お待たせしました。
……ドラゴンが倒された後、ホロスコープスの集まりにて。ヴァルゴが不満そうな声を上げている。
「ケチくせぇこと言うなよ……そろそろいいだろ、な?」
「ダメだ。奴らにどんな影響を与えるかわからん以上、それは切り札にとっておくべきだよ」、
「……いい加減にしやがれ、クソッタレ野郎。我慢ばかり強制しやがって……」
ヴァルゴが変身し、神谷に杖先を突きつける。当然、神宮寺が怒りを露にした。神宮寺もレオに変身し、殴りかかったが……
「ヴァルゴ……!! 社長に手を出すなァ!!!」
「黙ってろ」
「な……ガァァ!?」
ヴァルゴが杖で地面を突くと、レオが一瞬で地面へと叩き伏せられ……どんどん地面へ埋まってゆく。
「社長さんよぉ、生身であれ喰らったらどうなるか……わかるだろ? え? それとも味わってみてぇか!?」
「……まぁ、落ち着け。二人とも」
「しゃ、社長……お逃げ下さい……ぐふっ!!」
ヴァルゴが立ち上がろうとするレオの頭を踏みつけ、文句を言い続ける。
「黙れ。お前如きがこの八神様に勝とうなんて、百万年早ぇよ」
「ぐ、ぐぅ……!! 社長、変身を……!!!」
「ヴァルゴ。待ってくれよ……お前と一破誠二のためにいい演出や、場所を用意しているんだ」
それを聞いて、ヴァルゴの手が止まる。
「……ほう?」
「お前もせっかく正体を明かして、忘れられていただとか、怒りがそこまでじゃないだとか……そんなことになったら、面白くないだろう? 待っていてくれ、いい演出を考えてるんだ」
「なるほど……だが、それじゃ収まらねぇな。俺の下のライオンより強いのと戦いたい……そしたら落ち着いてやるよ」
そう言って、妥協条件を提示する八神……自分の方が上であることを確信しているのだ。いや、実際そうなのだが。
「それならば……オーガも目覚めたことだし、デルタと戦っていいというのはどうだね? 無論、殺しても構わない」
「本当か!? ギッヒヒヒ、ラッキ~……じゃあ、行ってくるぜぇ~!!」
「行ってらっしゃい」
ヴァルゴが瞬間移動して、その場から消えた。レオが立ち上がったが、当然ふらついている。
「しゃ、社長……お怪我は……?」
「心配しなくていい、無傷だ……デルタはもう用済みだし、消えても構わない。だから、奴に差し出したのさ。リブラに連絡しておけ……『早く次を見つけろ』とね」
「はっ……!!」
レオが変身を解除して、走ってゆく……足を組みながら、神谷が言った。
「……やはりヴァルゴは危険だな。さっさと『アレ』を見つけて、処分してしまわねば……」
あやめがドラゴンを倒した後、奴は逮捕され……俺は例によって、お医者さんに怒られていた。ため息をつきながら、呆れた口調で言ってくる。
「はぁ……またデルタギアを長時間使用しましたね?」
「今回はオーガの力だけではどうにもなりませんでした。情状酌量の余地は十分あるかと」
「一破さん……ありがとうございます!!」
庇ってくれた一破さんにお礼を言う。お医者さんも、口調が少し柔らかくなった気がする。
「まぁ……今回は戦闘もしなかったみたいですし、すぐ退院しても大丈夫そうですね」
「本当ですか!?」
「はい、ですが……ハッキリ言いましょう。デモンズスレートはあなたの体に蓄積していっているんですよ……誰かが折り曲げた紙が形状を記憶するように、あなたの頭も上昇させられたガンマ脳波を記憶しているんです」
つまり……俺は何もしてなくても、デモンズスレートの影響を受けるってわけか。
「それに上乗せで、デルタのデモンズスレートが乗ってくるわけですか」
「そうです。このまま使っていれば、あなたは何れ戦えなくなる……どころか、完全に廃人になってしまう可能性すらあるんですよ」
「僕はなんと言われてもやります。この命が尽きるまではね」
俺の意志は固い。デルタギアを取り上げられたら、力ずくでも取り返すくらいには……
「そう言うと思いましたよ。なので……これを腕につけておいてください」
「これは……なんですか? デジタル腕時計?」
