※この作品はR-18です。

仮面を被った、人間達の英雄譚   作:とも667

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術・士・分・裂

……ジェミニ・ゾディアーツとの戦いから、時間を一日遡る。潤羽るしあは、友人である宝鐘マリンと買い物にやってきていた。

 

「るしあ、急にイメチェンしたいなんて言い出して……どうしたの? 何かあった?」

 

「まぁ、ちょっとね……着いてきてくれてありがとう、マリン!!」

 

「るしあのためなら、例え火の中水の中、何処にだって行けるよ!! さぁ、服屋さんにゴーゴー!!」

 

 明るい友人に手を引かれて、笑いながら歩くるしあ。服屋に着いた後、マリンと共に服を選び出す……

 

「うーん、これかな……いや、こっちもいいなぁ……」

 

「これとかどうかな?」

 

「なんか違うような気が……るしあに似合うものって、難しいなぁ」

 

 色々な服を試着しながら、試していく。そして……

 

「……あ!! これなんてどう!?」

 

「わぁ……綺麗なのです……!!」

 

「あと、これとこれ合わせて……ほら、付けてみて?」

 

 言われた通り、るしあがそれに着替えると……

 

「どうかな? 似合ってる?」

 

「うわっ、すっっごく似合ってる……!! るしあにベストマッチだよ!! 写真撮っていい!?」

 

「え、えへへ……そんなにかな?」

 

 白黒の服に、黒いリボン。所謂『ゴスロリ』衣装は、るしあによく似合っていた。それを買って、店を出る。

 

「いやぁ、ゴスロリは盲点だったなぁ……で、どうしてイメチェンしたいの? ……まさか、好きな人ができた!? 変な男に捕まってない!?」

 

「そ、そうじゃなくてね。憧れっていうか……その人に近づくために、まずは形から入ろうかなって……だから服を変えて、心機一転……みたいな」

 

「そうかぁ……るしあが変わっちゃっても、マリンのこと忘れないでね!?」

 

 るしあは困惑しながらも、笑顔で頷いた。それから、変わりたいものについて話しながら、しばらく歩いて……

 

「じゃあ、ここでお別れだね?」

 

「またね!! 頑張って強くなるんだよ!!」

 

「うん!!」

 

 友人に応援されながら、るしあは家に向かって歩き始めた。

 

「とりあえずジムに行ってみよう……どれくらいできるかわかんないけど……雪村くんみたいに、みんなを守れるように……!!」

 

「……来いッ!!!」

 

「え!? むぐっ……!?」

 

 るしあは突然体と口を掴まれて、路地裏へと引き込まれる。当然抵抗し、バタバタと手足を振り回している。しかし、無駄である。何故なら……

 

「これを押せ!! 早く!!」

 

「な、なに!? やめて……っがは!?」

 

「大人しくしていろ!! クソ女ァァ!!」

 

 自身の保身のため、るしあを捕まえて腹を殴り、抵抗する力を奪うリブラ。その執着心に恐怖を覚えながら、るしあは掠れた声で言った。

 

「雪村、くんっ……たす、け……」

 

「無駄だ!!」

 

「あ……!!」

 

 ついにスイッチを押してしまい、るしあの意識が闇に落ちる。それを見たリブラは……心底嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

「……ここは!?」

 

 るしあが次に目覚めたのは、自分の家だった。今のは夢だったのか……そう思って、胸を撫で下ろす。しかしその幻想は、すぐに叩き壊されることになった……

 

「起きた? るしあちゃん」

 

「えっ? 誰ですか……?」

 

「やだなぁ、わからないの? 私は……『潤羽るしあ』。あなたと同じ存在だよ」

 

 自分と同じ存在だと宣う、目の前の仮面を被ったなにか。無論、るしあはそれを信じない。

 

「何言ってるのです!? るしあはそんな髪の色してないし、そんな仮面だって……」

 

「ふふっ。どっちもわかるはずだよ? ネクロマンサーのおとぎ話……昔から大好きでしょ?」

 

「えっ……御伽噺? ……まさか!?」

 

 思い出した語句。それを見た『潤羽るしあ』は、顔は見えないが、笑いながら言った。

 

