序章 特異点F A.D.2004 炎上汚染都市 冬木 副題「人理の防人」
第1節 カルデア
―――塩基配列 ヒトゲノムと確認
―――霊基属性 善性・中立と確認
ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。
ここは人理継続保障機関 カルデア。
指紋認証 声帯認証 遺伝子認証 クリア。
魔術回路の測定……完了しました。
登録名と一致します。
貴方を霊長類の一員である事を認めます。
はじめまして。
貴方は本日 最後の来館者です。
どうぞ、善き時間をお過ごしください。
……申し訳ございません。
入館手続き完了まであと180秒必要です。
その間、模擬戦闘をお楽しみください。
レギュレーション:シニア
契約サーヴァント:セイバー ランサー アーチャー
スコアの記録はいたしません。
どうぞ気の向くまま、自由にお楽しみください。
英霊召喚システム フェイト 起動します。
180秒の間、マスターとして善い経験ができますよう。
☆
一面の草原。
地平線の彼方まで緑が広がるその空間に異物が起き上がる。
岩の体を持つ訓練用のゴーレムが、その巨躯を以て相対する者を威嚇する。
普通の人間ならば、その威容に恐れ慄くことだろう。
だが、この模擬戦闘を行っている青年の顔に恐怖の色は欠片もない。
何故なら、
「始めましょう、マスター」
彼の目の前には三騎の英霊の姿があるからだ。
金髪の髪を後ろで結い上げ、青と銀の甲冑を着た見目麗しい剣士。
青い装束に身を包み、朱槍を携えた野性味溢れる戦士。
深紅の弓を持ち、褐色の肌と生気に満ちた瞳が特徴の男。
ゴーレムと対峙する彼らの姿が、青年のよく知る三人の少女の姿と重なる。
《青い地球を守るため、胸の鼓動が天を衝く! エスカレイヤー、悪の現場に只今参上!》
《悪鬼彷徨う現の闇を、払うは月影、我、上弦なり! 想破上弦衆、閃忍。ハルカ、見参!》
《人々の希望を奪い、絶望を撒く魔の尖兵。もはや贖罪の刻は尽きました。
われ神騎エクシール! 罪に汚れし、その魂! 神に代わって誅滅します!》
赤の戦士 エスカレイヤー
黄の閃忍 ハルカ
青の神騎 エクシール
そう、彼女たちこそ――
☆
【推奨BGM:爽やかなStart】超昂神騎エクシールより
「フォウ……? キュウ……」
「ん……? 今、頬を舐められたような……」
凍りついていた意識に温かな陽の光が差し込む。
目を開いた青年の視界に、薄紫色の髪の少女の顔が映り込んだ。
「……………………あの。朝でも夜でもありませんから、起きてください、先輩」
「んっ……うう……。俺は……眠っていたのか?」
「はい、すやすやと。
「そうか。起こしてくれてありがとう。俺の名は藤丸立香だが……キミの名前は?」
「いきなり難しい質問なので、返答に困ります。名乗るほどの者ではない――とか?」
「別に、それほど難しい質問ではないと思うんだが……」
「今まで、あまり口にする機会がなかったので……印象的な自己紹介ができないというか……」
「キミのように魅力的な女の子なら普通に挨拶するだけで十分に印象的だよ」
白衣に身を包む少女の容貌は非常に魅力的なものだ。
これほど魅力的な女の子であれば、普通に自己紹介するだけで十分に印象に残ることだろう。
「……そう、でしょうか?」
少女の言葉に、青年…藤丸立香は力強く頷いた。
