突如として、力を手に入れた一般人、もといアリエス・ゾディアーツ。ゾディアーツの基地を抜け出して、何をしていたのかというと……変身したまま、ホロライブ学園を探していた。
「さてと、ホロライブ学園はどこだっけな……」
「う、うわぁぁぁぁっ!! ゾディアーツだぁ!!!」
「通報、通報しなきゃ……!!」
アリエスの通り道にいた人たちは、逃げたり通報したり……とにかく、自分の安全を確保しようとしていた。だが、通報されたらまずいことはアリエスにもわかる。
「おいそこの奴ら、通報すんなっ!!」
「うっ……ぐぅ……」
「な、なんだ、急に眠、く……」
逃げたり、通報しようとした人々を、アリエスは次々杖から放つオーラで眠らせていった。やがて、その場にいた全員が倒れて、邪魔者がいなくなった後……辺りを見回して、ため息をついた。
「はぁ~……危ねぇ危ねぇ。それにしたって、便利な力だなぁ……これ!! 誰でも眠らせられるんだから!!」
眠らされて起きなくなってしまった人達を何とも思わず、無慈悲にアリエスは歩みを進める。デルタ達への逆恨みを胸に……そんな時。アリエスの腹の虫が鳴いた……
「……腹減ったなぁ。でも俺、金ないし……そうだっ!! みんな寝てるしバレねぇだろ……!! へへへ、財布はどこだ~?」
そう呟いて、変身を解除したアリエスは……あろうことか、その場にいる人達の財布から金を抜いて回った。『この力を自由に使う』、そう啖呵をきったアリエスが力の使い道として選んだのは、ただのコソ泥だったのである。ヴァルゴもこれを見たら、間違いなくアリエスを見限るだろう。
「よし……金の補給完了。これで好きな物食えるぞ~!! 何食おうかな……やっぱり、夜は焼肉だよな!! 今日はいいこともあったし!! 俺はアリエス!! 最強のゾディアーツだ~、なんちって!! ギャハハハハハ!!!」
人から盗んだ金で、罪悪感もなく飯を食いに行くアリエス。卑怯卑劣、なのにやっていることが小さい。有効活用するだけの頭がないのだ……一般人だから。無数の屍の中を、アリエスは悠々と進んでいく……復讐の前に焼肉を食べるために。
「高級肉頼んでやるぜ~、じゅるり……待ってろよ俺の肉!! ヒャッホー!!」
お前の肉でも金でもないぞ。そう言いたいであろう、眠らされた人達の心を無視して……アリエスは、焼肉屋へと走った。
……次の日。ランニングに行こうとしたら、俺だけが一破さんに呼ばれた。なんだろう、お叱りだろうか……
「おはようございます、雪村さん」
「あ、おはようございます……ご要件は? お叱りですかね?」
「いや、今回は違います。耳に入れておきたいことがね」
耳に入れておきたいこと? なんだろうか、ライダー関係のことだよな。
「……ゾディアーツ関連ですか?」
「そうです。あの時取り逃がしてしまった、アリエス・ゾディアーツにやられてしまったと思わしき人達が……20人もいました。朝になって、通報が入りましてね。無惨なものでしたよ……起きる見込みは今のところないそうです」
「なんてことを……!! アリエスの野郎、滅茶苦茶なことしやがって!! 俺、アリエスを止めてきます!!」
そう言ってスライガーの方へ向かおうとすると、一破さんに呼び止められた。
「待ってください。奴らの言動や、実際に起きたことを照らし合わせると、アリエスはホロスコープスです……それも、期待値もかなり高いと見える。幹部と思わしきヴァルゴやレオは、必殺のルシファーズハンマーで倒せない……その上、ヴァルゴはあれを喰らってもまだまだ余裕そうだったし……あのレベルの場合、雪村さん一人では勝てませんよ」
「そうですけど……でも、ここで燻っていても……!!」
「私もきちんと考えているんですよ? 学園長の許可は得ました……奴を学園まで誘き寄せて、私と雪村さん、百鬼さんで一気に叩く。これ以上、奴を野放しにはしておけない。そうでしょう? 雪村さんが倒されることは避けねばならないし……安全策を取りたいんです」
……なるほど、言いたいことはわかった。
「分かりました!! それで倒せる見込みがあるなら……喜んで!!」
「そう言ってくれると思っていました。では、協力してもらえますか?」
「はい!」
一破さんが、奴を倒せるチャンスをくれた。それならやらない手はない……一破さんに案内されて、ついて行くと。
「……市役所? なんでこんなところに……」
「目的地は放送室です。町内放送で、アリエスに呼びかけるんですよ」
「なるほど……それなら絶対に聞こえますもんね」
一破さんは何を言うんだろうか? やっぱり単純に、『憎い相手がここにいるぞ~』かな?
