お待たせしました。
……スコーピオンが処刑された後。ホロスコープスが、また集まっていた。
「さて……よくやってくれたね、八神」
「おう、デルタと遊べなかったのが残念だが……ま、一破にもう一回会えたし、よしとしよう」
「全く野蛮な……これでは人間ではなく、最早野生の獣だな」
佐々木の皮肉を、八神は意に介さず笑う。
「一理あるなァ……そう言うお前は生き物ですらねぇ、使いモンにならない天秤だがな? ギヒヒヒヒ……」
「貴様……!! いい加減にしろよ!?」
「落ち着け、二人とも。今は喧嘩する時間ではないぞ」
神谷の言葉を受けて、二人が渋々椅子に座る。
「へいへい……満足に殺しもできねぇ、せっかくスコア稼ぎができると思ったのによォ」
「社長。それで、『超新星』の回収については……」
「無論、済んでいる。ほら……」
神谷の手の上に乗せられた、白い球。その場にいる、全員がそれを見つめている。
「これがか……」
「結局負けたみたいだし、あいつには勿体ない力だったな……で、もちろん俺にくれんだろ? 社長さん?」
「さて、これは君にあげよう……佐々木くん」
その瞬間、全員が驚愕の声を上げた。
「正気ですか、社長!? あんな無能に……!!」
「オイオイ、考え直した方がいいんじゃねぇの? 正気の沙汰じゃねぇぜ」
「まぁ、待ちたまえ」
二人がそう言うも、神谷はそれを静止した。
「ほ、本当に……頂けるのですか!?」
「勿論さ。君の超新星は、絶対に我らの役に立つからね……変身して、取り込みなさい」
「は、はい!! 超……新星!!!」
リブラが光の球を取り込んだが……一瞬光って、何も起こらない。
「何も起こらねぇぞ? やっぱり失敗だろ、これ」
「リブラ……見えるだろう? その眼で……」
「しゃ、社長に……射手座の輝きが!?」
それを聞いて、全員がまたしても驚く。
「何だと!? 貴様、何故それを……」
「天秤座の超新星……『ラプラスの瞳』。その者の持つ星座を見通し、予見する力。この世にいないことが証明された、ラプラスの悪魔……その眼に君は目覚めたのさ。おめでとう、佐々木」
「あ、ありがとうございます……!! 必ずや、あなた様の役に立つことでしょう!! どうだヴァルゴ、私の天秤は錆びてなどいなかったぞォ!?」
ヴァルゴが舌打ちをしながら、椅子から立つ。
「チッ……錆取りをつけてもらったくらいで、いい気になるなよ? 退屈だし、俺はもう寝る。おやすみ」
「おい、八神!! 待て!!!」
「いいよ神宮寺、行かせてやれ……佐々木。君には早速だが、これらの星座を探して欲しい」
カタログをコピーしたものが、佐々木に手渡された。
「わかりました!! よい報告をすぐにお届けします!!」
「……これで、計画がまた成功に近づいたな」
「そうですね……慧眼を持つあなたを疑ったこと、陳謝致します」
神宮寺が膝をついて、頭を下げた。
「構わんよ。お前が疑うのも無理はないさ、いつまでも目覚めぬようなら、処刑しようと思っていたからな……だが、天知の超新星を回収できたお陰で、奴にも役割が出来たんだ」
「……それで、天知の死体は?」
「太陽に放り込むなどと言っていたが、無論止めたよ。臓器は全て売り飛ばしたから、いい金が手に入った……奴の脳の方は? ちゃんとやってくれたか?」
恐ろしい話を当然のように、神宮寺と神谷は話している。神宮寺が恐ろしい笑みを浮かべた……
「無論、記憶を全て抜き取って戦闘データを奪いましたよ」
「よし……焼却炉で燃やしておけ。誰にも見つかるな」
「仰せのままに……」
命令を受けて、焼却炉へ向かおうとした神宮寺を神谷が止めた。
「おっと、忘れていたよ……受け取れ、君のものだ」
「スコーピオンのスイッチ……ありがとうございます」
「お前しか使えんからな。しっかり役立てろ」
神谷に向かって一礼した後、神宮寺は今度こそ焼却炉へと向かっていった。
「グヒヒヒ……ゴミも使いようだな。天知、死んでくれてありがとう。役に立てたことを喜びながら、焼け死ぬがいいさ……グヒャヒャヒャヒャ!!!」
邪悪さが滲み出た笑顔を浮かべ、神谷は無能な部下の死亡を、嗤い続けた。
「……本当に痛くないんですか?」
「はい、前まではちゃんと痛かったんですけど……日に日に痛くなくなって……」
「良くない傾向ですね……」
俺は手術を受けた後、病室でお医者さんから説明を受けていた。
「やっぱりまずいんですか?」
「激痛から身を守るための防衛機制なんでしょうが……無痛症状は本当にまずい。無痛症の患者はすぐに死んでしまうからな……」
「……ダメだ、痛くない」
頬をつねっても、痛くない。まさかこれ、夢なんじゃないのか?
