前回から続きます。
少々時間は遡り……誰も歩いていない、真っ暗な夜道にて……赤い眼をした怪物が、足を引き摺っている。明らかに疲弊した様子で、怒りの声を上げた。
「はぁっ、はぁっ……くそ!! メテオめぇ!!」
歩いてくるその怪物……もとい、『元』ホロスコープスのスコーピオン・ゾディアーツは、現実を受け入れられずにいた。それもそのはず、味方のはずのライダーシステムが、自分に襲いかかってきたのだから。
「クソォ、何故ライダーシステムが私を襲う!? 普通はデルタを襲うだろう!!!」
理解できない現実に混乱しながら、必死にデルタから逃げるスコーピオン……スコーピオンが混乱を口に出していると、目の前に何者かが現れて道を塞いだ。
「随分怒ってるなァ、『クソサソリ』? クビになった上に、自分とこのライダー様にもボコられるとは、全く哀れだねぇ……ギヒヒヒヒヒ!!」
「貴様……何故、その呼び方を……!? 見ていたのか!? なぜ助けなかった!? ヴァルゴ!!」
「俺自身はあの場にいなかったぞ、変なことを言うなよ」
そう、『自分自身』はいなかった。その言葉の真意を読み取り、スコーピオンの憤怒の矛先が一気に変わる。
「まさか……ライダーシステムに私を襲うように言ったのは……!!」
「さぁ~て、どうだろうねェ? それには黙秘権を行使させてもらうぜ……」
「貴様ァァ……!! どの面下げて私に会いに来やがった!? 殺されに来たのかァァ!!!」
ボロボロの体を無理矢理立たせて、針を八神へと向けるスコーピオン。八神はそれに、スイッチを取り出すことで返した。その顔には、猟奇的な笑みが張り付いている。
「冥土の土産に教えといてやる。お前は無能だからな、死んでもらうとのことだ……俺が処刑人なのは知ってるだろ? 社長の意思ってことで……死んでくれ」
「それならばッ!! 貴様を殺して、ホロスコープスへと返り咲いてくれるわ!! 貴様こそ死ね、ヴァルゴ!!!」
「いいぞ、もっと大口叩いてこい!! 俺が縫い合わせてやっからよォ!!!」
ヴァルゴの挑発に怒りを煽られ、スコーピオンが腕から光線を放ったが……その全てを躱して、ヴァルゴが自分の杖から小型の重力弾を放ち……伸びてきていた頭の後ろの針を、跡形もなく消滅させてしまった。
「ぐぁぁぁっ!! な、なにぃ……!? 私の針が……!!」
「どうした? 俺を殺すんじゃねぇの? ほれ、俺はここだぜ? かかってこいよ、クソサソリくん?」
「図に乗るな……グハァッ!!!」
スコーピオンは突如、凄まじい重力に襲われて地面に伏せた。ヴァルゴはそれを見下しながら、笑っている。
「今なんて言った? 『図に乗るな』だと? それは相手よりも自分が強い場合にのみ、使っていい言葉だぜ……図に乗るなよ、クソサソリが」
「く、くっそぉぉ……ギャアァァァ!!」
「オラ死ね、死ね、死ねぇぇ!! ギィヒヒヒヒヒ!!!」
杖先の刃を、嗤いながらスコーピオンへと叩きつけるヴァルゴ。狂気を隠そうともしないその姿に、スコーピオンの怒りはさらに高まる。
「死ね!!!」
「……つまらん。全然効かねぇよ」
「な、なに……!?」
スコーピオンの放った光線は……重力の壁に阻まれて、消えてなくなってしまった。防御、攻撃共に完璧としか言い様がない。
「じゃあ、そろそろ終わりにするかな……」
「な、何をする気だ……!?」
「テメェを太陽に放り込む。俺がワープホールを開けるのは知ってるだろ? ゾディアーツと言えど、太陽の中では活動できない……一瞬で蒸発するだろう」
スコーピオンがそれを聞いて、立ち上がった。所謂、火事場の馬鹿力である。
「そうは、いかんぞ……私は、こんなところで、死ねんのだッ……!! 貴様もメテオも、デルタも……私が殺すんだ!!!」
「ほう、重力を克服したか……だが、結果が見えている戦いはやらない主義でね。お前が死ぬことに変わりはない」
「ふざけるなぁぁぁ!!!」
スコーピオンが向かってくる中……ヴァルゴは、極めて冷静にこう言い放った。