「失礼します……こちら放送部門部長の二宮さんです」
「ご紹介に預かりました、二宮と申します。今回はよろしくお願いしますね……一破警部、雪村康太さん。早速ですが、ここに座ってください」
「はい、よろしくお願いします……一破さん、台本ありますよね?」
一破さんに台本を要求する……だが、一破さんは首を横に振った。
「はい。夜なべして考えました……これでお願いします」
「……嘘が雑すぎますよ!! そうだ、一破さん嘘が下手なんだった……」
「このまま野放しにしておくわけにもいきませんが……さっき言った通り、奴は雪村さんが見つけたら、一人で何とかできる雑魚にも見えませんでしたし……それで、急いで考えた結果がこれです。本当に申し訳ない……」
……あんまりこんなことは言いたくないけど、今回は言わせてもらおう。
「こんな雑なので来てくれるとは思えないけど……」
「本当にすみません……警察の皆さんにも既に説明してしまいまして……無理ですか?」
「無理ならまた後日でも……」
でも……信頼してくれたのは嬉しいし、やるか。ダメ元だけど……やってやろうじゃないか。
「……失敗しても怒らないでくださいよ!?」
「やっていただけるんですか!? それは勿論……!!」
「ここのスイッチを入れてください、それで町内放送に繋がりますので……」
ハッタリでもなんでもいいから、奴を学園に引き寄せればいいんだよな? ……よし!! ぶっつけ本番だ、一破さんにも協力してもらうぞ!!
「アリエス・ゾディアーツさん!! こんにちは!! 私は仮面ライダーデルタ、雪村康太で~す!! そしてここにいるのが……はい、一破さんっ!!」
「なっ、あー……警官の一破誠二です」
「はい!! というわけで……今日はそこにいるアリエスさん!! あなたに伝えたいことがあるんです!!」
ここにいる人達が、全員固唾を飲んで俺を見ている。正直に言って、凄まじいプレッシャーだ。一破さんは、罪悪感を感じている顔をしてるな……もう遅いけど。
「雪村さん……何を言うんだろう?」
「私はあなたの生き様に感動しました!! あなたのような聖人を倒そうとしていた、私が愚かだったことを思い知った次第です!!」
「なにぃ!?」
口に指を当てて、二宮さんに黙ってもらう……これも台本の内なんだ、死ぬ程嫌だけど。
「引いてはあなたに英雄の証である、デルタギアをお譲りします!! 私のことは殺していただいて結構ですので是非、ホロライブ学園に来てください!! アリエス様、万歳!! ……ふぅ、終わりです」
「……これで来てくれますかね?」
「来ないでしょ。わざとらしいにも程がありますよ……雪村さんに書いてもらえばよかったのに」
二宮さんにバッサリ切り捨てられた。ですよね~……
「デモンズスレートで意識が朦朧としている中、書いてくださいと言うわけにもいかず……すみません」
「あ、Twitterで策の内だって言っとかないとな……このままだと、中田やギースーの格好の餌食だ」
「二宮さん、今日はありがとうございました!」
そう言って一礼し、帰ろうとしたところで……電話が鳴る。
「……もしもし?」
『雪村くんかい? 放送、聞いていたよ……』
「すみません、聞き苦しいものを……」
俺がそう言うと、学園長から否定が返ってきた。
『ぶっつけ本番であれだけやれたなら、十分だよ。もしかしたら、もしかするかもしれないし……』
「ありがとうございます……とりあえず学園に帰って、パトロールに向かいますね」
『頼むよ。何から何まですまないね』
