※この作品はR-18です。

NTRれは、引かれて足したら、倍になる   作:ジャンボ田西

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今回のジャンルは以下の通りです。
・合意 ・異種族 ・フタナリ


第3話

一週間強に渡って出ていた出張から帰って来た谷条(たにすじ)は、家に帰って来てすぐに妙な違和感を覚えた。小さな家具の配置が変わっていたり、以前よりも多少部屋が散らかっていたりしていることもそうだが、何よりも家中で変な匂いが漂っていた。

 

「ここで……何か、あったのかな……?」

 

彼は、誰もいない家で小さく呟いた。

帰省する二日か三日前くらいから歴島(れきしま)との通話が途絶え、彼からかけても繋がらなくなっていた。そのあたりから彼は「身律(みのり)さんの身に何か起きたのだろうか」と不安で仕方無かったが、会社で働いているはずの同僚数人に訊ねても「一時は体調がおかしかったけど、今は元気になった」という大雑把な話しか聞けなかったのだ。

いつ帰るかを伝えておいたのだから、彼女の性格を考えれば彼が家の扉を開けた瞬間に嬉しそうな声色で「おかえり」と言いに来てくれるはずなのだ。

しかし家の中は人っ子一人おらず、もぬけの殻だった。

 

(約束……守れなかったから、なのかな……)

 

電波越しで何度も謝罪はしたが、やはり心の奥底では自分に対する怒りがあったのではないかと谷条は悔やむ。こんな事ならば無理な約束などするべきではなかった、と——。

 

「……ん? これは、……」

 

家の中を彷徨(さまよ)い歩いていると、彼は机の上にCDが一枚だけ置かれてある事に気づいた。そのCDには付箋(ふせん)が付いており、『谷条クンへ』とだけ書かれてある。不思議に思いながらも、彼女について何か分かるかもしれないと期待を籠めてプレイヤーに読み込ませて、映像を再生して見ることにした。

——そこに映っていたのは、あまりにも衝撃的な光景だった。

 

「…お、映ったな。おかえり~、壱(はじめ)く~ん。残念ながらキミの恋人は俺の身律ちゃんになったんだ、ごめんねぇ~~」

 

「んはぁっ、あんっ、はあっ、ふぁっ」

 

画面の向こうでは彼の恋人であるはずの歴島 身律が、同僚の狭間(はざま)と汗だくになりながらセックスを励んでいた。それも、その場所はこの家にある二人の寝室で違い無かった。

ロケーションもシチュエーションも悪夢のような景色に、彼は言葉を失う。

 

「ほら、お前からも言ってやれって。画面の向こう側で元恋人さんが困惑してるぜ」

 

「あぁんっ、はぁっ、あぁっ、…たにっ、すじっ…さぁんっ。…このっ、ひとのぉっ、おちんぽがぁっ、きもちっ…よくてぇっ……、あにゃた…を、んほぉっ! うらぎっ……ちゃい、まひたぁ……。はぁぁっん!」

 

谷条は己が耳を疑った。ほんの数日前までは自分への愛をアピールしていた彼女が、別人になってしまったかのようで言いたい言葉が見つからない。

彼がどうにか理解出来たのは、経緯はどうあれ彼女の心は既に狭間の方へ向いているという事、そしてそうなった要素にあるイチモツが彼と自分とで決定的に違うらしいという事だけだった。彼が知らない間に、彼女の愛情は男のイチモツ基準になっていた。

 

(…………、そうか……)

 

大きなショックを受けながらも、彼は画面の中で広がっている悪夢のような現実に大きな疑問を持つことは無かった。頭の片隅で、彼は何となく気づいていたのだ。社会人になって初めて恋人が出来たような人間に、彼女のような人を満足させるというのはとても難しい事だったのだ——と。

相手も初めての恋愛だったから技術なんて物は気にしなくて良いし、交際しながら徐々に学んでいけば良いと。たとえセックスがたどたどしくても、それだけで交際しているわけじゃないからそのままで良いと。

自分はどこか理想を夢見過ぎていたのだと、彼はこれまでの自分を顧みた。

男性よりも女性の方が性に疎く、性に対して関心が少ない清廉な存在だという偶像染みた理想を掲げ過ぎていたのかもしれない。相手も同じ生物であり、動物であり、人間なのだからある程度の性欲があることくらい当然なのだという事を、彼は今更になって気づくことが出来た。

 

(……でも、もう遅い…………)

 

しかし、それはあまりにも遅すぎた。その時には既に、大切な存在は自分ではない別の人間のもとへ去ってしまっている。どれだけ願っても遠く離れた物には手が届かず、どれだけ悔やんでも過去をやり直すことは叶わない。

——彼女の事をもっと知ろうとするべきだった。不平や不満をもっと聞いておくべきだった。何より、彼女に相応しい人であれるように色々な努力をするべきだった。——

数えきれない後悔が重く圧(の)し掛かり、彼はガックリと膝を折る。

 

「っ…………。僕は……、どうしようもない馬鹿だ……」

 

彼女に対する愛さえあれば何でも乗り越えられる。

そんな風に考えていた自分を、谷条は全力で殴りたくなった。拳を強く握りしめ、何度も床を叩く。全てが終わってから自分の愚かさに気づく鈍感さが、この世の何よりも憎くて憎くて仕方ない。

恋人を奪って行った狭間よりも、彼女を護りきれなかった——否、彼女を護ろうとすらしなかった過去の自分が数億倍と恨めしく許せなかった。

 

「ようし、挨拶はこんなもんにして……終幕(フィナーレ)の大量膣内射精(なかだし)を決めてやるぞ。お別れの印に、元恋人へ最高のガチ絶頂(アクメ)を見せつけてやりなあっ」

 

「んひゅぅっ、はっ、はっ、はっ、はぁっ! はげひぃっ…。こりぇっ…あげひ、ひゅぎりゅうぅっっ! いっひゃう、いっひゃうぅっ。もどりぇにゃくにゃるほどぉっ、あひゃまっ…ぶっとんじゃうぅっ!!」

 

「オラッ、絶頂(イ)けぇっ。このまま天国までぶっ飛んじまいなあっ!!」

 

「っ、んはぁぁっ!! ばかににゃりゅっ、ばかにっ…なっひゃうぅっ。おかっ、ひくにゃるほどぉっっ、イッ…くぅぅぅっっっんっっ!」

 

垂れ流しにしてある映像の中で、恋人だった頃の面影を全く感じられないような恍惚とした歴島が、だらしなく口元を緩めながら激しく仰け反って痙攣する。二人の結合部からは粘り気のある透明な液体が噴き出した後、白濁の粘液が狭間の陰茎や睾丸を伝ってベッドの上に垂れ落ちていた。

天にも昇りそうな心地で悦びに打ち震えている彼女の表情は、谷条と交際している間には一度も見せたことが無いような猥(みだ)らでいやらしいものだった。だが、項垂(うなだ)れて床を叩き続けている谷条がその表情を見ることは無く、彼の頭上で映像の再生が停止した。

プレイヤーが映像の再生を終了させ、だだっ広い家の中には貧弱な力で床を叩き続ける音だけが響いている。

 

「っ、…………っ、…………っ、…………っ、——」

 

どれだけの時間をそうしていたのか、カーテンから差していた夕焼けの紅い光が弱まっていき、気が付けば電気の点いていない室内はすっかり真っ暗になっていた。

 

「……………………?」

 

蹲(うずくま)るように膝を地面にくっつけていた彼は、背後から感じる気配に意識が向く。その気配は怪しい風を吹いているようであり、妙なオーラを放っているようであり、禍々(まがまが)しい寒気を纏っているようでもあった。

不気味としか言葉で形容のしようが無いソレに気づいた彼は、恐る恐るといった様子で徐(おもむろ)に振り向いて確認する。

——そこにあったのは、紫色の淡い光を放って浮かぶ魔法陣のようなものだった。

 

「ぅ、うわぁぁぁっっ!!??」

 

非科学的かつ、悍(おぞ)ましい雰囲気を醸し出しているそれを目にした谷条は本能的に飛び上がって後退(あとずさ)った。得体の知れない恐怖に怯える彼は、底知れない生命の危機を感じ取ってガタガタと震えていた。

 

「ひぃぃぃっ!」

 

すると、突如としてその魔法陣が強烈な光を放ち始めたため谷条は反射的に顔の前を両腕で庇った。一,二分近くは眩いばかりの光を発していたが、段々とその輝きが衰えていって、やがて消える。

瞼越しに白く輝いていた世界がその明るさを無くし、暫くして闇に染まったことを理解した彼は怯えながらもそっと目を開けた。

 

「驚いたかの?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ちょっ——」

 

ビクビク震えつつ何が起きたかを確認しようとした彼の真っ暗な視界の中央に、ぼんやりと小柄なシルエットが見えた。そして、彼の顔のすぐ前あたりから声が聞こえて恐怖心が爆発した彼は暴れ狂いながら大きく飛び退(の)く。

その際に彼の目の前にいた何(・)か(・)が頭突きをもろに喰らい、その何かがマヌケな声色で発した「んがっ」という声が谷条の耳にも届いた。が、彼がそれを気にする事無く暴れた結果背中を壁で強打する。

 

「いっ、つぅぅ……」

 

鈍い痛覚が走る背中を擦(さす)りながら、谷条は声のした方を注視した。そこにはやはり何かがいて、小さな声で唸(うな)っていた。

 

「くぅぅ~……、痛かったのはこっちの方よ…もう。こんな時間なんだから、電灯ぐらい点けておきなさいよ……」

 

それは谷条の頭突きを喰らった部分を撫でながら、片方の手を掲げる。すると、スイッチを押していないにも拘らず勝手に部屋の電気が周囲を照らした。

充分な明るさに照らされた部屋の中央で、彼の目にもその姿がはっきりと視認できる。

 

「ひぃっ…………、って……子ども?」

 

「子ども違(ちゃ)うわいっ!」

 

