書類には何が書いてあるのでしょう。
……意識が戻ってきた。確か、俺はカイザとの戦いで気絶し、血を吐いてぶっ倒れてしまったんだったな。目を開くと……見慣れた白い天井があった。
「うん、見知った天井だ」
俺のコンティニュー地点、病院である。物語みたいに起きたら知らない天井だった、ってことは中々ない……よな?
「うん、傷はほとんど塞がってるな……」
奴のベルトや使っていた道具は残っている。俺が伸びてる間に、解析は進んだだろうか? というか、進んでいないと困るのだが。
「とりあえず、ナースコールっと……」
看護師さんを呼んで、意識の回復を伝えると……学園に連絡してくれたらしく、一破さんが来た。
「失礼します……目覚めるのが早いですね」
「そりゃ、何回もこうなってますからね。慣れますよ」
「軽いノリで言っていいことじゃない気が……」
一破さんにはそう言われたが……これが俺の流儀なんだ。
「元気を無くして苦しそうにしてるよりも、軽いノリで笑ってる方が心配かけないで済むでしょ?」
「まぁ、それはそうですね……ガルーダコーポレーションの社長も隠蔽していますが、時間の問題だと思われます」
「それはよかった……おっと、聞きたいことを聞いてなかったな。一破さん、カイザのベルトは?」
重要なのはアレのことだ。どうなっただろうか?
「カイザ……黄色のベルトのことですか」
「はい、あれです。ベルトが残ってるのはあれだけですよね?」
「そうですね、怪我の功名……といったところですか。大怪我をさせたのは申し訳ないですが……」
それに関しては構わない。
「気にしないでくださいよ、慣れてますし……収穫が1つでもあったなら、私は大満足です!」
「そう言ってもらえると助かります。あのベルトや道具達からは、全て同様の『液体』が採取されたのですが……あれの名前も奴から聞いていますか?」
「はい、確か……『フォトンブラッド』って言ってましたよ」
ブラッドって、血って意味だよな……あれはライダーの血液? じゃあ、シザースやベルデにも見えなかっただけであれが通ってたのか……?
「フォトンブラッドか……奴は灰になってしまったようですが、気になった点などは?」
「はい、奴はフォトンブラッドを体に流動させている。必殺技を放つ時は、一際強い光が必殺技のための道具に走っていきます……それを銃弾でせき止めたら、暴発してダメージを喰らってました。あと、シザースやベルデとかよりは力が弱かったです」
「明確な弱点あり、他の仮面ライダーと比べ力は弱いのか……逆に強みはありますか? 奴らが『カイザ』を使った動機の手がかりが欲しい」
強みか……それなら、やっぱりあれじゃないかな。
「『カイザブレイガン』から放つ光弾による、速効性の拘束からの斬りつけ……人を殺すには十分な威力でしょう。あと、奴の専用マシンである『サイドバッシャー』も……ミサイルやバルカン、マニピュレーターによるパンチなど……これまでの奴らが近距離か中距離だとするなら、奴は遠距離もいけます」
「遠距離に関して独自の強み……あと、拘束の速効性。確かに強いな……」
「戦ってて気づいたのは、これくらいです」
あとは皆さんにお任せだ、分析するものもあるしな。尻尾が漸く掴めそうな気がする……ここまで長かった。
「情報提供、感謝します」
「いえいえ……それで、例の書類は?」
「そう言われると思って、写しを持ってきました。どうぞ」
机の上に差し出された書類達……ホチキス止めがされている、何枚かのセットらしい。内容は……
『現在開発中のライダー、その詳細について』
『オリジナルの『龍騎の世界』において、『神崎士郎』が作成したライダーバトル用強化戦闘服兼、ミラーワールドに人間が侵入する唯一の方法。記録によれば、9分55秒間滞在が可能な模様。現在開発したのは、『仮面ライダーシザース』と『ボルキャンサー』。また『仮面ライダーベルデ』と『バイオグリーザ』の開発も順調に進んでいる』
「龍騎……? それに、神崎士郎って誰だ?」
わからない単語がもっと増えた。仮面ライダーもあの化け物と同じで、鏡の中に入れるんだな……ミラーモンスターとは違って、制限時間付きのようだが。鏡の中はミラーワールドって名前なんだな。次の書類を見てみよう。
『オルフェノク、また今後開発予定のライダー達について』