労いの言葉にお礼を言って、電話を切る。ここからは俺の仕事、奴を見つけにいく。そのつもりで、学園へと戻り……デモンズスレートを落ち着かせた後、デルタギアを構えた。
「変身」
『Standing by』
『Complete』
いつも通り、変身して……探しに行く。待ってろよ、アリエス。隠れても無駄だぞ、絶対に見つけ出してやる!! そんな時……聞き覚えのある声がした。
「おい、デルタ!! 俺を尊敬してるってホントか!?」
「え……!?」
「来てやったぞデルタ、デルタギア寄越せ!!」
……本当に来た。わざとらしい演技で来た……喜ぶべきなのだろうが、それよりも……
「お前、あれを本当だと思ったのか? 馬鹿だろ……」
「なんだとぉぉぉ!?」
「康太様、なに……って、アリエス!? まさか、あれで釣れたの!?」
あやめが来たが、ドン引きしている様子だ。だよな、俺もそうだもん。
「……アリエスがいる!? まさか、あれで釣れたのか!? 雪村さんの演技力がそれだけすごかったんだな……ここで逮捕する!!」
「Burst Mode」
「そんなわけないでしょ、コイツがアホなんですよ」
「ふざけんな!! よくもこの俺を騙しやがったな!!! せっかく焼肉でいい気分だったのに、最悪だ!!!」
焼肉……こいつは何を言ってるんだ?
「そういえば……倒れている人達の財布から、お金が根こそぎ抜き取られていたとか……」
「まさかお前、それだけのために人を……!?」
「人の金で食べる焼肉は美味かったぜ!!」
……そんなくだらないことのために、皆さんを眠らせたのか? ただ焼肉が食いたい、それだけのために……!!
「なんて下らない……!!」
「その力を手に入れてやることがコソ泥とは……本物の阿呆だな」
「バカにすんじゃねぇ、クソ共!! 引きこもりの俺も、これで大金持ちだぜ!!」
何の考えもない分、中田やギースーのような情報戦は必要ないが……中田は反転アンチとそのグループ、ギースーは浮動票や、自分を支持する者達を利用しての炎上商法……こいつにはそれがないんだ。『何かしたい』と思った瞬間、できる力をバカが手に入れた。それがどれだけ危険かは考えずともわかる……
「お前はここで倒す……もし倒せないと、絶対に大変なことになる!!」
「阿呆が核爆弾のスイッチを持っているようなものだ、早く何とかしなければ!!」
「さっきから聞いてりゃ、アホだのコソ泥だの……俺は強くなったんだぞ!! 強くなったのに……お前らときたら!! 許さねぇ、今すぐぶっ殺してやらァ!!!」
奴は堪忍袋の緒が切れたのか……杖をこちらに向けてきた。それに対して、俺達も戦闘態勢を取る……
「素人にやられる程……俺達は弱くねぇぞ?」
「アリエス・ゾディアーツ……覚悟!!」
『Ready』
「舐めてんじゃねぇぞ!! 思い知らせてやるッ!!!」
奴が叫ぶ前に、もうあやめは走り出していた。蒼炎を纏った刀が、後ろに浮いている……
「思い知るのはどっちかな!?」
「オラァ!!」
「だぁぁぁっ!!」
奴が杖であやめの顔面を殴打しようとしたが、それを難なく躱して……胴への一撃が差し込まれた。
「グギャッ!? グッ、ガァァ!?」
「ファイア!!」
『Burst Mode』
アリエスは相変わらず、杖を持って暴れているが……一発も当たってない。ど素人だな……これなら勝てる。そう思って、弾を撃ち込む……全弾命中だ。
「ぐ、うぎぃぃぃ……!!」
「もう……三発ッ!!」
「ぐぁぁぁぁ……あれ?」
奴が突然、素っ頓狂な声を上げた。諦めたのか……? それなら好都合だ!!
