ダークネクロム隊VS仮面ライダー。
前よりもまずい状況が、すぐに来てしまった。敵はオーガすらもスペックで上回る、強力なライダーが三体、こちらはオーガと一破さんだけ。俺はこの通り、動けない。
「とっとと片付けて帰ろうぜ。時間の無駄だ」
「雪村康太、百鬼あやめ、一破誠二……全員殺せりゃ、ボーナス間違いなしだ!! 何に使おうかなーっと……」
「っ、くそぉ……」
体が動かせない。力を入れても、1ミリたりと動いてくれない……デモンズスレート、本当に厄介だな。なんでこんな機能をつけてるんだよ、つけるメリットがないだろうに。
「三対二か、分が悪いな……」
「三対一だろ。お前生身じゃねぇか」
「舐めてもらっては困る。貴様らは殺人の現行犯だ……殺害も視野に入れさせてもらおう」
一破さんが鉈を取り出した。サイガフォンは、左手に握りしめている……助けに入りたいところだが、地面を這うくらいしかできることがない。
「お前達を倒して、情報を吐いてもらう余!!」
「スペックの低いファイズライダーが何を言っているんだか、ケケケ……」
「さっさと決めてしまおう……こいつらの相手をしても楽しくない」
赤いやつ……遊佐と呼ばれた男が、首を鳴らしながらあやめに接近してゆく。それに続いて、残りの二人も近づいてくる。腕を動かして、雷を打ち込んでやろうとしたが……難なく躱されてしまった。
「不意打ちとは……卑怯者め」
「お前らにだけは、言われたくねぇな……」
「ムカつくなぁ、お前から殺してやろうかァ?」
遊佐がこっちに近づいてくる。そうだ、それでいい。あやめに視線を向けて、攻撃を促した。しかし……
「待てよ……俺達の相手をしてくれないのか?」
「っ!? 邪魔をするなっ!!」
「絶好の機会だし、遊佐が殺すなら殺すでいいだろ……俺達がお前らの相手をしてやる、ありがたく思え」
そうだ、相手は三人……俺達と同人数。俺はこの通り身動きできず、一破さんは生身……最悪の状況だ。誰か助けに来てくれる……なんて、都合のいいことはないだろうし。
「デモンズスレート、だっけ? お陰様でお前を殺せるよ……暁様に感謝だな」
「う、ぐ……この!!」
「無駄な足掻きだよ、そんなこともわからねぇのか?」
ダメか、やっぱり当たらない。どうする!? 頭の上のこいつは簡易版、現状維持しかできない。電池式だから長くは持たないだろう……
「こいつで終わらせてやんよ!!」
『Destroy!!』
「なに!? 雪村、回避しろ!!」
まずい、今あれを喰らったら……俺は潰されて、血煙と化すだろう。普通ならどうにか避けるところだが……生憎動けないんだ。手を開いて、もう一度電撃を放つ。
「ぐ、ぐっ……!!」
「無駄だって言ってんだろ!? 死にな!!」
「康太様!? このっ……どけぇぇ!!」
奴が飛び上がって、左足を伸ばした。飛び蹴りを放つつもりだ。それを見た俺は……笑みを浮かべて、叫んだ。
「一破さんっ!!」
「……そうか!! 喰らえ!!」
「のわっ!?」
飛び上がっていたところに、サイガフォンのバースト射撃を受けて、赤いのがバランスを崩して地面に落下する。受け身を取って、すぐに立ち上がったが……首の皮一枚繋がったな。
「成程な。遊佐を挑発し、デストロイの構えに移行させた上で電撃を放ち、飛びあがらせたところに不意の攻撃で叩き落としたのか……」
