※この作品はR-18です。

仮面を被った、人間達の英雄譚   作:とも667

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紅・速・斬・撃

突如として、力を手に入れた一般人、もといアリエス・ゾディアーツ。ゾディアーツの基地を抜け出して、何をしていたのかというと……変身したまま、ホロライブ学園を探していた。

 

「さてと、ホロライブ学園はどこだっけな……」

 

「う、うわぁぁぁぁっ!! ゾディアーツだぁ!!!」

 

「通報、通報しなきゃ……!!」

 

 アリエスの通り道にいた人たちは、逃げたり通報したり……とにかく、自分の安全を確保しようとしていた。だが、通報されたらまずいことはアリエスにもわかる。

 

「おいそこの奴ら、通報すんなっ!!」

 

「うっ……ぐぅ……」

 

「な、なんだ、急に眠、く……」

 

 逃げたり、通報しようとした人々を、アリエスは次々杖から放つオーラで眠らせていった。やがて、その場にいた全員が倒れて、邪魔者がいなくなった後……辺りを見回して、ため息をついた。

 

「はぁ~……危ねぇ危ねぇ。それにしたって、便利な力だなぁ……これ!! 誰でも眠らせられるんだから!!」

 

 眠らされて起きなくなってしまった人達を何とも思わず、無慈悲にアリエスは歩みを進める。デルタ達への逆恨みを胸に……そんな時。アリエスの腹の虫が鳴いた……

 

「……腹減ったなぁ。でも俺、金ないし……そうだっ!! みんな寝てるしバレねぇだろ……!! へへへ、財布はどこだ~?」

 

 そう呟いて、変身を解除したアリエスは……あろうことか、その場にいる人達の財布から金を抜いて回った。『この力を自由に使う』、そう啖呵をきったアリエスが力の使い道として選んだのは、ただのコソ泥だったのである。ヴァルゴもこれを見たら、間違いなくアリエスを見限るだろう。

 

「よし……金の補給完了。これで好きな物食えるぞ~!! 何食おうかな……やっぱり、夜は焼肉だよな!! 今日はいいこともあったし!! 俺はアリエス!! 最強のゾディアーツだ~、なんちって!! ギャハハハハハ!!!」

 

 人から盗んだ金で、罪悪感もなく飯を食いに行くアリエス。卑怯卑劣、なのにやっていることが小さい。有効活用するだけの頭がないのだ……一般人だから。無数の屍の中を、アリエスは悠々と進んでいく……復讐の前に焼肉を食べるために。

 

「高級肉頼んでやるぜ~、じゅるり……待ってろよ俺の肉!! ヒャッホー!!」

 

 お前の肉でも金でもないぞ。そう言いたいであろう、眠らされた人達の心を無視して……アリエスは、焼肉屋へと走った。

 

 

 

 ……次の日。ランニングに行こうとしたら、俺だけが一破さんに呼ばれた。なんだろう、お叱りだろうか……

 

「おはようございます、雪村さん」

 

「あ、おはようございます……ご要件は? お叱りですかね?」

 

「いや、今回は違います。耳に入れておきたいことがね」

 

 耳に入れておきたいこと? なんだろうか、ライダー関係のことだよな。

 

「……ゾディアーツ関連ですか?」

 

「そうです。あの時取り逃がしてしまった、アリエス・ゾディアーツにやられてしまったと思わしき人達が……20人もいました。朝になって、通報が入りましてね。無惨なものでしたよ……起きる見込みは今のところないそうです」

 

「なんてことを……!! アリエスの野郎、滅茶苦茶なことしやがって!! 俺、アリエスを止めてきます!!」

 

 そう言ってスライガーの方へ向かおうとすると、一破さんに呼び止められた。

 

「待ってください。奴らの言動や、実際に起きたことを照らし合わせると、アリエスはホロスコープスです……それも、期待値もかなり高いと見える。幹部と思わしきヴァルゴやレオは、必殺のルシファーズハンマーで倒せない……その上、ヴァルゴはあれを喰らってもまだまだ余裕そうだったし……あのレベルの場合、雪村さん一人では勝てませんよ」

 

「そうですけど……でも、ここで燻っていても……!!」

 

「私もきちんと考えているんですよ? 学園長の許可は得ました……奴を学園まで誘き寄せて、私と雪村さん、百鬼さんで一気に叩く。これ以上、奴を野放しにはしておけない。そうでしょう? 雪村さんが倒されることは避けねばならないし……安全策を取りたいんです」