『Leady』
「チェック!!」
『Exceed Charge』
勝負を決めてやる。サソリ野郎より弱いやつだったな……!! ポインターを打ち込むために、狙いを定める。狙いを……って、あれ?
「なんだ、目の前が……ぐら、つく……?」
「ッ……!? 業、不知火、どうしたの!?」
「助かった……俺の能力が発動したらしいなぁ!!」
奴の能力? 確か、アリエスの能力は……まさかっ!?
「俺達を眠くしてるのか……!?」
「ッ、寝るな!! 寝たら殺され……っぐぅ……」
「無駄だぜ、これで寝なかった奴はいないからな!!」
いや、眠気だけじゃない。体に、力が入らなくなっていく……
「こいつ……生体、エネルギーを……奪ってる……!?」
「生体エネルギー? 何のことか知らんが……とにかく、眠くなる力だ!! 眠らせてから殺してやるぜ!!」
「二人とも、消えちゃ……ダメ……だ……」
変身が解除されて……あやめが倒れてしまった。生体エネルギーを吸われている証拠に……二人は消えかけてしまっている。
「このままじゃ、業と不知火は、死ぬ……」
「他人の心配してる暇があるか? ほれ、喰らえ!!」
「っ……がぁ!!」
向かってくるアリエスの杖を避けようと、体を捻ったが……その勢いに耐えられずに、転んでしまった。体が言うことを聞かない……死の接近を感じる。アリエスの杖が俺の脳天に当たって、地面に伏せてしまう……
「オラァ!!」
「ぐ、げぇ……」
「ヘッヘッヘ……何もできねぇだろ!? そらそらぁ!!!」
鈍重な衝撃が体に響く。こんなところで死ぬのか……こんな阿呆に殺される? それだけは嫌だ……そんな時、腕から警告音がし始めた……待っていたぞ。体の機能を無理やり取り戻す……
「雪村、さん……くそっ!!」
「当たりませ~ん。どこ狙ってんですかねぇ?」
「……お前の顔面だよ!!」
フラフラの足で踏み込み、電撃を纏った一撃を、無理矢理握った拳で叩き込む。
「ガッ!? な、なんで立ってるんだ……!?」
「仮面ライダーデルタを、舐めるなよ……?」
「このっ!! 寝ろ、寝ろぉぉ!!」
杖を何度も掲げて、黄色のオーラを出してくる。今にも意識を失いそうなのを、回避できている理由は……
「……!? 雪村さん!? 何をしているんだ!!!」
「ガガッ、こうすれば、ギ、気絶しないで、ググッ……済むよなぁ……?」
「チッ、こっちが強いのに変わりはねぇ!! 俺が直々に殴り殺してやる!!」
やっていることは、極めて単純。まだ『生身』の方の足に、デモンズスレートの電撃を流し、自分の体を感電させる……脳まで達すれば、眠るのは避けられるだろう。
「なんて無茶を……!! また足を失う気か!?」
「えぇ、そのつもりです、よ……!! ウォラァァァ!!!」
「グッ……この野郎、死ね!!」
乱雑かつ、大して狙いも定まらないまま……奴は杖を振り回してきた。いつもなら避けられるものも、今では全く避けられない。殴り返すのが精一杯である。
「死ぬのは、お前、だぁぁッ!!!」
「ギャッ!?」
「だぁりゃあぁぁッ!!!」
足を動かして、無理矢理蹴り込む。電撃を纏ったドリルが、奴を刺し貫く……はずだが。
「こんなもので……やられるかぁぁ!!!」
「ウガッ……!!」
「ヘヘヘ、英雄も大したことねぇなぁ……やっぱり俺がデルタに相応しい!!」
力が弱いせいで、叩き落とされてしまった。それでも諦めるわけにはいかない、力の入らない足で立ち上がる。
「ファイア……!!」
『Burst Mode』
「当たらねぇっての!! バーカバーカ!!!」
……ダメだ、五発撃ったのに一発も当たらない。いよいよ、目の前がぼやけてきた……足から焦げ臭い匂いがしている。限界なのか? 畜生、本当にどうにもならないのか!? 一破さんはもう動いてない……俺がこいつを何とかできないと、みんな殺されてしまうんだぞ!!!
