後始末、という名の一破さんコミュ回。
後始末
あの壮絶を極めた戦いの後、俺達はもちろん病院送りになった。いつもは、俺だけかあやめと一緒だが、今回は一破さんと一緒だ。なにせ腕が飛んでいたので……みんなビックリしていた。腕はくっつけられないらしいので、二人仲良く義手にすることとなった。
「一破さん、調子はいかがですか?」
「まぁ、悪くない。気分もいいしな……」
「そうですよね、人生の目的が果たされたんですから」
一破さんの生きる目的は、あの日から復讐になった。最凶最悪の殺人鬼、八神雷牙。それが果たされたんだから、清々しいことこの上ないだろう。
「八神の死体は回収されたらしい。然るべき手続きの後に火葬するそうだ」
「……本当に、やったんですね。俺達」
「そういえば、お前はもう動けるのか? 私の見舞いに当然のように来ているが」
あぁ、それなら平気だ。なぜなら……治るのが早いからである。
「治療を施したら、二日くらいで治っちゃいましたよ。どんどん回復が早くなってて、嬉しいです」
「……そうか。私も、あと一週間もすれば退院はできるらしい。あとは通院でいいそうだ……私は私で、怪我に慣れてしまったな」
「一緒にサイガの攻撃を受けたりしましたもんね、ははははは!!」
俺はそう言って、過去の出来事を笑い飛ばした。一破さんにはため息をつかれたが、その顔には優しい笑みが見える……
「はぁ……あの時は大怪我を負わされて、あんなに落ち込んでいたというのに、元気だな」
「どっちにも慣れました!!」
「慣れでどうにかなるのか? お前の体は便利だな……」
一破さんとしばらく雑談をしていると……部屋に看護師さんが飛び込んできた。どうやら、俺を連れ戻しに来たようだ。
「ちょっと、雪村さん!! いくら怪我がほとんど治ったからって、まだ入院中なんですよ!? 大人しくしていてください!!」
「でも、ずっと病室にいたら体がなまっちゃいますよ?」
「入院が長引いたらどうするんですか!! 帰りますよ!! ほら、みんなも引っ張って!!」
看護師さん達に腕を掴まれた。俺は抵抗を諦め、手を振りながら引き摺られていく。
「それでは、今日はこの辺で~!!」
「ほら、行きますよ!!」
「……今度来る時は退院してから来いよ」
一破さんがそう言ってくれたので、俺は満面の笑みで手を振りながら、病室へと引き摺られていった。一日後、俺は精密検査を受けて……かかりつけ医にため息をつかれた。
「あなたは本当に傷の治りが早いですね……傷つく度に高速になっていく」
「なにかまずいんですか?」
「その原因が分からないんですよ。ただの『慣れ』では片付けられない早さですから」
まぁ、そりゃそうだよな。慣れたら治りが早いなら、病気の人は苦労しない。
「でも僕にとっては都合いいんですよ、早くパトロールしないと」
「はぁ……とりあえず、体に問題はありませんでした。退院して大丈夫です……できる範囲でお大事に」
「できる範囲で、ね!! ありがとうございました!!」
お医者さんは深いため息をついている。仕事を増やしてしまってごめんなさい。
「さて、とりあえず学園に戻って重りつけて、走り込みするか……」
「康太様ぁー!!」
「あやめ、わざわざ来てくれたのか? いつもありがとう」
毎回あやめは絶対に来てくれる。理由はわかっているが、それでも来てくれるのは嬉しいものだ。
「えへへ……これから走り込み? 余もやるんだ、一緒にやらない?」
「よしきた!! 何なら、どっちが先に疲れるか勝負するか?」
「いい余? 余の体力、舐めちゃいけない余!! そうと決まれば、学園までダッシュだ!!」
あやめはそう言って、俺と一緒に学園に走り……それから、走り込みに臨んだ。その結果……
「はぁ、はぁ……すごいね、康太様……」
「ふぅ……やっぱり引き分けか」
「余と引き分けの人なんて、父上くらいしかいなかったけど……康太様と一緒にいると、やっぱり楽しい!!」
褒められて悪い気はしない……俺は笑いながら、スポーツドリンクを二人分買ってきた。
「じゃあ、両者共に一位ってことで……乾杯といこうぜ?」
「かんぱーい!!」
「乾杯!! ……うん、美味い!!」
運動のあとにはやっぱりこれだよな。あやめも両手で持って、一気に飲んでいる。
「二人とも、トレーニングの後なのですか?」
「あぁ、とりあえず走り込みを……って、潤羽さん!?」
「こんにちは、雪村くん!! るしあでいいよ?」
るしあの髪の毛の色は緑に戻っている。どうやら切り替え可能らしい……いや、今はそうじゃなくて。
「どうしてここに? もしかして、潤羽さんも……」