「こん畜生!! おい、藤原テメェ!! 何やってんだ!?」
「……生身の人間だから、油断してたよ。人間の癖に中々やるな……」
一破さんも中々善戦できているようだ、攻撃に当たらないように回避したり、鉈で剣を受け流したりしながら斬りつけている。
「警察官を舐めるな!!」
「おい、ネクロムになってんのに何やってんだ!?」
「仕方あるまい。藤原はそこまで強くないしな……交代だ、遊佐。お前が一破を相手しろ、藤原は動けん雪村にトドメを刺せ」
……正しい判断だ。俺はこのとおり動けない、有能な人材を一破さんに回すのは、この上なく正しいと言えるだろう。流石は財団X……
「オラ、どうした!? 受け流すのと避けるだけじゃ……俺には勝てねぇぞぉ!!」
「くそっ……雪村、何か考えつかんか!?」
「オーガもこの程度か。所詮ファイズライダー、やはり最強は財団Xだ」
あやめは変身しているので、ある程度は戦えているが流石に、隊長格だけあって強いらしい。中々攻撃が命中しない……考えつきたいところだけど、俺の作戦は俺の体が使えないと成立しない。その上、目眩で頭が回らないのだ。俺、ただの足でまといじゃねぇか。
「ッ、この……!!」
『Exceed Charge』
「おっと、危ない」
金色の剣も難なく躱された。どうすればいいんだ……俺以外、誰か一人でも死んだら終わりだぞ。もう少し、早く這うことができれば……戦えるのに!! 力の入らない腕で、地面を叩く。
「さらばだ、雪村康太」
「ぬ、うぁっ……!!」
「……しぶといな。まだそんな力があるのか」
奴の足元に電撃を纏った手を伸ばしたが、失敗した。やはりダメらしい……万事休すか? 俺がそう思っていると。
「オラァァ!!」
「なっ……!?」
「もらったぜ!! 死にやがれぇ!!」
一破さんの鉈が折られて、地面に落ちてゆく。そこを逃さず、目の装飾のついた剣を振り上げている……あれじゃ避けられない!!
「人間様!?」
「一破さんっ!!」
「ヒャッハァァ!!! ……はぁ?」
遊佐は仮面の下で笑いながら、剣を一破さんへと振り下ろした。確実に真っ二つになる軌道……しかし、一破さんには傷一つついていない。その理由は……
「おい」
「……なんだお前?」
「お前は……!?」
そこで助けに入ってくれたのは、あやめでも俺でも、ライダーですらなかった。この状況が信じられない……だって、そいつは。
「ヴァル、ゴ……!?」
「なんでここに……?」
「おい、放しやがれッ!! 仕事の邪魔だ!!!」
ヴァルゴは重力の杖で、ネクロムの一撃を受け止めて奴の腕を掴んでいる。遊佐は激昂しながら、腕を振りほどこうとしているが……ヴァルゴは、無視して重力波を打ち込んだ。
「うぉらぁぁ!!」
「ぐぇぇっ!?」
「よう、久しぶりだな一破? また会えて嬉しいぜ」
ネクロムを軽々跳ね飛ばした後、一破さんの方を振り向いて、明らかに機嫌の良い声で言うヴァルゴ。当然、一破さんは素直にお礼を言ったりはしない。相手が相手だ、当然の対応だろう。
「……何のつもりだ。私は貴様らの敵だぞ」
「わかってるよ、助けたんじゃねぇ……ケーキのイチゴ最後に取っといたのに、勝手に食われたらキレるだろ? そういうことさ」
「どういうことだ……貴様は財団Xと協力関係のはず!!」
そう叫ぶ鳳に、ヴァルゴが興味無さげに呟く。感情の変化が激しい奴だな……