 

 ……なるほど、言いたいことはわかった。

 

「分かりました!! それで倒せる見込みがあるなら……喜んで!!」

 

「そう言ってくれると思っていました。では、協力してもらえますか?」

 

「はい!」

 

 一破さんが、奴を倒せるチャンスをくれた。それならやらない手はない……一破さんに案内されて、ついて行くと。

 

「……市役所? なんでこんなところに……」

 

「目的地は放送室です。町内放送で、アリエスに呼びかけるんですよ」

 

「なるほど……それなら絶対に聞こえますもんね」

 

 一破さんは何を言うんだろうか? やっぱり単純に、『憎い相手がここにいるぞ~』かな?

 

「失礼します……こちら放送部門部長の二宮さんです」

 

「ご紹介に預かりました、二宮と申します。今回はよろしくお願いしますね……一破警部、雪村康太さん。早速ですが、ここに座ってください」

 

「はい、よろしくお願いします……一破さん、台本ありますよね?」

 

 一破さんに台本を要求する……だが、一破さんは首を横に振った。

 

「はい。夜なべして考えました……これでお願いします」

 

「……嘘が雑すぎますよ!! そうだ、一破さん嘘が下手なんだった……」

 

「このまま野放しにしておくわけにもいきませんが……さっき言った通り、奴は雪村さんが見つけたら、一人で何とかできる雑魚にも見えませんでしたし……それで、急いで考えた結果がこれです。本当に申し訳ない……」

 

 ……あんまりこんなことは言いたくないけど、今回は言わせてもらおう。

 

「こんな雑なので来てくれるとは思えないけど……」

 

「本当にすみません……警察の皆さんにも既に説明してしまいまして……無理ですか?」

 

「無理ならまた後日でも……」

 

 でも……信頼してくれたのは嬉しいし、やるか。ダメ元だけど……やってやろうじゃないか。

 

「……失敗しても怒らないでくださいよ!?」

 

「やっていただけるんですか!? それは勿論……!!」

 

「ここのスイッチを入れてください、それで町内放送に繋がりますので……」

 

 ハッタリでもなんでもいいから、奴を学園に引き寄せればいいんだよな? ……よし!! ぶっつけ本番だ、一破さんにも協力してもらうぞ!!

 

「アリエス・ゾディアーツさん!! こんにちは!! 私は仮面ライダーデルタ、雪村康太で~す!! そしてここにいるのが……はい、一破さんっ!!」

 

「なっ、あー……警官の一破誠二です」

 

「はい!! というわけで……今日はそこにいるアリエスさん!! あなたに伝えたいことがあるんです!!」

 

 ここにいる人達が、全員固唾を飲んで俺を見ている。正直に言って、凄まじいプレッシャーだ。一破さんは、罪悪感を感じている顔をしてるな……もう遅いけど。

 

「雪村さん……何を言うんだろう?」

 

「私はあなたの生き様に感動しました!! あなたのような聖人を倒そうとしていた、私が愚かだったことを思い知った次第です!!」

 

「なにぃ!?」

 

 口に指を当てて、二宮さんに黙ってもらう……これも台本の内なんだ、死ぬ程嫌だけど。

 

「引いてはあなたに英雄の証である、デルタギアをお譲りします!! 私のことは殺していただいて結構ですので是非、ホロライブ学園に来てください!! アリエス様、万歳!! ……ふぅ、終わりです」

 

「……これで来てくれますかね?」

 

「来ないでしょ。わざとらしいにも程がありますよ……雪村さんに書いてもらえばよかったのに」

 

 二宮さんにバッサリ切り捨てられた。ですよね~……

 

「デモンズスレートで意識が朦朧としている中、書いてくださいと言うわけにもいかず……すみません」

 

「あ、Twitterで策の内だって言っとかないとな……このままだと、中田やギースーの格好の餌食だ」

 

「二宮さん、今日はありがとうございました!」

 

 そう言って一礼し、帰ろうとしたところで……電話が鳴る。

 

「……もしもし?」

 

『雪村くんかい? 放送、聞いていたよ……』

 

「すみません、聞き苦しいものを……」

 

 俺がそう言うと、学園長から否定が返ってきた。

 