「そうだよ。『心優しいネクロマンサーは、いつかお姫様になっていました。髪はピンク色になり……力も前よりずっと、ずっと強くなりました』でしょ?」

 

「だからるしあは、おとぎ話のお姫様みたいになりたくて、頑張ってたけど……仮面はどういうこと!?」

 

「それはね……ポケットを探ってみたら?」

 

 言われた通りに、るしあがポケットを探ると……そこには、信じられないものがあった。

 

「……こ、これ……ゾディアーツの……」

 

「私も持ってるの。私たちは双子座のゾディアーツ……ジェミニなの。そして、私はあなたとは反対の存在」

 

「反対……?」

 

 るしあの目の前の『潤羽るしあ』が、立ち上がる。

 

「そう。あなたと私は真反対……私にはネクロマンスの才能があって、努力なんかしなくても強くて、誰よりも可愛い……『潤羽るしあ』だよ」

 

「……その服は!?」

 

「あ、貰っちゃった。でもいいでしょ? 私は新しい『あなた』なんだから……今は私が偽物だけど、いずれ私が『本物』になる……すぐにあなたは偽物になって、この世から消えるの。愉快でしょ?」

 

 るしあが怒りに震える。自分を奪い取る? 誰がそのような暴虐を許すだろう……るしあは拳を握って、目の前にかざした。

 

「ふぁんでっどさん!! あいつを……!!」

 

「無駄よ」

 

「えっ……ど、どうして出てきてくれないの!?」

 

 いつもなら、こうすれば出てくるはず。どうして出てきてくれないのか。手に魔力を込めても、一向に出てくる気配はない。それを見た『潤羽るしあ』は、嘲笑の色を隠せていない。

 

「あっはっはっは、無様ね……まだ気づかないの? もう私が貰ったの。あなたはもう、ネクロマンサーですらもない。ただの怪人になっていくのを楽しむといいわ!! あははははは!!!」

 

「……そ、んな……」

 

「じゃあね。私はリブラ様のもとに行くから……そこで気の済むまで泣き喚いて、消えるといいよ」

 

 ジェミニに変身して、『潤羽るしあ』が去ってゆく。『偽物』にされたるしあは、ただ泣くことしかできない。憧れの人に、助けを求めながら……

 

「雪村くんっ……消えたくないよぉ……助けて……」

 

 そう言ったところで聞こえない。るしあの泣き声は、闇に吸い込まれていった。

 

 

 

 俺はジェットスライガーに乗り込み、逃げたリブラとジェミニを探している。奴らを放置すれば、また悲劇が起こるだろう。

 

「……チッ、隠れてやがるな」

 

 手を口にやり、思わず爪を噛もうとしてしまう。最も変身しているから、噛みたくても噛めないのだが……

 

「どこに行きやがった……クソッ!!」

 

 例の『監視衛星』は何も言わない。こちらに協力するつもりはないらしいな。

 

「あれ、電話……? もしもし、雪村ですが」

 

『雪村くんだね。私だよ』

 

「学園長!! ってことは……」

 

 声色は明るい……それが表すのは、成功。

 

『あぁ。社会見学という名目で、潜入できそうだよ……一破さんと警察の人にも、少数だが行ってもらう』

 

「よかった……!! 何もないなら、それでいいんですが。やはり、何かありそうですね」

 

『大丈夫さ。一破さんを信じておきなさい……君は君の仕事に集中すればいい』

 

 そうだな。今は奴らを早急に見つけ出して、撃破し、逮捕する……それが俺の役目だ。

 

「はい、お任せ下さい」

 

『それと、潤羽るしあさんの話……本当なのかい?』

 

「……はい。彼女はジェミニ・ゾディアーツとなって、リブラに心酔しています。財団Xのように洗脳できるのなら、思い通りに動かない奴ら……アリエスのような者にはやらない理由がない。よって、洗脳ではないと考えています」

 

 洗脳ではない……つまり、奴は自分の意思で人殺しになることを選んだのだ。許すわけにはいかない……

 

『そうか……残念だね』

 

