※この作品はR-18です。

超昂運命 Beat/Grand Order   作:ゲーマーN

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Beat/Grand Order -Exceed the Grand Order-
第1章 第一特異点 A.D.1431 邪竜百年戦争 オルレアン 副題「竜の魔女」
第4節 黒いジャンヌ


第12話 黒いジャンヌ

【推奨BGM:聞き慣れたメロディー】Fate/Grand Orderより

 

「まずはこの森を抜け、オルレアンの方へと向かいましょう。直接偵察を行うのは困難ですが、周辺の街や砦でオルレアンに関する何かしらの情報が得られるかもしれません」

 

 聖杯戦争を管轄する裁定者の特権の一つ。本来は、サーヴァントの生存・消滅を確認するための超広範囲に及ぶ知覚能力を魔女が保有している可能性がある以上、魔女勢力の本拠地であるオルレアンに潜入するのは非常に困難だ。具体的な座標まで掴むことはできないものの、この知覚能力には、『気配遮断』を持つアサシンの存在に気付けるほどの精度がある。

 そのためジャンヌは、オルレアンに向かう道中にある人里で情報収集を行うのを提案した。

 

「もうすぐラ・シャリテです。ここで魔女勢力の情報が得られない場合、更にオルレアンへ近付かなければなりませんが……なるべく、そうならないように済ませたいですね。今の戦力で彼らに打ち勝てるのかどうか、その確証が持てない限り、本拠地に攻め入る訳にもいきませんし」

 

 その第一歩。日本語に訳すると「ロワール河畔の愛」という意味の名前を持つ、ラ・シャリテ・シュル・ロワールに一行は向かっていた。何かに追われるように早足になるジャンヌに、その隣に進み出た立香が声を掛ける。

 

「焦りは禁物だぞ」

 

「……ええ、そうですね。焦りは禁物、急いては事を仕損じるのは身を以て理解しています。それでも、私がこの惨状を作り出しているのかと思うと……正直、焦りが抑えきれません」

 

「…………………………」

 

「もう一人の私は、どう考えても正気ではない。竜を従え、街を侵し、村を焼き、人を殺す。そんな怪物が人を支配して、何をするかなど―――想像するのは容易いのです」

 

「……復讐心は、簡単に人を狂わせる。それを為せるだけの力があるのならば、尚更だ」

 

 二人の言葉には、単なる知識や伝聞などではない説得力があった。

 静まり返る空気を切り裂くように、突然、通信機器からロマンの制止の声が聞こえてきた。

 

『――む、ちょっと待ってくれ。君たちの行く先にサーヴァントの反応がある』

 

「詳しく」

 

『反応があるのはラ・シャリテ。君たちの目的地だ。数は……ああ、駄目だロストした! 幾ら何でも速すぎる! 今の反応はライダーか何かだったのか……?』

 

「フォウ! フォーウ!」

 

「なんですかフォウさん、急に頭に乗って。向こうの空を見るんだ、ですか?」

 

 反応消失(ロスト)。その報告に嫌な予感を覚えた立香は、すぐにその感覚が正しかったことを思い知る。

 フォウに促されるままに視線を向けた先、その方向には幾筋もの黒い煙が立ち昇っていた。

 

「街が……燃えてる……!?」

 

「急ぎましょう!」

 

「――マドカ! 先行して生存者の確認を!」

 

「了解しました」

 

 守護英霊召喚システム起動。メイド服に身を包む黄緑色の髪の少女をカルデアから召喚する。

 彼女の真名はマドカ・アサルト。高円寺沙由香(エスカレイヤー)の父親である高円寺博士により開発されたガイノイドであり、機能停止前(生前)はエスカレイヤーのサポート用アンドロイドとして活動していた。

 背部の飛行&武装ユニット『フェニックス』に火を入れたマドカは、指示通り、生存者を確認するため四人に先行してラ・シャリテに向けて飛び出した。

 

「わたしたちも急ぐわよ。ただ、無理しないこと。何があっても自分や仲間を優先させなさい」

 

「はい、所長!」

 

 ☆

 

【推奨BGM:暗雲を払え】Fate/Grand Orderより

 

