理解できない現実に混乱しながら、必死にデルタから逃げるスコーピオン……スコーピオンが混乱を口に出していると、目の前に何者かが現れて道を塞いだ。

 

「随分怒ってるなァ、『クソサソリ』? クビになった上に、自分とこのライダー様にもボコられるとは、全く哀れだねぇ……ギヒヒヒヒヒ!!」

 

「貴様……何故、その呼び方を……!? 見ていたのか!? なぜ助けなかった!? ヴァルゴ!!」

 

「俺自身はあの場にいなかったぞ、変なことを言うなよ」

 

 そう、『自分自身』はいなかった。その言葉の真意を読み取り、スコーピオンの憤怒の矛先が一気に変わる。

 

「まさか……ライダーシステムに私を襲うように言ったのは……!!」

 

「さぁ~て、どうだろうねェ? それには黙秘権を行使させてもらうぜ……」

 

「貴様ァァ……!! どの面下げて私に会いに来やがった!? 殺されに来たのかァァ!!!」

 

 ボロボロの体を無理矢理立たせて、針を八神へと向けるスコーピオン。八神はそれに、スイッチを取り出すことで返した。その顔には、猟奇的な笑みが張り付いている。

 

「冥土の土産に教えといてやる。お前は無能だからな、死んでもらうとのことだ……俺が処刑人なのは知ってるだろ? 社長の意思ってことで……死んでくれ」

 

「それならばッ!! 貴様を殺して、ホロスコープスへと返り咲いてくれるわ!! 貴様こそ死ね、ヴァルゴ!!!」

 

「いいぞ、もっと大口叩いてこい!! 俺が縫い合わせてやっからよォ!!!」

 

 ヴァルゴの挑発に怒りを煽られ、スコーピオンが腕から光線を放ったが……その全てを躱して、ヴァルゴが自分の杖から小型の重力弾を放ち……伸びてきていた頭の後ろの針を、跡形もなく消滅させてしまった。

 

「ぐぁぁぁっ!! な、なにぃ……!? 私の針が……!!」

 

「どうした? 俺を殺すんじゃねぇの? ほれ、俺はここだぜ? かかってこいよ、クソサソリくん?」

 

「図に乗るな……グハァッ!!!」

 

 スコーピオンは突如、凄まじい重力に襲われて地面に伏せた。ヴァルゴはそれを見下しながら、笑っている。

 

「今なんて言った? 『図に乗るな』だと? それは相手よりも自分が強い場合にのみ、使っていい言葉だぜ……図に乗るなよ、クソサソリが」

 

「く、くっそぉぉ……ギャアァァァ!!」

 

「オラ死ね、死ね、死ねぇぇ!! ギィヒヒヒヒヒ!!!」

 

 杖先の刃を、嗤いながらスコーピオンへと叩きつけるヴァルゴ。狂気を隠そうともしないその姿に、スコーピオンの怒りはさらに高まる。

 

「死ね!!!」

 

「……つまらん。全然効かねぇよ」

 

「な、なに……!?」

 

 スコーピオンの放った光線は……重力の壁に阻まれて、消えてなくなってしまった。防御、攻撃共に完璧としか言い様がない。

 

「じゃあ、そろそろ終わりにするかな……」

 

「な、何をする気だ……!?」

 

「テメェを太陽に放り込む。俺がワープホールを開けるのは知ってるだろ? ゾディアーツと言えど、太陽の中では活動できない……一瞬で蒸発するだろう」

 

 スコーピオンがそれを聞いて、立ち上がった。所謂、火事場の馬鹿力である。

 

「そうは、いかんぞ……私は、こんなところで、死ねんのだッ……!! 貴様もメテオも、デルタも……私が殺すんだ!!!」

 

「ほう、重力を克服したか……だが、結果が見えている戦いはやらない主義でね。お前が死ぬことに変わりはない」

 

「ふざけるなぁぁぁ!!!」

 

 スコーピオンが向かってくる中……ヴァルゴは、極めて冷静にこう言い放った。

 

「これだけ覚えて逝け。『やる気のある有能は指揮官にすればいいし、やる気のない有能は参謀にすればいい。やる気のない無能は歩兵にすればいいが……やる気のある無能は今すぐ殺せ』だ。死にやがれ、無能のゴミめ」