「責任を持って私が倒します。ご安心ください」

 

『頼んだよ』

 

 そう言われて、電話が切られる。パトロールに意識を戻して、下を見てみると……

 

「……なんだあれ」

 

 フラフラと歩く、変な風貌の人がいる。心配になり、降りて近づいてみることにした。

 

「うぅ、あ……」

 

「仮面……? そんなもの被って、どうしたんですか? 歩きにくいなら外した方が……」

 

「……!! 雪村、くん……?」

 

 その声を聞いて、俺は一瞬で身構えた。何故なら……

 

「その声は……ジェミニ!? お前かよ、危うく騙されるところだったぜ。お前も中々変装が上手いな……だが、俺を騙したいなら、ボイスチェンジャーを買っておくんだったな!!」

 

「えっ……ちっ、違う、るしあは……るしあって、誰……?」

 

「とぼけても無駄だ!! この場でお前を逮捕する!!」

 

 構え直す。あの時は油断していて、体中にトランプを貼り付けられてしまったが……今度はそうはいかない。

 

「ち、違うの、わかんない……うぅ……!!」

 

「スイッチを渡せ!!」

 

「スイッチってなに……? わかんないよぉ……!!」

 

 頭を抱えて、泣きそうな声で首を横に振っている……今のうちに連絡するか。

 

「こちらデルタ。ジェミニ・ゾディアーツを発見した、直ちに応援を求む……よし」

 

「いや……いやぁぁ!!」

 

「……ゾディアーツスイッチ!! やっぱりお前はジェミニか!!」

 

 やはり、これは猿芝居。騙されなくてよかったな……ポケットに入れていたらしい。

 

「う……わぁぁぁ!!」

 

「素直に渡せば、俺の仕事も楽になるが……そう素直なわけねぇよな。今度こそ倒させてもらう、覚悟しろ!!」

 

「はぁ、はぁ……!!」

 

 息を荒くするジェミニ。理由はわからんが、やるなら今だな。そう思って、ジェミニに向かって走り……顔面へと、一撃。

 

「うらぁぁっ!!」

 

「あがっ!!」

 

「スマッシュビートォォ!!」

 

 急所を抉るように殴っていく。鳩尾に眉間、子宮……眼球、心臓。最後の一撃は、無論顔に。

 

「うぁぁ、あ゛、がっ、いっ、がぁぁ……!!!」

 

「るぁぁぁッ!!!」

 

「あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ジェミニが地面を転がる。メモリを取り出して、銃に差し込む……可哀想? そんな感情を抱いたら殺される。殺られる前に殺るだけだ。

 

「……チェック!!」

 

『Exceed Charge』

 

「やめて、来ないでぇ……!!」

 

 トランプを投げてきた。その場から飛び退いて、そのままポインターを打ち込む。

 

「喰らえ!!」

 

「あぎっ……」

 

「これで最後だ!!」

 

 空中で右足を伸ばして、ポインターに蹴りを叩き込む。デルタの必殺技、ルシファーズハンマーだ。

 

「雪村!! 待て!!」

 

「ッ!?」

 

「え……!?」

 

 ポインターに入り込まず、その場で垂直に着地する。一破さんが止めてきたということは、何かあったのだろうか。あやめも着いてきている……

 

「一破さん、どうして?」

 

「明らかに様子がおかしい。前に戦った時と様子が違いすぎる……芝居にしても、戦いの最中でまで続けて何の利点がある?」

 

「……ですが。奴は事実、ジェミニに変身しています。逮捕しなければならないことに変わりはありません」

 

 錯乱していたりするとしても、ゾディアーツを逃がすようなことがあれば、大量死が起きることはカプリコーンで証明されている。野放しにはしておけない……

 

「だけど、康太様……どうしてアンデッドを呼ばないんだろう?」

 

「……確かに、呼べば勝てる見込みはあるもんな。だが呼ぶ気配もない……ジェミニ。お前、何がしたいんだ?」

 

「何も思い出せない……私は誰なの……?」

 

 これが本当だとしても、内容が理解できない。何故、ジェミニは急に記憶を失っているんだ?

