進化の灰
『それでは、次のニュースです』
『仮面ライダー、またしても出現 蟹の次はカメレオン?』
「……どこもかしこも、この話題だな」
目覚めてテレビの電源を入れると、真っ先に聞こえてきたのはこれだった。シザースとボルキャンサーの時もそうだったよな……
「それに、今回は恐怖がもっと強いはずだ……仮面ライダーには隠れることが出来るやつがいる。迂闊に外にも出られない……」
『仮面ライダーは爆裂して死亡し、爆弾を埋め込まれていたと推測されています。また、これを鎮圧したのはまたしても……』
「……俺のこと言われてるって思うと、むず痒いな」
ヒーローは鷹嶺先生なんだが、そっちには見向きもされてないらしい……そう思いながら、テレビを消した。
「これも仕方ないことか……」
諦めて呟く。そんな時、ドアがノックされた……父さんと母さんか? それとも警察の人か?
「どうぞ?」
「……今日は起きてたか」
「まぁね。痛いからあんまり寝れてないよ」
父さんと母さんだ。来てくれたらしい……
「先生から聞いたよ、怪我が酷くなったって?」
「あー……お説教のために来たの?」
「そんなんじゃないさ、大体のことはわかってるよ……無茶する奴だな、お前も」
先生が辞める必要なんてなかった。そんな理不尽あるものか……止めるためにはあれしかなかったんだ。
「無茶しなきゃ、男を名乗れないよ。これまでサボってきたツケが回ってきてんのさ」
「今度のはカメレオンだって? バリエーション豊かだね……兵器なのに」
「名前はベルデとバイオグリーザ……因みに、あの蟹はシザースって名前らしい」
シザースとボルキャンサー、そして今回のベルデとバイオグリーザ。共通点は『デッキ』を所持していることに、ミラーモンスターを連れていること……ミラーモンスターがいないと弱体化するのも同じだな。あと、人型なのに凄まじい力なのも同じだ。
「とりあえず、もう動くなよ? 怪我がこれ以上悪くなるのは困る」
「へーい」
「今度動いたら怒るからね?」
そう言われちゃ動けないな、1mmも動かないでおこう。
「わかってるって……ほら、二人は家事が忙しいだろ? 俺は何ともない……ことはないけど、元気は有り余ってるから」
「じゃあ、帰るけど……動かないのよー!」
「絶対だぞー!!」
釘をたくさん刺された、黒ひげ危機一髪ばりに釘が刺さってるな。
「どうすっかな~……トレーニングしてぇ、ランニングしてぇよー」
そうボヤきながら、ライダーについて考えてみる。
「そもそも、なんで奴らは俺達を危険因子と呼ぶんだ? 奴らに全く関わりはないはずだ……計画の邪魔だった? 計画ってなんだ?」
ダメだ、何一つ情報がない……どの程度の規模なのか、誰が社長なのか……全てわからないんだ。探しようがないな……
「核よりヤバい生物兵器を大量生産してる、変な財団か……本当に日本にいるのか?」
海外にいるかもしれない。だが、存外灯台もと暗しということも……
「だぁー! 全然わからない……俺達が何したんだ?」
わからなさすぎて、頭を抱える。抱えてないけどね。
「あと一週間寝てないといけないのか……嫌だなー」
自業自得なんだけど、それでも戦えないのは辛い。今すぐにでも探しに行きたいのに……
「しょうがないよな……寝てよう。その方が治りだって早いはずだ」
そう思って、また俺は寝始めた。
時は過ぎて、一週間後。財団Xに動きはない……二回も殺したから、対策中だったりして? ならラッキーだ、俺はその間に復活を遂げられたんだからな。
「……大丈夫ですね。退院して結構ですよ……また突き刺さらないでくださいよ?」
「前はどうもすいませんでした」
「まさか天井に飛んでいくなんて思わなくて……」
お医者さんが俺のすることを読んできている、今回は事前に止めることができたな……する予定無かったけど。
「じゃあ、失礼します」
「もう来ないようにしてくださいね」
「多分来ると思いますよ?」
苦笑いされながら、部屋を出た。どうも、ご迷惑かけます……怪我しなけりゃ殺し合いはできないんだから、仕方ない。
「とりあえず……失った分、取り返さねぇとな」
今日は量を増やそう。そう思って、また走り始めた。
「……そろそろ来るか?」
