※この作品はR-18です。

超昂運命 Beat/Grand Order   作:ゲーマーN

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Beat/Grand Order -Exceed the Grand Order-
序章 特異点F A.D.2004 炎上汚染都市 冬木 副題「人理の防人」
第2節 炎上都市


第2話 炎上都市

 破滅の未来。

 

 人は石となり、町は破壊され、人類社会は完全に崩壊した。

 残された人類は徹底的に管理され、未だに抵抗する者たちも怪人に狙われる。

 

 世界を守るために戦った少女たちは凄絶な恥辱の果てに息絶えた。

 閃忍は新世代の怪人を作り出すための母体として卵子と子宮を使い潰す。

 神騎は支配された人々の怒り、嘆き、絶望をその肉体で受け止める。

 そして、最後に残された希望をも狂気の触手は刺し貫く。

 

 装甲を身に纏う灰色の怪人。

 フーマンに追われる少年は逃げ惑い、追い詰められ……

 

「……間に、合った」

 

 天から舞い降りた神騎によってその命を救われる。

 

 後光を背負う、純白の衣に身を包む黒髪の神騎。

 だがその身を覆う衣は千切れ、黄金の鎧にもヒビが入っている。

 何よりも、彼女の体は端の方から光の粒子と化していた。

 

 もはや、彼女は助からない。

 それは幼い少年にも一目で分かる事実だった。

 

「…………ごめんなさい。君には……重すぎる使命を負わせてしまう。謝りきれることでは無いけれど……でも」

 

 光が放たれ、そして――

 

「これが…………最後の、希望」

 

 その言葉を最期に、最後の神騎は地球上から姿を消した。

 

 ☆

 

 倒壊した建造物と崩れ落ちた瓦礫。生命の一切を感じ取れぬ燃える街。

 焦土と化し、尚も炎上する汚染された都市。

 人類史というドレスに染み付いた、小さな――しかして致命的な汚れ。

 

 特異点F 炎上汚染都市 冬木

 

 一面の焼け野原と化した冬木を進む人影が二つ。

 その片割れ、藤丸立香は破壊された都市を見渡してその眉を顰めた。

 

(……嫌なことを思い出すな)

 

 滅亡都市。痕跡は失われ、生存は許されず、未来は奪われた。

 それは、既に喪われた未来だ。剪定された事象に過ぎない。

 それでも、その歴史こそ”彼”の根源(ルーツ)。

 冬木の光景は破滅(かつて)の未来(きおく)を想起するに足るものだった。

 

(それにしても……)

 

 ふと、自らの前を進むマシュに視線を向ける。

 

 彼女はカルデアの制服ではなく、漆黒の鎧に身を包んでいる。

 脇や臍を露出したボディスーツはひどく危うげだ。

 身の丈以上の巨大な盾を手に、周囲を警戒しつつ目的地へ先導している。

 

(やはり、彼女たちに似ている。これが、この世界の戦士の在り方なのか?)

 

 カルデア六番目の実験。英霊と人間の融合……デミ・サーヴァント。

 マシュの中の英霊は戦闘能力を託し、真名を告げることなく意識を消滅させた。

 現時点では、マシュが手にした武器の正体すら不明だ。

 それでもマシュが人類最強の兵器たるサーヴァントと化したのは事実。

 

 その姿が、正義の味方として悪に立ち向かう少女たちの姿と重なる。

 世界の敵と戦い、平和を守るため。巨悪に立ち向かう戦士たち。

 或いは彼女こそが……と、そこまで考えたところで立香は頭を振った。

 戦うことを恐れている女の子に対して押し付けがましいにもほどがある。

 

「先輩。もうじきドクターに指定された座標(ポイント)に到着します」

 

 現在、カルデアとの通信は途絶している。

 通信を安定させるためには、霊脈の強いポイントに辿り着く必要がある。

 状況を把握するためにもカルデアとの通信は必要不可欠だ。

 

 第一目標をその座標(ポイント)への到達。及び、ベースキャンプの設立と定めた二人は、襲いかかるエネミーを倒しながら目的地たる霊脈の収束点に向け足を進めていた。

 

「しかし……見渡すかぎりの炎ですね。資料にある冬木とは全く違います」

 

「俺もこんな災害が起きたなんて話は聞いたことがないな」

 

 2004年に冬木の街でこんな大惨事が起きたという情報は聞いたことがないし、それに準じた災害が起きたという事件(カバーストーリー)にも覚えがない。

 そもそも、裏の組織が隠蔽できる規模をとっくに超えている。燃え盛る街に跳梁跋扈する動く骸骨。世界的な大ニュースになっていてもおかしくはない。

 少なくとも、この特異点で尋常ならざる事態が起きたことは間違いない。

 