 草原を走り抜け、煙の元に辿り着いた四人が目にしたのは完全に破壊された街の残骸だった。

 

「これは……!?」

 

「マドカ! 生存者は――」

 

「生体反応はありません。恐らくは、住民は全滅したものかと……」

 

 高空から降りてきたマドカは、生体探知機能と視覚センサーによる観測結果を報告する。

 生前、出身世界では、侵略異星組織『惑星侵略軍ダイラスト』に捕縛されたエスカレイヤーの救出作業を担当していた彼女は、超高精度の生体探知機能を搭載している。

 そのマドカが、生体反応がない、と断言してるということは、つまりはそういうことになる。

 

「ロマニ、そっちはどう?」

 

『……ダメです。その街に命と呼べるものは残っていません』

 

「そんな――」

 

 生存者ゼロ。その事実が、報告を受けた四人の肩に重く伸し掛かる。

 弱々しく表情を曇らせたジャンヌが、ガタ、と物音の聞こえた方にハッと視線を向けた。

 

「待ってください、今、音が……!」

 

「違います、それは――!」

 

 周囲の物陰から姿を見せたのは生存者――

 

「あ……そん、な……!?」

 

「……凄惨な光景は何度も見てきたが、今回のこれはその中でもとびきりだ……!」

 

「生ける屍(リビングデッド)……住民の死体を素に作られた使い魔のようね」

 

 ――ではなく、この街の住民の成れの果て。ゾンビ。生ける屍(リビングデッド)が怨嗟の唸り声を上げる。

 何故お前たちは生きている。わたしたちは殺されたのに。ボクたちももっと生きていたかった。

 ずるい、ずるい、ずるいずるいずるい、ずるいずるいずるいずるいずるい――!

 そんな死者たちの声が聞こえてきた気がして、ジャンヌはその顔を土気色に染めてしまう。

 

「――来てくれ、キャスター!」

 

「おうよ、オレの魔術をご所望かい? ……って、コイツは」

 

 召喚に応じたクー・フーリンは生きる屍(リビングデッド)を目にすると険しい表情になる。

 

「ドルイドは、人を導く者と聞いている。彼らを死後の世界に導いてくれないか?」

 

「……おぅ、任せとけ。ま、魂くらいは神の御許ってヤツに送り届けてやるよ」

 

 コツン、とルーンを刻んだ杖で地面を突くと、青白い光を放つ魔法陣が前方に出現する。

 その魔法陣から溢れ出た炎が、生きる屍(リビングデッド)と化した人々を灰も残さずに焼き尽くす。この国の宗教的価値観では、最後の審判の時まで肉体を残しておく必要があり、肉体を燃やし尽くすというのは恐ろしい所業なのだが、それでも悪魔に冒涜されたままよりはマシだろう。

 無言で、人々の魂が天に還るのを見送るジャンヌに、マシュは心配そうな表情で話しかける。

 

「…………その。ジャンヌさん、大丈夫ですか?」

 

「……ええ、大丈夫です。それよりも……」

 

「え?」

 

 唇を噛みしめる。罪を告白し、神に許しを請うようにジャンヌは言葉の続きを口にした。

 

「……この悪逆を為したのは、恐らく私なのでしょうね」

 

「そうと決まった訳では――」

 

「いいえ、分かります。その確信が私にはあります。……分からないことは一つだけ」

 

 辺りを見回す。青白い顔はそのままに、決然とした声音でジャンヌは告げた。

 

「どれほど人を憎めば、このような所業を行えるのでしょう。私には、それだけが分からない」

 

『大変だ! 先ほど去ったサーヴァントが反転した! 君たちの存在を察知したらしい!』

 

「ッ…………ジャンヌリバースか!? 数は!?」

 

『1、2……おい、冗談だろ!? 数は五騎! 今そこに、五騎のサーヴァントが向かってる!』

 

「な――五騎、ですって!?」

 

『と、ともかく逃げろ! このまま総力戦に持ち込まれる訳にはいかない!』

 

「ですが――!」

 

 風雲急を告げる。異議の言葉を遮るように、作戦指揮を預けられたロマンが声を張り上げる。

 