「……では、改めて。わたしはマシュ・キリエライトと申します」
「マシュか、いい名前だ」
「フォウ! キュー、キャーウ!」
自己紹介をする二人の間に、突然、謎の白い毛玉が飛び込んできた。
「……失念していました。あなたの紹介がまだでしたね、フォウさん」
「フォウ?」
「はい。こちらのリスっぽい方はフォウ。カルデアを自由に散歩する特権生物です」
そう紹介された小動物が「フォウ!」と特徴的な鳴き声を上げる。
何の動物なのかは正確には分からないが、立香にはその小動物が猫のような姿に見えた。
「わたしはフォウさんにここまで誘導され、お休み中の先輩を発見したんです」
「フォウ。ンキュ、フォーウ!」
「……またどこかに行ってしまいました。あのように、特に法則性もなく散歩しています」
「不思議な生き物だな」
「はい。わたし以外にはあまり近寄らないのですが、先輩は気に入られたようです」
「そうなのか?」
「はい。カルデアで二人目の、フォウのお世話係の誕生です。これはおめでたいことです」
少年少女が会話を交わしていると、コツコツと足音が近づいてくる。
そちらに視線を向けると、歩み寄る人影が一つ。モスグリーンのタキシードとシルクハットを着用しており、ボサボサの赤みがかった長髪を肩の下あたりまで伸ばしている。
人好きのする笑顔を浮かべたその男性は、家族に話しかけるような声音でマシュに声をかける。
「ああ、そこにいたのかマシュ。駄目だぞ、断りもなしで移動するのはよくないと……」
そこまで口にしたところでもう一人の存在に気付いたらしく、物腰柔らかな紳士然とした男性は立香の方へ視線を移した。
「おっと、先客がいたんだな。君は……そうか、今日から配属された新人さんだね」
「はい、藤丸立香です」
「ふむ、立香君か。君が招集された48人の適性者、その最後の一人というワケか」
男性は納得したように頷いた。
「……失礼。自己紹介がまだだった。私はレフ・ライノール。ここで働かせてもらっている技師の一人だ。ようこそカルデアへ。歓迎するよ」
自己紹介を終えると、レフはマシンガンのように質問を繰り出した。
「一般公募のようだけど、訓練期間はどれくらいだい? 一年? 半年? それとも最短の三ヶ月?」
「いえ、特に訓練はしていません」
「ほう? ということは全くの素人なのかい?」
「はい」
「ああ……そういえば、数合わせに採用した一般枠があるんだっけ。君はその一人だったのか。申し訳ない。配慮に欠けた質問だった」
レフは申し訳無さそうな顔をする。
「けど、一般枠だからって悲観しないでほしい。今回のミッションには君たち全員が必要なんだ。
魔術の名門から38人、才能ある一般人から10人……なんとか48人のマスター候補を集められた。これは喜ばしいことだ。この2015年に於いて霊子ダイブが可能な適性者全てをカルデアに集められたのだから。分からないことがあったら私やマシュに遠慮なく声をかけて……おや?」
そこで、何かに気が付いたようにレフは疑問の声を上げる。
「そう言えば、彼と何を話していたんだいマシュ? らしくないじゃないか。以前から面識があったとか?」
「いえ、先輩とは初対面です。この区画で熟睡していらしたので、つい」
「熟睡していた……? 彼が、ここで?」
「はい。それはもう、ぐっすりと」
「……ふむ、さては入館時にシミュレートを受けたね?
