※この作品はR-18です。

仮面を被った、人間達の英雄譚   作:とも667

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 いじめ描写があります。ご注意ください。


英・雄・選・択

あれから一日。案の定、傷が癒えた俺はランニングの後、一破さんに経過報告を受けていた。

 

「一破さん。ヴァルゴとハエ野郎の居場所の目星は?」

 

「ヴァルゴに関しては何も……ですが、ムスカに関してなら、衛星からの情報で街までは絞り込めました」

 

「本当ですか!? ラッキー、それならすぐに追えますね!!」

 

 俺がそう言うと……一破さんは肯定の後に、苦い顔で言った。

 

「えぇ、そうですが……奴の能力は忘れていないですよね?」

 

「あ、ハエになれるんだっけ……考えなしに近づけば、また逃げられる……」

 

「はい。その能力があれば、追い詰めてもすぐ逃げられる。細かい場所を絞り込めなければ、捕まえることは困難です……」

 

 やっぱり虫捕り網しかないか……? あれが当たるかと言われると、疑問なところではあるが。

 

「うーん、スライガーにネットミサイルでも搭載できたらなぁ……」

 

「普通に撃っても避けられるだけですよ。ハエになって分散されたら、熱源追尾も意味をなさないし……」

 

「難しい相手ですね……」

 

 俺達が唸りながら考えていると、あやめが来た。ランニングの後なのか、汗びっしょりだ。後でスポーツドリンク買ってあげよう。

 

「康太様と人間様? 何の話してるの?」

 

「百鬼さん、いたんですね。ちょうどよかった……ムスカの分散能力への対策を雪村さんとね」

 

「あいつか……厄介だよね、余とはだいぶ相性悪いし」

 

 仮面ライダーオーガの強さは厚い装甲と、デルタより高いスペックだ。戦い方も基本力押しになる……『鬼神焦熱斬』や、業と不知火のちからを借りられるとはいえそこは変わりない。奴はハエになれば、それを全て避けることができる。厄介だな……

 

「……どうにかして、おびき寄せられればな」

 

「確かにおびき寄せれば、捕まえるのは容易ですが……どうやっておびき寄せるんですか?」

 

「う~ん……俺を餌にすれば出てこないかな?」

 

 理由はわからないが、奴は俺を恨んでいるようだった。それなら、憎い俺を狙って来てくれないかな?

 

「前康太様が倒そうとして、逃げていったし……あいつから、そこまで強い憎しみを感じなかった。多分、自分からは出てきてくれないんじゃないかな」

 

「困ったなぁ……早く探し出さないといけないのに」

 

「とりあえず、今は地道にパトロールを続けるしかないでしょうね」

 

 それしかないか……くそっ。

 

「俺がこうしてる間にも、被害が拡大するかもしれないっていうのに……!!」

 

「康太様……」

 

「気持ちはわかります。ですが……我武者羅に探しても疲労するだけなのは、財団Xでよくわかっていますよね」

 

 奴らと同じような力があれば、そう何度思ったことか。

 

「今はデルタギアがあるから、まだマシだけど……それでも、デメリットがいっぱいだし」

 

「もしかしたら、わざと欠陥品を掴ませた可能性も……」

 

「そんな馬鹿な……そんなことをするくらいなら、俺を呼ぶ必要ないでしょう」

 

 二人が頷いている、そうだよな。本当にどうして……デルタギアを箱に入れておいたんだ? とっとと捨ててしまえばよかったような。隠蔽くらい簡単なはずだろ?

