そろそろ最終決戦です。
人気のない山の中。草を踏み分ける音が、二人分響いている。神宮寺と、青髪で長身の女性が一人。二人が森を掻き分けて、歩いてゆく。
「……ここにいるんだね? あの子は」
「その通り。お前はよく働いてくれた、そろそろ報酬をやろうと思ってな」
「これで私の仕事も終わりだね……よかった」
しばらく歩くと、高い壁に突き当たり……神宮寺が、足を止めた。
「待っていろ、今解錠する……」
「……みこち、今助けてあげるから……!!」
「フッ……甘いな」
神宮寺は、鍵を取り出すフリをして、ゾディアーツになり……女性へと襲いかかった。
「なっ!? くっ……騙したな!?」
「こうも簡単に騙されるとはな。騙し文句を考えてきて損したよ」
「黙れ……!! こうなったら、力ずくで聞き出す!!」
女性は、手早くメテオドライバーを装着して、変身の準備を整えた。しかし、神宮寺はそれを黙って見ている。
「変身!!」
「……フッ、フハハハハ!!」
「な、何故変身できない……!?」
神宮寺は笑いながら、女性へと近づいてゆく。女性は後ずさりをしている……
「貴様の変身認証をする者はもういない。貴様はここで終わりだ」
「っ……こんなところで終われるか!!」
「逃すか!! 死ねぇっ!!」
逃げようとした女性に、レオがエネルギー波動を飛ばす。地面を抉りながら襲いかかるそれは……女性に容赦なく、牙を剥いた。
「ぐぁぁぁぁぁっ!!!」
「……最期まで愚かだったな、『星街すいせい』。お前のことは覚えておこう……歴史に残る大馬鹿者としてな!! フハハハハハハ!!!」
神宮寺は変身を解除し、星街すいせいを嘲笑いながら、自分の仕事をしに向かうのであった……
「おっと、そうだ……これもついでに捨てておこう」
そう呟いて、神宮寺は金色のスイッチを乱雑に投げ捨てた。
ここは……背中の感触からして、病院のベッドだな。いや、今はそれよりも……!!
「っ、一破さん!!」
「あ、お目覚めになりましたか……」
「看護師さん……くそっ、一発殴られたくらいで……」
自分が不甲斐ない。あの時、俺が動けていれば……
「あまり動かないでください。まだデモンズスレートが抜けきってませんから」
「くっ……くそぉっ……!!」
「先生を呼んできます、少々お待ちを」
その後、すぐにお医者さんが来て……一通り診察された後。
「……大丈夫そうですね。骨も折れていませんし、デモンズスレート以外は問題ありません」
「じゃあ、今すぐにでも……!!」
「あと一時間もすれば、脳波上昇も安定するでしょう。でも、今日はデルタギアを使用しないでください」
いざとなれば、無視してでも使うつもりだが、基本は忠告を聞くべきだろう。俺は頷いて、肯定を返した。
「善処します」
「それでは、我々は次の診察がありますので」
「時間になったら、また来ます」
二人は次の患者さんのところに行ったようだ。だが、不安で仕方ない……
「一破さん、どこに行っちゃったんだ……」
怒りのままに探し回っても、今のあいつにはワープがある。自分の足だけで逃げてた昔とは違うんだ……でも気持ちは痛いほどわかる。
「一破さんも、家族を奪われたから……」
カエル野郎……フロッグオルフェノクの時と同じだ。俺はあいつが憎いあまり、あいつをバラバラにした……けど、あいつに一人では勝てない。
「あのオーラは異常だ……それに、どうして俺とあやめの必殺技を食らっても、立っていられるんだ?」
その上、あの強さでもあいつは本気じゃなかった……力の五割……いや、五割すら出していなかったかもしれない。それ程にあのオーラはすごかった……
「……雪村さん。時間です」
「あ、ありがとうございます……もうそんな時間か」
「お大事に」
看護師さんに見送られながら、病院を出る……だけど闇雲に探しても、一破さんはいないだろうしな。八神も見つかるはずがないし……見つけられたとしても、また殴られるだろう。
「どこに行けばいいんだろう……」
「康太様!!」
「あやめ……ごめんよ、心配かけて。俺は大丈夫だからさ」
あやめは渋い顔をしている……やっぱり、怒ってるかな。
「それはいい。けど……」
「けど……?」
「一破さんを、探すつもり?」
頷く。するとあやめは、更に顔を顰めてしまった……