「ただいま……」
「来たな、汗だらけ小僧」
変なあだ名つけられたよ。スポーツドリンクが言わなくても置かれている、日常だもんな。いつも通りそれを飲み干す。
「……おっ、言われなくても手を洗ってる!!」
「言われると思ってね」
「明日は雪が降るかもな」
やめてくれ、ランニングできなくなってしまう。
「やめてよ、走れなくなるだろ?」
「それもそうだな!」
「ったく……」
ついでに街を見て回ってきたが、仮面ライダーの痕跡は全くなかった。一つくらいあってもいいと思うが……隠蔽能力が相当高いらしい。あんな超兵器を作れるから当然かもしれんが……
「学園にはまだ行くのか?」
「あぁ……奴らは、俺以外の人も狙ってる。俺がいないところを狙って叩けばいいって思うはずだ……俺が一人なら、あとはゆっくり俺のための対策を考えればいい。簡単な話さ……一人でもやられたらおしまいなんだよ。そのための策も考えてある……」
「策?」
まぁ、受け入れてもらえるかわからないけど……言うしかないさ。
「まぁ、やってみるさ……無理だったら、次のプランを考えるまでだよ」
「お前も色々考えてるんだな……」
「酷くない? 俺、どっちかって言うと力より策と頭で戦う方なんだけど」
俺がそう言うと……父さんは顔を顰めて言った。
「え、嘘だぁ……お前、ゴリ押しで勝ったんじゃないの?」
「逆にゴリ押しで勝てる相手だと思ってたのかよ」
「うん、お前にはそれしかできないと思ってたから」
悪質なデマにご注意ください。そう全国放送で言いたくなった。
「ナチュラルに酷いんだけど?」
「いや、お前これまでダメ人間だったから……変わりようがすごいというか、なんというか」
「それはまぁ……しょうがないよな」
確かに、これまで俺がダメな奴だったのは事実。だけど、俺は変わったんだ……ずっとダメなままは嫌だったからな。
「悪いことじゃないんだが……それにしても、本当に別人みたいだ」
「前までがダメすぎたんだ。ここから再スタートさ」
「頑張れよ、今仮面ライダー倒せてるのお前だけだからな」
ベルデとバイオグリーザは、9割方鷹嶺先生のおかげだが……他人任せにしたくはないしな。
「言われなくたってやるさ……!」
「二人とも? ご飯作るから手伝って!」
「はーい!!」
その日も飯を作って、一通りこなして眠りにつき……次の日。今日は寝坊しなかった、いい感じだ……今日、作戦を学園長に提案する。無理ならそれでいいが……
「行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい」
「俺も行ってきます!」
行ってきます、か……これも言うのは最後になるかもな。そう思いながら、学園に進む。仮面ライダーの気配がないかを確認しながら……
「……いない、な?」
ベルデとバイオグリーザの例があるから、油断できない。気を緩めずに進む……
「おはようございます、雪村さん」
「あ、Aさん。おはようございます。俺になにかご用ですか?」
「はい、学園長が……仮面ライダーについて対策を話し合いたいと」
いいタイミングだ、ちょうどその話をしたかった。
「本当ですか!? グッドタイミングってやつだ!! 話をしたかったところなんです、連れて行って貰えますか?」
「では、こちらに」
「……そういえば、鷹嶺ルイ先生ってどうしてますか? もう学園には来てます?」
Aさんなら知っているかもしれない……そう思って尋ねる。
「鷹嶺先生なら、あなたの二日前に退院して戻ってきましたよ。大怪我も治って、すっかり元気そうです」
「はぁ……よかった……」
「聞きましたよ? いつも無茶しますよね、雪村さん」
そう言われても……無茶しなきゃ殺せない相手だ。
「無茶しなきゃ殺せないし、救えない。元々が弱い人間なら、無茶するしか手段はないんですよ」
「努力家なんですね、雪村さんは」
「努力しない奴に明日は来ないので。身を持って学びました」
そう言いながら、学園長室に着いた。
「学園長、雪村さんを連れてきました」
「あぁ、ご苦労だったね。入ってくれよ」
「失礼します、yagoo学園長」
学園長は、座って熱いお茶を飲んでいる……
「そろそろ来るかと思っていたが、ドンピシャだったね。座るといい」
