お待たせしました。
……ダークネクロムが倒された、その日の夜。いつもの様に、ホロスコープスが集合していた。
「さて……八神。ダークネクロムを殺害したと聞いたが」
「当たり前だろ、一破を奪うなら誰だろうと殺す」
「貴様! 社長の呼んだ助っ人を殺すとは……!!」
怒りを露にする神宮寺を、いつも通り制止する神谷。
「やめておけ、水瓶座は回収できたんだ。こいつが暴走するよりはマシだろう」
「よくわかってんじゃねぇの」
「……来たな?」
そこに現れたのは、何かを期待している顔の佐々木であった。いつも通り、笑いながら神谷に跪く。
「リブラ・ゾディアーツ、ただいま推参致しました」
「あぁ……それで?」
「私は水瓶座を発見し、その他ホロスコープスを大量に見つけました……して、私の給料は!?」
その場にいる全員が……佐々木に冷たい目線を送る。佐々木は混乱した様子で、当たりを見回している……
「な、なんだ貴様ら? 何故そんな目で私を……」
「佐々木。貴様はもう用済みだ……お前が見つけたホロスコープスは、何の成果も上げなかった。水瓶座を手に入れた今、お前に価値はない。八神、殺れ」
「そ、そんな……!? 社長、どうして……!?」
言い切る前に、八神がスイッチを押した。佐々木も、咄嗟にスイッチを押して臨戦態勢を取ったが……反応が遅すぎた。
「死にな!!」
「ぐぉぉあァ!?」
「しぶといなァ……ゴキブリかよ」
大怪我を負わされたリブラが、地面に這い蹲る。その姿を見下して、首に斧杖を当てるヴァルゴ。その姿は、正に処刑人だった。
「言い残すことは聞いてやらねぇよ。死にな、ゴキブリが」
「……あぁぁぁっ!!!」
「ッ!?」
だが、火事場の馬鹿力とは恐ろしいもので、リブラは八神の斧杖を跳ね除け、能力で姿を消して走って行ってしまった。
「逃げられた!? おのれ!!」
「待て、深追いするな」
「ここまで来て殺すなってか? そりゃねぇだろ、社長よぉ」
そこにいる全員が不満げに神谷を見つめる。しかし、神谷が嫌な笑みを浮かべて言った。
「考えてもみろ。奴がクビになった原因は、間違いなくライダー共にある……あいつの能力でホロスコープスを差し向けて、ついでに自滅してくれれば……一石二鳥というやつだ」
「なるほど……そういうことでしたか」
「……別に構わねぇが、一破とはもうすぐ戦えるんだよな?」
イライラしているヴァルゴが、神谷を急かす。しかし神谷は余裕そうだ。
「大丈夫さ。お膳立てはもうできている……奴が消えたらすぐにやってやるさ」
「楽しみにしとくぜ……さてと、ベッドの新調は済んでるよな? 俺は寝直すよ」
「あぁ……さて、神宮寺。佐々木が生き残ったら……始末しておけ」
そう言われた神宮寺が、ゾディアーツに変身して駆けてゆく。神谷は腕置きで頬杖をつき、溜息を吐いた。
「あの無能めが……最後の働きにだけは期待してやる、ありがたく思えよ」
そう言った神谷も眠りはじめて……建物内は、静かになった。
さて。例によって退院できた俺は、いつものトレーニングをこなして、学園長のところへ行く。お願いしたいことがあるからだ。学園長室をノックする……
「これが通じるといいんだが……学園長。雪村です」
「いいよ、入ってくれ」
「失礼します」
一礼して、部屋の中へ入った。学園長は変わらない、元気そうにしている。
「座ってくれ、お茶でも出そう」
「そう言うだろうと思って、用意しておきましたよ」
「ありがとうございます」
お礼を言って、口をつける。やっぱり熱いな……
「それで、今日も何か報告があるのかい?」
「いえ、今回はお願いがありまして……」
「お願い?」
俺は頷いて、続きを話す。
「はい。結論から言うと、学園長からギャラクシーコーポレーションの見学をお願いして欲しいんです」
「……ギャラクシーコーポレーション? 何故だい?」
「率直に言って、私と一破さんが怪しいと考えているからです」
学園長は耳を傾けてくれている、協力してくれている会社を疑うなど……という考えは、至極真っ当だと言えるだろう。しかし……今回ばかりは獅子身中の虫だ。