 

「……よく考えたら、大切なゾディアーツがやられてるのに、今だけリブラが来ないのも妙だな……」

 

「見た目はどうだったの?」

 

「見た目? 仮面を被ってて、緑色の髪をしてて、緑を基調とした服装で……あれ?」

 

 確かにスイッチを持っていたし、声も同じだ。しかし……他の全てが違う。

 

「つまり……極めて不可解な話だが、『ジェミニが二人いる』?」

 

「同じゾディアーツが同時に二人……そんなことが有り得るのか? しかも、同じ名前で同じ声をしてるだなんて」

 

「あっても不思議じゃないよね……」

 

 ということは……この『潤羽るしあ』は無害で、あの『潤羽るしあ』がジェミニ? ややこしいけど、そうとしか考えられない。

 

「とにかく、変身を解いてくれ。詳しく話を……」

 

「……あーあ。せっかく上手くいくと思ったのに、残念だなぁ」

 

「な……一破さん!!」

 

 飛んできたトランプ爆弾から、二人を庇った。爆弾が炸裂して、俺の体を焼く。

 

「雪村!? ということは……」

 

「三人とも、また会ったね……ふふっ」

 

「あと少しというところで、相変わらず厄介な奴らだ。しかし、最早ジェミニは止められん……」

 

 やはり……なにか秘密があるのか。

 

「潤羽さんに何をした……!?」

 

「簡単な話さ。スイッチを押させたんだよ……貴重な、最後のスイッチをな。我が瞳に一点の曇りなし……!!」

 

「……ジェミニの性質は、二人に分かれることなのか!?」

 

 一破さんが問いかけると、今度はジェミニが答える。

 

「半分正解かな。もう半分は……私はこの『潤羽るしあ』と反対の存在。こいつよりも才能があって、努力をせずとも強くて、誰より可愛い……完璧な潤羽るしあ、それが私」

 

「時間が経てば経つほど、ジェミニは本体の要素を吸収してゆく。偽物の証である仮面は……本物だった方へと移り、最終的には『本物』となったジェミニだけが残るわけだな……聞いたところでもう遅い。吸収はもうすぐ完了する」

 

「あ、あぁぁ……」

 

 やってしまった。俺は……罪のない人に、殺人兵器を向けたのか。ましてや、自分に憧れている女の子に。

 

「ッ……くそぉぉ……!!」

 

「騙された……!! 卑怯だぞ!!」

 

「騙した? 卑怯? 何言ってるの? 『もう』私が本物なんだから、事実しか言ってないよ」

 

 変身が解除された潤羽さんは、倒れ込んでしまった。膝をついている場合じゃない、何とかしないと……俺に何ができる?

 

「これで私はホロスコープスに返り咲ける……!! 貴様ら全員を殺してジェミニを持ち帰れば、社長だって……」

 

「貴様ら、自分の保身だけのために人を……!! 雪村!! 吸収などさせるな!!」

 

「冥土の土産に教えておいてやろう。その女を元に戻すには、その女が自分を取り戻す他ない……だが、それを可能とする思い出など、貴様らにはないだろう? 雪村康太……お前はこいつをあまつさえ撃破しようとした、そんな男には絶対に不可能だろう。万事休すだなァ!! ハッハッハッハッハ!!!」

 

 今から友達を連れてくる? ダメだ、間に合うわけがない。俺がやるしかない、けれど……あれだけ痛めつけて、今頃何を言えようか。

 

「雪村!! また諦めるのか!! それで後悔するのはお前だろうッ!!!」

 

「諦めちゃダメ!! 余が時間を稼ぐから……何とかしてあげて!!」

 

「そんな余裕があるかな!? 超……新星!!!」

 

 ジェミニがもう一体現れて、こちらに向かってくる。

 

「なっ……!? 増えた!?」

 

「行かせないっ!! ……なに!?」

 

「そいつはエネルギーの塊。大爆発するから気をつけてね」

 

 気づいた時には遅すぎた……あやめが為す術なく、大爆発に巻き込まれる。

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「オーガが一撃!? 馬鹿な……!!」

 

「次はお前だよ、警察官!!」

 

