※この作品はR-18です。

超昂運命 Beat/Grand Order   作:ゲーマーN

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Beat/Grand Order -Exceed the Grand Order-
序章 特異点F A.D.2004 炎上汚染都市 冬木 副題「人理の防人」
第3節 影のサーヴァント

今回までは、以前執筆した内容に微修正をしたものです。
次回以降は投稿速度が一気に遅くなります。


第3話 影のサーヴァント

「敵性生物、排除しました。先に進みましょう」

 

「あの怪物を見た時はどうなるかと思ったけど、流石はサーヴァント体、スペックでは圧勝ね」

 

 順調に場数を踏み、マシュは託された英霊の力の使い方を理解し始めていた。

 戦闘者の立香から見ても、少しずつ彼女の動きは洗練されている。

 

「……姿が怖いのは変わらないのですが……」

 

 尤も、精神的な面まで成長している訳ではない。

 彼女は本来、戦う側の人間ではない。

 スペック的に圧倒しているスケルトンすら怖がっているのがその証拠だ。

 それでも、先輩を守りたい一心で恐怖と敵に立ち向かっていた。

 

「ところで所長。質問があるのですが」

 

「なにかしら?」

 

「資料にあった冬木の街と、この冬木の街はあまりにも違います。

 いったいこの街に何が起きたのか。所長はどうお考えですか?」

 

 その質問に僅かに逡巡した後、オルガマリーは自分なりの意見を述べた。

 

「……そうね。きっと歴史が僅かに狂ったのよ。そうとしか思えない」

 

 歴史改変。物語の題材としてはありふれたテーマだ。

 有名所を上げるとすれば、青い猫型ロボットが主役の漫画がそれに当たる。

 尤も、現実ではあの漫画ほど簡単に歴史改変など出来はしない。

 それでも、この冬木の街の状況はそれ以外の可能性を否定するものだった。

 

「二人共、一度しか言わないからよく聞きなさい。

 カルデアはカルデアスという地球モデルで未来を観る。

 同時にラプラスという使い魔で過去の記録を集計する。

 未来は変動するものだから詳細に観測することはできないけれど、既に確定した過去の情報は人知れず闇に葬られた歴史すら詳細に観測できるわ」

 

 カルデアスは異なる位相にあるため、人間の知覚・知識では細かな状況を読み取れない。

 故に、カルデアではカルデアスの状態を百年後に設定することで、大陸に見られる都市の光を専用の観測レンズ・シバで観測、百年後の未来まで人類史の存続を約束していた。

 何故なら、都市の光と文明の光はイコールで結ばれるからだ。光が存在するかぎり、都市には人間が暮らしており、文明が継続している事を証明する証拠になる。

 

 しかし、半年前からカルデアスは変色し、未来の観測は困難なものとなった。

 今まで観測の寄る辺となっていた文明の明かり。その大部分が不可視状態になってしまった。

 これは、人類の文明が途絶えたという事を意味している。

 

 観測の結果、地球に人類の明かりが確認できるのは2016年まで――

 つまり人類は2016年を以て絶滅することが観測――否、証明されてしまった。

 

 経済崩壊でも地殻変動でもなく。

 ある日突然、人類史だけが途絶えるなんてどうあっても説明がつかない。

 

 故に、カルデアではこの異常現象――未来消失の原因を究明した。

 現代に理由がないのなら、その原因は恐らく過去に存在する。

 半年に亘る調査の結果、遂に観測した新しい異変の舞台。それがここ――

 

「空間特異点F。即ち、冬木の街では2004年に特殊な聖杯戦争が確認されているわ」

 

「聖杯戦争……? 聖杯というのは、その、伝説にいう聖杯ですか?