「……根拠は?」
「はい。まず、衛星によるペルセウスへの誤射……そして、『調査衛星』として打ち上げたはずのものが、私達学園側にほとんど情報を与えていないことです」
「ゾディアーツ達が見つからないように、敵が財団Xの力で妨害工作をしている可能性は?」
その可能性も考えたが、ないと見ていいだろう。
「いいえ、その可能性は低いです。根拠として、今回のライダーである『ダークネクロム』の三人は、そこまで奴らに友好的ではありませんでした。少なくとも……お得意様にする態度ではない」
「なるほど……十分有り得るね。だが、それがもし本当だったとして……奴らは、見学を受け入れないのでは? もし受け入れたとしても……リスクとなる一破さん達は入れないようにするだろうし」
「そこも考えてあります。ご安心ください……奴らに、自分達の技術やいい部分を見せれば、疑いを晴らして『味方』認識の補強になる、と思わせたいです。一破さん達を連れて行くのは直前まで内密にして、行った時に抜き打ちで調べるようにしたい」
奴らだって、それが分からないほど馬鹿じゃないはずだ。そこに舞い込んだ、信用ダブルアップのチャンス。釣れてくれる可能性はある……!!
「わかった……やってみよう。私もやれるだけのことをやる……君はいつも通り仕事をしていてくれ、成功したら連絡する」
「ありがとうございます! はぁ、説得成功だ……」
「君の思考力は衰えていないな……またパトロールだろ? 頑張ってくれよ」
そう言われて、立ち上がる。装置を使ったら、すぐに変身してパトロールへ行こう……
「はい、それでは……お願いしますね」
「任せてくれ」
「失礼します……ありがとうございました」
そう言って一礼し、部屋を出る。装置を使用した後、パトロールに行こうとすると……
「雪村くん、これからパトロール?」
「あぁ、そうだけど……って、どちら様?」
「やだなぁ雪村くん、わかんないの? るしあだよ!!」
目の前の人は、自身を潤羽さんだと名乗っている……だが、おかしい。髪が一気に背中まで伸びている、黒いリボンでツインテールにしても、まだまだ余っている。その上、色もピンク色になっているし……服装も、黒を基調としたものになった。
「……数日の間に髪が伸びすぎじゃないか?」
「これ? これはね、るしあが一人前のネクロマンサーになって、お姫様になれたからこうなったの!! すごいでしょ?」
「うーん……不思議なことがあるものだな。それで俺になんの用?」
しかし、声は前と同じだし……目の色は変わってない。偽物だと割り切るには、情報が少なすぎるだろう。
「やっぱり気になるよね? わかった、見せたげる……」
「ポケット? そこに何が入ってるんだ?」
「ふふふ、あははは……!! これだよっ!!」
目の前に差し出されたものは……他でもない。ゾディアーツスイッチだ。それも、ホロスコープスのもの……
「なんだと!? おい、それを早く渡せ!!」
「雪村くんならそうするよね。けど……強くなったるしあには勝てないよ!! あははははは!!」
「変身!!」
敵は言うことを聞く気がない。それがわかった時点でデルタギアを装着する……
『Standing by』
「させないよ!!」
「狙いが甘いぞ!!」
トランプを投げつけてきたので、それを弾き落とす。すぐに爆発したが……煙幕になって好都合だ。そのままデルタフォンを差し込んだ。
『Complete』
「変身されちゃったかぁ……」
「ゾディアーツなら容赦はしない……ここで倒す!!」
デモンズスレートがある都合、ここに来てくれたのはむしろ好都合だ。あやめや一破さんも来るし、勝てない道理はない。
「そこ踏んでていいの? 危ないよ?」
「なに? ……ごぉッ!?」
「トランプ爆弾、ビックリした? 威力抜群でしょ?」
踏みしめる地面が吹き飛び、打ち上げられた。装甲と皮膚が焼けるのを感じる……このゾディアーツ、ライオンと同じタイプ……パワー型らしいな。吹き飛ばされながら分析し、着地する。