「そもそも、内蔵を何度も抉られて生きていること自体異常なことですから……前例がないのも当然か」
「僕はどうすれば?」
「前例が全くないので、治す手段も無論ない。なので、傷が塞がったら退院はできますが……くれぐれも自分の体に気をつけてください」
一歩間違えば、死ぬ。俺はどんどん死に向かっているらしい……それでも、俺は戦う。戦って……暁を殺すんだ。
「分かりました、色々ありがとうございます」
「他に症状はありませんか?」
「今のところは……」
そう言うと、看護師さんが道具を片付け始めた。
「では、安静にしていてくださいね」
「お世話になりました!」
「失礼します」
皆さんが行ってから、自分の体のことを一応考えておく。
「……困ったなぁ、どうしたものか」
この感じだと大火傷しようが、病気になろうが、一切痛くないはずだ。殺し合うには好都合かもしれないが、人間として過ごすには余りに不都合。
「前例がないって言ってたな……なんでだろうか」
人類に一人くらい、戦争をやってそうなった人が居ても不思議じゃない気がするけど……俺が特別なのか?
「父さんも母さんも普通だぞ、何がどうなって……っ?」
目の前の景色が、回る。恰も、目を道具で転がされているかのように、回転している。所謂、目眩だろう。
「っ、ごぇぇっ!」
視界の回転と同時に襲った凄まじい吐き気で、美味しかった昼ご飯は、俺の目の前で汚物になってしまった。汚物が地面に落ち、異臭と不快な音を撒き散らしている。そんな時、今は来て欲しくない人が来た。
「康太様、体調……って!? これ……!!」
「よう、あやめ。近づくなよ、汚ぇぞ……」
「気分悪いの!? お、お水ある余!! はい!!」
あやめが水を差し出してくれた、それの蓋を開けて、酷い味の消えない口の中に、綺麗な水を流し込んで一気飲みする。
「ありがとう、あやめ……目の前が回ってる、多分目眩だな……まぁ、ほっといたら治るだろう」
「ダメ!! 先生呼んで、診てもらって!!」
「……わかった。ナースコール、押さねぇと……」
頼りにならない視界を動かして、ボタンを押そうとしたが……指が痺れて、動かない。なんだこれ、何がどうなってる……? 姿勢が崩れて、前のめりに倒れ込んだ。壁に頭をぶつけてしまい、鈍い痛みが走った。
「康太様っ!!」
「う、ぎっ……心配、するな……自分でやる」
「いい余、これくらい!! もしもし、康太様が目眩がするって言ってて……!!」
未だ治まらない吐き気を抑えるために、首を絞める。気道が圧迫されて、呻き声が漏れた……
「な、何してるの!? ダメだ余、康太様!!」
「あがっ、ご……はっ」
「雪村さん、大丈夫ですか!?」
またもや胃液を吐き出したところで、後ろから看護師さんと思わしき声が聞こえた。
「あ、看護師さんっ……!! 康太様が、目眩がするとかで吐いてて……何とかしてあげてください!!」
「はい!! 雪村さん、喋れますか!?」
「……大丈夫、です。何でも聞いて、くださいよ……」
無理矢理口角を上げる。強い痺れで感覚の消えた指でピースサインを作った。
「目眩と吐き気があるんですね? 他に症状は?」
「体中の感覚が、次々消えて……痛みが無くなったからか、な……」
「脳の障害……!? 今すぐに連絡しますから、少し待っていてください!! 百鬼さんは部屋の外に……!!」
あやめが部屋の外に出されたらしい……耳鳴りがし始めた、どうなっているんだ。そう思っていると、お医者さんが来た。
「症状に間違いはないんだな!?」
「はい、本人が言っているので……」
「すぐに運べ、間に合わなくなる前にっ!!!」