 所有者の願いを叶える万能の力。あらゆる魔術の根底にあるとされる魔法の窯?」

 

「ええ、その聖杯です」

 

 救世主の血を受け止めた聖杯(カリス)ではなく。

 ホーリーグレイル。或いは、単にグラールと呼ばれる聖杯伝説の聖杯。

 だが、本物のホーリーグレイルは聖杯の騎士・ギャラハッドにより天に返却されている。

 正確にはホーリーグレイルの模造品、と言うべきだろう。

 

「冬木の街にいた魔術師たちが聖杯を完成させ、その起動のために七騎の英霊を召喚した――それが聖杯戦争の始まり。この街では人知れずサーヴァントが呼ばれていた。

 冬木の聖杯戦争のシステムは単純よ。七人のマスターがそれぞれ競い合い、最後に残った者が聖杯を手にする、というシステム。

 カルデアがこの事実を知ったのは2010年。

 お父さ……いえ、前所長はこのデータを元に召喚式を作った。それがカルデアの英霊召喚システム・フェイト。ラプラス、カルデアスに続く第三の発明ね」

 

「第三? 近未来観測レンズ・シバは違うのですか?」

 

「あれはレフ教授の発明だから。まあ、私との共同開発ではあるけど」

 

 そう告げるオルガマリーは自慢気な表情を浮かべていた。

 信頼するレフと共に、先達に並ぶ発明を成し遂げたのは彼女の数少ない自慢なのだ。

 

 カルデアには四つの発明が存在している。

 

 事象記録電脳魔・ラプラス。

 1950年に完成した、全知の悪魔の名を冠する、カルデアの第一の発明。

 過去の記録を集計する使い魔。

 公にならなかった表の歴史、人知れず闇に葬られた情報を拾い、観測する。

 またレイシフトの転移に於いて、マスターを保護する役割を持つ。

 

 疑似地球天体モデル・カルデアス。

 1990年に完成したカルデアの第二の発明。

 惑星には魂があるとの定義に基き、その魂を複写する事により作り出された小型の疑似天体。いわば小さな地球のコピーである。

 人類史の過去に向かう羅針盤であり、人体を量子分解し過去に出力するレイシフトもカルデアスがあるからこそ、その成功率が現実的な数字になっている。

 

 守護英霊召喚システム・フェイト。

 2004年に完成したカルデアの第三の発明。

 冬木の聖杯戦争での英霊召喚を元に前所長マリスビリー・アニムスフィアによって作られた召喚式。英霊とマスター双方の合意があって初めて召喚できる。

 他の発明とは異なり、一から英霊召喚システムを構築した訳ではなく、冬木の聖杯戦争の儀式を解読、改良させて安定させた。

 

 近未来観測レンズ・シバ。

 1999年に完成した、シバの女王の名を冠しているカルデアの発明の一つ。

 カルデアスを観測するための専用望遠鏡。カルデアの顧問を務める魔術師である、レフ・ライノールが開発した、幻視を得る極めて高度な呪具。

 開発時期こそ英霊召喚システム・フェイトより早いものの、レフとオルガマリーの共同開発であるため、カルデアの第三の発明にはカウントされていない。

 

「ともかく、ここがサーヴァント発祥の地なのよ。

 かつてここで七騎のサーヴァントが聖杯を巡って競い合い、その結果、セイバーとそのマスターの勝利に終わった。

 街は破壊される事なく、彼らの活動は人々に知られる事なく終わったはずなの」

 

 それは、この特異点Fの現状とは全く異なる本来の歴史。

 故に、オルガマリーは結論付けた。歴史が狂ってしまったのだと。

 

「恐らく、特異点が生じたことで歴史が変わったのね。2004年のこの異変が人類史に影響を及ぼして、その結果として百年先の未来が見えなくなった。

 だから、わたしたちの使命はこの異変の修復よ。この領域のどこかにある歴史を狂わせた原因を解析、ないし排除すればミッションは終了。私もあなたたちも現代に戻れるわ」

 

 なるほど、と立香は頷いた。非常にわかりやすい説明だった。

 やはり、落ち着いている時の彼女は非常に頼りになる。

 

 しかし、これまでの話を聞いて立香には一つだけ質問したいことがあった。

 

「一つだけ質問が。カルデアでは英霊の召喚を?」

 

「もちろんしました。でも上手くいかなくて、成功例は数えるほどです。

 資料では三体だけ呼び出せたらしいけど、わたしは二体しか知りません。

 前所長の頃に第一号。私が所長になってから第二号、第三号。

 ……その第二号がマシュと融合した英霊よ。第三号はもう知ってるでしょ?」

 

「え?」

 

「カルデアに住み着いたあの変人。レオナルド・ダ・ヴィンチよ」

 

 レオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチ。ルネサンス期に誉れ高い万能の天才芸術家にして発明家。文明の発展に数多の影響を与えた、人類史に名を残す有数の天才。

 そのレオナルド・ダ・ヴィンチがカルデアの召喚英霊第三号らしい……のだが、カルデアに来たばかりの立香がそれを知るはずもない。

 

「……すまない。それは初めて聞いたんだが……」

 

「なんですって? カルデアにいて、あの変人を知らないとでも言うの?」

 

「いや、実は今日カルデアに来たばかりで……」

 

 これまで話す機会のなかった自分の事情をオルガマリーに説明する。

 偶々、所用で都心を訪れた際に献血を行ったところ、ハリー・茜沢・アンダーソンという人物にスカウトを受け、半ば強引(拉致同然)にカルデアまで連れて来られたというこれまでの経緯を。

 

「まさか、いきなり睡眠薬で眠らせてくるとは……」

 

 カルデアに来るまでの経緯を聞かされたオルガマリーは頭痛を堪えるようにコメカミの辺りをグリグリと揉んでいたが、遂に限界が訪れたのか感情の発露が叫び声となって口から放たれた。

 

「そのスカウトマンは何を考えているのよ! いくらレイシフト適性があるからって何の経験もない素人を投入したところで役に立つはずがないじゃない!」

 

 クビよ、クビ! と怒りで顔を赤くしたオルガマリーが声を荒らげる。

 彼女が怒るのも当然だ。魔術師ならまだしも、数合わせの一般人をミッションギリギリに勧誘したところで、それがいったいどれほどの役に立つというのか。

 逸般人の立香だからこそ調査の役に立てているものの、本当の意味で一般人を勧誘していた場合は何も為せず犬死にしていたとしてもおかしくはない。

 

「……藤丸。まさか貴方、入館時にシミュレートを受けたのかしら?」

 

 はっとしたようにオルガマリーは立香の方へと向き直る。

 その質問に頷くのを見た彼女は、ひどくバツの悪そうな顔をした。

 

「それは、少し悪いことをしてしまったわね」

 

「構わないさ。俺が説明会で眠ってしまったのは事実だ」

 

「そう言ってもらえると助かるわ」

 

 そんなこんなで二人の会話は落ち着いた。

 二人の会話は落ち着いたが――彼らの周囲は落ち着かなかった。

 

「すみません。話が落ち着いたばかりで悪いですが、お二人共周りをご覧ください」

 

「GuOOOOOOOO!!!!!!」

 

「って、またコイツら……!」

 

「マシュ、片付けるぞ!」

 

 ☆

 

「……ふう。戦闘終了です、マスター。今回もなんとかなって、安心です」

 

「お疲れさま、マシュ」

 

「……はい。お役に立てて幸いです」

 

 立香は無事にスケルトンとの戦闘を終えたマシュへと労いの言葉をかけた。

 マシュの成長を促すため、現在立香は基本的に指揮に専念している。

 なにせ、戦力の補充の宛がない状況だ。敵性生物(エネミー)と戦える人材は一人でも多い方がいい。

 

 一方、隣で戦闘を眺めていたオルガマリーは険しい表情を浮かべていた。

 

「…………ねえマシュ。貴方、もしかして宝具を使えない?」

 

「……そのようです。わたしはわたしに融合してくれた英霊が誰なのかも分かりませんし、その英霊が持つ切り札――『宝具』と呼ばれるスペシャルアーツの性能も発揮できません」

 

 人間の幻想を骨子に作り上げられた武装。英霊が生前に愛用した武具、或いは逸話を奇蹟として再現したもの。全てのサーヴァントは、その出自となる伝承を武器として扱える。

 何れも強力なスキルであり、他にはない唯一無二のユニークスキルとされる……のだが、宝具の開放・使用は伝説や神話の再現とほぼ同義であり、使用すれば、他のマスターにサーヴァントの正体を明かしてしまうという欠点もある。

 その身にサーヴァントとしての力を宿す以上、マシュも宝具を有しているはずなのだが……。

 

「……宝具そのものは何とか使えるのですが、出力は低下していますし、真名解放による真価も発揮できません。そもそもわたしのこの武器が“何に由来するものなのか”さえ分からないのです」

 

「………………」

 