「そんなもの渡してどうするんですか」
一破さんから冷静にツッコミが飛んできた、すみません。
「いや、制限時間とかつくのかなって……」
「時間を決めても、あなたは絶対守らないでしょう?」
「はい!!」
元気よくそう言うと、二人共に呆れられた。そりゃあね。
「変わりませんね、雪村さんは……」
「いやぁ、すみません……それで、その機械は?」
「……それはあなたのガンマ脳波測定器です。危険域に達したら、死の危険があると考えてください」
なるほど、目安になるのか……
「ありがとうございます、大切にしますね」
「それと……学園長さんに許可を取り、あなたの部屋に『反デモンズスレート装置』を用意します。必ず、一日一回十分間、電波を照射してくださいね」
「わかりました……思ったより、僕って深刻な状態なんですね」
ここまで厳重にしないと、デルタギアは使えないのか。不便極まりない……
「気楽ですね……常に死の危険がある上、自滅の可能性すらあるというのに……」
「この世界はもっと深刻ですから。もし財団Xの好きにさせたら……世にも恐ろしいことになるのは、目に見えていますからね」
「その通りです。だからこそ……私たちが早急に何とかしないといけない」
……そういえば、あやめは大丈夫なのだろうか。疲れていたようだったが……
「あ、そういえば……あやめの容態は大丈夫ですか?」
「彼女なら、多少は骨が折れていたりしましたけど……前と違って内蔵の損傷はありませんし、出血もそこまで激しくなかった。オーガの装甲の賜物ですね」
「やはりデルタの装甲は薄いのか……」
一破さんがこちらを見てきたが、俺は余裕の笑みを見せておく。元々装甲なんてなかったんだ、ないよりマシだろう。
「さてと、大丈夫そうなら……僕は外で運動してきます」
「いつものトレーニングですか……倒れない程度でお願いしますよ」
「わかってますって~!!」
そう言いつつ、外に出て走り出し……二日後。俺達は学園長に呼び出されていた。あやめと一緒に出されたお茶を飲んでいる……
「んっ、美味しいです……!」
「さてと、まずは百鬼さんと雪村くん。よくやってくれたね。百鬼さんはドラゴン・ゾディアーツの討伐、雪村くんはギースーによる、ネクロマンサーへの攻撃誘導の解決……感謝するよ、ありがとう」
「ごくっ……お褒めに預かり光栄です」
お茶を飲みながら、感謝の言葉を受け止める。ネクロマンサーを中傷する浮動票を、『デルタ』を使って俺の方へ寝返らせる……成功してよかった。
「康太様はやっぱり頭が回るね!!」
「へへへ、それ程でもないぜ……さて、学園長。僕達が呼ばれたということは……これからについて話すんですよね?」
「流石、話が早いね。そうだよ……さて、百鬼さん。君には基本的に、学園で待機していてもらいたい。やはりライダーがいた方が、学園も安全だからね……雪村くんには、これまで通り財団Xの基地を探して欲しい」
なるほど、合理的だな。スライガーは一人乗りだし、着いてくることはできない。
「康太様にはついて行けないのかぁ……」
「そう落ち込むなよ。何も財団Xを探し回るだけが仕事じゃないさ……見つかったら、ライダーならすぐ走って来れるだろ? あやめなら、天秤野郎やライダーが来ても勝てるはずだ……学園は任せたぜ」
「そういうことだね。私からはこれだけだ、何か質問はあるかい?」
あやめはオーガ、俺はデルタ。肩を並べて戦うだけが協力じゃないよな。
「うん、わかった!! こっちは任せて!!」
「よし!! ……じゃあ、私はまだ探してない方を探してみます。あやめは一破さんと一緒に、学園を頼むよ」
「切り替えが早くて助かる……では頼んだよ、二人とも」
そう言って、俺達はそれぞれの持ち場に向かった。
「よし……今日こそ見つけてやる!!」
「気合十分だなぁ、雪村康太?」
「そりゃあもちろん……って、ヴァルゴ!?」
飛び立とうとすると、射線上にヴァルゴがいた。そのまま突撃しようとしたが……スライガーが動かない!?