そこにいたのは中高生くらいの体格で、異様に肌面積の大きい服装をした人型の生物が立っていた。髪は服装と同じの明るめな紫色で短く、指の爪が鋭く長い。それだけであれば人間だと思い込めたのだが、それは頭部に小さな角を二つ生やしていた上に背中から蝙蝠(コウモリ)のような翼を一対羽ばたかせていた。つまり、人ではない。

思わず口から漏らした谷条の感想に訂正を入れて、それが咳払いを一つした。

 

「ハッハッハッハッ、妾(わらわ)は世にも恐ろしき悪魔——ケリスである。今宵は貴公と『魂の契約』を結ぶため、魔界より遠路遙々(はるばる)馳せ参じた。感謝せよっ!」

 

「……………………ぇ? ……悪魔? ……えっと、呼んだ覚えが無い……ですけど。間違いとかでは…………ないでしょうか?」

 

「うむ、正確には貴公の先祖……高祖父より更に前の代にあたる人間によって妾は召喚され、その家系の者と代々契約を結んできた」

 

腕を組んで胸を張りながらケリスと名乗った悪魔(仮)は彼の質問に答える。

 

「どういう…ことでしょうか? 僕の先祖はどうして……、と言うよりも悪魔って実在してたんですか!?」

 

「驚くのが遅いのう、貴公。…………む? 暫し待て貴公。ひょっとして妾のことを母親や祖父から聞かされておらんのか?」

 

「…………? えぇ、はい……」

 

「……かぁーーーーーっ」

 

谷条が戸惑いながら答えると、ケリスは天井を仰ぎ見つつ痰(たん)が絡まっていそうな溜め息を吐いた。この二人の間では何かしらのすれ違いが生じているらしく、それを彼女(?)は今ちょうど理解する。

顔を谷条の方へ戻したケリスの表情は面倒くさいという感情を剥き出しにしていた。しかしそれでも、彼に説明をし始める。

 

「致し方無い、知らねば契約もへったくれもあるまい。では、まずは貴公の先祖が妾を召喚した経緯について簡潔な説明する必要があろう」

 

一息置いてケリスは語り出す。

 

「貴公の家系は代々、恋人を他人に盗られやすい性質を有しておるのだ。そして、その性質を知った貴公の高祖父の祖父が海を渡り、妾のような悪魔を召喚し契約を結ぶ術である黒魔術を会得した。だが、普通の契約では契約の効果を己一人にしか及ぼせない。そこで彼奴(きゃつ)は特殊な契約法を用いり、妾を専属の悪魔として子孫代々が妾と契約出来るようにしたのだ。——己が魂を代償に、な」

 

数多いツッコミどころを口にしかけた谷条だったが、ケリスが冷ややかな声色で説明を締め括ると背筋に悪寒が走り何も言えなくなる。悪魔らしい威圧感を受けて身震いした後、彼は固唾を飲んで縮こまった。

 

「……おっとすまん、怖がらせてしまったか? 彼奴のことを思い出すと、妾はついつい感情的になってしまう所があるようでな。……質問があるならば、気軽に訊(たず)ねてくれて良いのだぞ」

 

だが、ケリスはハッとなって表情を緩めると彼に笑いかける。恐ろしい雰囲気から一転、見た目相応の可愛らしい笑顔に彼は不意にも少しだけ心がざわついた。

 

「では、あの……訊きたい事があるのですが——」

 

彼は頭を左右にブンブンと振って右手を上げると、必死に言葉を選びながらケリスに問いかける。目の前の悪魔は「気軽に訊ねて良い」と許可したものの、祖先の事を直接的に訊ねようものなら再びあの威圧感を受ける事になるのだ。

 

「僕の血筋は恋人を他人に盗られやすい性質を有している、という話なのですが……どうしてそんな事になっているのでしょうか? 何か原因があれば、その解決を優先させた方が合理的だと僕は思うのですが……」

 

怯えながら問う谷条に、ケリスは少しだけ暗くなった雰囲気と口調で答えた。

 

「…………ああ、それは簡潔に言えば神の気まぐれという奴だ。根本から解決するというのは不可能だからな。まぁ、…あまり深く考えぬ方が身の為であろう」

 

「…………そう、ですか……」

 

何かしら含みがありそうな返答に、彼女の心中を察した谷条は右手を下ろして押し黙る。彼女の様子の変化から見て、根本に自身の祖先が関わっていることが何となく推測できたのだ。他にも訊ねたい事はあるものの、思いついた質問は全て自分の高祖父の祖父が起こした行動に関係しているので、伏せておくことにした。

彼が質問しない事を確認したケリスが、次に『魂の契約』について説明する。

 

「そして、本題であり妾の目的でもある『魂の契約』とはその名の通り、貴公たち人間と妾たち悪魔の間で交わされる絶対の盟約のことでな。悪魔が契約した人間の欲望を叶えてやる代わりに、人間は契約した悪魔へ血液と貢物(みつぎもの)を譲渡することで結ばれるのだ。人間の叶えたい願望が大きく困難になればなるほど、必要となる血液の量は多くなり、悪魔に譲渡するべき貢物の価値は高価になる。また、当然のことであるが契約出来るのは一人一回だけ。契りの解約も不可能であるし、途中で内容の変更も許されぬ。でなければ世界の均衡が崩壊しかねないからな」

 

「なるほど……」

 

「理解出来たか? ここまでの内容で訊きたい事は何でも訊ねるが良い。勿論、ここまでで説明してない話があれば、それを訊ねてくれても構わんぞ」

 

そう促されて谷条は再び右手を上げて質問をする。

 

「えっと……。もし仮に僕がその『魂の契約』を結ぶと仮定して、僕の願いに応じた血液の量が出血多量で死亡するレベルだった場合はどうなるのでしょうか? そのまま死ぬしか無いのですか」

 

「ふむ…、貴公は大人しそうな見た目をしておきながら案外に強欲なのか?」

 

「うぁ……、えっと…………。あくまで、仮の話です……」

 

「ハッハッハッハ、すまぬ。ちょっとした冗談のつもりだったのだ。一度きりしか無い契約であるのに相場が分からぬのでは、不安で仕方あるまい」

 

高らかに笑ってみせると、ケリスは彼の質問に答えてやる。

 

「だが、たとえ死に至る量を要求されようとも不安に駆られる必要は無い。血液は一度で全てを妾たち悪魔に捧げる必要は無く、健康状態へ害を成さぬよう適度な頻度に分割される。ただし、契約を結んだ以上は必要な量を全て捧げるまで死ぬ事は許されぬがな」

 

「それなら良かったです。……では、次の質問ですが宜しいでしょうか?」

 

「うむ、構わん」

 

「どうして悪魔はそのような契約を結ぶのですか? 人間側にしかメリットが無いように思うのですが……」

 

「ふむ、そういう質問か…。……否、当然だが悪魔にもメリットはある——と言うよりも実は悪魔側の方がメリットは大きいのだ」

 

「えっ、そうなんですか?」

 

「一言に悪魔と言っても階級が存在しておるのだ。より安定した地位を求め、上の階級を目指そうと力を付けるならば、より多くの人間と契約を結ぶ必要がある」

 

「……つまり、上の階級に行けることがメリットなんですね。契約自体はその手段に過ぎないと言いますか…」

 

「まぁ、有り体に言うならばそうなるな。……それで、他にはあるか?」

 

「それじゃあ、はい。今更と言えば今更なのですが、……僕とケリスさんはどうして言葉が通じているのでしょうか?」

 

「……………………」

 

そう彼が質問した瞬間、ケリスは口を開けて唖然とした。至極当然の質問をしたつもりになっていた彼は、どうして自分が呆れられているような視線を向けられているのか不思議に思った。

 

「どうして、とな……。少し考えれば分かるであろうに、本気で申しておるのか? これはどうしたことか、随分と阿呆(あほう)な人間が彼奴の子孫におるものだな」

 

あんまりの言われ様にムッとした谷条だが、それを表にはせず黙ったままでいる。

 

「悪魔は人間と、——それこそ多くの者と契約を結ぶ目的があるのだぞ。老若男女を問わず、国境やら人種やらといった隔たりも関係無く。それなのに人間の用いる言葉を全て使いこなせずにいて、出来る限り多くの契約を結ぶなど不可能であろう」

 

「…………確かに……、そうですね」

 

ケリスの返答を聞いて、どうして呆れていたのかを彼は理解した。言われてみれば、しっかりと考えればわざわざ質問するまでもないような事だと納得は出来る。ただ、それでも言い方は少し優しくしてくれても良いのではないかと彼は思った。が、それを口にする事は控えて更に質問を投げかけることにした。

 

「それでは、最後の質問なのですが……。悪魔に性別があるのかは分からないですけど、男ですか? それとも女ですか?」

 

「……、そんな事が気になっておるのか? もしや貴公、妾のことが——」

 

「ち、違います違いますっ。そんなんじゃないです!」

 

ケリスが言わんとすることを先読みした谷条は両手を振って否定する。その反応を見た目の前の悪魔はつまらなさそうに舌打ちをして不満を漏らす。

 

「そんなに強く否定する必要もあるまいに。流石の妾でも、傷付くことはあるのだぞ」

 

「それは申し訳無いです。ただ、僕が愛しているのはただ一人——」

 

と、そこまで言いかけて彼の気持ちが落ち込んでいく。そのたった一人の恋人は、もう彼の傍にはいないのだ。悪魔の存在によって軽く忘れかけていた“現実(あくむ)”が、彼の背中へ重く圧(の)し掛かってきた。

 

「……妾は、人間で言うところの女にあたる。が、頑張れば男にもなれる。つまり妾にとって容姿というのは人間から視認さえして貰えれば何でも良い、魂のパッケージに過ぎないというわけでな」

 

「…………そう、なんですね……」

 

「……こら、貴公。己から訊ねてきておいてその反応は無かろうに。せめて、もう多少くらいは興味を持った風に装(よそお)ってみせんか」

 

「すみません、少々……色々とありまして…………」

 

