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……ジェミニ・ゾディアーツとの戦いから、時間を一日遡る。潤羽るしあは、友人である宝鐘マリンと買い物にやってきていた。
「るしあ、急にイメチェンしたいなんて言い出して……どうしたの? 何かあった?」
「まぁ、ちょっとね……着いてきてくれてありがとう、マリン!!」
「るしあのためなら、例え火の中水の中、何処にだって行けるよ!! さぁ、服屋さんにゴーゴー!!」
明るい友人に手を引かれて、笑いながら歩くるしあ。服屋に着いた後、マリンと共に服を選び出す……
「うーん、これかな……いや、こっちもいいなぁ……」
「これとかどうかな?」
「なんか違うような気が……るしあに似合うものって、難しいなぁ」
色々な服を試着しながら、試していく。そして……
「……あ!! これなんてどう!?」
「わぁ……綺麗なのです……!!」
「あと、これとこれ合わせて……ほら、付けてみて?」
言われた通り、るしあがそれに着替えると……
「どうかな? 似合ってる?」
「うわっ、すっっごく似合ってる……!! るしあにベストマッチだよ!! 写真撮っていい!?」
「え、えへへ……そんなにかな?」
白黒の服に、黒いリボン。所謂『ゴスロリ』衣装は、るしあによく似合っていた。それを買って、店を出る。
「いやぁ、ゴスロリは盲点だったなぁ……で、どうしてイメチェンしたいの? ……まさか、好きな人ができた!? 変な男に捕まってない!?」
「そ、そうじゃなくてね。憧れっていうか……その人に近づくために、まずは形から入ろうかなって……だから服を変えて、心機一転……みたいな」
「そうかぁ……るしあが変わっちゃっても、マリンのこと忘れないでね!?」
るしあは困惑しながらも、笑顔で頷いた。それから、変わりたいものについて話しながら、しばらく歩いて……
「じゃあ、ここでお別れだね?」
「またね!! 頑張って強くなるんだよ!!」
「うん!!」
友人に応援されながら、るしあは家に向かって歩き始めた。
「とりあえずジムに行ってみよう……どれくらいできるかわかんないけど……雪村くんみたいに、みんなを守れるように……!!」
「……来いッ!!!」
「え!? むぐっ……!?」
るしあは突然体と口を掴まれて、路地裏へと引き込まれる。当然抵抗し、バタバタと手足を振り回している。しかし、無駄である。何故なら……
「これを押せ!! 早く!!」
「な、なに!? やめて……っがは!?」
「大人しくしていろ!! クソ女ァァ!!」
自身の保身のため、るしあを捕まえて腹を殴り、抵抗する力を奪うリブラ。その執着心に恐怖を覚えながら、るしあは掠れた声で言った。
「雪村、くんっ……たす、け……」
「無駄だ!!」
「あ……!!」
ついにスイッチを押してしまい、るしあの意識が闇に落ちる。それを見たリブラは……心底嬉しそうに笑っていた。
「……ここは!?」
るしあが次に目覚めたのは、自分の家だった。今のは夢だったのか……そう思って、胸を撫で下ろす。しかしその幻想は、すぐに叩き壊されることになった……
「起きた? るしあちゃん」
「えっ? 誰ですか……?」
「やだなぁ、わからないの? 私は……『潤羽るしあ』。あなたと同じ存在だよ」
自分と同じ存在だと宣う、目の前の仮面を被ったなにか。無論、るしあはそれを信じない。
「何言ってるのです!? るしあはそんな髪の色してないし、そんな仮面だって……」
「ふふっ。どっちもわかるはずだよ? ネクロマンサーのおとぎ話……昔から大好きでしょ?」
「えっ……御伽噺? ……まさか!?」
思い出した語句。それを見た『潤羽るしあ』は、顔は見えないが、笑いながら言った。
「そうだよ。『心優しいネクロマンサーは、いつかお姫様になっていました。髪はピンク色になり……力も前よりずっと、ずっと強くなりました』でしょ?」
「だからるしあは、おとぎ話のお姫様みたいになりたくて、頑張ってたけど……仮面はどういうこと!?」
「それはね……ポケットを探ってみたら?」
言われた通りに、るしあがポケットを探ると……そこには、信じられないものがあった。
「……こ、これ……ゾディアーツの……」
「私も持ってるの。私たちは双子座のゾディアーツ……ジェミニなの。そして、私はあなたとは反対の存在」
「反対……?」
るしあの目の前の『潤羽るしあ』が、立ち上がる。
「そう。あなたと私は真反対……私にはネクロマンスの才能があって、努力なんかしなくても強くて、誰よりも可愛い……『潤羽るしあ』だよ」