 まずい。一破さん一人では、分が悪すぎる……

 

「ファイア!!」

 

『Burst Mode』

 

「やらせると思うか?」

 

 リブラに銃弾が弾き落とされる。そして……

 

「今だ!! 超新星!!」

 

「なっ……避けろ雪村!!」

 

「無駄だ、避けられるわけがない!!!」

 

 ジェミニがこっちに突っ込んでくる。そして後ろには潤羽さんがいる……避けるという選択肢はなかった。

 

「雪村ァァ!!」

 

「康太、様……!!」

 

「死んじゃえ、仮面ライダーデルタ!!」

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 咄嗟に押さえつけたが……しかし、その代償は推して知るべしというところ。体中を焼き尽くされて、変身が解かれた。

 

「ハッハッハッハッハ!! 無様だな雪村康太!!! 全くあっけない……仮面ライダーは、これで終わりだ!!!」

 

「がはぁっ!?」

 

「やっぱり人間だね。超新星使わなくても、全然倒せるよ。さてと……最後はあなただね、るしあちゃん?」

 

 ……体をどうにか動かす。だが届かない……

 

「死にたく、ない、よ……」

 

「死ぬんじゃないよ。私になるだけ……心配しないで」

 

「いや、だぁ……!!」

 

 泣いている。彼女を泣かせたのは誰だ? リブラか? ジェミニか? 違う、俺だ。彼女の言い分を聞こうともせず、ゾディアーツを倒すだけの機械であった俺が……彼女を傷つけた。それなら……

 

「……なに?」

 

「やらせ、ねぇよ……」

 

「まだ立つか。死に損ないめ……!!」

 

 彼女を最後まで守って死のう。彼女を見捨てて勝手に死ぬなんて、言語道断だ。これは善行でも何でもない、責任を取っているだけ。

 

「もう一発くれてやる!! 超……新星!!!」

 

「……!!」

 

「今度こそ……死ぬがいい!!!」

 

 どうやっても避けられない。それはもう悟っている、だから……避けない。覆いかぶさって、周りに被害がないようにする。

 

「ご、おぉ、ァ……」

 

「フッ、死んだな……惨めな最期だ」

 

「……あれ?」

 

 足が片方取れた。義手も取れてしまった……しかし、俺はまだ生きている。

 

「なっ!? 何故生きて……そうか、デモンズスレートの電撃で心肺を動かしたか。しかし……四肢がなくては、庇うこともできまい」

 

「……」

 

「まだ庇うっていうの? アホらし……」

 

 正に然り。俺のやっていることはアホらしいだろう、自分から死にに行っているのだから。だけど、この人を見捨てて死なせたら、俺は生きている資格がない。

 

「や、やめて……死んじゃうよ……!!」

 

「……」

 

「え……?」

 

 笑いかける。喋れないけど、それでも……折れた歯と焼け爛れた顔で。

 

「死ね!!」

 

「ごばっ」

 

「そらそら、どうしたァ!? いつものように撃ったり、殴ったりしてみろよォ!!! それすらできんかァ!?」

 

 ジェミニも俺の顔面を蹴り続けている。今、俺は腹を杖で貫かれて、引きずられている。それでも……

 

「……終わりだな。ジェミニ!! こいつの頭を吹きとばせ」

 

「了解……さよなら、雪村くん?」

 

「ハッハッハ……ぐっ!?」

 

 辺りに、鈍い音が響いた。俺の頭が吹き飛んだわけでも、誰かが助けてくれたわけでもない。俺は……残った腕で、リブラの顔面を殴ったのだ。もう一発、構える。

 

「……まだ諦めんのか!? 死に損ないめぇぇッ!!!」

 

「……」

 

「あ……」

 

 何度も地面に叩きつけられる。死ぬのはわかる、でも見捨てるわけにはいかない。最低限の責任として……

 

「もういい……私が直々に、トドメを刺してやるぞ!! こいつで……終わりだぁ!!!」

 

「……」

 

「っ……ぐぁぁ!?」

 

 突然、ジェミニが頭を抱え始める。何が起こった? リブラすら把握できていない……

 

「ん? ジェミニ、どうした?」

 