『オリジナルの『ファイズの世界』で初めて観測された。人間が死を乗り越え、更なる進化を遂げた姿である。いつもは人間の姿をしているが、オルフェノクの任意で変身できる。オルフェノク特有の能力や、武器などが存在するため、そのままでも強さは申し分ない。動植物や昆虫などの力を持ち、稀に仮想生物の特性を持つこともある模様。弱点は、ファイズ系統の使用するフォトンブラッドと、使徒再生の際に送り込まれるオルフェノクエネルギー』
「ファイズの、世界……? じゃあ、あのベトベトは……植物か動物か、それとも虫か……ベトベトってことは、蜘蛛とか?」
次のページにまたライダーが書いてあるはずだ。そう思って、読み進める。
『現在開発中のライダーは五種。『ファイズの世界』にて株式会社SMART BRAINが作成したものを元に『仮面ライダーファイズ』『仮面ライダーカイザ』『仮面ライダーデルタ』を作成中。またデルタを元に『仮面ライダーサイガ』『仮面ライダーオーガ』の開発も進行中。また、量産型として『ライオトルーパー』の開発も検討する』
「ファイズにデルタ、サイガとオーガ……? また、よく分からん奴らが……」
『その他仮面ライダーも開発予定あり。続報をお待ちください』
……まだ続きがあるな。
『それぞれのライダーの副作用、デメリットについて』
「副作用……?」
『『龍騎の世界』のライダーは全員、定期的にミラーモンスターに餌を与えなければならない。餌は寿命が一定以上の生物か、同じミラーモンスターである。その基準を満たすものが人間以外居ないため、必然的に人間しか食べるものが無くなる。食べさせなければ、契約違反で自分が喰われてしまう』
そんな恐ろしいデメリットが……俺は絶対使いたくないな。
「とんでもなく恐ろしいな……他は?」
『オルフェノクの覚醒確率は著しく低い。一番強いオリジナルの覚醒確率は1%にも満たないが、オルフェノクが行う使徒再生でも確率は3%程度。財団Xでは、強さと生存確率のバランスがいい、因子埋込み方法を使用している。独自技術で確率はかなり上昇しているため、生存のみなら確率は高い。『ファイズの世界』での成功体は『澤田亜希』のみであり、流星塾メンバーは生存したが、オルフェノクには進化しなかった』
「また知らない人の名前が……塾? 何を教えてるんだ?」
次で最後のページだな……
『仮面ライダーファイズは、オルフェノクまたは因子のある人間でないと使用不可。仮面ライダーカイザは、無理矢理使用すると、灰になって消滅してしまう。仮面ライダーデルタは搭載された『デモンズスレート』により、相手の精神が弱いと、激しい凶暴化を引き起こして、人間状態でも超能力を付与する。実戦に使用するかしないかは試験を重ねて、場合によっては『デモンズスレート』の除去も検討する。サイガ、そしてオーガはファイズと同様だが、求められる強さが更に高くなる』
「……これで終わり、か。結構デメリットあるんだな、ライダーも……ズルみたいな力にも、やっぱりデメリットがあるんですね」
「そうらしいですね。ですが、フォトンブラッドを利用する方法は、今のところあれしかありません。あなたが持ち帰ってきた例の銃……なんて名前だっけな」
カイザブレイガンのことだな……?
「カイザブレイガン……あと、あのベルトも銃として使えますね」
「ありがとうございます。話を戻しますが、今のところこの二つしかフォトンブラッドの利用方法はない。変身はそれに書いてある通り、一人の命を犠牲にすることになってしまう……それだけは避けねばならない」
「ですね……」
変身は無理だ、だから利用は銃としてのみに限られる。
「まぁ、どうしてもとなれば……覚悟はできてます」
「やらせませんよ、絶対に」
「……そうだといいんですけどね」
何が起こるかはわからない。死ぬ覚悟がない軍人がいないように、俺だって覚悟はしているのだ。
「カイザブレイガンはあなたが持っていてください。奴らへの対抗策になり得ますからね……カイザフォンは、解析が終わったら私が持っておくことにします。カイザブレイガンは、警察が解析して作った説明書があるので、置いていきますね」
「ありがとうございます。じゃあ、お願いしますね」
「はい、雪村さんはゆっくり休んでください」
とりあえず、武器が増えたのは収穫だ。できることが一気に増える……とはいえ。
「剣も銃も使ったことないんだよなぁ……学校で教えてもらえるかな?」
もしフレンドリーファイアなんてしたら、大戦犯だ。奴の時は誰もいなかったから、下手な鉄砲数打ちゃ当たるでどうにかなったが……弾薬にも制限がある。せめて最低限は扱えるようになりたいな……
「先生に相談してみるか」
