※この作品はR-18です。

仮面を被った、人間達の英雄譚   作:とも667

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 大変お待たせしました。本編をどうぞ。


灰色の脅威

 目覚ましがけたたましく音を立てる。それに反応して俺も目を覚ました。うるさく鳴って俺を起こしてくれた目覚ましを止め、時計を見る。うん、丁度いい時間だ。

 

「おはようございます、っと……」

 

 そろそろ学校の時間だ……普通の生徒のフリをするんだったよな? 演技なんかしたことはないが、頑張ってみよう。これもみんなのためだ。

 

「見回りもしなきゃいけないし……忙しくなるな」

 

 今のところ、仮面ライダーには俺しか勝てていない。俺がやるしかないんだ。自分を奮い立たせる。

 

「とりあえず、飯食わねぇと……」

 

 着替えて、一通り済ませたら……食事だ。急いで食堂に向かう。

 

「失礼します……空いてるな、もうみんな済ませてるらしい……モーニングセットひとつ!」

 

「モーニングセット、入ります!」

 

「はーい!!」

 

 出てきたのははちみつトーストに、目玉焼きとシーザーサラダ。セルフサービスの野菜ジュースをコップに入れてきた、さっさと食って行かなければ……うん、やはり美味い。外は香ばしく焼き上がり、中は柔らかな食感を提供してくれるトーストに、優しい甘みの蜂蜜がよく合う。目玉焼きも丁度いい焼き加減で、醤油が合うし……シーザーサラダも瑞々しくて……って、味わってる場合じゃないだろ。そう思って、さっさとかき込む。

 

「いい焼き加減だ……目玉焼きも半熟だし。醤油がよく合う……ごちそうさまでした」

 

「ありがとうございました!」

 

「歯磨きして行かないとな……!」

 

 歯磨きして、準備する。よし、OK!

 

「行くぞ!」

 

 周囲を警戒しつつ、学園に向かう。学校に近いのは助かるな、仕事は増えたけど。

 

「おはようございます、先生!」

 

「おはよう雪村くん、元気そうだね」

 

「いつでも無駄に元気ですよ、俺はね!」

 

 態度が暗くなったら、心配されてなにか言われるかもしれない。バレたら大惨事だ……だからいつもの二割増くらいに、明るく振る舞う。今のところ連絡がないってことは、何も無いのだろう。

 

「……平和が一番だよな」

 

「あれ? 嬉しくないのかい?」

 

「いや、次々攻めてきてたので……急に止まると、嵐の前の静けさというか、なんというか……」

 

 妙な不安を感じる。これまで呑気に生きてた頃は、こんなことなかったのに……殺し合いに慣れてきたのかな? あんまり嬉しくない慣れだ……俺だって殺したくはないが、殺さなきゃ本当にこっちが殺られる。あっちは殺る気満々な上、一発で死にかねない威力。そんな相手に手加減できる程、俺は器用じゃない。

 

「問題は見つかっていないが……とにかく今は心配しないで、教室内にいてくれ」

 

「わかりました、先生」

 

「じゃあ、みんな揃ったみたいだし……って、あれ? 山田くんは?」

 

 一人来てない子がいる。どうしてだろう? まさか、連れ去られたか? それとも……最悪のことを考える。

 

「仮面ライダーやミラーモンスターに……」

 

「昨日まではいたはずだよ。一緒にいた人はいる?」

 

「いえ、知りません……」

 

 みんな首を横に振った。俺も知らない……ってことは、家の中で食われたとか?

 

「私は家に電話してみる。少し自習してて」

 

「また物騒な雰囲気……船長、逃げていい?」

 

「ぺこーらも……」

 

 みんな怯えてるな……仕方あるまい、なんたって殺されかけてるんだ。だからこそ……俺がどうにかしないといけない。

 

「安心しろ、そうだったら……俺が仇を討ってやるさ! みんなは自習時間という名の休み時間を楽しむといい!! 俺と鷹嶺先生にお任せあれ!!」

 

「サボりは良くない余!」

 

「真面目ですねぇ、百鬼さんは……」

 

 少し空気が和んだかな……その時。俺の電話が鳴ってしまった。相手は……学園長!?