「これだけ覚えて逝け。『やる気のある有能は指揮官にすればいいし、やる気のない有能は参謀にすればいい。やる気のない無能は歩兵にすればいいが……やる気のある無能は今すぐ殺せ』だ。死にやがれ、無能のゴミめ」
「ッ……ぐ、うぉぉあぁぁぁっ!!!」
「悪足掻きはやめろ、とっととあの世に行きやがれ!!」
スコーピオンは上空に開かれたワープゲートに飲まれないように、針を全て地面に突き刺して耐えているが、その針も抜けかかっている。
「違う……違うッ!! 私は、やる気のある有能だ……!! 誰がなんと言おうとも!! 私はホロスコープスだぁ!!」
「地獄で言ってろ、クソ野郎。じゃあな」
「死なんぞ……絶対に、絶対にな!!! うぉぉぉぉぉーッ!!!」
遂に体が浮き、ワープゲートへと飲まれる寸前に……スコーピオンの体から、白い光の球が発生し……スコーピオンの体の中に戻った。すると……スコーピオンの姿が、劇的に変化してゆく。下半身は八本の脚のある、サソリそのものの姿へと変化し、尻尾として頭の後ろについていた針も復活する。ワープゲートから発生している重力を物ともせずに、ヴァルゴへと歩を進めてゆく。
「なっ、これは……!?」
「アッハッハッハッハァ!!! やはり、やはり私は有能だった!!! まずは貴様から……新しく得た、この最強の力で殺してくれるわ!!!」
「カタログに書いてあった『超新星』か……!! いいぞ、そうじゃなきゃ面白くない!!! 楽しい時間になりそうだァ!!!」
そう言って、ヴァルゴとスコーピオンが全力の一撃をぶつけ合おうとしている時……ヴァルゴの電話が鳴る。不機嫌そうに変身を解除して、電話に出る八神……
「……なんだァ? こんな時に? あ、社長からだ……」
「社長だと!?」
「もしもし、今いいとこなんですけど……え? 超新星に目覚めたから処刑は中止? はい、はい……わかりましたよ。伝えりゃいいんでしょ? 切りますよ~……はぁ」
電話を切って、スコーピオンへと話しかける八神……社長からのメッセージなので、スコーピオンの動きも停止している。
「なんと言っていた?」
「処刑は中止だとさ。あと、ラストチャンスだとよ……デルタを殺せたら、クビは帳消しだそうだ。精々頑張りやがれ……面白くねぇなぁ」
「そ、そうか……やはり社長は寛容なお方だ、絶対に期待に応えなくては!!!」
八神はまた変身して、不満の声を上げている。
「あ~あ、せっかく人をぶち殺せると思ったのによ……つまんねぇ。帰って寝よ……」
「デルタよ、待っていろ!! 今すぐ、この力を見せつけてくれるわ……!! アハハハ、アハハハハハ!!!」
「うるせぇなぁ……夢に出てきそうだ。俺の安眠を邪魔したらマジで殺すぞ、お前……」
スコーピオンの高笑いが深夜に響き渡る……だが、学園に向かおうとした時……スコーピオンのバランスが崩れた。
「ぐぅっ……そ、そうか。デルタやメテオ、ヴァルゴとの戦闘ダメージが大きいのか……少しどこかで休もう」
通常の人型に戻った後、スコーピオンはどこかへ走り去っていった。
病院にて……超怒っていたあやめに対してあの後、頑張って弁明した。自業自得なので、仕方ないけどさ……怖いものは怖かったよ。
「じゃあ確認する余、康太様? 自分の命は?」
「大切にする」
「自分の腕は?」
あと、エラスモテリウムに腕を喰わせたこともバレてしまった。嘘って、やっぱりいつかバレるんだな。
「化け物に喰わせないようにします」
「自分の足は?」
「引き千切らないようにします」
こうして客観的に確認すると、そこそこイカれたことやってるな、俺。でも……そうでもしなければ、勝てなかった奴らだ。
「よし、OK!!」
「ほっ……よかった……」
「余が言いたいのは『生きてさえいればいい』じゃなくて、『五体満足で生きてて欲しい』だからね?」
それはわかってるんだけど……
「今回は毒を打ち込まれてたからさ……心臓麻痺で死ぬところだったんだ」
