第1章 第一特異点 A.D.1431 邪竜百年戦争 オルレアン 副題「竜の魔女」
第5節 藤丸立香の力
(取ったッ…………!)
勝利を確信したジャンヌリバースはニヤリと笑みを浮かべる。
神秘の有無に関わらず。人類文明の齎す数々、例えば戦車の一個師団から戦闘機や戦艦の襲来すらも、容易に打ち砕いてしまう、人型を保った戦闘用兵器こそがサーヴァントだ。
魔力不足の弱体化したサーヴァントであれば人間に負けることもあるかもしれないが、この世界の
目の前の人間に、この攻撃を対処する術などありはしない。竜の御旗が勇者の心臓を刺し貫く。
「魔力…………解放ッ!!」
その未来を覆すだけの『力』が藤丸立香にはあった。
「――――ッ……!? そんな、馬鹿なッ……!」
彼は、自らの心臓に突き刺さるはずだった魔女の旗を片手で掴み止めていた。
突き出すことも、引き抜くこともできない。人間などとは比較にならないほどに高位の存在であるはずの自分が為す術もない現実に、ジャンヌリバースは愕然とする。
有り得ない。
「サーヴァントでもないのに、その力……貴方、本当に人間?」
「人間だとも」
思わずといった様子で漏れた困惑の声に、立香は気負うことなく疑問の答えを告げる。
「人間で、龍の者で、魔王だ」
【推奨BGM:ライト & アクション (Arrange Ver.)】超昂天使エスカレイヤー・リブートより
「魔王……? 意味の分からないことを! このっ、いい加減に離しなさい!」
英霊が何もない空間から宝具を取り出せるのは、英霊は宝具を魔力で具現化するためだ。腕力では旗を奪い返せないと判断したリバースは、宝具の旗を魔力に還すことで取り戻す。そのまま、立ち塞がる敵の命を奪おうと再具現化した旗を横一閃に薙ぎ払う。
「はぁあああっ! 獣将直伝! 閃斧破砕陣!!」
「っ、これはどう!?」
「おおおお! 鳳凰光翼壁!!」
魔女の旗を、炎を、立香は己の肉体と技の数々で防いでみせる。
「何よっ……何なのよ貴方はっ!?」
『これが、立香君の力……』
「マスターに、こんな力があるなんて……」
『これが立香の本当の力です。と言っても、まだ全力ではないようですが……』
「貴方は……?」
『神騎エクシール。彼に召喚されたサーヴァントの一騎です』
管制室で現場の様子を見ていたエクシールが、驚きで目を見張るジャンヌに事情を説明する。
『彼の中には様々な力が備わっています。その戦闘力は見ての通り、サーヴァントとも正面から戦えるほどですが、通常は指揮に専念しています。その理由は言わずとも分かりますよね?』
「彼が人類最後のマスター……決して失えない人類史奪還の要だからですね?」
『はい、彼の損失は人類の滅亡を意味します。なので、極力戦闘は自重するべきなのですが……』
もう、仕方のない人ですね。と、管制室から戦いを見守るエクシールが苦笑いを漏らす。前世の頃から彼は仲間の……それも女の子のピンチを見逃せるような性格ではなかった。そんな彼が、不測の事態で弱体化しているジャンヌ一人に戦わせるはずがない。
「――ならば。私もこのまま見ているだけという訳にはいきませんね」
旗を握る手に力を込める。顔を上げ、魔女が抱く剥き出しの憎悪を真正面から睨み付ける。
「はあああああっ!!」
「っ!? 残り滓、風情がッ……邪魔をするな!」
聖女の進撃。全身全霊を込めた一振りを、竜の魔女は軽々と捻じ伏せる。
弾かれたジャンヌの体は宙を舞い、何度も地面をバウンドする。うめき声を漏らす彼女は、しかし、不敵な笑みを浮かべる。自分の役割を果たせたことを、ジャンヌは確信していた。
「隙ありだ!」
「―――――ガッ!!!」
ボディへの一撃で息が止まり、体をくの字に曲げ、5メートルほど吹き飛んだ。旗を支えに、地に伏すのは堪えたものの、勝敗の天秤が一気に傾いたのは火を見るよりも明らかだった。
「この、私が――聖杯を持つ私が、人間如きに苦戦するなど――!」