「うん……彼は、俺の大事な仲間だから」
「余は嫌だ……だって、康太様を殴ったんだよ!? 倒れかけで、それでも立った康太様をっ……!!」
「……そういうこともあるさ。友達同士、喧嘩することもたまにはあっていい」
殴られたことは構わない。彼はもう俺の友人だしな。
「でも、一破さんはそう思ってないんじゃ……」
「それなら、これからそう思ってもらえばいいだろ? それに……気の迷いってこともある。あやめにもあっただろ、そういうこと」
「……わかった。康太様が許してるなら、余も許すことにする」
納得してくれたらしい、ありがたいな……さて、まずどこに行くべきか。
「じゃあ、まずはどこに行けばいいと思う?」
「……警察署? 一破さんの上司とかいるかもしれないし」
「なるほど……だけど、面会の許可とかもらえるかな?」
忙しかったら、出てきてくれないんじゃ……
「一破さんの相棒で、仮面ライダーデルタですって言えば、無下にはできないんじゃないかな?」
「……よし、とりあえず行ってみるか!! 時間もないし、いつまでもじっとしていられない!!」
「うん、行こう!!」
善は急げということで、警察署へ向かい……窓口にて要件を話した。
「……というわけなんですが、面会させていただけませんか?」
「お願いします、どうしても必要で……!!」
「は、はい……少し待っていてください、確認します」
窓口のお姉さんが、確認しに行ってくれた……座って少し待っていよう。
「何とかいけたな……こういう時は便利だよな、ネームバリュー」
「いいことばっかりじゃない……というか、全然いいことないけどね」
「……メリットに対して、デメリットが重すぎるよ」
それから、二人でこの先についての話をしていると……さっきのお姉さんが来た。
「すみません、雪村さんと百鬼さん。上司の方……安西さんとの面会は可能だそうです。こちらにどうぞ」
「やった!! ありがとうございます!!」
「何か聞けるといいな……」
応接室に連れて行かれ、ここで待つように言われた。しばらく待っていると……
「失礼……どうも、『仮面ライダー』さん。聞いてると思うが、俺は安西だ……」
「あ、初めまして!! 私は……」
「自己紹介はいい。二人ともよく知ってるよ、一破から聞いてる……一破が世話んなってるな」
薄暗い雰囲気で、制服を少し着崩している。髪も荒れているし、ストレスが多いのだろうか。
「いえ、こちらこそお世話になりっぱなしで……」
「今日は一破さんのことを聞きたくて来たんです。何かご存知じゃありませんか?」
「……残念ながら、行方はわからんな。あいつ……八神に会っちまったんだろ? ああなるのも無理は無い」
安西さんは遠い目をしながら言った……一破さんのことを気にしているのかな。
「八神と因縁があるんですよね? 一破さんには」
「あぁ……あれは酷かった。あれからだよ、一破があんなに大人しくなっちまったのは」
「大人しく……って、そんなに荒れてたんですか?」
あやめがそう尋ねると、安西さんは過去を懐かしむような目をしながら言った。
「あの頃の一破は、とんでもない暴れ馬だった。犯罪者見つけると、怒声張り上げて襲いかかってな……奴らと格闘してる最中は、悪口の機関砲かと思うくらいだ」
「そ、そんなに……!?」
「だけど……そんなあいつには相棒がいたんだ。同期の井下蒼太ってやつがな……一破とは正反対で、優しくて模範的な警官だったが、何故か一破と仲がよかった」
蒼太さん……あの時、一破さんが叫んだ名前にも含まれていたな。
「一破さん、蒼太を返せって言ってました……」
「そうか……わかってるとは思うが、そいつらは八神が残酷にぶち殺した。一破を挑発するためだけにな」
「酷い……!! なんでそんなこと……」
いや、理由はわかる……殺人鬼が一人の人間に執着する、それも好意的な理由なんてひとつしかない。
「……一破さんが唯一、八神を追い詰めたからですか?」
「お前さん、勘が鋭いなぁ……そうさ。あいつは昔からとんでもない殺人鬼で……自分で、警察に殺しをしたと通報して、来た警官を殺して悠々と去る……そんな無茶苦茶な野郎だった。けど、そんな中……」
「一破さんだけが、あいつを追い詰めた……いや、追い詰めちゃったんだ」