「それはわかってる、しょうがない余……でも、何にも言わなかったら、武器にするために引き千切るとかやりそうで怖いからさ……」
「……仰る通りです」
そんなことやらないと言えたら、どれだけよかったであろうか。俺ならやりかねない……
「そこは否定して余!! 普通は『そんなことしないよ』でしょ!?」
「いや……ついちゃいけない嘘な気がしてさ」
「やるつもりだったんだね……危なかった……」
もしも化け物に喰わせるとしても、他の部位にしておこう。問題なさそうな部位……眼球とか? もしも片目が無くなっても、ギリギリ前は見えるし……
「うん、それなら……」
「眼 球 も ダ メ だ 余 ?」
「ナチュラルに心読むのやめて?」
エスパーかなんかなのか、鬼神は。いや、魔法がある世界でそれを言ったら、おしまいかもしれないけど……
「指も耳も、どこかの肉千切るのもダメだ余?」
「全選択肢潰された……」
「まず『化け物に体のどこかを食べさせる』って行為がNGなんだ余」
確かに。
「そうか、言われてみれば……」
「大体、神経を力任せに引き千切ったのに……どうして気絶もしないの?」
「今更だろ。腕を食われても気絶しないんだぞ」
でも……確かに、なんでだろうな。よくわからない……
「とりあえず、できるだけ自分の体は大切にしてね?」
「わかった、心配かけてごめんな?」
「……余もごめん。余は戦えるのに……」
オーガのことか……?
「まだ気にしてるのか? だからいいって……」
「何回か、変身してみようとしたんだけどさ……持っただけで手が震えて……これじゃ、刀も持てない余……」
「……だろうな」
受けた仕打ちが仕打ちだ……一回殺されているんだ。脳も弄られたみたいだし……体が麻痺してないのが奇跡だろう。
「文句言っちゃって、ごめんね……嫌かな? ウザい?」
「そんなことはない……俺の行動を顧みれば普通のことだ、あやめの言ってることは正しいしな……世界中探しても、毒を打ち込まれたからって足を引き千切るのは、俺ぐらいのもんだろうし」
「……ねぇ。何かして欲しいことない? なんでもいい余、本当に……」
この感じ、似てる……努力を決めた時の俺に、すごくよく似ている。自分の無力を恨んで、それをバネにして頑張った俺に……この状態だと、何かをしないと絶対に解消されることはない。
「じゃあ……幽世名物の食べ物とかない? もしあったら食べてみたいな」
「うん、任せて!! また持ってくる余!!」
「え、いいの? ありがとう! じゃあお願いします!!」
これなら、罪悪感はないし……俺も幽世の美味しいものが食える。win-winだな。
「あ……もうこんな時間!! 行かないと、父上と母上に怒られちゃう……!!」
「そりゃ大変だ、早く戻らないと!!」
「うん、じゃあまた明日!!」
そう言って、あやめは去っていった。
「……ん? また明日?」
「雪村さん、義足の準備ができましたので……車椅子にどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
明日も来るってことか……前にも増して心配されてるな。そう思いつつ、俺は手術をしに向かうのだった。
それから二日後。俺の傷は例によって治った……どんどん早くなってる気がする。因みに、本当にあやめは毎日来てくれた。律儀だな……
「この回復力はどこから来るんでしょうね?」
「私が聞きたいですよ……お大事に。大事にしないんでしょうけどね」
「毎度、ご迷惑おかけしております……では!」
この病院はもう顔パスで通れる……それくらい通っているのだ。
「さてと……とりあえず、走り込みしないとな」
俺はとりあえず寮に戻り、50kgの重りを装着して……走り込みを80km行った後に、60kgのフリーウェイトに腹筋に、シャドウを行う……よし。
「終わり、っと……もう少し伸ばせそうだ、あと10kg程重りを増やしてもいいか」
「相変わらず熱心ですね、雪村さん」
「一破さん! お疲れ様です!!」
この時間に来るとは、珍しいな。何かあったのだろうか?