滅茶苦茶焦っている……そんなにヤバい病気なのか? まだ死ぬわけにはいかないのだが。
「……僕、死ぬんですか?」
「死なせません、諦めないで!!」
「なら安心、か……」
言い終わったところで、俺は意識を失ってしまった。
雪村康太が、集中治療室に運び込まれる。様々な精密検査が、次々行われてゆく……
「血液検査、問題ありません」
「脳波検査の方はどうだ!?」
「……これは!!」
医者の一人が驚愕の声を上げる。
「どうした!?」
「ガンマ脳波に異常な上昇が見られます!! デモンズ・スレートの作用かと……!!」
「やはりデモンズスレートか……!! 反デモンズスレート電波、用意!!」
だが、焦りの声が未だ止まらない。
「ガンマ脳波、周波数の上昇が止まりません!! 雪村さんの脳が持ちませんよ!!」
「ッ……デルタギア装着の影響か!? 急げッ!! 患者を死なせる気か!!!」
「装置、準備完了しました!!」
特定の電波を出すだけなのに、随分と大掛かりな装置が起動する。『Anti Demons Slate』の文字が青色で刻まれたその装置には、数人分のヘルメットがついている。集中治療室に置かれたそれに、雪村康太が繋がれた。
「最大パワーだ、症状が酷い!!」
「わかりました!! 電波照射開始します!!」
「ッ……頼む、下がってくれ!!」
その場にいる全員が祈っている……そこで漸く、周波数が下がり始めた。
「ガンマ脳波の周波数減少を確認。成功しました……」
「はぁぁ……よかった……」
「ナノマシンが血液中にないのに、自動で上昇するなんて初めてだぞ……これがデルタギアの代償なのか?」
人間達に希望を齎す、白き光と黒き体の戦士。だが、その代償は思っていた以上に重かった。
「使い続ければ、脳に強い障害を残しかねない兵器……それがデルタギア……」
「恐らく、染み付いたデモンズスレートによる上昇と、戦闘による注入が合わさって……このような事態を招いたのかと」
「スコーピオンの『超新星』だな……激しく、長時間の戦闘だったと聞いている」
解決策を考える医師達……真っ先に浮かんだのはやはり、デルタギア使用の永久凍結だった。
「それは無理ですね……山崎、及びサイガ事件のようなことが起こりかねません」
「ですが、他に方法は……このまま使用を続けた場合、戦えなくなるだけでなく、昏睡したり……最悪、植物状態になってしまうかもしれませんよ」
「それはわかって言っている!! 市民の暴動と重すぎるリスクを天秤にかけねばならんのだ……!!」
医師達でさえ、デルタギアにそこまで危険があるとはわからなかった。デモンズスレートが恐ろしい物であることはわかっていたが……兆候がない以上、問題がないものだと思っていた。だが、現実はそうではなかったのである。
「というか、何故百鬼さんに襲いかからなかったんだ? ここまでなって……闘争心に人間は耐えられるのか?」
「無理だ……雪村さんの精神力? それはどこから来る? 過去の経験か? それとも……」
「兎も角、しばらくは安静にしてもらおう。何か襲ってきたとしても、今すぐ戦うのは余りに危険だ」
二度と戦えなくなるリスクがある。それを踏まえて、医師達は判断を下した。
「とりあえず電波を照射し続けましょう。周波数の上昇は未だに止まっていませんから」
「わかった。後は頼むぞ」
「お任せ下さい」
そう言って一人の医師が、看護師を連れて状況を説明しに出ていった。
「……というわけで、今の雪村さんは戦闘不能です」
「まさかそんなことになっているなんて……」
「康太様……また一人で抱え込んでたの? どうして……なんで?」