「……ここまでの説明を聞いて、妾がここにおる理由がわかったであろう?」

 

「それは…まぁ、はい。何となくは……」

 

谷条の家系は代々、恋人を寝取られる性質を有していて、それをどうにかしようと彼の高祖父の祖父が目の前にいる悪魔、“ケリス”と契約を交わした。その彼女が、ビデオレターを見たその日に召喚されたということは——、

 

「僕と、『魂の契約』を結びに来た。……そういう事、ですよね」

 

言わずもがな、血液と何かしらの貢物を代償にして彼の願望を一つだけ叶えに来た。そして彼の願望の内容は十中八九、失った恋人に関することになる。

 

「然り。妾はここへ来る前に、貴公の事情をある程度までは把握しておる。……して、貴公は妾と契約を結んで何を願う? 貴公が望めば、何(・)で(・)も(・)も叶うのだぞ」

 

「…………、何でも……ですか?」

 

彼が問い返すと、ケリスはゆっくりと頷いて答える。

 

「ああ、本当に何でも叶う。……ただし、あまりに無茶な願いや度を過ぎた望みを要求すれば、死ぬことは無くとも手痛い出費を支払うことになるが…、どうする?」

 

念を押すように改めて答えを迫る悪魔、ケリス。

彼女の甘く蕩けるような声が谷条の脳に浸透し、彼の内側からどす黒い欲望が湧き上がってくる。

 

(彼女を——、身律さんを取り戻したい。……何としてでも、……どんな手段を用いる事になっても…………)

 

そうしてふと頭に浮かんだ願望を口にしようとした、その刹那——。

 

(……いや、待てよ…………)

 

机に置かれていたCDを読み込んだプレイヤーの方に視線を向けて、彼は自分のこれまでを思い起こし、契約する事を前提としたこれから先の可能性について思案し始めた。

 

(ここで仮に、『彼女の恋心を自分に向けさせたい』と願ったらどうなるだろう……)

これは最も手っ取り早く恋人を取り戻せる手段であり、悪魔の言う事を鵜吞みにするのであれば最も確実な手段でもある。だが、仮に他の人間が悪魔の召喚について知り、それが歴島に恋焦がれている人物だとしたらどうなるのか——。

すると恐らく、契約を上書きされかねない。代償を支払って彼女の精神を悪魔が操作し、彼女の想いが自分に向かった時点で契約としては完了した形となる。その上で他者が彼女の精神に干渉した際、それを阻害する効力は無いと想定した方が良い。とすると、自分は恋人を取り返す唯一の手段を失った直後で第三者によって再び恋人を失う羽目になる。

——これでは駄目だ。

 

「……? おい? おーい、貴公? ……寝てしまったのか?」

 

彼に近づいたケリスは呼びかけながら眼前で手を振った。だが、真剣に思考している谷条の目と耳は完全に外界との交流を断絶しており、一切の反応も示さない。

 

(なら、『永遠に彼女の恋心を自分に向けさせたい』と願うのはどうだろう……)

これならば第三者の干渉を考慮せず、再び彼女と結ばれ続けることが可能かもしれない。時間という縛りも無く、それで手っ取り早い手段である。だが、その時自分の心はどうなっているのか——。

この場合では恐らく、自分が彼女への想いを失ってしまいかねない。他人の感情や思考を本来から大きく歪ませて思い通りにする、それも時間の制限無く永久に。そんな願望を実現しようとするならば、どれだけ大きな代償を支払うことになるというのか。全財産を支払って済ませられるような契約ならば、貧乏人であればあるほど有利な話になる。そもそも『価値が高価になる』と言っていたが、金塊やら財産やらといったものが必ずしも悪魔にとっても高価なものになるという保証は無い。であれば、金銭などでは到底測りきれない概念めいた物を要求され得る可能性は充分にあり、それが彼女へ向けている自分の恋心とされても何ら不思議ではない。

——これでは駄目だ。

 

(もっと…………、もっと確実で、それでいて支払う代償を可能な限り小さくできる契約内容は、何だろうか……)

 

「……え、本当に? 立ったまま寝ちゃってるの? 器用過ぎない?」

 

(何か…………、何か大事なことを……見落としている気がする……)

 

ぐるぐると思考が巡り回って、彼はふと映像の断片を思い出す。それは、歴島と狭間が彼の寝室で性行為に励んでいた時の言葉だった。

 

『…このっ、ひとのぉっ、おちんぽがぁっ、きもちっ…よくてぇっ……、あにゃた…を、んほぉっ! うら……ぎっちゃい、まひたぁ……』

 

彼女にとっては特別でも何でもない、ただの行為の感想でしかなかっただろう。だが、この台詞(セリフ)が谷条の脳裏へ蘇った瞬間に稲妻が迸(ほとばし)り、天地が転覆する程(Revolutionary)の世界の真理(Answer)が五臓六腑を駆け巡った。

 

「……………………そうだ、ちんぽ……なんだ」

 

「は?」

 

どうしてこんな簡単なことを気づくのに時間をかけていたのか、彼は自分の思考力が乏しいことに心底呆れかえった。

そう、この世界は凸(チンコ)と凹(マンコ)で出来ている。無性生殖の生物もいるだろうが、そういった矮小(わいしょう)な存在は今この瞬間において全く関係が無い。人間というものはその二つの上に成り立っているのだ。“食欲”・“睡眠欲”・“性欲”、誰しもが持っている三大欲求の内の一つがこの世界の真理である。

 

「……………………」

 

「え、どうしたの本当に。……どうしよう、こんな時間でも精神病院って受け付けは終わってないのかな。取り敢えず救急車は呼んでおいた方が良いの?」

 

ケリスは意味不明な単語を発した直後に再びフリーズした谷条の奇行に慌てふためいていたが、当然の如く彼は外界の情報をシャットアウトしたままで認識していなかった。

彼は先程まで、愛だの恋だのといった理想に拘り続けた末に最愛の恋人を同僚のナイスガイに盗られてしまったことを思い出す。そう、現状ではあの男のイチモツの方が彼の愚息よりも優れている。故に彼女の心を射止める事が出来たのだと、彼は本気で考えている。

 

(ならば、正解はこれだったんだ……。『彼女の膣に最も合うイチモツを手に入れる』事が僕に打てる唯一で最善の、……神の一手……)

 

「えぇーっと、救急車は何番だったっけ。確か、……パトカー呼ぶのとかなり近かった覚えがあるんだけど、……思い出せないなぁ」

 

ケリスは彼の携帯電話を片手に救急車を呼び出そうとしているが、相変わらず谷条はまるで気づいていない。それよりも彼は、願いの内容を考えるのに精一杯だった。

 

(しかし……やっぱり、そんな願い事をしたらどんな代償が伴うのだろうか。世界の真理に触れるような願望なんて……それこそ、彼女への想いを失う事になって当然だ……)

彼にとっての関門はそこで、代償がどれ程大きくなるのか。——この一点のみだ。そこさえ越えてしまえば、彼には勝機しか無い。だが、この一点が非常に険しい道のりであり、如何に要求のグレードを下げようとも必ず真理(チンコ)に関する内容である以上は莫大なリスクを伴うことになる。

 

(…………僕は、一体何を考えていたんだ……)

 

ふと、彼は正気に戻って考え直した。

彼女を失ったのは彼自身が未熟で、理想主義者であったが為に引き起こされた結果。つまり、悪魔と如何様(いかよう)な契約を結ぼうと、神仏に如何様(いかよう)な祈りを捧げようと、自分自身から変わらなければいつか再び同じ過ちを繰り返す。

 

「…………決めました」

 

ポツリと、彼は言った。自分で導き出した、ケリスへの答えを。

 

「えっ? 決めたって…………あぁ、オッホン。……よかろう、であれば聞かせて貰おうかの。貴公が妾と結ぶ、契約の内容を——」

 

突如正常に戻った彼の様子を見て咳払いを一つしたケリスは彼の携帯電話を置いて彼と向き直る。そして、威厳ある顔つきになった彼女が彼に問いかけた。

そんな彼が返した答えは、彼女の想定から大きく逸脱したものだった。

 

「契約は、……結べません」

 

「…………、……今…………何と?」

 

「僕が願うものは、契約して得るものではありません。ですから、契約を結ぶことは出来ません」

 

静かに言い放った彼の言葉を聞いて、ケリスがゆっくりと歩み寄る。そして彼の袖を掴んで訊ねる。

 

「……恋人を、奪われたのであろう? 取り戻したくはないのか?」

 

「取り戻したいです、今すぐにでも」

 

「…………っ、だったら——」

 

言いかける彼女の肩に手を置いて首を横に振る。

 

「それでは、駄目なんです。……僕自身が変わらないと、意味が無い事なんです」

 

諭(さと)すように言った彼は膝を折って、彼女と目線を合わせた。それはまるで、駄々をこねる娘に優しく言い聞かせている父親のようであった。

 

「この事態は僕の怠慢が引き起こした結果で、彼女の愛に胡坐(あぐら)をかいていた僕に対する罰なんですよ。……ですから、残念ながら契約は結べません。呼び出されて帰らせるというのも心苦しいですが、僕には契約を結ぶ資格が無いです。…………ですが、ここで逢えたのも何かの縁ですし、僕が変わっていくのをどうか……ずっと応援していてはくれないでしょうか?」

 

「……………………」

 

想定外の返答に不服そうで嫌そうな表情を見せながらも、暫く唸った後にケリスが諦めて溜め息を吐いた。

 

「……仕方無い、貴公がそう決めたのなら妾に言う事は無い。契約を結ぶのは両者の同意が必須であるから口惜しくはあるが、貴公の言う通り……応援に徹することにしよう」

 

「ありがとうございます」

 

悪魔らしからぬ、慈愛に満ちた表情でそう言ったケリスに谷条は頭を下げて感謝した。

しかし未だに諦めきれない部分があるのか、彼女は興味本位の確認程度に訊ねる。

 

