雪村くんはどうするのでしょうか?
あの後、ホロスコープスの会議場にて。リブラが社長へと行動結果を報告している。レオはそれをじっと見ており、ヴァルゴは眠そうに目を擦っている。
「……報告は以上です、ご清聴ありがとうございました」
「よくやってくれた。これでデルタやオーガの戦闘に、少なからず影響が出るだろう……グヒヒッ」
「まさかここまでの結果が出るとは、私にとっても嬉しい誤算です……!! 奴を狙って正解でした!!」
社長、神宮寺、佐々木。その場にいる三人が、邪悪な笑みを浮かべている……ただ一人、ヴァルゴを除いて。
「だが……我々の目的は飽くまでも、あのゾディアーツを探すことだ。わかっているね?」
「はい。もし奴が倒されないようなら、メテオを差し向ける予定です……精神ダメージのためにも、しばらくはコーマとして暴れてもらいましょう……」
「……あーくっだらねぇ」
その場で一人だけ笑っていなかった八神が、呟いた。それに反応した三人が、八神を睨みつける。
「貴様、どういうつもりだ……!? くだらないだとッ!? 社長の考えにケチをつけるのか!?」
「クソライオンが、とうとう落ちるところまで落ちたな。じゃあ聞くが、こんなことして何が楽しいんだよ? 人を殴るのも、殺すのも……自分で血を被るから楽しいんだろうが。お前らは精神攻撃だの、他人任せだの……つまらねぇ奴らだよ。自分でやる力がねぇから、そんな手しか使えねぇんだろ? 本当に弱ぇなぁ、ペッ……」
「ヴァルゴ貴様、社長に唾を吐くなど……ゴハッ!?」
神宮寺と佐々木が、レオとリブラに変身して向かってゆく……それを八神は欠伸をしながら、心底つまらなそうに叩き伏せた。刃の跡が背中にくっきり残っている。
「永遠に寝てやがれ、雑魚共。社長……次はお前だな? 覚悟はできてるか?」
「……いいのか? 私を殺したが最後、お前は二度と一破とは戦えないことになるが……」
「チッ……そればっかり言いやがって。クソが」
そう吐き捨てて、変身を解除し……自分の部屋に戻るヴァルゴ。社長はため息をつきながら、二人に向き直る。
「リブラ……早くデルタと、百鬼あやめを殺すんだ。これは命令だぞ」
「はい、私にお任せを……!!」
「……レオ。お前は中田彩里のアカウントに、好意的なツイートをしてくれ。奴らの行為を増長するんだ」
そう言った瞬間、無言で部屋へと向かう神宮寺。缶に入ったビールを飲みながら、社長が言う。
「さっさと終わらせないと……私の胃と体が持たんな。ヴァルゴを排除する方法も考えておかねば……」
そう言いながら、また社長はビール缶を口につけて、傾けた。溜まったストレスを、胃に流し込むために……
「……ここは、どこだ?」
確か、俺は……奴らを殺した後に、乾さんに謝って、気を失って……
「また死にかけてるのか? それとも意識の底?」
そう思って歩く……すると、目に衝撃的な光景が飛び込んできた。
「悠馬、くん……?」
俺がぶち抜いた部分に大穴が空き、腕も頭も車に撥ねられたかのように潰れてしまっている。これを、やったのは。
「……俺だ」
死体に手を伸ばすと、悠馬くんの体にΔの文字が浮かび上がった後、灰になってしまった。
「行こう……」
ここにいたって、贖罪になるわけじゃない。早くここから出なければ……そう思っていた時だった。
「ふぅ~、気持ちよかった」
「……あ?」
「やっと死んだか、ウザイ警官だったな」
顔が傷と土だらけになり、血塗れで倒れている警官。誰よりも、勇敢に立ち向かったであろう……一人の男。
「一破……さん……」
「さてと……トドメ刺すか」
「……す、けて……」
掠れた声で、誰かが助けを求めている。助けないと、そう思って、走る。手を伸ばす。あと少しだ、殺そうとしている奴を殴り飛ばせる。拳が届く寸前で……血の、吹き出す音がした。そこで……助けを求めていた人が、誰かわかった。否、もうわかっていたはずだ。ここまで来れば……
「あや、め……」