ギリッと歯を噛み締める。焦燥と怒りで熱くなる息をフーッと吐き出したリバースは、下僕たちの様子を確認しようと辺りに視線を巡らせ、そこでようやく戦況の悪化を認識することになる。
「Dスラッシャー!」
「ぬうっ!」
リボン状の刀身を持つビーム剣。パルシオンの剣がヴラド三世の槍を払い除ける。
魔力放出。一息に懐に潜り込んだエスカレイヤーは、リボン状に変化させた光剣を振り抜いた。
「これでとどめです! 『サブリミット・エスカレーション』!」
ヴラド三世の体にビームリボンが絡みつく。そのまま、自らの肉体を斬り裂こうと収縮するパルシオンを前に、大人しくしているほど今のヴラド三世は潔い性格をしていない。
全身に赤黒い魔力を迸らせたヴラド三世は、己を滅ぼそうとする英雄に凄惨な笑みを見せる。
「―――捧げよその血、その命」
「っ!?」
「
ヴラド三世の胴体を食い破り、その血が、肉が、骨が、腸が、形を成した杭が溢れ出る。オスマン帝国の兵士二万を串刺しにした串刺し公の伝説が昇華した対軍宝具。護国の英雄ではなく悪逆の存在として召喚されたことが原因か、本来のそれより規模が大幅に縮小しているが、それでもサーヴァント一人を討ち滅ぼすには十分な威力を保っている。
防御不可能。数本程度は防げるかもしれないが、己の肉体のみならず周囲の全てを杭に作り変えるこの宝具を耐え抜くのは、いくら
同じ理由から回避も困難である。飛行能力を持たない今の彼女では、空中という杭のない唯一の逃げ道を利用できない。氾濫する杭の中を逃げ回ることになる。
(防御も回避もダメ……それなら、私の取るべき選択肢は一つだけ―――ッ!)
更に、前に出る。杭の濁流に傷付けられながらもパルシオンの柄を強く握り締める。
次第に数を増す杭は敵の進路を塞ぎ、時間が経つごとに回避を困難にする。更には無数の杭を結合・操作することも、防御に利用することも可能な攻防一体の宝具。その唯一の隙こそが、真名解放直後の杭の出現数が少ない一秒以下の刹那。
光剣に形を戻したパルシオンを、元祖超昂戦士は、エスカレイヤーは渾身の力で振り抜いた。
「『ビートエンド・エスカレーション』!!」
キィン……シュワーン!!
「正義の勝利です!」
剣光一閃。桃色の軌跡が、ヴラド三世の身体を斜めに両断する。エーテルでできた仮初の肉体が傷跡から崩壊していくのを自覚したヴラド三世は、どこか清々しい表情を浮かべていた。
「――ここで、終わりか。余の夢も、野望も、またも潰えるか……」
消滅間際、ヴラド三世の脳裏を過ぎるのは、此処とは別の世界で聖杯戦争に参加した時の記録。
《やめろ!! やめろ、やめろ、やめろ、やめてくれ!! 余はワラキアの王!! ヴラド二世が息子!! 余の中に入ってくるなぁぁぁぁぁ!! おのれぇぇぇぇぇ!!》
禁じていた宝具の解放を強制された上に、己の存在そのものを奪われたあの悪夢と比べれば。
此度の召喚は、どれほど救いのある結末だったことか。忌み嫌う『吸血鬼ドラキュラ』として召喚されたのは業腹だが、英雄との一騎打ちの末に敗れるというのは悪くない最期だ。
「そこの英霊よ。この戦場の只中でなお、己を見失わぬ女よ。次は汝と轡を並べたいものだ」
「ヴラド三世……ええ、その時を私も楽しみにしています」
「であれば、その時こそ我が槍の真髄を見せてやろう。護国の槍―――民を守る武器は、さぞ貴様たちの手に映えることだろう―――」
人の世に生きた王は、その言葉を最期にこの特異点から霊基を消滅させた。
「天雷よ、我が敵を撃て! 『穿・四門五月雨』!」
ガガガガガガッ!!
高く鳥のように飛び上がり、閃忍ハルカが苦無を投げ放つ。豪雨のように降り注ぐ雷纏う苦無に顔を顰めたカーミラは、己の身を守るために
苦無の雷雨の只中を二人目のハルカが駆け抜ける。その狙いは、最大の武器を抑え込まれた血の伯爵夫人の身命に他ならない。疾走する黄の閃光が女怪の心臓を刺し貫く―――!