 

「ッ……ぐ、うぉぉあぁぁぁっ!!!」

 

「悪足掻きはやめろ、とっととあの世に行きやがれ!!」

 

 スコーピオンは上空に開かれたワープゲートに飲まれないように、針を全て地面に突き刺して耐えているが、その針も抜けかかっている。

 

「違う……違うッ!! 私は、やる気のある有能だ……!! 誰がなんと言おうとも!! 私はホロスコープスだぁ!!」

 

「地獄で言ってろ、クソ野郎。じゃあな」

 

「死なんぞ……絶対に、絶対にな!!! うぉぉぉぉぉーッ!!!」

 

 遂に体が浮き、ワープゲートへと飲まれる寸前に……スコーピオンの体から、白い光の球が発生し……スコーピオンの体の中に戻った。すると……スコーピオンの姿が、劇的に変化してゆく。下半身は八本の脚のある、サソリそのものの姿へと変化し、尻尾として頭の後ろについていた針も復活する。ワープゲートから発生している重力を物ともせずに、ヴァルゴへと歩を進めてゆく。

 

「なっ、これは……!?」

 

「アッハッハッハッハァ!!! やはり、やはり私は有能だった!!! まずは貴様から……新しく得た、この最強の力で殺してくれるわ!!!」

 

「カタログに書いてあった『超新星』か……!! いいぞ、そうじゃなきゃ面白くない!!! 楽しい時間になりそうだァ!!!」

 

 そう言って、ヴァルゴとスコーピオンが全力の一撃をぶつけ合おうとしている時……ヴァルゴの電話が鳴る。不機嫌そうに変身を解除して、電話に出る八神……

 

「……なんだァ? こんな時に? あ、社長からだ……」

 

「社長だと!?」

 

「もしもし、今いいとこなんですけど……え? 超新星に目覚めたから処刑は中止? はい、はい……わかりましたよ。伝えりゃいいんでしょ? 切りますよ~……はぁ」

 

 電話を切って、スコーピオンへと話しかける八神……社長からのメッセージなので、スコーピオンの動きも停止している。

 

「なんと言っていた?」

 

「処刑は中止だとさ。あと、ラストチャンスだとよ……デルタを殺せたら、クビは帳消しだそうだ。精々頑張りやがれ……面白くねぇなぁ」

 

「そ、そうか……やはり社長は寛容なお方だ、絶対に期待に応えなくては!!!」

 

 八神はまた変身して、不満の声を上げている。

 

「あ~あ、せっかく人をぶち殺せると思ったのによ……つまんねぇ。帰って寝よ……」

 

「デルタよ、待っていろ!! 今すぐ、この力を見せつけてくれるわ……!! アハハハ、アハハハハハ!!!」

 

「うるせぇなぁ……夢に出てきそうだ。俺の安眠を邪魔したらマジで殺すぞ、お前……」

 

 スコーピオンの高笑いが深夜に響き渡る……だが、学園に向かおうとした時……スコーピオンのバランスが崩れた。

 

「ぐぅっ……そ、そうか。デルタやメテオ、ヴァルゴとの戦闘ダメージが大きいのか……少しどこかで休もう」

 

 通常の人型に戻った後、スコーピオンはどこかへ走り去っていった。

 

 

 

 病院にて……超怒っていたあやめに対してあの後、頑張って弁明した。自業自得なので、仕方ないけどさ……怖いものは怖かったよ。

 

「じゃあ確認する余、康太様? 自分の命は?」

 

「大切にする」

 

「自分の腕は?」

 

 あと、エラスモテリウムに腕を喰わせたこともバレてしまった。嘘って、やっぱりいつかバレるんだな。

 

「化け物に喰わせないようにします」

 

「自分の足は?」

 

「引き千切らないようにします」

 

 こうして客観的に確認すると、そこそこイカれたことやってるな、俺。でも……そうでもしなければ、勝てなかった奴らだ。

 

「よし、OK!!」

 

「ほっ……よかった……」

 

「余が言いたいのは『生きてさえいればいい』じゃなくて、『五体満足で生きてて欲しい』だからね?」

 