「いったいこの街で何が起こったんだ?」

 

「……わかりません。ですが、魔術的な災害が起きたことは間違いありません」

 

「魔術的な?」

 

「この特異点の大気中の魔力(マナ)濃度は明らかに異常です。これではまるで古代の地球のような……」

 

 その時、

 

「キャアーーーーー!」

 

 遠くから絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。

 悪路を進んでいた二人は、その顔に険しい色を閃かせる。

 

「今の悲鳴は!?」

 

「どう聞いても女性の悲鳴です。急ぎましょう、先輩!」

 

「ああ!」

 

 乙女颯爽。デミ・サーヴァントとしての身体能力を最大限に発揮するマシュ。

 スケルトンなどという怪物が跋扈している死都、それがここ冬木。

 1秒の差が悲鳴を上げた人物の明暗を分けるかもしれない。

 故に、全速力でマシュは駆け抜ける。

 

 本来、デミ・サーヴァントであるマシュと立香との身体能力の差は歴然だ。

 魔術師ですらない立香が、マシュについて行けるはずがない。

 しかし、その道理を覆す『力』を彼は有していた。

 遠くなるマシュの背中を見ながら、両の拳を腰の横に構え、深く深呼吸する。

 

「チャクラゲート……開放ッ!!!」

 

 その直後、大地が割れた。

 

【推奨BGM:危機】超昂閃忍ハルカより

 

 一方、先行するマシュは要救助者を視界の先に捉えていた。

 

「何なの、何なのよコイツら!? なんだってわたしばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!? もう嫌、来て、助けてよレフ! いつだって貴方だけが助けてくれたじゃない!」

 

 それは、銀色の長髪を左サイドで纏めている一人の女性。

 清潔感のある白色の衣服の上に、その瞳と同じオレンジ色の刺繍がフロントラインや袖口に施された黒の外套を羽織っている。

 その女性は、マシュにとってひどく見覚えのある人物だった。

 

「オルガマリー所長……!?」

 

 オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア。

 魔術協会の総本山、時計塔。その十二の学部を治める君主(ロード)の一角、アニムスフィア家の当主。

 そして、『人理継続保障機関フィニス・カルデア』の所長。

 魔術師の中でも有数の実力と権力を誇る彼女は今、骸骨の大群に追い込まれていた。

 

「ふっ!」

 

 弾丸の如く飛び出したマシュは、彼女に迫る死霊の凶刃を受け止める。

 

 ガキンッ!

 

 見るからに軽そうな見た目とは裏腹に、人の頭蓋など容易く砕くだろう重い剣撃。

 されど、その一撃がマシュの構えた大盾に傷をつけることはなかった。

 

「はぁっ!」

 

 大盾一閃。横一文字に振り抜かれた盾が、数体の骸骨を纏めて後方に吹き飛ばす。

 特大の重量を叩きつけられた肋骨が、吹き飛ばされる勢いで四散していく。

 それだけで、死霊の兵士はただの白骨死体へと成り果てる。

 

「マ、マシュ!?」

 

「大丈夫ですか、所長?」

 

 デミ・サーヴァントであるマシュにとってこの程度の怪物など有象無象でしかない。

 いくら数を揃えたところで大盾の護りを抜くことなど叶わない。

 

 だが――

 

 元々は、戦闘訓練は居残りが常。逆上がりもできない研究員だった彼女が。

 サーヴァントの力を手に入れたところですぐに使いこなせるはずもない。

 その証拠に、オルガマリーの背後から迫りくる伏兵の存在に気付けなかった。

 

「Gi――GAAAAAAAAAAAA!」

 

「ひっ!?」

 

「しまっ――!?」

 

 錆びついた剣が光を放ち、刃がオルガマリーの首を正確に狙う。

 

 普段の彼女ならば苦もなく防げたはずの一撃。

 それこそ、障壁の一枚で受け止めたはずだ。

 だが、冷静さを欠いた今の彼女にはそれだけのことができなかった。

 

 目前に死が迫る。

 本来の彼女ならば歯牙にもかけない怪物によって。

 

(――――ッ! いや、死にたくないッ……!)