『敵は正規のサーヴァントが五騎だ! 今の君たちが戦うのには分が悪すぎる!』

 

「そんなことを言っても逃げられないわよ! こっちにはライダーなんていないのよ!」

 

『それは――』

 

「ここで敵を迎え撃つわ! 貴方たち、戦闘態勢を取りなさい!」

 

「了解です!」

 

 変身。神騎に姿を変えたオルガマリーは、迫り来る邪悪の気配に顔を強張らせる。

 マシュもまた、緊張の表情で十字の大盾の持ち手を強く握り締める。

 

「二人は一旦離脱。敵に合わせて布陣を再編成する」

 

「命令許諾。離脱します」

 

「おう、次は遣り甲斐のある戦場に召喚してほしいもんだ」

 

 英霊二騎を送還。次の召喚準備を整えたところで、ロマンが悲鳴のような声を上げた。

 

『ダメだ、もう間に合わない! 全員、とにかく生き残ることを考えるんだ! いいね!?』

 

 その直後、ワイバーンの群れと共に五騎のサーヴァントが彼らの前に姿を現した。

 

【推奨BGM:闇の予感】超昂神騎エクシールより

 

 一騎、闇に溶け込みそうなほどに黒い貴族服を着た男。

 一騎、茨を思わせるドレスを纏い、仮面を付けた淑女。

 一騎、露出度の高い黒の修道服と、籠手が目を引く女。

 一騎、羽帽子を被り、可憐な衣装を纏う中性的な剣士。

 

 そして、最後の一騎は――

 

「……っ!」

 

 爛々と輝く瞳を、憎悪と憤怒の炎が焦がす。漆黒の鎧に身を包む、その姿。

 ジャンヌ・ダルク。百年戦争にてフランスを救おうとするも、魔女として貶められた挙げ句、処刑された聖処女。その金色の双眸が、飛竜の上より愚かな敵対者たちを見下ろしていた。

 

「―――なんて、こと。まさか、まさかこんなことが起こるなんて」

 

「―――――」

 

 芝居染みた声で盛り上がる黒いジャンヌと、無言で驚愕だけを露わにする白いジャンヌ。

 向かい合う二人の姿は合わせ鏡のよう。聖女と魔女、その立場だけが彼女たちの違いだった。

 

「ねえ。お願い、だれか私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの。やばいの。本気でおかしくなりそうなの。だってそれぐらいしないと、あんまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう!」

 

 呆然とする聖女を滑稽と指差しながら、魔女は腹を抱え、堪えきれないという風に笑い出す。

 

「ほら、見てよジル! あの哀れな小娘を! なにあれ? ウジ虫? ネズミ? ミミズ? どうあれ同じことね! こんな小娘(わたし)に縋るしかなかったなんて――ああ、この国は本当に終わっていたのね! ねえジル、貴方もそう―――って、そっか。ジルは連れてきていなかったわ」

 

 さも愉しそうに嘲笑う魔女の姿に、正気を取り戻したジャンヌが厳しい目つきを向ける。

 

「貴女は……貴女は、何者ですか!? ジャンヌリバース!!」

 

「リバース……? 何ですか、それは……妙な名前を付けてくれますね。貴女からすれば、私という存在は、ジャンヌ・ダルクの偽物というわけですか。それはこちらのセリフですよ、もう一人の私。私こそが死の淵より帰ってきた救国の聖女、ジャンヌ・ダルクなのですから」

 

「……馬鹿げたことを。貴女は聖女などではない。私がそうでないように」

 

 多くの人々が聖女と認め信仰する少女は、自分たち(ジャンヌ)を聖女と語るリバースの言葉を否定する。

 

「いえ、それはもう過ぎたこと。今ここで語ることではない。それより―――この街を襲ったのは何故ですか?」

 

「……何故(・・)、かって? 仮にも同じジャンヌ・ダルクなら理解していると思っていましたが」

 

 信じられない、とばかりに怪訝そうな顔をするジャンヌリバース。

 

「属性が変転していると、ここまで鈍いのでしょうか? この街を襲った理由?