「はっ!」
「死になさい!」
人外の力ならば、人ひとりを圧し潰すなどさほど難しいことではない。左の鉤爪で閃忍の苦無を打ち払い、右の鉤爪で少女の体躯を引き裂く。両腕を振り抜き、二人目のハルカを引き裂いたカーミラの背後から迫るのは、雷霆に身を包む三人目のハルカ。
「これで終わりです!」
「貴女がね!」
エリザベート・バートリー。生前のカーミラは600人以上の少女を拷問の末に殺し、その生き血で満たした浴槽の中に身を浸す、などの残虐極まりない行為を繰り返していた。
彼女が他のシリアルキラーたちと一線を画すのは、残虐趣味に一貫性が無いことである。
例えば、殺人を楽しむ者は殺人を、苦痛を楽しむ者は苦痛を、食人を楽しむ者は食人を基本として残虐趣味を組み立てるが、彼女はその全てを楽しんでいたとされる。
「あ、ああぁぁぁぁぁ!!」
その彼女の残虐趣味・拷問欲求を形にした魔力弾が第三の刺客に降り注ぐ。苦悶の表情を正面から見られないのを残念に思いつつも、少女の悲鳴にカーミラは楽しげに口元を歪める。
「美しく、儚く、そして滑稽な少女だったわね。でも、芸としては中々の出来だったかしら?」
苦無が止む。宝具の停止を確認したカーミラは次の狩り場に向かおうと辺りに視線を巡らせる。
血が足りない。私より美しいものの血が、私を美しくしてくれる血が。英霊は駄目だ。彼等の血は直ぐに消えてしまう。ならば、今を生きる人間の血を――
「まだ、演目は終わっていませんよ」
「――――――――え?」
グサリ、と彼女の胸に致命の刃が突き刺さる。見下ろせば、総身に魔力を巡らせる少女の姿。
「今度こそショーダウンです! 『穿・四門五月雨』!!」
零距離射撃。再びの宝具解放がカーミラの胸部に大きな風穴を開けた。
「そんな……どうして……」
「仲間と共に戦っていても、仲間の為に戦っていない。そんな貴女に負ける訳にはいきません」
徹頭徹尾、自分自身の為に戦っていたカーミラは最後の最後で気を抜いた。仲間の為に、確実に敵を倒そうとするのではなく、自分の為に、自分の愉悦の為に次の獲物に目を向けた。その慢心こそが、カーミラの敗北を決定付けた。
「ああ……暗がりの中に戻るよう。最後の瞬間……レンガの隙間に見えた、あの光――」
全身の力を失い、地に倒れ伏したカーミラは空を見上げる。
「ああ、そう……やっぱり私は……生きても死んでも、一人きりというわけね……」
太陽を目指すイカロスが翼を失ったように、光に照らされた美しき吸血鬼は溶けていった。
「馬鹿な……!?」
余りにも信じ難い光景だった。破壊と殺戮、人類の掃討を尊命とする魔女の下僕の中でも、一際残忍な性質をしたあの二騎がこれほど簡単に倒されるなんて――!
「勝負ありだな」
「くっ……!」
「大人しく、聖杯を渡してくれないか?」
倍の戦力差。それも自陣の最高戦力を軽々と倒すほどの英霊が二騎も存在する以上、もはや魔女の陣営に勝機はない。そのはずなのに――
「ふ……ふふ。あは、あはは――ははははは! あはははははは!!」
竜の魔女は笑っていた。
「―――は、バッカじゃないの! 蝙蝠二匹を倒したくらいでもう勝ったつもりだなんて……!」
「どういう意味だ?」
「元より、この国を滅ぼすには彼と私がいれば十分。他の全ては余興にすぎない」
空へ旗を掲げる。魔女の背中に輝く赤い紋章は令呪のそれに他ならない。
ぞくり、と背筋に寒気が奔る。自らの直感に従い、ジャンヌリバースの行動を止めようと飛び出した立香の前に、残り二騎の魔女配下のサーヴァントが立ち塞がる。
「残念ですが……」
「この先には行かせないよ!」
「っ……!」
「裁定者の名の下に命じます! ファヴニール! この世界の全てを灼き尽くしなさい!」
【推奨BGM:臨戦】Fate/Grand Orderより
突如、漆黒の天幕が天上を覆う。空を見上げたその場の全員が目にした――その姿は。
『超極大の生命反応!? これは……おい、まさか……!』