 

 衝撃は、来なかった。

 

「……?」

 

 予想していたのは、首筋に訪れる冷たい感触。

 しかし、実際に彼女を包んだのは、逞しい二本の腕だった。

 

【推奨BGM:旋風】超昂閃忍ハルカより

 

「あ…………」

 

「キミ、大丈夫か? 怪我はしてないか?」

 

「…………………………」

 

 窮地に陥った彼女を助け出した人物――それは、藤丸立香だ。

 

 訊きたいことは山ほどある。

 

 サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァント。

 失敗に終わったはずの事件が、どうして今になって成功したのか。

 

 彼女の演説に遅刻した一般人。

 その手に浮かぶ令呪。なぜ、ただの一般人がマスターになっているのか。

 そして、なぜこの特異点にレイシフトしてるのか。

 

 しかし、そんな疑問が吹き飛ぶほどの衝撃に彼女は襲われていた。

 男の顔をぼーっと見上げ、頬を僅かに紅潮させ、薄桃色の唇をきゅっと噛む。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「へっ? い、いや、大丈夫よっ! どこも怪我してないわっ!」

 

「そうか。なら、よかった。よいしょっと……」

 

 オルガマリーを地面に下ろすと、駆けつけてきたマシュに話しかける。

 

「マシュ、彼女は頼んだ。残りは俺が片付ける」

 

「先輩!? 無茶です! 普通の人間があの数を相手に……」

 

「普通の人間じゃないんだな、これが」

 

 一歩踏み込んで体を捻り、捻りで練り上げた力を拳に込めて、スケルトンへと叩き込む。

 

 バシッ!

 

「GI―ッ!?」

 

 拳撃を受けたスケルトンが宙に浮き、10メートルほど吹き飛んだ。

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

「俺は攻める方が得意なんだ。だから、彼女の護衛はキミに任せた」

 

 それだけ告げると一切躊躇することなく骸骨の群れに飛び込む。

 飛んで火に入る夏の虫。自分から飛び込んできた獲物へと一斉に襲いかかる。

 

「はあああああっ!!」

 

 襲いかかるスケルトンの攻撃を躱して、懐へと進み入り、『力』を込めた拳を、蹴りを叩き込んでゆく。

 

「先輩……強い……」

 

 デミ・サーヴァントであるマシュから見ても洗練された戦い方。

 間違いなく今の自分とは比べ物にならない戦闘技術。

 その戦いとも呼べない蹂躙を前に、マシュは動くことができなかった。

 

「……かっこいい……」

 

「え?」

 

 その言葉に、我に返ったマシュが声の主に視線を向ける。

 決して短くない時間を共に過ごしてきた所長の見たこともない表情。

 

「フォーウ……」

 

「……お、驚きました。所長が恋する乙女の顔を……」

 

「し、してないわよ!」

 

「いえ、ですが顔に真っ赤に……」

 

「な、なってないわよ! これっぽっちもなってないわ!」

 

 顔を洗う猫のように、頬を手のひらで拭う。

 

「これで……最後だ!」

 

 最後の一体の肋骨を打ち砕く。恙無く戦闘を終えた立香は振り返る。

 そして、姦しく言葉を交わす二人の姿に安堵の息を漏らした。

 

 ☆

 

 それから、一行は互いの状況を把握するために互いに経緯を説明した。

 と言っても、ほとんどがマシュからの報告だったわけだが。

 

「……以上です。わたしたちはレイシフトに巻き込まれ、ここ冬木に転移してしまいました。他に合流できたマスター適性者はいません。所長がこちらで合流できた唯一の人間です。でも希望ができました。所長がいらっしゃるのなら、他に転移が成功している適性者も……」

 

「……いないわよ。それはここまでで確認しているわ」

 

 大きな溜息を漏らす。そして、マシュの見出した希望を両断する。

 

 悪い状況だとは思っていたが、予想以上に最悪の状況だ。

 この状況で”他の適性者”というありもしない希望に縋らせるわけにはいかない。

 

「……おかげで、どうしてわたしたちが冬木にシフトしたのかわかったわ」

 

「生き残った理由に説明がつくのですか?」

 

「消去法……いえ、共通項ね。わたしたちは、コフィンに入っていなかった(・・・・・・・・・・・・・)。

 生身のままのレイシフトは成功率は激減するけど、ゼロにはならない。

 一方、コフィンにはブレーカーがあるの。

 シフトの成功率が95%を下回ると電源が落ちるように設定されているわ」

 

 先程までの取り乱しようが嘘のように、分析した状況を冷静に語っていく。

 どうやら彼女は突発的事態にこそ弱いものの、落ち着いている時は非常に頼りになる人物のようだ。

 

「あの事故発生があった以上、成功率は大きく割り込んだはずよ。

 それを理由に安全装置が起動して、全てのコフィンはブレーカーが落ちた。

 だから、そもそも彼らはレイシフトそのものを行っていない。

 ――ここにいるのはわたしたちだけよ」

 