「違う。一破探しの一環で協力しただけだよ、面白そうだから協力してやったが、そろそろつまらないし辞める気でいるぜ……邪魔だった奴も消せそうだしな」
「ヴァルゴはゾディアーツ達の仲間じゃない……?」
「そういうこったな。俺の獲物を盗るなら、テメェらもまとめて、バラバラにしてやるよ……覚悟しやがれ」
ヴァルゴが肩を鳴らしながら、ネクロム達を見据えた。夥しい殺意が、ヴァルゴから溢れ出している……
「……ひとつ聞かせろ。貴様の目的はなんだ?」
「お前を俺の手で殺すこと。それ以外に興味はねぇ」
「そうか……今だけは協力してもらうぞ、ヴァルゴ!!」
一破さんがそう言うと、ヴァルゴが笑った……ような気がした。一破さんとヴァルゴが、ネクロム軍団へと向かってゆく。
「お前はそうでなくっちゃな、一破!!」
「知ったような口を聞くな!! 犯罪者が!!」
「藤原、一旦戻ってこい。こいつらと三対一に戻す」
黄色のネクロムが去ってゆく……しかし、ヴァルゴは怯まない。
「数だけ多い奴らめ。まとめて消してやるぜ!!」
「俺より弱い癖に、舐めた口聞いてんじゃねぇよ!!」
「まとめて消すはこっちのセリフだッ!!!」
そう言った一破さんが、サイガフォンを撃ち込みながら黄色いネクロムに突撃する。もちろん、それを黙って見てはいない。藤原が剣を振り上げる。
「愚かだなぁ……!!」
「そっくりそのまま返してやる!!」
「当たらんよ!!」
サイガフォンが躱された……手を伸ばして、もう一発電撃を放とうとしたが……一破さんは剣を避けて、もう一度懐へと手を伸ばしていた。高速で番号が入力される……あれは。
「カイザフォン……!!」
『Burst Mode』
「隠し玉だ、持っていけ!!」
もう一発が振られる前に、カイザフォンが閃光を12発放つ。奴の体から火花が散って、剣を落とした。一破さんがそれを拾い上げる……
「ぐ、がぁぁぁ!?」
「ッ!? ガンガンセイバーが!!」
「武器は貰ったぞ!! 雪村、これで何か思いつかんか!?」
頼られている。何か思いつけ、俺……一破さんは俺の頭を信頼してくれているんだから。手がかりがないかと他のみんなの戦いを見てみる。ヴァルゴは……
「どうした!? 歯ごたえねぇなぁ!? 調子に乗ってたのに、もうおしまいか!?」
「黙れっ!! この野郎、煽りやがってェ!!」
『Destroy!!』
奴が足裏にエネルギーを集中させて、蹴りを放とうとしている。ヴァルゴはその場から動かず、遊佐を挑発した。
「来やがれ、ゴミが」
「死ね!!!」
「遅せぇよ……ウスノロ」
ヴァルゴは、瞬間移動で難なくネクロムの蹴りを躱して、背中に重力波をぶつけた。大きく吹き飛んで、鉄の柵がひしゃげる。やはり、ルシファーズハンマーを叩き込んでも元気なだけあって、凄まじい強さだな。
「グギャアァァ!?」
「はぁ、弱ぇなぁ……デルタよぉ。お前も寝てないで、何かしたらどうだ? こいつらを殺すとか、俺を不意打ちするとか……色々あんだろ」
「できたら、そうしてるよ……」
一破さんは必死に攻撃を防いでいる、なにか無いか? なにか……思いつけ、俺。でないと、本当にただの足でまといだ。
「……厄介だな。一撃の威力が高いから、迂闊に当たれない。熟練度も相当高いな、一撃当たれば切り崩される」
「そういうことだ!! 早めに諦めた方が……」