「あれは、アカネと同じ……!?」
「幻想種の頂点……正真正銘の竜種ですって……!?」
そこに飛んでいたのは、ワイバーンなどとは比較にもならない漆黒の巨竜だった。
全身を覆う黒い鋼の如き鱗。胸元に輝く翡翠の紋様は、息を吸うだけで魔力を生成する。
令呪を火種に、巨竜は聖剣の一振りにすら匹敵する絶大な魔力を生成する。
「わ、わたしが出ます!」
「無茶言わないで! あの魔力量、貴女一人に防げるような攻撃じゃないわよ!」
「ならば、ここは私が一緒に……!」
「は、はい!」
「灼き尽くせ……ファヴニール!! 『
その直後、魔女の言葉に従い巨竜『ファヴニール』がその顎門を大きく開いた。
世界の全てを灼き尽くす。憎悪の炎が地上を目掛け、口腔から津波のように流れ落ちる。
「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!」
「仮想宝具、展開します!」
「『
「『
前に出た二人の守護者が、自らの持つ宝具を全力展開することで巨竜の炎を受け止める。
宝具『
天使の祝福によって味方を守護する結界宝具。弱体化しているとはいえ、元がEXランクという規格外の対魔力を守りに変換することで、辛うじて巨竜のブレスを防いでみせる。
だが、それも一時的に過ぎない。攻撃を防ぐ代償は、旗が焼け焦げるという形で累積していく。
「きゃっ……!」
「くっ……ぅぅぅぅぅっ!! やはり、これでは……!」
「耐えられない、もうダメ……!」
「いえ、間に合いました。わたしも一緒に竜の魔女へ立ち向かいましょう!」
「……え?」
硝子の馬車と共に、カルデア一行の前に現れたのは、赤い衣装に美しい銀色の髪の少女。
ひらりと硝子の馬から降りた彼女は、キラキラした天真爛漫な笑顔を溢れさせる。
「さあ、一緒にヴィヴ・ラ・フランス! 『
「硝子の……宮殿?」
【推奨BGM:不屈の覚悟】Fate/Grand Orderより
第三の防御結界、巨大にして優美を誇る硝子の宮殿が炎の津波の侵攻を遮るように顕現する。
令呪一画程度の魔力量では、三つの防御結界を突破するなど到底不可能。一度に生成できる魔力量の限界を迎えた巨竜は、その顎門をゆるりと閉じる。
「わたし、大好きなの! ロンドン万博のクリスタル・パレス。だから宝具を用意する時に参考にしたのだけれど、なにか問題があったかしら……?」
「色々と気になることはあるが……水晶宮か。思わず見惚れそうになるほど綺麗な宝具だ」
「まあ。この宝具を『綺麗』って言ってくれるのね。そこの貴方、ありがとう!」
血煙漂う戦場には似合わない少女の乱入に、巨竜を従える竜の魔女は顔を顰めていた。
「……新しいサーヴァント、ですか」
「ええ、そう。嬉しいわ、これが正義の味方として名乗りを上げる、というものなのね!」
「貴方、は……!?」
同じく、その少女の顔を見た魔女の剣士が目を見開いた。
その様子に気が付いた硝子の少女は、衆生を癒やす微笑みを彼女一人に向ける。
「あら。わたしの
「……ええ、王妃。貴女に贈られたドレスは私の宝物でしたから」
「ドレス? もしかして貴女の
「シュヴァリエ・デオン。生前はフランス王家を守る白百合の騎士……そして今は、悪に加担する魔女の走狗です。ヴェルサイユの華と謳われた少女―――マリー・アントワネット王妃よ」
「マリー・アントワネット王妃!?」
「はい! ありがとう、わたしの名前を呼んでくれて!」
ハプスブルク家の系譜にあたるフランス王妃、マリー・アントワネット。
十八世紀、ルイ十六世の妃。儚き貴婦人。欧州世界の「高貴による支配」を象徴する存在。
王権の絶対性が失われていく世界の変化を前にその生涯を終えた王家の白百合。
「そして、我が愛しの国を荒らす竜の魔女さん。ひとつ貴女に質問してもよろしくて?」
「なにかしら?」
「貴女はこのわたしの前で、まだ狼藉を働くほど邪悪なのですか? 革命を止められなかった愚かな