そう決めて、一破さんからもらったカイザブレイガンをタンスにしまっておいた。貰った説明書を読んでいると、あっという間に時は過ぎて、次の日。母さんや父さんには連絡しておいたから、心配はあんまりされてなかった。多分、慣れだろう。学園に行って、休み時間に鷹嶺先生に頼んでみる。
「……というわけなんです。教えてもらえませんか?」
「同時進行は難しいかな……どちらか片方からになると思うよ。どっちを先にする?」
「そうだな……」
銃か、剣か。少し考えて……決めた。
「よし、銃にします!」
「銃……意外だね。これまでは肉弾による近距離戦がメインだったし、剣の方を扱うかと思ってたよ」
「いや、だからこそです。奴らはワイヤーを出してきたり、ネバネバを撃ってきたり……カイザはこれとカイザフォンを使ってきた。遠距離戦に関しても知見があれば、僕の戦略の幅も広がるかなと。カイザに一回作戦を破られて、追い詰められちゃったので」
俺は近距離の間合いとかに関しては、頑張って覚えたから、大体わかっているつもりだ。でも、遠距離戦……銃の撃ち合いとかに関してはからっきしなんだ。事実、そのせいで今回はカイザフォンの銃撃を受けてしまった。一発が即死の奴にでも当たったら……死ぬ。
「そうか……じゃあ、そっちの手配をしよう。少し待っていてね」
「はい、お願いします!」
とりあえず、これでいい。訓練開始といこう……放課後に、仮装訓練室に来るよう言われたので、言う通りにする。
「じゃあ、これをつけてくれ。始まってからアナウンスするよ」
「わかりました……なにが始まるんだろう?」
「それは始まってのお楽しみさ!」
目の前の景色が変わった……学園の校庭、か?
「校庭、か?」
『バトルロワイヤルを仮想空間で再現したものだ。これで、君には動き回る人達を制限時間内に撃ち抜いてもらう。それくらいはできるようにならなきゃ、仮面ライダーは相手にできないだろうからね。できそうかい?』
「出来る出来ないじゃない……出来なきゃならないんだ! やらせてください!!」
素人の銃を構える。カイザの時とは違って、こっちも動きながら、あっちも動いてる状態で当てなきゃならない。難しいけど……やれなきゃ死ぬだけだ。
「かかってこい!!」
ホログラムで構成された人達が、こっちに向かってくる。それに対して、金色の光弾を撃ち込む……二人倒せたが、やはり命中率に難があるな。そこは慣れしかないだろうけど……走りながら、どんどん撃つ。
「う、おっと……!!」
相手が仮面ライダーだと考えれば、攻撃には当たれないな。そう思って、躱していたが……
「……ガハァ!?」
思いっきり吹っ飛ぶ……なにか、強い衝撃を受けた。誰だろう? そう思って、衝撃を受けた方向を見てみると……オレンジの髪を二つの団子にした人がいた。服はオレンジを基調としていて、スカートからは二本の布が伸びている……特徴的な服装だな、すぐ覚えられそうだ。
「あれは確か……上級生の人だったか……誰だっけ?」
『桃鈴ねねさんだね。その人もAIで思考パターンなどを再現したんだ……銃だけで倒してくれ』
「わかりました……よっ!!」
速いな……仮面ライダーにも劣らないかもしれない。流石にパワーでは勝てないだろうが……出来る限り狙いをつけて、撃ち抜く。
「クソ、当たらねぇ……!」
「……!!」
「うぉぁっ!?」
掠ってしまった、仮面ライダーだったら今頃ぶっ飛んでいってるところだ。銃を持つと前しか見えなくなる……これはいけないな、俺の反省点だ。どうにか狙いを定めて……撃つ。
「……よし、当たった! もう一発……弾切れだと!? しまっ……ぐっ、がぁぁ!!」
『そこまで!』
「あ……今回は無駄撃ちをしすぎたな……あの人の前で装填するのは命取りか」
一瞬で何発ものパンチを撃ち込まれた……あれは多分心臓に当たってたな。現実だったら死んでるところだ……鷹嶺先生が悔しそうにする俺を見ている。
「まぁ、最初はこんなものだよね。少し休憩しようか」
「いえ……もっとやります!! いつ仮面ライダーが来るかわからないんだから!!」
「やる気満々だね……嫌いじゃないよ、そういう姿勢!」
また、始まった。仮面ライダーは高速で動く、だから『見てから』じゃあ、遅いんだ……『今どこにいるか』ではなく、『どこに移動しようとしているか』を読み取るんだ。それだけじゃない、一発の威力とか今の状況、全部を脳内に入れられるようになれ!! 俺の一番得意な……策を練って、敵を嵌めること。それの応用で……!!