 それはわかってるんだけど……

 

「今回は毒を打ち込まれてたからさ……心臓麻痺で死ぬところだったんだ」

 

「それはわかってる、しょうがない余……でも、何にも言わなかったら、武器にするために引き千切るとかやりそうで怖いからさ……」

 

「……仰る通りです」

 

 そんなことやらないと言えたら、どれだけよかったであろうか。俺ならやりかねない……

 

「そこは否定して余!! 普通は『そんなことしないよ』でしょ!?」

 

「いや……ついちゃいけない嘘な気がしてさ」

 

「やるつもりだったんだね……危なかった……」

 

 もしも化け物に喰わせるとしても、他の部位にしておこう。問題なさそうな部位……眼球とか? もしも片目が無くなっても、ギリギリ前は見えるし……

 

「うん、それなら……」

 

「眼 球 も ダ メ だ 余 ?」

 

「ナチュラルに心読むのやめて?」

 

 エスパーかなんかなのか、鬼神は。いや、魔法がある世界でそれを言ったら、おしまいかもしれないけど……

 

「指も耳も、どこかの肉千切るのもダメだ余?」

 

「全選択肢潰された……」

 

「まず『化け物に体のどこかを食べさせる』って行為がNGなんだ余」

 

 確かに。

 

「そうか、言われてみれば……」

 

「大体、神経を力任せに引き千切ったのに……どうして気絶もしないの?」

 

「今更だろ。腕を食われても気絶しないんだぞ」

 

 でも……確かに、なんでだろうな。よくわからない……

 

「とりあえず、できるだけ自分の体は大切にしてね?」

 

「わかった、心配かけてごめんな?」

 

「……余もごめん。余は戦えるのに……」

 

 オーガのことか……?

 

「まだ気にしてるのか? だからいいって……」

 

「何回か、変身してみようとしたんだけどさ……持っただけで手が震えて……これじゃ、刀も持てない余……」

 

「……だろうな」

 

 受けた仕打ちが仕打ちだ……一回殺されているんだ。脳も弄られたみたいだし……体が麻痺してないのが奇跡だろう。

 

「文句言っちゃって、ごめんね……嫌かな? ウザい?」

 

「そんなことはない……俺の行動を顧みれば普通のことだ、あやめの言ってることは正しいしな……世界中探しても、毒を打ち込まれたからって足を引き千切るのは、俺ぐらいのもんだろうし」

 

「……ねぇ。何かして欲しいことない? なんでもいい余、本当に……」

 

 この感じ、似てる……努力を決めた時の俺に、すごくよく似ている。自分の無力を恨んで、それをバネにして頑張った俺に……この状態だと、何かをしないと絶対に解消されることはない。

 

「じゃあ……幽世名物の食べ物とかない? もしあったら食べてみたいな」

 

「うん、任せて!! また持ってくる余!!」

 

「え、いいの? ありがとう! じゃあお願いします!!」

 

 これなら、罪悪感はないし……俺も幽世の美味しいものが食える。win-winだな。

 

「あ……もうこんな時間!! 行かないと、父上と母上に怒られちゃう……!!」

 

「そりゃ大変だ、早く戻らないと!!」

 

「うん、じゃあまた明日!!」

 

 そう言って、あやめは去っていった。

 

「……ん? また明日?」

 

「雪村さん、義足の準備ができましたので……車椅子にどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 明日も来るってことか……前にも増して心配されてるな。そう思いつつ、俺は手術をしに向かうのだった。

 

 

 

 それから二日後。俺の傷は例によって治った……どんどん早くなってる気がする。因みに、本当にあやめは毎日来てくれた。律儀だな……

 

「この回復力はどこから来るんでしょうね?」

 

「私が聞きたいですよ……お大事に。大事にしないんでしょうけどね」

 

「毎度、ご迷惑おかけしております……では!」

 

 この病院はもう顔パスで通れる……それくらい通っているのだ。

 

「さてと……とりあえず、走り込みしないとな」

 

 俺はとりあえず寮に戻り、50kgの重りを装着して……走り込みを80km行った後に、60kgのフリーウェイトに腹筋に、シャドウを行う……よし。

 

「終わり、っと……もう少し伸ばせそうだ、あと10kg程重りを増やしてもいいか」

 

「相変わらず熱心ですね、雪村さん」

 

「一破さん! お疲れ様です!!」

 

 この時間に来るとは、珍しいな。何かあったのだろうか?