「残念だが、私の武器はこの剣だけではないのでな……」
そう言って……奴は先端のブレードを取り外し、薙刀に切り替えた。
「薙刀!? 剣の射程外から振るつもりか……!!」
「そういうことだな、覚悟しろ」
「……一破、さん!! 上部ブレードを取り外して、柄に付け直してください!!」
青い奴のやり方を見た俺がそう叫ぶと、それを聞いた一破さんがその通りにしてくれる。
「わかった!!」
「ナギナタモード? それで何をする気だ」
「まぁ、見てろ……目にもの、見せてやる……!!」
あれで多少の距離を置きながら戦える……蹴りや拳を貰ったら終わりなんだ、絶対にその方がいい。威力より安全の方が大事だよ。
「薙刀か……多少は覚えがあるぞ。どちらかというと、双刃刀のようだが……まぁ、細かいことはいい!」
「それがどうした、スペックは俺の方が上だぞ!!」
「どうかな……雪村が何を考えるかは私にもわからん、もうお前は術中かもしれんぞ!!」
遠心力を利用して、両刃でネクロムに薙ぎ払いを放つ一破さん。だが、あれでは当たらないだろう。俺も理解して指示している……本命はそれじゃないからな。
「しばらく続けてください!! 当たらなくても構いません!!」
「了解……!! ハァァッ!!」
「……チィッ!!」
これでは近づくことができない。しかし、武器を取り出すために隙を晒せば……薙刀で切り崩される。そしてこの男、油断が多い気がする。恐らく、感情を優先しがちなんだろう……そういうタイプは、こういった状況でフラストレーションが溜まり続ければ。
「おい、藤原ッ!! そんな奴なんて早く片付けて、早く助けに来い!!」
「うるさい!! この……クソォォ!!」
『Destroy!!』
やはりな……必殺技で、一気に膠着を崩すつもりだ。しかし、それこそが命取り。遊佐の失敗を見たならば、飛び蹴りはしないはず。それなら選択肢はひとつ、一破さんの目の前で踏み込み、その場で足裏をぶち込むしかない。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
「……今だ!! 転ばせろ!!」
「成程な……!!」
薙刀の特徴は遠心力と、それによる薙ぎ払い。中距離武器の代名詞である、槍の登場以降は下火だったらしいが……地上にいるまま蹴りを叩き込む以上、片方の足で踏み込んだ後、足を突き出さねばならない。その状態で足元を薙ぎ払えば……転ぶ!!
「うわぁぁっ!?」
「何だと!? 藤原、何をやって……」
「ほう……やるじゃねぇの。頭が回るな」
鳳が驚愕し、ヴァルゴが感心の声を上げる。しかし、バランスを崩したからといって、大人しく尻餅をついてくれはしない。蹴りを喰らうのを遅くしただけ……俺の作戦には、その一瞬で十分だがな。
「片方を外して、奴に突き刺して!!」
「なに!?」
「よし、喰らえ!!」
怯んだ奴の腹に、片刃が突き刺さる。奴が呻く前に、もう一回叫んだ。
「蹴りで押し込んで!!」
「ぬぅぅあぁっ!!」
「ぐげぇぇあぁぁぁーっ!!!」
奴に刃が深く食い込む。その隙を逃さず、俺は最後の一撃を指示した。
「今だ!! 剣で変身アイテムを切り離せ!!!」
「わかったッ!!」
「が……あぁぁぁ!?」
外れた。変身アイテムが外れたので、当然ながら奴の変身は解除される……やったぞ!! ネクロムを一人倒した!!!