『ぶっつけ本番であれだけやれたなら、十分だよ。もしかしたら、もしかするかもしれないし……』

 

「ありがとうございます……とりあえず学園に帰って、パトロールに向かいますね」

 

『頼むよ。何から何まですまないね』

 

 労いの言葉にお礼を言って、電話を切る。ここからは俺の仕事、奴を見つけにいく。そのつもりで、学園へと戻り……デモンズスレートを落ち着かせた後、デルタギアを構えた。

 

「変身」

 

『Standing by』

 

『Complete』

 

 いつも通り、変身して……探しに行く。待ってろよ、アリエス。隠れても無駄だぞ、絶対に見つけ出してやる!! そんな時……聞き覚えのある声がした。

 

「おい、デルタ!! 俺を尊敬してるってホントか!?」

 

「え……!?」

 

「来てやったぞデルタ、デルタギア寄越せ!!」

 

 ……本当に来た。わざとらしい演技で来た……喜ぶべきなのだろうが、それよりも……

 

「お前、あれを本当だと思ったのか? 馬鹿だろ……」

 

「なんだとぉぉぉ!?」

 

「康太様、なに……って、アリエス!? まさか、あれで釣れたの!?」

 

 あやめが来たが、ドン引きしている様子だ。だよな、俺もそうだもん。

 

「……アリエスがいる!? まさか、あれで釣れたのか!? 雪村さんの演技力がそれだけすごかったんだな……ここで逮捕する!!」

 

「Burst Mode」

 

「そんなわけないでしょ、コイツがアホなんですよ」

 

「ふざけんな!! よくもこの俺を騙しやがったな!!! せっかく焼肉でいい気分だったのに、最悪だ!!!」

 

 焼肉……こいつは何を言ってるんだ?

 

「そういえば……倒れている人達の財布から、お金が根こそぎ抜き取られていたとか……」

 

「まさかお前、それだけのために人を……!?」

 

「人の金で食べる焼肉は美味かったぜ!!」

 

 ……そんなくだらないことのために、皆さんを眠らせたのか? ただ焼肉が食いたい、それだけのために……!!

 

「なんて下らない……!!」

 

「その力を手に入れてやることがコソ泥とは……本物の阿呆だな」

 

「バカにすんじゃねぇ、クソ共!! 引きこもりの俺も、これで大金持ちだぜ!!」

 

 何の考えもない分、中田やギースーのような情報戦は必要ないが……中田は反転アンチとそのグループ、ギースーは浮動票や、自分を支持する者達を利用しての炎上商法……こいつにはそれがないんだ。『何かしたい』と思った瞬間、できる力をバカが手に入れた。それがどれだけ危険かは考えずともわかる……

 

「お前はここで倒す……もし倒せないと、絶対に大変なことになる!!」

 

「阿呆が核爆弾のスイッチを持っているようなものだ、早く何とかしなければ!!」

 

「さっきから聞いてりゃ、アホだのコソ泥だの……俺は強くなったんだぞ!! 強くなったのに……お前らときたら!! 許さねぇ、今すぐぶっ殺してやらァ!!!」

 

 奴は堪忍袋の緒が切れたのか……杖をこちらに向けてきた。それに対して、俺達も戦闘態勢を取る……

 

「素人にやられる程……俺達は弱くねぇぞ?」

 

「アリエス・ゾディアーツ……覚悟!!」

 

『Ready』

 

「舐めてんじゃねぇぞ!! 思い知らせてやるッ!!!」

 

 奴が叫ぶ前に、もうあやめは走り出していた。蒼炎を纏った刀が、後ろに浮いている……

 

「思い知るのはどっちかな!?」

 

「オラァ!!」

 

「だぁぁぁっ!!」

 

 奴が杖であやめの顔面を殴打しようとしたが、それを難なく躱して……胴への一撃が差し込まれた。

 

「グギャッ!? グッ、ガァァ!?」

 

「ファイア!!」

 

『Burst Mode』

 

 アリエスは相変わらず、杖を持って暴れているが……一発も当たってない。ど素人だな……これなら勝てる。そう思って、弾を撃ち込む……全弾命中だ。

 

「ぐ、うぎぃぃぃ……!!」

 

「もう……三発ッ!!」

 

「ぐぁぁぁぁ……あれ?」

 

 奴が突然、素っ頓狂な声を上げた。諦めたのか……? それなら好都合だ!!