 

「ちょっと失礼!」

 

「誰と電話するんだろう? もしかして、恋人とか?」

 

「いるって噂はないけど……まさかね?」

 

 外に出て、焦りながら電話を取る。

 

「もしもし……学園長ですか?」

 

『あぁ、鷹嶺くんが確認したところ……彼は家を確かに出発したらしい。だが、学校に辿り着いていない……』

 

「道中でミラーモンスターにやられた……?」

 

 そう考えるのが一番自然だ。

 

『その可能性が高いね……今日はみんなを帰らせて……』

 

「……っ!? あれは……山田さんがいました!!」

 

『なんだって……!?』

 

 山田さんは、虚ろな目で教室に歩いてきている……堪らず走り寄って、声をかけた。

 

「山田さん! どこに行ってたんですか? みんな、心配してたんですよ!?」

 

「……」

 

「山田さん……?」

 

 話しかけても、返事をしてくれない。肩に手を置こうとした、その時だった。彼の体が……粉末になって、地面に落ちていく。

 

「え……」

 

 灰色の粉末。物が燃え尽きた後のような匂い……これは灰だ。人が灰になっていく……どんどん消えて、最後には……形を失い、灰の山になってしまった。消えてしまった跡地には、服と鞄だけが残されている……

 

「どういう、ことなんだよ……」

 

『応答してくれ、雪村くん! 雪村くん!!』

 

「す、すみません……山田さんが、灰になって消えてしまいました……」

 

 目の前の状況を説明すると、帰ってきたのは……素っ頓狂な声だった。

 

『……は?』

 

「私も意味がわからないんですけど、そうとしか言えないんです……今、目の前で……」

 

『とりあえず、鷹嶺先生がそちらに向かっている。合流してくれ……一度切るよ』

 

 電話が切れてしまった……どうなってるんだ? これはなんなんだ……山田さんだった灰を掬い上げる。だが、それはすぐに手の間を滑り落ちて行ってしまった。

 

「雪村くん!!」

 

「鷹嶺先生……これが、山田さんです」

 

「……私は、また……!」

 

 鷹嶺先生は、苦虫を10匹くらい噛み潰したような顔をしていた。当然だろう……また、生徒を失ったのだ。間に合わなかった……罪悪感と無力感が、先生に重くのしかかってきている。俺にできるのは……これだけだ。立ち上がって、言うだけ。

 

「先生。復讐しましょう……殺しに行きましょう、理不尽を」

 

「……あぁ、わかってる。今度は絶対に負けない……!!」

 

「お手伝いしますよ、先生」

 

 そう言って、学園から出ようとした時……俺達は、同時に後ろを振り向いた。強大で、ゾッとするような気。仮面ライダーと同等のそれが、後ろから感じられたのだ。そこには……教室に向かう男が一人確認できた。

 

「待て!!」

 

「待ちやがれぇ!!」

 

「誰が待つか!!」

 

 教室の中に入る……奴はみんなの前に立っていた。

 

「ヘッヘッヘ……久しぶりのシャバだなァ……一人殺したおかげで、ムショボケも治ったことだし……ぶち殺させてもらうぜぇ!?」

 

「お前……昔ニュースになってた、粘着殺人鬼か!?」

 

「貴様、なぜここに……!?」

 

 奴は笑いながら言う。

 

「んなこたぁ知らねぇよ、変な施設で力を貰ったんだ……面白い殺し方もできるようになったし……お前らも同じようにしてやるぜ!!」

 

「なんだ!? 体に灰色の模様が……」

 

「これが俺の力だァ!! グヒヒヒヒッ!!」

 

 体の形が一気に変わる。灰色の体に、鎧のような皮膚を持つ、何かに……仮面ライダーなのか? だが、ベルトもデッキも使ってない……新型?