安西さんの顔がどんどん歪んでゆく。八神のことは、彼にとっても嫌な思い出のようだ。
「嫌なこと思い出させて、ごめんなさい……」
「構わん。アンタ達には知る権利があるだろう、アンタには特にな……雪村さん」
「えっ? それってどういう……」
俺が尋ねると、安西さんは少しだけ呆れたような表情をした。
「……アンタ、もう忘れたのか? 殴ったんだろ、一破。アンタのことを……」
「あぁ、そのことなら気にしてないですよ。そうか、だから教えてくれてたんだな……」
「アンタ……蒼太に似てるな。あいつが気に入るわけだ」
蒼太さん……今の俺と似てるって、褒め言葉にならない気がするんだけど……そこはいいか。
「話を戻そう。百鬼さん、アンタの言う通り……一破はその荒々しい戦い方で、奴に深手を負わせた。拳銃と、愛用の鉈でな……だが、一破も深手を負わされたから、結局は逃げられた」
「……けど、それが執着の原因になったんですね」
「そうだ……奴はきっと、無差別に殺していくのが楽しくなくなったんだろう。強い奴……つまり、一破と戦いたい。そう思った奴は……とんでもない暴挙に走った」
それが一破さんが、八神を憎む理由……
「八神が殺したのは、彼の子供と相棒と……一破さんの妻、ですよね?」
「それで合ってる……が、足りない情報がある。子供はまだ産まれてきてすらいなかったんだ……」
「……まさか、妊婦さんを殺したの?」
重苦しい顔で安西さんが頷く。なんということを……たったそれだけのために、罪のない人を……ましてや、身篭っている女性を殺すなんて。
「あの子……確か名前は、中山愛華。彼女は一破に高校生の時、暴漢から助けられて……それで一目惚れして、一破になにかと着いて回るようになったらしい」
「一破さんなら、さっさと追い払ってそうですけど……」
「追い払っても、次の日は懲りずに着いてきたらしい。怒鳴りつけても着いてくるから、もう諦めていたみたいだ」
メンタル強いなぁ……あやめが『その手があったか』みたいな顔をしている。怖いからやめてほしい。
「それで……どうして結婚まで?」
「あの子が大人になって、猛アタックしてな……周りの目が痛くなったんだろう。ついに一破がそれに折れて、結婚したんだ。弁当まで持ってきて、健気だったな」
「そんな人を、八神は……」
あいつは、そんな彼らを殺した。一破さんをおびき出すためだけに。
「愛華ちゃんに影響されたのか……あいつもかなり丸くなっててな。子供ができると聞いた時は、今までにないくらい浮き足立ってた……」
「まさか、その日……?」
「いや、その次の日だ。あれが起こったのはな……忘れたくても、忘れるわけがない」
いよいよ本題だ。事件の全貌を知る時……
「……覚悟はできてます」
「あれは雨の日だったな。いつも通り仕事をしていると、八神から警察に電話があった……『一破を寄越せ、そうしたら誰も殺さないでやる』とな」
「最初から脅しじゃん……!!」
しかし、テロ犯の要求を飲んではならない。国際常識だ……
「無論、俺達は要求を飲まなかった。電話を切って……重武装をさせた、警官の部隊を送った。そして、その中には……蒼太もいたんだ」
「そうか……だから……」
「わかってるだろうが、結果は全滅……『何をしたって無駄だ、一破を寄越せ』の一点張りだ。特殊部隊を送ることも考えたが……そこで、奴が言ったんだよ……『それなら、一破の大切な奴を殺してやる』ってな」
だから……身篭った愛華さんを狙ったのか。
「一破さんは、どうしたんですか?」
「待機命令が出ていたからな……部隊が殺された時までは、じっとしてたよ。けど……大切な奴を殺すってのを聞いても、なお優柔不断な上層部に痺れを切らし、家の方に走っていったんだ」
「それで……あの惨劇が起きたんですね?」
安西さんが、無言で肯定を返す。
「あぁ。現場はこれまでにないくらい、悲惨だった……警官達の内蔵や生首が散乱した道、同じような目に遭わされた嫁さん……無論蒼太もな。それを知ってか知らずか、奴は二人の生首を持って……笑ってたよ」
「……狂ってる」
「その現場を、不幸にも少し見てしまった人達が、数人ほど精神病院行きになったらしい……一破はもちろん、怒り狂いながら奴に襲いかかった」
そういえば、気になることがある……どうしてそんなに詳しいんだろう?