 

『Leady』

 

「チェック!!」

 

『Exceed Charge』

 

 勝負を決めてやる。サソリ野郎より弱いやつだったな……!! ポインターを打ち込むために、狙いを定める。狙いを……って、あれ?

 

「なんだ、目の前が……ぐら、つく……?」

 

「ッ……!? 業、不知火、どうしたの!?」

 

「助かった……俺の能力が発動したらしいなぁ!!」

 

 奴の能力? 確か、アリエスの能力は……まさかっ!?

 

「俺達を眠くしてるのか……!?」

 

「ッ、寝るな!! 寝たら殺され……っぐぅ……」

 

「無駄だぜ、これで寝なかった奴はいないからな!!」

 

 いや、眠気だけじゃない。体に、力が入らなくなっていく……

 

「こいつ……生体、エネルギーを……奪ってる……!?」

 

「生体エネルギー? 何のことか知らんが……とにかく、眠くなる力だ!! 眠らせてから殺してやるぜ!!」

 

「二人とも、消えちゃ……ダメ……だ……」

 

 変身が解除されて……あやめが倒れてしまった。生体エネルギーを吸われている証拠に……二人は消えかけてしまっている。

 

「このままじゃ、業と不知火は、死ぬ……」

 

「他人の心配してる暇があるか? ほれ、喰らえ!!」

 

「っ……がぁ!!」

 

 向かってくるアリエスの杖を避けようと、体を捻ったが……その勢いに耐えられずに、転んでしまった。体が言うことを聞かない……死の接近を感じる。アリエスの杖が俺の脳天に当たって、地面に伏せてしまう……

 

「オラァ!!」

 

「ぐ、げぇ……」

 

「ヘッヘッヘ……何もできねぇだろ!? そらそらぁ!!!」

 

 鈍重な衝撃が体に響く。こんなところで死ぬのか……こんな阿呆に殺される? それだけは嫌だ……そんな時、腕から警告音がし始めた……待っていたぞ。体の機能を無理やり取り戻す……

 

「雪村、さん……くそっ!!」

 

「当たりませ~ん。どこ狙ってんですかねぇ?」

 

「……お前の顔面だよ!!」

 

 フラフラの足で踏み込み、電撃を纏った一撃を、無理矢理握った拳で叩き込む。

 

「ガッ!? な、なんで立ってるんだ……!?」

 

「仮面ライダーデルタを、舐めるなよ……?」

 

「このっ!! 寝ろ、寝ろぉぉ!!」

 

 杖を何度も掲げて、黄色のオーラを出してくる。今にも意識を失いそうなのを、回避できている理由は……

 

「……!? 雪村さん!? 何をしているんだ!!!」

 

「ガガッ、こうすれば、ギ、気絶しないで、ググッ……済むよなぁ……?」

 

「チッ、こっちが強いのに変わりはねぇ!! 俺が直々に殴り殺してやる!!」

 

 やっていることは、極めて単純。まだ『生身』の方の足に、デモンズスレートの電撃を流し、自分の体を感電させる……脳まで達すれば、眠るのは避けられるだろう。

 

「なんて無茶を……!! また足を失う気か!?」

 

「えぇ、そのつもりです、よ……!! ウォラァァァ!!!」

 

「グッ……この野郎、死ね!!」

 

 乱雑かつ、大して狙いも定まらないまま……奴は杖を振り回してきた。いつもなら避けられるものも、今では全く避けられない。殴り返すのが精一杯である。

 

「死ぬのは、お前、だぁぁッ!!!」

 

「ギャッ!?」

 

「だぁりゃあぁぁッ!!!」

 

 足を動かして、無理矢理蹴り込む。電撃を纏ったドリルが、奴を刺し貫く……はずだが。

 

「こんなもので……やられるかぁぁ!!!」

 

「ウガッ……!!」

 

「ヘヘヘ、英雄も大したことねぇなぁ……やっぱり俺がデルタに相応しい!!」

 

 力が弱いせいで、叩き落とされてしまった。それでも諦めるわけにはいかない、力の入らない足で立ち上がる。

 

「ファイア……!!」

 

『Burst Mode』

 

「当たらねぇっての!! バーカバーカ!!!」

 

 ……ダメだ、五発撃ったのに一発も当たらない。いよいよ、目の前がぼやけてきた……足から焦げ臭い匂いがしている。限界なのか? 畜生、本当にどうにもならないのか!? 一破さんはもう動いてない……俺がこいつを何とかできないと、みんな殺されてしまうんだぞ!!!