「なんでだ……!? なんで飛び立てない!?」
「重力をかけてるんだ。戦おうぜ、デルタ?」
「なるほど、それなら好都合……!! お前をぶちのめして、情報を吐かせてやる!!」
そう言って、デルタギアを巻き付けた。あいつは笑いながらそれを見ている……
「いいぜ? 勝てたら教えてやる……勝てたらだがな!!」
「康太様!!」
「雪村さん!!」
一破さんとあやめが来た、あやめはオーガに変身しているな……
「よう、オーガに一破。久しぶり……でもねぇな」
「加勢する余、康太様!!」
「待て! まずは俺一人で行くよ……奴の手の内をまずは見るんだ、相手のやれることが全くわからない状況で、全戦力を突っ込むのは無謀だ!!」
そう言って、あやめと一破さんを止める。
「合理的な判断だな……まっ、それが死に繋がるんだけど」
「お前こそ……調子に乗ってると俺には勝てないぞ!! 本気で来い!!」
「いいぜ、元よりそのつもりだ!! 楽しもうぜ、デルタ!!」
ヴァルゴを倒すために、デルタフォンを握りしめて、叫ぶ。
「変身!!」
『Standing by』
『Complete』
デルタに変身して、構えを取ると……奴も背中の羽を広げて飛び立ち、黒い弾を撃ってきた。
「う、おっと……!!」
「ほう、今のを躱すか……」
「地面が消えただと!? ブラックホールか!?」
一破さんが叫ぶと、ヴァルゴが楽しそうに言った。
「正解!! 流石一破だ、俺のことはよくわかってるな? 相当小さいが、ほぼ同じもんだ。躱しきれるか!?」
「躱せないわけ、ないだろうが!!」
「この程度じゃ死なねぇか、いいぞ!! 雑魚ライオンの五倍は面白い!!!」
弾幕の密度が濃くなったが、それを全て躱しきると、ヴァルゴが嬉しそうな声を上げて……斧付きの杖で斬りかかってきた。自由落下の勢いを乗せた一撃……だが、一直線なら避けられる。そう思って、体を逸らす。
「そこだ!! スマッシュ……」
「甘いな……!!」
「なに!? 消え……」
後ろから殺気を感じて、咄嗟に飛び退くと……俺が元いた場所が、斧に斬り裂かれてしまった。
「これも当たらねぇか……やべぇな、興奮してきた!!」
「ファイア!!」
『Burst Mode』
ヴァルゴが興奮で震えている隙に、銃の準備をする。照準を合わせて、弾を撃ち込んだ。
「おっと!!」
「なに!?」
「康太様のエネルギー弾が……叩き落とされた!?」
俺の弾は奴に届くことなく、地面に落ちてしまった。原因はわかる……
「弾にも重力をかけられるのか……!!」
「察しがいいな……そうさ、攻防一体ってやつだな……!!どうする、デルタ!?」
「見た瞬間に考えついたぜ!!」
撃ちながら奴に接近する。無論、奴は重力の壁で全て叩き落として来たが……その場で踏み込んで、顔面へと拳を突き出す。
「そこだぁ!!」
「おっと、そうは問屋が……」
「甘い!!」
セオリー通り、後ろに瞬間移動した奴へと……右足を振り上げて、足裏を油断した奴の腹に叩き込んだ。
「ゴフッ……!?」
「そこだ!!」
「グガァァァッ!!!」
怯んだ奴の腕に弾を撃ち込み、杖を手放させた。奴はこれで重力が一時的に使えない……!! 今だ!!