「つまり、夢遊病みたいなものですか?」
「似たようなものだよ。君が倒れたところで、ちょうどマシュが声をかけたのだろうね」
ふと、青年の脳裏に古い記憶がよぎる。
副官だった女性と、戦いの前に交わした時間の記憶。
《記憶流入のフィードバックが強かったみたいね。一過性のもので障害が残ることはないわ》
《1000時間の戦闘訓練と、同じく1000時間分の学習インストール。取り敢えず、これで準備は整ったってワケか》
(……あの時と似たようなものか)
だが、意識を失うほどの負荷の原因は膨大な量の情報が一度に流入したからだ。
たった三分の模擬戦闘で意識を失うほどの負担がかかるはずがない。
怪訝な顔をする新人を気遣うように、心配そうな表情をしたレフが優しく話しかける。
「見たところ異常はないが、万が一という事もある。医務室まで送ってあげたいところだが……すまないね、もう少し我慢してくれ。じき所長の説明会が始まる。君も急いで出席しないと」
「所長……? もしかして、ここの責任者のことですか?」
「そのとおり。彼女は
「そのようですね。所長のプロフィールは一般公開されていませんから」
「それもそうか。アニムスフィアの名に敬意を表すのは、百年以上の家系の魔術師くらいだから、一般公募の立香君が彼女を知らないのも無理はない。ま、所長を知っていようが知らなかろうがマスターとしての仕事に影響はないし、問題ないな」
自分の所属する組織のトップを知らないのは大問題ではないか、とは思ったものの、藪をつついて蛇を出す必要はないとだんまりを決め込む。
「レフ教授。わたしも説明会への参加が許されるのでしょうか?」
「うん? まあ、隅っこで立っているぐらいなら大目に見てもらえるだろうけど……なんでだい?」
「先輩を管制室まで案内するべきだと思ったのです。ここに来たばかりの先輩は管制室の場所を知らないでしょうし、何より、途中でまた熟睡される可能性があります」
実際、未だに立香は頭をフラフラさせている。このまま一人で放っておけば、また意識を失うのも時間の問題だろう。
「……君を一人にすると所長に叱られるからなあ。結果的に私も同席する、ということか。まあ、マシュがそうしたいなら好きにしなさい。君もそれでいいかい?」
「構いません」
「他に質問がなければ管制室に向かうけど。今のうちに訊いておくことはある?」
「では、一つだけ。どうして彼女は俺のことを先輩と呼ぶんですか?」
それは当然の疑問だった。
本日付けで配属されたばかりの立香の方がこの施設・組織に於いては後輩のはずだ。
それなのに、組織の後輩のはずの立香をマシュは先輩と呼んでいる。
「ああ、気にしないで。彼女にとって、君ぐらいの年頃の人間はみんな先輩なんだ」
「つまり、人生の先輩ということですか?」
「そんなところかな。……あっ、でも、はっきりと口にするのは珍しいな。いや、もしかして初めてかな。私も不思議になってきたな。ねえマシュ。なんだって彼が先輩なんだい?」
「理由……ですか? 立香さんは、今まで出会ってきた人の中で一番人間らしいです」
その返答に、立香は何とも言えない複雑な表情をしてしまう。
先輩の理由が人間らしい人物ということは、逆に言えば、これまで彼女が会ってきた者達が人間らしくない人物ということ。これが変人奇人の類という意味合いならば安心できるのだが、立香の想像するもう一つの意味合いの場合は非常に厄介だ。
「ふむ。それは、つまり?」
「全く驚異を感じません。ですので、敵対する理由が皆無です」
「なるほど、それは重要だ! カルデアにいる人間は一癖も二癖もあるからね!」
全く驚異を感じないことを人間らしいと表現するあたりからして、後者の意味合いも少なからず含んでいるのだろうと察した立香は、思わずその表情を僅かに強張らせてしまう。
「私もマシュの意見には賛成だな。君とはいい関係が築けそうだ!」
「……レフ教授が気に入るということは、所長が一番嫌うタイプの人間ということですね」
「えっ?」
「……あの、このままトイレに籠って説明会をボイコットする、というのはどうでしょうか?」
「それじゃあますます所長に目を付けられる。ここは運を天に任せて出たとこ勝負だ」
「正直、分の悪い賭けはあまり好きではないですが…………仕方ないですね」