 

「ッ……うぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ヤケになったか? 死にやがれ、デルタァ!!!」

 

「グッ、ア……」

 

 地面に伏せる。立とうと思ったが、そこにアリエスが来て……杖を振り上げてきた。

 

「終わりだ、雪村康太ァァ!!!」

 

「……ッ!!!」

 

「あ?」

 

 足音を頼りに、右腕を上げて……引き金を一心不乱に引く。奴の悲鳴が聞こえた……全弾命中だ。

 

「この、距離なら……絶対、当たるぜ……」

 

「ッ、クソ……こんの、クズ野郎がぁぁぁッ!!!」

 

「クズは、テメェ、だ……チャージ」

 

 こいつだけは道連れにしてやる。そう思って、言葉を発する……

 

『Charge』

 

「こんの……死ねっ!! グォォッ……死ねぇぇぇッ!!! ギャアァァァ!!!」

 

「ガッ、ゴゲ……ア……ッ、グ……」

 

 必死に撃ち続ける。あぁ、頭が痛い……嘔吐しながら奴に弾をぶち込む。前が見えない、だけど叩かれているのはわかる。その感覚を頼りに……奴に、弾を打ち込み続けた。

 

「……弾切れか? 終わりだなぁ!! 死ね!!!」

 

「ッ……オォォ……!!」

 

「なっ……ウグォォォォッ!?」

 

 奴の腕を掴んで、自分ごと感電させる。殺す、殺さないといけない……仲間だけは殺させない。二人仲良く、地獄に行こうぜ。

 

「死、ねぇ……!!」

 

「こんなもんで……やられるかぁ!! うぉぉぉぉっ!!!」

 

「ごぉっ……が……」

 

 遂に変身が解けてしまった。これが俺の限界か……

 

「はぁ、はぁ……くっ、そぉぉ……殺して、やる……!!」

 

「……はっ、はっ、は」

 

「何がおかしいっ!?」

 

 大ダメージは与えた。後は、みんなに任せる……俺はやはり、英雄の器ではなかったんだ。

 

「はは、は……」

 

「笑うんじゃねぇ!! 死ね!!!」

 

「はっ……」

 

 俺が目を瞑って、二度と覚めない眠りに身を任せようとした、瞬間……硬いものと硬いものが、ぶつかる音がする。

 

「……私の生徒に、何をしている」

 

「は!? お前誰……ぐぎゃあぁ!?」

 

「が、あっ……?」

 

 誰だろう。前が見えない、助かったのか?

 

「……お待たせ。待ったかね? 雪村くん……」

 

「たかね、せん、せい……!」

 

「すぐに終わらせる。だから、これを飲んで待ってて」

 

 口に流し込まれて、少しむせながら飲み込む……これもしかして、回復薬? 体が少し楽になり、前が見えるようになった……頭に、何かが被せられている。もしかして……俺の部屋にあった装置か? どうしてここに……

 

「テメェ誰だよ!? 邪魔すんじゃねぇ、お前も眠らせてやろうか!?」

 

「やれるものなら、やってみるといい。子を守る鷹は、何よりも強いぞ」

 

「生意気なんだよ!! 寝てやがれ、クズ野郎!!」

 

 杖が掲げられて……黄色のオーラが出た。まずいぞ、眠ってしまう。

 

「先生、まずい……!!」

 

「わかってる。先生に任せて……雪村くん、技を借りるよ!!!」

 

「何ほざいてんだよ!! 死にやがれ……っ、どこだ!?」

 

 先生の姿が消えた? いや、違う!!

 

「これは、もしかして……」

 

「オーバード……『Remix』!!」

 

「なに!? ギャアァッ!?」

 

 鷹嶺先生は生身である。だが、その攻撃は一発だけでアリエスに大ダメージを与えていた。一体、どれだけの修行を積んだのだろうか? 前よりずっと早く、鋭く、竜巻が敵を抉り取る。そして、もう一つ……前と違うのは。

 

「早いけど、一定のリズムがある……?」

 

「ご名答……時間を伸ばすのは、難しそうだったからね。それならパワーを上げるしかない……だけど、ただやっているだけでは頭打ちになる。そこで君の技さ」

 

「……スマッシュビートか!? そうか、だから……!!」

 

 鷹嶺先生はスマッシュビートを、自分の技に取り入れたんだ。難しい話じゃない、一般人の俺ですら使える技だからな……攻撃する度にスピードとパワーが上昇するのは据え置き、そこにスマッシュビートを上乗せする!! その威力は……計り知れない!!!