『Ready』
「チェック!!」
『Exceed Charge』
「俺の杖……!! グォォッ!?」
こいつで終わりだ!! 飛び上がって、奴に撃ち込んだドリルへと足を突き出した。
「だぁぁりゃあぁぁッ!!!」
「……まだまだァ!!」
「なっ……!?」
ドリルを弾き飛ばされたが、飛び蹴りの体制をとってしまった以上、このまま行くしかないだろう。
「おっと……!!」
「康太様の必殺技を避けた!?」
「この……!!」
もう一度だ。そう思って、今度は右足軸で左足を振り上げて胸板を狙ったが……体を逸らして躱された。足を戻し、踏み込んだところで……斧が脇腹に突き刺さる。
「グハッ!?」
「ぶっ飛べぇ!!!」
「ゲァァッ……!!!」
血を撒き散らしながら吹っ飛び、仰向けに倒れ込む。そこに奴がブラックホール弾を撃ち込んでくる。仮面の中で血反吐をぶち撒けながら、大声を上げて走り回る。
「うぉぉあぁぁっ!!!」
「どうした!? 逃げんなよ!!!」
「逃げてないさ……!! 今だ!!」
大声を上げた理由はこれだ。俺が地面を蹴りつけて、飛び上がると……オーガストラッシュが、奴に向かって伸びてゆく。奴にオーガフォンの電子音声を聞こえないようにしたんだ。
「ウグッ!?」
「チェック!!」
『Exceed Charge』
今度こそ当てる。そう思って、オーガストラッシュに飛び乗り……奴の顔面にドリルを撃ち込む。だが、奴の動きは止まらず、重力で俺とあやめを攻撃しようとしてくる。
「まとめて……落ちろ!!」
「あやめ、俺ごと落とせ!!!」
「応ッ!!!」
奴が重力を発動する直前に、剣が振られて奴が地面へ落ちてゆく。無論、俺達も落ちたが……俺は右足を伸ばし、奴の顔面のドリルに突撃する体勢を取ったままだ。奴が羽で減速したところに、俺が突っ込む……!!!
「だぁぁりゃあぁぁぁーッ!!!」
「なに!? グゥッ……!!」
「貫けぇぇぇ!!!」
俺は奴を貫き……地面に降り立つ。やった……!!!
「グォ、オ……」
「ルシファーズハンマー、命中……!!」
「……やったか!?」
一破さんがそう言うと、奴にΔの字が浮かび上がり、動きが止まる。誰もが勝ちを確信したであろう、その時。奴が動き出し……
「ぬぅぅ……がぁッ!!」
「なにっ!? Δの字が……!?」
「やってくれるじゃねぇの……俺のスコア、半分お前とオーガのもんだぜ!! 山分けするといい!!」
浮かび上がったΔの字が砕け散り、奴が笑って言う。スコア? どういうことだ?