「……ぐぅっ!?」
考えていたら、やられた。ダメだ、思考時間が長すぎる。もっと短縮しなければ……!!
「まだやるのかい? 大分疲れてるみたいだけど……」
「先生、何言ってるんですか……ようやく体が、温まってきたところですよ!!」
「ふふっ……そうか、君を見くびっていたね」
三回目、四回目。どんどん、休みなくやっていく。脳と体に、思考と行動のパターンを叩き込め。思考に一秒かけるな、その一秒で仮面ライダーは俺の懐に潜り込める!! そして、30回目くらいだろうか……
「1、2、3、4……!!」
命中率が上がってきている。動きがわからない人でも直感でわかるようになってきた……これが経験ってやつか。
「やっぱり、体に叩き込むのが一番手っ取り早いな!!」
人は極限状態に置かれれば、真の能力を発揮できる。自分を限界まで……否、限界以上に追い詰めろ。最速で覚えるにはそれしかないんだ……仮面ライダーが来て、もし俺が負けたら……何千人もの人が犠牲になってしまう!!
「桃鈴さん、発見っと……!!」
こっちに向かってきたな……桃鈴さんの挨拶代わりのボディーブローを、体を逸らして躱す。距離を取りつつ、銃を撃ち込んでいく。
「……っし、命中!!」
桃鈴さんは肉弾がメインだ、だから銃とは相性が悪いはずなんだが……綿毛のように軽い身のこなしと、細い体からは想像もつかない程のパワー。銃弾を的確に躱してくるから、慣れても当たらないことも多い……
「だからこそ、いい練習になる!!」
三つに分身した……どれが本体かは、わからなかったが……今の俺なら!
「気配でわかる、本物は……そこだ!!」
撃つと分身が消えて、本体が飛び退いた。こういう時桃鈴さんは……壁を蹴る!!
「そこだ!」
桃鈴さんを撃ち落とす。驚いたような顔をしていたが、すぐに笑って体勢を立て直してきた。
「強いな……流石は上級生!」
努力で結果が出ている。その事実に、思わず少し笑みが漏れた。余裕なんてないはずなのにな……!!
「残弾は残り……五発ってとこか」
この人の前で装填するのは命取りだ。これだけで決めないといけない……音を立てて、桃鈴さんが突っ込んでくる。だが、あちらも学習しているのか、自分の分身を壁に張り付かせて、撃ち落としを誘ってくる。
「もうそれには惑わされんっ!!」
銃弾を撃ち込むと……全て消えた。全部外れだ。
「……まさか!?」
本人はあの一瞬で……後ろに跳んでいたんだ。本当にとんでもない身体能力……だが!!
「俺だって負けてないぜ!!」
桃鈴さんの上空からのパンチを躱すと、今度は勢いのついた膝が飛んできた……わかる。何をしてくるか……体が慣れてきてるんだ。そうしないと、死んでしまうとわかっているから……!! その二つを躱されても、焦ることなく地面を蹴り、その勢いで拳をぶち込んでくる。躱しきれんか、ならば!!
「ぐぅぅ……!!」
ただでは転ばないさ。吹っ飛ぶと同時に、銃弾を二発使って、足場を壊した。周りの地面にも、ヒビが入る。無論落ちてはくれない……華麗に躱して、瓦礫に拳が叩き込まれた。
「喰らえ!!」
もう一発。これであと一発だ……パンチの後なのに、それは踊るように躱された。でも、俺は……
「それを超えてみせる!!」
みんなのために、超えなきゃならない。俺は、撃っている間も桃鈴さんに疾走していた。そう躱すのは想定内、そして……横から、銃を突きつける。ゼロ距離だ!! 桃鈴さんは、いつものように地面を蹴ったが……
「やっぱり、そうするよな……!!」
だが、その瞬間……桃鈴さんの顔が驚きに変わった。そう……後ろは壊れた足場。ヒビを強く踏みすぎて、崩れてしまったのだ。
「王手だ、桃鈴さん」
最後の一発を撃ち込むと……桃鈴さんのホログラムは『リタイア』の文字が出て、消えてなくなった。少しは成長できたかな? そう思いながら、弾を装填する。
「また来たな……!!」
また、向かってきた人達に弾を撃ち込んでいく。命中率が大分上がってきた。この調子で……と思っていた時、強い殺意を上から感じた。
「ぬぅぅっ!?」
咄嗟に避けた瞬間、俺の頬を銃弾が掠めていった。多分、上級生だ。
「誰だ……どこにいる!?」
気配は感じるが、姿は見えない。上の方から撃っているようだが……とりあえず、柱の影に隠れる。出ていけば撃たれるだろう。
「どうするかな……」
……作戦を考えついて、俺は一番近い部屋のガラスを撃ち抜いた。
「おっと!」
また隠れると、弾がまた飛んできた。ここまでは計画通り……体を出して、まるで『教室に行こうとしている』ように見せかける。体を出そうとする度に、弾が飛んできている……何発か撃った時に、弾が飛んでこなくなった。弾切れらしい……そして、俺はその隙に教室に走る。普通はみんな、そうするだろう……だけど俺は、敢えて逆方向に全力疾走した!!