「ファイア!!」
『Burst Mode』
「そりゃそりゃそりゃあ!!」
投げつけられたトランプと相殺し合って、一発も当たらない。しかし……それを黙って見ている俺ではない。左右に移動しつつ爆弾を相殺し、爆風の中を突っ切る。銃を戻して、拳を握りしめ……大きく踏み込む。
「もらった!! スマッシュ……!! ぬぐっ!?」
「忘れたの? ゾディアーツである前に、るしあはネクロマンサーなんだよ?」
「アンデッド……!? なんて量だよ!?」
俺の知ってる量じゃない、ざっと数えて50はいる……俺を羽交い締めにしている奴が一人、足に纏わりついているのが五人ほど……それよりも、これはまずい。身動きが取れん……!! 電撃も使えないから、抜け出す方法が俺にはない。
「抜け出されちゃ困るし、さっさと終わらせちゃうか」
「待てぇっ!! ……っぐぅ!?」
「させるかっ!! ……ゾンビだと!?」
一破さんとあやめの声が聞こえたが……二人も纏わりつかれているらしい。
「残念でした……さてと。終わりにしようか……!!」
「くそっ、離せぇ……!!」
「雪村くんが死んだらね、じゃあ……さよなら」
凄まじい量のトランプ爆弾。これが一斉に起爆されたら、俺は終わる……どうする!?
「康太様!!」
「早く抜けろ、雪村!!」
「もう遅いよ!! ……え?」
そこで俺がとった行動は……変身を解くことだった。ゾディアーツが、素っ頓狂な声を上げる……余程意表をつかれたらしいな。もう爆発するのに、どうして装甲を外すのか……というところか。
ドカァァァァァン!!!
「……雪村くんってば、なんであんなことしたんだろう? 頭がいいって聞いてたのに……急にバカになっちゃってさ」
「お前ぇぇ……よくも康太様を!!!」
「おい……勝手に殺すなって、何度言ったらわかるんだ?」
作戦成功だ。笑みを浮かべつつ、デルタフォンを構え直した。
「なっ、なに……!?」
「雪村!? お前、あの一瞬で何を……?」
「あの場から背を向けて、離脱しようとしたんですよ。それだけです」
デルタの変身システムを利用した回避方法だ、うまくいったな。
「どうして……変身を解いたのに、無事なんだ!? 至近距離で炸裂したはずだぞ!!」
「簡単な話だよ。お前が爆弾を貼り付けたのは、俺の体じゃない。デルタの装甲だ……貼りつけられていた物を失った爆弾は、まとめて地面に落ちたわけだな」
「そうか、デルタはあくまで強化装甲……変身を解けば爆弾も外れる!!」
それから俺がやったのは、言った通りのことだ。
「し、しかし……ダメージは大きくなるはず!! あの場から、あの一瞬で離脱するなんて無理だ!!」
「そうだな。だけど……お前がちょうど、アンデッドをくれてたんだ。それが爆風から俺を守った結果……俺は軽傷で済んでるって寸法さ。残念だったな!!」
「くそっ、図に乗るなぁ!! まだまだ爆弾はあるんだ!! 今度こそは……!!」
ゾディアーツが叫んでいる中、俺は冷静に音声を入力して、変身し直しておく。
『Complete』
「ファイア」
『Burst Mode』
狙うのは、あやめに纏わりついてるアンデッドだ……オーガの範囲殲滅力は目を見張るものがある、使えれば一破さんも自由になれるだろう。
「死ねぇ!!」
「……甘いぞ!!」
「るしあのアンデッドが……くそっ!!」
足元の奴らを跳ね飛ばす、オーガならあれで十分だ。
「アンデッドが……よし!!」
「くそっ、お前ら!! あいつを捕まえろ、自由にさせるなぁ!!」
『Exceed Charge』
オーガストラッシュ……こういう相手に、特に有効な技だ。無限射程の剣が、アンデッドを薙ぎ払って斬り裂いてゆく。
「ぬぅんっ!!」
「くそっ、化け物め……!!」
「人間様!! 今助けるから!!」
あやめが一破さんを助けようと、近づいていく。その時……嫌な気配がした。感じ慣れた気配だ……
「避けろ、あやめ!!」
「ッ!? またメテオ……!?」
「私だ、オーガ!!」
間一髪、突き出された錫杖を躱されて……現れたリブラ。懲りないな、お前も。