 

「だよね……財団Xは何がしたいんだろう?」

 

「今は出てきていないところを見るに、準備期間のようですが……何をしようとしているのかは依然不明です」

 

「何にせよ、今はハエ野郎を何とかしないと……被害者が増える一方だ」

 

 まだ被害者は出ていないが、恐らくこれから出てくるだろう。被害を最小限に抑えられるようにしないと……

 

「ここで考え続けても仕方ない。早めに処理すべき書類も溜まっているので……私は署に帰りますね」

 

「人間様、またねー!!」

 

「ありがとうございました、一破さん!! ……さてと、あやめ。ちょっと待っててくれよ?」

 

 そう言って、駆け出す。向かうのはもちろん自販機だ、冷たいスポーツドリンクを二つ買う……

 

「あ、戻ってきた! 康太様、急に走っていったけど……どこ行ってたの?」

 

「それはな……じゃーん!! スポーツドリンクだよ!! ほら、こっちがあやめの!!」

 

「ん……ありがとう!! こんなに汗かいてたら、流石にわかっちゃうか……」

 

 そう言って、差し出したスポーツドリンクをあやめが手に取る。キャップを開けて口をつけると、ペットボトルの中身がみるみるうちに減っていく。

 

「ぷはぁ、美味しい……運動の後のスポーツドリンクは美味しい余ね!!」

 

「これが楽しみでやってるとこあるし……俺も飲むか」

 

「いい飲みっぷりだね!!」

 

 一気に四分の一くらい飲んでしまった。スポーツドリンクの強めの塩味が、俺達の疲れを癒してくれる。

 

「……っはぁ、やっぱり美味い!!」

 

「康太様、そういえばなんで奢ってくれたの?」

 

「ん~、気まぐれかな? まぁ、先輩の気まぐれだよ!! 遠慮なく飲め飲め!!」

 

 そう言って、スポーツドリンクを飲むように促した。ちょっとは先輩らしいことができたかな?

 

「気まぐれか……とにかくありがとう、美味しい余!!」

 

「どういたしまして! さてと……俺は飯を食って、休憩入るよ。それからまた見回りする。緊急でもないし……あやめはもう少し休んでてもいいぞ」

 

「康太様は忙しいね……余も休んでられない、一緒にやろう!!」

 

 あやめならそう言うよな。なら……

 

「よし、飲み終わった!! 飯食いに行くぞ!!」

 

「今日のメニューなに?」

 

「それは行ってからのお楽しみだぜ!!」

 

 そう言って、二人で食堂へ向かう……これから、俺の価値観を揺るがす出来事があるとも知らずに。

 

 

 

……仮面ライダーデルタが、またゾディアーツを倒したニュースがまた流れている。『なんでもできるヒーロー』などと言われ、持て囃されているが……

 

「うらっ!!」

 

「あぐぅ……!!」

 

「あ~すまねぇ、手が滑ったよ~」

 

 小学生の男の子が、男子に思い切り腹を殴られた。

 

「ちょっと~、やめなよー。ふふふ……」

 

「悔しかったらやり返してこいよ、おい! 無理だろ!? あっはっはっは!!」

 

「……授業を始めますよ、みんな席について……あら悠馬くん、また殴られたの?」

 

 女性の先生が来たが、男の子は全く期待していない様子だ。

 

「早く解決しなさい、暴力以外でね。全てのことは話し合いで解決できるのよ。暴力を使ったら、ママやパパに言うからね」

 

「暴力なんてしてません、ちょっとふざけてただけですよ!! お前も絶対に言うなよ、お前は嫌がってないんだからさ!!」

 

「……」

 

 このようなことが日常茶飯事の学校。給食を台無しにされたり、椅子を捨てられてしまうこともあった。そして放課後……親のいない家へと、孤独に帰る。そんな時だった……

 

「おい」

 

「え……天秤さん? なんでここに……」

 

「それを使えと言ったはずだぞ。何故使わない? 解放されたいんだろ?」

 

 その子のポケットに入っているのは……他でもない、ゾディアーツスイッチである。ムスカ・ゾディアーツ、蝿のゾディアーツだ。

 

「だって……先生も、ママもパパも、暴力は絶対にダメだって言ってたもん……」

 

「ならば何故、デルタに暴力を振るった?」

 

「それは、その……」

 