「ですので、わたしの事は欠陥サーヴァント、或いは成長性と可能性に満ちたできる後輩、とご期待ください」

 

「それなら一線級に育ってくれるだろう有望株と期待しておくよ」

 

 普通の魔術師ならば役に立たない欠陥サーヴァントと一瞥するだろうが、魔術師ではない立香は、良くも悪くも普通の魔術師とは異なる価値観を有している。

 そういうところが、マシュが「人間らしい」と表現した所以なのだが、素直に自分の意見を口にしているだけの立香はそれに全く気付いていない。

 

「わたしが融合した英霊の情報をリードできずとも、先輩がマスターとして成長すれば自ずと分かります」

 

「そうね。マスターは契約したサーヴァントのパラメーターやスキル、情報(マトリクス)を解析できる。藤丸……契約者が一人前になれば、マシュのサーヴァント情報も解析できるでしょう。

 この先、他のサーヴァントと契約した時も同じよ。まずはサーヴァントの宝具と真名を知ること。信頼が増せば増すほど、そのサーヴァントの能力は上がっていくわ。

 まあ、あなたなら大丈夫でしょうけど。マシュとも信頼関係を築けているようだし」

 

 この特異点での活動で第一印象を挽回することができたからか、信頼の言葉を幾分か優しげな眼差しと共にくれるオルガマリー。

 

「……さて、新手が来る前に移動しましょう。

 低級の怪物ばかりとはいえ、いちいち相手にしていたらキリがないわ」

 

 ☆

 

「どこまで行っても焼け野原……住人の痕跡もないし、いったい何があったのかしら……

 そもそもカルデアスを灰色にする異変ってなんなのよ……

 未来が見えなくなるって事は人類が消えるということ……

 もしかして……特異点では抑止力が働かない?

 じゃあやっぱりボルトみたいなものなんだ、ここ……

 人類史に点在する致命的な滅亡の選択……

 それを悪い方に間違えちゃったのがこの結果とか……」

 

『おや、所長の独り言が始まったね。そうなると彼女は長いよ』

 

 ぶつぶつと呟きながらこの特異点について考察を重ねるオルガマリー。

 かなり物騒な考察をしていることは理解できるものの、彼女に意見できるほどの知識を有していない立香とマシュには、思案に暮れる彼女を見守ることしかできなかった。

 そんな二人の様子を見かねたのか、Dr.ロマンは彼らに一つの提案をする。

 

『立香君。あたりは安全そうだし、少しは休んだらどうだい?』

 

「ドクターに賛成です。先輩、レーション食べますか?」

 

「……そうだな。せっかくだからいただくよ」

 

 休める時に休んでおくのは何事においても重要なことだ。

 体と心を適切に休めなければ、いざという時に動けなくなるかもしれない。

 レーションを受け取り、瓦礫の上に腰を下ろす。

 

「マシュも体になにか問題はないか? 疲れたりしてないか?」

 

「体、疲れ……もしかして、サーヴァントになって問題はないのか、という質問ですか?」

 

「まあ、そんなところだ。いきなり力を手に入れたワケだからな」

 

「……それは、なんとか。戦うのが怖いぐらいで、体は万全です」

 

「それならいいんだが……」

 

 そう言いつつも立香は浮かない表情を浮かべていた。

 

 普通の女の子があれほどの力を手に入れるのに何の代償もないとは思えない。

 これが疲労などのわかりやすいものであればよかったのだが、そうではないからこそ何を代償にしているのか分からない恐怖を立香は感じていた。

 やはり、今の自分には知識―――魔術世界の知識が致命的に足りない。

 カルデア帰還後はサーヴァントについて学ぶべきだろう。他には、魔術に関する知識も身に付ける必要がある。あとは、カルデアという組織についても調べるべきかもしれない。

 

『――! 全員、すぐにそこから逃げるんだ!』

 

 突如、ロマンが焦燥感に満ちた声を上げた。

 思案にくれていたオルガマリーは、突然の大声にぎょっとした顔で振り返る。 

 

「いきなり何を言ってるのよ。あの程度の怪物ならマシュがいれば……」

 

『この反応はスケルトンじゃない! サーヴァント(・・・・・・)の反応だ!』

 

「なっ……!?」

 

 その言葉に余裕綽々の様子だったオルガマリーの表情が一瞬で凍りついた。

 今、ロマニは何と言ったのか? サーヴァントが迫ってきていると言ったのか?