 

「ありがとうございます……今日は、仕事をお伝えしたくて学園に来ました」

 

「仕事……もしかして、『仮面ライダーメテオ』のことですか?」

 

「説明がいらなくて助かります……メテオへの対応としては、次回遭遇時に任意同行と事情聴取……ということになりました」

 

 なるほど、わかりやすい。

 

「連れて来れたら連れてくる、無理そうなら事情を聞くんですね?」

 

「はい。敵性実体かどうかを一応確かめたいらしく……世論の方は『デルタを助けた』ということもあってか、概ね好意的な反応ですし……連れてくるために戦闘を行って、敵対されては元も子もない」

 

「仮面ライダーと敵対するのはまずいですね……もう敵としてゾディアーツがいるのに、メテオまで敵だったら僕も困ります……」

 

 それに、悪い人じゃない気がする。何となくだけど、そんな気がしているんだ……

 

「とはいえ、法的な拘束力を働かせられていないので、怪しい動きを見せたら……」

 

「戦闘開始ってわけですね」

 

「えぇ。そんな寛容な判断をしていいのか、とも思いましたが……メテオに社会が好意的かつ、こちらにも協力的である以上、無理に攻撃をして市民の暴動を生んだり、メテオを敵に回すリスクを負う方が危険だと判断したようです」

 

 妥当だと思う。今の社会、何でテロが起こるかわからんからな。テロ犯が増えたら、そっちの相手もしなければならない……

 

「それをダシにして、財団Xが扇動を行わない保証などどこにもない……前例がある以上は、妥当でしょう」

 

「あの時財団Xは、強力なライダーであるサイガを送り込んできました。雪村さんがデルタである今、二度目の敗北は取り返しがつかない……」

 

「負けませんよ、私は。安心してください」

 

 俺に負けは有り得ない。俺の死ぬ時は、財団Xと相討ちになる時だ。

 

「あなたならそう言いますよね……私もゾディアーツを探しています、一緒に頑張りましょう」

 

「はい!! 本拠地を見つけ出して、暁のことを聞き出しましょう!!」

 

「暁……名前だけは何度も聞きましたが、どんな奴なのかは全く分からない……」

 

 山崎や今井の言葉を聞く限りだと、立場の高い奴だと見てよさそうだが……顔どころか、性別すらわからない。

 

「基地の手がかりとかって、ないんですか?」

 

「……大変言いにくいんですが、あるにはあります」

 

「あるんですか!?」

 

 衝撃的な答えだ、何があったんだ?

 

「えぇ……シザースのチップ内から、財団Xの情報が引き出されまして……日本支部の場所がわかったんですよ」

 

「どうしてそれを早く言ってくれなかったんですか!? 今すぐ向かいましょう!!」

 

「……『黒い腐敗の雨』のニュース、見ましたか?」

 

 一破さんが、突然違う話をし始めた。

 

「え、見ましたけど……それと何の関係が?」

 

「日本支部の場所は、その雨で消滅した場所と一致していました。つまり……何かが起こって、日本支部は消滅したんです」

 

「ということは……研究に失敗したかなんかで、財団Xは逃げた?」

 

 暁もそれで死んだか? いや……それは楽観的すぎるな。

 

「そう考えたいですけどね……黒い雨の採取は、どんな手段を使っても容器が腐り落ちてしまい、不可能だったようです」

 

「全てを腐敗させて破壊する、ドス黒い雨……そもそも失敗だったのか?」

 

「基地が消えてしまったんだから、失敗なのでは?」

 

 いや……今井のやろうとしていたことが気になる。

 

「今井はあの会社ごと、疲労した俺とあやめを押し潰すつもりでした……エラスモテリウムを利用してね。だから、基地を丸ごと犠牲にして『何かをした』のかも」

 

「腐敗の雨と基地を代償にした『何か』……一体どんなことを?」

 

「……わかりませんね。見つかることを恐れて消した、くらいしか思いつかない」

 

 意味のわからないことが多すぎる。奴らは本当に何なんだ?

