序章 特異点F A.D.2004 炎上汚染都市 冬木 副題「人理の防人」
第4節 力無き者の煩悶
正式版です。
【推奨BGM:黒は誰か?】パステルチャイム3より
『……以上がこちらの事情です。現在は藤丸立香をマスターとして現地調査を行っています』
カルデア側の事情を聞いたキャスターは「なるほどな」と小さく納得の声を漏らした。
『確認しますが、貴方はこの冬木の街で起きた聖杯戦争のサーヴァントであり、その生存者なのですね?』
「負けてない、という意味ならな」
キャスターは炎上する汚染された都市のどこか遠くを見るような眼差しをする。
「オレたちの聖杯戦争はいつの間にか違うモノにすり替わっていた」
「違うモノ……?」
「経緯はオレにも分からねえ。街は一夜で炎に覆われ、人間はいなくなり、残ったのはサーヴァントだけだった」
近くは百年程度、遠くは神代の太古から、英霊は召喚される。
英霊たちは各々のマスターに従い、己がマスターを守護し、敵であるマスターを駆逐する。
あらゆる時代、あらゆる国の英雄が現世に蘇り、覇を競い合う殺し合い。
それが冬木の聖杯戦争――その、はずだった。
「真っ先に聖杯戦争を再開したのはセイバーのヤツだ。
奴さん、水を得た魚みてえに暴れ出してよ。
セイバーの手でアーチャー、ランサー、ライダー、バーサーカー、アサシンが倒された」
「七騎のサーヴァントによるサバイバル……それがこの街で起きた聖杯戦争のルールだったわね」
「キャスターさんはその中で勝ち残った……いえ、生き残ったサーヴァントというワケですね」
「ああ。そしてセイバーに倒されたサーヴァントは真っ黒い泥に汚染された。連中はボウフラみてえに湧いてきやがった怪物どもと一緒に何かを探し出し始めやがった。
んで、面倒な事に探しものにはオレも含まれている。オレを仕留めないかぎり、聖杯戦争は終わらないからな」
『残ったサーヴァントはセイバーと貴方だけ……では貴方がセイバーを倒せば、』
「おう、この街の聖杯戦争は終わるだろうよ。この状況が元に戻るかどうかまでは分からねえがな」
歴史や伝承に名を残す超人、偉人たちの伝説。人々の間で永久不変の記録となった彼らが、その死後に、人間というカテゴリーから除外されて精霊の域にまで昇格したものを『英霊』という。
それは魔術師たちがごく普通に使い魔とするような魑魅魍魎、怨霊の類とは格が違う。
英霊とは、ただ一人だけでも大災害をもたらすほどの力を持った存在だ。この異変の元凶が英霊の可能性は十分にあるが……聖杯戦争の終幕が特異点修復に繋がるとは限らない。
「オレがランサーとして召喚されていれば、セイバーなんざ一刺しで仕留めていたんだがね」
「ランサーだったら……?」
「そういうコトもあるんですよ、先輩。英霊の中には複数のクラス特性を持つ者がいます」
上記で示したとおり、英霊とは「英雄が死後、祀り上げられ精霊化」した存在のことである。
この世の道理から外れた存在である英霊は、世界の外側にある『英霊の座』から『世界の危機』に伴う『世界からの要請』によって、過去・現在・未来の時間軸を問わずに召喚される。
その力は人間では太刀打ちできないほど強力なものであるが、英霊の『本体』を直接召喚できるのは世界のみ。人間が英霊の『本体』を召喚することは不可能であり、サーヴァントは『本体』を基に各クラスごとの側面を切り出した分霊である。
クラスとは、英霊をサーヴァントとして召喚するために憑依させる『器』のことであり、英霊それぞれの能力や逸話に応じて七つの何れかに分けられる。
英霊を完全な形で召喚するのは容易ではなく、英霊を丸ごと霊体として再現するのは人間の魔術師ではリソースやメモリが足りない。そこで「役割に即した英霊の一面」というものに限定し、英霊が持つ側面の一部だけを固定化する事でその負荷を抑える仕様となるのがこの七つのクラス。
複数のクラスに該当する英雄の場合、サーヴァントとして召喚される際は、何れかに該当する側面が召喚される。元が同じ英霊でも、クラスによって姿・能力が異なる別個のサーヴァントとして召喚される場合がある。