 

『戦うな三人とも! 君たちにサーヴァント戦はまだ早い……!』

 

「立香! 撤退よ、急ぎなさい! とにかくここから離れるの!」

 

 まだ接敵まで余裕があるからかオルガマリーは迅速に判断を下す。

 いくらマシュがデミ・サーヴァントだからといって、成り立ての新米では本物のサーヴァントには遠く及ばない。せめて、宝具の真名解放を習得するまでは戦いを避けるべきだ。

 もちろんマスターである立香を戦わせるのも愚策だ。確かに彼はエネミーを相手に無双していたが、サーヴァントはそれらとは比べ物にならないほどの力を持っている。

 脱兎の如く、三人はサーヴァントが迫ってくる方向とは逆方向に向けて逃げ出した。

 

「ハァ、ハァ、ハ――ああもう、どういうことよ!? なんでサーヴァントがいるの!?」

 

『そうか……聖杯戦争だ! その街では聖杯戦争が行われていた!』

 

 聖杯戦争。それは、七騎のサーヴァントが聖杯を求めて殺し合う魔術儀式。

 故に、サーヴァントが存在すること自体はおかしいことではない。

 問題は、

 

「でも、マスターが存在しなければサーヴァントは維持できないはずでは……?」

 

『本来ならね。けど、そこは特異点だ。“何かが狂った”状況でもおかしくない!

 マスターのいないサーヴァントがいても不思議じゃない。そもそも、サーヴァントの敵はサーヴァントだ!』

 

「……じゃあ……私がいるかぎり、他のサーヴァントに狙われる……?」

 

「マシュは聖杯とは無関係でしょう! ここのサーヴァントの頭がおかしいのよ!」

 

 ロマンの発言にマシュが自分のことを責めかけたが、オルガマリーは現地のサーヴァントの頭がおかしいだけだとフォローを入れる。

 マシュへの思いやりが込められた言葉に、しかし感心している余裕はなかった。

 

「――――――逃ガシマセンヨ」

 

 ジャラララ……ッ!

 

「フフフ、新シイ得物ネ。纏メテ私ノ髪デ絡メ取ッテ上ゲマショウ」

 

【推奨BGM:夜よりも長き牙 (Arrange Ver.)】超昂天使エスカレイヤー・リブートより

 

 三人を包囲するように展開される鎖の檻。

 その上に立つ漆黒のヒトガタ。影絵のように肉体を黒く染めた怪物。

 

 ここへ来るまでに出会った敵などとは比べ物にならぬほどの、人間を超越した力。

 触れただけで蒸発しそうな、圧倒的なまでの力の滾り。

 それが体の内に渦巻くのが、嫌でも感じ取れる。

 

『サーヴァント反応、確認! そいつはランサーのサーヴァントだ!』

 

 ランサー、槍兵のサーヴァント。

 その名に違うことなく、影の手には宝具と思しき鎌が収まっている。

 

 ランサーはサーヴァントの中でも最速の者が選ばれるクラス。

 サーヴァントの中でも特に機動力、運動性能に秀でた英霊が配置され、こと一対一の白兵戦能力では右に並ぶもののない性能を有する。

 人間の足で逃げ切れるような生易しい相手ではない。

 

 故に、生き残るために取るべき選択肢はただ一つ。

 この場でランサーを打倒する。それ以外に、生存を勝ち取る手段はない。

 今までのエネミーとは一線を画す超常存在、サーヴァント。

 それを前に、恐怖を噛み殺すように己のマスターへと声を張り上げた。

 

「……! 応戦します! 先輩、私を使ってください……!」

 

「わかった、絶対に勝たせてみせる!!」

 

「――はい。あなたに勝利を、マスター!」

 

 ランサーに向けて身の丈ほどの大盾を構えるマシュ。

 そんな初々しいデミ・サーヴァントの姿を嘲笑いながら、ランサーのサーヴァントは宝具の鎌をグルグルと手中で振り回す。

 

「アナタ、サーヴァントトシテ戦ウノハ初メテ? ナラ、先輩トシテ教エテアゲル!