百鬼あやめの目に涙が浮かぶ。気づけなかった悔しさからか、それとも頼ってくれなかったことへの悲しみか。
「本人も気づいていなかったのかもしれません。痛覚が消えていましたし……」
「やっぱり消えていたのか……それもデモンズスレートか?」
「はい、恐らく……デルタギアの危険性を見誤ったのが原因ですね」
強力無比な力の代償は、その者の人格や脳そのもの。悪魔にそれを売り渡すことで、漸く手に入る物……車がぶつかるよりもずっと危険な拳に、それの二倍以上のキック。空飛ぶバイクに、無限に撃てる光線銃……そして何より、敵を原子分解して灰にしてしまう必殺技。
「今襲ってこないことを祈るしかないな……」
「大丈夫。余がいる……もう、大丈夫だから」
「百鬼さん……」
仮面ライダーオーガ。デルタより強力とされる、その力がここにあるのだ。
「オーガも一応システムの解析はしましたが……代償は見受けられませんでしたね。装着者の制限があるからか……」
「装着者制限があるか、それとも凄まじい代償があるか……だが、財団Xはそれを無視する手段を持っている」
「ズルしかして来ない奴らだな、本当に……!!」
一破が憤りの声を上げる。財団Xにしかできないことが多すぎるのだ……『フォトンブラッド』も、『ミラーワールド』も、変身機構すら理解できていない。正に、蹂躙以外の何物でもないであろう。
「雪村さんはしばらく目覚めない見込みです……デルタギアの使いすぎで、脳のダメージが酷いですから」
「不安にならないで余、お医者さん。余が頑張ればいいだけだし……康太様にはいい薬になる余!!」
「そうですかね……彼は起きたら、また躊躇無くデルタギアを装着すると思いますが」
一破の懸念は最もだ。雪村康太なら絶対にする、この場にいる全員がそれを理解していた。
「……ここで燻っててもしょうがない!! 余は重りつけて走ってくる!! 何かあったら連絡して!!」
「あぁちょっと、百鬼さん!?」
「行ってしまった……百鬼さんも百鬼さんで、次どんな行動をするか読めないな」
一破がそう言うと、医師も肯定を返した。
「似た者同士なんですね、二人は……」
「……私もパトロールに行ってきます。雪村さんはお願いしますね」
「わかりました、任せてください」
そう言って、一破も去り……雪村康太のいる病室に向かう中で、医師が呟いた。
「……一破さんの顔、いつもと違ったような気がするが、私の思い違いか? そうだといいんだがな……」
医師の小さな疑念。それは果たして、当たりか外れか。
この寂しい世の中で、仮面ライダーが暴れる。それは寂しさを増長し、危険思想を持つ者や世捨て人を増やす要因になっている。そして、ここにも一人……
『デルタに仲間が増えたらしいよ?』
『オーガって言うんだって!!』
「そいつは過去、財団Xの手先になって暴れてた極悪人だぞ……っと!!」
SNSにその言葉を上げた瞬間、凄まじい量のリプライやインプレッションがつく。それを見て笑う、一人の男。
「いいぞ、いいぞ……もっと燃えろ、暴れろ!! 叩け、そして俺に金を寄越せぇ!!」
『ふざけんな、嘘つけ!!』
『そうだったの!? 失望した!! デルタも悪人だね!!』
荒れるSNSを見ながら、汚い欲を隠そうともせぬ男に忍び寄る影が一つ……
「そんなお金稼ぎをしていていいのかい、ギースー……否、欺仁 末男(ぎじん すえお)クン?」
「うぉぉわぁぁっ!? き、貴様は……誰だ!?」
「君のことは全て知っている。親はデモンズスレートで死亡、元々ニートで知らぬ存ぜぬを貫き通していた結果金が尽き、人を燃やして金を稼ぎ始めた……だろ?」
全て図星であったが、認めたくない真実の数々に怒る男。リブラはそれを静かに見つめている。