 

「ギッ、ウガッ、ゴァッガァ!!!」

 

「ウォォォォォッ!! ダァァァーッ!!!」

 

「ウギャァァァァッ!!!」

 

 先生が何をしているのか、全く見えない。見えるのは紅い竜巻のみ。そこにリズム良く、斬撃の音が聞こえてくる……アリエスの野郎がぶっ飛んで、柵にぶつかって倒れ込む。

 

「すごい……!!」

 

「ふふふっ、生徒を守る先生は無類の強さだよ? ルイだけにね!!」

 

「……ギャグはやっぱり寒いですね」

 

 俺がそう言うと、鷹嶺先生にダメージが入った。

 

「ひ、ひどい……」

 

「ふざけんな、テメェらァァァァ!!!」

 

「なっ……!?」

 

 奴の体の中に……白い光の球が入っていった。超新星だ!! まずい!!

 

「力が湧き上がってくるぞ……これで殺してやる!!!」

 

「先生、気をつけて……あのサソリ野郎ですらも、相当強くなっていたんです!! どれだけ強いか分かりませんよ!!!」

 

「大丈夫さ。奴がどれだけ強くなっても……私には勝てないよ」

 

 鷹嶺先生は余裕そうだ。アリエスは怒り狂いながら、俺に夥しい数の光弾を飛ばしてきた。

 

「死ね、雪村康太ァァァ!!」

 

「ッ!?」

 

「らぁぁぁッ!!!」

 

 一瞬にして、光弾が全て切り裂かれた。本当に強い、ベルデの時とは比べ物にならない程に……

 

「ははっ……やっぱり、辞めなくてよかったでしょ?」

 

「だね!! 感謝してるよ!!!」

 

「くそっ、なんで寝ないんだよ!! くっそぉぉぉ!!! 寝ろ、寝ろよ!!!」

 

 そういえば、生命エネルギーを奪われていないのだろうか。それとも気合い?

 

「簡単な話さ。この技は体中からエネルギーを引っ張り出して、スピードとパワーに回す私の切り札。修行して強くなった今……お前が少し減らしたところで、問題にならないのは当然だろう?」

 

「ッ、それなら……耐えられなかった雪村は弱いだろ!? 奴にデルタである資格は……」

 

「あるに決まっているだろう!! 彼は自分の一つしかない足を焦がしてまで、必死で戦ったんだ!! 他のみんなだって、最後まで戦意を捨ててはいなかったはずだ!! 何も知らないお前が、私の生徒と仲間を語るな!!!」

 

 鷹嶺先生がそう叫んで、猛スピードで接敵する。奴は頭から雷を出し、先生を撃ち落とそうとしているが……その全てが空振りしている。

 

「畜生、当たれぇぇぇぇっ!!!」

 

「ッ……!?」

 

「させるかよ!!」

 

 俺だって何もせず、ただ寝ていたわけではない。サイガフォンを手に取って、番号を入力しておいたのだ……

 

『Charge』

 

「なっ……うぐぁぁぁぁ!!」

 

「雪村くん、感謝するよ!!!」

 

 奴の攻撃が邪魔されて、見当違いの方向へ飛んでゆく……それでも奴は、先生を近づかせまいと滅茶苦茶に攻撃を放っている。

 

「なんでだっ、なんで当たらねぇんだよ!? ふざけんな!!!」

 

「当然だろう? 一発も当たれないなら……当たらない程速くなればいいんだよ!!!」

 

「グギャッ!! アガガガガァッ……!!!」

 

 連撃が叩き込まれて……奴がどんどんと、宙に浮いてゆく。まさか……このまま空まで上げる気か!?