 言動ニハ気ヲ付ケナサイ。“戦ウ”ト口ニシタラ、モウ行為ハ始マッテイルノデスカラ!」

 

 その瞬間、ランサーの姿が大気に溶けるように掻き消えた。

 一瞬にして視界から姿を消した敵に、マシュの顔に動揺と困惑が走る。

 

 本物のサーヴァントとの戦闘に対する経験値の差が露骨に出た。

 本来ならば、この時点でランサーはマシュに致命傷を与えていたことだろう。

 

「――右だ!」

 

 だが、その実力差を埋めるのがマスターの腕の見せ所。

 マスターの指示を受けたサーヴァントは、その指示通りに大盾を右側へと向ける。

 

 ガキンッ!

 

「チッ!」

 

 舌打ち一つ。敵意と殺意の込められた眼差しを立香に向ける。

 常人であればそれだけでショック死してしまいそうなほどのプレッシャーを受け、しかし立香は平然とした様子でランサーを睨み返す。

 サーヴァント同様に初々しいものと思っていたが、なかなかどうして、かなりやり手のマスターだったようだ。マスターに対する警戒心を一段ほど上昇させる。

 

「必死デスネ、大変良イ」

 

 とはいえ、肝心のサーヴァントがこれではその実力も宝の持ち腐れだ。

 マスターがサーヴァントの力を引き出しきれないというのはそう珍しい話でもないが、まさかサーヴァントの方がマスターの実力を引き出しきれないとは。

 ただのエネミーが相手ならばスペックの差で圧倒できたが、スペックが同等、或いはそれ以上の相手であるランサーと戦うには、マシュはあまりにも未熟すぎた。

 

「デモ、気ヲ付ケナサイ。私ノ槍ハ不死殺シノ槍。コノ槍デ付ケタ傷ハ何ヲシテモ治ラナイ。肉体ヲ完全ニ治癒デキル奇蹟デアロウト」

 

 その言葉に息を呑む。

 ランサーの言葉が真実であるのならば、ただの一度でも攻撃を受けるわけにはいかない。

 幾度となく叩きつけられる鎌への恐怖心がマシュの中で膨れ上がる。

 

「分カリマシタカ? 僅カデモ受ケ損ナエバ!」

 

 石突の部分を盾の中央に叩きつける。

 その衝撃に蹈鞴を踏みそうになり、盾を固定することで辛うじて耐え抜く。

 

「アナタハ一生、サーヴァントトシテ不出来ニナルノデス!」

 

 横薙ぎに振るわれる死神の鎌。

 それを受け止めるために、マシュは大盾を突き出し――

 

「――伏せろ!」

 

 マスターたる立香の声。それに反応して、マシュは姿勢を下げる。

 その直後、漆黒の魔弾が彼女の頭上を通り過ぎた。

 

 

 

(くっ……どうする? これは、俺が前に出るしか……)

 

 自分が前に出て戦えばランサーとの戦いに勝利できる自信はある。

 だが、万が一にも攻撃を受けるわけにはいかない。

 

 マスターの損失はイコールでサーヴァントの消滅を意味する。

 不治の傷を与えるというあの鎌の攻撃だけは、何があっても食らうわけにはいかないのだ。

 しかし、このままではランサーにマシュが倒されるのも時間の問題だ。

 

 そこで、ふと視線をオルガマリーに向けた。

 サーヴァント。その存在を知っていた彼女ならば何か手があるかもしれない。

 

「所長。一瞬でいい。何かあの影の動きを止める手段はないか?」

 

「……あるにはあるわ。でも、まず当たらないわよ」

 

 冬木の街にレイシフトする以上、サーヴァントとの戦闘は想定していた。

 故に、対サーヴァント戦に備えた魔術礼装は用意されている。

 

 だが、ランサーの速度ではそれを命中させるのは非常に困難だ。

 普通に使ったところで躱されるのがオチだろう。

 しかしその存在を知った立香は、その顔に勝利を確信した表情を浮かべた。

 

「それなら、俺の合図でそれを使ってほしい」

 

「けど……」

 

「この戦いを勝利するためには、他でもないキミの力が必要なんだ」

 

「……っ! わたしの、力が……!」

 