「仮面ライダーなら、日々の鍛錬は怠っちゃいけないと思って……とりあえず始めてみたの!!」
「そうか、いいことだな……そうだ、ちょっと待ってろよ」
るしあを椅子に座らせて……もう一つスポーツドリンクを買ってきた。そして、るしあにもスポーツドリンクを差し出す。
「これ……スポーツドリンク?」
「走り込みの後だし、汗かいただろ? 飲むといい」
「あ、ありがとう! こんなの初めてで……美味しい!!」
さて、他にも色々とトレーニングがあるし……そろそろ行こうか。空き缶をゴミ箱に入れて、歩を進める。
「次のトレーニング行くの? 余も行く!!」
「もう行っちゃうのですか?」
「あぁ、悪いな……また会ったら奢るよ、じゃあ!!」
そう言って、俺はトレーニング道具を取りに行った。後ろを見ると、あやめも走ってこようとしている。何かるしあに言っているようだが……
「お待たせ、康太様。今度は何するの?」
「あやめもいるし、実践式でやろうと思ってる」
「わかった!! まず何からやろうか?」
とりあえず、体がなまらないようにダンベルでフリーウェイトして……剣と銃の訓練かな。その旨をあやめに話しながら、俺達は歩いていった。
「……『康太様は譲らない』って、どういうこと?」
あれから一週間ほど経過し……そろそろ、一破さんが退院してくる日だ。俺は早めにトレーニングを切り上げて、病院の前で待機していた。
「……やっぱり、いたな」
「一破さん!! 退院おめでとうございます!!」
「少々憂鬱だがな。あの日の独断行動で、始末書も何枚か書かねばならんし……電話越しで上司に怒鳴られたよ」
上司……安西さんのことだな。
「安西さん、いい人ですよね」
「会ったのか?」
「はい、一破さんについて聞こうと思って……」
俺がそう言うと、一破さんは頭を押さえてため息をついた。
「はぁ……妙に俺の事情に詳しいと思ったら、そういうことか。全くあの人は……」
「昔からこうなんですか?」
「……愛華に、俺のことを色々と喋ったのも彼だ。お陰様で、俺の好物だらけの弁当が届いたよ」
一破さんは愛華さんを懐かしんでいるようだ……つまり、懐かしむ余裕があるってこと。
「あっ、そういえば……メテオは、どうなりましたか?」
「メテオ……『星街すいせい』のことだな? 本来なら、神谷や神宮寺への協力もあって、仲良く終身刑か死刑になっているが……人質を取られていたことや、人質の『さくらみこ』が残酷に痛めつけられた痕もあった……それらを踏まえて、結局不起訴になったよ」
「そうですか、よかった……」
彼女だって奴らの被害者だった、責め続けるのは酷であろう。
「……あれ、ここって警察署?」
「言っただろう。仕事をしに来てるんだ……終わるまでトレーニングしてろ」
「あ、はい……」
一破さんの隣をついて回っていたら、いつの間にかここまで来てしまった。一応、中に入ってみる……
「お邪魔します……」
「……久しぶりだな」
「安西さん! お久しぶりです!!」
安西さんは俺の隣に座って、腕を組んだ。
「一破のヤツは始末書書いてるよ。散々怒鳴ったから、あいつも大人しい」
「程々にしてあげてくださいね……?」
「わかってるよ……色々とありがとな。あんな量の始末書を書いてんのに、清々しい表情してやがる」
復讐を果たせたからか……でも。
「彼がいなかったら、助けにいった僕も殺されてました。僕も彼には感謝してます」
「でも、あいつもお前がいなきゃ死んでた。お互い様、だろ?」
「そうですね!!」
安西さんも何だか清々しそうだ。悩みの種が取れたからだろうか。
「俺としても、あいつは憎かった……やれるなら撃ち殺してやろうと思ってたが、俺じゃとても無理だった……だから、死んだ時は嬉しかったよ。他の奴らも、八神に仲間を殺されてる奴はいた……みんな大喜びさ」
「本当にとんでもない男でした……どうしてあれほどの強さと狂気を? いくら変身していたとはいえ、人間が持てる強さだとは思えない」
「そこも含めて『狂ってる』のさ、あいつは。そうでもなきゃ、もう射殺されてるよ」
二人じゃなきゃ勝てなかった、ってわけか……やはり滅茶苦茶だな。
「滅茶苦茶ですね……」
「あぁ……そういや、知ってるか? 星街すいせいの嘆願書、被害者のさくらみこだけじゃなくて……一破も書いたんだぜ」
「えっ、一破さんが!? どうして……」
安西さんは笑っている……一破さんも、メテオを助けたかったのだろうか。
「元々情状酌量の余地はあったからな。だが、不起訴になった決め手はそれだ」
「でも、書く理由がないような……」