「……その服は!?」
「あ、貰っちゃった。でもいいでしょ? 私は新しい『あなた』なんだから……今は私が偽物だけど、いずれ私が『本物』になる……すぐにあなたは偽物になって、この世から消えるの。愉快でしょ?」
るしあが怒りに震える。自分を奪い取る? 誰がそのような暴虐を許すだろう……るしあは拳を握って、目の前にかざした。
「ふぁんでっどさん!! あいつを……!!」
「無駄よ」
「えっ……ど、どうして出てきてくれないの!?」
いつもなら、こうすれば出てくるはず。どうして出てきてくれないのか。手に魔力を込めても、一向に出てくる気配はない。それを見た『潤羽るしあ』は、嘲笑の色を隠せていない。
「あっはっはっは、無様ね……まだ気づかないの? もう私が貰ったの。あなたはもう、ネクロマンサーですらもない。ただの怪人になっていくのを楽しむといいわ!! あははははは!!!」
「……そ、んな……」
「じゃあね。私はリブラ様のもとに行くから……そこで気の済むまで泣き喚いて、消えるといいよ」
ジェミニに変身して、『潤羽るしあ』が去ってゆく。『偽物』にされたるしあは、ただ泣くことしかできない。憧れの人に、助けを求めながら……
「雪村くんっ……消えたくないよぉ……助けて……」
そう言ったところで聞こえない。るしあの泣き声は、闇に吸い込まれていった。
俺はジェットスライガーに乗り込み、逃げたリブラとジェミニを探している。奴らを放置すれば、また悲劇が起こるだろう。
「……チッ、隠れてやがるな」
手を口にやり、思わず爪を噛もうとしてしまう。最も変身しているから、噛みたくても噛めないのだが……
「どこに行きやがった……クソッ!!」
例の『監視衛星』は何も言わない。こちらに協力するつもりはないらしいな。
「あれ、電話……? もしもし、雪村ですが」
『雪村くんだね。私だよ』
「学園長!! ってことは……」
声色は明るい……それが表すのは、成功。
『あぁ。社会見学という名目で、潜入できそうだよ……一破さんと警察の人にも、少数だが行ってもらう』
「よかった……!! 何もないなら、それでいいんですが。やはり、何かありそうですね」
『大丈夫さ。一破さんを信じておきなさい……君は君の仕事に集中すればいい』
そうだな。今は奴らを早急に見つけ出して、撃破し、逮捕する……それが俺の役目だ。
「はい、お任せ下さい」
『それと、潤羽るしあさんの話……本当なのかい?』
「……はい。彼女はジェミニ・ゾディアーツとなって、リブラに心酔しています。財団Xのように洗脳できるのなら、思い通りに動かない奴ら……アリエスのような者にはやらない理由がない。よって、洗脳ではないと考えています」
洗脳ではない……つまり、奴は自分の意思で人殺しになることを選んだのだ。許すわけにはいかない……
『そうか……残念だね』
「責任を持って私が倒します。ご安心ください」
『頼んだよ』
そう言われて、電話が切られる。パトロールに意識を戻して、下を見てみると……
「……なんだあれ」
フラフラと歩く、変な風貌の人がいる。心配になり、降りて近づいてみることにした。
「うぅ、あ……」
「仮面……? そんなもの被って、どうしたんですか? 歩きにくいなら外した方が……」
「……!! 雪村、くん……?」
その声を聞いて、俺は一瞬で身構えた。何故なら……
「その声は……ジェミニ!? お前かよ、危うく騙されるところだったぜ。お前も中々変装が上手いな……だが、俺を騙したいなら、ボイスチェンジャーを買っておくんだったな!!」
「えっ……ちっ、違う、るしあは……るしあって、誰……?」
「とぼけても無駄だ!! この場でお前を逮捕する!!」
構え直す。あの時は油断していて、体中にトランプを貼り付けられてしまったが……今度はそうはいかない。
「ち、違うの、わかんない……うぅ……!!」
「スイッチを渡せ!!」
「スイッチってなに……? わかんないよぉ……!!」
頭を抱えて、泣きそうな声で首を横に振っている……今のうちに連絡するか。
「こちらデルタ。ジェミニ・ゾディアーツを発見した、直ちに応援を求む……よし」
「いや……いやぁぁ!!」
「……ゾディアーツスイッチ!! やっぱりお前はジェミニか!!」
やはり、これは猿芝居。騙されなくてよかったな……ポケットに入れていたらしい。
「う……わぁぁぁ!!」
「素直に渡せば、俺の仕事も楽になるが……そう素直なわけねぇよな。今度こそ倒させてもらう、覚悟しろ!!」