「うるせぇっ!! あいつらが勝手に狂ったのが悪いんだ、俺は何も悪くない!! 金を用意してなかったアイツらが悪い、暴れたのは事実なんだから叩かれて当然だ!!」
「そう思うなら……自分で叩きに行くといいさ。さぁ、星に願いを」
「これ、SNSで噂の……ゾディアーツスイッチ!?」
明らかにテンションの変わった男に失笑しながらも、リブラが言った。
「フッ……その通り。さぁ、押すといい」
「……これがか……」
「……君には才能がある。誰も気づいていないけどね」
そう言われて、気を良くした男がスイッチに手をかける。
「ヘッヘッヘ、ツイてるなぁ……この姿は!?」
「君の星座は龍……ドラゴン・ゾディアーツさ。さぁ、好きなだけ叩いて金を稼ぐといい」
ドラゴン・ゾディアーツが、拳を握る。足に力を込めて、家の壁を破った。
「ヒャッハァァァ!! 待ってやがれ、俺の金!! 今すぐ燃やして、金稼ぎに使ってやるよォォ!!! ギャハハハハハ!!!」
「……うるさいな。だが、ああいう小物が一番利用しやすいんだ……後をつけるか」
「俺は無敵!! 最強だ!! オーガにデルタ!!! 待ってろよ~!!!」
家の屋根を駆けていくドラゴンゾディアーツに、ため息をつきながら……リブラは走って追いかけた。
一方その頃、百鬼あやめは……いつも通り、走り込みを行っていた。
「やっぱりどんな時でも、これは大事だよね!!」
そんな時……彼女は、周りからの視線がおかしいことに気づいた。
「……あれ、みんなどうしたんだろう?」
「おい、あの人……百鬼あやめだよな?」
「あの噂はホントなのか……?」
民衆の様子に、百鬼あやめは困惑の色を隠せずにいる。その時だった。
「仮面ライダーオーガを見つけたぞ!!」
「えっ!?」
「あいつはデルタを殺そうとした奴だ、殺せ!!」
彼女はその言葉に一瞬、罪悪感を覚えたが……すぐに振り払って、弁明した。
「ち、違います!! 余は……」
「逃がすな、あいつを捕まえるんだ!! 無能なサツ共の代わりに!!」
「財団Xの手先だ、逃がしたら被害が出るぞ!!」
明らかに様子のおかしい民衆に、彼女はある可能性を考えた。デモンズスレート……自分も被害に遭い、現在雪村康太の意識を奪っている、最悪の電波。
「みんな、もしかして……注射を打たれたの!?」
「陰謀論を唱えてるぞ、騙されるな!! ぶち殺せ!!」
「オォーッ!!!」
向かってくる民衆にどうすることもできず、彼女は重りを外して疾走した。つまり、逃走だ。
「どうなってるの……まさか、また財団Xが何かした!?」
「待ちやがれぇぇ!!」
「っ、このままじゃ追いつかれる……仕方ない!!」
百鬼あやめは、その場で踏み込み……家の屋根に飛び乗った。
「なにぃ!?」
「卑怯だぞ、降りてきやがれ!!」
「学園に戻れば、何かわかるかな……!?」
学園の方向に走っていこうとした時……彼女の目を、カメラのフラッシュが襲った。
「っ……マスコミ!? まずい……!!」
「百鬼あやめ、発見っと……これでまた儲けた!!」
「あなた……誰!?」
屋根から飛び降りて、男の正体を尋ねる。
「俺か? 俺は正義の味方だよ、その見返りとして金を受け取っているんだ」
「……!? その書き込み、まさか……!!」
「おっと、完璧な嘘じゃねぇぜ? 本当を混ぜると嘘はバレない……常識だよなァ」
真相を察した彼女は、懐からオーガフォンとベルトを取り出して、装着した。
「ふざけないで……!! そんな稼ぎ方をして、恥ずかしくないの!?」
「抜かせ、悪者。俺は正義で人に快楽を与える、人々は快楽を得て見返りに金が貰える。風俗やホストと何一つ変わらんだろう? それに、お前がやったのは事実なんだ……諦めろ、もう真実は決まった」