「確か……あっちから!!」
撃ち込まれた銃弾の軌跡から、居場所を予測して黄色の弾を撃ち込む。すると……撃ち込んだ場所から、白い髪をした獣人が出てきた。遠くて服はよく見えないな……
「鷹嶺先生、あの人は?」
『獅白ぼたん……ホワイトライオンの獣人で、熟練のスナイパーだよ。普通なら勝てる相手じゃないけど……』
「あの人に勝てなきゃ、ライダーには到底勝てない! やってやりますよ!!」
啖呵を切り、獣人に目を向ける。教室に入り、獅白さんがいる三階へと登っていく……いた! 黒を基調とした服に、上から毛皮のコートを羽織っている。あと、アクセサリー付きのショートパンツ……この人も桃鈴さん程じゃないにせよ、特徴的だな。
「獅白ぼたん、みーつけたっ……!!」
こちらに向かって、銃を構えてきた……大量に生産したライダーにかかられても、大丈夫になるためには……強い相手に連続で勝つしかない!! 銃弾を躱しながら、こちらも撃ち込んでいく。
「……流石は獣人、そんなポンポン当たっちゃくれねぇよな!!」
距離的な問題を考慮したのか、獅白さんはスナイパーライフルを手元から消して、自動小銃に持ち替えた。
「うぉっ……!!」
流石、経験が違うらしい。俺は最近真面目になったばかりの素人……普通なら勝てないが……!!
「これはアンタのためでもある……勝たせてもらうぜ!!」
一定の距離を取りながら、銃弾を撃ち込んでくる。それを物影に隠れてやり過ごす……銃撃戦だな、銃の練習としては、この上ない相手だ。
「よいしょっと!」
そうやって、何回か撃ち合いをしていると……銃声が聞こえなくなった。
「ん? なにを……!?」
弾切れか? そう思っていると……自分の横に手榴弾があった。
「うぉわっ!?」
思いっきりその場から飛び退く。だが、これではカイザのように的になるだけだ……どうする!? 早くなった思考で、作戦を練りに練る。もう銃口はこっちに向いてる、今から避けても掠るだろう。どこかに隠れても、あれをやられたら、またこの状況になる……どうする!? そう考えて……ようやく思いついた作戦の通りに、弾を二発残して撃つ。
「くぅっ……!」
急所でないにしても、弾を食らってしまった。だけど俺の弾も獅白さんに……当たることはなく、見当違いの方向に飛んでいった。それから、全力で隠れるために走る。無論、追撃をしようとしてくるが……それが狙いなんだ。
「……俺の勝ちだ!」
驚くような顔をした獅白さん……そうだ、狙ったのは最初から獅白さんじゃない。その真上、屋上の床だ……! 高威力の弾に耐えきれず、天井が落下してくる。獅白さんにそれは命中し……怯んだところに二発をぶち込むと『リタイア』の文字が出て、獅白さんも消えた。
「フゥ、フゥ……勝てたな」
二連戦は少し疲れた……ダメージもあってか、少しフラつく。
『無理しないで。訓練の時は休むのも重要さ』
「そうですかね……?」
『うん。一日でできることじゃないんだ、幾ら君でも、一週間くらいはかかるよ』
そう言われて、仮想空間が解除された。
「明日もまた頑張ります」
「……心配しなくても、そんなにとんでもなく早く来ることはないと思うよ。オルフェノクも覚醒確率は低いみたいだし、下手に弱いのを送れば返り討ちに遭うのは、奴らだってわかってるはずさ」
「そう言ってもらえると、ちょっと余裕が出てきますね」
無理してでも、笑ってみせる。奴らの脅威は消えていない、その事実と重圧が俺にのしかかる……負けはこの学園の、引いてはこの街の壊滅……そんなことになったら、母さんや父さんは……!
