大変お待たせしました。本編をどうぞ。
目覚ましがけたたましく音を立てる。それに反応して俺も目を覚ました。うるさく鳴って俺を起こしてくれた目覚ましを止め、時計を見る。うん、丁度いい時間だ。
「おはようございます、っと……」
そろそろ学校の時間だ……普通の生徒のフリをするんだったよな? 演技なんかしたことはないが、頑張ってみよう。これもみんなのためだ。
「見回りもしなきゃいけないし……忙しくなるな」
今のところ、仮面ライダーには俺しか勝てていない。俺がやるしかないんだ。自分を奮い立たせる。
「とりあえず、飯食わねぇと……」
着替えて、一通り済ませたら……食事だ。急いで食堂に向かう。
「失礼します……空いてるな、もうみんな済ませてるらしい……モーニングセットひとつ!」
「モーニングセット、入ります!」
「はーい!!」
出てきたのははちみつトーストに、目玉焼きとシーザーサラダ。セルフサービスの野菜ジュースをコップに入れてきた、さっさと食って行かなければ……うん、やはり美味い。外は香ばしく焼き上がり、中は柔らかな食感を提供してくれるトーストに、優しい甘みの蜂蜜がよく合う。目玉焼きも丁度いい焼き加減で、醤油が合うし……シーザーサラダも瑞々しくて……って、味わってる場合じゃないだろ。そう思って、さっさとかき込む。
「いい焼き加減だ……目玉焼きも半熟だし。醤油がよく合う……ごちそうさまでした」
「ありがとうございました!」
「歯磨きして行かないとな……!」
歯磨きして、準備する。よし、OK!
「行くぞ!」
周囲を警戒しつつ、学園に向かう。学校に近いのは助かるな、仕事は増えたけど。
「おはようございます、先生!」
「おはよう雪村くん、元気そうだね」
「いつでも無駄に元気ですよ、俺はね!」
態度が暗くなったら、心配されてなにか言われるかもしれない。バレたら大惨事だ……だからいつもの二割増くらいに、明るく振る舞う。今のところ連絡がないってことは、何も無いのだろう。
「……平和が一番だよな」
「あれ? 嬉しくないのかい?」
「いや、次々攻めてきてたので……急に止まると、嵐の前の静けさというか、なんというか……」
妙な不安を感じる。これまで呑気に生きてた頃は、こんなことなかったのに……殺し合いに慣れてきたのかな? あんまり嬉しくない慣れだ……俺だって殺したくはないが、殺さなきゃ本当にこっちが殺られる。あっちは殺る気満々な上、一発で死にかねない威力。そんな相手に手加減できる程、俺は器用じゃない。
「問題は見つかっていないが……とにかく今は心配しないで、教室内にいてくれ」
「わかりました、先生」
「じゃあ、みんな揃ったみたいだし……って、あれ? 山田くんは?」
一人来てない子がいる。どうしてだろう? まさか、連れ去られたか? それとも……最悪のことを考える。
「仮面ライダーやミラーモンスターに……」
「昨日まではいたはずだよ。一緒にいた人はいる?」
「いえ、知りません……」
みんな首を横に振った。俺も知らない……ってことは、家の中で食われたとか?
「私は家に電話してみる。少し自習してて」
「また物騒な雰囲気……船長、逃げていい?」
「ぺこーらも……」
みんな怯えてるな……仕方あるまい、なんたって殺されかけてるんだ。だからこそ……俺がどうにかしないといけない。
「安心しろ、そうだったら……俺が仇を討ってやるさ! みんなは自習時間という名の休み時間を楽しむといい!! 俺と鷹嶺先生にお任せあれ!!」
「サボりは良くない余!」
「真面目ですねぇ、百鬼さんは……」
少し空気が和んだかな……その時。俺の電話が鳴ってしまった。相手は……学園長!?