「あいつは何だかんだ優しい奴だからな。メテオの事情知ったら、放っておけなかったんだろう……まぁ、心の余裕ができたってのも大きいだろうが……」
心の余裕……そうだ、余裕がなきゃ優しくはできないもんな。
「ともかく、アンタのお陰で色んな人が助かった。礼を言うよ」
「……気にしないでください。私は自分の友達を助けただけです!!」
「友達、か……そうだな。あいつとずっと、友達でいてやってくれ。もうあいつが、失わないように」
そこに関しては心配いらない、何故なら……
「心配ご無用です!! 憎まれっ子世にはばかるって言うでしょ? 敵からもゴキブリかって何度も言われましたしね!!」
「はっはっは、自慢になってねぇぞ? ……おっと、そろそろ仕事しないとな。また会おうぜ、俺達のヒーローさん」
「ありがとうございました!! ……ヒーローか」
彼らのヒーロー……俺にその資格があるのだろうか。
『……おとー、さーん、おかー、さー……』
「やめよう……今頃悔やんでも、誰のためにもならん。さて、基本トレーニングは終えてるが、追加しようかな……?」
『それでは、次のニュースです。ギャラクシー・コーポレーションの社長とその秘書、神谷容疑者と神宮寺容疑者が犯罪組織『財団X』と取引をしていたことが正式に判明しました。二人はこれに関し、『間違いありません』と容疑を認めています』
後始末はきちんと成されているようだ。あとは手がかりが見つかることを祈るばかりだが……そう思いながら、外に出る。すると……女の人と鉢合わせた。
「あっ、すみません……」
「……いたんですね。ちょうど良かった」
「え? どちら様……?」
水色の髪をした、綺麗な女の人だ……誰だろうか。
「星街すいせいです。名前はもう聞いてますよね?」
「あっ、メテオの!? ここに何を……?」
「一破さんも、いらっしゃいますか?」
いるけど……多分、今は会えないな。
「はい、いますが……会うのは難しいかと。仕事中なので」
「そうですか……ごめんなさい、あなたにも謝りに来たのに」
「……気にしないでください。仕方なかったと思いますよ、僕も一破さんも」
明らかに落ち込んでいる、仕方ないとは思うけど……それでも悲しい。
「ありがとうございます……」
「そうだ、知ってますか? 一破さんもあなたの嘆願書、書いたらしいですよ」
「えっ!? どうして……!?」
当然、星街さんはとても驚いている。俺は笑いながら言った。
「あなたの事情を知ったら、放っておけなかったみたいです。あの人、カッコイイし優しい人ですから……僕も憧れてるんです」
「……かつての敵なのに、そんな簡単に水に流せるの?」
「えっ? 僕はわからないけど……一破さんは、犯罪者に接してきてるだろうし……冷静に接するとかも得意だと思いますよ? だからじゃないかな……」
「そう、なんだ……」
ついでだ、一破さんを立てておこう。俺は一破さんの功績を並べ立てることにした。
「それに、ギャラクシーコーポレーションで調査したのは一破さんですから!! 彼がいなかったら、さくらみこさんは助かってなかったかも……」
「……一破さんのこと、好きなんですね」
「そりゃあもちろん!! 大事な友達ですから!!」
そう言って、歯を見せて笑う。彼のことはいくらでも話せる気がする……
「……私も一応、ホロライブ学園の二年生なんだ。あなたもそうだって知って、少し驚いたけど……復学できたらするから、よろしくね」
「わかりました!! 僕の方からも説得しておきます!!」
「……そこまでしなくていいよ? じゃあね」
そう言って、星街さんは去っていった……というか、先輩だったんだな。知らなかったよ……さて、どうやって時間をつぶすかだが……
「そうだ、いいこと考えた……」
そう呟いて、俺はあるものを買いに行った。帰ってきてからしばらくして、一破さんが署から出てくる……
「……本当に律義に待っているとはな。手に持っているのは労いのためのものか?」
「へへへ……これなーんだ!!」
「花か? やけに数が多いが……しかし何のために? ……いや、そういうことか」
一破さんは俺の思惑に気づいたらしい。少し渋い顔をしている。
「……復讐は終わったんですし、そろそろ行ってもいいのでは?」
「夜中だぞ。肝試しでもする気か?」
「愛華さんに会えるかもしれませんよ?」
すると、一破さんがため息をついて言う。
「はぁ……花を買ってくるから、待っていろ」
「よしきた!!」
「遠足に行くんじゃないんだぞ、全く……」