「だが、本当に良いのか? あんなに悩んでおったのだから、何かしらの候補はあったのではないか?」

 

「それは——」

 

そこを指摘されて、彼は口を噤(つぐ)む。あまり触れられたくはない事だった。

そんな彼の反応を見た彼女は内心でほくそ笑むと、更に追撃する。

 

「別に契約を必ず結べとは言わん。しかし、どんな内容なのかを言ってみるだけでも構わんのではないか? 両者の合意が無ければ契約は成立しないのだから、妾に言うだけ言ってみよ。代償が不安なら見積もってもやれるぞ」

 

「そ、れは——」

 

彼女の提案は、彼にとって甘過ぎる言葉だった。現に、自分を変えなければならないと考えているのは事実だが、契約を渋った理由の最たるものは悪魔へ捧げる貢物という代償の大きさだった。彼女の甘い言葉が頭の奥まで染み入るように浸透していく。

 

「確認するくらいは無料だぞ。無理なら無理で、契約を結ばなければ良いだけの話なのだから、貴公に不利は一つも無いと思うが」

 

「いや、ですが…………。……恥ずかしい内容で——」

 

「む? 恥ずかしい内容で契約を結ぼうとしておったのか? もしかして妾と——」

 

「ちっ、違いますって。…………ただ、あまりにも愚かで愚かで仕方のない事を考えていただけです。笑われたく…………ないので……」

 

俯きながらそう言う彼の様子を見て、「あともう少しだな」と彼女は思った。

 

「……わかった、決して笑わないとここに誓おう。仮に妾が笑ったならば、妾の責任として契約を結ぶ際の貢物は無しとしてやろう。ここだけの出血大サービスだぞ?」

 

並大抵のことでは笑わない自信があった彼女は勝ちを確信する。人間の考えそうな事は凡そ予想が付けられるのだ。寧ろ、予想通り過ぎて笑ってしまわないかという心配が生じるくらいには、自分の予想を超える内容が出ないだろうと高を括(くく)っていた。

 

「…………それなら、…………言ってみるだけなら……」

 

「ああ、どんと来い」

 

彼女は平たい胸を叩いて彼の言葉に耳を傾けた。そして、覚悟を決めた彼はゆっくりと口を開いて答える。

 

「…………チンコを、……彼女の膣と最良の相性に、…………して欲しくて……」

 

「……………………、は?」

 

彼の解答は、彼女の予想を遥か彼方まで超えていた。予想外にも程があり、彼女の思考は全くもって理解が追いついていなかった。

 

「やっぱり、愚かでしたよね……こんな契約内容…………」

 

「まぁ…………そうであるな……。…………かなり、桁外れに……」

 

「ですよね……。チンコを恋人……元恋人の膣と最も相性が良いものに変えるだなんて。そんな……、世界の真理を侵すような真似…………」

 

「そう……………………、は?」

 

隙を生じぬ二段構えに、ケリスの脳は宇宙を感じた。ここまで理解が及ばない存在は、長らく人間を見てきた彼女であっても初めての逸材だった。

思考が完全放置されたままのケリスを置いてけぼりにして、彼は話し続ける。

 

「彼女の膣と自分のチンコとの相性を良くするだなんて事、普通に考えてとんでもない代償が伴いますよね。それも、他の誰もが超えられないような物に創り変えるなんて、簡単に踏み込んで良い領域なわけがないですよ」

 

「……………………、……つまり…………代償が軽ければ、その……契約を結んでも良いということか?」

 

「えっと…………、自分を変えたいっていうのもありますが……。はい……」

 

「そうか…………。ちなみに、貢物の重さとしてはどこまでなら捧げられる、という線引きはあるのか?」

 

「まぁ、その…………彼女への愛情さえ失わなければ……取り敢えずは支払えます」

 

「……………………そうか……」

 

彼の返答を聞いて、ケリスはどうにか思考を働かせて情報をまとめる。

まず彼の欲望を叶える代償として、彼が危惧している『彼女への愛情』というのはあまりにも大きすぎる。流石にそこは超えないだろうと、彼女は見積もる。

次に彼の変わりたいという考えについて、納得の出来るであろう折衷案を彼女はすぐに思いついた。彼と契約を結ばせる自信が、彼女としては大いにあった。

ただ気持ち的にこの契約を結ぶことを彼女が躊躇(ためら)った。彼女の中で、この契約を結んだ瞬間に悪魔としての自分が穢(けが)されるような気がしたのだ。

 

(でも、契約せずに帰るのはもっと不味い…………というかほぼ不可能だし……)

 

契約とプライドを天秤にかけ、思い悩んだ末に彼女は苦渋の決断で彼と契約を結ぶことにした。

 

「……貴公、少し提案があるのだが良いだろうか?」

 

「? えぇ、はい。……何でしょうか」

 

「貴公の考えを考慮した内容で契約を結べないだろうか。まず、内容としては『貴公が自分自身の努力でイチモツを、彼女の膣に最適なモノへ作り変える』というものだ。これならば貴公が努力すればした分だけ叶うのが早くなり、少なくとも貴公が寿命を迎える前には望んだ通りのイチモツを得られる。ただしその時彼女が存命であるという保証は無く、急ぐに越したことは無い」

 

「なるほど。……ですが、代償はどうなるでしょうか? そんな真理への冒涜、本当に許されるのでしょうか?」

 

「……………………、そうだな……。そこに関して貴公が心配することは一つも無い。叶った瞬間に恋情が冷めたり、途中過程でイチモツを欠損したり、というようなことは無いから安心して欲しい。何かしらは失うであろうが、貴公の目的からは大きく逸れたものになると妾は見積もっておる」

 

「そうですか…………」

 

「それで、どうだろうか? 契約を結んでは、貰えないだろうか……」

 

ケリスは一通り説明し終え、彼に頭を下げる。

正直な話、彼女としては断られたなら断られたで構わないが、やはり契約は結べるだけ結んでおきたかった。

 

「……………………、わかりました。その内容で、契約を結びます」

 

「…………そうか。……それは、…良かった…………」

 

暫し悩んだ結果、谷条はケリスの提案した内容で『魂の契約』を結ぶことに決めた。その答えを聞いた彼女は、ひどく複雑な表情を浮かべて喜んだ。

 

(これは喜ぶべき事なのかな…………)

 

彼女の頭は混乱し、早くも契約を結んでしまったことに後悔の念すら立ち上って来た。

 

「…………では、血液はまた後日貰いに来させていただく。今宵はこれにて失礼——」

 

「あぁ、ちょっと待ってください」

 

早く帰って気持ちを落ち着けかせたかった彼女を、彼は呼び止めた。気怠い気持ちを押し殺しつつ、彼の方を見た。

 

「明日から、僕が頑張るのを手伝っていただけますか?」

 

「……………………あぁ、構わんぞ」

 

一刻も早く帰りたかった彼女は二つ返事で了承した。その返答を聞いた谷条が嬉しそうな表情をして、深々と頭を下げた。

 

「…………では、失礼させて貰う」

 

とにかくすぐにでも帰って休みたかった彼女は、彼に背を向けて今度こそ魔法陣で魔界に帰って行った。部屋に来た時と全く同じ光景が広がった後、彼の家は再び静寂が訪れる。だが、ケリスの来訪前後で谷条の心情は雲泥の差があった。心を弾ませながら、彼は寝室へと向かって行った。

一方で、彼と契約とは別の口約束を交わしたケリスはその翌日から、激しい後悔に襲われることになるのだが、今はまだ知る由も無かった。

 

◆◆◆

 

そして『魂の契約』を交わした翌日、仕事が休みであった谷条はケリスが現れるのを待っていた。結局、あの後に彼は中々眠りに付けず携帯電話で自分のイチモツを“大きくする方法”や“射精コントロールのコツ”等といった情報を只管にリークしていたのだ。

時計の短針が10時を指し示した頃、リビングに突如として魔法陣が現れる。それが眩い光を放った直後、昨晩と変わらぬ姿の悪魔——ケリスが顕現した。

 

「待たせたか、貴公。…………人間界と魔界とでは時間の進みが異なる故、貴公の活動時間に合わせるのがかなり難しいのだが……」

 

「いえいえ、待っていませんとも。ようこそいらっしゃいました、ケリス様」

 

「……急に態度を変えてどうした、気持ち悪い。契約前は随分とフレンドリーに接してきた癖に、一体どういう気持ちの変化なのだ?」

 

「気持ちの変化などではございません。ただ、本日は契約の内容に関しているとは言っても、僕個人のお願いで来ていただいていますので、…はい。本日からケリス様は僕の大切なお客様です」

 

「むう、敬われるのは当然なのだが……少しむず痒いな」

 

変に恭しい彼の態度と言葉遣いが生理的に気持ち悪く、彼女はポリポリと頭を搔く。そして大事な要件を思い出した彼女が手を叩き、その要件を彼に伝えた。

 

「そう言えば貴公、妾に捧げる血液の量が決まったぞ」

 

「そうですか。…………わかりました、どれだけ必要なのですか?」

 

「貴公が分かるように言えば、ざっと十リットル程度だ」

 

「…………もろ致死量じゃないです? それ」

 

「まぁ一度で支払う必要があったならば、確実に死んでおっただろうな」

 

想定していた量を大幅に超えるくらいの血液を請求されて谷条が素でツッコむ。だが彼女は頷きながらそう言うと、彼の認識が甘いことを指摘する。

 

「だがな、欲望が必ず叶うのだぞ? 分割して捧げる物であるのだから、これくらいの量は要求されても当然であろう」

 

「それは…………まぁ、はい。……おっしゃる通りです」

 

それを聞いて彼は納得する。寧ろ、世界の真理に抵触するような欲望で契約したつもりになっている彼からすれば、桁が少なすぎて逆に不安を覚えるくらいであった。

 

「……わかりました。それで、血液はいつ捧げれば良いのでしょうか?」

 

