第1章 第一特異点 A.D.1431 邪竜百年戦争 オルレアン 副題「竜の魔女」
断章1
【推奨BGM:Calm】超昂大戦より
夕日が沈み、夜の帳が降りた。
共に焚き火を囲むジャンヌの顔色を見て、ふとマシュは声をかける。
「……もしかすると、ですが。まだ何かわたしたちに言っていないことがあるのでは?」
「……」
「詮索するつもりはありませんが……戦いの障害になるのであれば、払拭しておいた方が良いかと思いまして」
無言が続く。ジャンヌの面持と長い無言が何よりも雄弁に答えを表していた。
ふぅ、と息を吐いたジャンヌは、意を決して胸中の不安を語り出す。
「……そう、ですね。共に戦うことになる皆さんには打ち明けておくべきかもしれません。
理由は分かりませんが―――何というか、今の私はサーヴァントの新人のような感覚なんです」
「新人、ですか?」
「はい」
目を伏せた彼女の不安そうな表情と、予想外の言葉に目を丸くするマシュ。
何故なら。サーヴァントの新人、それはまさに自分自身を言い表す言葉だったからだ。
「世界の外側にある英霊の座には過去も未来もない。そのはずなのに、今の私にはその記録に触れる力すらもない。数日前に死んだ生前の自分の続きとして今の私があるような気分なんです。
先程の彼は私を救国の聖女だと言いましたが、その名を期待されても、そんな力は私にはありません。……ですので、その。私の方こそ、あなたがたの足手まといになるのでは、と」
「ジャンヌさん、それなら大丈夫ですよ」
「え……?」
その余りにも確信に満ちた言葉に、ジャンヌは思わず疑問の声を漏らす。
「だってわたしも、新人みたいなものですから。わたしもジャンヌさんと同じです。
デミ・サーヴァントですので、英霊としての力をフルに発揮できているわけではありません」
マシュに英霊としての能力と宝具を譲り渡したサーヴァントは、最後まで自分の事を語らずに消滅したため、彼女自身すらも契約を交わした英霊の真名を把握していない。そんな状況で力を十全に発揮できるはずがなく、守護される側であるはずのマスターの方が強いほどだ。
「それでも、わたしの内側にいる英霊は「それでいい」と言ってくれた。そして先輩―――マスターは、こんなわたしを信頼してくれています。
……うまく言えませんが、先輩は”強いから”戦っているのではありません。あの人は当たり前のように、当たり前のことをしているだけなのだと思います。だから、大丈夫だと思うんです。その、根拠は全く何もありませんが……」
そんなマシュの言葉に、ジャンヌはくすりと笑みを零す。
「……ありがとうございます、マシュさん。おかげで少し気が楽になりました」
そう告げる彼女の顔には、もう不安の色は残っていなかった。
「この時代とこの国のことは私自身、よく理解しています。明日から、頑張りましょう!」
「はい!」