「ちょっと失礼!」
「誰と電話するんだろう? もしかして、恋人とか?」
「いるって噂はないけど……まさかね?」
外に出て、焦りながら電話を取る。
「もしもし……学園長ですか?」
『あぁ、鷹嶺くんが確認したところ……彼は家を確かに出発したらしい。だが、学校に辿り着いていない……』
「道中でミラーモンスターにやられた……?」
そう考えるのが一番自然だ。
『その可能性が高いね……今日はみんなを帰らせて……』
「……っ!? あれは……山田さんがいました!!」
『なんだって……!?』
山田さんは、虚ろな目で教室に歩いてきている……堪らず走り寄って、声をかけた。
「山田さん! どこに行ってたんですか? みんな、心配してたんですよ!?」
「……」
「山田さん……?」
話しかけても、返事をしてくれない。肩に手を置こうとした、その時だった。彼の体が……粉末になって、地面に落ちていく。
「え……」
灰色の粉末。物が燃え尽きた後のような匂い……これは灰だ。人が灰になっていく……どんどん消えて、最後には……形を失い、灰の山になってしまった。消えてしまった跡地には、服と鞄だけが残されている……
「どういう、ことなんだよ……」
『応答してくれ、雪村くん! 雪村くん!!』
「す、すみません……山田さんが、灰になって消えてしまいました……」
目の前の状況を説明すると、帰ってきたのは……素っ頓狂な声だった。
『……は?』
「私も意味がわからないんですけど、そうとしか言えないんです……今、目の前で……」
『とりあえず、鷹嶺先生がそちらに向かっている。合流してくれ……一度切るよ』
電話が切れてしまった……どうなってるんだ? これはなんなんだ……山田さんだった灰を掬い上げる。だが、それはすぐに手の間を滑り落ちて行ってしまった。
「雪村くん!!」
「鷹嶺先生……これが、山田さんです」
「……私は、また……!」
鷹嶺先生は、苦虫を10匹くらい噛み潰したような顔をしていた。当然だろう……また、生徒を失ったのだ。間に合わなかった……罪悪感と無力感が、先生に重くのしかかってきている。俺にできるのは……これだけだ。立ち上がって、言うだけ。
「先生。復讐しましょう……殺しに行きましょう、理不尽を」
「……あぁ、わかってる。今度は絶対に負けない……!!」
「お手伝いしますよ、先生」
そう言って、学園から出ようとした時……俺達は、同時に後ろを振り向いた。強大で、ゾッとするような気。仮面ライダーと同等のそれが、後ろから感じられたのだ。そこには……教室に向かう男が一人確認できた。
「待て!!」
「待ちやがれぇ!!」
「誰が待つか!!」
教室の中に入る……奴はみんなの前に立っていた。
「ヘッヘッヘ……久しぶりのシャバだなァ……一人殺したおかげで、ムショボケも治ったことだし……ぶち殺させてもらうぜぇ!?」
「お前……昔ニュースになってた、粘着殺人鬼か!?」
「貴様、なぜここに……!?」
奴は笑いながら言う。
「んなこたぁ知らねぇよ、変な施設で力を貰ったんだ……面白い殺し方もできるようになったし……お前らも同じようにしてやるぜ!!」
「なんだ!? 体に灰色の模様が……」
「これが俺の力だァ!! グヒヒヒヒッ!!」
体の形が一気に変わる。灰色の体に、鎧のような皮膚を持つ、何かに……仮面ライダーなのか? だが、ベルトもデッキも使ってない……新型?