「なるほど……流石です、所長」

 

 説明を理解したマシュが納得したように頷いた。

 専門用語が混じっているので完全に理解できたわけではないが、それでも大体の内容を把握した立香が感心したように呟く。

 

「……すごいな。この僅かな情報からそこまで分析するなんて……」

 

「与えられた状況で最善を尽くすのがアニムスフィアの誇りです。この程度の状況判断もできず、時計塔の君主(ロード)は名乗れません」

 

 そう言いつつも立香の褒め言葉に満更でもない表情をするオルガマリー。

 

「さて、状況は理解したわ。……まずはベースキャンプの作成ね。

 いい? こういう時は霊脈のターミナル、魔力が収束する場所を探すのよ。

 そこならカルデアと連絡が取れるから。それで、この街の場合は……」

 

「このポイントです、所長。レイポイントは所長の足下だと報告します」

 

 周囲を見渡そうとした彼女の足下を見つめ、そう告げるマシュ。

 

「うぇ!?」

 

 言われて、彼女はまるでそこに爆弾でもあるかのように飛び退いた。

 先程までとは異なる理由で頬を赤くするオルガマリー。

 

「あ……そ、そうね、そうみたい。わかってる、わかってたわよ、そんなことは!」

 

 明らかにわかっていなかったものの、スルーするのが優しさというものだろう。

 何事もなかったかのように立香とマシュは次の指示を待つことにした。

 数秒後、落ち着きを取り戻したオルガマリーはその視線をマシュに向ける。

 

「マシュ、貴方の盾を置きなさい。宝具を触媒にして召喚サークルを設置するから」

 

「……だ、そうです。構いませんか、先輩?」

 

「構わない、やってくれ」

 

「……了解しました。それでは始めます」

 

 レイポイントの直上に盾を設置すると、盾を中心に青色の魔法陣が広がっていく。

 おお、と立香が感嘆の声を上げる一方、マシュも驚いたような表情をする。

 

「これは……カルデアにあった召喚実験場と同じ……」

 

『シーキュー、シーキュー。もしもーし! よし、通信が戻ったぞ! ふたりともご苦労さま、空間固定に成功した。これで通信もできるようになったし、補給物資だって――』

 

 空中に投影されるロマンの上半身。

 それを目にした瞬間、やっと落ち着いてきたオルガマリーがまた冷静さを失った。

 掴みかからんばかりの勢いで目の前に飛び出してきた所長に、その部下は引っ繰り返りかねないほどに仰け反った。

 

『うひゃあぁあ!? しょ、所長、生きていらしたんですか!? あの爆発の中で!? しかも無傷!? どんだけ!?』

 

「どういう意味ですかっ! いいからレフはどこ!? 医療セクションのトップが何故そこにいるの!?」

 

 オルガマリーの姿に狼狽する様子を見せたロマンだったが、その質問に真剣な表情を浮かべると、しっかりと彼女に目を合わせてカルデア側の実情を語りだした。

 

『何故、と言われるとボクも困る。自分でもこんな役目は向いていないと自覚してるし。

 ……でも他に人材がいないんですよ、オルガマリー。

 現在、生き残ったカルデアの正規スタッフはボクを入れて二十人に満たない』

 

「…………は?」

 

 彼から返されたその言葉に、オルガマリーはぽかんと口を開けた。

 理解できない、理解したくないその言葉に脳がフリーズする。

 その彼女の反応を理解しながらも、ロマンは状況の説明を続ける。

 

『ボクが作戦指揮を任されているのは、ボクより上の階級の生存者がいないためです。レフ教授は管制室でレイシフトの指揮を取っていた。あの爆発の中心にいた以上、生存は絶望的だ』

 

 その現実にフリーズしていた頭脳が再起動。

 急速に頭に血が上るのと裏腹に、熱を奪われたように顔色が青くなる。

 

「そんな――レフ、が……?いえ、それより待って、待ちなさい、待ってよね。

 生き残ったが二十人に満たない? じゃあマスター適性者は? コフィンはどうなったの!?」

 

『……47人、全員が危篤状態です。医療器具も足りません。何名かは助けることができても、全員は――』

 

「ふざけないで、すぐに凍結保存に移行しなさい! 蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ!」

 

『ああ! そうか、コフィンにはその機能がありました! 至急手配します!』

 

 投影されていたドクター・ロマンの姿が掻き消える。

 所長の指示通り、危篤状態に陥ったマスターの凍結保存を実行するつもりなのだろう。

 

「今日は驚かされてばかりです。凍結保存を本人の許諾なく行うことは犯罪行為です。なのに即座に英断するとは。所長として責任を負うことより、人命を優先したのですね」

 