一人の英霊の様々な側面を召喚できる反面、同じ英霊が争うこともあるので、英霊召喚システムの長所とも短所ともいえる。
「この人は槍の使い手でありながら、魔術師の側面も持つ、高レベルの英霊と思われます。……憶測に過ぎませんが、きっとトップサーヴァントの一人です。
「そういうこった」
基本7クラスの内、特に強力なクラスとされるセイバー、アーチャー、ランサーを総称して『三騎士』と呼び、残りのライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーを『四騎士』と呼ぶ。
本人曰く、キャスターは三騎士クラスの一つであるランサーのクラスに適性を持つ英霊らしい。
「アンタらはカルデアって組織のマスターだって言ったが……まあ、そのあたりはいいか」
「状況は分かりました。貴方はセイバーを倒したい。けれど一人では勝ち目がないからわたしたちに目を付けた……そういうワケね?」
「その通りだ。だが悪い話じゃあねえだろ? アンタらの目的はこの異常の調査。オレの目的は聖杯戦争の幕引き。利害は一致してんだ。お互い、陽気に手を組まないか?」
その提案に、オルガマリーは数秒間ほど逡巡する。
「……それが合理的な判断だけど。その場合、貴方のマスターは誰になるの?」
「そりゃあそこの坊主だろ。アンタにマスター適性はないしな」
眉をピクリと動かす。
「いや、ホントに珍しいな。魔術回路の量も質も一流なのにマスター適性だけ無いなんて。何かの呪いか?」
「うるさいわね、どうでもいいでしょうそんなコト!」
最大の地雷の上でタップダンスをされたオルガマリーは竜の咆哮の如き怒りの声を上げた。
「藤丸、契約するための呪文は教えるわ。せいぜい使い倒してあげなさい」
交渉結果、カルデアとキャスターは協力関係を築くことになった。オルガマリーに英霊と契約するための呪文を教えられた立香は、キャスターと向かい合うとその呪文を詠唱する。
「告げる! 汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば―――我に従え! ならばその命運、汝が杖に預けよう!!」
「オレの真名に懸け、誓いを受けよう……この街限定の契約だが、よろしく頼むぜ」
契約完了。仮のマスターと契約を結んだキャスターは、その仲間たちに新しい情報を開示する。
「となれば、あとは目的の確認だな。アンタらが探しているのは間違いなく大聖杯だ」
『大聖杯……? 聞いた事がないけど、それは?』
「この土地の本当の『心臓』だ。特異点とやらの原因があるとしたらそこ以外ありえない」
『では、Mr.キャスター。大聖杯までの案内は頼めますか?』
「ミスターはいらねえよ。道筋は教える、いつ突入するかはアンタら次第だ」
そう告げたキャスターは、今は脆き雪花の壁を静かに見つめていた。
☆
【推奨BGM:哀しみ】超昂閃忍ハルカより
「………………」
「ちょっと、藤丸。キリエライト、見るからに落ち込んでいるわよ」
オルガマリーが視線を向ける先には俯いたまま歩みを進めるマシュの姿があった。
「仮にもマスターなんだから、何かケアしてあげなさいよ」
その変化には立香も気付いていた。そして、その原因にも心当たりがある。
「マシュ……やはりアレか?」
「………………はい。わたしから宣言するのは情けないのですが……その。わたしは先輩の指示の下、試運転には十分な経験を積みました。なのに……わたしはまだ宝具が使えません。使い方すら分からない、欠陥サーヴァントのようなのです」
「フォウ……」
無数のスケルトンに、強大な力を持つランサーのシャドウサーヴァント。戦闘に対する経験値は十分のはずなのに、未だ宝具がマシュの意志に応じることはない。サーヴァントが持つ切り札にして真骨頂である宝具を使えない現実に、マシュはすっかり自信を失ってしまっていた。
『ああ、そこを気にしていたのか。マシュは責任感が強いからなあ……』