「スコアってなんだ!? 貯めたらお皿もらえるのか!?」
「康太様、それはパンのシールを集めたらもらえるものでしょ!?」
「人を殺したり、追い詰めたりするともらえるんだよ。追い詰められたら半分、死んだら全部奪える……それがウラのルールなんだぜ? 覚えとけよ……デルタ、お前はこれでNo.3くらいに上がったかもな」
そう言われたが……嬉しくないな。
「殺人スコアが上がっても嬉しくねぇな!!」
「いいねぇ、正義の英雄さん……怒りや憎しみはお前を強くする!! もっともっと強くなってみろ!!!」
「言われなくても……強くなってやるよ!!!」
啖呵を切って、あやめと共にヴァルゴへ向かってゆく。第二ラウンドだ、ヴァルゴ!! そう思っていると。
「……!? 雪村さん!! 上だ!!!」
「なに……?」
「ぐぁっ!? なんだ!?」
上から脳天を殴られた。何事かと思って、後ろを振り向くと……複眼と触角を持つ頭部に、毛の生えた四肢を持った怪人がいた。体の模様を見る限り、ゾディアーツのようだが。
「デルタ、お前なんて……お前なんて!!」
「雪村さんを憎んでいるのか……!!」
「康太様!! こいつは余に任せて、ヴァルゴをお願い!!」
あやめがそいつの前に立ち塞がってくれたので、俺はヴァルゴに向き直ったが……奴は欠伸をしている。
「……天秤野郎がやりやがったか。邪魔されたら面白くない……白けた。眠いから寝る、じゃあな」
「おい、待て!! ……ッ、弾切れ!? チャージ!!」
「もういない……瞬間移動したのか!!」
逃げられてしまった……くそっ。瞬間移動されたら、流石に追えない。落ち込んでいる暇はないな、あいつをなんとかしないと……あやめがゾディアーツに、二人と共に斬りかかっている。奴の拳を弾き飛ばして、胴の構えに入った。
「ぐぅっ!!」
「ぬぁぁぁっ!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
ゾディアーツにしては、やけに弱い気がするけど……いや、あやめが強いのか。
「喧嘩を売る相手を間違えたな、ゾディアーツ……!!」
「痛い……どうして……!! どうして!! どうしてみんな僕を殺そうとするんだよぉぉぉ!!!」
「お前がゾディアーツだからだろう!? ふざけたことを言うな!!」
こいつで終わりだ。そう思って、メモリを再び差し込む。
『Ready』
「チェック!!」
『Exceed Charge』
飛び上がって、右足を突き出して突撃する。こいつはこれで片付ける。
「だぁりゃあぁぁっ!!!」
「う……うぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なにっ!?」
奴が無数のハエになって、どこかに飛んでいく。逃がしてしまう……!!!
『Exceed Charge』
「逃がすか!! 鬼神焦熱……!!!」
「待て、あやめ!! 前をよく見ろ!!」
「そ、そうか……くそっ!!」
奴のいる場所に振り下ろしたが最後、火の粉が家へと降り掛かってしまう……そうなれば、火事になる。意識したものかはわからないが、もしそうなら狡猾な奴だ。
「逃げられてしまったか……ハエということは、ハエ座……ムスカ・ゾディアーツといったところか」
「どこかで聞いたような名前ですね……」
「それではないでしょ……」
それにしても、ハエになって飛んでいくなんて……
「走ったり飛ぶなら追えるけど、ハエになられたり瞬間移動されたら、流石に追えないね」
「強い怪人は逃げ方も一味違うんですね……対策を考えないとな」
「瞬間移動に関しては考えようがないと思いますが……そうですね」
そう言っていると……突然、あやめの様子が変わる。
「あ!! 康太様、今の攻撃で……!!」
「え? あぁ、これ? 大丈夫、一箇所だけだし……」
「内蔵まで達している……まずいぞ!!」
内蔵が抉り取られたのだ、当然の心配だろう……でも平気なのは、やはり俺がおかしいのか?
「いつものことでは……?」
「それでもダメ!! 死んじゃう余!!!」
「とりあえず変身を解いてください、またああなりますよ!?」
そういえば、頭が痛くなってきた気がする……変身を解除しておいた。
「……そういえば、頭が痛いな……病院行こうっと」
「歩いて行こうとしないで、傷口開きますよ!!」
「人間様、持つの手伝って!!」
結局、二人がかりで救急車に運び込まれて……麻酔で意識を失った。いつものことだから、もう慣れたけどね。起きた後にそう思っていると、例によってお医者さんには呆れられた。
「これで何回目ですか、あなたは?」
「少なくとも十回は超えてるかなぁ……20回くらい来たか?」
「……自慢じゃないですが、あなたが来すぎて大体いつ来るのかわかるようになってきました」
そりゃあいい! すごいことじゃないか!!