 

「お前……仮面ライダーか!?」

 

「仮面ライダー……? なんだそれ? とにかく俺は強くなったんだ……!! 覚悟しやがれ!!」

 

「知らないだと!? じゃあ……これは何なんだ!?」

 

 意味がわからない。この異様な姿と気配が表すことの正体が掴めないのだ。奴は狂気の篭った嗤いを隠すこともせず、生徒達にどこからか出した斧を向けた。

 

「う、うわぁぁ!?」

 

「させるか……!!」

 

「邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 地面を蹴って、腕に膝を叩き込んで斧を逸らした……標的から外れた斧は壁に突き刺さり……バラバラに砕いてしまった。力は仮面ライダーやミラーモンスターと変わりないらしい。

 

「悪いけど……邪魔させてもらうぜ!! みんなを殺させたくないんでな!!」

 

「だったらテメェから殺すだけだ!!」

 

「いいぜ、かかって来いよ!! こっちだぜ!!」

 

 外に奴を誘導する。そうしないと、話にならない……シザースやベルデとの戦いで未だボロボロの運動場に、奴を誘導した。

 

「喰らいな!!」

 

「なっ、粘液か……!? クソ、ベトベトして取れん……!!」

 

「そこだぁ!!」

 

 粘液が服と足にくっついて、身動きが取れない。手で剥がそうとしても、手がベトベトになっただけで動けるようにならなかった。いけない、食らったら終わりだ。思いっきり体を逸らして、どうにか避ける。

 

「うぉぉっ……!!」

 

「避けんじゃ……ねぇよ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

 奴が地面を砕きながら、その場で回転して足裏を叩き込んでくる。蹴りの威力も仮面ライダー並かよ……粘液から足が外れて吹っ飛びながら、血を吐いた。

 

「ヘッヘッヘ……そろそろいいか? ギヒヒヒヒ……!!」

 

「しょ、触手……!? 離せぇ……!!」

 

「これを心臓にぶち込むと、みんな灰になって死ぬんだ。面白ぇだろ?」

 

 即死攻撃かよ……!! このっ、どうにかならないか!? 考えろ俺!! いつものように考えを巡らせる……

 

「雪村くんっ! この……!!」

 

「来るなっ……考えが、ある!!」

 

「考え? 天国に行く考えかぁ? 懸命だな!!」

 

 ……そんなんじゃないさ。昨日まで戦って、運動場はボロボロなんだ……奴の体重と俺の重さが入って、限界であることに賭ける!! 足を動かして……地面を蹴った。

 

「最後の足掻きか……? 外したなぁ!! お望み通り……お前から死ね!!」

 

「雪村くんっ!!」

 

「……死ぬ前に一ついいか? 足元には気をつけろよ」

 

 そう言った瞬間に……奴が一気にバランスを崩した。地面が崩落したのだ。

 

「うぉぉぉぁぁっ!?」

 

「立つ場所はちゃんと考えるんだったな……ベトベトの殺人鬼さんよ!!」

 

「雪村くん! 大丈夫かい!?」

 

 ちょっと苦しかったけど、平気だ。それにしても変なやつだな……これまで見た事のないタイプだ。

 

「平気、平気……! 引っかかってくれました、大成功!」

 

「もしかして、ここまで考えて……?」

 

「あー……そうそう!! 計算済みでしたよ!!」

 

 もし偶然だなんて言ったら、心配をかけるだろう。そう思って、計算済みだと言っておいた。

 

「こ、この野郎……!!」

 

「足元に気をつけないからそうなるんだぜ?」

 

「テメェ!!」

 

 怒りながら、奴が向かってくる。そこに先生の爪が振り下ろされた。

 

「ぐっ……!?」

 

「二度と負けない……もう傷つけさせない。今度こそ、殺しきってみせる!!」

 

「俺だっていますよ、先生? 頼りにしてくださいね?」

 

 先生への負担を減らすために、横からウィンクしながら言う。

 

「無理はしないでくれよ、君だって私の生徒なんだ……怪我したら悲しい」

 

「俺だって、みんなを守るために戦ってるんです。先生も例外じゃありませんよ……無茶はしないでください」

 

「こっちのセリフさ……行くよ、雪村くん!!」

 

 灰色のベトベト殺人鬼に向かって、二人で駆け出す。

 

「一人増えたな……お前も一緒に地獄に行くといい!!」

 

「地獄に行くのはどっちかな!?」

 

「ベトベトして気持ち悪い殺人鬼め、綺麗に洗って排水溝に流してやるぜ!!」

 

 啖呵を切ると同時に、戦いの火蓋も切られた。さて、次の作戦はどうするか。同じことは通用せんしな……

 

「うるせぇ、クソガキ!!」

 

「うぉっと!!」

 

「らぁぁっ!!」

 

 爪の一撃。やっぱり高威力だな……ッ!?