「正直、英霊のことはよく知らないが……その宝具というのは一朝一夕に身に付くものなのか?」
『どうだろう? けど、英霊の奥の手を一日二日で使えるようになるとは思えないけど……』
「あ? そんなのすぐに使えるに決まってんじゃねえか。英霊と宝具は同じもんなんだから」
全員の視線がキャスターに向けられる。
「お嬢ちゃんがサーヴァントとして戦えるのなら、もうその時点で宝具は使えるんだよ」
宝具とは、主に英霊が持つ、彼らが生前に築き上げた伝説の象徴。逸話や伝説、或いは真に存在した武器道具そのものを基盤として誕生したもの。伝説を形にした「物質化した奇跡」である。
それは後天的に得られた宝具でも、所有者にとっては自分の分身とも言えるものであり、本来の所有者は別であっても何の問題もなく自分の体の様に操れる。
「なのに使えないってコトぁ、単に魔力が詰まってるだけだ」
「魔力が?」
「なんつーの、やる気? いや弾け具合? とにかく、大声を上げる練習をしてねえだけだぞ?」
「そうなんですか!? そーうーなーんーでーすーかー!?」
「ファーーーーー!?」
「ちょっと、いきなり大声出さないで! 鼓膜が破れかけたわよ、本気で!」
突然の大声にオルガマリーが抗議の声を上げる。大きな音を聞いたことが原因で鼓膜が破れるというのは架空の表現であり、実際は音を感じる
フォウはペタンと耳をたたんでおり、キャスターも「おぉう…」と小さな声を漏らす。
「ぁ……申し訳ありません、所長。でも、大声を上げればいいとキャスターさんが……」
「いや、モノの例えだったんだが……まあ、ともあれやる気があるのは結構だ」
ふと、キャスターの眼差しが彼らのマスターに向けられる。
「坊主。お嬢ちゃんがこう言ってるんだ。少しばかり寄り道して構わねえな?」
「それは構わないが……一体、何をするつもりだ?」
「なに、ただの特訓だ。すぐに終わる。今のオレはキャスターだぜ? 治療なら任せておけ」
表情を変える事なく自然体のまま歩み寄り、そのままキャスターは立香の背後を取る。
「まずは……ちょい、ちょいと。厄寄せのルーンを刻んでだな……よし出来た」
「え? なにしてるのアナタ。なんで藤丸の制服にルーンを刻んでいるの?」
「なぁに、コイツなら狙われても自分でなんとかできるだろ? ほら、来たぜ」
「Grrrrrr……Zuaaaaaaaaa……!」
【推奨BGM:夜よりも長き牙 (Arrange Ver.)】超昂天使エスカレイヤー・リブートより
キャスターの言葉に反応するように廃墟の影から無数のスケルトンが姿を見せる。
「せ、先輩、わたしの後ろに! 戦闘準備お願いします……」
「ああ!」
スケルトンの群れを迎え撃つマシュ。その奮闘する姿を眺めながら、キャスターは静かに語る。
「詰まるところ、宝具ってのは英霊の本能だ。なまじ理性があると出にくいんだよ」
多くの宝具は真名を詠唱する真名解放によりその能力を発揮し、伝説における力を再現する。
しかし、何らかの理由で自身の持つ宝具の真名を知らない場合でも、仮の真名を付けることで仮想宝具として運用することができる。
それすら出来ないマシュは、まず英霊の本能を覚醒させる必要がある。
「ってワケで、まずは精も根も使い果たしてもらう。本当の特訓はそれからだ」
「荒療治にも程があるでしょう!?」
「ドフォーウ!?」
サーヴァントとして未熟の域を出ないマシュであるが、肉体のスペックそのものはサーヴァントと同等であり、スケルトン程度の
だが数の暴力という言葉が存在するように、数の力というものは決して侮れるものではない。
最初の内は勢いよくスケルトンを殲滅していたマシュだったが、二十三十と倒した数が増えるほどに疲弊していき、少しずつ動きが鈍く精彩を欠いたものとなっていく。
これが正規のサーヴァントならば力の入れどころと抜きどころを見極めることで、体力の消耗を最低限に抑え込み、より長時間の戦闘に耐えることもできるのだろうが……新米サーヴァントのマシュにそんな器用なことができるはずもない。