「お前……仮面ライダーか!?」
「仮面ライダー……? なんだそれ? とにかく俺は強くなったんだ……!! 覚悟しやがれ!!」
「知らないだと!? じゃあ……これは何なんだ!?」
意味がわからない。この異様な姿と気配が表すことの正体が掴めないのだ。奴は狂気の篭った嗤いを隠すこともせず、生徒達にどこからか出した斧を向けた。
「う、うわぁぁ!?」
「させるか……!!」
「邪魔すんじゃねぇ!!」
地面を蹴って、腕に膝を叩き込んで斧を逸らした……標的から外れた斧は壁に突き刺さり……バラバラに砕いてしまった。力は仮面ライダーやミラーモンスターと変わりないらしい。
「悪いけど……邪魔させてもらうぜ!! みんなを殺させたくないんでな!!」
「だったらテメェから殺すだけだ!!」
「いいぜ、かかって来いよ!! こっちだぜ!!」
外に奴を誘導する。そうしないと、話にならない……シザースやベルデとの戦いで未だボロボロの運動場に、奴を誘導した。
「喰らいな!!」
「なっ、粘液か……!? クソ、ベトベトして取れん……!!」
「そこだぁ!!」
粘液が服と足にくっついて、身動きが取れない。手で剥がそうとしても、手がベトベトになっただけで動けるようにならなかった。いけない、食らったら終わりだ。思いっきり体を逸らして、どうにか避ける。
「うぉぉっ……!!」
「避けんじゃ……ねぇよ!!」
「ぐはっ!?」
奴が地面を砕きながら、その場で回転して足裏を叩き込んでくる。蹴りの威力も仮面ライダー並かよ……粘液から足が外れて吹っ飛びながら、血を吐いた。
「ヘッヘッヘ……そろそろいいか? ギヒヒヒヒ……!!」
「しょ、触手……!? 離せぇ……!!」
「これを心臓にぶち込むと、みんな灰になって死ぬんだ。面白ぇだろ?」
即死攻撃かよ……!! このっ、どうにかならないか!? 考えろ俺!! いつものように考えを巡らせる……
「雪村くんっ! この……!!」
「来るなっ……考えが、ある!!」
「考え? 天国に行く考えかぁ? 懸命だな!!」
……そんなんじゃないさ。昨日まで戦って、運動場はボロボロなんだ……奴の体重と俺の重さが入って、限界であることに賭ける!! 足を動かして……地面を蹴った。
「最後の足掻きか……? 外したなぁ!! お望み通り……お前から死ね!!」
「雪村くんっ!!」
「……死ぬ前に一ついいか? 足元には気をつけろよ」
そう言った瞬間に……奴が一気にバランスを崩した。地面が崩落したのだ。
「うぉぉぉぁぁっ!?」
「立つ場所はちゃんと考えるんだったな……ベトベトの殺人鬼さんよ!!」
「雪村くん! 大丈夫かい!?」
ちょっと苦しかったけど、平気だ。それにしても変なやつだな……これまで見た事のないタイプだ。
「平気、平気……! 引っかかってくれました、大成功!」
「もしかして、ここまで考えて……?」
「あー……そうそう!! 計算済みでしたよ!!」
もし偶然だなんて言ったら、心配をかけるだろう。そう思って、計算済みだと言っておいた。
「こ、この野郎……!!」
「足元に気をつけないからそうなるんだぜ?」
「テメェ!!」
怒りながら、奴が向かってくる。そこに先生の爪が振り下ろされた。
「ぐっ……!?」
「二度と負けない……もう傷つけさせない。今度こそ、殺しきってみせる!!」
「俺だっていますよ、先生? 頼りにしてくださいね?」
先生への負担を減らすために、横からウィンクしながら言う。
「無理はしないでくれよ、君だって私の生徒なんだ……怪我したら悲しい」
「俺だって、みんなを守るために戦ってるんです。先生も例外じゃありませんよ……無茶はしないでください」
「こっちのセリフさ……行くよ、雪村くん!!」
灰色のベトベト殺人鬼に向かって、二人で駆け出す。
「一人増えたな……お前も一緒に地獄に行くといい!!」
「地獄に行くのはどっちかな!?」
「ベトベトして気持ち悪い殺人鬼め、綺麗に洗って排水溝に流してやるぜ!!」
啖呵を切ると同時に、戦いの火蓋も切られた。さて、次の作戦はどうするか。同じことは通用せんしな……
「うるせぇ、クソガキ!!」
「うぉっと!!」
「らぁぁっ!!」
爪の一撃。やっぱり高威力だな……ッ!?