 

「喰らいな!!」

 

「な……!?」

 

「やらせるか!!」

 

 瓦礫を持って、粘液が先生に当たらないようにする。先生は当たったら終わりのスピードタイプ……動けなくされてしまったら、死活問題だ。

 

「邪魔すんな!!」

 

「先生、食らったら動けなくなります!! 気をつけて!!」

 

「成程……警戒すべきか。ありがとう、雪村くん」

 

 この瓦礫……使えるかもしれん。やってみる価値はあるな!

 

「こっちだぜ、ネバネバ殺人鬼!」

 

「あぁん!?」

 

「鬼さんこちらっ!!」

 

 やっぱり、殺人鬼だから挑発には乗りやすいようだ。これなら……! 奴が来るのが遅れるように、清掃用具入れからある物を取りだし、撒いておく。

 

「よっ、ほっ!」

 

「待ちやがれ……うぉぉっ!? す、滑る……!!」

 

「ワックス作戦、成功……!」

 

 仮面ライダーと同じなら、走るのも速いはず。勢いがついていればついている程、ド派手に転ぶ!!

 

「舐めやがってぇ……!!」

 

「俺はネバネバ系の食べ物嫌いなんでな、舐めたいとも思わん!!」

 

「ふざけてんじゃねぇぞ!!」

 

 今のうちに準備をする。水やり用のゴムホースを引っ張ってきて、蛇口を最大まで捻ったら……ネバネバの瓦礫で、蓋をした。

 

「……来たか」

 

「覚悟は出来てんだろうな……!?」

 

「かかってこいよ、ネバネバ」

 

 奴は激昂しながら、こちらに向かってくる。いいぞ、そのまま……その方向に、斧を振り下ろせ!!

 

「死ねぇぇ!!」

 

「よっ……」

 

「読めてんだよ!!」

 

 頭突きをぶちかまされた。既に折れていた骨が、もっと砕かれる……だが、これでいい。

 

「ごはぁっ!!」

 

「へへ、いい気味……って!?」

 

「言っただろ、綺麗にしてやる……ってな!!」

 

 瓦礫が斧に壊され、水が一気に解放される。勢いに耐えきれず上を向いたホースが、奴の顔に大量の冷水をぶちまけた。

 

「がぁぁぁぁっ!!」

 

「俺の方に来てくれて……サンキュー……!!」

 

「しまっ……」

 

 計算通り……! 水圧に押されてきたネバネバ野郎に、全力の殴打を叩き込む!!

 

「DAARAAAAーッ!!」

 

「ぐげあぁぁぁぁぁっ!!」

 

「だぁぁらぁッ!!!」

 

 これが俺の全力……どうだ、死んだか? 死んでいて欲しい……

 

「……ご、ぐぅ……テン、メェ……!!」

 

「チッ、まだ死なねぇのか……!!」

 

「貴様、だけは……ぶち殺して、やる……!!」

 

 フラつきながら、こちらに歩いてくる。どうしても俺を殺したいようだな……どうする? 俺の腕は殆どガタが来てる、あと一発ぶち込めるかどうか……そもそも当たるのか? 考えろ、こいつを殺す方法はないのか?

 

「死ね、死ねぇ……!!」

 

「……死ぬのはやっぱりお前の方だぜ……」

 

「ふざけんじゃねぇぇぇっ!!」

 

 これに賭ける。俺は服を脱いで……斧を振り上げた奴に投げつけた。

 

「うぉぉっ!? っく、この……!!」

 

「ネバネバがもっとネバネバになっちまったな!」

 

「舐めやがって!!」

 

 そう、服は粘液でネバネバ。簡単には取れない、取るのに一番手っ取り早いのは……『引き千切る』ことだ。案の定、奴も服に手をかけ始めた……その隙は見逃さない。俺は持つ手が疎かになっている、奴の斧に手を伸ばした。

 

「ッ、何しやがる……!? 人のモン盗るんじゃねぇ!!」

 

「人の命を何個も奪い取ってきたくせに……何言ってんだよ!!」

 

「くそ、なんで……なんで取れねぇんだ!?」

 

 その秘密は……手にくっついたアレだ。

 