 馬鹿馬鹿しい問いかけですね。そんなもの、明白じゃないですか。この国を滅ぼすためです」

 

「この国を、滅ぼす………ッ」

 

「ええ。私、サーヴァントですもの。政治的に、とか経済的に、とか回りくどいわ。物理的に、全部潰す方が確実でしょう?」

 

「馬鹿なことを……!」

 

 その言葉を耳にした魔女の瞳に、全てを燃やし尽くす復讐の炎が燃え上がるのを立香は見た。

 

「馬鹿なこと(・・・・・)? 愚かなのは私たちでしょう、ジャンヌ・ダルク。

 何故、こんな国を救おうと思ったのです。何故、こんな愚者たちを救おうと思ったのです?

 裏切り、唾を吐いた人間たちだと知りながら!」

 

「それは――」

 

「私はもう騙されない。もう裏切りを許さない。そもそも、主の声も聞こえない。主の声が聞こえない、ということは、主はこの国に愛想を尽かした、ということです。だから滅ぼします。全ての悪しき種を根本から刈り取ります。主の嘆きを私が代行します。人類種が存在する限り、この憎悪は収まらない。この国を沈黙する死者の国に作り替える。

 それが死を迎えて成長した救国の聖女。新しい私になったジャンヌ・ダルクの救国方法です」

 

「な……これが、救国……?」

 

「まあ、貴女には理解出来ないでしょうね。何時までも聖人気取り。憎しみも喜びも見ないフリをして、人間的成長を全くしなくなったお綺麗な聖処女様には!」

 

 思いも寄らない魔女の真意に絶句するジャンヌの横に歩み出た彼女の主は、憎悪に凝った目で自分たちを睥睨するリバースに毅然と語り掛ける。

 

「それが、キミの復讐というワケか」

 

「貴方は…………」

 

「ジャンヌのマスターだ。藤丸立香。お見知りおき願おうか」

 

「……ああ、そう。貴方がそこの聖女様の。私になにか言いたいことでも?」

 

 どうせ、契約する聖女様をバカにされたのが気に入らないだけだろう。

 怒りのままに文句を言おうとしているのだと、そう考えていたジャンヌリバースは――

 

「…………何故だ」

 

「何故…………?」

 

「フランス以外を、イングランドを滅ぼそうとしない? 何故、フランスにのみ固執する?」

 

「――――――――え?」

 

 予想外の問いに、リバースは何を聞かれたのか直ぐには理解できなかった。

 

「その憎悪と殺意に満ちた瞳……キミの復讐心は本物だろう。だからこそ、解せない。キミに凌辱の限りを尽くしたのはイングランドだろう? 何故、イングランドにも復讐の刃を向けない?」

 

「何を言うかと思えば……主の愛を証明できなかった人類に存在価値はない。故に主が存在自体を間違いとしたこの国を滅ぼすために……」

 

「違うだろう? 憎き相手の血を浴びなければ収まらない。臓腑の滾りを抑えられない。それが俺たち……復讐者の本性だ。そんな御題目は、後付けの理由でしかない。キミがフランスだけを狙うのには、別に何か――」

 

「黙れ!!!」

 

 竜の魔女が咆哮する。その怒りを具現するように、視線の先に黒炎が燃え上がる。

 

『!? あのサーヴァント、睨むだけで相手を呪うのか!?」

 

「先輩!?」

 

「俺は大丈夫だ! それよりも――」

 

「たとえ誰だろうと私のこの憎悪は否定させない!」

 

 両目を見開き、憤怒と怨嗟を剥き出しにするもう一人の自分に、ジャンヌは静かに問いかける。

 

「貴女は、本当に『私』なのですか……?」

 

「……呆れた。ここまで分かりやすく演じてあげたのに、まだそんな疑問を持つなんて。

 なんで醜い正義なのでしょう。この憤怒を理解出来ないのではなく、理解する気さえない。そこの彼の方が、まだ私たちの本性を理解している。……ですが、今の貴女の言葉で、私という英霊の全てを思い知った」

 

 まるで頭から冷水を浴びたように、怒り狂っていたジャンヌリバースは冷静さを取り戻す。

 