男の性欲である、白い液体をぶちまけられ……それが血や肉と混ざり合い、酷い悪臭を発している。目の前で二つの炎の……いや、二人の戦友の命が潰えた。綺麗な角は折られ、体中が有り得ない方向へ曲がっている……
「あ~あ。お前が遅いからこうなったんだ」
『何故デルタギアを使わなかった。使えと言っただろう』
『どうして、もっと早く助けてくれなかったの』
呪詛の言葉が、聞こえてくる。耳を塞ぐことは、何故かできなかった。
『いたいよー、おかあさーん、おとうさーん』
『目の前の人も救えないで、敵を倒して意味あるの?』
『お前が憎い』
あやめと悠馬くんが、現れた。二人の姿が変わる……ムスカ・ゾディアーツと、仮面ライダーオーガ。
『死んでよ』
『余達を見殺しにして、何がヒーローだ』
「……そう、だな」
謝って許されるわけがない。俺のせいなのだから……そう思って、目を閉じる。次の瞬間に、俺の体は叩き潰された。
「ッ……はぁ、夢か……」
だが、あんなことになっても何らおかしくはない……あやめの受けた仕打ちは、最悪だ。再起不能になっても仕方ない程の……
「守れなくてごめんよ……」
謝ったところで許されない。一度死んだ挙句……未遂とはいえ、強姦までされるなんて……ショックのあまり嘔吐するあやめが、目に焼き付いている。
「……どうして……」
そんなことはわかりきっているだろう。俺が……厄介ファンを集めたからだ。考えなくてもわかる、ファンが集まるなら、そこに厄介ファン達は必ず出てくる。俺はその人気を使って、自分達に有利になるよう仕向けてきた。
「そのツケが回ってきたか……」
どう考えても、悪いのは俺だな。厄介ファンのことを考慮しなかった……デルタのイメージダウン、引いては応援してくれている人々への誹謗中傷。学園のイメージダウンにも繋がってゆく。傍迷惑が過ぎるだろう。そう思っていると、ドアがノックされた。
「どうぞ、一破さん」
「流石ですね。気配で察しましたか」
「はい。僕のせいで大変なことになったのは、わかってます。今の状況は?」
そう尋ねると、一破さんが苦しそうな顔で言う。
「……よくない状況です。髪の毛座本人はそこまで強くありませんが、Twitterで髪の毛座とその仲間によって、ネガティブ・キャンペーンが行われ……学園やデルタのイメージは大幅に傷つけられました。山崎の時のことを思い出すような状態ですね……」
「僕という安心を失ったから、ですか」
「そうですね……奴らは仮面ライダーを『裏切り者』として、大々的に叩いている。メリット面を無視し、悪い面だけを強調して叩く……これが有効だという事実が、正直怖い」
あと……分かりきっていることだが、一応聞いてみよう。
「あやめは……どうなりましたか?」
「傷が酷くて、入院していますが……強姦による、精神ダメージが特に酷い。我々も、関係者を逮捕したりしていますが……社会情勢はかなりの向かい風です」
「ですよね……」
今回は中田を倒しても、万事解決するわけじゃない。中田のような反転アンチの種なんて、探せばいくらでも出てくるだろう。
「……僕に何か、出来ることはありますか?」
「ありません。あなた個人がどう動いたところで、焼け石に水としか言い様がないでしょう」
「そうですよね」
冷徹な答え……否、一破さんが冷徹なのではないな。俺が無能なんだ。無能に社会が冷徹なのは、どんな時もそうじゃないか……『頑張らない者に明日は来ない』と俺は言ったが、そうじゃない。結果を出せなかった者に明日が来ないんだよ。みんなから英雄と呼ばれて、認めながらも結果を出せなかった。それが、全てだ。
「……」
「……行かないんですか?」
「何処へ? 貴方がなにも出来ないのに、私個人に何かできるとでも……?」
そうだよな。何をどうすればいいんだ? 俺に、何ができる? ……何もできない、できるだけの能力がない。終わってるな。
「僕には結局、何も出来ないんですね……」
「諦めるのか?」
「それしかないでしょ? 僕もあやめも、一破さんも、何も出来ないんだから……ッ!?」
俺は、殴られた。目の前の一破さんに……思い切り、殴り飛ばされたのだ。ダメージはそこまでではないが、何故だろう?