厄寄せのルーンの効果時間が終わり、スケルトンの姿が見えなくなった頃には、既にマシュは息も絶え絶えに、盾を支えに立っている状態だった。
「限界、です……これ以上の連続戦闘、は……すみません、キャスター、さん……こういった根性論ではなく、きちんと理屈に沿った教授、を……」
「――分かってねえなあ。コイツは見込み違いかねぇ」
その懇願をキャスターは一刀両断する。
マシュは理解していない。何故この特訓を課したのかも、彼女の持つ盾の意味すらも。
「まあいいか、そん時はそん時だ。んじゃあ、次の相手はオレだ」
トン、とマシュの前に飛び出したキャスターは衝撃的な言葉を口にした。
「味方だからって遠慮しなくていいぞ。オレも遠慮なしでそこの坊主を殺すからよ」
「っ……!?」
「なに言ってるのアナタ、正気!? この訓練に藤丸は関係ないでしょう!?」
「サーヴァントの問題はマスターの問題だ。運命共同体だって言わなかったか、オレ?」
射抜くような視線だった。キャスターの赤い双眸が槍のように己のマスターを縫い留める。
「お前もそうだろ、坊主? お嬢ちゃんが立てなくなった時がテメェの死だ」
「っ……それはッ……」
「……! マスター……下がって、ください……! わたしは――先輩の足手まといには、なりませんから……!」
「そうこなくっちゃな。んじゃあまあ、マトモなサーヴァント戦といきますか!」
キャスターが指を前に突き出す。その指先を右から左に動かすと虚空に光の文字が刻まれる。
「
火のルーン。北欧神話の最高神オーディンを表すルーン。
コミュニケーションを意味するルーンであり、その真価は「知らしめる」ことにある。
火のルーンが生み出した火球がマシュと、その後方に立つ立香に襲いかかる。
「くっ!」
ルーン魔術は、呪文の詠唱ではなく『ルーン文字』を刻むことで魔術的神秘を発現させる。
魔力を通すだけで魔術を起動できる
しかし、キャスターのルーン魔術は高ランクの耐魔力スキルを持つマシュの防御を貫くほどの破壊力を発揮した。火球は盾に着弾すると同時に大爆発を引き起こし、その衝撃のあまりの強さにマシュは苦悶の声を漏らす。
「まだまだこんなもんじゃねぇぞ!」
「っ! うぅぅ……!」
それぞれのルーンごとに意味があり、強化や発火、探索といった効果を発揮するルーン魔術。筋力のステータスを強化したキャスターはオーク材の杖で殴りかかる。
その一撃一撃が先程のランサーの攻撃に匹敵、或いは上回る威力を秘めており、その杖さばきもまたランサーのそれよりも遥かに洗練されたものだ。
先程、キャスターは「ランサーとして召喚されていれば……」などと言っていたが、それも納得の杖さばきだ。むしろ、何故キャスターのクラスで召喚されたのか。
「ハァ――これで、どうだっ……!」
攻撃の隙間を縫い、マシュは盾を叩きつける。
「――どうも何も、話にならないね。コイツは荒療治が必要みたいだな」
荒い息を吐くマシュに冷徹に告げるキャスター。
大きく後方に飛び退いたキャスターは、その言葉通り、荒療治を行うことにした。
「主諸共燃え尽きな! 我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。
因果応報、人事の厄を清める社――」
魔力が極限まで高まる。
キャスターの宝具――その解放の前兆であることをマシュは理解する。
「倒壊するは『
キャスターの前方に出現した魔法陣の内からソレは姿を見せる。
無数の細木の枝で構成された木々の巨人。巨人の胸部には鉄格子が付いており、胸部は生贄を押し込める檻となっている。しかし、宝具として出現した巨人の内部には生贄が収められておらず、本来納めるべき神々への贄を求めて荒れ狂う。
木々の巨人は、自らの内に納めるべき神の供物を探し求め――眼下の少女に目を付けた。
「ぁ――あ、」
火炎を身に纏い、巨人はその拳を大きく振り上げる。
(守らないと……使わないと、先輩が消える――偽物でもいい。今だけでもいい。わたしが……わたしがちゃんと使わないと、みんな無くなってしまう――!)