「ありがとうございます……今日は、仕事をお伝えしたくて学園に来ました」
「仕事……もしかして、『仮面ライダーメテオ』のことですか?」
「説明がいらなくて助かります……メテオへの対応としては、次回遭遇時に任意同行と事情聴取……ということになりました」
なるほど、わかりやすい。
「連れて来れたら連れてくる、無理そうなら事情を聞くんですね?」
「はい。敵性実体かどうかを一応確かめたいらしく……世論の方は『デルタを助けた』ということもあってか、概ね好意的な反応ですし……連れてくるために戦闘を行って、敵対されては元も子もない」
「仮面ライダーと敵対するのはまずいですね……もう敵としてゾディアーツがいるのに、メテオまで敵だったら僕も困ります……」
それに、悪い人じゃない気がする。何となくだけど、そんな気がしているんだ……
「とはいえ、法的な拘束力を働かせられていないので、怪しい動きを見せたら……」
「戦闘開始ってわけですね」
「えぇ。そんな寛容な判断をしていいのか、とも思いましたが……メテオに社会が好意的かつ、こちらにも協力的である以上、無理に攻撃をして市民の暴動を生んだり、メテオを敵に回すリスクを負う方が危険だと判断したようです」
妥当だと思う。今の社会、何でテロが起こるかわからんからな。テロ犯が増えたら、そっちの相手もしなければならない……
「それをダシにして、財団Xが扇動を行わない保証などどこにもない……前例がある以上は、妥当でしょう」
「あの時財団Xは、強力なライダーであるサイガを送り込んできました。雪村さんがデルタである今、二度目の敗北は取り返しがつかない……」
「負けませんよ、私は。安心してください」
俺に負けは有り得ない。俺の死ぬ時は、財団Xと相討ちになる時だ。
「あなたならそう言いますよね……私もゾディアーツを探しています、一緒に頑張りましょう」
「はい!! 本拠地を見つけ出して、暁のことを聞き出しましょう!!」
「暁……名前だけは何度も聞きましたが、どんな奴なのかは全く分からない……」
山崎や今井の言葉を聞く限りだと、立場の高い奴だと見てよさそうだが……顔どころか、性別すらわからない。
「基地の手がかりとかって、ないんですか?」
「……大変言いにくいんですが、あるにはあります」
「あるんですか!?」
衝撃的な答えだ、何があったんだ?
「えぇ……シザースのチップ内から、財団Xの情報が引き出されまして……日本支部の場所がわかったんですよ」
「どうしてそれを早く言ってくれなかったんですか!? 今すぐ向かいましょう!!」
「……『黒い腐敗の雨』のニュース、見ましたか?」
一破さんが、突然違う話をし始めた。
「え、見ましたけど……それと何の関係が?」
「日本支部の場所は、その雨で消滅した場所と一致していました。つまり……何かが起こって、日本支部は消滅したんです」
「ということは……研究に失敗したかなんかで、財団Xは逃げた?」
暁もそれで死んだか? いや……それは楽観的すぎるな。
「そう考えたいですけどね……黒い雨の採取は、どんな手段を使っても容器が腐り落ちてしまい、不可能だったようです」
「全てを腐敗させて破壊する、ドス黒い雨……そもそも失敗だったのか?」
「基地が消えてしまったんだから、失敗なのでは?」
いや……今井のやろうとしていたことが気になる。
「今井はあの会社ごと、疲労した俺とあやめを押し潰すつもりでした……エラスモテリウムを利用してね。だから、基地を丸ごと犠牲にして『何かをした』のかも」
「腐敗の雨と基地を代償にした『何か』……一体どんなことを?」
「……わかりませんね。見つかることを恐れて消した、くらいしか思いつかない」
意味のわからないことが多すぎる。奴らは本当に何なんだ?