「諦める……? ここまでやっておいて……諦めるだと!? ふざけるな!!! 何も出来ないとわかった瞬間に思考を放棄するなど……!! 俺は絶対に許さんぞ!!!」
「……一破、さん?」
「お前に足りない物を教えてやるよ……致命的に欠けている物があるんだ!! お前は……人を認めていない!! 誰一人としてな!! 今のお前が百鬼さんを慰めても……絶対に逆効果になる!! 当然だな、誰も信じていないんだから!!!」
認めていない? そんなことはない。俺は一破さんやあやめ、学園長、鷹嶺先生……皆さんのことを尊敬している。みんなすごく強くて、優しい人達だ。
「それは違います、僕はみんなのことを尊敬して……」
「ほう……なら、何故全てを自分で解決しようとするんだ?」
「えっ? それは……できる限り、皆さんには怪我をして欲しくないし……」
机が叩かれた。否が応でも、一破さんの方を振り向かされる。一破さんが今までにない程に怒っている……
「それを信じていないと言うんだ!! 我々に怪我をする覚悟がないとでも!? ふざけるな、人を舐めるのも大概にしろよ!? 私も、百鬼さんも、鷹嶺先生も……!! どんな大怪我をしようが構わない!! 四肢がもげても、攻撃を止めない覚悟があるんだ!! その強い決意がお前だけの物だとでも!? そんなわけないだろ!!!」
「……!!」
「お前は誰一人頼ろうとしない……何故か? 人を信じていないからだ。お前が人を『頼る』のは、相手から協力を持ちかけられた時だけ。それで何が守れる!? 自分に出来ないことがあると、お前ならわかるだろう!? 何故『協力してくれ』と持ちかけられない!? 嫌だと我々が言うとでも!? そんな薄情者はここにはいないぞ!!!」
じゃあ……それで、どうにかなるのか? 本当に何かが変わるのか!?
「なら、それで何とかなる保証はあるのか……!? 全員で奴と戦ったら、絶対どうにかできるんですか!?」
「できるッ!! 最初からできないと思ってする奴がいるものか!! 俺は、お前の頭の回転の早さを信頼している!! どうせお前のことだ、また自分で抱え込んでるんだろ? あの惨劇は私の責任でもある……ハッキリ言う、お前一人で背負い込んでも、この件は絶対に解決しない!!」
「……俺は……そうか」
そうだったのか。俺は……人を、信じているつもりになっていた。だけど、結局誰も信じてなかったんだ……信頼されているのに。頼りにされているのに、俺だけが信じていない。怪我をさせたくない、その思考が残っていたんだ。だから一破さんは怒ってるんだな……当然の怒りだ。
「雪村……俺達に、使える部分は本当にないのか? 俺も考える……だからお前も考えろ!! 絶対に諦めるな!! お前は一人で戦っているんじゃないんだ!!!」
「……ありがとう、一破さん。あんな事になったのは、僕が人を信じていなかったのが原因だった。だから……厳しく言ってくれたんですね」
「口を動かす暇があったら頭を回せ!! 一刻を争うんだ!!」
そうだな……考えろ。奴だけじゃない……反転アンチのコミュニティを潰す方法を……よし!!