心の底から呆れたように大きく息を吐き出すリバース。
「……黙りなさい。民を救おうと心を砕き、けれど裏切られた愚かな王妃。宮殿で蝶よ花よと愛でられ、何も分からぬままに首を断ち切られた貴女に、私の憎しみの一体何が理解できると?」
「そうね、それは分からないわ。だから余計に貴女を知りたいの、竜の魔女」
「……なに?」
「分からないことは、分かるようにする。それがわたしの流儀です。だから今の貴女を見過ごせないの。貴女はそんなに美しいのに、どうして血と憎悪でその身を縛ろうとなんてするの? 善であれ悪であれ、人間ってもっと軽やかにあるべきでしょう?」
「お前に……お前に、私の何が分かる!」
「今のわたしに分かるのは、貴女はただ八つ当たりしているだけということ。理由は不明、真意も透明。何もかも消息不明だなんて、まるで日曜日に出掛ける少女のようでしてよ? そんな貴女に向ける礼はありません。わたしはそこの、」
と言いながら、マリーの視線が白いジャンヌの方に向けられる。
「何もかも分かりやすいジャンヌ・ダルクと共に、意味不明な貴女の心を、その体ごと手に入れるわ!」
「な……」
「え、えっと……はい?」
「そっち系なの?」
「え、えぇ!?」
「そ、そういう経験もありますが……」
仰天、困惑、疑惑。マリーに向けられる視線には、百合の花を疑うような色が混じっていた。
彼女の発言に身の危険を覚えたのか、顔を赤くした女性陣が一歩後ろに退いてしまう。
「あ、しまった。しっぱいしっぱい。えっと、誤解なさらないでくださいね? 今のは単に、『王妃として私の足下に跪かせてやる』という意味ですから」
「それはそれでアレな気もするが……」
『……壊れていく。ボクの中のアントワネット像が壊れていく……』
「―――茶番はそこまでだ。私の残り滓同様に人間的成長がまるでないこの国の亡霊め。
ファヴニール! あの鬱陶しいお姫様を、それ以外の有象無象諸共に灼き尽くしなさい!」
竜の魔女が指示を下す。再び、巨竜の心臓が莫大な魔力を作り出す。
その様子を少し悲しそうに見つめた後、しかし声高に硝子の王妃は声を上げる。
「ええ、ここは戦場ですものね。語らいはこの辺りにして――まずは貴女が殺めた人々への鎮魂歌を送りましょう。お待たせしました、アマデウス。機械みたいにウィーンとやっちゃって!」
彼女の声に応じたのは、硝子の馬車より降りてきた黒衣に身を包む音楽家。
黒と紫を基調とする衣装に身を包む彼は、命じられるままに
「どうか静粛に。最高の時間をお贈りしよう。では楽しみたまえ、『
死の直前、死神に葬送曲の作成を依頼されたという伝説に由来する魔曲。
アマデウス。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。世界有数の天才作曲家にして演奏家である彼の魔曲を奏でるのは、天使のような姿をしたオーケストラ。
魔曲の音色は、徐々に聞く者を蝕んでいき、遂には巨竜すらも大地に
「―――今だ! オーダーチェンジ! 来てくれ、アルトリア・オルタ!!」
「鳴け。地に堕ちる時だ」
魔術礼装。魔術の儀礼に際し使用される装備・道具。所謂、魔法使いの杖に相当するもの。
人理継続保障機関・カルデアの技術部が開発した魔術礼装・カルデア戦闘服には、特異点内部の召喚英霊とカルデアの英霊を入れ替える『オーダーチェンジ』の
負傷をしたエスカレイヤーと交代で召喚されたアルトリア・オルタが黒い極光の剣を振り被る。
「屍の山に沈め」
「アーサー王……!? ファヴニール、
巨竜の上へ飛び乗ったリバースは聖杯の力で宝具の影響を強引に振り払う。そのまま、空に逃げようとした巨竜に向けて――
「崩落せよ! 『
漆黒の極光が放たれた。巨大な光の帯が、巨竜を消し飛ばそうと射線上の一切を薙ぎ払う。
巨竜も必死に極光を避けようとするが、間に合うほどの余裕は残されていない。竜の魔女が従える最大最強の下僕、ファヴニールの命運は今ここに閉ざされる――!