「まあ、安心してほしい。所長も慣れてしまえば愛嬌のある人だよ」
☆
「……大丈夫ですか、先輩?」
「……もしかして、寝ていたか?」
「はい。眠っていたかどうかで言えば、どことなくレム睡眠だった……ような」
二人の案内で、何事もなく中央管制室に辿り着いた立香……だったが、説明会の最中に意識が落ちた立香は管制室の外に追い出されてしまった。
今更ながら、先程までぼうっとしていた意識がはっきりしている。
どうやら、所長の平手打ちで目が覚めたらしい。
「ともあれ、所長の平手打ちで完全に覚醒したようで何よりです。先輩はファーストミッションから外されたので、いま先輩の部屋に案内していた――」
「フォウ!」
「おっと……大丈夫か?」
全力で駆けてきたフォウが、マシュの顔に飛びつくのを片手で受け止める。
「あ、ありがとうございます。ですが、いつものことなのでご心配なく」
「いつも、フォウのことを顔面で受け止めているのか?」
「はい。フォウさんはわたしの顔に奇襲をかけ、そのまま背中に回り込み、最終的に肩へ落ち着きたいらしいのです」
二人が話している間に立香の手を逃れたフォウは、マシュの右肩に飛び移るとその体を彼女の頬に擦り付けた。
「慣れているんだな」
「はい。フォウさんがカルデアに住み着いてから一年ほど経ちますから」
「一年か……誰かが連れてきたのか?」
「……わかりません。フォウという名前もわたしが付けたものですし……」
正体不明の小動物、フォウ。その謎は深まるばかりだ。
謎多きフォウはジーッと立香の顔を見つめていた。
「フォウ。クー、フォーウ! フォウ!」
「……ふむふむ」
「まさか、フォウの言っていることがわかるのか?」
「何となく、ですが。どうやらフォウさんは先輩を同類として迎え入れたようですね。しかし、人間をライバル視するリスのような生き物はアリなのでしょうか……?」
「ライバル視されているのか?」
「まあ、フォウさんのことですから明日には忘れているでしょう。それはそれとして、です。実はもう目的地に着いています。こちらが先輩用の個室となります」
「……そうか。ここまでありがとう」
「なんの。先輩の頼み事なら、
「キュー……キュ!」
「ん? どうした? 撫でてほしいのか?」
「フォーウ……」
今度は、立香の肩に飛び移るフォウ。
その顎の下を軽く撫でると、どこか気持ちよさそうな鳴き声を上げる。
「フォウさんが先輩を見てくれるのですね。それなら安心です」
「……普通、逆じゃないのか?」
このカルデアで過ごした日数で考えるとフォウの方が先輩なのは分かるのだが、小動物の側がお世話係として扱われていることに微妙な表情をしてしまう。
「それでは、わたしはこれで。運が良ければまたお会いできると思います」
そう告げると、彼女は二人の来た方向…管制室の方に走り去る。
その背中が見えなくなるまで見送った後、
そして、足を踏み入れたマイルームの中には――――
「はーい、入ってまー――って、うぇええええええ!? 誰だ君は!? ここは空き部屋だぞ、ボクのサボり場だぞ!? 誰の断りがあって入ってくるんだい!?」
「いや、ここが部屋だと案内されたんだが……」
「君の部屋? ここが? あー……そっか、ついに最後の子が来ちゃったかぁ……」
オレンジ色の髪をポニーテールに纏めた男性の姿があった。
ダメ人間の代表のようなセリフを口にした彼は、何かを思い出すように立香の顔を数秒ほど見つめたあとに、にこやかな表情をして自己紹介を行った。
「いやあ、はじめまして。予期せぬ出会いだったけど、改めて自己紹介をしよう。
ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。何故かみんなからDr.ロマンと略されていてね。理由は分からないけど言いやすいし、君も遠慮なくロマンと呼んでくれていいとも」
「はじめまして、Dr.ロマン。俺の名前は藤丸立香だ」
二人が自己紹介をしている間、フォウはジーッとロマンの顔を見つめていた。
自分を見る視線に気が付いたのか、ロマンはフォウの方へ視線を転じる。
「あれ? 君の肩にいるの、もしかして噂の怪生物? うわあ、はじめて見た!」
「マシュは一年前から住み着いてるって言っていたが……」
「そうらしいけど中々人前には現れなくてね……って、マシュに会ったのかい?」