 理由はひとつ。自分は今、殺されかけているのに……それを差し置いて、『何でもできるヒーロー』と言われているのが、憎たらしかったのだ。テレビのヒーローはみんな助けてくれる。でも、デルタもオーガもそうではない。それが、何より悠馬くんの憎しみを刺激したのだ。

 

「まぁ、いいだろう……お前もすぐにそれを使わざるを得ない状況に陥るさ」

 

「え……?」

 

「忠告しておいてやろう……お前に残された道は二つ、奴らのために死んでやるか、奴らを殺して生き残るかだ。お前が賢い選択をすることを祈るぞ」

 

 リブラが光に包まれて消える。男の子は、スイッチを握りしめて……ポケットに突っ込み、走り出した。また殴られないことを祈りながら。そして、家に辿りつくと……悠馬くんは、作り置きしているご飯を温め始めた。

 

「パパ、ママ……」

 

 どちらも長い出張でいないので、お金は渡されているものの……見よう見まねでご飯を作っているのだ。

 

「……ママのカレーが食べたいな……」

 

 そう言いながら、あまり美味しくないご飯を胃に詰め込み続ける日々。だけど、迷惑はかけられない……父も母も、遠くにいるから。

 

「僕のためにお仕事頑張ってくれてるんだ……頑張って我慢しないと……」

 

 そう言いながら、テレビをつけると……

 

『またしても快挙!! ヒーローのデルタとオーガコンビ、二体のゾディアーツを一度に撃退!!』

 

「……デルタ……!!」

 

『いや、二人とも逃がしてしまったので……そこまでのことじゃないです。皆さんも、外出時は気をつけてくださいね』

 

 自分のことを悪く言うデルタが気に入らず、また手が伸びた。だが、自分の力不足を悟った男の子の手が止まる。

 

「うぅ……」

 

 テレビが切られて、やけに明るい部屋のみが残った。嫌気が刺して、全て雑に済ませてベッドに入る。

 

「おやすみ……早く帰ってきてね……」

 

 写真にそう言った後、男の子は目を閉じた。近い内に二人が帰ってくることを信じて……

 

「……さっさと使わせんとな。私の給料のために、次の査定までには結果を出さねば」

 

 それを家の外から見つめるリブラが、そう呟いて……また消えた。そして次の日……また、地獄のような学校へと通う。『自分のために働いてくれている』両親に、迷惑をかけないために。

 

「行って、きます」

 

 誰もいない家に鍵をかけて、学校へ向かう悠馬くん……歩きながらふと思い出す、両親の言葉。

 

『悠馬はいい子だからお留守番できるわよね?』

 

『人に迷惑をかけないようにな』

 

「……わかってるよ」

 

 壊れかけの倫理を繋ぎ止める、両親の言葉。一歩踏み外せば、大虐殺に繋がりかねないゾディアーツを封じていたのは、ただの一般人であった。

 

「お前の椅子がないぞ~? どこ行ったんだろうな~」

 

「探してきたら?」

 

「……」

 

 何をされたか、悠馬くんはすぐに察した。捨てられたのだと。どこに捨てられたのか探しに行くと……校庭の木の下に捨てられていた。

 

「持って帰らないと……っ!?」

 

「遅いぞ、山田。体育の授業の時間だ」

 

「ごめ~ん。サッカーボール当たっちゃったよぉ」

 

 そう言われて、立ち上がり……着替えに行こうとすると。

 

「早く帰ってこいよ、山田」

 

「さもないと俺がぶん殴るぞ!!」

 

「俺も殴る!!」

 

 いじめを先生は解決してくれない。面倒だからだ……殴り返す? そんなことをしたら……遠くの両親に迷惑がかかる。自分は『いい子』でなくなってしまう。両親は小学生の悠馬くんにとって、世界そのもの。悠馬くんが『いい子』でなくなることは、悠馬くんの世界にとって破滅そのものなのだ。

 

「……ぼくの机……」

 