「バカ言わないで! 死んでさえいなければ後でいくらでも弁明できるからに決まってるでしょう!? 大体47人分の命なんて、わたしに背負えるはずがないじゃない……!」

 

 47人分の命。それは、まだ年若い彼女には重すぎるものだ。

 ただでさえ重すぎる責任を背負っている彼女に、これ以上なにかを背負うような余裕はない。むしろ、今でもキャパシティをオーバーしているくらいなのだ。

 

 オルガマリーという女の子には、ただ、祈ることしかできなかった。

 

「死なないでよ、頼むから……!」

 

 ☆

 

『……報告は以上です。現在、カルデアはその機能の八割を失っています。

 残されたスタッフではできることに限りがあります。

 なので、こちらの判断で人材は二つのチームに分けて運用……レイシフトの修理、及びカルデアスとシバの現状維持に割いています。

 外部との通信が回復次第、補給を要請してカルデア全体の立て直し……というところですね』

 

「結構よ。わたしがそちらにいても同じ方針を取ったでしょう。

 ……はあ。ロマニ・アーキマン。納得はいかないけど、わたしが戻るまでカルデアを任せます。

 レイシフトの修理を最優先で行いなさい。いいわね?」

 

 カルデアの現状を把握したオルガマリーが冷静に指示を出す。

 とは言っても、ロマンが取った方針に間違いはなく、現状維持でも問題はなかったので、彼女が指示したことは明確な優先順位を付けただけだ。

 その後に、彼女は自分たちの方針をカルデアに伝えることにした。

 

「わたしたちはこちらでこの街……特異点Fの調査を続けます」

 

『うぇ!? 所長、そんな爆心地みたいな現場、怖くないんですか!? チキンのくせに!?』

 

「……ほんっとう、一言多いわね貴方は……!」

 

 同意見だ、と立香とマシュも頷く。

 

「今すぐ戻りたいのは山々だけど、修理が終わるまでは時間がかかるんでしょ。

 今の所、この街で確認されたのは低級の怪物だけ。

 デミ・サーヴァント化したマシュがいれば問題ないでしょう」

 

 その言葉にビクリと肩を揺らすマシュ。

 超常の力を手に入れたところで、戦いへの恐怖が失われるわけではない。

 立香は、以前の経験からそれを理解することができた。

 

 そっと、マシュの手を取る。

 困惑したように見上げるマシュに立香は優しく微笑みかけた。

 戦わなくてもいい、とは言えない。

 それでも、決して一人で戦わせはしない。この手を離しはしない、と。

 

「これより藤丸立香、マシュ・キリエライト両名を探索員として特異点Fの調査を開始します。

 とはいえ、現場のスタッフが未熟なのでミッションはこの異常事態の原因、その発見にとどめます。

 特異点の解析・排除はカルデア復興後、第二陣を送り込んでからの話になります。

 ――キミたちもそれでいいわね?」

 

 振り返った所長の言葉に、立香は頷いて肯定を示す。

 

『了解です。健闘を祈ります、所長。

 これからは短時間ですが通信も可能ですよ。緊急事態になったら遠慮なく連絡を』

 

「……ふん。SOSを送ったところで、誰も助けてくれないくせに」

 

『所長?』

 

「なんでもありません。通信を切ります。そちらはそちらの仕事をこなしなさい」

 

 カルデアとの通信を切ったオルガマリーが改めて此方に向き直るより先に、オルガマリーの下に歩み寄った立香が今度は彼女の手をギュッと握りしめた。

 

「ひゃっ!? な、何よいきなり!」

 

「……安心してほしい。なにかあった時は俺が駆けつける」

 

 自分が前線で戦うべき人間ではないことは百も承知だ。

 戦闘力はずば抜けて高いものの、それ以上に重要な役割が彼にはある。

 

 それは、サーヴァントのマスターであるということ。

 サーヴァントは頼もしい味方だが、それと同時に大きな弱点も存在している。

 それは魔力の供給源となる人間(マスター)がいなければ消えてしまうという点だ。

 だからこそ、戦闘は自重するべきなのだが……。

 

 仲間の、それも女の子の危機を見逃せるような性格を立香はしていない。

 緊急事態となれば一切の躊躇をせず前線に出る。それが、彼だ。

 

「……………………ありがとう」

 

 時計塔の魑魅魍魎共と時に言葉で時に魔術で渡り合ってきたオルガマリーは、その言葉に一切の嘘偽りが含まれていないことを感じ取り、消え入るような声で感謝の言葉を口にするのだった。

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