「その脆弱極まりない霊基……貴女はルーラーなどではない。いえ、そればかりか、自ら(わたし)の本性(いかり)を認めようともしない愚か者など、最早ジャンヌ・ダルクですらありはしない!」

 

「……!」

 

「貴女には何の価値もない。ただ元の歴史を再現するために、同じ過ちを繰り返そうとする過去の亡霊に他ならない! 私が捨てた、ただの残り滓。それこそが貴女という存在の正体です!」

 

 ジャンヌリバースが灰色の旗を振り上げた。

 同時、彼女が後ろに侍らせていたサーヴァントたちが各々の武器を取り出した。

 

「喜びなさい、私の卑しい猟犬(サーヴァント)たち。貴方たちも雑魚ばかりでそろそろ飽きたところでしょう?

 彼らは強者です。勇者を平らげることこそが貴方たちの存在意義。存分に貪りなさい!」

 

 魔女の配下、悪魔(ドラクル)として顕現した四頭の猟犬が動き出す。

 一斉に殺到する血に餓えた怪物たち。魂を、肉を、血を啜ろうと悪魔は牙を剥き出しにする。

 

「奔り、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ―――!」

 

 対するは、世界を救わんとする救世の勇者たち。

 彼らの前に立ち昇る二条の光。その内より、赤と黄、二色(ふたいろ)を纏う戦士が現れる。

 

「――――青い地球を、守るため……胸の鼓動が天を衝く!」

 

「悪鬼彷徨う現の闇を、払うは月影、我、上弦なり……」

 

「新しいサーヴァント……!?」

 

「想破上弦衆、閃忍ハルカ!」

 

「及びエスカレイヤー! 悪の現場に、只今参上!」

 

 桃色と白色を基調とするレオタードのようなコスチュームに身を包むエスカレイヤー。

 後ろで一纏めにした長めの茶髪と青い瞳、黄色のくノ一衣装がトレードマーク。閃忍ハルカ。

 伝説の超昂戦士(レジェンド)、世界を救った英雄が破壊と殺戮の限りを尽くす邪悪の前に立ち塞がる。

 

「制圧目標、ジャンヌリバース! 全員、ここで決着を付けるぞ!!」

 

「はい! マスター、あなたに勝利を!」

 

【推奨BGM:夜よりも長き牙 (Arrange Ver.)】超昂天使エスカレイヤー・リブートより

 

 ――開戦。先駆けとして駆け出したのは元祖超昂戦士と白髪の槍使い。

 両陣営の最高戦力。互いの力量を感じ取った二人が、桃色の光剣と血濡れの槍を衝突させる。

 

「Dハーケン!」

 

「ンンッ!」

 

 光剣と魔槍が交錯する。

 

「くっ!」

 

「ぬうっ!」

 

 一合一合、一撃で勝負を決めかねない速度と、そして破壊力を互いにぶつけ合う。

 

「リコール・パルセイバー!」

 

 軽く手首を返すと、エネルギーのブレードが硬度を失い、リボンのような形状へと変わる。

 それがうねりながら飛んでいき、黒衣の男の槍の迎撃を受け流して絡みつく。

 

「ほぉ、自在に形を変える武器とは。面白い。面白いが――ッ!」

 

 血色の輝きが男の体に迸る。

 

「――絶叫せよ!」

 

 そのまま、黒衣の男の体内から放たれた血肉の杭がエスカレイヤーの心臓を狙い撃つ。

 

「はあああああぁぁっ! コール・パルセイバー!!」

 

「なに……!?」

 

 交錯の一瞬、リボンから剣へと形が戻る。

 迫りくる杭の軌道を逸らしつつ、光剣の刀身が男の喉笛へと迫った。

 

「―――素晴らしい。見目麗しいだけでなく、力強き魂をその身に宿す戦士とはな」

 

 頬を掠り、槍の表面を伝う鮮血を舐め取った黒衣の男が笑う。

 

「惜しむらくは、処女ではないことか」

 

 DDD。正式名称『ドキドキダイナモ』は超昂戦士の原型(オリジナル)であるエスカレイヤーの力の源だ。

 本来はあらゆる精神昂奮をエネルギーに変換できる装置だったが、製作者の高円寺博士が完成前に捕らわれたことで、性行為による性的昂奮にしか対応できない未完成品となっている。