「それなら、もっと早く察知して消しているはずだしな……あそこまでの技術を持っているのに、察知する力だけ低いなんて有り得ない」
「すみません、力になれなくて……他になにか、情報はありませんでしたか?」
「目ぼしいものはありませんでしたね……」
そうか……奴らめ、徹底してるな。
「ありがとうございました、伝えてくれて。何か考えついたら、お知らせします」
「お願いしますね。私はそろそろ署に帰ります」
「ありがとうございました!!」
そう言って別れて、俺は食堂に向かおうとしたが……
「まだお腹空いてないな……よし。ちょっと散歩しよう」
運動すれば腹も減るはずだ。そう思って、少し歩く。すると……
「……ふぅ」
「あれ、一破さん……?」
「うぉっ!?」
一破さんに出くわした。帰ってなかったのか……タバコを咥えている。
「すみません、驚かせちゃって……タバコ吸うんですね」
「まぁ……少しね。雪村さんこそ、ここで何を?」
「お腹が空いてなかったので、散歩をね……遠慮なくどうぞ?」
俺がそう言うと、少し申し訳なさそうにしながらも、二本目を口に咥えて……ライターで火をつけた。
「ふぅぅ……煙たくないですか?」
「大丈夫ですよ。警察官の嗜みってやつですかね?」
「全員が全員吸っているわけでもありませんが……私は吸いますね」
俺が咳き込んでいないのを確認して、煙を吹いた後に携帯灰皿に擦り付けて火を消し、三本目を咥える。
「結構吸うんですね……」
「警察官はストレスも多いですから……ふぅっ」
「一破さんが吸ってると、絵になるなぁ……」
俺がそう言うと、一破さんは俯いて……小さな声で言った。
「私より似合う人が、いたんですがね……」
「あ……ごめんなさい!」
「いえ、こっちこそ……失礼します」
『いた』。その言葉の意味くらい、誰でもわかる……悲しそうな顔だったな……
「悪いことしちゃったかな……」
俺は一破さんと少しは仲良くなったつもりだったが、そうでもないのかもしれないな……
「一破さんがタバコ吸うことも、初めて知ったしな……腹減ってきたし、食堂行くか」
幾ら考えたって、分からないことはある。そう思って俺は、食堂へと向かった。
「すみません、これお願いします」
「日替わりA入ります!」
「はーい!!」
定食を貰って、黙々と食べる。早く食べないと、交代時間になってしまうからな。今日のメニューはサイコロステーキだった。
「ごちそうさまでした!!」
「あ、行っちゃった……せっかちだねぇ」
「ヤバい、後二分しかない!!」
俺はその後、変身して警備に入り……時間になって、就寝した。そして、次の日……いつも通り、スライガーのエンジンを入れる。
「一破さん、学園はお願いしますね」
「はい、任せてください」
「行ってきます!!」
そう言って、ジェットスライガーを飛び立たせる……怪しい動きは見えないな。ゾディアーツもいない。
「今日はもう少し遠くを見に行ってみるか……」
同じ方向に向かうばかりじゃ、見つからないだろう。そう思った俺は、少し遠くへと向かうのだった。