 

「それなら、もっと早く察知して消しているはずだしな……あそこまでの技術を持っているのに、察知する力だけ低いなんて有り得ない」

 

「すみません、力になれなくて……他になにか、情報はありませんでしたか?」

 

「目ぼしいものはありませんでしたね……」

 

 そうか……奴らめ、徹底してるな。

 

「ありがとうございました、伝えてくれて。何か考えついたら、お知らせします」

 

「お願いしますね。私はそろそろ署に帰ります」

 

「ありがとうございました!!」

 

 そう言って別れて、俺は食堂に向かおうとしたが……

 

「まだお腹空いてないな……よし。ちょっと散歩しよう」

 

 運動すれば腹も減るはずだ。そう思って、少し歩く。すると……

 

「……ふぅ」

 

「あれ、一破さん……?」

 

「うぉっ!?」

 

 一破さんに出くわした。帰ってなかったのか……タバコを咥えている。

 

「すみません、驚かせちゃって……タバコ吸うんですね」

 

「まぁ……少しね。雪村さんこそ、ここで何を?」

 

「お腹が空いてなかったので、散歩をね……遠慮なくどうぞ?」

 

 俺がそう言うと、少し申し訳なさそうにしながらも、二本目を口に咥えて……ライターで火をつけた。

 

「ふぅぅ……煙たくないですか?」

 

「大丈夫ですよ。警察官の嗜みってやつですかね?」

 

「全員が全員吸っているわけでもありませんが……私は吸いますね」

 

 俺が咳き込んでいないのを確認して、煙を吹いた後に携帯灰皿に擦り付けて火を消し、三本目を咥える。

 

「結構吸うんですね……」

 

「警察官はストレスも多いですから……ふぅっ」

 

「一破さんが吸ってると、絵になるなぁ……」

 

 俺がそう言うと、一破さんは俯いて……小さな声で言った。

 

「私より似合う人が、いたんですがね……」

 

「あ……ごめんなさい!」

 

「いえ、こっちこそ……失礼します」

 

 『いた』。その言葉の意味くらい、誰でもわかる……悲しそうな顔だったな……

 

「悪いことしちゃったかな……」

 

 俺は一破さんと少しは仲良くなったつもりだったが、そうでもないのかもしれないな……

 

「一破さんがタバコ吸うことも、初めて知ったしな……腹減ってきたし、食堂行くか」

 

 幾ら考えたって、分からないことはある。そう思って俺は、食堂へと向かった。

 

「すみません、これお願いします」

 

「日替わりA入ります!」

 

「はーい!!」

 

 定食を貰って、黙々と食べる。早く食べないと、交代時間になってしまうからな。今日のメニューはサイコロステーキだった。

 

「ごちそうさまでした!!」

 

「あ、行っちゃった……せっかちだねぇ」

 

「ヤバい、後二分しかない!!」

 

 俺はその後、変身して警備に入り……時間になって、就寝した。そして、次の日……いつも通り、スライガーのエンジンを入れる。

 

「一破さん、学園はお願いしますね」

 

「はい、任せてください」

 

「行ってきます!!」

 

 そう言って、ジェットスライガーを飛び立たせる……怪しい動きは見えないな。ゾディアーツもいない。

 

「今日はもう少し遠くを見に行ってみるか……」

 

 同じ方向に向かうばかりじゃ、見つからないだろう。そう思った俺は、少し遠くへと向かうのだった。

 

 

 

 一方……学園にて。百鬼あやめが、手提げ鞄を下げて学園に来ていた。

 

「幽世名物、アヤカシ団子……康太様はいるかな?」

 

 串に刺さった団子が、二人分ある。お願いされた通り、美味しいものを差し入れしに来たのだ。

 

「……百鬼さん? どうしてここに?」

 

「人間様! 康太様は?」

 

「雪村さんならパトロール中ですよ。ついさっき、スライガーで飛んで行ったところです」

 

 それを聞いて、百鬼あやめは残念そうにしている。

 

「タイミング悪いなぁ……待っててもいい?」

 