「違う!! 康太様は余を許してくれた、当人同士の問題に首を突っ込まないで!!!」
彼女は前とは違い、はっきりと否定した。だが、男は下衆な嗤いを止めようとしない。
「そんなこんな言ってる間に、追いつかれたみたいだぜ? 鬼ごっこは終わりみたいだな、鬼の方が追いかけられてるけど……ギャハハハ!!」
「見つけたぞ、準備はいいか!?」
「さてと……変身!!!」
スイッチが押されて、りゅう座の輝きが浮かび上がり……ドラゴン・ゾディアーツへと変化する。
「やっぱりゾディアーツ……お前はここで止める!!」
「いいぜ、俺様が相手になってやるよ」
「ドラゴン!! そいつをやっちまえ!!」
0のキーが三回入力され……変身準備が成された。
『Standing by』
「貴重な悪人の変身シーンだ、よ~く撮っとかないとな?」
「変身!!!」
オーガフォンが差し込まれ、金色の光が彼女に沿って展開される。光が止むと、彼女は仮面ライダーオーガになっていた……
『Complete』
「こんな感じで変身するんだな……」
「ドラゴンゾディアーツ、覚悟!!」
オーガストランザーにメモリが差し込まれるが、その間にドラゴンゾディアーツは攻撃準備をしていた。
『Ready』
「遅せぇよ!! 喰らえ!!!」
「なっ、鉄球!? っ、く……!! ぬぁぁぁ!!」
「なに!?」
投げつけられた鉄球を体に受けて、鈍重な衝撃が体を襲う……だが、オーガはすぐに体勢を立て直し、ドラゴンゾディアーツに向かってゆく。
「はぁぁぁぁっ!!」
「こっち来んじゃねぇ、鬼!!」
「同じ手は……二度も食わないッ!!!」
ゾディアーツとはいえ、中身は素人である。ワンパターンな投げ方は、彼女にとっては避けろと言っているようなものだ。
「あ、当たらねぇっ……!!」
「もらった!!」
「ッ……!?」
踏み込みと同時に放たれた、首を捉えた一閃。それはドラゴンゾディアーツの頭と体を泣き別れに……することはなかった。
「……え? どうして……!?」
「ヘッヘッヘ……嬉しい誤算だ!! この体、超硬いぞ!!!」
「ぐふッ……そんな、剣が通らないなんて……!!」
硬い拳に吹っ飛ばされながら、彼女が言う。そして、同時に……恐ろしい光景を見ることになった。
「ちょっと、やめてください!! まだ真実かどうかも、わからないのに……ぐぁぁ!!」
「ふざけんな、邪魔してんじゃねぇ!!」
「従わないやつは悪の手先だ、叩いてやれ!!」
騒ぎを止めに来た人が叩かれている、理由はわからない……けれど、放っておくことは彼女にできなかった。
「くっ……!!」
「え、仮面ライダーさん……!?」
「早く逃げて!!」
その人が逃げたのを見つつ、民衆に武器で殴られ続けるオーガ。ほぼ効かないとはいえ、ずっとやられていれば少しは痛い。
「無駄だよ、俺にやらせろ!!」
「俺達にもやらせてくれよー!!」
「しょうがねぇなぁ、満足したらやめろよ」
彼女は考えた、どうすれば殺さないことができるか。ライダーの力を一般人に振るってはいけないし……このままやられるわけにもいかない。彼女の取った行動は……
「離れろ、ヤケドしたくなかったらな!!」
「じ、地面が光って……!? 逃げるぞ!!」
「鬼炎術……『冥界ノ火柱』!!」
蒼炎が地面から吹き上がる……鬼人専用の力、妖術。それを使って、人を振り払ったのだ。だが、男はそれを見逃さなかった。
「隙あり……あれ? これは……嬉しい誤算だなぁ!!」
「なっ、妖炎が消えていく……!?」
「返すぜ、鬼さんよ!!!」