 当然、超昂戦士として召喚された彼女は処女を失っており――その一点こそが、魂を貪り、肉を咬み、血を啜る、邪悪な怪物として顕界した黒衣の男には不満で堪らない。

 

「何故……こんな、ことを、するのっ……!」

 

「何故……か。余には、それしか残されておらぬからだ」

 

「これしか、残っていない……?」

 

「聖杯を求め、傀儡にこの身を貶められた余には……鮮血の伝承しか残されていない。ならば、それが虚構であろうとも謳うしかあるまいよ。余は不死身の吸血鬼であると!」

 

「あなた…………」

 

「余は悲嘆を啜る者なり! 護国の英雄(ヴラド・ツェペシュ)ではなく、血を啜る悪魔(ドラキュラ)として貴様の血を戴こう!」

 

 真名判明。ワラキア王国の王であり、当時最強の軍事力を誇っていたオスマン帝国の侵攻を幾度も退けた大英雄。護国の王。ヴラド三世こそが黒衣の男の真名である。狂気に身を染めた彼は、災厄の吸血鬼、ドラキュラ伯爵として血染めの牙を剥く。

 

「ならっ! 私が貴方を救います!」

 

「よくぞ言った、英雄よ! 我が屍を踏み越えてみせよ!」

 

 桃色の光剣が奔る。変幻自在の剣戟を前に、ヴラド三世は三日月のように口を大きく歪めた。

 

 

 

「…………どうして、ですって……?」

 

「そうですっ、何の罪もない人々に、こんなっ……!」

 

 その一方、目元を覆う黒い仮面を付けた長身の女性と閃忍ハルカは対峙していた。

 手に持つ杖と鎖で繋がれた金属製の聖母像を振り回す仮面の淑女は、正義感に満ちた如何にも英雄らしい言葉に嗜虐的な笑みを濃くする。

 

「正義なんで何の益にもなりません。名誉や誇りで、この美貌が保てると思っていて?」

 

「な――――」

 

「ああ、新鮮な果実を潰すのは楽しいわ。果肉は捨てて汁だけを嗜む―――これこそ夜の貴族の特権。私の宝具で、一滴残らず絞り出して上げましょう」

 

 全身を硬直させた少女を飲み込むように聖母像の見た目をした怪物の顎が口を開く。

 

「血よ、血よ、血よ! 永遠の美、久遠の宴、老醜は時の果てに! 『幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)』!!」

 

 鉄の処女(アイアン・メイデン)。中世ヨーロッパで刑罰や拷問に用いられたとされる、女性の形をしており、中に人間を入れることのできる空洞のある人形。左右に開く扉には、無数の長い釘が内部に向けて突き出しており、本体の背面部分に植えられた釘と合わせて犠牲者の血肉を貪り食う。

 仮面の淑女の頭上まで移動した聖母像は、その内に閉じ込めたハルカの血を搾り取り――

 

「――――雷光衝ッ!」

 

「っ…………!」

 

 周囲一体に雷鳴が轟き、咄嗟に逃れようとした仮面の淑女を雷光が撃ち抜く。

 

「あ、なた……! よくも……よくも、私の顔に傷を……ッ!」

 

 分身の術。宝具の攻撃を回避していた本体が、雷を纏わせた苦無で女怪の仮面を斬り裂いた。白日の下に晒された血の気のない美貌には、それを台無しにする一筋の傷が刻まれていた。美に執着する女は、その美が侵されたことに悪鬼の形相を見せる。

 

「鉄の処女(アイアン・メイデン)……ッ! まさか、あなたの真名は…………!」

 

 悪鬼と対峙するハルカの脳裏に過ぎる一つの名前。

 鉄の処女(アイアン・メイデン)。空想上の拷問具とされる、それを宝具とする者など一人しかいない。

 

「エリザベート・バートリーなのですか!?」

 

 ヴラド三世と同じく、怪物として恐れられた女性――

 600人以上の娘の生き血を浴び、己の美貌を保とうとした猟奇殺人鬼。

 