「もしかして……安西さんは、一破さんに同行して……」
「説明が省けて助かる。あいつは勝手に飛び出したからな、追いかけないわけにもいかん。これまでにない程、酷かった……援護しようと思ったが、暴れる一破を避けた上で、動き回る八神に弾を当てるのは無理だったよ。不甲斐ないな……」
「気に病まないでください、当然ですよ……その時の、結果は?」
死んでいないことは、今の状況から確実。また相打ちだろうか?
「その時は……一破の負けだ。奴にも傷はついていたんだが、先に深手を負わされた……しかし、奴は一破を見逃した。理由は『こんなに強いヤツは中々いないから、ここで失いたくない』そうだ。確か、ポイントを1残してやるとか言ってたな……ともかく、一破も俺も八神を逃がしちまった」
「……だから、一破さんは……」
「あれが起こったあと……あいつは何故だか、大人しくなった。今回の罰として、三ヶ月間減給三割を喰らったが……それくらいであいつの性格は歪まない。だけど、煙草を吸うようになった……蒼太の吸ってたやつをな」
確か、一破さんは『もっと似合う人がいた』と言っていた……蒼太さんのことだったのか。
「だから、あのタバコに拘るんだね……」
「多分……失う物を全部失って、大声を張り上げる力もなくなってしまったんだろうな。仕方ないさ、俺だってしばらく食欲が失せたし……」
「でも、康太様と出会って……康太様の前だと、口調が違うようになったよね」
その話になると、安西さんの顔が少し明るくなる。
「そうだ……あいつは多分、アンタを蒼太と重ねてる。煙草の回数も減ったし……相棒だと思って、接してるんだろうな。事実、お前の話をしている時、あいつは楽しそうだし……」
「そうか……彼の相棒になれるなら、嬉しいです!!」
「……ありがとう。あいつに言ってやってくれ、口では悪態つくかもしれんが……きっと喜ぶだろうよ」
彼の助けになれていたのか……それなら、嬉しい。
「さて、昔話はここまでにしよう……警察は今、八神がこの街にいるってことで大混乱さ。マスコミが押しかけてきてる……Twitterではデマも広まるし、八神のことで暴動も起きかけてる」
「……一破さんの居場所に、心当たりはありますか?」
「わからん。怒り狂ったあいつが何をするかは、俺にも予測がつかない……だが、もし八神が姿を現したなら、そこに来ることは間違いない」
つまり、手がかりゼロということか。
「あっ、これを言っておかないと……僕が彼に殴られたことは……友人同士、少し喧嘩しただけということにしておいてください。仕掛けたのは僕で……」
「……優しいな、アンタ。わかったよ、そういうことにしておく……久々に、あいつに大目玉食らわすのも悪くないか」
「じゃあ、余はこれで……ありがとうございました」
そうだ。ここで座っていても仕方がない、安西さんも暇じゃないはずだ。
「それでは……色々とありがとうございました」
「こっちこそ……一破を頼んだ。一破に今、声をかけてやれるとすれば、お前しかいない」
「……とても光栄です。ありがとうございます」
そう言って、部屋を出た時……何かが運ばれてきた。
「安西警部はいらっしゃいますか!?」
「ここにいる。どうした?」
「奴らについて、新しい情報が入りました!! それと、メテオの変身者を確保しました。現在重傷を負っており、警察病院で治療中です!!」
待て。今のは聞き捨てならない……!!