少々呆れられながら、一破さんも花を買ってきて……お墓へと向かった。電灯が何個かついているが、それでも怖いな。
「ここですか?」
「あぁ……愛華と、子供の墓だ」
「お花生けないと……」
花瓶の水を替えて、花を何本か差す。そして、黙祷を捧げた。
「……終わったよ。愛華、亮太」
「子供さん……名前があったんですね」
「男の子だとわかっていた。だから、亮太って名前に決めたんだ……生まれることは叶わんかったがな」
亮太くんか……きっと、満足しているさ。
「亮太くん、君のパパが敵を討ってくれたよ……」
「……蒼太のところに行くぞ」
「あ、はい!!」
蒼太さん……一破さんの相棒らしい。そこに向かい、お墓に花を活けて……また黙禱する。
「蒼太……あとはお前の仕事だ。地獄の鬼に突き出してやれ」
「優秀な人だったんですよね?」
「あぁ。明るい奴で、煙草が好きだった……そんな煙たいもの誰が吸うか、なんて言ったのにな」
一破さんはお墓を見ながら、懐かしさに浸っているようだ。しばらく、一破さんの思い出話を聞いた後……
「……お前は先に帰っていろ。帰り道がわからなくなるぞ」
「一破さんは大丈夫ですか?」
「このあたりの道はわかる。心配せずに帰っていろ」
そう言われて、立ち上がる。
「では……ごゆっくり」
「……」
「一破さんを……僕の友人を、ありがとうございました」
お墓全体に頭を下げた、その時。
『あの人をよろしくね』
『俺の相棒を、頼む』
「……はは」
ほら。やっぱり、会えたじゃないか。俺は笑顔のまま、帰路についた。
「蒼太。そっちでも煙草を吸っているか?」
誰もいない墓場に、声が響く。
「お前のことだから、これを機に禁煙する……なんてことはしないんだろうな」
優しく笑いながら、一破が懐から何かを取り出した。
「……プレゼントだ。お前にくれてやる、ライターもサービスだ」
煙草の箱が二箱、そしてライターが一つ墓に置かれた。
「……俺か? 俺はしばらくいい、このまま禁煙してやる……お前の振りはもうやめだ」
そう言って、一破も立ち上がる。
「タバコ臭いのは嫌いなんでな。前にも言ったろ? 俺は離れておくよ」
墓に背を向けて、一破が歩いて行く……すると。
『もういっちゃうの?』
「……」
『ぼく、まだねむくない……ねぇ、あそんでよ』
一破は袖を引っ張られるような感覚を感じた。しかし、一破は……
「……今日はもう遅い。今度遊んでやるから、今日はもう寝なさい」
『はーい……おやすみ、パパ』
「あぁ、おやすみ……亮太」
一破の目元を涙が伝う。一破は今度こそ、墓場に背を向けた。
「……今度はジュースでも買ってやるか」
寮に帰ってきた俺は、食堂で夕飯を済ませて……パトロールの時間まで寝ていようと思った時、電話がかかってきた。
「これは、あやめからか……もしもし」
『もしもし、康太様? こんな時間にごめんね』
「別にいいよ、暇だったし。どうしたの?」
あやめは何故かどもっている、言いにくいのだろうか。
『えっと、あの、その……』
「ゆっくりでいいから、聞かせて?」
『すぅー、はぁー……その、康太様。約束、覚えてる?』
約束……どれのことだ。
「針千本飲むやつ?」
『それじゃなくて……ジェミニの時の』
「あ、デートのこと?」
そうだ、あの戦いが終わったらデートする約束だったよな。
『うん、だからさ……明日とか、空いてないかな?』
「明日か……わかった、学園長に言って休みにしてもらうよ。有給を使わせてもらうとしよう」
『ほ、ホント⁉ やった!! じゃあ、明日学園の前で一時に待ち合わせね!!』
時間も決まった。予定が決まれば、あとはやるだけだ。
「明日のプランとか、考えとくよ」
『余が考えるからいいの!! かわいい服着ていくから、楽しみにしてて!!』
「わかった、楽しみにしとくよ」
最後まであやめのテンションが高いまま、電話は切れた。そうと決まれば、電話しないとな。
『……もしもし。雪村くん、急に電話してきてどうしたんだい?』
「突然すみません。明日、有給って使えませんか? 理由は私用なのですが」
『うん、わかった。明日は休みにしておくよ』
二つ返事で了承してもらえた。ホワイト企業だな。
「ありがとうございます、それでは‼」
『うん。百鬼さんとデートだろ? どちらから誘ったのかは気になるが……楽しんでくるといい』
「……バレてた」
あやめもここでオーガとして警備しているのだから、当然であることに気づくのには時間はかからなかった。
「とりあえず、今日の仕事を頑張ろう」
そう呟いて、俺はデルタギアを装着しながら警備に向かうのだった。
次回、デート回です。