「うむ、妾は定期的に貴公の前に現れる。貴公の健康状態を維持することを加味して計算すれば年に三回から四回程度が目安で、凡そ八年はかかる事になるな」

 

「わかりました。それではどうぞ、一思いにガブっと血液をお飲みくださいっ」

 

詳細を把握した彼はそう言って頭を下げると、彼女の前に右腕を勢いよく差し出した。それも、彼女が噛みつきやすいように袖を捲(ま)くって素肌を晒していた。

 

「…………貴公、妾を吸血鬼(ヴァンパイア)か何かと勘違いしておるだろう。確かに生き血は飲むが、直接口を付けたりはせんぞ」

 

根本的に盛大な誤りを抱えている彼に呆れながら、ケリスは何も無い空間から巨大な注射器に似た円柱状の容器を取り出す。そして、一切の容赦なく思い切り彼の腕に針の先端を突き刺した。

 

「っ、痛ぁっ!」

 

寸分の狂いも無く彼の血管に突き刺さったそれは、みるみる内に容器の内部へと彼の鮮血を吸い出していく。急速に血を失っている彼は眩暈がしそうになる。

 

「…………、こんなもので良いか」

 

暫く血を抜き取っていたケリスがそう言って、乱雑に針を引き抜く。それによって悪魔の所業とも思える採血が終わった。終始、慈悲の欠片も無い鬼畜への献血に多少の恐怖感を覚えながら谷条は自分の腕にタオルを巻いて力一杯押さえて止血する。

 

「そんなに大袈裟な事をする必要は無いぞ。すぐに血は止まろう」

 

横暴な物言いの彼女だが、不思議な事に出血量は大したこと無かった。針の太さからは考えられない程、瞬く間に注射痕は瘡蓋(かさぶた)となって出血を防いでいたのだ。

目の前で起こる摩訶不思議な光景をまじまじと見ていた彼に、容器をどこかへ仕舞ったケリスが訊ねる。

 

「して、貴公は妾に手伝って欲しいことがあったのではないか?」

 

「あぁ………、はい。手伝って欲しいです」

 

「ならば手伝ってやろう。乗り掛かった舟だ、貴公の気が済むまでどんな事でも受け止めてみせよう」

 

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

「うむ。………、それで妾はどうすれば良い?」

 

興味深そうな表情で問いかける彼女に、谷条は満面の笑みで答えた。

 

「はいっ、僕(・)の(・)精(・)液(・)を(・)飲(・)ん(・)で(・)欲(・)し(・)い(・)で(・)す(・)!」

 

その瞬間、場の空気が凍て付いた。興味深そうな表情が段々と真顔に、そして馬鹿馬鹿しい物を見るような表情へと変わっていき、ケリスが溜め息を吐いて振り返る。

 

「…………帰らせてもらう」

 

「ちょっ!? 何でですかっ!」

 

冷めた声色で言い捨てて魔法陣を展開しようとした彼女の腕を引っ掴んで、必死な形相の彼が引き留める。

 

「離せっ、この愚か者っ。吸血鬼の次は、妾を淫魔(サキュバス)扱いかっ! 貴公のような無礼者に構ってなどおられるかっ、帰らせろっ」

 

「ちょっ、違いますっ。そうではないです!」

 

「では何だと言うのかっ! 妾を納得させられる理由があるなら話してみせよ、出来るものならばだがなぁっ!」

 

「話します、話しますから! 少し落ち着いて下さいっ」

 

断固拒否し続けるケリスを宥(なだ)めること、小一時間。彼の懸命な説得の甲斐あって、どうにか話を聞くくらいの落ち着きを取り戻させた。

そうして、彼は自分がそういう考えに至った経緯を彼女に説明する。

 

「元々からそうだったのか、狭間さんがそうさせたのか、それ自体は僕にも分かないのですが、今の彼女が恋人を選ぶ基準は確実に真理(チンコ)の形とセックスの技術です。つまり、彼女を取り戻すにはそれらを一から鍛え上げないといけないんです」

 

「…………、どうしてその結論に至ったのかを小一時間ほど問い詰めたいところではあるが、今は一先ず置いておこう。……で、どうして妾が貴公の精液なぞを飲まねばならん」

 

「え、…………だって勿体ないじゃないですか。精子が可哀そう」

 

「妾の知った事か! それに、貴公はこれまで精子を無駄にした事が無いと申すのか」

 

「それは、…………そうですけど……」

 

反論の余地も無い正論で返され、彼は押し黙った。だが、それでも世界の真理へと辿り着いた彼に要求を引っ込める気など更々無かった。多少強引であろうと、彼女を折れさせなければならない。そんな使命感に囚われている。

 

「……でも、確かに昨晩言ったじゃないですか。僕が頑張るのを手伝っても構わない、って言いましたよね? あれは嘘だったんですか?」

 

「そう捲(まく)し立てるな、鬱陶しい。確かにそう約束はしたが、まさかそんな内容であったとは思わなかったからで——」

 

「えぇー、想定外だったら反故にするんですかー。最初にどんな内容なのかを訊きもしなかったのにー、それは酷くないですかー。悪魔ってそんなものなんですねー」

 

「なぁっ!? 好き勝手なことをベラベラと宣いよってからに……」

 

本物の悪魔よりも悪魔みたいな理屈で挑発する谷条に、ケリスは顔を真っ赤にして怒る。悪魔としての位が低かった所為か、彼女の煽り耐性は下手な人間よりも雑魚だった。好き放題に言われた彼女はまんまと彼の口車に乗せられる。

 

「よぉし、そこまで言うのなら良かろう。妾を馬鹿にしたことを後悔するくらいに精液でも小便でも、リットル単位でがぶ飲みやるわい。この野郎!」

 

「本当ですかっ! ありがとうございますっ!」

 

予想外の食いつきっぷりに少し驚きながらも、彼は彼女に礼を述べる。

ただ、彼の要求は彼女にとって必ずしも悪い話ではなかった。契約の際に血液を要求する悪魔だが、それは自分たちの力を強める為に必要なのだ。そして、力を強めるという意味では男の精子や女の卵子でもある程度の代替は可能である。ただし量の過不足に厳しく、また質の良し悪しが大きく影響する上に、それらを好むのは淫魔であり悪魔ではない。

平均的な悪魔としてのプライドを有している彼女に抵抗はあるものの、契約とは別で力を付けられるならば断固拒否する程でも無く、飲み過ぎなければ問題も無い。それに何よりも、目の前の人間にコケにされて黙ってなどいられなかった。寧ろ、契約者である人間から馬鹿にされて見下されることの方が、彼女にとってよほど大問題であり彼女の沽券(こけん)に関わる。

 

「……それで、しゃぶれば良いのか?」

 

とにかく今日という日を早めに終わらせたかった彼女は、徐(おもむろ)に彼のズボンを脱がせながら問いかける。思っていたよりも食い気味に手伝おうとしてくれている彼女に少し面食らった様子を見せながら、彼は頷いて答えた。

 

「はい、お願いします。今まで彼女にフェラを頼んだことは無かったので、勝手が分からないんですけど……取り敢えず今日は、五分以上耐えることを目標にします。平均的に、それぐらいで限界が来てしまうので……」

 

「……はぁ、…………はいはい。それじゃあ、精々頑張りなさい」

 

「……? ありがとう、ございます……」

 

唐突に口調が変わったケリスを不審がりつつも、協力してくれる彼女に谷条は感謝を述べた。だが、彼女は特に何も反応せず準備を進める。

気怠そうな様子で彼の陰茎を露出させ、深く溜め息を吐いた後に彼女は一気に咥え込む。その瞬間、彼は全身の力を奪われたような感覚に見舞われた。

 

「——っ!?」

 

訳が分からないまま脱力して倒れかけた身体を彼女に支えられ、イチモツを咥える彼女の口が吸い付くように密着してくる。うねる粘膜が波打っているようで、人間の女性器を思わせるような快感に彼は一瞬で意識が飛びそうになった。

 

「っくぅ…………、っんはぁぁ——」

 

だが、歯を食いしばって消えてしまいそうになっている意識を繋ぎ止める。そして、意識を保った彼は別の物を飛ばしてしまう。

 

「っ、んふぅ…………」

 

十秒にも満たない時間の中、彼は悪魔の口淫で果ててしまった。一週間以上は溜めていた精液が狭い口腔へ解き放たれ、彼女の口端から僅かに白濁の粘液が溢れている。ケリスは喉を鳴らして彼の放った精液をゆっくりと嚥下(えんげ)した。

浅い呼吸を繰り返す谷条を床に寝かせて、彼女は上から見下ろす。

 

「確かに早い、……早過ぎる。こんなのじゃあ捨てられて当然ね。わたしが相手でも、最低一分は持たせなさい。今の目標はそこよ」

 

冷徹な声で蔑(さげす)まれた彼だが、何も言い返すことができない。

彼が息を整えている間にも彼女はすぐに陰茎を咥えようとする。あまりの展開に目を回しそうな彼は、声を振り絞った。

 

「……………………ま、…………待っ——」

 

「んじゅる……」

 

だが、その声が届くよりも速く彼の男根は再び温かな空間に包まれる。再度訪れる強烈な刺激で彼のイチモツはピクピク震えた。

休む暇さえ無い責めを受けに、それでも何とか堪えようと頑張る彼だったが、相手の送ってくる快感はレベルが違う。手も足も出せないまま、彼はすぐに精を出してしまった。

秒単位で二度も達した谷条を、ケリスはまだまだ解放しない。

情け容赦が微塵も無い訓練を、彼は何時間にも渡って強いられることとなった。

 

(……今日はこんなもので良いか…………)

 

ケリスによる過酷な性感トレーニングが終わる頃には、明るかった空もすっかりと暗い紅に染まっていた。初めて口にした人間の精が思っていたよりも美味しく感じられた彼女は少し興奮していたらしく、ふと気になって見た谷条の身体は少しやつれている。

途中で栄養補給の為に水と食料を適当に手に取って彼の口内へ押し込んだのだが、それを超える搾精をしてしまっていたようだった。

 