 酷い落書きがされている。泥水がかかっているから、教科書も広げられない。それを雑巾で拭いていると……結局、体育の授業にも行けなかった。

 

「やーい、サボり魔!!」

 

「殴ってやろうぜ!!」

 

「……ぐ!」

 

 このためにやったのだと気づきつつ、泥だらけの服で授業を受ける……

 

「先生、悠馬くん汚いです!!」

 

「悠馬くん。保健室で服を借りてきなさい」

 

「行ってこいよ、山田!!」

 

 ……そう言われて、また出ていく。早めに取って戻るために、少し駆け足で向かう。服を借りて、戻ると……上から泥水が降ってきた。バケツごと……

 

「ぐぁ……どうして……?」

 

「あー、また汚くなってるぞ!! ハハハ!!」

 

「ほら謝ってこいよ、ほら!!」

 

 殴られて追い出されて、保健室の先生にまで怒られる始末。給食の時間、この時間にも安らぎなどない。いつでも奴らは自分を狙ってくるのだから。

 

「……!!」

 

「なんで食わねぇんだよ、もったいねぇだろ?」

 

「後で掃除が大変なんだ、やめなさい」

 

 先生の言った静止も、掃除が大変だから。給食を投げつけられて、外に出る。今日もご飯は食べられそうにない。

 

「……」

 

「ハッ、小心者のガキめが……私が選ぶ相手を間違うなど、有り得てはならんのに!!」

 

「天秤さん……なんで?」

 

 リブラゾディアーツが、校庭から歩いてくる。目的はなんだろうか、悠馬くんがそう思っていると。

 

「何故反撃を行わない? お前は死ぬんだぞ? 死ぬことより、今行動することの方が怖いか? クソガキめ」

 

「……人を殴るのはいい子じゃないよ。僕は、いい子でお留守番しろって言われたの」

 

「黙れ。貴様の信念など、我々には関係ない!!」

 

 リブラの怒りが最高潮に達し……錫杖が地面に突き刺される。悠馬くんの体が跳ねると同時に、校庭にヒビが入った。

 

「ひっ……!!」

 

「これが見えるか? 貴様など、これ一発でバラバラの肉片に変えられるんだぞ!! わかったらさっさと殺せ、死にたくないならな……!!」

 

「い、嫌だ……!!」

 

 それでも、自分はいい子でいなければならない。親が言っていたから……ずっとこうだ、両親はほぼ家にいないため、ほぼネグレクト状態。唯一の親から受け取った言葉、それに小学生が執着するのは当然の帰結だろう。

 

「チィッ……!! おのれ、この……!!」

 

「なんだ、騒がしい?」

 

「くそ、邪魔が入ったな……いいか、よく聞け? 貴様はいつかスイッチを使うことになる。強がりも醜い狂信も捨てて、さっさと殺すんだな……命が惜しいなら!!」

 

 そう吐き捨てて、リブラの姿が消える。そこにいるのは、悠馬くんのみだ。それからも蹂躙を受けて……放課後のこと。悠馬くんが家に帰って、電話に出ると……

 

「……えっ!? 明日帰って来れるの!?」

 

『あぁ。久しぶりにな、お母さんも帰ってくるってさ』

 

「やったぁぁぁ!!!」

 

 心の底からの歓喜。それは悠馬くんにとって、間違いなく希望の光であった……だが。それをリブラは見逃さない。

 

「使えるな……奴を覚醒させるチャンスだ、私の査定を一気に引き上げるぞ……!!!」

 

 自分の給料のためだけに、最悪の犯罪行為を幇助するリブラ。そして、次の日……

 

「おはよう!!」

 

「……」

 

「なんだよ、つまんないの」

 

 石を投げても反応がない。いつもなら、悲鳴をあげるはずなのに……親が帰ってくるからだ。

 

「チッ……この!! ニヤニヤすんな!!」

 

「やーだよ!」

 

「こんのクソ野郎!!」

 