「喰らいな!!」
「な……!?」
「やらせるか!!」
瓦礫を持って、粘液が先生に当たらないようにする。先生は当たったら終わりのスピードタイプ……動けなくされてしまったら、死活問題だ。
「邪魔すんな!!」
「先生、食らったら動けなくなります!! 気をつけて!!」
「成程……警戒すべきか。ありがとう、雪村くん」
この瓦礫……使えるかもしれん。やってみる価値はあるな!
「こっちだぜ、ネバネバ殺人鬼!」
「あぁん!?」
「鬼さんこちらっ!!」
やっぱり、殺人鬼だから挑発には乗りやすいようだ。これなら……! 奴が来るのが遅れるように、清掃用具入れからある物を取りだし、撒いておく。
「よっ、ほっ!」
「待ちやがれ……うぉぉっ!? す、滑る……!!」
「ワックス作戦、成功……!」
仮面ライダーと同じなら、走るのも速いはず。勢いがついていればついている程、ド派手に転ぶ!!
「舐めやがってぇ……!!」
「俺はネバネバ系の食べ物嫌いなんでな、舐めたいとも思わん!!」
「ふざけてんじゃねぇぞ!!」
今のうちに準備をする。水やり用のゴムホースを引っ張ってきて、蛇口を最大まで捻ったら……ネバネバの瓦礫で、蓋をした。
「……来たか」
「覚悟は出来てんだろうな……!?」
「かかってこいよ、ネバネバ」
奴は激昂しながら、こちらに向かってくる。いいぞ、そのまま……その方向に、斧を振り下ろせ!!
「死ねぇぇ!!」
「よっ……」
「読めてんだよ!!」
頭突きをぶちかまされた。既に折れていた骨が、もっと砕かれる……だが、これでいい。
「ごはぁっ!!」
「へへ、いい気味……って!?」
「言っただろ、綺麗にしてやる……ってな!!」
瓦礫が斧に壊され、水が一気に解放される。勢いに耐えきれず上を向いたホースが、奴の顔に大量の冷水をぶちまけた。
「がぁぁぁぁっ!!」
「俺の方に来てくれて……サンキュー……!!」
「しまっ……」
計算通り……! 水圧に押されてきたネバネバ野郎に、全力の殴打を叩き込む!!
「DAARAAAAーッ!!」
「ぐげあぁぁぁぁぁっ!!」
「だぁぁらぁッ!!!」
これが俺の全力……どうだ、死んだか? 死んでいて欲しい……
「……ご、ぐぅ……テン、メェ……!!」
「チッ、まだ死なねぇのか……!!」
「貴様、だけは……ぶち殺して、やる……!!」
フラつきながら、こちらに歩いてくる。どうしても俺を殺したいようだな……どうする? 俺の腕は殆どガタが来てる、あと一発ぶち込めるかどうか……そもそも当たるのか? 考えろ、こいつを殺す方法はないのか?
「死ね、死ねぇ……!!」
「……死ぬのはやっぱりお前の方だぜ……」
「ふざけんじゃねぇぇぇっ!!」
これに賭ける。俺は服を脱いで……斧を振り上げた奴に投げつけた。
「うぉぉっ!? っく、この……!!」
「ネバネバがもっとネバネバになっちまったな!」
「舐めやがって!!」
そう、服は粘液でネバネバ。簡単には取れない、取るのに一番手っ取り早いのは……『引き千切る』ことだ。案の定、奴も服に手をかけ始めた……その隙は見逃さない。俺は持つ手が疎かになっている、奴の斧に手を伸ばした。
「ッ、何しやがる……!? 人のモン盗るんじゃねぇ!!」
「人の命を何個も奪い取ってきたくせに……何言ってんだよ!!」
「くそ、なんで……なんで取れねぇんだ!?」
その秘密は……手にくっついたアレだ。
「お前のネバネバに触っちまったから……手もネバネバで粘着力があるのさ!! 怪我の功名ってやつだな……!!」
「な、なんだと……!?」
「自分のネバネバで墓穴を掘ったらしいな……!! 二つの意味で、俺の粘り勝ちだ!!」
そう言って、奴から斧をぶん盗る。奴はようやく服を引き千切ることができたようだが……遅かったな。俺は斧を横にして、力任せに奴の体へと食い込ませていた。
「がぁぁぁぁぁぁッ!?」
「DAARYAAAーッ!!!」
「ぐ、げぁ……ぁ……」
鉄の壁を易々と両断した斧は、ネバネバ殺人鬼の筋繊維をバラバラにして、内蔵を真っ二つにしながら進み、貫通した。これ以上は、やれない……どうだ!?