「……訓練して、お腹も空いただろう? 今なら食堂空いてるだろうから、よかったら一緒に食べるかい?」
「いいんですか?」
「実は私もまだなんだ、君をずっと見ていたからね」
悪いことをしたな……
「すみません、お腹空いてるのに……」
「いいよ。君が謝ることじゃない、悪いのは奴らだ」
「……」
もっと、もっと強くなる。何かを守りたいなら、戦わないと……殺される前に殺さないといけない。普通の日常を保ったまま、人を救うことなどできはしない。俺はその後、飯を掻き込んで先生と別れた。そして次の日の放課後も、また次の日も、いつものトレーニングと共に同じような訓練を続けていく。
「喰らえ!!」
もっと、もっとだ。強くなれ、俺……これじゃ、足りない……!! 仮面ライダーやオルフェノク、ミラーモンスターはこんなもんじゃねぇぞ!!
「がぁぁぁっ!!」
まだやれる。奴らに勝つんだ、勝たなきゃ終わりなんだ!!
『……!? まずい!!』
「そこだぁぁっ!!」
銃声と、リタイアの文字。それを最後に、俺の意識はブラックアウトした。
「……ここ、は?」
怪我をしたわけじゃないはずだ、仮想空間では怪我をしない。
「起きた? もう、康太様ったら……」
「俺は……どうして? 最後の一人を撃ったところから、記憶が無いんですけど」
「一言で言って、過労ね。とんでもなく疲れが溜まってるのに、体に負担をかけ続けたから……精神的なものもあるんだろうけど」
そうか……じゃあ、問題ないな。
「ありがとうございました。私はこれで」
「待って待って! 康太様はせっかちね……康太様は過労死寸前だったのよ? 今度こそ過労死しちゃうわ」
「しかし、奴らがいつ来るかはわかりません。財団Xの刺客を一人でも逃したら……街のみんなや僕の家族は!」
俺が必死に言うと、癒月先生は俺に尋ねてきた。
「……ねぇ、気になったんだけど。康太様はどうしてそんなに努力するの?」
「努力しないで強くなれるとでも?」
「そうじゃないわ。過労死寸前なら、自分の命が危ないから、ストッパーがかかるはずなのに……それを無視できる理由は何なのかな、って。好きな人でもいるの?」
理由は簡単だ……それしかない。
「いませんよ、そんなの。僕は弱いんです……目の前で人が襲われてても、警察に言ってその場では助けない……一般人と何も変わらない、普通の人間なんですよ。それが人助けを……それも、とんでもない化け物に立ち向かうなら、これくらいしないといけないのは自明の理です。二度と、情けない俺には戻りたくないから」
「そう……」
「わかっていただけましたか? では……」
出ようとすると、癒月先生に止められた。
「ダメ。それを聞いて、尚更出せなくなったわ……死ぬ事が確定してるのに、自滅させに行く人がいる?」
「どうして……!」
「確かに、努力は尊いことよ。情けない自分を払拭したいって考えも、決して悪いことじゃない。誰かを助けたいなら……奴らが相手なら、人一倍努力しなきゃいけないのは当然よね」
そうだ。わかっていて何故、出してくれないんだ?
「なら、今すぐ……」
「でもね、生徒を救うのが私の役目なの。鷹嶺先生も、言ってたでしょ? 生徒を守れない先生なんて必要ないって……だから、あなたを今ここで無理させないことこそが、私の使命なの」
「……!」
とんでもなく真面目な顔だ……俺をからかっていた人とは思えない。
「だからね。あなたに無理はさせないし、させられない。私、癒月ちょこはここ……ホロライブ学園の、保険担当なんだからね」
「癒月先生……」
「康太様は十分頑張ったわ。私が保証する……とにかく、今はゆっくり休みなさい。それからまた、頑張ればいいじゃないの。保健室に来るのも初めてでしょ? 寝心地はどう?」
そう言われては、仕方がないな……この人にも確かな『覚悟』がある。きっと、他の先生方も……俺と同じくらいにあるんだろう。
「じゃあ、休ませてもらいますね……」
「……おやすみなさい。頑張り屋さん」
相当疲れていたのか、俺は気絶するように眠りに沈んだ。
康太くん、過労で倒れてしまいました。