「構いませんよ。私は警備をしているだけなので、お気になさらず」

 

「ありがとう、人間様!!」

 

 そう言ってベンチに座り、雪村康太の帰りを待つ百鬼あやめ……しばらくして、百鬼あやめが居眠りしそうになっていたところで……

 

「……なにっ!? あれは……!!」

 

「どうしたの、人間様?」

 

「百鬼さん、逃げて!! ゾディアーツです!!」

 

 そう言われて、振り向いた先には……門を超えて歩いてくる、スコーピオンの姿があった。

 

「あれってもしかして……康太様が足を引き千切ることになった……!!」

 

「そうです……貴様、ここに何の用だ!?」

 

「見てわからんか? この前の復讐だよ……さっさと雪村康太を出せ」

 

 目の前で威圧するスコーピオンに怯まず、一破は冷静に答えた。

 

「悪いが不在だ。パトロール中なのでな……わかったら日を改めるんだな」

 

「そうか……心配するな、その必要はない」

 

「なに……? 何をするつもり!?」

 

 スコーピオンが、頭の後ろの針を伸ばして……百鬼あやめを狙った。

 

「死ね」

 

「ッ!?」

 

「躱したか、流石は鬼人……」

 

 間一髪躱して、二本の刀を抜いた百鬼あやめ……一破もサイガフォンを構えている。

 

『Burst Mode』

 

「何をするつもりだ、貴様!?」

 

「簡単なことさ。貴様らを襲えば、どこにいようと奴は来る。いればそれでよし、いなければ貴様らを殺しながら待つ……さぁ、死にたくないなら早く助けを呼べ?」

 

 卑劣な手段を厭わないスコーピオンの精神性に、二人の顔が歪む……

 

「悪いけど、余は助けを呼ばない余。お前は余が倒す」

 

「お前の動きはわかった。時間稼ぎくらいはできるぞ」

 

「図に乗るなよ。私は……前までの私ではないのだから」

 

 どこからどう見ても変わっていないのに、自信満々でそう言うスコーピオンに対して、一破が尋ねる。

 

「どこがどう変わったんだ?」

 

「……せっかくだ。冥土の土産に見せてやろう、私の真の力をな」

 

「やらせるかっ!! 鬼炎術、妖炎憑依!!」

 

 蒼炎を纏った二刀が、針を擦り上げて斜めに振り下ろされる。確かに当たった、はずなのだが……その一撃はスコーピオンに切れ込みすら入れず、百鬼あやめの顔に拳が叩き込まれた。

 

「……甘い」

 

「グハッ!? き、切れない……!?」

 

「馬鹿なっ!? お前の体はそこまで丈夫では無いはずだ!!」

 

 サイガフォンの射撃が地面に炸裂して、青い光を散らす……前より、確実にパワーアップしている。

 

「見せてやろう。ホロスコープスの真骨頂をな……!!」

 

「ッ、何を……」

 

「行くぞ!! その目に焼き付けろッ!!!」

 

 超……新星ッッ!!!!

 

「超新星だと……!?」

 

「姿が変わっていく……!!」

 

「アッハッハッハッハ……!! 見たか、これが私の力!! 全てを超越し、捻り潰す力だぁ!!!」

 

 大幅に変わったその姿に、驚愕を隠せない二人……

 

「さらにサソリに近くなった……!? なんてオーラだ!!」

 

「……上等!! 的がデカイ、つまり当てやすいってことだろう!!」

 

「フッ……貴様も舐めてかかってくるか」

 

 放たれる光線を、蜃気楼で躱し……横に回って、踏み込み……長い足を狙って、横に一閃。青い光と共に切り裂かれる、はずだが……

 

「ダメか……!!」

 

「無駄なんだよ、百鬼あやめ!!」

 

「う、ガッ!?」

 

 スコーピオンの長い尻尾がしなり、ムチのように体に叩きつけられた。百鬼あやめの顔に痕がつく……

 

「百鬼さん!! くそっ……この!!」

 

「効かんのだよ、その程度!!」

 

「離、せぇっ……!!」

 

 尻尾に縛り上げられて、藻掻く百鬼あやめだが……スコーピオンは、それを鼻で笑った。

 