「はぁ、はぁ……!!」
息を荒くするジェミニ。理由はわからんが、やるなら今だな。そう思って、ジェミニに向かって走り……顔面へと、一撃。
「うらぁぁっ!!」
「あがっ!!」
「スマッシュビートォォ!!」
急所を抉るように殴っていく。鳩尾に眉間、子宮……眼球、心臓。最後の一撃は、無論顔に。
「うぁぁ、あ゛、がっ、いっ、がぁぁ……!!!」
「るぁぁぁッ!!!」
「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!」
ジェミニが地面を転がる。メモリを取り出して、銃に差し込む……可哀想? そんな感情を抱いたら殺される。殺られる前に殺るだけだ。
「……チェック!!」
『Exceed Charge』
「やめて、来ないでぇ……!!」
トランプを投げてきた。その場から飛び退いて、そのままポインターを打ち込む。
「喰らえ!!」
「あぎっ……」
「これで最後だ!!」
空中で右足を伸ばして、ポインターに蹴りを叩き込む。デルタの必殺技、ルシファーズハンマーだ。
「雪村!! 待て!!」
「ッ!?」
「え……!?」
ポインターに入り込まず、その場で垂直に着地する。一破さんが止めてきたということは、何かあったのだろうか。あやめも着いてきている……
「一破さん、どうして?」
「明らかに様子がおかしい。前に戦った時と様子が違いすぎる……芝居にしても、戦いの最中でまで続けて何の利点がある?」
「……ですが。奴は事実、ジェミニに変身しています。逮捕しなければならないことに変わりはありません」
錯乱していたりするとしても、ゾディアーツを逃がすようなことがあれば、大量死が起きることはカプリコーンで証明されている。野放しにはしておけない……
「だけど、康太様……どうしてアンデッドを呼ばないんだろう?」
「……確かに、呼べば勝てる見込みはあるもんな。だが呼ぶ気配もない……ジェミニ。お前、何がしたいんだ?」
「何も思い出せない……私は誰なの……?」
これが本当だとしても、内容が理解できない。何故、ジェミニは急に記憶を失っているんだ?
「……よく考えたら、大切なゾディアーツがやられてるのに、今だけリブラが来ないのも妙だな……」
「見た目はどうだったの?」
「見た目? 仮面を被ってて、緑色の髪をしてて、緑を基調とした服装で……あれ?」
確かにスイッチを持っていたし、声も同じだ。しかし……他の全てが違う。
「つまり……極めて不可解な話だが、『ジェミニが二人いる』?」
「同じゾディアーツが同時に二人……そんなことが有り得るのか? しかも、同じ名前で同じ声をしてるだなんて」
「あっても不思議じゃないよね……」
ということは……この『潤羽るしあ』は無害で、あの『潤羽るしあ』がジェミニ? ややこしいけど、そうとしか考えられない。
「とにかく、変身を解いてくれ。詳しく話を……」
「……あーあ。せっかく上手くいくと思ったのに、残念だなぁ」
「な……一破さん!!」
飛んできたトランプ爆弾から、二人を庇った。爆弾が炸裂して、俺の体を焼く。
「雪村!? ということは……」
「三人とも、また会ったね……ふふっ」
「あと少しというところで、相変わらず厄介な奴らだ。しかし、最早ジェミニは止められん……」
やはり……なにか秘密があるのか。
「潤羽さんに何をした……!?」
「簡単な話さ。スイッチを押させたんだよ……貴重な、最後のスイッチをな。我が瞳に一点の曇りなし……!!」
「……ジェミニの性質は、二人に分かれることなのか!?」
一破さんが問いかけると、今度はジェミニが答える。
「半分正解かな。もう半分は……私はこの『潤羽るしあ』と反対の存在。こいつよりも才能があって、努力をせずとも強くて、誰より可愛い……完璧な潤羽るしあ、それが私」
「時間が経てば経つほど、ジェミニは本体の要素を吸収してゆく。偽物の証である仮面は……本物だった方へと移り、最終的には『本物』となったジェミニだけが残るわけだな……聞いたところでもう遅い。吸収はもうすぐ完了する」
「あ、あぁぁ……」
やってしまった。俺は……罪のない人に、殺人兵器を向けたのか。ましてや、自分に憧れている女の子に。
「ッ……くそぉぉ……!!」
「騙された……!! 卑怯だぞ!!」
「騙した? 卑怯? 何言ってるの? 『もう』私が本物なんだから、事実しか言ってないよ」
変身が解除された潤羽さんは、倒れ込んでしまった。膝をついている場合じゃない、何とかしないと……俺に何ができる?