「ああ。マシュがここまで案内してくれたんだ」
それから、立香は自分の事情をロマンに説明した。
初めての霊子ダイブ? の後遺症で演説中に眠ってしまい、所長の怒りを買い管制室を追い出されてしまったこと。付き添いとしてマシュがこの部屋まで案内してくれたこと。
事情を聞いたロマンは、なるほど、と頷くと満面の笑みを見せた。
「ならボクと同類だ。何を隠そう、ボクも所長に叱られて待機中だったんだ。
もうすぐレイシフト実験が始まるのは知ってるね? スタッフは総出で現場に駆り出されている。けどボクはみんなの健康管理が仕事だから。正直、やるコトがなかった。
これは所長が酷いと思うべきか、ロマンだから仕方がないと考えるべきか。
普通ならば、理不尽極まりない理由でロマンを追い出した所長の側に非があるだろう。
しかし、ロマンは平然と「ボクのサボり場だぞ!」などと宣うような人物である。
これでは、所長が悪いと一概に言い切ることはできない。
「でも、そんな時に君たちが来てくれた。地獄に仏、ぼっちにメル友とはこのコトさ。所在ない同士、ここでのんびり世間話でもして交友を深めようじゃあないか!」
「それは別に構わないが……そもそもここは俺の部屋なんだけど」
「うん。つまりボクは友人の部屋に遊びに来たってことだ! ヤッホゥ、新しい友達ができたぞぅ!」
☆
「……とまあ、以上がこのカルデアの構造だ。標高6000メートルの雪山の中に作られた地下工房で……」
新しい友人からカルデアの説明を聞いていると、突然、その友人の所持する通信機に連絡が入った。
『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?
Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下、慣れていない者に若干の変調が見られる。
これは不安からくるものだろうな。コフィンの中はコクピット同然だから』
「やあレフ。それは気の毒だ。ちょっと麻酔をかけに行こうか」
『ああ、急いでくれ。今、医務室だろ? そこからなら二分で到着できる筈だ』
通信を切るロマンにジト目を向ける新しい友人。
「……ここは医務室じゃないぞ? 全く、隠れてサボっているから……」
「……それは言わないでほしい。ここからじゃどうあっても五分はかかるぞ……」
あわわ、と慌てる様子を見せるロマンだったが、すぐに調子を取り戻す。
「ま、少しぐらいの遅刻は許されるよね。Aチームは問題ないようだし」
「……おい、それでいいのか医療部門のトップ」
「大丈夫だ、問題ない」
「それは、問題あるフラグじゃないか……?」
刃の如き鋭い指摘に、ロマンは視線を逸らしてしまう。
「だ、大丈夫だよ。ボクみたいな平凡な医者が立ち会ってもしょうがないしさ。
……まあ、そんなボクでもお呼びとあらば行かないとね。
お喋りに付き合ってくれてありがとう、立香君。
落ち着いたら医務室を訪ねに来てくれ。美味しいケーキぐらいはご馳走するよ」
そう言って、ロマンが立ち上がろうとした――まさに、その時だった。
突然、明かりが消える。停電? ありえない。ここは日本の一家庭ではない。
人理継続保障機関カルデア。人類の歴史を守る最後の砦。
何の理由もなく、停電が起きるような場所ではない。
「なんだ? 明かりが消えるなんて、何か――」
訝しむロマニの声をかき消すかのようにけたたましい爆発音が響き渡った。
【推奨BGM:危機】超昂閃忍ハルカより
『緊急事態発生。緊急事態発生。
中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。
中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。
職員は速やかに第二ゲートから避難して下さい。
繰り返します。中央発電所、及び中央――』
緊急事態を知らせるアナウンス。
未だ、事情を把握できない立香にも尋常ならざる事態であることは把握できた。
「今のは爆発音か!? 一体、何が起こっている……!?」
「襲撃か……!?」
「ありえない! カルデアは科学的にも魔術的にも外からの攻撃には強いんだぞ!」
ならば、さっきの爆発音はなんだというのか?