「ぐぅぅ、まさか……どうして今頃っ……がぁぅぅ!!」

 

「あれは……いや、そんな馬鹿な!? 有り得ん!!」

 

 リブラが俺を離した。地面に落ちて、倒れ込む。

 

「……そうだった。雪村くんはあの時も……そうやって、痛くても笑ってたよね。どんな目に遭っても諦めない、目の前の人を助けるために……そうだ。るしあは、そうなりたかったんだ!!!」

 

「ぐぅぅ……あぁ!? 仮面が……消えて!?」

 

「ということは……そんな馬鹿な!? 戻ってしまったというのか!? このタイミングで!!」

 

 何が起こっているのかが、さっぱりわからない。潤羽さんは助かったのか?

 

「ぐぅ、う……雪村っ……!!」

 

「がっ……ぎっ、康太様……うぅっ……!!」

 

「貴様ら…….致命傷は与えたはず!? なのに何故!?」

 

 みんなが立ち上がっている。何故だ、なぜ立てる?

 

「雪村、お前の無茶苦茶は変わらんな……お前のことだ、痛めつけた責任を取ろうって魂胆だろう? 足まで取れているのに……馬鹿な奴め」

 

「康太様は、あんな状態でもお前を殴った……戦ってるのに、一人だけ寝てられないっ……!! 絶対に、勝つ!!」

 

「るしあの夢は……雪村くんみたいに、強くて優しい、みんなを守れる人になること……雪村くんのおかげで、思い出せた!!」

 

 俺のおかげ? そんなわけがない、君の実力だ……そう言いたくても、言えない。よく聞こえないが、それでも鮮明に聞こえてきた言葉があった……

 

「人間の底力を見せてやる……!!」

 

「業、不知火……行くよ。変身ッ!!!」

 

「ふぁんでっどさん!! お願い!!」

 

 全員が叫ぶ。無論、リブラとジェミニも黙っていない……

 

「おのれ、雪村康太めぇぇ!!!」

 

「私を返せッ、潤羽るしあァ!!!」

 

「返すのはお前だよっ!!」

 

 戦ってくれているのか。爆炎と銃声、爆発音……そしてアンデッドの歩く音。

 

「ぐぉぉぉっ!? 離せ、アンデッド共……なっ!?」

 

「でぇやぁぁぁぁッ!!!」

 

「喰らえぇっ!!」

 

 銃声と装甲を斬り裂く音がした。リブラの絶叫が聞こえてくる。

 

「ギャアァァァーッ!!!」

 

「り、リブラ様!? よくも!! 喰らえ、超新星ッ!!!」

 

「させないよ!!」

 

 顔をどうにか上げる……アンデッドに爆弾ジェミニが捕まって、抑え込まれている。そうか、あれなら安全だ。

 

「喰らえ!!」

 

「がぁぁぁっ!? しまっ……」

 

「今だよ、オーガ!!!」

 

 頷いたあやめが、オーガフォンを操作する。金色の剣へと、鬼火が二つ混ざる。文字通り、『鬼に金棒』だ。

 

『Exceed Charge』

 

「なっ……」

 

「受けてみろ!! 鬼神焦熱斬ッ!!!」

 

 それが振り下ろされて、ジェミニを中心に火柱が上がる。

 

「うぐぅわぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「お、おのれっ……覚えていろ!! いつか、いつか必ず殺してくれるわ!!」

 

「待てっ!! ぬぐっ……」

 

 ダメだ、みんな動けないらしい。潤羽さんも力を使い果たしたのか、アンデッドが消えてしまっている。その時……

 

「メテオ……!?」

 

「い、いいところに来た……助けてくれ、メテオ!!」

 

「ヴァルゴから伝言。いい加減に死ねってさ」

 

 そう言ったメテオが、ベルトのスイッチを操作した。リブラは死を悟り、後ずさりしている……

 

『メテオオン、Leady?』

 

「ッ……こんの、クソ野郎がァァァ!!!」

 

『メテオ! LIMIT BREAK!!』

 

 錫杖を躱したメテオが、空中からリブラに右足を突き出し……足裏を、叩き込んだ。リブラが爆発しながら、断末魔を上げて吹き飛んでゆく。

 

「はぁぁぁぁーっ!!!」

 

「ぐぅぅあぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

「……リブラが、死んだ……」

 

 しかし、まずい。メテオには勝てない……どうする?