「お前のネバネバに触っちまったから……手もネバネバで粘着力があるのさ!! 怪我の功名ってやつだな……!!」

 

「な、なんだと……!?」

 

「自分のネバネバで墓穴を掘ったらしいな……!! 二つの意味で、俺の粘り勝ちだ!!」

 

 そう言って、奴から斧をぶん盗る。奴はようやく服を引き千切ることができたようだが……遅かったな。俺は斧を横にして、力任せに奴の体へと食い込ませていた。

 

「がぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

「DAARYAAAーッ!!!」

 

「ぐ、げぁ……ぁ……」

 

 鉄の壁を易々と両断した斧は、ネバネバ殺人鬼の筋繊維をバラバラにして、内蔵を真っ二つにしながら進み、貫通した。これ以上は、やれない……どうだ!?

 

「……まだ、やるか?」

 

「あ、が……死ぬの、か……あ、熱い……体が、燃えていく……!! この俺が、こんなところで死ぬわけ……な……」

 

「受け入れろ。お前は死んだんだ、俺が殺した。怪物になっても、一人の人間に嵌められて負けたのさ……ネバネバにされてな」

 

 奴の体から蒼炎が溢れ出す。それは奴の体がずり落ちて行くのに比例して、勢いを増し……やがて奴も、山田さんと同じように、灰になってしまった。斧も奴の死と同時に灰になる。

 

「へへっ……勝てた、な……」

 

 その場に座り込む。前と違うのは、そこまで眠くないこと……慣れてきたのかな? だけど腕も足も動かない、疲れはあるみたいだ……

 

「雪村くん!!」

 

「あ、鷹嶺先生……もう片付けておきましたよ。あと水止めといてください」

 

「そうか、流石だね……また罠に嵌めたのかい?」

 

 水を止めつつ、鷹嶺先生が尋ねてくる。

 

「まぁね……見事に引っかかってくれましたよ。体中ベトベトですけど……そのおかげで勝てました」

 

「その灰は……奴も死んだら、灰になったのか」

 

「そうですね、蒼い炎を上げながら灰になっちゃいました。灰色のヤツに殺されると灰になる……そいつが死んでも灰になるみたいです」

 

 灰になる化け物……新しいのが出てきたな。変なバリエーション豊かにしやがって、そんなことをしてる暇があるなら、自販機限定ジュースのバリエーション増やせっての。

 

「おかしな奴だね……歩けるかい?」

 

「すみません、難しいです……」

 

「大丈夫だよ。ほら、掴まって?」

 

 差し伸べてくれた手を取り、どうにか立ち上がる。

 

「ありがとうございます……」

 

「これも先生の役割さ、気にすることはない。とりあえず、病院に行こうか。肩を貸すよ」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 足を引きずりながら、なんとか歩く。警察の人達とすれ違ったので、軽く会釈をしておいた。いつもなら敬礼するとこなんだけど……腕が上がらないんだ、これで許して欲しい。その後、病院にて。

 

「骨は折れてますし、内蔵にもダメージありますけど……これまでと比べれば軽い方ですね。五日もかからないと思います」

 

「いよっし!!」

 

「それでよしって言える精神性は尊敬しますよ……」

 

 一発がt単位の化け物との殺し合いでこれで済んだんだ、いい方だろう。

 

「さっさと治さないとまずいな……いつ来るかわからん」

 

「来ないようにして欲しいんですが……」

 

「無理です」

 

 即答しつつ、回復薬の点滴を受けつつ、一日一回の回復魔法で自然治癒力を高めておく。

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

「いつもありがとうございます」

 

「仕事なので。それでは」

 

 ストイックだなぁ……彼らを尊敬しつつ、また寝転がる。さて、また暇なわけだが……

 

「勉強しとくか……」

 

 戦い続きで忘れていたが、俺は一応学生と兼用なのだ。落第したヒーローなんて笑い話にもならん。

 

「腕は動くようになってきたし……やっとくか」

 

 教科書は学校に置いてきてしまったが、スマホで勉強できる時代だ。トレーニングできないなら、勉強しとこう。

 

「……うげっ、勉強してないから殆ど忘れてる」

 

 自業自得だ、頑張って勉強しよう。そう考えて、問題を解いていく……途中で父さんや母さんが来て、果物をくれた。みかんにかぶりつきながら、勉強する。

 