困惑する二人であったが、この非常事態にそのままではいられない。
「モニター、管制室を映してくれ! みんなは無事なのか!?」
モニターに映ったのは轟々と炎に巻かれる管制室であったものだった。
爆発の中心点だったのだろう。部屋中が抉り取られたかのような被害を受けている。
「立香君、すぐに避難してくれ。ボクは管制室に行く。
もうじき隔壁が閉鎖するからね。その前に君だけでも外に出るんだ!」
そう言って、部屋を飛び出すロマン。
肩から飛び降りたフォウが、その双眸で立香を見つめる。
「分かってる。マシュを助けに行こう!」
「フォウ!」
再び、肩に飛び乗ったフォウと共に立香は部屋を飛び出す。
管制室の場所は覚えている。全速力で追いかけると、すぐにロマンの姿が見えた。
「いや、何してるんだキミ!? 方向が逆だ、第二ゲートは向こうだよ!?」
「俺も一緒に行く! 今は少しでも人手が必要なはずだ!」
「そりゃあそうだけど……ああもう、言い争っている時間も惜しい! 隔壁が閉鎖する前に戻るんだぞ!」
少しでも早く、少しでも速く、少しでも疾く、中央管制室に辿り着くために。
その甲斐もあり、それほど時間をかけずに辿り着くことができた。
しかし、
「………………生存者はいない。無事なのはカルデアスだけだ」
「……っ」
「ここが爆発の基点だろう。これは事故じゃない。人為的な破壊工作だ」
この光景を目にしては否定することもできない。
これは、人の手で起こされた悲劇。それも、内部の人間の手によるものだ。
『動力部の停止を確認。発電量が不足しています。
予備電源への切り替えに異常 が あります。
職員は 手動で 切り替えてください。
隔壁閉鎖まで あと 40秒。中央区画に残っている職員は速やかに――』
「……ボクは地下の発電所に行く。カルデアの火を止める訳にはいかない。
キミは急いで来た道を戻るんだ。まだギリギリで間に合う。
いいな、寄り道はするんじゃないぞ! 外に出て、外部からの救援を待つんだ!」
それだけ言い残すとロマンは管制室を後にする。
『システム レイシフト最終段階に移行します。
座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木
ラプラスによる転移保護 成立。
特異点への因子追加枠 確保。
アンサモンプログラム セット。
マスターは最終調整に入ってください』
しかし、立香が管制室の外に出ることはなかった。
避難を促すアナウンスを無視して熱気渦巻く管制室を調べ回る。
棺のような筐体や瓦礫が転がっている管制室の中。遂に、彼は一人の生存者を見つけた。
「マシュ!?」
「………………、あ」
下半身を瓦礫に押し潰されたマシュ。
この傷ではもう無理だ。瓦礫をどけたところで治療が間に合わない。
それでも。それでも、と。
今にも、命を失いそうな少女を元気付けるように声をかける。
「……しっかり! 今、助ける……!」
「……いい、です……助かりません、から。それより、はやく、逃げないと」
突如、管制室に設置されていた球状のオブジェクトが真っ赤に染まる。
まるで燃え上がる太陽のようなそれをマシュは呆然と見つめる。
「あ……」
『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。
シバによる近未来観測データを書き換えます。
近未来百年までの地球において
人類の痕跡は 発見 できません。
人類の生存は 確認 できません。
人類の未来は 保障 できません』
「カルデアスが……真っ赤に、なっちゃいました……いえ、そんな、コト、より――」
『中央隔壁 封鎖します。館内洗浄開始まで あと 180秒です』
「……隔壁、閉まっちゃ、いました。……もう、外に、は」
「……大丈夫だ。元々、キミを放って外に逃げるつもりはなかったからな」
燃え盛る中央管制室に無機質なアナウンスの声が流れる。
『コフィン内マスターのバイタル 基準値に 達していません。
レイシフト 定員に 達していません。
該当マスターを検索中・・・・発見しました。
適応番号48 藤丸立香
を マスターとして 再設定 します。
アンサモンプログラム スタート。
霊子変換を開始 します』
その声と共に、その場にいる二人の肉体が少しずつ黄金の粒子へと変換されていく。
「…………あの………………せん、ぱい。手を、握ってもらって、いいですか?」
『レイシフト開始まで あと3』
「分かった」
『2』
「絶対に、この手は離さない」
『1』
「……ありが、とう、ございます」
『全行程
ファーストオーダー 実証を 開始 します』
特異点F 人理定礎値:C