「一破さん、紙とボールペン!!」
「受け取れ!!」
「ありがとうございます!!」
思いついた計画を書いていく……速攻で書いて、一破さんに投げ渡した。
「……責任は持ってもらうぞ!!」
「もちろん!! 一破さんこそ、ヘマしないでくださいよ!!」
「フッ……」
軽口を叩きつつ、それぞれ成すべきを成しに行く……お互いに、同じ方向を見つめながら。
「あっ、あと!! あやめにそれを渡す時に、伝言お願いします!!」
「なんだ!?」
「『頼りにしてる』って言ってください!!」
俺がそう伝えると、一破さんは微笑を浮かべて走っていった。俺も行こう……反転アンチを生み出した責任は取る。
『雪村くんかい? 急に電話して、どうしたんだ?』
「もしもし、学園長ですか? お願いしたいことが……」
『……わかった。手配しよう、頑張ってくれ!!』
学園長にお礼を言って、電話を切った。早く行こう、間に合わなくなってしまう前に!!
その頃……中田は批判を受けながらも、ネガティブ・キャンペーンにより、反転アンチを増やしていた。浮動票が『叩きたい』というだけで、反転アンチ側に回ってゆく。関係の無い善良なファンすらも、悪と認定されてしまっている……
「アッハッハッハッハ、裏切り者には当然の結果ね!! デルタ、私達を裏切ったことを後悔しなさい!!!」
目を疑うような誹謗中傷を見ながら、嗤う女。そんな時……部屋の中に、ガラスの割れる音が響いた。中田がそちらを振り向くと、そこには……さっきまで嘲笑っていた、『裏切り者』がいる。
「よう中田。また会ったな、お前の憎い相手が自分から来たぜ……!!」
「デルタ!? どうしてここが……まさかとは思うけど、ストーカーしてたの!?」
「警察に特定できないとでも? Twitterやってたのが命取りだ……覚悟しろ。ここでお前は終わりだ」
雪村が、デルタギアを構えた。それを見た中田が怒りを露にしながら、スイッチを取り出す。すると瞬時にスイッチの姿が変化し、これが最後の一回であることを表した。うるさい音を立てる脳波測定器は、外されて地面に投げ捨てられた。
『Last One』
「見つけたくらいで調子に乗るな……!! ここで、お前は今度こそ終わりだ!! 死体を撮影して、みんなに裏切り者の死体を見せてやる!!!」
「やれるもんならやってみろ!! 変身ッ!!!」
デルタフォンに音声入力が成されると同時に、中田もスイッチに手をかけた。お互いに睨み合いながら、変身する。
『Standing by』
『Complete』
「行くぞっ!!」
中田の体が排出されて、コーマ・ゾディアーツになるのと、デルタが変身を完了させたのはほぼ同時だった。お互いに殺意を向け合っている……中田が髪の毛を引き千切って、ドラゴン・ゾディアーツを生み出した。
「行け、ドラゴン!!」
『Leady』
「チェック!!」
そう来るのを理解していたのか、それとも瞬時に判断したのか。それは定かではないが……デルタは、迷いなく必殺技の構えをとった。投げつけられる鉄球に当たりながらも、デルタに迷いは見えない。
『Exceed Charge』
「無駄だ、ドラゴンの装甲に弾かれるだけよ!!」
「前の俺ならそうだな……だが!!」
ポインターが打ち込まれても、中田は余裕そうにしている。デルタが跳び、右足を伸ばしてポインターへと突撃してゆく……いつも通りの光景だ。だが……いつもと違う部分があった。デルタが……赤い電撃を、纏っている。
「なっ……赤い、雷……!?」
「だぁりゃあぁぁッ!!!」
「む、無駄だ!! そんなもの、吸収して返してやる!!」
中田の言う通り、赤い雷と化して突撃したデルタの電撃は、ドラゴンの体を通して吸収されてゆく。だが、それも長くは続かなかった。ドリルが食い込むと同時に、吸収ができなくなってゆく……