「無様だな、鬼ともあろうものが……超新星の前では、赤子同然だ」

 

「ぐふっ!!」

 

「くそ、やめろ!! スコーピオン!!」

 

 地面に叩きつけた後、追い討ちの赤い光線が連続で放たれる。刀でそれを防いだが……尻尾を使って、難なく弾き飛ばされてしまった。

 

「業、不知火……!!」

 

「やめて欲しいなら、早くデルタを呼ぶのだな。デルタがいないから、私は暴れているのだ」

 

「ッ……仕方ないか!!」

 

 電話を手に取った一破……それを確認して、百鬼あやめを痛めつけるのに戻るスコーピオン。

 

「喰らえ」

 

「が、あぁっ!!」

 

「フン……その程度なのか、鬼というものは?」

 

 片腕をレーザーで焼かれ、満身創痍の百鬼あやめだが目には闘志が宿っている。

 

「まだ、だ……!!」

 

「愚かなことだ。それとも、何か策でもあるのか?」

 

「……」

 

 バッグの中に入った、ベルトと携帯電話。自分以外が使用できない、『最強のライダー』の力……百鬼あやめが、それを手に取る。

 

「それは……確か、オーガだったか?」

 

「っ……」

 

「どうした、震えているぞ? 怖気付いたか、それとも死を覚悟したのか?」

 

 使わなければ、勝つことはできない。殺されてしまうかもしれない……百鬼あやめは、それをわかっている。だが……体が言うことを聞かないのだ。オーガフォンを持つ手が、激しく震える……冷や汗が次々流れ出てゆく。ついに、掌から零れ落ちてしまった。硬い地面に当たって、硬い音が鳴る。

 

「くぅ、ぅっ……!!」

 

「……わかったぞ、怖くて使えないんだな? 馬鹿な奴め、使えないものを持ち歩くとは……もういい、いい加減に死んでおけ」

 

「……!!」

 

 殺される。何かしなければ……そう思って、百鬼あやめは刀に手を伸ばす。鼻血を拭き取り、刀二つを合わせる。

 

「これで終わりだ」

 

「鬼炎術……奥義!! 二刀、一体ッ!!!」

 

「……」

 

 全力の踏み込み、地面に埋まりそうな程足に力を込めて、向かってくる尻尾へ全力の唐竹。轟々と燃え盛る蒼炎が、尻尾を焼き切ろうと燃えている……だが、スコーピオンは……それすらも、容易く弾き飛ばした。

 

「邪魔だ。どけ」

 

「えっ……」

 

「フン!!」

 

 サソリの足とは思えない、強烈な一撃を腹に受ける。血が吐き出されて、大きく打ち上げられ……無慈悲にもそこに、尻尾が叩きつけられた。地面に落下し……大きな砂煙が上がる。

 

「……百鬼さんっ!!」

 

「電話は終わったか、一破? 奴なら死んだぞ」

 

「っ、ぐふ……ぁ……」

 

 まだ、微かに息があるものの……とてもじゃないが、戦える状態ではない。万事休すだ……

 

「臆病者め。変身できない者が私に立ち向かう? 全く笑わせる……毒を使う価値もないな」

 

「やめろッ!!」

 

「邪魔なんだよ、警察」

 

 一破は足一本で、容易に弾き飛ばされた。壁に激突して、骨がバラバラになる。

 

「うぐぁ……!!」

 

「踏み潰してやる。死ね、臆病者が」

 

「やめろぉぉぉーッ!!!」

 

 ジェットスライガーが横から、スコーピオンに炸裂する。流石に吹っ飛び、大きく後退した……だが、ダメージはほぼないようだ。

 

「来たな、雪村康太……!! 待っていたぞ!?」

 

「俺のいない間に、やってくれたな……!! あやめ、一破さん、大丈夫……じゃないよな……ちょっとデカくなったくらいで、俺に勝てると思うなよ!?」

 

「フン、臆病者と付き合っているデルタなど……恐れるに足らんわ!! 叩き潰してくれる!!!」

 

 こうして、超進化を遂げた化け物とデルタの戦いの火蓋が切って落とされた……




 スコーピオン・ノヴァ、登場です。
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