「ん~、このみかんは酸っぱいな……さっきのは甘かったんだけど」

 

 みかんで汚れた手を拭きながら、難しい問題を解いていく。何かしてないと……そんな強迫観念にも似た物が俺に染み付いている。

 

「仮面ライダーとミラーモンスターが敵だと思ってたら灰色の敵が増えた……鏡に入れる奴の次は、人を灰にできる奴、か……」

 

 そして死んだら自然発火し、蒼炎に包まれて燃え尽きる……尽く物理法則の通用しない奴らだ。それに、あの触手……あれで殺されると灰になるらしい。一体、何をしたんだ? 如何せん情報が無さすぎる、仮面ライダーもミラーモンスターもただでさえ無いのに、灰色の変な奴まで増えたらお手上げだ。

 

「今度は化け物の名前すらわからん……あいつ自身名前わかってなかったっぽいし……」

 

 謎がとんでもない勢いで増えてゆく、多分これからも増える……そっちの方のことを考えてしまい、勉強が進まない。

 

「あー、くそー……」

 

 何度目かわからないため息。悔しい、一つの感情だけが俺の心を埋めつくしていた。そんな中でも時は経ち、三日後。

 

「……怪我の連続なので、ちょっと治りが早くなってますね。退院して大丈夫ですよ」

 

「はい、それじゃあ……」

 

「無理はしないでくださいね?」

 

 そう言われつつ、病院を出た。もうジャンプしないぞ、流石に3度目はないさ。いつも通りトレーニングをしたら、家に帰った。

 

「……ただいま戻りました」

 

 フリーウェイト、腹筋に空手や柔道の練習。日々欠かさない、やめたら弱くなってしまう。終わった後、スポーツドリンクを飲んでいたら……電話がかかってきた。戦闘態勢に入りつつ、電話を取った。

 

「もしもし、学園長ですか?」

 

『あぁ、私だよ。病み上がりで悪いが、会議室まで来て欲しい。皆さんと一緒に仮面ライダーや、灰色のアイツについて話し合うつもりだ。君にも参加願いたい』

 

「私は大丈夫です、今から向かいますね」

 

 電話を切って向かう。どうやら、大事な話のようだな……情報が手に入ったのだろうか? 期待しながら、会議室の扉を開いた。

 

「失礼します」

 

「やぁ、雪村くん」

 

「鷹嶺先生……そちらの方々は?」

 

 他にも大人の人達がいる、誰だろうか?

 

「あぁ、確かに雪村くんは彼女達と会ったことがなかったね。紹介しよう、まず彼女は……」

 

「いいわ、先生。私から言うから……ちょっこーん、康太様。私は『癒月ちょこ』……ホロライブ学園の保険室担当よ」

 

「保健室……いつも怪我が重くて行ったことはなかったけど、貴方だったんですね。角とその尻尾は……悪魔の方ですか?」

 

 俺がそう言うと、少し顔が明るくなったように思える。外人のような金髪に、今言った角と尻尾……目の色は青で、ちゃんと羽もある。ピンク色の服の上に、白衣を着込んでいて……黒いズボンを履いてる、保険担当と言われたら納得いく格好だな。

 

「正解! よくサキュバスと間違われるのよね……でも、ちゃんと悪魔なのよ?」

 

「あぁ……それは辛いですね。淫魔とは似てるけど違うらしいし……」

 

「康太様くらいの歳なら、淫魔とかにも興味あったりするのかしら?」

 

 悪戯っぽく微笑む癒月先生……だが。

 

「いえ、興味ないです」

 

「キッパリ言い切った……珍しいわね、普通焦るんだけど」

 

「そういうのは純愛オンリー、それ以外は嫌です……何言わせるんですか!」

 

 ついノリに乗ってしまった……悪戯好きな人だな。

 

「ふふふ、ピュアねぇ……」

 

「……こんな人だけど、君のこと心配してくれてたんだよ?」

 

「え? そうなんですか?」

 

 癒月先生は優しい顔に変わって、言ってきた。

 

「毎回大怪我しちゃって……心配する人がいるんだから、少しは気をつけてね?」

 

「……善処します。あなたは……見たところエルフみたいですけど」

 