限界状態に理性が燃え尽きる。剥き出しとなった本能が生きるための力を求める。
「ああ、ああぁあああ――――――!!!!」
その祈りに――――宝具は応えた。
【推奨BGM:Over Beat (Ha.ver) (Arrange Ver.)】超昂天使エスカレイヤー・リブートより
盾の正面に展開された守護障壁が、燃え盛る巨人の巨腕を受け止める。
ウィッカーマンは本来の役目を果たすことはなく、されど望まれた役割を完全に果たしきり、自身の纏っていた炎によって完全に燃え尽きる。
「あ……わたし……宝具を、展開できた……んですか……?」
「――ヒュウ。なんとか一命だけは取り留めると思ったが、まさかマスターともども無傷とはね」
「先輩……わたし、今……!」
「ああ。よく頑張ったな、マシュ」
「っ……!」
「フォウ、フォーーーーウ!」
ぽんと手のひらで頭を撫でられたマシュは歓喜に全身を震わせる。
いつの間にかマシュの肩の上に乗っていたフォウも祝福するように鳴き声を上げている。
『……驚いたな、こんなに早く宝具を解放できるなんて。マシュのメンタルはここまで強くなかったのに……』
「そりゃあアンタの捉え方が間違ってたんだよ。お嬢ちゃんはアレだ。守る側の人間だ。鳥に泳ぎ方を教えても仕方がねえだろ? 鳥には高く飛ぶ方法を教えないとな」
マシュのクラスはシールダー。盾を持ち、味方を守る騎士のサーヴァント。
サーヴァントが人類最強の兵器という認識から攻撃的に考えていたが、そもそも英霊の象徴である宝具が盾であるという点からして、マシュに宿ったサーヴァントは守りを得意とする英霊だ。
攻撃することを考えたまま、宝具を解放できるはずもない。
「だがまあ……それでも、真名をものにするには至らなかったか」
「あ……はい。宝具は使えるようになりましたが、まだ宝具の真名も、英霊の真名も分かりません……」
「……そう」
オルガマリーは納得したように頷くと、再び俯いたマシュの傍にまで歩み寄る。
「未熟でもいい……仮のサーヴァントでもいい……そう願って宝具を開いたのね、マシュ」
その言葉に、マシュは静かに頷いた。
「あなたは真名を得て、自分が選ばれたものに――英霊そのものになる欲が微塵もなかった。だからきっと、宝具もあなたに応えた。あ~あ、とんだ美談ね。御伽噺もいいところだわ」
「あの、所長……」
「ただの嫌味よ、気にしないで。宝具が使えるようになったのは喜ばしいわ。でも真名なしで宝具を使うのは不便でしょ。いい
オルガマリーは顎の下に手を当てながら考え込む。
その間、マシュの盾を見ていた彼女は、名案を思い付いたとばかりにその名前を口にした。
「『
「は、はい……! ありがとうございます、所長! ロード・カルデアス……」
マシュは嬉しそうな表情をしながら盾を撫でる。
宝具解放の余韻に浸っていたマシュだが、そんな空気を読まずにロマンが声を上げた。
『ロード・カルデアス……うん、それはいい。マシュにぴったりだ! そうなるとすぐに試したくなるのが人情だよね。キャスター、マシュの相手を頼めるかい?』
「ああ、勿論だ。手加減していたとはいえ、さっきは完全に防がれたからな。先輩として宝具のイロハを叩き込んでやるよ。準備はいいか、二人とも?」
「ふぅ……仕方がないか。マシュ、いけるか?」
「大丈夫です、先輩。キャスターさん、お願いします!」
そうして、宝具の特訓で時間は過ぎていくのだった。