 

「襲ってこない……?」

 

「やれって命令は出てない。命令にないことはやらない主義なの……じゃあね」

 

「首の皮一枚繋がった、か……はぁ……」

 

 もう意識を保てない。潤羽さんが助かったなら、それだけで十分だ。

 

「こ、康太様……!! しっかり!! 死んだら針千本飲ますからね!!!」

 

「手伝うよ、あやめちゃん!!」

 

「服を破いて担架にする、手伝え!!」

 

 そんな声を聞きながら……俺は意識を失った。

 

 

 

 次に俺が目覚めたのは……あの世ではなかった。どうやら、間一髪助かったようだ……起き上がってみると、ベッドに突っ伏してあやめが寝ていた。

 

「……流石に動けない、か」

 

「ん……康太様……? 起きたの!?」

 

「あぁ、おはよう。迷惑かけたな、悪い……」

 

 本当に迷惑をかけたのは潤羽さんにだが、あやめにも十分かけただろう。

 

「バカ……!! 逃げればいいのに、なんで逃げないの……余は、ずっと心配して……っ、ぐす……」

 

「……ごめん」

 

「許さない……康太様、生き残る気なかったでしょ」

 

 図星だった。その通り……今回の俺は、死んでも守るつもりでいたしな。

 

「あぁ……俺は潤羽さんを倒そうとした。なのに、もし見捨てて死なせたら、俺は母さんや父さんに顔向けできない……」

 

「あんなの、誰にもわかんないよ……なのに、康太様は勝手に責任感じて……大怪我してっ、うぅぅ……」

 

「ごめんな……」

 

 謝って許されることじゃない。しかし、謝らないのは論外だろう。平謝りするしかない状況だ……

 

「康太様……今回の罰として、ひとつお願い聞いて」

 

「いいよ。俺にできることなら……」

 

「この戦いが終わったら、余と一日デートする。それでいいよね?」

 

 ……えっ?

 

「え、デート……? いいけど、本当にそれでいいの?」

 

「うん」

 

「わかった、あやめがそれでいいなら……でも、針千本飲まなくていいのか?」

 

 あまりにも突拍子がなかったから、腑抜けた声を出してしまった。

 

「余がいいんだから、いいの!! 決まりだね!! もし、次に無茶したら……」

 

「したら……針千本だよな?」

 

「ううん、監禁する」

 

 ……はい?

 

「あやめ、今……財団X並に恐ろしい単語が聞こえた気がするんだけど」

 

「当たり前じゃん。無茶しなきゃいいんだよ」

 

「わかった……OK、もう無茶できんな」

 

 ナチュラルにおかしいような気がしたが、よく考えてみれば、俺の方がおかしいな。ハイライト消えてるのも気の所為だ。

 

「そうだ、潤羽さんは?」

 

「余よりも潤羽さんなんだ……潤羽さんなら、目立った外傷はないってさ。お礼言ってたよ?」

 

「無事なのか……よかった……」

 

 スマッシュビートを叩き込まれたわけだし……内蔵にダメージがあったりしないか、心配していたが……ないなら何よりだ。

 

「……」

 

「俺のことを心配してるけど、あやめはどうなんだ? 思いっきり、ジェミニの爆発食らってたけど……」

 

「余も今回は結構酷かったね……でも、心配すぎて病室抜け出してきちゃったんだ」

 

 いや、ダメだろ……と言いたいが、俺に言われたくはないだろう。

 

「そうか……優しいな」

 

「百鬼さん!! 部屋に戻ってください!!」

 

「あー、もうちょっとお話させてー!!」

 

 ごねるあやめへと掴みかかって、部屋に戻そうとする看護師の皆さん……しかし、鬼人を押さえつけるのには無理があり……結局、俺が寝るまであやめは部屋にいたのであった。




 そろそろ終わりが近いです。
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