蒼く輝く腕から、火炎が弾になって放たれた。同時に二発放たれたそれを避けきれず、一発に当たってしまう。火傷をすることはなかったものの、爆風で吹き飛ばされて壁に激突する。
「ごはっ……ぐ、なんてヤツ……!! 妖炎でも、焼けないなんて……」
「俺は無敵なんだよ、俺に出会ったのが不幸だったな? 死にやがれ!!」
「……これなら、どうだァァァ!!!」
オーガフォンのキーが押され、ストランザーに大量のエネルギーが注入された。必殺技……オーガ・ストラッシュだ。
『Exceed Charge』
「なに!? この野郎!!」
「ぎっ……ウォォォォッ!!!」
顔面を殴られても、剣を持つ腕と踏み込まれた足は、全く揺るがない。ドラゴンゾディアーツを捕まえたまま、剣が伸びてゆく……
「うぉわぁぁっ!? この、放しやがれ!!」
「ッ、が……グゥ……オォォォッ!!」
「こ、こいつ……全然怯みやがらねぇ……畜生!!!」
鉄球をいくらぶつけられても、オーガは姿勢を崩さない。彼女は、ダメージを受けていないわけではない……攻撃を止めない理由は単純。自分だけ、弱音は吐けない。ただそれだけのことである。
「この、このっ……ガハァァァッ!!!」
「でぇやぁぁぁぁッ!!!」
「ぎぇぇぇーっ!!!」
超上空から、勢いよく地面に叩きつけられた。流石にドラゴンゾディアーツの装甲でも、これには耐えきれずヒビが入る。そのまま地面を削りながら、引きずり回してゆく。
「今度こそ……真っ二つにしてやるッ!!!」
「ま、待ってくれ!! それだけは……!!」
「待てといわれて……待つやつがいるかぁぁ!!!」
余計なものを切らないように、また上空に投げ飛ばして……踏み込みの後、横に振る。硬い物に当たる感覚と同時に、オーガが剣を引くと……装甲が砕け散り、敵の上半身と下半身が泣き別れになった。ゾディアーツの方に向き直って、残心。
「グギャアァァァッ!!!」
「ぜぇ、ぜぇ……鬼を甘く見たな。さらばだ、龍よ」
「そんな……正義が負けるなんて……」
ドラゴンゾディアーツが空中で爆散した。現れた男が逃げようとしている……
「逃がすか!!」
「ひ、ひぃぃっ……!!」
「……なんだ、あれ?」
青い隕石が、ドラゴンゾディアーツの前に降り立つ。
「うわぁぁっ!?」
「仮面ライダーメテオ。お前の運命は私が決める」
「だ、誰……?」
メテオはオーガを一瞥した後、男の首を掴んで叫んだ。
「今すぐにそれをもう一度押せ!!」
「な、何言って……ガッ!?」
「何言ってるの!? せっかく倒したのに……!! ぐっ!?」
やめさせようと手をかけたオーガの背を、錫杖が突き刺す。
「悪いが、邪魔をさせるわけにはいかんのだよ」
「お前、人間様の言ってた……リブラ!?」
「話が早くて助かるよ。頼んだぞ、メテオ」
メテオは相変わらず、男の首を掴んだままだ。
「くっ……邪魔だ!!」
「どこを見ているのかね?」
「ち、畜生……俺を、バカにしやがって……このクソ野郎共がァァァァ!!!」
そう叫ぶと同時に、スイッチの形が変化する。
『last One』
「来たな……!!」
「うぉぉぉぉぉーッ!!!」
男の体が排出されて、ドラゴンゾディアーツがラストワンに達した。
「よし、メテオにオーガ。そいつを倒せ」
「どういうこと……? 何がしたいの!?」
「了解……」
男はそれを気にせず、カメラで自撮りをしている。
「このネタはバズるッ!! これで億万長者だぜぇ!!!」
「お前を倒す」
「やれるもんならやってみなァ!!!」
メテオとリブラの意味不明な行動。何一つ理解できないまま、第2ラウンドが幕を開ける……
仮面ライダーオーガの活躍にご期待ください。