「ありがとうございます」
「さて……Aくん、お茶をもらえるかな」
そう言って、またお茶を淹れてもらう。
「ありがとうございます、Aさん」
「彼女はベテランだからね。手際の良さは一級品さ」
「へぇ……今回も仮面ライダーのことですか?」
お茶を飲みながら、ライダーのことを話す。
「あぁ、これで二回目だ……君も知っているとは思うが、鷹嶺ルイくんがやられたのは我々にとっても重たい事態だ。彼女は強い力を持つ学生達を纏めあげる先生、その強さは折り紙付き……のはず、なんだがね」
「やられたんですよね、ベルデとバイオグリーザに」
「うん。仮面ライダーシザースと、仮面ライダーベルデ。この二人は強すぎる……だが、希望がないわけではない」
そうだ……ギリギリだったし、ベルデは鷹嶺先生が倒したようなものだが、俺は確かに仮面ライダーを殺している。
「俺ですか……ベルデに関しては、鷹嶺先生の活躍が大きいと思うんですけどね」
「確かに、彼女も仮面ライダーの装甲を削っているね。十二分に活躍していると言えるだろう。だが、トドメを刺したのはやはり他でもない……君なんだ」
「正攻法じゃないですけどね」
怒らせ、焦らせ、相手の行動や攻撃を利用し、相手が自滅したところに今できる最大の攻撃をぶち込む。正々堂々のせの字もない戦い方だが……仕方あるまい。生きるか死ぬかなんだ。
「ハッキリ言おう。君は異常な物として見られている。生物兵器に生身で勝利し、それを二回もやって見せた。君は……世界中から注目を集めているんだ。悪い意味でね」
「悪い意味……?」
「単刀直入に言うと、君の体を研究しようとしているんだよ。そして改造を施し、自分達のための兵器として運用する。もし完成すれば……最強の兵器に成りうる、とね。純粋に君の体に興味がある奴らもいる、もし捕まれば待っているのは……生体解剖だろうね」
そうか……目立ちすぎたってわけかい。
「人間って、やっぱり怖いですね」
「仕方ないところもあるけど……非倫理的なことを禁じても、やる奴はやる。君は今、仮面ライダー以外からも命を狙われているのさ」
「……じゃあ、尚更この作戦が役に立ちますね」
そう言うと、学園長は興味深そうな目をしている。
「作戦……何かな?」
「俺はこの学園の『危険因子』とされている人達を守りたい。ですが、俺がいない時を狙われれば大打撃を受けてしまうのは目に見えている……かといって、毎日家に帰る身では到底守り抜くのは無理。だから……いっそのこと、ここに泊まり込んで警備すれば、奴らも手が出しにくいのではないかと……いかがですか?」
「……こちらとしては、とても都合のいい提案だね。だがいいのかい? そうなってしまえば、君は何ヶ月も……いや、何年間も家に戻れないかもしれない。一生徒から日常を奪うのは、我々の本意ではないのだが……」
それくらい、もう覚悟してる。戦い始めた時から、既に。
「何も捨てずに何かは手に入らない。日常を捨てる覚悟はして来ました……お願いします。私にこの学園を守らせてください」
「……そこまで言われては、仕方がないな。わかったよ、こちらとしては願ったりだ……では、君をうちの特別職員とすることにしよう。そうすれば、職員寮を使用することができるからね」
「そこまでしなくても……家賃を払いますよ」
そう言うと、学園長は首を横に振った。
「こちらがしてもらうばかりで、君にメリットがない。命懸けで殺し合いをしてもらうんだから、衣食住は保証するよ。君が望むなら、報酬も出そう」
「いいですよ、そんなの……それだけ貰えたら、十分です」
「君がそうなっていることは内密に頼むよ。生徒達に知れたら、反発を招く可能性が高いからね」
生徒の一人が特別扱い、そりゃあ嫌悪を抱く人もいるだろう。当然の対応だ。
「わかりました、私はこれからどうすれば?」
「特別扱いが知られないために、みんながいる場所では生徒として振る舞ってくれ。授業中はベルデのことを考慮して、教室内を警戒して、休み時間や休日、放課後に学園全体の警備をして欲しい。危険因子が集まっていて、学校が開いている休み時間や下校していく放課後は特に危険だ……かといって、休日でも油断はできない。シザースのように下見に来ているかもしれないからね……怪しい物や人を発見したら、連絡してくれ。電話番号を教え合っておこう、こちらからも連絡したい」