 一日、一日耐えればいいんだ。そう言い聞かせて……いじめに耐える。希望に満ち溢れた目で、数時間後を見つめる中のこと……いつも通り、悠馬くんが殴られて、保健室送りになった時。教員が、普通に教室に来た時のことだ。

 

「あ、先生聞いてくださいよ、あいつが……」

 

「わかっている。対処が面倒なんだよ、先生もな」

 

「だよな~」

 

 邪悪。そうとしか言えない者達が、罰されずに屯している場所。それがいじめの現場であり、現実だ。

 

「……だから。奴を殺してしまわないか? 責任は、私が取ってやるからさ」

 

「マジ!? いいの!?」

 

「あぁ、もちろんだよ。ここに凶器を置いておく、好きにとっていけ……実行は放課後だ、やりたい奴はやるといい」

 

 騒がしくなる教室から、教員が出た後……幻惑が解けて、リブラに戻る。

 

「今日こそ、奴をゾディアーツにする一番の狙い目だ。ヴァルゴ、目にもの見せてやるぞ……!!」

 

「俺がこれを取るんだ!!」

 

「邪魔すんなよ!!」

 

 騒がしい教室に無責任なため息をつき、次の場所へと歩いていくリブラ。そして、また姿を変えて……最悪の笑みを浮かべた。放課後……悠馬くんが目を輝かせながら、家へ帰ろうとしている。

 

「パパ、ママ……!!」

 

「行くぞ!! ぶっ殺してやれ!!」

 

「先生の許可付きだ!!」

 

 ギラついたナイフ、金槌。小学生を殺すには十分すぎる凶器だ……それを見た悠馬くんは、急いで家の方へと走った。家が見えて来た時、車があるのを見つけて……悠馬くんの顔が、さらに明るくなる。

 

「逃げんじゃねぇぇ!!!」

 

「追い詰めろ!!」

 

「パパ、ママ、助けて……!!」

 

 きっと、助けてくれる。そう思いながら、悠馬くんは鍵を開けて……家の中へ入った。そして、全力で叫ぶ。

 

「パパ、ママ!! おかえりなさい!!」

 

 ……返事はない。その代わりに、外から喧騒が聞こえてくる。

 

「開けろ!!」

 

「窓から入ろうぜ!!」

 

「なんで……いない、の?」

 

 ……そんなはずはない。そう思って、悠馬くんは家の中を叫びながら走り回る。

 

「パパ!! ママ!! 助けてぇ!!!」

 

 その願いは届かない。だって……

 

 パパもママも、ここにはいないのだから。

 

「悠馬、楽しいか?」

 

「うん!!」

 

「ジュース買ってくるね!!」

 

 ……悠馬くんと遊んで、笑う二人。二人と遊ぶ『悠馬くん』が……たっぷりの悪意を込めて、口角を限界まで上げた。二人は知るよしもない、この悠馬くんが本物でないことを。本物は今……誰もいない家で、絶望の底にいるのだから。

 

「……ぼくは、すてられたの……?」

 

「ざまぁみろ!!」

 

「さっさと殺しちまおうぜ!!」

 

 悠馬くんの唯一の希望すらも、消えてしまった……他でもない、リブラの手によって。

 

「デルタが嫌いなんて言うからだよ、バーカ!!!」

 

「嫌いとかいうやつ、人間じゃないわー」

 

「……」

 

 小さなきっかけから始まった、犯罪行為(いじめ)。無茶苦茶な理由で殺されかけているというのに……悠馬くんは、極めて冷静だった。

 

『Last One』

 

「ん? なんだそれ?」

 

「お守りかなんかだろ!!」

 

 大切な両親は自分を見捨てた。自分が『いい子』ではなかったせいで……なら、もう……いい子である、必要はない。悠馬くんが、静かに……ハッキリと、言い放つ。

 

「死ね」

 

「あ? 何言って……え?」

 