 

「成層圏まで、旅行をプレゼントしてあげるよ……片道だけどね!!」

 

「ウギャアァァァー……」

 

「……赤い、閃光……」

 

 赤い閃光は奴を連れて、超上空へと向かい……凄まじいスピードの連撃を喰らわせた後……恰も流星のように離脱した。そして、天空で凄まじい爆発が起こる……

 

「やったのか……?」

 

「あぁ、君の勝ちだ……雪村くん」

 

「そんな、鷹嶺先生の手柄ですよ!!」

 

 何とか立ち上がって、そう言う。先生がいなかったら今頃、俺達は……

 

「君が人のことを言える立場かい? あの時、私の勝ちだって言ってたくせに……」

 

「……それもそうですね!! 僕達の勝ちってことで!! 先生こそ大丈夫ですか? オーバードは、負担がすごいはずだけど……」

 

「あぁ、かなり疲れたけど……ごく短時間で終わらせたから、負担は少ないよ。安心してくれ」

 

 それならよかった……そうだ、みんなは!?

 

「業!! 不知火!? 死んでないか!?」

 

「……!」

 

「よかった……!! 元気になってるってことは……!!」

 

 あやめが起き上がり、辺りを見回している……一破さんも起き上がった。どうやら、奴を倒せば元に戻る仕組みだったようだ。

 

「うぅん……業、不知火!! 生きてたんだ……!! そうだ、アリエスは……康太様がやってくれたの?」

 

「いや……俺と先生が二人でやった!!」

 

「鷹嶺先生……来てくれたんだ!!」

 

 先生はあやめに笑いかけている……一破さんもすぐに俺達に気づいたらしい。

 

「……なるほど。先生と雪村さんがやってくれたのか……ありがとうございました。体のだるさが取れているし、エネルギーは戻ったとみて良さそうだな」

 

「これでみんな助かったかな……」

 

「あぁ、きっと助かっただろう。よく頑張ってくれたね、みんな……これからは私も、一緒に戦うよ!!」

 

 しばらく姿が見えなかったのは、修行をしていたからだったんだな。これは心強い味方だ……!!

 

「……来たな。降ってきますよ!!」

 

「え? うわっ!? 隕石……?」

 

「アリエスですよ。一破さん、お願いしますね」

 

 一破さんが無言で頷いて、クレーターに近づいてゆく……煙が晴れると、アリエスの中身が現れた。

 

「うっ、ぐぐ……畜生……!!」

 

「動くな」

 

「っ!?」

 

 上からサイガフォンを突きつけて、奴へと歩いてゆく一破さん。奴は何もできずに、その場で静止している。

 

「アリエス・ゾディアーツ……もとい、坂井慎司。強盗及び、殺人未遂の疑いで逮捕する」

 

「……捕まってたまるかッ!!!」

 

「なにっ!? 一破さん!!」

 

 奴はサイガフォンを弾き飛ばして、スイッチを拾おうとしている。今拾われたら、本当にどうしようもなくなるぞ!? そう思っていた時……一破さんが、奴を羽交い締めにして……首筋に、何かを突きつけた。

 

「動くなと言ったはずだ。アリエスに変身した時点で、射殺許可は降りている。少しでも動いたら、お前の首は飛ぶと思え……!!」

 

「ひっ、ひぃぃっ……!! わ、わかったから……それを、それをしまってくれぇ……!!」

 

「あれは……鉈?」

 

 普通の警官は鉈なんて持っていない。一破さんは……拳銃の他にも、鉈を携帯していたのか? 奴は鉈を首に当てられて、すっかり萎縮している。今度こそ、大人しくお縄についた。

 

「そういえば、ヴァルゴが鉈がどうとか言ってたね……」

 

「本当に持ってたのか……それを知ってるヴァルゴは、一体……?」

 

「私はこいつを連行します。先生は二人を病院に」

 

 先生が頷いて……元々デモンズスレートで弱っていた俺に肩を貸してくれた。

 

「肩を貸すよ、歩けるかい?」

 

「ありがとうございます……そういえば、さっき被せてくれたのは?」

 

「簡潔に言うなら、小型のアンチデモンズスレート電波発信機だね。電池切れが早いのが難点だが、応急措置のために持ってきたんだ……こよりはすごいよ、本当に」

 

 そうだったのか。おかげで助かった……こよりさん様々だ。

 

「こよりさんには感謝しかないな……ありがたや~」

 

「あんまり煽てると調子に乗るから、本人には言わないようにね?」

 

「はーい」

 

 そんなことを話しながら、俺達は三人で病院へと向かうのだった。




 鷹嶺先生の活躍にご期待ください。
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