「じゃあ、これを……」
スマホを手渡して、入力してもらう。
「……ありがとう、できたよ。そして、万が一仮面ライダーやミラーモンスターを発見した場合は、その場で戦闘を始めてくれ。学園の備品は全て戦闘で使ってくれて構わないよ」
「全面協力があるのは心強いですね……戦いやすくなりそうです」
「君の戦闘スタイル的に、学園を利用すれば勝率が上がりそうだからね。備品の破損と学園の破壊を天秤にかければ、二つに一つだよ」
そりゃそうだ。
「じゃあ、私は基本的に学生として振る舞う。放課後や休日など……みんながいない場所で、警備を行う」
「あぁ。休み時間がゼロになってしまうのは心苦しいが……学園の生徒の命を守るためには……これしかない」
「わかってますよ。覚悟をして言ってるんです、他にも捨てなきゃいけない物があるなら、甘んじて捨てましょう……奴らの手がかりが見つかったら、俺が突撃します」
死ぬ覚悟だって、してあるさ。元々死んでるような物だったからな。
「大事な生徒に死んで欲しくはない。君だって私の生徒なんだ……前々から思っていたんだが、君は覚悟が少々早すぎるように思える。どうして命を簡単に捨てられるんだ? 普通、少しは戸惑うものではないか?」
「……正直に言います。この学園に入る前、私は……強い奴に立ち向かおうなんて思わない、強くなるための努力なんて一切してない、臆病な一般人でした。怖いことや痛いことは、警察や軍隊に任せておけばいい……そう思ってて。困ってる人がいても助けないし、警察を呼ぶだけであとは無視。骨を一本折られたら、怖くて痛くて……動けなくなってるような人でした」
「今の君からは、とてもそうは思えないが……」
俺だって、変わる気はないし……そんなつもりなかった。
「それだけじゃない。バトルロワイヤルでは、隠れてれば一位になれるかな、なんて……浅ましいことを考えてましたよ。でも……私は、骨を折られる前に男を殴ったんです。殴られて、スマホを取られたので……弱すぎて、全然効きませんでしたよ。考えてみれば当然、人は努力しなきゃ弱いまま……臆病な、ダメなままなんです。なんの努力もせず、そんな状態になれるはずがない……私は人生を舐めていた」
「そんなことが……」
「私は自分がとことん嫌になった。情けなくて、浅ましい自分の弱さを痛感した……だから、死にものぐるいで努力した。本当に血反吐を吐くくらい……体から血が出るくらいにね。自分の金で本を買ったり、ジムや道場に通ったり……とにかく、今までの自分を変えようとしたんです。それで、バトルロワイヤル当日になってみたら……」
奴が来た。仮面ライダーシザース……
「仮面ライダーが来たのか……」
「えぇ。もし今、目の前で殺されそうな彼女達を見捨てたら……昔の自分と同じだと思って……戦って。ベルデの時だって……出来ることをやらないといけないと思ったから、やったんです。怪我をするよりも、命を失うよりも……一番怖いのは、あの時の自分に負けることだから」
「そうか……いい向上心だね。君はまだまだここから……成長の度合いが楽しみになるな」
そう言って貰えると嬉しい。
「ご期待に添えるように頑張ります」
「頼んだよ。鷹嶺ルイ君には、私から連絡しておく……行ってくれ。くれぐれも内密にな? この時間は出たことにしておくから、親御さんに連絡しておきなさい」
「はい、それでは失礼します」
さてと……母さんにも連絡しとかないとな。驚かれるかもしれないが……仕方ないことなんだ、分かってほしい。
『……康太? どうしたの?』
「もしもし母さん? 大事な話があるんだ……」
『なに? アンタらしくもない……』
俺は全てを話した。この学園を守るために……必要になることを。
「……ってわけなんだ。しばらく家には帰れそうもないよ」
『本当は嫌だけど……戦うなら、それくらいしなきゃダメだよね。わかったよ、行ってきな。たまには帰ってきてよ?』
「わかってる……じゃあね」
別れを告げて、電話を切る。さて……そろそろ授業も終わる頃だ。