「ッ……うぉぉぉぉぉ!!!」
「ヤケになったか? 死にやがれ、デルタァ!!!」
「グッ、ア……」
地面に伏せる。立とうと思ったが、そこにアリエスが来て……杖を振り上げてきた。
「終わりだ、雪村康太ァァ!!!」
「……ッ!!!」
「あ?」
足音を頼りに、右腕を上げて……引き金を一心不乱に引く。奴の悲鳴が聞こえた……全弾命中だ。
「この、距離なら……絶対、当たるぜ……」
「ッ、クソ……こんの、クズ野郎がぁぁぁッ!!!」
「クズは、テメェ、だ……チャージ」
こいつだけは道連れにしてやる。そう思って、言葉を発する……
『Charge』
「こんの……死ねっ!! グォォッ……死ねぇぇぇッ!!! ギャアァァァ!!!」
「ガッ、ゴゲ……ア……ッ、グ……」
必死に撃ち続ける。あぁ、頭が痛い……嘔吐しながら奴に弾をぶち込む。前が見えない、だけど叩かれているのはわかる。その感覚を頼りに……奴に、弾を打ち込み続けた。
「……弾切れか? 終わりだなぁ!! 死ね!!!」
「ッ……オォォ……!!」
「なっ……ウグォォォォッ!?」
奴の腕を掴んで、自分ごと感電させる。殺す、殺さないといけない……仲間だけは殺させない。二人仲良く、地獄に行こうぜ。
「死、ねぇ……!!」
「こんなもんで……やられるかぁ!! うぉぉぉぉっ!!!」
「ごぉっ……が……」
遂に変身が解けてしまった。これが俺の限界か……
「はぁ、はぁ……くっ、そぉぉ……殺して、やる……!!」
「……はっ、はっ、は」
「何がおかしいっ!?」
大ダメージは与えた。後は、みんなに任せる……俺はやはり、英雄の器ではなかったんだ。
「はは、は……」
「笑うんじゃねぇ!! 死ね!!!」
「はっ……」
俺が目を瞑って、二度と覚めない眠りに身を任せようとした、瞬間……硬いものと硬いものが、ぶつかる音がする。
「……私の生徒に、何をしている」
「は!? お前誰……ぐぎゃあぁ!?」
「が、あっ……?」
誰だろう。前が見えない、助かったのか?
「……お待たせ。待ったかね? 雪村くん……」
「たかね、せん、せい……!」
「すぐに終わらせる。だから、これを飲んで待ってて」
口に流し込まれて、少しむせながら飲み込む……これもしかして、回復薬? 体が少し楽になり、前が見えるようになった……頭に、何かが被せられている。もしかして……俺の部屋にあった装置か? どうしてここに……
「テメェ誰だよ!? 邪魔すんじゃねぇ、お前も眠らせてやろうか!?」
「やれるものなら、やってみるといい。子を守る鷹は、何よりも強いぞ」
「生意気なんだよ!! 寝てやがれ、クズ野郎!!」
杖が掲げられて……黄色のオーラが出た。まずいぞ、眠ってしまう。
「先生、まずい……!!」
「わかってる。先生に任せて……雪村くん、技を借りるよ!!!」
「何ほざいてんだよ!! 死にやがれ……っ、どこだ!?」
先生の姿が消えた? いや、違う!!
「これは、もしかして……」
「オーバード……『Remix』!!」
「なに!? ギャアァッ!?」
鷹嶺先生は生身である。だが、その攻撃は一発だけでアリエスに大ダメージを与えていた。一体、どれだけの修行を積んだのだろうか? 前よりずっと早く、鋭く、竜巻が敵を抉り取る。そして、もう一つ……前と違うのは。
「早いけど、一定のリズムがある……?」
「ご名答……時間を伸ばすのは、難しそうだったからね。それならパワーを上げるしかない……だけど、ただやっているだけでは頭打ちになる。そこで君の技さ」
「……スマッシュビートか!? そうか、だから……!!」
鷹嶺先生はスマッシュビートを、自分の技に取り入れたんだ。難しい話じゃない、一般人の俺ですら使える技だからな……攻撃する度にスピードとパワーが上昇するのは据え置き、そこにスマッシュビートを上乗せする!! その威力は……計り知れない!!!