「ウォォォォ……!!」
「……馬鹿な!? 何故電撃が通っているんだ!?」
「ハァァァァァァ!!!」
デルタの一際大きな叫びと共に、ドラゴンの鋼鉄の如き体は貫かれた。Δの文字が浮かび上がり、素材の髪の毛が灰になって消えてゆく……中田は、明らかに困惑を隠せていない。
「どうして、どうして電撃が通ったの!? 途中までは、確かに吸収していたはず……」
「なに、単純な話だよ。いくら得意な電撃でも、装甲を削りながら一点に打ち込み続ければ、限界が来るはずだと思ったのさ……」
「削られたことで、体内に電撃を打ち込まれたか……!! 小癪な真似を!!」
触れる面が少なければ、ドラゴンは吸収しにくいということは、百鬼あやめを通して雪村も知っていたのだ。それを利用したものでもある……中田は懲りずに髪の毛を千切ったが、デルタはそれを許す程甘くない。中田の懐に潜り込んで……踏み込み、拳を突き出す。
「スマッシュビートォ!!!」
「ぐっ、ごはぁ!?」
「だぁらっ、だりゃっ、うらっ、でぇやっ!!!」
四発顔面に叩き込んで……全開の一撃を鳩尾に打ち込む。中田が大きく怯んだが、それと同時に髪の毛が鞭の様にしなり、デルタの顔面を打つ。お互いに吹っ飛び、地面に叩きつけられた。
「ぐはっ……!!」
「ぐぅぅ……!!」
「おのれぇぇ……なら、もう一回!!」
中田が握りしめていた髪の毛が変化し……今度はムスカ・ゾディアーツになった。
「まぁ、そう来るよな……!!」
「オーガは精神ダメージで出てこれないはずだし、一対二になった!! ゴミ箱には近づかせない、網もここにはない!! 攻撃を当てる手段もないし……これで万事休すね、デルタ!!!」
「……何を勘違いしているんだ?」
デルタがそう言う。中田は意味がわからず、困惑と呆れの混じった目でデルタを見つめている。
「は? 何言ってるのよ!? お前は蝿になったムスカに一発も当てられなかったじゃない!!」
「俺が一人で来たなんて……いつ言ったんだよ?」
「えっ……?」
デルタが伏せると……中田の家の壁が突き破られて、弾幕が張られた。突然のことに対応しきれず、ムスカも中田も為す術なく弾に当たる。その隙を逃さずに、デルタも銃を構える。
「ファイア!!」
『Burst Mode』
「ム、ムスカが……!!」
ムスカが爆裂して、ただの髪の毛に戻ってしまった。そこに一破とデルタの追い討ちが迫る……
「撃て、逃がすなよ!!」
「喰らえぇっ!!」
「ぎゃあぁぁぁっ!! ひ、卑怯者……!!! 女を寄って、たかって……恥ずかしくないの!?」
自分達のことを棚に上げ、中田はデルタを糾弾している。無論デルタも、黙って言われたりはしない。
「恥ずかしくないぜ!! お前らがあやめにやったことをそのまま返してるだけだからな!!!」
「おのれェ……!! 行きなさい、ハウンド!! あの警官と仲間を、地獄に送ってやれ!!」
「……それで俺が釣れると思ったのか?」
デルタはそれでも、何故か余裕そうに言ってみせた。もし行かなければ、仲間が死んでしまうというのに……
「何言ってるの? どちらにせよ、助けになんて行かせないわよ!! 目の前で仲間が死ぬところを見なさい!!」
「一つだけ言っといてやる……俺の仲間を舐めるなよ」
「なっ……なにィ!?」
警官達に向かっていったハウンドは、もう真っ二つにされていた。その場に残ったのは、蒼炎の残り火のみ。それを放ったのは……幽世、鬼神が一人。
「……借りは返させてもらうぞ、髪の毛座!!」
「な、百鬼あやめだと!? 強姦されかけたのに……精神ダメージはどうなっているんだ!?」
「あった余。でもね……康太様が、余を仲間として信頼してくれたんだ。頼りにされてるって思うと、恐怖なんて吹っ飛んだ!! それに……こういうのは経験済みなんだ余、残念だったね!!」