「パトロールするかな」
さっそく仕事開始と行こう。そう思って、俺は見回りを始めた。
「……おはようございます、鷹嶺先生」
「あ、雪村くん。来たんだね」
「遅れて申し訳ないです」
そう言って、席に座る。今のところ何もなかったが、ベルデとバイオグリーザの前例がある……油断ならない。警戒していると、先生が耳打ちしてきた。
「……話は学園長から聞いている。どうだった?」
「今のところ、問題はありません。ですが、ベルデやバイオグリーザのこともあるので、油断は禁物ですね」
「そうか……君はこれで、本当によかったのかい?」
そんなの決まってる。
「良いも悪いもないですよ、日常を捨てる覚悟もなしに奴らからこの街を……引いては世界を守るなんて、夢のまた夢です」
「そうか……私も協力する。できることがあれば、なんでも言ってくれ」
「ありがとうございます」
前の事件があったからなのか、先生は協力的だ。だがもう、先生に怪我をしてほしくはない。重要な話が終わると、先生は距離を取って話し始めた。
「怪我の経過はどうだい?」
「大丈夫ですよ。先生は元気そうでよかったです」
「一命を取り留めたのは君のおかげさ。ありがとう」
そうかもしれないが、勝てたのは先生のおかげだ。
「先生だって、胸を張っていいと思いますよ? 先生の頑張りがあったから、私は奴をどうにか殺せたんですから」
「そう言って貰えると嬉しいね……私も、次は絶対に負けないように頑張るよ。お互い頑張ろうね」
「はい!」
チャイムが鳴った、授業が始まるようだ。俺はそれから、生徒として振る舞いつつ休み時間に警備をして……一日を終えた。
「あれ? 人間様、まだ帰らないの?」
「ごめんなさい、少し用事があって……また今度」
「わかった余、それじゃまた明日!」
……いつになるかはわかんないけどな。心の中でそう思いつつ、学園長室に向かった。
「学園長、私です」
「入りたまえ」
「失礼します」
促された通りに、部屋に入る。
「君を呼んだのは……これを渡したかったからだ」
「これ……職員証ですか?」
「本人確認書類から急ぎで作ったんだ。これで寮の部屋に、食堂が利用できるはずさ。それに番号が書いてあるだろ? その部屋に行ってくれ。君の夜間警備は23時から4時まで、頑張ってくれよ」
流石、手際がいいな。
「流石はAさん、手際がいいですね」
「ありがとうございます、よく言われるんですよ」
「では、私はこれで……晩御飯を食べたら、夜間警備を始めます」
そう言って、俺は部屋を出た。
「222号室……ここか」
ドアを開けてみると……内装は豪華だ。
「おぉ、ほとんどホテルだな……」
内装をある程度確認したところで、食堂に向かう。
「……なるほど、ここで食券を買うんだな? 色々あるが……日替わり定食B、これにしてみるか。お願いします」
「日替わりB入ります!!」
「はーい!」
忙しそうだ、丁度夜ご飯時だもんな。
「……雪村さんも夜ご飯ですか?」
「Aさん! ここに住んでるんですね」
「色々忙しくて……大変だと思いますが、お互い頑張りましょうね」
そう言われると、やる気が出てきたな。
「Aさんにそう言って貰えると、やる気出ちゃいますね」
「もう、またそういうこと言って……あ、できたみたいですよ」
「あ、僕のです! ……唐揚げ定食か、美味そうだ! いただきます!」
椅子に座って、手を合わせる。きつね色に揚がった唐揚げは、揚げ物の美味さを見た目から示してくれる。匂いが胃の準備を整わせたところで、実食だ。
「……美味い!」
外はサクサク、中は肉汁が閉じ込められている……殆どファミレスだな。付け合せについてきたキャベツと温かい味噌汁、そして炊きたての白米。これらも主菜の美味さを高めてくれる。
「栄養バランスも考えられてるし……警備が忙しくても栄養は摂れそうだな」
「前、いいかな? 雪村くん」
「鷹嶺先生……あなたもここに?」
鷹嶺先生は頷いて言う。
「これまでは殆ど家みたいな場所で泊まってたんだけど……シェアハウスしてる人達からお許しが出たから、ここに来たのさ。君が仮面ライダーを見つけたら、すぐ急行できるようにね」
「僕のこと、心配ですか?」