「ギッ、ウガッ、ゴァッガァ!!!」
「ウォォォォォッ!! ダァァァーッ!!!」
「ウギャァァァァッ!!!」
先生が何をしているのか、全く見えない。見えるのは紅い竜巻のみ。そこにリズム良く、斬撃の音が聞こえてくる……アリエスの野郎がぶっ飛んで、柵にぶつかって倒れ込む。
「すごい……!!」
「ふふふっ、生徒を守る先生は無類の強さだよ? ルイだけにね!!」
「……ギャグはやっぱり寒いですね」
俺がそう言うと、鷹嶺先生にダメージが入った。
「ひ、ひどい……」
「ふざけんな、テメェらァァァァ!!!」
「なっ……!?」
奴の体の中に……白い光の球が入っていった。超新星だ!! まずい!!
「力が湧き上がってくるぞ……これで殺してやる!!!」
「先生、気をつけて……あのサソリ野郎ですらも、相当強くなっていたんです!! どれだけ強いか分かりませんよ!!!」
「大丈夫さ。奴がどれだけ強くなっても……私には勝てないよ」
鷹嶺先生は余裕そうだ。アリエスは怒り狂いながら、俺に夥しい数の光弾を飛ばしてきた。
「死ね、雪村康太ァァァ!!」
「ッ!?」
「らぁぁぁッ!!!」
一瞬にして、光弾が全て切り裂かれた。本当に強い、ベルデの時とは比べ物にならない程に……
「ははっ……やっぱり、辞めなくてよかったでしょ?」
「だね!! 感謝してるよ!!!」
「くそっ、なんで寝ないんだよ!! くっそぉぉぉ!!! 寝ろ、寝ろよ!!!」
そういえば、生命エネルギーを奪われていないのだろうか。それとも気合い?
「簡単な話さ。この技は体中からエネルギーを引っ張り出して、スピードとパワーに回す私の切り札。修行して強くなった今……お前が少し減らしたところで、問題にならないのは当然だろう?」
「ッ、それなら……耐えられなかった雪村は弱いだろ!? 奴にデルタである資格は……」
「あるに決まっているだろう!! 彼は自分の一つしかない足を焦がしてまで、必死で戦ったんだ!! 他のみんなだって、最後まで戦意を捨ててはいなかったはずだ!! 何も知らないお前が、私の生徒と仲間を語るな!!!」
鷹嶺先生がそう叫んで、猛スピードで接敵する。奴は頭から雷を出し、先生を撃ち落とそうとしているが……その全てが空振りしている。
「畜生、当たれぇぇぇぇっ!!!」
「ッ……!?」
「させるかよ!!」
俺だって何もせず、ただ寝ていたわけではない。サイガフォンを手に取って、番号を入力しておいたのだ……
『Charge』
「なっ……うぐぁぁぁぁ!!」
「雪村くん、感謝するよ!!!」
奴の攻撃が邪魔されて、見当違いの方向へ飛んでゆく……それでも奴は、先生を近づかせまいと滅茶苦茶に攻撃を放っている。
「なんでだっ、なんで当たらねぇんだよ!? ふざけんな!!!」
「当然だろう? 一発も当たれないなら……当たらない程速くなればいいんだよ!!!」
「グギャッ!! アガガガガァッ……!!!」
連撃が叩き込まれて……奴がどんどんと、宙に浮いてゆく。まさか……このまま空まで上げる気か!?