「ぞ、ゾディアーツ……!?」

 

 悠馬くんがその場に倒れて、現れたのは……ムスカ・ゾディアーツ。最終形態だ……体中が緑になり、装甲が増えて、スペックも大幅に向上している。次々に振り下ろされる凶器が、逆に折られてゆく。そして……力任せに、腕が振り降ろされると。

 

「ご……え?」

 

「う、うわぁぁぁぁっ!!!」

 

「……」

 

 最早、山田悠馬の人格はそこにない。ただ……憎いと思った者を殺し続けるだけ。放たれたエネルギー弾が、憎かった者達を次々に殺してゆく。

 

「な、なぁ悪かったよ、許し……」

 

「……」

 

「ぎ」

 

 ムスカゾディアーツの一撃で、頭から一人潰される。トマトを潰したかのように、中身と赤が辺りに溢れた。思い出が詰まった家も、ボロボロになってゆく。

 

「そうだ、それでいい……よくやった!!」

 

「……」

 

「さぁ、殺せ。本能のままに……それがゾディアーツだ!! ハハハハハハ!!!」

 

 背中の羽が開いて、ムスカゾディアーツが飛行する。狙いは無論……憎い相手だ。

 

「これでいい、私はやったぞ……見たか、ヴァルゴ!! これが私の手腕だァ!! ハッハッハッハッハァ!!!」

 

 邪悪な者の笑いが響く中、人格を亡くした子供が飛ぶ。憎いもの目掛けて、飛んでゆく。恰も一発限りの、銃弾のように。

 

 

 

 人気のない廃墟で、罠を準備する。その街の中に丁度いい工場の廃墟があったので、一破さんに頼んで許可をもらってきていただいた。一破さん様々だ……天井に、無数の網をセットする。これなら、奴を捕まえられるだろう。

 

「これでよし……と!」

 

「罠か……この網で、ハエになったゾディアーツを捕まえるんですね」

 

「それしか奴を倒す方法はない。一破さん、ありがとうございました」

 

「いえ、お気になさらず……これも市民を守るためですから」

 

 これで、奴がいつ来ても大丈夫だ。いつでもかかってこい……そう思っていると。

 

「来た余、康太様!!」

 

「来やがったな!? 変身!!」

 

『Standing by』

 

 あやめもオーガフォンを手に取っている……奴はもうやる気らしい。

 

「変身!!」

 

『Standing by』

 

『Complete』

 

『Complete』

 

 二人同時に変身し、奴に突撃する。ここで決着をつけないとな。チャンスは一回だ!!

 

『Ready』

 

「……」

 

「粘液? 生憎だが……技が被ってるんだよ!!」

 

「っ、ハエになった……!! ん、電話? もしもし……?」

 

 一破さんが電話を始めた。おっと、集中しないとな。あやめもハエに斬りかかっているが……如何せん相手が悪い。空中で元に戻って、エネルギー弾を吐いてくる。

 

「ぐっ……!! 早いな、こいつ……!!」

 

「厄介だな……おい!! なんでお前は俺が憎いんだ!?」

 

「……」

 

 ダンマリかよ……というか、一言たりとも喋ってないぞ。前は結構喋ってたのに……

 

「ファイア!!」

 

『Burst Mode』

 

「……」

 

 奴はハエに変化して、攻撃を全て躱している。くそ、当たらねぇ……やっぱり捕まえないとダメか。

 

「業、不知火!! 奴を追いかけて!!」

 

「……!」

 

「二人とも……!!」

 

 ハエを二人が追いかけて、ネットがある場所まで誘導してくれている。助かった……!!

 

「今だっ!!」

 

「……」

 

「よし、捕まえたぞ!!」

 

 奴はネットに捕まってもがいている……粘着タイプだ、力任せにやっても、簡単には取れないぞ!!