一方……学園にて。百鬼あやめが、手提げ鞄を下げて学園に来ていた。
「幽世名物、アヤカシ団子……康太様はいるかな?」
串に刺さった団子が、二人分ある。お願いされた通り、美味しいものを差し入れしに来たのだ。
「……百鬼さん? どうしてここに?」
「人間様! 康太様は?」
「雪村さんならパトロール中ですよ。ついさっき、スライガーで飛んで行ったところです」
それを聞いて、百鬼あやめは残念そうにしている。
「タイミング悪いなぁ……待っててもいい?」
「構いませんよ。私は警備をしているだけなので、お気になさらず」
「ありがとう、人間様!!」
そう言ってベンチに座り、雪村康太の帰りを待つ百鬼あやめ……しばらくして、百鬼あやめが居眠りしそうになっていたところで……
「……なにっ!? あれは……!!」
「どうしたの、人間様?」
「百鬼さん、逃げて!! ゾディアーツです!!」
そう言われて、振り向いた先には……門を超えて歩いてくる、スコーピオンの姿があった。
「あれってもしかして……康太様が足を引き千切ることになった……!!」
「そうです……貴様、ここに何の用だ!?」
「見てわからんか? この前の復讐だよ……さっさと雪村康太を出せ」
目の前で威圧するスコーピオンに怯まず、一破は冷静に答えた。
「悪いが不在だ。パトロール中なのでな……わかったら日を改めるんだな」
「そうか……心配するな、その必要はない」
「なに……? 何をするつもり!?」
スコーピオンが、頭の後ろの針を伸ばして……百鬼あやめを狙った。
「死ね」
「ッ!?」
「躱したか、流石は鬼人……」
間一髪躱して、二本の刀を抜いた百鬼あやめ……一破もサイガフォンを構えている。
『Burst Mode』
「何をするつもりだ、貴様!?」
「簡単なことさ。貴様らを襲えば、どこにいようと奴は来る。いればそれでよし、いなければ貴様らを殺しながら待つ……さぁ、死にたくないなら早く助けを呼べ?」
卑劣な手段を厭わないスコーピオンの精神性に、二人の顔が歪む……
「悪いけど、余は助けを呼ばない余。お前は余が倒す」
「お前の動きはわかった。時間稼ぎくらいはできるぞ」
「図に乗るなよ。私は……前までの私ではないのだから」
どこからどう見ても変わっていないのに、自信満々でそう言うスコーピオンに対して、一破が尋ねる。
「どこがどう変わったんだ?」
「……せっかくだ。冥土の土産に見せてやろう、私の真の力をな」
「やらせるかっ!! 鬼炎術、妖炎憑依!!」
蒼炎を纏った二刀が、針を擦り上げて斜めに振り下ろされる。確かに当たった、はずなのだが……その一撃はスコーピオンに切れ込みすら入れず、百鬼あやめの顔に拳が叩き込まれた。
「……甘い」
「グハッ!? き、切れない……!?」
「馬鹿なっ!? お前の体はそこまで丈夫では無いはずだ!!」
サイガフォンの射撃が地面に炸裂して、青い光を散らす……前より、確実にパワーアップしている。
「見せてやろう。ホロスコープスの真骨頂をな……!!」
「ッ、何を……」
「行くぞ!! その目に焼き付けろッ!!!」
超……新星ッッ!!!!