「成層圏まで、旅行をプレゼントしてあげるよ……片道だけどね!!」
「ウギャアァァァー……」
「……赤い、閃光……」
赤い閃光は奴を連れて、超上空へと向かい……凄まじいスピードの連撃を喰らわせた後……恰も流星のように離脱した。そして、天空で凄まじい爆発が起こる……
「やったのか……?」
「あぁ、君の勝ちだ……雪村くん」
「そんな、鷹嶺先生の手柄ですよ!!」
何とか立ち上がって、そう言う。先生がいなかったら今頃、俺達は……
「君が人のことを言える立場かい? あの時、私の勝ちだって言ってたくせに……」
「……それもそうですね!! 僕達の勝ちってことで!! 先生こそ大丈夫ですか? オーバードは、負担がすごいはずだけど……」
「あぁ、かなり疲れたけど……ごく短時間で終わらせたから、負担は少ないよ。安心してくれ」
それならよかった……そうだ、みんなは!?
「業!! 不知火!? 死んでないか!?」
「……!」
「よかった……!! 元気になってるってことは……!!」
あやめが起き上がり、辺りを見回している……一破さんも起き上がった。どうやら、奴を倒せば元に戻る仕組みだったようだ。
「うぅん……業、不知火!! 生きてたんだ……!! そうだ、アリエスは……康太様がやってくれたの?」
「いや……俺と先生が二人でやった!!」
「鷹嶺先生……来てくれたんだ!!」
先生はあやめに笑いかけている……一破さんもすぐに俺達に気づいたらしい。
「……なるほど。先生と雪村さんがやってくれたのか……ありがとうございました。体のだるさが取れているし、エネルギーは戻ったとみて良さそうだな」
「これでみんな助かったかな……」
「あぁ、きっと助かっただろう。よく頑張ってくれたね、みんな……これからは私も、一緒に戦うよ!!」
しばらく姿が見えなかったのは、修行をしていたからだったんだな。これは心強い味方だ……!!
「……来たな。降ってきますよ!!」
「え? うわっ!? 隕石……?」
「アリエスですよ。一破さん、お願いしますね」
一破さんが無言で頷いて、クレーターに近づいてゆく……煙が晴れると、アリエスの中身が現れた。
「うっ、ぐぐ……畜生……!!」
「動くな」
「っ!?」
上からサイガフォンを突きつけて、奴へと歩いてゆく一破さん。奴は何もできずに、その場で静止している。
「アリエス・ゾディアーツ……もとい、坂井慎司。強盗及び、殺人未遂の疑いで逮捕する」
「……捕まってたまるかッ!!!」
「なにっ!? 一破さん!!」
奴はサイガフォンを弾き飛ばして、スイッチを拾おうとしている。今拾われたら、本当にどうしようもなくなるぞ!? そう思っていた時……一破さんが、奴を羽交い締めにして……首筋に、何かを突きつけた。
「動くなと言ったはずだ。アリエスに変身した時点で、射殺許可は降りている。少しでも動いたら、お前の首は飛ぶと思え……!!」
「ひっ、ひぃぃっ……!! わ、わかったから……それを、それをしまってくれぇ……!!」
「あれは……鉈?」
普通の警官は鉈なんて持っていない。一破さんは……拳銃の他にも、鉈を携帯していたのか? 奴は鉈を首に当てられて、すっかり萎縮している。今度こそ、大人しくお縄についた。
「そういえば、ヴァルゴが鉈がどうとか言ってたね……」
「本当に持ってたのか……それを知ってるヴァルゴは、一体……?」
「私はこいつを連行します。先生は二人を病院に」
先生が頷いて……元々デモンズスレートで弱っていた俺に肩を貸してくれた。
「肩を貸すよ、歩けるかい?」
「ありがとうございます……そういえば、さっき被せてくれたのは?」
「簡潔に言うなら、小型のアンチデモンズスレート電波発信機だね。電池切れが早いのが難点だが、応急措置のために持ってきたんだ……こよりはすごいよ、本当に」
そうだったのか。おかげで助かった……こよりさん様々だ。
「こよりさんには感謝しかないな……ありがたや~」
「あんまり煽てると調子に乗るから、本人には言わないようにね?」
「はーい」
そんなことを話しながら、俺達は三人で病院へと向かうのだった。
鷹嶺先生の活躍にご期待ください。