「……………………」

 

目を見開いたままビクビクと痙攣している彼を流し見て、彼女は静かに言い捨てた。

 

「次来る時までにはもう少し耐えられるようにしておきなさい。……彼女への想いがまだ残っているなら、ね…………」

 

そうして彼に背を向けたまま、歩いて行き魔法陣を展開した後に魔界へと帰って行った。

取り残された谷条は半ば意識が無い状態だった。しかし、彼女の残した言葉はしっかりと彼の脳内にこびり付き、明日の為の燃料として彼の心を熱く燃やす。

 

◆◆◆

 

「……よろしく、……お願いします…………」

 

谷条の一族と遥か昔の代から『魂の契約』を結んできた悪魔“ケリス”と壱が契約して、早くも一年が経過していた。最初は週に一回程度の頻度で彼の自分磨きという名のセックストレーニングに付き合っていた彼女も、いつごろからか毎日のように彼の家へと訪れるようになり、累計で血液よりも何倍何十倍という量の飲精をこなしてきた。それだけ頻繁に精を搾り取られた為か、以前よりも目に見えてやつれていた谷条だったが契約の影響もあってそれに見合うだけの効果が出始めた。

最初はただの一分も耐える事が難しかった彼のイチモツは徐々に快感を受け入れ、馴染んできた末に今ではチントレ開始当初の目標を超えて十分間も耐えられるようになった。

 

「……本当、逞(たくま)しいモノになったわね…………」

 

ケリスが恍惚とした目で見つめながら、硬くそそり立っている彼の陰茎を撫でる。そのサイズは以前よりも僅かに大きくなっており、また本人に自覚は無いが契約の影響によって歴島 身律の膣と抜群に相性が良いゴツゴツ感や反り返り具合,亀頭比率を獲得した。

ここに至るまで、彼は血と涙、そして精液の滲むような苦労と努力を欠かさず続けてきたのだ。ケリスがいない日は図書館に出向いたりして『イチモツを大きくするための情報』や『女性を喜ばせるための情報』等を収集して座学に努めたり、オナホールに炭酸水を入れて扱(しご)く『炭酸オナニー』や、発射する精液の量と勢いを調整する『尿道締め』に、抽挿のスピードとパワーを高める『感謝の性チン衝(づ)き』等を毎日熟(こな)した。

それだけでなく、彼女の代わりに紹介された他の淫魔とも様々なテクニックや行為のコツ等を彼自身の身体へ直接叩き込まれた。これが最も辛かったと言っても過言ではなく、恋人への想いを保ちながら淫魔からの責めに耐えるのは困難を極めた。

そんな特訓の効果もあってか彼の男根は常にフェロモンを漂わせるようになり、悪魔としての尊厳を忘れかけるほどにケリスすらも魅了させられる。

 

「それじゃあ、……本当に良いのね」

 

「はい。挿入れさせて下さい、お願いします……」

 

そして今日、二人は一糸まとわぬ姿で向き合っていた。どうしてそうなっているのかと言うと、想定よりも大幅に契約の完了が早く済んで欲望が叶ったことを実感する為のテストをしようとしているのだ。あくまでも元恋人の歴島と行為をする事こそが彼にとっては本番な訳だが、そのリハーサルとして彼はこれからケリスと交わる。

厳しい特訓と激しい快楽に晒され続けながらもたった一人の女性だけを愛してきた彼が、遂にその女性とは別の女性(悪魔)と関係を持つのだ。だが、それもその女性を愛しているが故に、奪われた彼女を取り戻す為——。彼の根底にあるそれだけは、今でも変わっていない。

 

「それじゃあ、始めるわよ…………」

 

「はい」

 

彼女が確認してそれに谷条が頷くと、二人はゆっくりと唇を重ねる。

昔の彼であれば恋人以外とキスをするなど言語道断であったが、恋愛に対する偶像と固定観念を捨て去った今の彼に嫌悪感は無かった。それに今でも、彼が愛しているのは歴島という女性——ただ一人である。

 

「んぷ……はぁ、ぁむ……ちゅる、ちゅむ……ぷぁ…。はぷ…、んむぅ…ちゅぱ、んふ…っん、れる…じゅる…、ぢゅるるっ…んぱぁっ」

 

優しく唇を触れ合わせるのも束の間、すぐに二人はお互いに相手の口へと舌を挿しこんで絡めさせる。相手の舌を唇で優しく挟み、甘い蜜を啜るように相手の涎を味わう。悪魔の舌は淫らに動いて彼の口内にある快感ポイントを的確に舐めて回る。そのあまりの気持ち良さに身体が大きく震えた。快楽に敗けてしまいそうな心へ鞭を打ち、反撃とばかりに今度は彼が彼女の口内を舌で責めていく。

 

「んっ、んふぅぅっ! ふぅ、んむぅ…じゅるるっ」

 

彼女の知り合いである淫魔から直々にレクチャーを受けた舌技で彼女の口腔を舐(ねぶ)る。縦横無尽に絶妙な力加減で気持ちの良いスポットを次々に刺激されるケリスは、思わず両肩をビクンと震えさせた。

両者の実力はほぼほぼ互角。一進一退の攻防を繰り返す二人は、口の端から涎が零れるのも厭(いと)わず互いの舌を絡めては激しく求め合うように強く吸い上げる。人外の存在であるケリスとここまでの善戦を繰り広げている彼の技術は、まさに淫魔と並ぶ程のものにまで昇華していた。

 

「——んはぁぁぁっ!?」

 

このままでは埒が明かないと判断したケリスが急に彼の陰茎を優しく握りしめた。思わぬところから襲い来る刺激に彼は声を漏らし、真っ直ぐに屹立させている息子がビクビクと目に見えて激しく震える。

そしてそのまま、彼女は彼の肉棒を愛でるように撫で扱く。柔らかい掌が敏感な亀頭やカリ首,裏筋を擦り上げる度に、電流のような刺激が痺れる快感として彼の脳へと響いてくる。気を抜けば射精してしまいそうな程の快楽に包まれ、彼は必死に自分と肉棒を律して耐える。

ただ、股間へ意識を集中させてしまったことによって舌の動きが僅かに鈍る。その瞬間を彼女は見逃さない。

 

「んじゅるっ、じゅぷっ、じゅるるるるるっっ」

 

口内を蹂躙(じゅうりん)する舌の動きが激しさを増し、彼女は怒涛の勢いで彼の口粘膜を通じて快感を送り付けた。一瞬にして両者の均衡状態が崩れ、瞬く間にケリスが優位に立った。

 

「んっ、んっ、……んふぅ…………。じゅぷ…じゅぶぶ……」

 

頭が蕩けそうな気持ち良さが直撃してしまった谷条だったが、上下から襲ってくる快楽の津波をギリギリのところで耐えきる。だが、実力の近い者同士で一度パワーバランスが傾くと戦況を立て直すのはかなり厳しく、彼女からの一方的とも思える責めを耐え続けなければならない状況を彼は強いられた。

イチモツを優しく、時に激しく刺激されながら口内を蹂躙される快感。そのまま呑み込まれてしまいそうな肉悦の中、それでも彼は頭を懸命にフル回転させて勝利の糸口を模索する。

 

「ぢゅるっ、じゅずずっ…じゅぷ、じゅぞぞぞっ」

 

段々と激しさを増していく彼女のキス。勝負を仕掛けに来た彼女は彼の唇を完全に塞ぎ、鼻以外の空気の流れを遮断した。そして彼からの抵抗を絶対に許さない、暴風雨のような責めから全身に伝わる快楽の洪水。最早、彼に抗う術は無い。

——そう、彼女は思っていた。

 

「んふぅぅっっ!!??」

 

彼女は責める事に集中するあまり、忘れてしまっていた。彼には淫魔仕込みの手マン技術があることを。そして、彼女は今——人間の女性と身体の構造が殆ど同じであることを。

彼との口付けで興奮しきっていた彼女の割れ目は愛液で溢れかえっており、唐突に捩じ込まれた彼の指をすんなり受け入れた。

 

「んっ、んふぅっ、んんっっ!!」

 

秘部へ指を挿れてしまえば、もう彼のターンだった。寝る間を削ってまで叩き込まれた淫魔の手淫は凄まじく、グチュグチュといやらしい水音を立てて膣壁を擦ると面白いように彼女の腰が痙攣する。彼のデモンストレーションを、より正確なシチュエーションでしてあげる為に人間と大差ない構造へ自分の身体を変化させたことが仇となり、悪魔であれば耐えられたであろう快感にケリスは身を悶えさせた。

 

(これっ…………ずるいぃ……っ、~~っ)

 

自分から性器への刺激を始めたことは棚に上げ、彼女は現状を打開しようと力を籠める。誇り高き悪魔である彼女が人間と性行為をし、無様に絶頂させられるなんて事は許されるはずが無かった。

内なる力で身体を再構築し、彼女は自分の身体を変化させる。——ただ、今更悪魔の身体に戻すことを躊躇った彼女は陰核を急激に膨張させて、男性器へと変化させた。自らの性別を彼と同性である男に変えることで、彼の性的興奮を萎えさせようと考えたのだ。本来であれば膣を消し去りたかった彼女だが、彼に責められているそこへ力を上手く集中させることが出来ず、断念した。

よって中途半端な変身を遂げた彼女だったが、男根を見せれば彼を一瞬でも萎えさせられるだろうと考えていた。しかし、上下を同時に責められて激しい性的な興奮を覚えていた彼に彼女の行動は悪手でしかなかった。

 

「っ、んあぁぁぁっっっ!!?? ……っんむぅぅっ!」

 

彼の逞しくて広い掌が彼女と同じ様にケリスの股座に生えた肉棒を優しく包み込み、上へ下へと擦り上げる。その快感に思わず口を離してしまった彼女の唇は、彼の唇によって塞がれた。——形勢逆転、彼女はキスだけでなく、女性器からも男性器からも人間業ではない刺激を与えられ、刹那の間に腰から全身へと震えが伝わっていく。