「……まだ、やるか?」
「あ、が……死ぬの、か……あ、熱い……体が、燃えていく……!! この俺が、こんなところで死ぬわけ……な……」
「受け入れろ。お前は死んだんだ、俺が殺した。怪物になっても、一人の人間に嵌められて負けたのさ……ネバネバにされてな」
奴の体から蒼炎が溢れ出す。それは奴の体がずり落ちて行くのに比例して、勢いを増し……やがて奴も、山田さんと同じように、灰になってしまった。斧も奴の死と同時に灰になる。
「へへっ……勝てた、な……」
その場に座り込む。前と違うのは、そこまで眠くないこと……慣れてきたのかな? だけど腕も足も動かない、疲れはあるみたいだ……
「雪村くん!!」
「あ、鷹嶺先生……もう片付けておきましたよ。あと水止めといてください」
「そうか、流石だね……また罠に嵌めたのかい?」
水を止めつつ、鷹嶺先生が尋ねてくる。
「まぁね……見事に引っかかってくれましたよ。体中ベトベトですけど……そのおかげで勝てました」
「その灰は……奴も死んだら、灰になったのか」
「そうですね、蒼い炎を上げながら灰になっちゃいました。灰色のヤツに殺されると灰になる……そいつが死んでも灰になるみたいです」
灰になる化け物……新しいのが出てきたな。変なバリエーション豊かにしやがって、そんなことをしてる暇があるなら、自販機限定ジュースのバリエーション増やせっての。
「おかしな奴だね……歩けるかい?」
「すみません、難しいです……」
「大丈夫だよ。ほら、掴まって?」
差し伸べてくれた手を取り、どうにか立ち上がる。
「ありがとうございます……」
「これも先生の役割さ、気にすることはない。とりあえず、病院に行こうか。肩を貸すよ」
「はい……ありがとうございます」
足を引きずりながら、なんとか歩く。警察の人達とすれ違ったので、軽く会釈をしておいた。いつもなら敬礼するとこなんだけど……腕が上がらないんだ、これで許して欲しい。その後、病院にて。
「骨は折れてますし、内蔵にもダメージありますけど……これまでと比べれば軽い方ですね。五日もかからないと思います」
「いよっし!!」
「それでよしって言える精神性は尊敬しますよ……」
一発がt単位の化け物との殺し合いでこれで済んだんだ、いい方だろう。
「さっさと治さないとまずいな……いつ来るかわからん」
「来ないようにして欲しいんですが……」
「無理です」
即答しつつ、回復薬の点滴を受けつつ、一日一回の回復魔法で自然治癒力を高めておく。
「はい、大丈夫ですよ」
「いつもありがとうございます」
「仕事なので。それでは」
ストイックだなぁ……彼らを尊敬しつつ、また寝転がる。さて、また暇なわけだが……
「勉強しとくか……」
戦い続きで忘れていたが、俺は一応学生と兼用なのだ。落第したヒーローなんて笑い話にもならん。
「腕は動くようになってきたし……やっとくか」
教科書は学校に置いてきてしまったが、スマホで勉強できる時代だ。トレーニングできないなら、勉強しとこう。
「……うげっ、勉強してないから殆ど忘れてる」
自業自得だ、頑張って勉強しよう。そう考えて、問題を解いていく……途中で父さんや母さんが来て、果物をくれた。みかんにかぶりつきながら、勉強する。
「ん~、このみかんは酸っぱいな……さっきのは甘かったんだけど」
みかんで汚れた手を拭きながら、難しい問題を解いていく。何かしてないと……そんな強迫観念にも似た物が俺に染み付いている。
「仮面ライダーとミラーモンスターが敵だと思ってたら灰色の敵が増えた……鏡に入れる奴の次は、人を灰にできる奴、か……」
そして死んだら自然発火し、蒼炎に包まれて燃え尽きる……尽く物理法則の通用しない奴らだ。それに、あの触手……あれで殺されると灰になるらしい。一体、何をしたんだ? 如何せん情報が無さすぎる、仮面ライダーもミラーモンスターもただでさえ無いのに、灰色の変な奴まで増えたらお手上げだ。