「これで私はホロスコープスに返り咲ける……!! 貴様ら全員を殺してジェミニを持ち帰れば、社長だって……」
「貴様ら、自分の保身だけのために人を……!! 雪村!! 吸収などさせるな!!」
「冥土の土産に教えておいてやろう。その女を元に戻すには、その女が自分を取り戻す他ない……だが、それを可能とする思い出など、貴様らにはないだろう? 雪村康太……お前はこいつをあまつさえ撃破しようとした、そんな男には絶対に不可能だろう。万事休すだなァ!! ハッハッハッハッハ!!!」
今から友達を連れてくる? ダメだ、間に合うわけがない。俺がやるしかない、けれど……あれだけ痛めつけて、今頃何を言えようか。
「雪村!! また諦めるのか!! それで後悔するのはお前だろうッ!!!」
「諦めちゃダメ!! 余が時間を稼ぐから……何とかしてあげて!!」
「そんな余裕があるかな!? 超……新星!!!」
ジェミニがもう一体現れて、こちらに向かってくる。
「なっ……!? 増えた!?」
「行かせないっ!! ……なに!?」
「そいつはエネルギーの塊。大爆発するから気をつけてね」
気づいた時には遅すぎた……あやめが為す術なく、大爆発に巻き込まれる。
「ぐぁぁぁぁぁっ!!!」
「オーガが一撃!? 馬鹿な……!!」
「次はお前だよ、警察官!!」
まずい。一破さん一人では、分が悪すぎる……
「ファイア!!」
『Burst Mode』
「やらせると思うか?」
リブラに銃弾が弾き落とされる。そして……
「今だ!! 超新星!!」
「なっ……避けろ雪村!!」
「無駄だ、避けられるわけがない!!!」
ジェミニがこっちに突っ込んでくる。そして後ろには潤羽さんがいる……避けるという選択肢はなかった。
「雪村ァァ!!」
「康太、様……!!」
「死んじゃえ、仮面ライダーデルタ!!」
ドゴォォォォォン!!!
咄嗟に押さえつけたが……しかし、その代償は推して知るべしというところ。体中を焼き尽くされて、変身が解かれた。
「ハッハッハッハッハ!! 無様だな雪村康太!!! 全くあっけない……仮面ライダーは、これで終わりだ!!!」
「がはぁっ!?」
「やっぱり人間だね。超新星使わなくても、全然倒せるよ。さてと……最後はあなただね、るしあちゃん?」
……体をどうにか動かす。だが届かない……
「死にたく、ない、よ……」
「死ぬんじゃないよ。私になるだけ……心配しないで」
「いや、だぁ……!!」
泣いている。彼女を泣かせたのは誰だ? リブラか? ジェミニか? 違う、俺だ。彼女の言い分を聞こうともせず、ゾディアーツを倒すだけの機械であった俺が……彼女を傷つけた。それなら……
「……なに?」
「やらせ、ねぇよ……」
「まだ立つか。死に損ないめ……!!」
彼女を最後まで守って死のう。彼女を見捨てて勝手に死ぬなんて、言語道断だ。これは善行でも何でもない、責任を取っているだけ。
「もう一発くれてやる!! 超……新星!!!」
「……!!」
「今度こそ……死ぬがいい!!!」
どうやっても避けられない。それはもう悟っている、だから……避けない。覆いかぶさって、周りに被害がないようにする。
「ご、おぉ、ァ……」
「フッ、死んだな……惨めな最期だ」
「……あれ?」
足が片方取れた。義手も取れてしまった……しかし、俺はまだ生きている。
「なっ!? 何故生きて……そうか、デモンズスレートの電撃で心肺を動かしたか。しかし……四肢がなくては、庇うこともできまい」
「……」
「まだ庇うっていうの? アホらし……」
正に然り。俺のやっていることはアホらしいだろう、自分から死にに行っているのだから。だけど、この人を見捨てて死なせたら、俺は生きている資格がない。
「や、やめて……死んじゃうよ……!!」
「……」
「え……?」
笑いかける。喋れないけど、それでも……折れた歯と焼け爛れた顔で。
「死ね!!」
「ごばっ」
「そらそら、どうしたァ!? いつものように撃ったり、殴ったりしてみろよォ!!! それすらできんかァ!?」
ジェミニも俺の顔面を蹴り続けている。今、俺は腹を杖で貫かれて、引きずられている。それでも……
「……終わりだな。ジェミニ!! こいつの頭を吹きとばせ」
「了解……さよなら、雪村くん?」
「ハッハッハ……ぐっ!?」