「聞かせてください、次に僕はいつ来ることになりますか?」
「明日」
「わかりました!!」
先に覚悟を決めておけるのは便利だ、いい能力だと思う……けど、お医者さんは不満そうだな。
「とにかく……頭が痛くなったら、すぐにデルタギアを外してください。今度こそ死にますよ」
「善処します」
「そうしてください……我々はそれに救われているとはいえ、医者として患者の大怪我の防止をするのは、義務ですから」
知っている。だからこそ……感謝してるんだ。
「ありがとうございます、毎回僕の面倒を見てくれて。財団Xが来なくなったら……言われたこと、守らせてもらいますよ」
「はい……さっきまであんなことを言っていてなんですが、頑張ってくださいね」
「もちろん!! 仮面ライダーデルタにお任せあれ!!」
笑顔でピースサインを送り、外に出た後ランニングをして、一時間後……一破さんが病室に来た。
「失礼しますよ、雪村さん」
「一破さん、こんにちは!!」
「相変わらず元気そうですね……では、早速なんですがこれを見てください」
その写真には……例のゾディアーツが写っていた。ハエのゾディアーツだっけ……
「あ、ハエ野郎の写真だ。これがどうかしたんですか?」
「私が撮ったので、ブレが酷いのですが……蝿に変わる前の一瞬の写真がこれです」
そこには……腕と足だけが緑色になった、ハエ野郎が写っていた。
「こいつ、色が変わってる?」
「そうですね。形態変化か、それとも進化か……どちらだとしても、これまでにないタイプです」
なるほど……今回のやつは妙に弱いと思ったら、そういうことか。
「ホロスコープスになるのと関係があるのか……?」
「まだそこまでは……ともかく、厄介な相手であることだけは確かです」
「そうだ、大事なこと聞いてなかったな……ヴァルゴについて、あの後はどうですか? 情報とかは……」
一応尋ねてみたが……一破さんは苦しそうに、横に首を振った。
「全く足取りが掴めません……匂いも空気の移動の跡もない、本当に瞬間移動したと考えるしかない……」
「今のところわかっている奴の能力は、瞬間移動と重力操作。あと、サソリ野郎にやってた……ワープゲートを作る力くらいか」
「それと……ゾディアーツとしての力か、それとも変身者の力かはわかりませんが……ルシファーズハンマーを受けても、平気で立っていられる体の強さ……」
体が強すぎて、原子分解ができなかったと考えるのが自然かな。オーガに放った時も、装甲は分解したが中のあやめへの被害は薄かった。まぁ、あれはオーガの装甲が厚かったからだろうけど……
「ホロスコープスでも、ピンからキリまでいるってわけか……サソリ野郎や天秤野郎は、そこまでじゃなかったけど……前の資料に書いてあった『レオ』……多分、あいつも強いですよね」
「そう考えていいかと。ですが……ヴァルゴは雪村さんと戦っている時に、『ライオンの五倍面白い』と言っていましたし、ヴァルゴはレオも見下せる程の力があると見ていいかと」
「奴は、ホロスコープスの中でも最強格……今回、奴にルシファーズハンマーが命中したのは、あやめがいたからですし……一人で何とかできるようにならないとな」
ヴァルゴは俺を殺したいはず。絶対に俺が一人の時を狙うだろう。なら……一人で奴に勝てるようにならなければ。
「……私個人の意見ですが、それは違うかと」
「えっ?」
「無論、雪村さんが強くなるのは必要なことですが……仲間を頼ることも時には必要ですよ。百鬼さんは、仮面ライダーオーガとして、敵と戦うことを選んだ。あの人だって鷹嶺先生と同じ……あなたの同類でしょう?」
そうか……そうだよな。危ない、またあやめに怒られるところだった。