「今度は化け物の名前すらわからん……あいつ自身名前わかってなかったっぽいし……」
謎がとんでもない勢いで増えてゆく、多分これからも増える……そっちの方のことを考えてしまい、勉強が進まない。
「あー、くそー……」
何度目かわからないため息。悔しい、一つの感情だけが俺の心を埋めつくしていた。そんな中でも時は経ち、三日後。
「……怪我の連続なので、ちょっと治りが早くなってますね。退院して大丈夫ですよ」
「はい、それじゃあ……」
「無理はしないでくださいね?」
そう言われつつ、病院を出た。もうジャンプしないぞ、流石に3度目はないさ。いつも通りトレーニングをしたら、家に帰った。
「……ただいま戻りました」
フリーウェイト、腹筋に空手や柔道の練習。日々欠かさない、やめたら弱くなってしまう。終わった後、スポーツドリンクを飲んでいたら……電話がかかってきた。戦闘態勢に入りつつ、電話を取った。
「もしもし、学園長ですか?」
『あぁ、私だよ。病み上がりで悪いが、会議室まで来て欲しい。皆さんと一緒に仮面ライダーや、灰色のアイツについて話し合うつもりだ。君にも参加願いたい』
「私は大丈夫です、今から向かいますね」
電話を切って向かう。どうやら、大事な話のようだな……情報が手に入ったのだろうか? 期待しながら、会議室の扉を開いた。
「失礼します」
「やぁ、雪村くん」
「鷹嶺先生……そちらの方々は?」
他にも大人の人達がいる、誰だろうか?
「あぁ、確かに雪村くんは彼女達と会ったことがなかったね。紹介しよう、まず彼女は……」
「いいわ、先生。私から言うから……ちょっこーん、康太様。私は『癒月ちょこ』……ホロライブ学園の保険室担当よ」
「保健室……いつも怪我が重くて行ったことはなかったけど、貴方だったんですね。角とその尻尾は……悪魔の方ですか?」
俺がそう言うと、少し顔が明るくなったように思える。外人のような金髪に、今言った角と尻尾……目の色は青で、ちゃんと羽もある。ピンク色の服の上に、白衣を着込んでいて……黒いズボンを履いてる、保険担当と言われたら納得いく格好だな。
「正解! よくサキュバスと間違われるのよね……でも、ちゃんと悪魔なのよ?」
「あぁ……それは辛いですね。淫魔とは似てるけど違うらしいし……」
「康太様くらいの歳なら、淫魔とかにも興味あったりするのかしら?」
悪戯っぽく微笑む癒月先生……だが。
「いえ、興味ないです」
「キッパリ言い切った……珍しいわね、普通焦るんだけど」
「そういうのは純愛オンリー、それ以外は嫌です……何言わせるんですか!」
ついノリに乗ってしまった……悪戯好きな人だな。
「ふふふ、ピュアねぇ……」
「……こんな人だけど、君のこと心配してくれてたんだよ?」
「え? そうなんですか?」
癒月先生は優しい顔に変わって、言ってきた。
「毎回大怪我しちゃって……心配する人がいるんだから、少しは気をつけてね?」
「……善処します。あなたは……見たところエルフみたいですけど」
「説明が省けて助かるよ! 流石だね!」
というかまんまエルフだ、耳の形からして……頭の上になんかあるけど。この人も金髪……髪型はツインテールだ。変な機械が頭の上に浮いている。待てよ、あの髪……機械から出てる。あの機械で髪型チェンジするのか? 便利すぎるだろ。一個いくらですか? 服装は青を基調とした服に、青と白のスカートを履いている。目の色も青だな……青好きなのかな? 俺も好き。
「あなたも先生ですか?」
「そう! じゃあ改めて、アローナ! 私はアキ・ローゼンタール……みんなアキロゼって呼ぶから、そう呼んでくれると嬉しいな!」
「アキロゼ先生……あなたは何の担当ですか?」
この人は何の担当なのだろうか? やっぱりエルフだから、国語とか……?