百鬼あやめは一度殺され、改造を受けて財団Xに殺し合いをさせられたことがある。その時も精神ダメージは凄まじかったが……デルタのおかげで、今立ち直っている。今回も理屈は同じ……頼りにされている、だから応えたい。その気持ちに、男女は関係ないのだ。
「く、くっそぉぉぉっ!! もうみんなは呼んであるんだ、今度こそ貴様らを……」
「それなら無駄だぞ。二度とこんなことがないように……一破さん達にTwitterの監視と、暴徒の事前鎮圧を頼んだからな……予測しないと思ったか?」
「出てきた暴徒達は、今頃仲間に捕まっているだろう。前までの我々なら、どうにもできなかったが……今ならできる!! お前が雪村の頭を越えられない限り、我々に手は出せんぞ!!!」
中田が憤怒のあまり、頭を掻きむしっている。そんな中で、電子音が二つ同時に響いた。必殺技の準備だ。
『Exceed Charge』
「待ちなさい、私を倒しても意味はないわよ!?」
「意味はあるさ。これから作る……」
デルタがそう言い放ち、フラフラの中田へそれぞれの必殺技が向けられた。
「悠馬くんみたいな子が、また現れたらどうする気!? まさか、また見捨てるの!?」
「場合によっては、そうするしかないだろうな。死力を尽くしてできる限り助けるが、それが無理なら……俺が殺す」
「ッ、極悪人め!! お前なんて人間じゃない!!!」
自分のことを棚に上げて、デルタを批判する中田……それに対して、雪村が言った。
「そうかもな。だが、それがお前を見逃す理由にはならん!!!」
「悪人が偉そうな口を……ぎぃっ!?」
「ハァァァァーッ!!!」
オーガストラッシュの先端に掴まれ、外に放り出された中田の前には……スライガーが迫っていた。避けられずに激突し、中田は上空へと連れていかれる……
「ぐふっ!!」
「こいつで終わりだ!!」
「うぎぃぃ……!!」
スライガーを上空で安定させ、吹っ飛ばした中田へとポインターが打ち込まれる。そして……跳んだデルタの右足が、突き出された。
「だぁぁりゃあぁぁぁーッ!!!」
「ぎぇぇぇぇぇーッ!!!」
「……スリーエイト、ツーワン!!」
『Jet Sliger, Come Closer.』
中田の落としたスイッチを回収したデルタが、スライガーを呼んで飛び乗った。着陸の後、みんなの方へ歩いてゆく。スイッチは一破に手渡されて、中田の抜け殻は警察に回収されてゆく。
「康太様、やったね!!」
「あぁ……だけど、まだやるべきことがある」
「……来たようだぞ」
そこにいたのは……マスコミの集団であった。他でもない、雪村が学園長に頼んで呼んだのである。雪村はデルタの変身を解き、マスコミのカメラへ視線を移した。マスコミの方へ、雪村が近づいてゆく……
「雪村さん!! 戦いの後に、何か一言!!」
「えぇ、もちろん言いますよ……皆さん、よく聞いておいてくださいね」
「はい!!」
口元に当てられたマイクに、雪村が言った言葉は……宣戦布告に他ならなかった。
「僕は……否、俺は!! この世で精一杯生きている人を守る存在だ!! 決して人形ではないし、人を叩く免罪符でもないんだよ!! 今回の件は、俺を人形だと思っていた者が、反転して起こした愚かな行いだ!! 俺はそれを絶対に許さない!! もし文句があるのなら、俺を殺しに来ることだ!!! もし他の人を狙ったら……俺は貴様らを絶対に殺すからな!!! ……以上です」
「……あ、ありがとうございました……では、我々はこの辺りで失礼しますね……」
「こちらこそ、ありがとうございました……ふぅ……」
ハッキリと意志を示し、自分を狙わせる。それが雪村の狙いであった。
「康太様は、あれを言うために……」
「雪村。反転アンチの奴らが集団でまた来たら、お前はどうする」