「君は、一歩間違えたら死にかねない戦法をとる。君が死んでしまったら、私はまた無力さを味わうことになるからね……もし見つけたら、一人で戦っちゃダメだよ?」
鷹嶺先生は強い。それに、俺の同類でもある……協力してもらうのは悪いことではないだろう。
「わかりました。見つけたらお知らせします」
「それと……さっき、見てたよ? Aさんをナンパしてるところ……」
「え? そんなつもりじゃ……」
そんな風に見えただろうか? そういう感情はないのだが……
「いや、それが悪いわけじゃないよ? でも、色んな女の子とよく話してるから……もしかしたら、無類の女好きだったりして? なんて……ルイだけに!!」
「……すいませーん。温度が下がったんで、暖房つけて貰っていいですかー?」
「なんで!?」
こんな会話をしつつ、食事を終えて……警備の時間だ。
「交代です、お疲れ様でした」
「じゃあ、後よろしくね」
「お任せ下さい」
そう言って、学園内の警備を始める。不気味に響くのは俺の足音のみ……あるのも俺の気配のみだ。仮面ライダーはいない……
「問題なし……次だ」
ミラーモンスター対策で、鏡面には全てカーテンがかけられているので、光が入ってこない……あるのは小さな照明のみ。
「幽霊でも出そうだな……なんでも来やがれ、俺が相手だ」
そう呟きつつ、学園内を徘徊する。人から見たら、俺の方が幽霊に見えるかな? ビビって仮面ライダーが逃げてくれたらいいんだが……
「そう都合よくはいかないよな……幽霊にビビる仮面ライダーがいるわけない」
何もいない……そろそろ時間だな。
「交代です」
「お疲れ様です、よろしくお願いします」
「はい」
会釈をして、その場を去る。こんなに夜更かしするのは久しぶりだ……さっさと寝よう。
『囚人の連続行方不明事件 今月で3例目』
「……嫌な予感がするな……」
ミラーモンスターの時もそうだった。今度はなんだろうか? またミラーモンスターに食われた? それとも……別の何か?
「考えても仕方ないか……」
いつ仮面ライダーが来るかはわからない。さっさと休んで、次の日に備えるのが懸命だ……そう思って、電気を消してベッドに潜る。
「……おやすみ」
誰に言うでもない、言葉。母さんにいつも言ってから寝ていたから、習慣になっているのだ。
「またいつか、言えるといいな」
そう呟いた後、俺は眠りについた。
真夜中のこと。男……暁 裕二は、重たいドアを開いて基地に戻ってきた。
『お帰りなさいませ、暁裕二様。現在は午前3時50分です』
「……例の計画の方が進んでいないのはわかっている。もう一つの計画の方はどうだ」
「はい、現在研究させています……ですが、成功するかどうかは……」
機械音のみが不気味に響いている……人が三人、男の目の前に寝かされていた。医師らしき格好をした者達が手術を行っている。その時……一人の男が、灰になってしまった。
「……チッ。一人目は失敗か」
その次の男も、灰になってしまった。
「クソ……何故だ!?」
男は手に持っていた紙を、怒りのあまりくしゃくしゃに握り潰してしまった。最後の男に、医者が何かをし始める。その時……男の体が、灰色に変化した。
「……成功しました」
「よし……よくやった!」
「これは……一体?」
男は灰色のまま眠っている……
「因子を人為的に埋め込むことで覚醒を促す……ようやく、成功したぞッ……!!」
「あれは何という名前ですか?」
「あれはな……む? 目覚めるか」
灰色の人間……否、人間の『進化した姿』が起き上がる。
「俺は……なんだ、これ……」
「動くな」
「うっ!? テ、テメェら……何者だ!?」
男は明らかに困惑した様子だ……それに対して、男が語りかける。
「心配するな、お前を逃がして力を与えてやったんだ……また、人を殺したいだろう? その力があれば、好きなだけ殺すことができる。できることは本能が教えてくれるはずだ……行け!」
「お、おぉ……力が漲ってくる!! この力があれば……!! 俺は無敵だァ!! ハハハハハ!!」
「あ、暁様……あれは?」
その男は、とてもご機嫌な口調で言った。
「あれは『オクラオルフェノク』。植物、オクラの能力を持つ……人間の進化した姿、オルフェノクの一体だ」
オルフェノク、参上。