「超新星だと……!?」
「姿が変わっていく……!!」
「アッハッハッハッハ……!! 見たか、これが私の力!! 全てを超越し、捻り潰す力だぁ!!!」
大幅に変わったその姿に、驚愕を隠せない二人……
「さらにサソリに近くなった……!? なんてオーラだ!!」
「……上等!! 的がデカイ、つまり当てやすいってことだろう!!」
「フッ……貴様も舐めてかかってくるか」
放たれる光線を、蜃気楼で躱し……横に回って、踏み込み……長い足を狙って、横に一閃。青い光と共に切り裂かれる、はずだが……
「ダメか……!!」
「無駄なんだよ、百鬼あやめ!!」
「う、ガッ!?」
スコーピオンの長い尻尾がしなり、ムチのように体に叩きつけられた。百鬼あやめの顔に痕がつく……
「百鬼さん!! くそっ……この!!」
「効かんのだよ、その程度!!」
「離、せぇっ……!!」
尻尾に縛り上げられて、藻掻く百鬼あやめだが……スコーピオンは、それを鼻で笑った。
「無様だな、鬼ともあろうものが……超新星の前では、赤子同然だ」
「ぐふっ!!」
「くそ、やめろ!! スコーピオン!!」
地面に叩きつけた後、追い討ちの赤い光線が連続で放たれる。刀でそれを防いだが……尻尾を使って、難なく弾き飛ばされてしまった。
「業、不知火……!!」
「やめて欲しいなら、早くデルタを呼ぶのだな。デルタがいないから、私は暴れているのだ」
「ッ……仕方ないか!!」
電話を手に取った一破……それを確認して、百鬼あやめを痛めつけるのに戻るスコーピオン。
「喰らえ」
「が、あぁっ!!」
「フン……その程度なのか、鬼というものは?」
片腕をレーザーで焼かれ、満身創痍の百鬼あやめだが目には闘志が宿っている。
「まだ、だ……!!」
「愚かなことだ。それとも、何か策でもあるのか?」
「……」
バッグの中に入った、ベルトと携帯電話。自分以外が使用できない、『最強のライダー』の力……百鬼あやめが、それを手に取る。
「それは……確か、オーガだったか?」
「っ……」
「どうした、震えているぞ? 怖気付いたか、それとも死を覚悟したのか?」
使わなければ、勝つことはできない。殺されてしまうかもしれない……百鬼あやめは、それをわかっている。だが……体が言うことを聞かないのだ。オーガフォンを持つ手が、激しく震える……冷や汗が次々流れ出てゆく。ついに、掌から零れ落ちてしまった。硬い地面に当たって、硬い音が鳴る。
「くぅ、ぅっ……!!」
「……わかったぞ、怖くて使えないんだな? 馬鹿な奴め、使えないものを持ち歩くとは……もういい、いい加減に死んでおけ」
「……!!」
殺される。何かしなければ……そう思って、百鬼あやめは刀に手を伸ばす。鼻血を拭き取り、刀二つを合わせる。
「これで終わりだ」
「鬼炎術……奥義!! 二刀、一体ッ!!!」
「……」
全力の踏み込み、地面に埋まりそうな程足に力を込めて、向かってくる尻尾へ全力の唐竹。轟々と燃え盛る蒼炎が、尻尾を焼き切ろうと燃えている……だが、スコーピオンは……それすらも、容易く弾き飛ばした。
「邪魔だ。どけ」
「えっ……」
「フン!!」
サソリの足とは思えない、強烈な一撃を腹に受ける。血が吐き出されて、大きく打ち上げられ……無慈悲にもそこに、尻尾が叩きつけられた。地面に落下し……大きな砂煙が上がる。
「……百鬼さんっ!!」
「電話は終わったか、一破? 奴なら死んだぞ」
「っ、ぐふ……ぁ……」
まだ、微かに息があるものの……とてもじゃないが、戦える状態ではない。万事休すだ……
「臆病者め。変身できない者が私に立ち向かう? 全く笑わせる……毒を使う価値もないな」
「やめろッ!!」
「邪魔なんだよ、警察」
一破は足一本で、容易に弾き飛ばされた。壁に激突して、骨がバラバラになる。
「うぐぁ……!!」
「踏み潰してやる。死ね、臆病者が」
「やめろぉぉぉーッ!!!」
ジェットスライガーが横から、スコーピオンに炸裂する。流石に吹っ飛び、大きく後退した……だが、ダメージはほぼないようだ。
「来たな、雪村康太……!! 待っていたぞ!?」
「俺のいない間に、やってくれたな……!! あやめ、一破さん、大丈夫……じゃないよな……ちょっとデカくなったくらいで、俺に勝てると思うなよ!?」
「フン、臆病者と付き合っているデルタなど……恐れるに足らんわ!! 叩き潰してくれる!!!」
こうして、超進化を遂げた化け物とデルタの戦いの火蓋が切って落とされた……
スコーピオン・ノヴァ、登場です。