「剣は消えたか……しかし、これで三対二だな。ネクロム!!」
「チッ……油断するからこうなるんだ!!」
「テメェが言えたことじゃねぇだろ、えぇ!?」
そう言って、ヴァルゴがブラックホール弾の雨を降らす。もちろんそれは躱されたものの……ヴァルゴはその程度で諦めない。瞬間移動で遊佐の後ろに立つ。そこに大剣の一撃が振り下ろされたが……
「わかってんだよ!!」
「軽いなぁ……一破の鉈の方が、よっぽど重かったぜ!!」
「グハッ!?」
斧のようになっている部分を腹部に叩き込み、遊佐の怯んだところへ……ヴァルゴの拳が顔面へ飛んでゆく。ネクロムのマスクがひしゃげて、ヒビが入った。思わず仰け反ったところへと、両手を叩きつけて地面に倒す。
「なんて威力だ……!!」
「死にやがれぇぇッ!!」
「なっ……!?」
それを認識する間もなく……遊佐に、両手で掴まれた横向きの杖が、叩きつけられた。それは斧として、奴の肉を容赦なく抉る。それを何度も、何度も、地面が割れる程、血塗れになりながら叩きつけてゆく。心底、楽しそうに笑いながら。
「ギヒィッヒッヒッヒッヒッヒ!!!!」
「ウギィアァァァァーッ!!!」
「ヒィィハァァーッ!!!」
ズドン、と。一際大きな音がして……ギロチンの如く遊佐の首が跳ね飛んだ。それを見ても全く意に介すことなく、殺人という行為にただ笑い続けるヴァルゴ。首が俺のところに転がってきた……
「おい!! 何もあそこまでせずとも、奴は……」
「これくらいしないと、ストレス発散にならねぇんだ。仕方ねぇだろ? 先に殺しにかかってきたのはあっちだ、何したって構わねぇだろ? 一破?」
「そんなわけがないだろうが!! 犯罪者といえど、必要ない拷問で殺すのは犯罪だ!!」
一破さんが怒りを露わにしても、ヴァルゴは怯まないどころか喜びを見せている。マゾヒスト……というわけではなさそうだが。
「その怒り……ギヒヒッ、昔に戻ってきたなぁ、一破。それでいいんだ、大人しいお前なんてお前じゃない……だろ?」
「お前はさっきから何を言っている……!?」
「ここで見せてやりたいところだが、また邪魔が入りそうなんでな。次会った時に見せてやるよ……じゃあな? また会おうぜ」
ヴァルゴは瞬間移動で消えてしまった。最後はあいつか……隊長格一人だけ。少し見ない間に、あやめが優勢になっている……流石だな、もう適応したか。千年以上修行しているだけある。
「ぬぅっ、適応が早すぎる……!! 貴様、何者だ!?」
「百鬼あやめ!! 代々続く鬼人の家系、百鬼家の跡継ぎだ!!」
「おのれぇぇ……!!」
押してきている。あと少しだ……!! 俺は、最後の力を振り絞って、奴に手を翳した。
「今だ……!!」
「ぐっ!? これはっ……!?」
「油断、大敵だ……!!」
電撃が当たった。少し怯んだだけだが……それだけで俺達には十分。あやめがオーガフォンを操作して、剣に業と不知火を宿らせる。
『Exceed Charge』
「奥義!! 鬼神焦熱斬ッ!!!」
「しまっ……グワァァァァッ!!!」
鬼神焦熱斬には流石にネクロムの装甲も耐えられず、為す術なく爆散した。これで……何とかなったな。この街は守られた……
「やった……みたいだな」
「助かった。的確な指示だったぞ」
「どうも、ありがとうございます……あ、そうだ」
血を流して倒れているが、まだ息はしている。流石は財団X職員だな……藤原を連れて帰らないと。手がかりを知っているはずだ。
「そうだった、忘れてた余……!!」
「おい、立て。殺人の共犯と器物損壊、暴行の現行犯で……ん?」
「う……うぎっ!? あ、あぁぁぁぁっ!!!」
突如として、藤原が頭を抱えて苦しみ始めた。まさか脳内出血か? いけない、死んでしまったら元も子も……しかし、俺の心配は外れることになる。
「なんだ、体から黒い煙が……!?」
「お、おやめくださいッ、どうか、お許しを……!! う、グァァァァァ!!!」
体から出る煙が、どんどん濃くなってゆく。その時、藤原の体から、黒いスライムのような物が出てきて……凄い速さで、自分と同じ物体に変換してゆく。
「これは、財団X跡地にあったのと同じ……離れろッ!! 触ったら腐ってしまうぞ!!」
「ってことは、仕込んだのは暁……!? おい、やめろ!!」
「あ、ァ……ガ……」
一瞬のうちに、体は綺麗さっぱり消えてなくなり……そこには、地面を腐らせ続ける黒いタールのような液体だけが残った。
「消えちゃったけど……なんだろう、これ?」
「触るな、百鬼!! それに触れるとなんでも腐るぞ!!」
「……なんか触ってると、嫌な感じがする……」
あれ……? 腐らない? 何故だ?