「アキロゼは体育! 筋肉に自信あるんだよ?」
「え……意外、エルフって森の中で魔法とか弓とか使って、狩りをして暮らす種族じゃなかったっけ?」
「固定概念に縛られないのがアキロゼなのですよ! 仲良くしようね、雪村くん?」
差し出された手を取って、握る。
「……おぉ、痛がらない! やっぱり鍛えてるね、仮面ライダーと戦えるのは伊達じゃない!」
「……痛がらせるつもりで握ってたんですか?」
「強めに握ったら、みんな痛がっちゃうからやめてたんだけど……君がどれくらい鍛えてるのか確認したくって、ごめんね?」
そういうことなら仕方ないな……
「大丈夫ですよ、痛くなかったので」
「病み上がりなのに元気だね、雪村くんは……そろそろ時間だ、楽しい談話はここら辺にしよう」
「はーい!」
そう言われて、椅子に座る。すぐに学園長や大人の人達が来た。
「すまないね、雪村くん。よく来てくれた……紹介しておこう。この人は一破 誠二(いちは せいじ)さんだ。この人と話をすることになってる……仮面ライダーや『灰色のアイツ』についてをね」
「一破です、よろしくお願いしますね、雪村さん」
「こちらこそ、一破さん」
そう言って、二人が椅子に座る。一破さんは警察の服を着ており、目の色は黒。目つきは鋭いが……大人しそうな人だ。
「ではまず、これが……灰になった二人の検死結果です」
「……人間の細胞がそのまま灰になっており、原理は不明、か……」
「経緯は警察仲間を通して知っています。終身刑の殺人鬼が消えたかと思ったら、化け物になって戻ってくるとは……灰色の何かが何なのかは、未だにわかりません」
だよな……財団Xについても、この様子だと進展は無いらしい。
「どんな奴らなのか、それすらもわからない……こちらからは、何一つ手を出せないのね」
「申し訳ない……戦っていて気づいたことなどは、雪村さんにありますか?」
「……奴は『触手を心臓にぶち込むと灰になって死ぬ』と言っていました。恐らく、山田さんはあれでトドメを刺されたのでしょう。あとは無から斧の生成をしたり、粘液を手から噴射したり……こんなところですかね」
全員考え込んでいる……俺も言いながら考えてる。
「監視カメラに写っていましたね……あの触手についてはわかっていなかったから、助かります。そうか、山田さんはあれで殺されたのか……」
「……聞き取りなどは終わったね。では、本題に入っていただけますか?」
「えぇ。これが言いたくてここに来たんです」
一破さんの顔が険しくなる。
「……その話とは?」
「はい……危険な敵が何種類いるのか、まだ我々にはわからない。仮面ライダーにミラーモンスター、そして今回の灰色の奴……これ以上増える可能性だって、否定できない」
「その通りですね……これ以上増える可能性は十分ある」
鷹嶺先生が言うと、彼は頷いて言った。
「そこで……仮面ライダー、ミラーモンスター、灰色の奴……全てまとめて、一律の名前をつけることになりました。それをお知らせしておきます」
「……その、名前というのは?」
「名前は……『未確認生命体』。それが名付けられた、奴らの名です」
ついに名付けられました。