「戦いますよ……もちろん、心強い仲間たちと一緒にね!!」
そう、笑って言った雪村につられて、二人も笑う。
「それと雪村。これは、警察官としての言葉ではないが……」
「なんです?」
「よく言った」
そう、一言だけ言って……一破は去って行った。その背中へと、雪村は深々と一礼をする……
「ありがとうございました……あやめ、ありがとうな!! やっぱり、頼りにしてよかったよ!!」
「うん!! こっちこそ、頼りにしてくれて嬉しい余!!」
「あの時、泣きながら吐いてたけど……大丈夫じゃないよな?」
少し悲しげな笑顔で、百鬼あやめが頷く。
「そうだね。やっぱり……かなり辛かった。だけどさ、余が立ち直れたのは康太様のおかげ。頼りにしてるって言われた時……アイツへの怒りがすごく強くなってさ。何で、あいつなんかのために……余が悲しみと吐き気に苦しまなきゃいけないんだろう、って。それを言ったら、反対してた父上と母上も許してくれたんだ」
「悲しみや恐怖より、怒りが強くなったのか……すごいな」
「うん。そして、今……きっちり復讐できたから、満足した!! これからも頼りにしてね、康太様!!」
そう言って笑い、立ち去ろうとする百鬼あやめを……雪村が引き止めた。
「あ、ちょっと待って」
「ん? どうしたの?」
「新しい服だろ、それ? よく似合ってるぜ!!」
そう言って、雪村がその場を去る……百鬼あやめも、その場を去っていく……
「そっか、似合ってるか……怪我の功名かな、えへへ」
次の日、俺のやることは特に変わってはいなかった。見回りをして……深夜パトロールを行う。いつも通りの仕事……だが、一つ違うのは。
「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
「ぶっ飛ばしてやる!!」
「そう上手くいくかな……!?」
こういう奴らが来るようになったことだ。そして、何より……
「加勢しますよ、雪村さん」
「やろう、康太様!!」
「ありがとうございます……さっさと片付ける!!」
全員で立ち向かえるようになったことだな。そして、終わったあと……
「はぁ、今日も大変でしたね」
「元はと言えば、あなたが奴らに宣戦布告したからですがね」
「嫌ですか?」
俺がそう言うと、二人とも首を横に振ってくれた。
「暴徒が来るなら何度でも叩き潰す、それが警察です。毅然とした態度であなたが言ったことで、学園やデルタへの評価も持ち直しましたしね」
「頼りにしてくれる限り、余は康太様に力を貸す余!!」
「二人とも……ありがとう! よし、今日はたくさん食べるぞ!!」
「今日はじゃなくて、今日もでしょ?」
「そうとも言う!」
三人で笑いつつ、食堂へ向かう……仲間っていいな。教えてくれた一破さんは、本当に優しい人だ。心の中で感謝を述べながら……俺達は食堂へと向かうのだった。
ホロスコープス会議場。社長がビールの空き缶を握りしめて……握り潰してしまった。明らかに苛立っている様子だ。
「……コーマもやられたな。これだけやって、それでもホロスコープスには辿り着けないのか……まさか、詐欺じゃないだろうな」
「社長さん……いい加減諦めて、俺と一破を戦わせろよ、なぁ?」
「うるさいぞ、ヴァルゴ!!」
いつも通りレオとヴァルゴが睨み合いを始めた時……リブラが慌てた様子で飛び込んできた。
「しゃ、社長!! ご報告がございます!!」
「いきなりなんだ、クソリブラ? どうせ、ロクなことじゃねぇんだろ? またくだらねぇ作戦でも思いついたか?」
「黙っていろ、八神。リブラ、報告とはなんだ?」
今……リブラの顔は笑っているだろう。顔が見えなくてもわかる程に……喜びを込めた口調で、言った。
「ホロスコープスを……発見しました!!!」
ここからが本番です。