「ありがとうございます、一破さん。そうだな……合体技とかを考えるのもありか? ヴァルゴは頭がいいし、同じ攻撃が通用するとは思えない……」
「いえ……当然のことです。倒さなければならない敵がいて、仲間がいるのに……お互い頼れなければ、宝の持ち腐れもいいところですからね。雪村さんは今回も、策略の内に百鬼さんを入れていたでしょう?」
「そういえば……無意識のうちにね。あれのお陰で奴にルシファーズハンマーが命中した……感謝しないとな」
あやめは自分の意思でオーガに変身して、この戦いに身を投じている。そして、俺はその先輩の仮面ライダーデルタだ。それなら、俺がやるべきことは……疲れてるあやめに、スポーツドリンクを奢ることだろう。無論、俺の分も買った上でな。
「では、私はまたライダーがいないか見回りしてきます。早く出てきてくださいね」
「わかってますって!! すぐに出てきますからね!!」
「そう言ってくれると思ってましたよ。また明日……」
一破さんは手を振りながら、部屋から出ていった……また明日か。
「明日には出てくるって思われてるな……まぁ、いけるだろうけど」
なんだか感覚が狂っているような気がしてならないが、いつものことだろう。
「よし……ランニングは終わってるし、寝るか」
そうした方が治りを早くできるはず。そう考え、俺は早めに布団を被った。
その夜、ホロスコープスの集会場所にて。錫杖の音と共に、リブラが歩いてくる。変身を解除し、神谷の前に跪いた。
「……リブラ・ゾディアーツ、只今戻りました」
「ご苦労。二人目のゾディアーツはハエ座のようだね。今回は中身にも気をつけるように言っておいたが、どうだ?」
「えぇ、もちろん……神谷様のご要望通り、利用しやすそうでかつ、被害を増やせそうな奴に渡しました。そういえば社長……ヴァルゴは? もう寝ているんですか?」
リブラがそう尋ねると、神谷が頷いて言う。
「あぁ……奴が暴れてね。デルタと戦っていいと言ったんだが、オーガまでその場にいて……倒しきれなかったようだ」
「なるほど……奴の力も底が知れるな」
「それで? スイッチは誰に渡したんだい?」
神谷が怒りを込めた口調で、佐々木に尋ねる。
「す、すみません!! 話が逸れました……今回は、子供です。子供を変身させました……素性は調べていませんが、ランドセルからして小学生だと思われます」
「子供だと? 佐々木、貴様!! なんのつもりだ!?」
「落ち着け、神宮寺。佐々木くん、何故なんだい?」
今にもリブラを殺しかねない勢いの神宮寺を、神谷が制止しながら、理由を尋ねた。
「実は……というわけでしてね」
「……グヒッ、なるほど。そういうことか……ゾディアーツの脅威をこの世界に広めるには、ピッタリの人材だ。よくやってくれた、佐々木」
「ありがとうございます!! それで、私の査定は……?」
佐々木はこの功績を元に、給料アップを求めているようだ。それに対し、神谷は……
「あぁ、考えさせてもらう。今日はもう休みたまえ……よくやったな」
「ありがとうございます、社長!! それでは……おやすみなさいませ」
「……さっさと探してしまわんとな。ホロスコープスを揃えたらいらなくなる人材だ……そうだ。レオ……全員を集め終わったら、奴を暗殺してくれ。できるな?」
冷酷非道なその一言に、神宮寺が応える。
「もちろんです、社長。社長のお望みとあらば……私が排除しますよ」
「頼むぞ……グヒヒヒヒ、今回のは大物だぞ。デルタもオーガも、こいつを殺せるかな? できたとしたって、デルタは大変なことになるぞ……!! グヒヒヒヒッ!!!」
「社長が嬉しそうで何よりです……グハハハハハッ!!!」
自分の目的のために、罪なき子供すらも犠牲にする、冷酷な二人の笑いが建物に響く。この笑いが止まるのはいつになるだろうか……それは、誰も知らない。