「財団Xのライダーなら、ある程度の耐性があるのか……?」
「嫌な感じっていうのは……生暖かいとか、痛いとか、そういう感じか?」
「ううん。なんか……嫌なことを思い出しちゃった時、みたいな感じがするの」
嫌な記憶……? 暁は、嫌な記憶の怪人なのか?
「記憶……うーん、わからないな」
「持ち帰るのは難しいか?」
「キツいかな……これを持ってると、心がやられちゃいそう」
腐敗効果以外にも、精神に影響する効果があるらしい。それが何なのかはわからないが……とりあえず俺は帰って、治療を受けないと。俺達は黒いタールとなった藤原を見ながら、治療を受けに行ったのだった。
一日後。俺はお医者さんにまたもや呆れられていた。様式美だな。
「……そんな状況の中でも離脱せず、危険を承知で補助し続けるなんて……死にますよ?」
「死んだら死んだで構いません……とか言ったら、あやめに怒られるからやめておきます」
「はぁ……百鬼さんに言いつけられたいんですか?」
それはやめて欲しい。あやめは、多分怒らせたら凄く怖いタイプだ。絶対に包丁じゃなくて、刀持って迫ってくる。
「怖そうなのでやめてください」
「死ぬことよりも、そっちの方が怖いんですか……」
「はい」
なんでかって言われても分からないが、そっちの方が怖い。
「とりあえず、安静にしておいて下さい……貴方が大人しく聞くかどうかは、わかりませんがね」
「いつもすみません……」
「申し訳ないと思うならせめて、来る回数を週一にするくらいはしてください……それでは」
そう言って、お医者さんは去っていった。さてと……多分、来る頃だよな。
「失礼します」
「一破さん、どうも」
「やはり起きていましたね。それでは……」
そういえば、ずっと気になっていることがある。俺は一破さんに尋ねた。
「一破さん。戦いの時は普通に話してくれるのに、どうして今は敬語なんですか?」
「……敬語でない方がよいとでも?」
「だって、仲間でしょ?」
一破さんがそれを聞いて……少し考えた後、口を開いた。
「じゃあ……説明するから、よく聞いておけ。一回しか言わんぞ」
「はい!」
「……調子のいい奴だな。まず、タールのような腐敗物質にやられた藤原については詳細不明だ。何が起こったのか、あのスライムがなんなのか……何も分からない。生命反応も、熱源反応も見られなかったから、生きてはいないようだ」
生物ではない。それなら、装置だと見るのが妥当か。奴らだけに仕込んでいたとは思えないし……
「……シザースは司法解剖をされたんでしたよね? 同じ物は、見つからなかったんですか?」
「あったら、とっくに気づいている。恐らく、負けてもまだ生命反応があった場合に発動し、体を黒い腐敗性の液体に変えるのだろう。凶悪な装置だ……」
「情報を与えないために、か……」
あんな死に方を仲間にさせるとは、やはり外道だな。財団Xめ……そうだ、あれはどうなった?