「説明が省けて助かるよ! 流石だね!」

 

 というかまんまエルフだ、耳の形からして……頭の上になんかあるけど。この人も金髪……髪型はツインテールだ。変な機械が頭の上に浮いている。待てよ、あの髪……機械から出てる。あの機械で髪型チェンジするのか? 便利すぎるだろ。一個いくらですか? 服装は青を基調とした服に、青と白のスカートを履いている。目の色も青だな……青好きなのかな? 俺も好き。

 

「あなたも先生ですか?」

 

「そう! じゃあ改めて、アローナ! 私はアキ・ローゼンタール……みんなアキロゼって呼ぶから、そう呼んでくれると嬉しいな!」

 

「アキロゼ先生……あなたは何の担当ですか?」

 

 この人は何の担当なのだろうか? やっぱりエルフだから、国語とか……?

 

「アキロゼは体育! 筋肉に自信あるんだよ?」

 

「え……意外、エルフって森の中で魔法とか弓とか使って、狩りをして暮らす種族じゃなかったっけ?」

 

「固定概念に縛られないのがアキロゼなのですよ! 仲良くしようね、雪村くん?」

 

 差し出された手を取って、握る。

 

「……おぉ、痛がらない! やっぱり鍛えてるね、仮面ライダーと戦えるのは伊達じゃない!」

 

「……痛がらせるつもりで握ってたんですか?」

 

「強めに握ったら、みんな痛がっちゃうからやめてたんだけど……君がどれくらい鍛えてるのか確認したくって、ごめんね?」

 

 そういうことなら仕方ないな……

 

「大丈夫ですよ、痛くなかったので」

 

「病み上がりなのに元気だね、雪村くんは……そろそろ時間だ、楽しい談話はここら辺にしよう」

 

「はーい!」

 

 そう言われて、椅子に座る。すぐに学園長や大人の人達が来た。

 

「すまないね、雪村くん。よく来てくれた……紹介しておこう。この人は一破 誠二(いちは せいじ)さんだ。この人と話をすることになってる……仮面ライダーや『灰色のアイツ』についてをね」

 

「一破です、よろしくお願いしますね、雪村さん」

 

「こちらこそ、一破さん」

 

 そう言って、二人が椅子に座る。一破さんは警察の服を着ており、目の色は黒。目つきは鋭いが……大人しそうな人だ。

 

「ではまず、これが……灰になった二人の検死結果です」

 

「……人間の細胞がそのまま灰になっており、原理は不明、か……」

 

「経緯は警察仲間を通して知っています。終身刑の殺人鬼が消えたかと思ったら、化け物になって戻ってくるとは……灰色の何かが何なのかは、未だにわかりません」

 

 だよな……財団Xについても、この様子だと進展は無いらしい。

 

「どんな奴らなのか、それすらもわからない……こちらからは、何一つ手を出せないのね」

 

「申し訳ない……戦っていて気づいたことなどは、雪村さんにありますか?」

 

「……奴は『触手を心臓にぶち込むと灰になって死ぬ』と言っていました。恐らく、山田さんはあれでトドメを刺されたのでしょう。あとは無から斧の生成をしたり、粘液を手から噴射したり……こんなところですかね」

 

 全員考え込んでいる……俺も言いながら考えてる。

 

「監視カメラに写っていましたね……あの触手についてはわかっていなかったから、助かります。そうか、山田さんはあれで殺されたのか……」

 

「……聞き取りなどは終わったね。では、本題に入っていただけますか?」

 

「えぇ。これが言いたくてここに来たんです」

 

 一破さんの顔が険しくなる。

 

「……その話とは?」

 

「はい……危険な敵が何種類いるのか、まだ我々にはわからない。仮面ライダーにミラーモンスター、そして今回の灰色の奴……これ以上増える可能性だって、否定できない」

 

「その通りですね……これ以上増える可能性は十分ある」

 

 鷹嶺先生が言うと、彼は頷いて言った。

 

「そこで……仮面ライダー、ミラーモンスター、灰色の奴……全てまとめて、一律の名前をつけることになりました。それをお知らせしておきます」

 

「……その、名前というのは?」

 

「名前は……『未確認生命体』。それが名付けられた、奴らの名です」




ついに名付けられました。
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