 

「終わりだ、ムスカ!!」

 

『Ready』

 

「よし、チェ……」

 

 いつものように、ルシファーズハンマーを発動しようとした時……一破さんが、叫んだ。

 

「雪村さん!! 百鬼さん!! 待てぇぇっ!!!」

 

「え!?」

 

「一破さん、どうしたんですか?」

 

 早くトドメを刺さないと抜け出されてしまう……もしそうなったら、被害が拡大するぞ。

 

「その子は中山 悠馬くん……小学五年生で、いじめを受けていたらしく……そこをリブラに突かれて、スイッチを使わされたらしいんです!!」

 

「そうだったのか……天秤野郎め、相も変わらず卑怯なことを!! 今助けてやるからな、悠馬くん!!」

 

「ここからが本題です……彼は強すぎる力に飲み込まれて、精神を破壊されているんです。もし今倒してしまうと……彼の脳は動かないまま。つまり……植物状態になるんですよ!!」

 

 衝撃の事実。それだと、このゾディアーツを倒したが最後……この子は、死ぬ。罪のないいじめの被害者は、この場で……命を落とすことになる。

 

「そ、そんな……!! 悠馬くん、起きて!!」

 

「ギャラクシーコーポレーションからの電話でした……今、元に戻すために両親を捜索中のようです……久々に帰ってきたところで、リブラが悠馬くんに化けて、どこかに連れ去ってしまったようでして……」

 

「……!!」

 

 殺されたかもしれない。最悪の予感が、頭をよぎる。目の前で暴れるゾディアーツ……否、悠馬くんは今にもネットを引きちぎろうとしている。あれが破られれば、二度と同じ手段は通じなくなるだろう……

 

「どうしたら、いいの……!?」

 

「方法は二つ。一つ目は両親が来て、精神を回復させる奇跡に賭けること……二つ目は、この場でムスカを……」

 

「そんなのダメ!!! 康太様もそう思うよね!?」

 

 ……その気持ちがないかと言われれば、ノーだ。だが俺は……仮面ライダーデルタなんだ。脳波測定器がうるさい、限界らしいな。

 

「一破さん……もし、逃がしてしまった場合に予測される被害は?」

 

「……少なくとも、人は死にます。もうリブラにそそのかされて、悠馬くんを殺そうとした者達が、30人ほど死んでいますから……被害はさらに拡大するでしょう」

 

「そう……ですよね」

 

 子供の純真な心はもう、悠馬くんに残っていない……悠馬くんの気持ちが、今聞いた話でわかってしまった。罰されない犯罪行為を受け続けて、親にも頼れずにいた。帰ってくるという希望も、目の前で絶たれたのだ。リブラの手によって……だからスイッチを使ったんだろう。

 

「……」

 

「っ、破られる……!!」

 

「くそっ、どうしようもないか……!!」

 

 俺は……暴れ続ける悠馬くんを見据えて、言う。

 

「二人とも。ここからできる限り、遠くに離れろ」

 

「え? なんで……」

 

「チェック……!!」

 

 周りに人がいないことは確認している。ここなら……大爆発しても、被害は出ない。

 

『Exceed Charge』

 

「なっ……!?」

 

「康太様、ダメッ!!」

 

 ……悠馬くんに、紫色のポインターが撃ち込まれて……ドリルのような形をとる。見慣れた光景だ……当然、あやめが掴みかかってきた。

 

「離せ、あやめ」

 

「それだけはダメ!! なんで、なんでそんなことするの!? 余の時は絶対に諦めなかったのに、どうして!!」

 

「……一破さんも、あやめも、俺も。彼には何も、してあげられない。あやめと俺は友達だったけど……悠馬くんに俺達が呼びかけても、絶対に届かない。当然だよ、いじめから助けてくれないヒーローが、チヤホヤされてるんだから……そりゃあ、ムカつくよな。だから、責任は取らなきゃ」

 

 そう言って……あやめの手の力が、弱まったところを狙って引き剥がす。

 

「康太、様……」

 

「雪村……お前は……」

 