それでも態勢を立て直そうと、谷条のイチモツと口内を責めにいこうとしたケリス。だが彼から送られる性的興奮によってそれは阻害され、遂には彼の肉棒を扱く手すら止まってしまった。

 

「あっ、まっ、ぁぁっ、ちょっ…とっ、待っ——」

 

ケリスは自身の判断ミスによって自爆し、敢え無く限界を迎えた。

淫魔に仕込まれた彼の手淫や接吻の技術は凄まじく、三ヶ所を同時に責められた彼女は艶やかな喘ぎ声を漏らし、程なくして大きく膨らんだ陰茎から白濁を吐き出す。激しく全身を痙攣させつつも、彼女は彼の口の中で必死に声を抑えていた。

谷条が唇を離すと彼女は口を大きく開けて懸命に空気を取り込んでは吐き出す。肩を大きく動かしながら荒げた呼吸を正しつつ、絶頂の余韻で細かく痙攣させ続けた。

 

「……はっ、……はっ、……はっ、……っ…はぁ。…んっ、…ふぁっ」

 

彼女が要所要所で選択を誤ったこともあったが、谷条が自分の手で悪魔を絶頂させたことに変わりは無い。彼はここ一年間で積み重ねた努力による自分の確かな成長を実感していた。

また、彼は何の抵抗も無く彼女が生やした竿を扱いたことが少し意外だった。彼は別に、他人のイチモツに対して特別な嫌悪感や忌避感を抱いているわけでな無いが、かと言って無意識的に触ろうとする性的な趣味嗜好があるわけでも無い。ただ、気が付いた時には彼女の肉棒を握っていたのだ。

そういった自分自身の変化に多少の違和感を覚えつつ、足元で身体を小刻みに痙攣させながら絶頂の余韻に浸っているケリスに視線を向けた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……、んっ…………はぁ……」

 

彼女は既にある程度まで呼吸を整えており、意識もはっきりとしているようだった。普通の人間であれば淫魔直伝のテクニックで三ヶ所を同時に責められようものなら、暫くの間は呼吸が落ち着かない上に意識も戻ってこられないはずだが、流石は悪魔といったところだろう。

はっきりと意思のある双眸で、彼女は他人の方へ目線を送ると言った。

 

「…………どうしたの、早く犯(ヤ)りなさい。まさか今更になって怖気づいた、とか言わないでしょうね」

 

「っ、まさかそんな事は…………。ただ、少し休んだ方が良いのかと——」

 

「そんなガチガチにイチモツをおっ勃てながら恰好付けてるんじゃないわよ。…………、オッホン。……それとも、貴公は妾の貧相な身体では興奮出来ぬと申すのか? この巨乳性愛者(マモフィリア)め」

 

「——っ」

 

久し振りに威厳を見せつけようと取り繕った口調と声色で彼を挑発するケリス。彼女が放った言葉は、巨乳だからと歴島を好きになったわけではない彼の心に深く刺さり、彼から冷静さを奪った。

彼女の挑発によって我を忘れた谷条が彼女の上へ覆い被さると、そのまま小さな割れ目へと怒張した陰茎を強引に捩じ込んだ。

 

「——ひぐぅぅっ……」

 

勢い任せにイチモツを挿入された彼女が小さく悲鳴を漏らした。そして彼の肉棒に温かな柔肉が絡みつく感触に包まれて、彼はふと我に返る。悪魔の挑発に乗せられた彼が正気に戻って結合部を確認すると、ぱっくりと開いた割れ目から彼の陰茎を伝って赤い液体が床へ滴っていた。しかし、彼のイチモツが傷ついて出血したわけではない。

 

「…っ、もしかして…………初めて、だったんですか?」

 

その流血は間違い無く、人間としての身体を構築しているケリスが破瓜したことを示していた。彼が心配したような慌てているような声で訊ねると、顔に笑みを浮かべて答える。

 

「そんなこと……態々訊くまでも無く分かろうて。悪魔が人と交わるなど、そうそうある事では無いのだぞ。ここまで手伝っている妾に感謝して、光栄に思うが良い」

 

「どうして…………、僕の為に……そこまで…………」

 

悪魔としての誇りを持っていた彼女が、乗り掛かった舟だからとここまでするような性格には思えなかった彼は声を震わせながら更に問いかける。恋愛観において過去の自分が持っていた理想や固定観念は全て捨て去ったつもりになっていた彼だが、『女性にとっての“初めて”とは大切なもの』という認識だけは捨てられていなかったようだ。

そんな彼の顔を見つめながら、ケリスは少し小馬鹿にしたような声色で言った。

 

「最初に言ったはずであろう? 悪魔にとって容姿というのは魂のパッケージに過ぎん、とな。それに破れればその度に身体を再構築すれば良いのだから、処女膜など減るものでもない。貴公は少し、物事を重く捉え過ぎだな」

 

何でも無さそうにそう言われては、彼も黙ることしか出来なかった。

 

「……ただな、だからと言って妾が誰かれ構わず腰を振るつもりなどあるはずも無い。悪魔の性分として人間が堕落していく姿を見るのが生き甲斐だった妾は、逆に努力家が成功する様を見るのは正直つまらん。……なのだが、貴公が一人の女の為に奮起しておる姿を見ているのは、不思議と嫌いではなかったからな。処女膜(これ)は…まぁ、その褒美のような物だと思って貰ってくれんか」

 

あっけらかんとした様子で胸の内を語った彼女の頬が僅かに赤くなるのを、彼は見逃さなかった。彼女のいじらしさに彼は目頭が熱くなるのを感じる。

 

「…………動きますね」

 

「あぁ、貴公の好きなように動いて構わん。妾を最愛の人間と見立てて、本気でよがらせに来るのだぞ」

 

彼女の後押しを貰って、彼はゆっくりと腰を引く。彼女の体格からただでさえキツいことが想定できた彼女の蜜壺は、処女を散らしたばかりということも相まってギュウギュウと彼のイチモツを痛いくらいに締め付けて、決して離さないように肉の襞々が一つ一つ密着している。

 

「くっ、うぁぁ…………」

「んぅっ、んんっ…、はぁぁ……」

 

そんな膣内から引き抜こうとするのだから、柔らかな肉の襞が彼の陰茎を隅々まで擦って刺激してくる。以前の彼であればこの段階で射精して力が尽き果てていたところだが、悪魔や淫魔といった存在との過酷なトレーニングを一年間も耐えてきた彼は余裕を持って行為を続けていられる。

彼女が最も敏感に感じられるポイントを探しながら、ゆっくりと丁寧に膣壁をイチモツ全体で擦り上げる。

 

「はぁ…、あぁ…、んっ…、ひぁっ…、くぅ…、ふっ…はぁっ…」

 

腰を振って膣を刺激しつつ、彼は他の部位への責めも忘れない。ケリスの主張控えめ——というより平らな胸をフェザータッチで撫でながら、先端の方へと指を動かす。

 

「んひぅぅぅぅっ、…あぁっ…………それ……いいぃ…………」

 

そうして乳輪の周囲を撫で回し、焦らしていく。絶妙な力加減、刺激するべき場所を叩きこまれた彼は悪魔相手に実践する。そうすると、段々と彼女の方にも変化が現れる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、んっ、んぁっ、ひぅっ、へぁっ、ああっ——」

 

もどかしい場所を責められ続ける彼女の表情が少しずつ蕩けていく。これが正しいのだと確認した彼はその動きを暫く続ける。こうすることで、肉体面からくる性的興奮を促すらしい。

 

「——っ、んんぅぅぅっっ!」

 

焦らすような乳責めを続けながら、彼のイチモツが彼女のとある部分を擦った瞬間に彼女は激しく反応した。彼女の弱点を見つけたようだ。

 

「……へぇ、ここが良いんですか?」

 

「んぅっ、んっ、ぅんっ! そこぉっ…、そこがいぃ……」

 

演技ではないかと疑うくらいに彼女は強く感じているようだった。そんな彼女を見ていると、やはり自分の実力にまだ不安を抱えている彼は少し方針を変えた。

 

「はぁ…、…………? …、なんでぇ…………」

 

そこで腰の動きをピタッと止めて、乳輪周りや陰核を指で刺激する方に専念する。ただし決して絶頂させないように、力加減を精密にコントロールしながら彼女へ絶妙な快感を与え続けた。

そうすると彼女の息が更に乱れ出し、彼の陰茎を咥えている膣内がビクビクと痙攣し始める。じわじわと愛液が滲み出てきて粘度の高い透明な液体が結合部分からポタポタと零れてくる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…んっ。あぁ…」

 

「どうしたんですか? 動いてないのに、おマンコから汁が零れてますよ。悪魔のくせに本当、いやらしい穴ですね」

 

彼女の反応を楽しむように、彼は囁き声で罵倒を交えつつ実況する。言葉責めを合間に挟むことで、精神的な興奮を高めさせて更に身体が感じやすくするらしい。

その効果は覿面(てきめん)で、彼女はゾワゾワと背筋を走る性的な高揚を覚えた。小さく身体を震わせて、蜜壺から溢れる粘液の量が増す。

 

「んぁぁ……、は…やくぅ…………。はやく…………、うごきなさい……よぉ……」

 

もどかしさに苛立ち始めた彼女が谷条を睨む。だが、その眼は快感で蕩けているようで覇気が無く、更なる快楽を強請(ねだ)っているようにも見えた。

 

「まだ駄目ですよ。もう少し我慢してください」

 

「んぁぁっ。……っ、……ちょう、しにぃ…………のるなぁ……。あぁぁっ……」

 

「少し静かにして貰いますね…………、はむっ」

 

「んんっ! んむぅ、んっ…………じゅぷ、んぶぅ……じゅるるっ」

 

彼女の口を自分の唇で塞いだ彼は、そのまま彼女の口内を舌で舐め回して涎を吸い出す。先程のキスよりかなり手加減をして彼女が感じ過ぎないように気を付けているが、それでも彼女はビクビクと身体を震わせて快感に悶えていた。