「……忌まわしい名を。私は誰もが恐れ、敬った血の伯爵夫人。その完成形。吸血鬼カーミラ!」

 

 その真名は、残忍で血を追い求めた彼女の生涯を表したもの。

 領民たちの命ばかりか、貴族令嬢にまで手を出した、生前における血の伯爵夫人の成れの果て。

 

「さあ、蹂躙と虐殺の時間よ! せいぜい恐怖と絶望を謳いなさい!」

 

「――いいえ! 上弦の名の下に、私があなたを倒します!」

 

 

 

 片や、21の惑星を植民地としてきた惑星侵略軍の総帥を討ち倒した救星の英雄。

 片や、戦国時代の大怪異。宇宙から飛来した地球外生命体。ノロイを滅した閃忍。

 英霊としての格は大英雄に匹敵する。それこそ、二騎で編成制限を満たしてしまうほどに。

 

「はぁっ!」

 

「っ、通さないわよ!」

 

 アニムエルの展開した障壁が可憐な剣士の細剣を受け止める。神騎の力を得たことで、より優れた魔術を行使可能となった彼女の障壁は、如何な英霊でも簡単には突破できない。次々と突きつけられる剣閃は、しかし、アニムエルの身には届かない。

 この調子なら耐えられる、と障壁に力を込める彼女に横合いからもう一人の影が襲いかかる。

 

「はぁあああああ!」

 

「ひっ!」

 

 黒の修道服に身を包む聖女。杖を投げ捨てた彼女が、湧き上がる衝動のままに殴りかかる。迫りくる彼女の姿に、その拳を受ける未来を想像し、喉の奥から恐怖の声が漏れる。

 

「させません!」

 

 その未来を許すまいと黒い修道女の正面に割り込んだマシュは、カルデアに召喚された二十余りの英霊と比較してもなお、人外染みた威力の拳にその表情を苦悶に歪ませる。

 

「マシュ!?」

 

「大丈夫です……! 所長は、私が守ります!」

 

「マシュ、あなた……」

 

 本来、力を得たばかりの二人が正規のサーヴァントに敵う道理がない。

 けれど。互いを守り合い、防衛戦に徹することで彼女たちは二騎の猛攻を耐え抜いていた。

 

 

 

 そして――

 

「――リバース」

 

「残り滓。貴女は、私自らの手で片付けてあげましょう」

 

 白と黒、二人のジャンヌが対峙する。

 

 ドガッ!

 

 足元の飛竜を踏み砕き、飛び出したリバースを迎え撃とうしたジャンヌは――

 

「ばぁか!」

 

 自身に攻撃――することなく、横を素通りするリバースを止めることができなかった。反射的に振り抜かれた旗は空を切り、聖女の醜態を嘲笑うように竜の魔女が旗を突き出す。

 

「しまっ――――」

 

「――敵対するマスターは始末する。聖杯戦争の基本中の基本ですよ」

 

 魔女の旗、その矛先が人類最後のマスターに向けられた。




味方サーヴァント

真名 :マドカ・アサルト
クラス:アーチャー
出典 :『超昂天使エスカレイヤー』
属性 :中立・善・人
備考 :正確にはガンナークラスに適性を有する

真名 :クー・フーリン
クラス:キャスター
出典 :ケルト神話
属性 :秩序・中庸・天

真名 :エスカレイヤー
クラス:セイバー
出典 :『超昂天使エスカレイヤー』
属性 :中立・善・人

真名 :閃忍ハルカ
クラス:アサシン
出典 :『超昂閃忍ハルカ』
属性 :秩序・善・地



敵サーヴァント

真名 :ヴラド三世
クラス:バーサーク・ランサー
出典 :『ドラキュラ』
属性 :混沌・悪・地

真名 :カーミラ
クラス:バーサーク・アサシン
出典 :史実
属性 :混沌・悪・地

真名 :???
クラス:バーサーク・ライダー
出典 :???
属性 :???

真名 :???
クラス:バーサーク・セイバー
出典 :???
属性 :???

真名 :ジャンヌ・ダルク
クラス:ルーラー
出典 :史実
属性 :混沌・悪・人
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