「どういうことですか?」
「……教えといた方がいいか。奴らの本拠地の牢屋らしき場所から、メッセージが見つかった。『連れていかれる、助けて』とな……それを今、全力で追っている」
「やっぱり人質を取ってたのか……!!」
リブラが口を滑らしたから、知ってはいたが……証拠が出たな。これで、あいつらが黒幕であることは確定だ。
「証拠品を確保しました、こちらです」
「これ、メテオドライバーと……何これ?」
「……わかった。預かっておく、お前らは業務に戻れ」
その人達を見送ってから……安西さんは、それを俺に手渡してきた。
「えっ……?」
「アンタが持っておけ。きっと、アンタの役に立つ……警察のカン、舐めるなよ?」
「……わかりました、ありがとうございます!!」
メテオドライバーを鞄にしまって、今度こそ走り出す。
「康太様、どこ行くの?」
「一破さんを探す。じっとしててもどうにもならん!!」
「……そうだね。行こうか!!」
手がかりは何も無い。でも、何もせずにはいられない!! そう思って、走り出そうとした時……突然電話がかかってきた。
「ん、電話……もしもし?」
『雪村くんだね? まずいことになった、ネットニュースを見てくれ』
「ニュース……?」
言われた通りに見てみると……そこには。
『奇跡の力!! 全てが完璧に元通り!!』
『レオ・ゾディアーツにより破壊された街、それがみるみる治っていく!! これが正しいゾディアーツの力!!』
『治すものによって値段は異なりますが、全てを完璧に治してみせます。大怪我の治癒も可能ですので、皆さん是非、ご検討を!!』
その下に電話番号が書いてある……会社名も変わっているが、間違いない。これは……
「余達が話を聞いてる間に……!!」
「これで金儲けをするつもりか……!?」
『そのようだ。マッチポンプで、市民や国から金を巻き上げるつもりらしい……その上、惨殺死体まで出てきた』
惨殺死体……まさか!!
「八神ですか!?」
『その可能性が高いね……最悪の状況だ。八神の恐ろしさは誰もが知っているし、その混乱に乗じるつもりなんだろう。卑劣な作戦だ』
「ッ、止めないと!!」
二人でベルトを腰に巻き付けた。変身の準備をしようとしたところで……
『しかし……八神とレオは別行動をしているんだ。今、holoxの協力で、それぞれの居場所は掴めている……警察が部隊を送っているが、焼け石に水だろう』
「では、どうすれば……!?」
『役割分担だ。どちらかが、どちらかを止めに行く……鷹嶺先生には、レオの方を止めに行ってもらったよ』
……そうか。なら、やることは決まっている。
「わかりました。僕がヴァルゴを倒しに行きます」
『わかった。そちらに位置情報を送信するから、そこに向かってくれ』
「また別行動するの……?」
電話の内容を聞いていたあやめは、心配そうにしている。まぁ、だよな。
「心配するな。終わったら、すぐに駆けつける」
「だけど……余が見てないと、康太様は……」
「一破さんがいる前だぞ? 心配いらない」
そう。絶対に一破さんも来るはず……根拠はないけれど、確信があった。
「……わかった。でも、絶対……絶対に、死ぬような真似しないでね。約束できる?」
「うん。死ぬような真似はしない……あんな奴のために死んでやるつもりもないしな」
「じゃあ、約束だね!! 余はレオを止めに行くから!!」
あやめが、オーガフォンを手に持つ。それと同時に、俺もデルタフォンを持って……
「変身!!」
『Standing by』
『Standing by』
聞き慣れた電子音が鳴って、あやめもオーガフォンを掲げて叫んだ。
「変身ッ!!」
『Complete』
『Complete』
お互い変身して、行くべき場所へと走り出す……
「一破さん……俺が行くまで、死ぬなよ!!」
一方、ホロライブ学園。holoXの頭脳である博衣こよりは、遂に完成した『変身アイテム』を学園長に見せに来ていた。緑色の四角い物体と、丸い物体が一つずつ。
「これが……変身アイテム? ベルトではないのかい?」
「財団Xによると、これの名前は『メガウルオウダー』だそうです。この丸い物を入れて、これを押すと変身が完了するようですが……」
「……暗い表情だね。どうかしたのかい?」
博衣こよりは……意を決したように言った。このアイテムが動かないということを。
「今、これは動きません……理論上は動くはずですが、変身は不可能でした」
「……なにか、変身に条件があるのかな。オーガはその典型例だが……」
「そこも調べてあります。奴らの資料によりますと……元の『ゴーストの世界』では、『魂を統べる者』が変身していたようです。この世界でも、その条件に近い者が変身可能なものかと……」
Yagooはしばらく考え込んだ後……笑みを浮かべた。
「心当たりがあるよ。これを使えそうな人にね……」
「本当ですか!? その人とは……?」
「……潤羽るしあさん。ネクロマンサー、死に最も近い人さ」
そう言って、Yagooはメガウルオウダーを手に取って立ち上がる。
「Yagooさん、どこへ?」
「今は一刻を争う。私が向かってお願いしよう……」
「ボクも向かいます!!」
二人は戦力を増やすために、潤羽のところへと急ぐのだった……
歯を食い縛り、血塗れの手で銃と鉈を握る。どこだ、八神。自分がどんな形相をしているか、定かではないが……そんなことはどうでもいい。今すべきことは……
「八神ィィィッ!!!」
八神を殺すことだ。どうして、どうして愛華はあんな死に方をしなければならなかった? 蒼真は何故あんな死体を、晒さねばならなかったんだ!? どうしてお腹の子供は生まれてこれなかったんだ!!