そのまま焦らすこと数分、身体が本能的に快楽を求め始めた彼女の秘部からはダラダラと愛液を溢し続け、既に床の上には水溜まりが出来てきている。一切腰を動かしていないのにも拘らず、彼女の息が過呼吸気味に乱れてきた。

 

「ぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ——」

 

人間としての身体であっても性的な刺激にはある程度の耐性を有している悪魔の彼女でも淫魔に教育された彼のテクニックに、意識が朦朧(もうろう)としてきていた。

演技とは思えない本気の感じっぷりを見て不安感を払拭した彼は、漸(ようや)く腰をゆっくりと動かし始める。

 

「んあぁっ!!」

 

時間を置いて再び刺激される膣内の感覚に彼女の腰が浮いた。痺れるような甘い電流が全身を駆け巡り、彼女の脳は性の悦びで打ち震える。正常な意識も溶かされそうな錯覚を受けて視界が霞む。

 

「あぁっ、はぁっ、んっ、やぁっ、ぅあっ、あぁっ、んぅっ、んおぁっ——」

 

パンパンパンとテンポ良く尻肉へ腰を叩き付け、彼女の膣内から粘液を掻き出す。

性的興奮が高まった証拠なのかドロドロの粘液が白く濁り始める。それは、『本気汁』と呼ばれるものだった。

 

(こんなに感じてくれているのか…………)

 

明確に表れる彼女の反応を見て嬉しく思った彼は、思わず腰を叩き付ける勢いが増した。

 

「ひう゛ぅぅっっっっ!!」

 

急に突き込まれる力が強まったため、膣奥まで逞しいイチモツがぶつかり彼女の口から潰れた声が漏れた。子宮を圧縮されるような衝撃が彼女を貫き、爆発的な快感に彼女の精神が吞み込まれかける。

 

「っ、すいませんっ。大丈夫ですか……」

 

意図せず強めの抽挿してしまった彼は謝罪を口にする。が、そんな彼を窘めるように彼女は鋭い眼光で射抜くと言った。

 

「きっ、こうっ…。あくま……、をぉ…なめる……なぁっ。もっ、とぉ……、ほんき…出さんかぁっ……」

 

「っ! っ、くぅぅっ——」

 

どう見ても余裕が無さそうな彼女だが、手抜きは許さないとばかりに膣内へ力を籠める。元々充分な締め付けだった彼女の膣が更に窄(すぼ)まり、尋常でないほどの快感が彼の脳へと走り抜けた。

それは彼の為か、それとも更に快楽を求めている彼女自身の身体の為か——。

 

「それじゃあっ、……本気で絶頂させますっ」

 

「ひぅぅぅっっ、んはぁっ、あっ、あっ、あっ、いいぃっっ…んひぁぁっっ!」

 

特訓の成果を彼女の見せつけるテストの総仕上げとして、彼は肉棒の出入りを一気に加速させてラストスパートをかける。痛みを覚えるほどに密着している肉と肉が擦れ合い、二人の身体中に快楽物質がドバドバと溢れ出してくる。両者は息を荒げながら、濁流のような快感に流されていく。

——太くて硬いイチモツが力強く子宮口を突っついてくるのが気持ち良い。——

——キツキツで温かな柔肉に包まれて抜いたり挿したりするのが気持ち良い。——

詳細な感覚は異なるが、相手の身体を貪る快感は両者の全身へと公平に流れてきた。

 

「んあぁっ、はぁぁっ、そっ、そこをぉっ、そこっ…いいぃぃっっ——」

 

膣内へ肉棒が押し込まれる度に先程見つけられた弱点を的確に擦り上げ、引き抜かれる度にも反り返った肉棒が同じ場所を抉るように引っ掻いて出ていく。一人の人間を取り戻す為に鍛え上げたイチモツは、悪魔の心でさえも快感の渦へと溺れさせられる。

それもこれも、彼女と『魂の契約』を結び、彼女が甲斐甲斐しい協力を続けてくれたからこそである。

 

(ありがとう、ございましたっ…………)

 

「っ、んむぅぅぅぅっ!」

 

胸から溢れそうな感謝の想いを乗せて腰を振り、彼女の唇と自身の唇を重ねる。だが、舌を入れたりはしない。優しく、それでいて力強く、ただ唇同士を触れ合わせた。

一時間近くに及ぶ行為の終幕が近づき、彼は高まっていく射精感を覚える。身体の内側からグツグツと湧き上がってくる白濁の奔流を抑えることなく、ガムシャラに彼女の生殖器を掻き回していく。

 

「んんっ、……ぷぁぁ、はぁっ、はぁっ、……っ、ふぁぁっ。……もう、だすのぉ……、だしちゃうのぉっ……?」

 

「はいっ、射精(だ)します! あなたのっ、膣内(なか)へ直接っ!」

 

「うんっ、ちょうだいっ……、なんどもっ、のんだぁっ……あなたのっ…せーしっ、わたしの…なかにぃっ……。いっぱい、そそいでぇっ」

 

取り繕う余裕も必要も無くなった彼女は、頷きながら彼に“おねだり”した。

堪らない愛おしさを噛み締めながら、谷条が火傷しそうな勢いでイチモツの出入りを繰り返す。あまりの激しさに彼女の愛液が泡立ち始め、割れ目から零れて止まらない二人の粘液が床に染み入る。

 

「はぁぁっっ、はぁぁぁぁっっっ!」

 

天へと昇り詰めていくような快感に彼の意識が微睡(まどろ)み、射精という解放感に向かって身体と精神が高まっていく。視界が白くぼやけてきて、膨らみきった肉棒から熱い迸りを感じた彼が咄嗟に尿道を窄める。

 

「でっ、射精(で)るぅぅぅぅっっっっっっっ!!」

「イクッ、絶頂(イ)カされるぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!!」

 

この一年で飽きる程に射精した彼だが、彼女の身体の中で達する快感は今までの人生でもトップクラスに心地よく、達成感に満ち溢れていた。狭めた尿道を熱々に煮え滾る子種汁(ザーメン)が流れ出し、彼女の子宮目掛けて解き放たれる。燃え盛る熱が彼女の膣内へと溢れては、割れ目から逆流してしまう。

このまま気絶してしまうのではないかという快楽と解放感に包まれて、彼の頬を一筋の雫が流れて落ちた。その雫が示す意味は、谷条本人を含めて誰にも分からない。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ、っ——」

 

陰茎の内部に残っていた残滓も残さず吐き出して、彼の身体がブルブルっと震えた。強制的な射精ではなく、久しぶりに「射精したい」と思って解き放つ欲望。直後に襲い来る疲労感や虚無感さえも、今の彼にとっては幸せに感じられるものだった。

荒くなった呼吸を整えつつ、一緒に高みへと昇り切ったケリスの方を谷条は見やる。すると、彼女もまた彼の顔をじっと見ていた。恍惚とした表情で潤んだ瞳を向け、忙しなく息を吐いている。小さな胸が何度も上下し、行為の激しさを物語っていた。

 

「はぁ……はぁ…。……最高に……気持ち良かったぞ、……貴公…………」

 

「…………僕もです、ケリス様……」

 

「……ハハハ、…………この様子であれば貴公の欲望は叶えられているであろう。……これにて妾はお役御免、といわけだな。貴公は…本当に…………一年間、よく耐えたな」

 

「ありがとうございます。でも、本当に叶っているんですかね……。確かに、形も硬さもかなり変わっているのでケリス様を疑っているわけじゃないんですけど、僕にはどうも実感が無くて…………」

 

「まぁ、それはそうであろうな。実際、本当にその女と行為をしておらん間は不安にもなるであろうな」

 

「はい。…………なので、失敗したらどうしようかと——」

 

「……、あまり深く悩むでない。禿げるぞ? どれだけ完璧な準備を整えようとも、本番で失敗しない可能性が無くなることはない。それまでにした事とその想いを知っておるのは、自分一人だけなのだ。そんな自分(貴公)が、自分(己)を信じてやらなくてどうするのだ?」

 

かなり呼吸も体力も回復したらしい彼女はそう言いながら立ち上がって、割れ目から零れる濃厚な子種汁を指で掬(すく)い取ると自分の口に運び舌の上へ乗せる。そしてそれをゆっくりと味わってから嚥下し、口角を上げて蕩けたような表情を浮かべた。

そのいやらしい姿は、悪魔というよりも完全に淫魔のそれであった。

 

(…………んん、相変わらず癖になる味だな。また欲しくなってしまう……)

 

淫魔のそれ、と形容したが事実として彼女の性質は半分近くが淫魔の方へと変化していたのだ。彼女にその自覚は無いが、谷条の精液を定期的に経口摂取していた事が大きな要因だった。

彼女が初めて交わった相手の体液をじっくりと堪能した彼女は、とても晴れ晴れとした表情で微笑むと彼に別れを告げた。

 

「それでは、達者でな。貴公の健闘を妾はしっかりと見守ってやるからな」

 

「はいっ。本当に、……本当にありがとうございましたっ!」

 

万感の思いで頭を下げ、溢れんばかりの感謝を彼女に伝える。その姿を見届けた彼女は徐に頷くと淡い紫色の光を放つ魔法陣を展開し、それが激しい光を発して強く輝く。そしてその光が弱まった時には、彼女の姿がどこにも無くなっている。そんな見慣れた光景が、彼には全く違って見えたのは錯覚だろうか——。

 

「僕は、——身律さんを取り戻してみせますよ。ケリス様」

 

一度射精したくらいでは納まりが付かなくなっていた彼の性欲が段々と高まり、かつて自分の傍から離れて行ってしまった女性へと向いた。

——今の僕なら確実に、彼女を誰よりも満足させられる。——

『魂の契約』によるものか、それとも彼女——ケリスと交わったことによるものか。彼はこれ以上無い程の自信と高揚感が身体の内から湧き上がってくるのを確かに感じていた。

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