 元々、オルガマリーはマスター候補の一人だった。

 だが三年前、オルガマリーの父にして前所長であるマリスビリー・アニムスフィアが亡くなり、まだ学生の身であったのにカルデアを引き継ぐことになった。

 アニムスフィアの家を背負う事になったオルガマリーは毎日が緊張の連続だった。

 

 オルガマリーはカルデアの維持で精一杯だった。

 そんな時、カルデアスに異常が発見された。今まで保証されていた百年先の未来が視えなくなり、魔術協会やスポンサーから非難の声が山のように届いた。

 一刻も早い自体の収束を。その日から、それが彼女に課されたオーダーになった。

 

 加えて、彼女にはマスター適性がないことも判明した。

 名門中の名門、十二のロードの一家、魔術協会の天体学科を司るアニムスフィア。

 その当主がマスターになれないなんて、スキャンダルもいいところだ。

 彼女自身の努力ではどうしようもない理由で、彼女は陰口を囁かれてきた。

 

 誰も褒めてくれない。褒めてくれる父親は死んでしまった。

 誰も認めてくれない。ただ、マスター適性が存在しないだけでバカにされた。

 

 そんな彼女にとって、自分の力が必要だという言葉は驚くほどすっと心の奥に入り込んできた。少なからず心を許していたこともその一助になったのかもしれない。

 

「……わかったわ。タイミングは任せるわよ」

 

 魔術回路を起動する。生命力を魔力に変えて、魔術式に魔力を送り込む。

 

 

 

「――ガンド!」

 

 ルーン魔術の一種。相手に人差し指を指し、その体調を崩させる呪い。

 強力なものは”フィンの一撃”と呼ばれ、物理的な破壊力をも伴う一撃となる。

 

 当然、オルガマリーのガンドも”フィンの一撃”に相当するもの。

 しかし、それでもサーヴァントにダメージを与えるのにはあまりに力不足。

 羽虫に刺される程の痛痒も与えられないだろう。

 

 だがそれは彼女の力だけでガンドを放った場合の話だ。

 特注の魔術礼装で強化されたガンドは、サーヴァントの動きすらも止められる。

 ましてや、本来の力を発揮できない影のサーヴァントが抗えるはずもない。

 

「ナ、二……!?」

 

「はぁあああああッ!!!」

 

 そして、その一瞬の隙を逃す立香ではない。

 空中で一回転。十分に遠心力を乗せて、上空から踵落としを叩きつける。

 脚部より迸る魔力は神秘の鎧を抜くに十分な量が宿っている。

 流星の如く。降り注ぐ脚撃が、影の頭蓋を打ち砕く。

 

「……」

 

 無言でその場を飛び退く立香。

 大地に沈み込んだ影は溶けるようにその姿を消していく。

 しかし、三人の顔から警戒の色が消えることはない。

 消滅したのではなく、何らかの方法で姿を消している可能性も否定できない。

 

『……反応消失。三人ともよくやった! キミたちの勝利だ!』

 

 その言葉で、三人はようやく安堵の息を漏らした。

 

「勝てた……本当に、勝てたんだ……」

 

「ああ、サーヴァント初心者にしちゃなかなかどうしてやるもんだ」

 

 マシュの呟きを拾い上げたのは立香ではない。

 カルデアにいるロマンでなければ、もちろん現地にいるオルガマリーでもない。

 第三者の声。それに、はっとした三人が声のした方に視線を向ける。

 

「どう援護するもんかと悩んでいたが、オレの助勢なんていらないレベルと来た。

 特に、そこの坊主。こんな状況でなけりゃ手合わせ願いたいくらいだ」

 

 そこには青いローブを纏い、フードで顔を隠す長身の男性。

 何より、その身から感じ取れる”力”が男の正体を否が応にも示していた。

 

「サーヴァント……!」

 

「おう、見ての通りキャスターのサーヴァントだ。とりあえずオレの話を聞いちゃくれねぇか?

 そうすりゃ、少しはこの街の事情も分かるはずだぜ?」

 

『どうやら彼はまともな英霊のようだ。とりあえず事情を聞いてみてもいいんじゃないかな?』

 

 ロマンの言葉でキャスターの話を聞くことに決めた一行は、一先ず、腰を落ち着けられる場所を求めて移動することにするのだった。

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