辺りに、鈍い音が響いた。俺の頭が吹き飛んだわけでも、誰かが助けてくれたわけでもない。俺は……残った腕で、リブラの顔面を殴ったのだ。もう一発、構える。
「……まだ諦めんのか!? 死に損ないめぇぇッ!!!」
「……」
「あ……」
何度も地面に叩きつけられる。死ぬのはわかる、でも見捨てるわけにはいかない。最低限の責任として……
「もういい……私が直々に、トドメを刺してやるぞ!! こいつで……終わりだぁ!!!」
「……」
「っ……ぐぁぁ!?」
突然、ジェミニが頭を抱え始める。何が起こった? リブラすら把握できていない……
「ん? ジェミニ、どうした?」
「ぐぅぅ、まさか……どうして今頃っ……がぁぅぅ!!」
「あれは……いや、そんな馬鹿な!? 有り得ん!!」
リブラが俺を離した。地面に落ちて、倒れ込む。
「……そうだった。雪村くんはあの時も……そうやって、痛くても笑ってたよね。どんな目に遭っても諦めない、目の前の人を助けるために……そうだ。るしあは、そうなりたかったんだ!!!」
「ぐぅぅ……あぁ!? 仮面が……消えて!?」
「ということは……そんな馬鹿な!? 戻ってしまったというのか!? このタイミングで!!」
何が起こっているのかが、さっぱりわからない。潤羽さんは助かったのか?
「ぐぅ、う……雪村っ……!!」
「がっ……ぎっ、康太様……うぅっ……!!」
「貴様ら…….致命傷は与えたはず!? なのに何故!?」
みんなが立ち上がっている。何故だ、なぜ立てる?
「雪村、お前の無茶苦茶は変わらんな……お前のことだ、痛めつけた責任を取ろうって魂胆だろう? 足まで取れているのに……馬鹿な奴め」
「康太様は、あんな状態でもお前を殴った……戦ってるのに、一人だけ寝てられないっ……!! 絶対に、勝つ!!」
「るしあの夢は……雪村くんみたいに、強くて優しい、みんなを守れる人になること……雪村くんのおかげで、思い出せた!!」
俺のおかげ? そんなわけがない、君の実力だ……そう言いたくても、言えない。よく聞こえないが、それでも鮮明に聞こえてきた言葉があった……
「人間の底力を見せてやる……!!」
「業、不知火……行くよ。変身ッ!!!」
「ふぁんでっどさん!! お願い!!」
全員が叫ぶ。無論、リブラとジェミニも黙っていない……
「おのれ、雪村康太めぇぇ!!!」
「私を返せッ、潤羽るしあァ!!!」
「返すのはお前だよっ!!」
戦ってくれているのか。爆炎と銃声、爆発音……そしてアンデッドの歩く音。
「ぐぉぉぉっ!? 離せ、アンデッド共……なっ!?」
「でぇやぁぁぁぁッ!!!」
「喰らえぇっ!!」
銃声と装甲を斬り裂く音がした。リブラの絶叫が聞こえてくる。
「ギャアァァァーッ!!!」
「り、リブラ様!? よくも!! 喰らえ、超新星ッ!!!」
「させないよ!!」
顔をどうにか上げる……アンデッドに爆弾ジェミニが捕まって、抑え込まれている。そうか、あれなら安全だ。
「喰らえ!!」
「がぁぁぁっ!? しまっ……」
「今だよ、オーガ!!!」
頷いたあやめが、オーガフォンを操作する。金色の剣へと、鬼火が二つ混ざる。文字通り、『鬼に金棒』だ。
『Exceed Charge』
「なっ……」
「受けてみろ!! 鬼神焦熱斬ッ!!!」
それが振り下ろされて、ジェミニを中心に火柱が上がる。
「うぐぅわぁぁぁぁぁっ!!!」
「お、おのれっ……覚えていろ!! いつか、いつか必ず殺してくれるわ!!」
「待てっ!! ぬぐっ……」
ダメだ、みんな動けないらしい。潤羽さんも力を使い果たしたのか、アンデッドが消えてしまっている。その時……
「メテオ……!?」
「い、いいところに来た……助けてくれ、メテオ!!」
「ヴァルゴから伝言。いい加減に死ねってさ」
そう言ったメテオが、ベルトのスイッチを操作した。リブラは死を悟り、後ずさりしている……
『メテオオン、Leady?』
「ッ……こんの、クソ野郎がァァァ!!!」
『メテオ! LIMIT BREAK!!』
錫杖を躱したメテオが、空中からリブラに右足を突き出し……足裏を、叩き込んだ。リブラが爆発しながら、断末魔を上げて吹き飛んでゆく。
「はぁぁぁぁーっ!!!」
「ぐぅぅあぁぁぁぁぁッ!!!!」
「……リブラが、死んだ……」
しかし、まずい。メテオには勝てない……どうする?