「うおおおおおッ!!!」

 

 悠馬くんに突き刺さったポインターに、走る。地面を思い切り蹴りつけて……飛び上がった。そのまま右足を突き出して、悠馬くんに向かってゆく……

 

「ウォォォアァァァァ!!!」

 

「……!!」

 

「ルシファーズハンマーが、食い込む……」

 

 紫色のポインターは、無慈悲に悠馬くんへと食い込んでゆく。やがて、ポインターが全て食い込むと……俺が悠馬くんの背中から、飛び出す。悠馬くんの体に、Δが浮かんだ。

 

「……おとー、さーん、おかー、さー……」

 

「っ、康太様!! 離れて!!」

 

「一破さん、お願いします」

 

 俺がそう言うと……一破さんは何も言わず、あやめを引っ張って走ってくれた。そして……悠馬くんが、爆発する。彼が……間違いなく、死んだ証だ。俺はその場から動かずに、爆発に巻き込まれた。この痛みと熱さが、俺が背負う責任の前金だ。そう思いながら、俺は意識を失った。

 

 

 

 俺が起きたのは三日後。あの後、事後処理が行われて……悠馬くんは、植物人間になった。脳も体も深刻なダメージがあるそうで……長くは持たないそうだ。俺は今回の件で、殊更に攻撃されている……子供を殺すなんて残酷、ってか。

 

「聞かせてください。何故……躊躇いもほぼなく、彼を殺したんですか? 彼が憎かったんですか?」

 

「サイガの時を忘れてないですか? あの時……僕が不甲斐ないばかりに、たくさんの被害を出した。それにより暴動が起き……便乗した財団Xに、たくさんの人々が殺害された」

 

「……それを、防ぐために?」

 

 頷く。俺は被害者の子供より、罪のない市民達に降りかかるリスクをとった。それだけの話だ……

 

「もう遅いかもしれませんが……この件、私の独断だということにしておいてください」

 

「百鬼さんに責任を負わせないため、ですか」

 

「そうです。これは僕の責任ですから、飛び火させないための措置ですね……悠馬くんを犯罪行為から助けられなかったのは、間違いなく僕ですから」

 

 一破さんも頷いてくれた。ありがとうございます……

 

「……百鬼さんが言ってましたよ。『また一人で背負わせた』ってね」

 

「じゃあ、一破さん。あやめに伝言をお願いします。『俺のことを嫌ってくれ』ってね」

 

「わかりました」

 

 これでいい……俺は罪のない被害者を、それも子供を無慈悲に殺した。その事実は変わりない……これでいいだろう。一破さんが無言で出ていった後、涙が出そうになったが……

 

「……甘ったれんじゃねぇ」

 

 お前が殺したんだよ。未来ある子供を殺したんだよ。逃げるな、背負え。お前は人殺しだ。

 

「俺は、『正義の味方』だろ……」

 

 正義とはなんだ? 人を痛めつけることか? 人を憎むことか?

 

「……違うな」

 

 『正義』はいつでも変わる。立場が変わっても変わるだろう……俺があそこで悠馬くんを逃がしたら、世間はきっと、倒さなかった俺とあやめを憎むだろう。

 

「どれだけ憎まれても……一番世間のためになることをするのが、正義だ」

 

 それが……俺の『持っていなければならない』正義。俺は英雄だ、正義の味方だ。誰にも負けない、絶対的な正義……それに基づいて、俺は殺しをしてきた。今回もそうだ。だから……

 

 一生、正義の味方であり続けよう。

 

 世間が俺に、飽きるまで。

 

 

 

『仮面ライダーデルタ、ムスカゾディアーツを撃破!! 正義は勝つ!!』

 

 そう書かれた新聞が破り捨てられる。そして、自分以外がいない家に、一人で佇む男……悠馬くんの父親が、言った。

 

「雪村康太……貴様は俺が殺す、待っていろ……!!!」




 これは英雄の物語である。
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