『よう、一破。やっと来てくれたな……こうすれば来てくれると思ったんだ。嬉しいぜ……さぁ、また殺し合いしようぜぇぇ!!!』
ふざけるな。どうしてそのような理由で、殺されねばならない……死ぬべきは貴様の方だろうに。
「隠れていないで出てこい!! 理性のない獣め!! 俺が駆除してやる!!!」
八神はこの街のどこかにいる。さっき通ったところでマスコミが走っていった……だが、そんなことはどうでもいい。
『だって仕方ねぇだろ、お前が来てくれないんだから。お前が悪いんだぜ~? 早めに来れば助けられたのに、残念だねぇ……ギィッヒヒヒヒヒ!!!』
黙れ。その薄汚い口で言葉を喋るな。存在することが生命への侮辱、蒼太と愛華と……俺の子供への、侮辱。
「……あー、つまんねぇ」
「この……が、げっ……」
「準備運動にもなんねぇな……ん?」
見つけた。殺す、今すぐ殺してやる!!!
「八神!! 八神ッ!! 八神ィィィ!!!」
「一破、お前の方から来てくれるなんてな……嬉しいぜ、俺」
「死ねっ!!」
黙れ、そう言う代わりに切りかかる。避けられても、撃つ。サイガフォンから青い閃光が放たれたが、それは容易く切り払われた。
「荒っぽい挨拶だな……そうこなくちゃ。こんな雑魚共の相手してちゃ、体がなまっちまうよ」
「黙れ!! 愛華は……俺の子供は、貴様のせいで!!!」
「子供ォ? そんなもんどこにも……まさか、身篭ってたのか?」
奴が少し驚いている……まさか、知らなかったとでも?
「知らんとは言わせんぞ!! 私は何度も叫んだはずだ!!!」
「……ヒッ、ヒヒ……ギッヒッヒッヒッヒ!!! こいつは傑作だァ!!!」
「は?」
何故笑う。殺意が見えない、どうしてだ?
「なるほどな~、だからそんなに怒ってんのか……いいこと聞いたよ、得した得した。ありがとさん、教えてくれてよ」
「あ……?」
「だってよぉ……お前の子供も『ついでに殺せてた』んだろ? やっぱり逃がさずに殺しといて正解だったな!! ギッヒッヒッヒッヒ!!!」
……こいつの言っていることが理解できない。妊婦を殺せて、よかっただと? 何を、言っている?
「妊婦だった方が、よかったのか?」
「当たり前だろ? 俺はお前が怒ってくれることを期待して殺した。大事な人を二人殺すより、三人殺した方が来る確率も、怒りだって強くなる。一人殺したら二人分怒ってくれるんだ……これほど得なことはないだろ!!」
「もういい」
最早、こいつの声を聞くことも……いや、存在させておくことそのものを許容できない。
「お? なんだなんだ?」
「お前の存在を俺は許容しない。今すぐ地獄に落ちろ」
「そうか、怒ってくれたか……!! 感じたことない怒りだ、あの時よりも強い!! いいぜぇ、今度こそ決着つけようぜ!! お互いのポイント、全部賭けて殺し合いだ!!」
これ以上喋らせはしない。絶対に、この場で殺す。
「黙れ」
「一回しかない機会だ!! 楽しんでいこうぜ、一破!!」
「獣以下の生物が言語を喋ってんじゃねぇ!!!」
そう叫んで、俺は……悍ましい生物を殺すため、奴に飛びかかった。