「今回はメテオじゃないのか?」
「メテオよりもっといいのを見つけたからな。そうだろう、ジェミニ?」
「はい、リブラ様!!」
リブラに心酔した様子で、ジェミニが言う。どうやらこいつも、リブラの眼で見つけた奴らしいな……
「ジェミニ……双子座か!」
「私が職場に復帰するために……貴様には死んでもらうぞ!! やれ、ジェミニ!!」
「リブラ様のために死ね!! デルタァァ!!」
そう言われて、再び向かってくるジェミニ。しかし、今のリブラではあやめを止めることなどできない。
「邪魔するな!!」
「ぐぁぁっ!! おのれ、ジェミニ!! そっちをさっさと片付けてしまえ!!」
「はい!!」
トランプが放射状に三枚飛んでくる。しかし……時間切れだ。飛んできたトランプの一つに、電撃を浴びせる。
「なに!?」
「残念だったな。時間切れだ!!」
「っ、早い……あ゛がぁっ!?」
電撃を纏った全力の拳を、腹に叩き込む。そこから、続けざまに連撃。
「喰らえ!! スマッシュ……ビート!!」
「がぎっ、ごぇっ、あぎっ、うぁっ!!!」
「だぁぁぁぁッ!!」
顔面に二発、子宮へのダメージを狙った拳を三発……合計五発。それらを叩き込んだ後、もう一度踏み込んで顎へアッパーを抉り込む。
「がぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ジェミニ、何をやって……のわぁぁっ!?」
「お前らがやっている間に、私はもう回復したぞ……!! 残念だったな!!」
リブラの背中をサイガフォンで撃ち抜いた一破さんが立っている……メモリを引き抜いて、銃に差し込む。
「チェック!!」
『Exceed Charge』
「や、やめて……!! 雪村くん、友達でしょ!?」
今になってそれを言うのか。ブチ切れて、叫ぶ……
「犯罪組織に自分から協力するような奴が友達であってたまるか!!!」
「させるか……ぐふっ!?」
「邪魔はさせんぞ……!!」
一破さんとあやめが止めてくれているうちに、ポインターを打ち込む。飛び上がって、右足を突き出した……喰らえ。
「だぁぁりゃあぁぁッ!!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
「ジェミニ!? くそっ……!!」
リブラが二人の拘束を抜け出す……だが無意味。奴は人間体に戻っている……捕まえて、一破さんに投げてやる。
「……逃がすか!!」
「させんぞ!!」
「ぐっ……リブラァ!!」
拳を突き出したが、そこにリブラはいない。ジェミニもだ。
「あの一瞬で姿を消したか……これでは追えんな」
「逃げ足の早い奴らだな」
「……康太様。もしかして、裏切られて怒ってるの?」
あやめの言葉に、心中を見透かされる。俺の怒ってる理由がわかった……そうだ。俺は裏切られて怒ってる、仲間だと思っていた人に……信じなきゃよかったな。
「信じた俺が馬鹿だったな……」
「……今となっては、奴はジェミニでお前はデルタだ。仕事に集中しろ」
「はい」
ジェミニとの戦いを終えた俺は、デモンズスレートを抑えた後、パトロールへ出発するのだった。
デルタからどうにか逃げてきた、リブラとジェミニ。物陰で二人が息を切らす……
「はぁ、はぁ……くそっ、なんて奴らだ……戦う度に強くなり、私の上を行く……!!」
「リブラ様、申し訳ありません……るしあが弱いせいで……」
「お前……仮面が取れているな。ということは、お前がもうすぐ『本体』になれるのか」
そう言われて、ジェミニが頷く。
「はい。古い『潤羽るしあ』は消滅し……強い『私』が本体となるのです……あと、リブラ様。敗北は無駄ではなかったようですよ」
「む? ……そうか!! よし……急げよ、私の給料と昇進のためになぁ!!」
「はい!!」
未だに自分の復帰を信じ続けるリブラと、それに心酔する『新しい』潤羽るしあ。次の作戦を練り、体を休めるために、二人は路地裏の闇に消えていった。
ジェミニ・ゾディアーツ、本領発揮。