「そういえば、例の『ネクロム』に変身するアイテムはどうなりましたか? あれも藤原みたいに……?」
「いや、私が持っていたお陰で無事だ。今は博衣さんに渡して解析してもらっている。乱暴に切り離したせいで変身は不可能だが……収穫はあったぞ」
「あったんですか!?」
やはり、仮面ライダーの変身アイテムを奪取出来ればメリットは大きいんだな。ハイリスクハイリターンだ。
「財団Xから、今井の時に奪取した書類の中の道具と、見た目や機能が一致したそうだ……財団Xによれば、呼称は『メガウルオウダー』らしい」
「メガウルオウダー、か……変身するライダーは?」
「仮面ライダーネクロム。今回の奴と同じ名前だな……もし変身できれば、強い味方になってくれるだろう」
今回のことでわかったことは、それと……もう一つ。
「奴らはやっぱり、財団Xからゾディアーツスイッチをもらっただけ……製造プラントがあるってわけじゃないみたいですね」
「そのようだな。仕事だとか、貰った分はやるだとかの発言を鑑みるに……関係はそこまで深くないか」
「お得意様って感じではなかったですもんね……企業として怪しいのは、やっぱり……」
ここまで来ると、やっぱり疑わざるを得ない。
「心当たりがあるんだな?」
「……ギャラクシーコーポレーション。いきなり出てきて、初っ端から光線を誤射したと思ったら……それから成果なし。俺達が必死にゾディアーツを探してる時も、何の協力もなかった……ハウンドの時も、都合よくスコーピオンとメテオが来ている。偶然とは思えない」
「あぁ。私もそれは思っていた……内部に捜索をかけられればいいのだがな。証拠がないせいで、申請ができんのだ」
……入ることだけなら、できるかもしれない。
「入ることだけなら、できるかもしれません」
「なに? 策があるのか?」
「はい。私から学園長にお願いします……一破さんも、来てくれますか?」
そう言うと……一破さんは二つ返事で了承してくれた。
「あぁ、もちろん。何も無いならそれでよし、何かあるなら……徹底的に調べさせてもらおう」
「僕達が気を引きます。その間に……お願いしますね」
「わかった。しくじるなよ、雪村」
作戦は決まった。奴らには絶対に、何かある……調査させてもらおう。
「一破さんもね?」
「じゃあな、雪村。私は事後処理で忙しいから……また会おう」
「はい、また明日!!」
一破さんは何も言わずに去っていった……かっこいい後ろ姿だ。
「例によって、明日には退院できるだろうしな……この旨を学園長に言おう」
ギャラクシー側にメリットを提示して、それに乗せるんだ。交渉の基本中の基本……
「明日までに色々考えとかないとな……」
俺はそう呟きながら、その日は眠った。
時間は少し遡り……戦いの後、財団X本部。暁が書類に目を通しながら、コーヒーを飲んでいる。そこに、一人職員が入ってきた。
「暁様、失礼します」
「何の用だ」
「はっ。ダークネクロム隊は雪村康太、一破誠二、百鬼あやめ、そして乱入したヴァルゴ・ゾディアーツに撃破された模様です」
簡潔に要件を伝える職員。振り向くこともせず、暁が言う。
「わかった。下がれ」
「貴重なお時間をありがとうございました」
「……計算通りだ」
ニタリ、と。そんな効果音がしそうな程、暁が口角を不気味に上げた。
「そろそろ潮時だな……大金をむしり取れるだけむしり取ったら、奴らに排除してもらうとしよう……どうせ、奴らは負けんしな。仮面ライダーが、英雄様が、正義の味方が……負けるわけがない」
しかし。そう言葉に出さずとも、その場にいればそう言いたいことが、気配だけでわかる。
「会長と私だけは例外だ。仮面ライダーはここで終幕となる……財団Xこそが世界を、時代を掴むのだ……!!」
相変わらずの会長への心酔を露にして、歪んだ愛情の笑みを浮かべる暁。
「そのためにも……雪村康太、そして……そこに群がる有象無象共に絶望を与えてやらねばならん」
暁が手に力を込める。持ち手が壊れ、暁の手の皮膚が切れたが……そこから出てきたのは、赤い血ではなく、真っ黒な血だった。すぐに血は止まり、皮膚が再生される。
「首を洗って待っていろ、邪魔者共。貴様らの希望も、正義も、勇気も……全て、へし折ってすり潰して砕いて焼いて溶かして、絶望の底に沈めてくれるわ……!! ク、クク、クハーッハッハッハッハ!!!」
財団Xに暁の笑いが響く。会長への心酔と、ライダーへの憎悪に溢れた笑いが。
話が動きます。