「令呪を以て命じます! 我が猟犬たちよ! 全身全霊を以て、ファヴニールを守りなさい!」
神明裁決。命令や
使用令呪は四画。二画は召喚、残りの二画は二騎のサーヴァントの強化に消費される。
「神が五日目に創り給うたリヴァイアサン――その仔にして、数多の勇者を屠ってみせた凶猛の怪物。愛を知らぬ悲しき竜よ……」
先に極光の前に立ち塞がるは黒の修道女。胸の前で腕を組む彼女の前に巨大な何かが現れる。
「今、ここに――『
その正体は甲羅。巨大な亀の甲羅と思しきモノが漆黒の極光と数秒間ほど拮抗する。その数秒で距離を稼いた巨竜だが、まだ攻撃範囲の外に脱していない。跡形もなく消え去った甲羅の後ろから姿を見せたシュヴァリエ・デオンが、卓越した剣技で極光の斬撃に立ち向かう。
令呪による
「……申し訳ありません、王妃、様……」
その代償は大きい。聖剣の真名解放を剣技で受け流す、などという限界を超えた稼働をしたことから霊核が大きく破損したデオンは、逆さまに堕ちながらその霊基を消滅させていく。
そして、最後の一騎も――
「……やれやれ、壊れた聖女の使いっ走りとして召喚された末路がこれとはね」
他の三騎と同じように肉体が霧散しつつある黒の修道女がカルデア一行の前に姿を見せる。
「貴女は――」
「私の
「マルタ……?」
『悪竜タラスクを沈めた一世紀の聖女。竜種を祈りだけで屈服させた竜の聖女だね』
世界三大救世主の一人と直接の面識があり、竜退治の逸話も持つ聖人の中の聖人の一人。
彼女はその類稀なる克己心を以て、魔女の支配を抑え込み、世界を救う勇者たちに言葉を遺す。
「……聞きなさい、貴方たち。竜の魔女が操る竜に立ち向かうのならば、まずはリヨンという都市に行きなさい。そこにあの竜を倒すための切り札を……
「
「確かに伝えましたよ。……まったく。次は、もうちょっと真っ当に召喚されたいものね」
霊基消滅確認。魔女配下のサーヴァント四騎、その全てがこの特異点から退去した。
だが、カルデア一行の顔は明るくない。敵を退けたというのに、一様に暗い表情をしていた。
「聖女マルタですら、魔女の支配に逆らえないなんて……」
「……厄介だな。恐らくは、また新しいサーヴァントを召喚してくるぞ」
「その時は最初からあの竜も一緒のはずです。急いで戦力を掻き集める必要がありますね」
「ええ。それに、聖女マルタの言っていた
険しい表情を隠せないカルデア一行に、黒衣に身を包む青年が軽い態度で話しかける。
「まあまあ。取り敢えず、彼女のお陰で目的地は定まったんだ。今はそれでいいじゃないか」
「それはその通りだが……まず、キミたちは何者なんだ?」
「僕は――と言いたいところだが、まずはもう少し落ち着けるところに移動しないかい?」
『そういうことなら、そこからすぐ近くの森に霊脈の反応を確認した。その
その提案を拒否する理由はない。拠点を確保するためにも一行はその森へと向かうことにした。
戦部トキサダ(原作)の戦績
・暴走状態の『エスカリバース』と『ハルカリバース』を同時に相手取る
・オルタナ四天王『獣頭拳将タイガージョー』との漢比べに一対一で勝利する
これに一生分の経験値と、抑止力補正を入れた結果が今作の藤丸立香の戦闘能力となります。
味方サーヴァント
真名 :エスカレイヤー
クラス:セイバー
出典 :『超昂天使エスカレイヤー』
属性 :中立・善・人
真名 :閃忍ハルカ
クラス:アサシン
出典 :『超昂閃忍ハルカ』
属性 :秩序・善・地
真名 :神騎エクシール
クラス:セイバー
出典 :『超昂神騎エクシール』
属性 :秩序・善・天
真名 :マリー・アントワネット
クラス:ライダー
出典 :史実
属性 :秩序・善・人
真名 :ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
クラス:キャスター
出典 :史実
属性 :中立・善・星
真名 :アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕
クラス:セイバー
出典 :アーサー王伝説
属性 :秩序・悪・人
敵サーヴァント
真名 :ヴラド三世
クラス:バーサーク・ランサー
出典 :『ドラキュラ』
属性 :混沌・悪・地
真名 :カーミラ
クラス:バーサーク・アサシン
出典 :史実
属性 :混沌・悪・地
真名 :マルタ
クラス:バーサーク・ライダー
出典 :史実、新約聖書
属性 :秩序・善・人
真名 :シュヴァリエ・デオン
クラス:バーサーク・セイバー
出典 :史実
属性 :中立・中庸・人
真名 :ジャンヌ・ダルク
クラス:ルーラー
出典 :史実
属性 :混沌・悪・人