「襲ってこない……?」
「やれって命令は出てない。命令にないことはやらない主義なの……じゃあね」
「首の皮一枚繋がった、か……はぁ……」
もう意識を保てない。潤羽さんが助かったなら、それだけで十分だ。
「こ、康太様……!! しっかり!! 死んだら針千本飲ますからね!!!」
「手伝うよ、あやめちゃん!!」
「服を破いて担架にする、手伝え!!」
そんな声を聞きながら……俺は意識を失った。
次に俺が目覚めたのは……あの世ではなかった。どうやら、間一髪助かったようだ……起き上がってみると、ベッドに突っ伏してあやめが寝ていた。
「……流石に動けない、か」
「ん……康太様……? 起きたの!?」
「あぁ、おはよう。迷惑かけたな、悪い……」
本当に迷惑をかけたのは潤羽さんにだが、あやめにも十分かけただろう。
「バカ……!! 逃げればいいのに、なんで逃げないの……余は、ずっと心配して……っ、ぐす……」
「……ごめん」
「許さない……康太様、生き残る気なかったでしょ」
図星だった。その通り……今回の俺は、死んでも守るつもりでいたしな。
「あぁ……俺は潤羽さんを倒そうとした。なのに、もし見捨てて死なせたら、俺は母さんや父さんに顔向けできない……」
「あんなの、誰にもわかんないよ……なのに、康太様は勝手に責任感じて……大怪我してっ、うぅぅ……」
「ごめんな……」
謝って許されることじゃない。しかし、謝らないのは論外だろう。平謝りするしかない状況だ……
「康太様……今回の罰として、ひとつお願い聞いて」
「いいよ。俺にできることなら……」
「この戦いが終わったら、余と一日デートする。それでいいよね?」
……えっ?
「え、デート……? いいけど、本当にそれでいいの?」
「うん」
「わかった、あやめがそれでいいなら……でも、針千本飲まなくていいのか?」
あまりにも突拍子がなかったから、腑抜けた声を出してしまった。
「余がいいんだから、いいの!! 決まりだね!! もし、次に無茶したら……」
「したら……針千本だよな?」
「ううん、監禁する」
……はい?
「あやめ、今……財団X並に恐ろしい単語が聞こえた気がするんだけど」
「当たり前じゃん。無茶しなきゃいいんだよ」
「わかった……OK、もう無茶できんな」
ナチュラルにおかしいような気がしたが、よく考えてみれば、俺の方がおかしいな。ハイライト消えてるのも気の所為だ。
「そうだ、潤羽さんは?」
「余よりも潤羽さんなんだ……潤羽さんなら、目立った外傷はないってさ。お礼言ってたよ?」
「無事なのか……よかった……」
スマッシュビートを叩き込まれたわけだし……内蔵にダメージがあったりしないか、心配していたが……ないなら何よりだ。
「……」
「俺のことを心配してるけど、あやめはどうなんだ? 思いっきり、ジェミニの爆発食らってたけど……」
「余も今回は結構酷かったね……でも、心配すぎて病室抜け出してきちゃったんだ」
いや、ダメだろ……と言いたいが、俺に言われたくはないだろう。
「そうか……優しいな」
「百鬼さん!! 部屋に戻ってください!!」
「あー、もうちょっとお話させてー!!」
ごねるあやめへと掴みかかって、部屋に戻そうとする看護師の皆さん……しかし、鬼人を押さえつけるのには無理があり……結局、俺が寝るまであやめは部屋にいたのであった。
そろそろ終わりが近いです。