◆◇◆
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いつからだろう。
彼のことが気になって眠れなくなったのは。
いつからだろう。
大義も魔女の性も、捨て去りたいと思うようになったのは。
いつからだろう。
強欲の魔女としてではなく、ただのエキドナとして彼と生きたいと思うようになったのは。
いつからだったのだろう。
……そんなこと、許されるはずがないのに。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私はこの世界でただ一人、生まれながらの魔女だった。
私の生まれには意味があり、大義があった。為すべきことが、為さねばならないことがあった。
それは世界の救済。
その為に天上より堕天して降りてきたのだ。その罪を背負ってでも、それは為さねばならないことだった。天上から加護を施すだけでは満足できなかった。天啓を示すだけでは事足りなかった。自分の手で声で言葉で、彼らを導きたかった。救いたかった。助けたかった。
それは偏に、私が人というものを愛していたからだ。
運命に抗う人々が好きだった。儚い人々が好きだった。
だから、戒律を破って地上に降りることに躊躇いはなかった。躊躇うことはなかった。地上への好奇心を抑えられなかった。それが許されざる大罪であると知っていながら、私はその強欲を抑えられなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
地上に降りて、赤子に宿り、母のお腹から生まれて、十年ほど生きた時、私は自分が『ニンゲン』になれないことを悟った。
生まれた傍から死ぬわけにはいかなかった。だから、私は死産になりそうだった母から無理やり生まれた。その結果、母は私を生んですぐに死んだ。
が、すぐに生き返らせた。私にかかればちょちょいのちょいだった。
しかし、結果として母はその後自害し、私は悪魔の子と呼ばれ、いいや、悪魔そのものと呼ばれた。──魔女と、そう呼ばれるようになるのも、そう遠い話ではなかった。
私には力があり、知識があった。だから生きていくことに関して然程困ることはなかった。肉体を急成長させ、食べなくても生きていられる体にし、その他すべてを力に頼って、地上を生きた。
食糧難で子供を捨てようとしていた村に食べ物を与えた。まだ堕胎の技術がなく、産みたくない子供を産んで邪魔になったからと捨てようとした母親から子供を預かった。
そうやって救った村がまた子供を捨てようとした。子供を捨てれば食料が手に入ると考えたようだ。合理的だ。しかしどこか、私の知っている『人間』とは違っていたように思う。私は次々と捨てられていく子供たちを預かった。
それからしばらくした頃だった。
魔女の子だ。
そう言って大国から派遣された兵士が子供たちを殺した。
預かり、育て育んだ子供たちが死んで、私は怒りよりも悲しみを感じた。それでも世界のどこかで捨てられ続ける子供を助けることを止めなかった。一部の子供は出ていき、一部の人間からは人の子をペットか何かとでも思っているのかとも言われた。しかし私には理解できなかった。人の子の命は尊いものだ。助けるのが当然だ。しかし、死んでしまっては仕方がない。今生きている子を助けよう。そう考えることの何が間違っているのだろうか。
子を殺した人間を殺そうとは思わない。
だって、人間は美しいのだから。
殺した人間のことだって、私はまだ美しいと思っていた。
人は過つが、やり直せる存在だと知っていたからだ。
たったの十年。それだけの時間で『強欲の魔女』という悪名は世界中に広がった。討伐隊だって組まれた。しかし、私はそのすべてを子供のように蹴散らした。
『力』も『加護』もなく、剣と槍だけ持った人間など相手にならない。
私は手の届く命を救い、守り、導いた。
しかし、いつだったか。
助けたはずの子供に背中から刺されたとき、──私は自分のしていたことが間違っていたことを知った。その時、好奇心とは違う。疑問が生まれたのだ。
人とは、何であるのかと。
どうして、人は人同士で争うのか。
食物連鎖の頂点に立ってしまったからか? 天敵がいなくなってしまったからか? 共通の敵がいなければ人は協力して生きられないのか?
疑問は新たな知見の呼び鐘となった。
自分が見ていた世界は、天上より見下ろしていた美しい世界は、──実のところ綺麗なだけではなかったことを理解した。
人が、理解できなくなった。
どうして、不合理に争うのか。
『感情』とは、なんなのだろう。
どうして、憎むのか。
私にはわからない。
私にはわからなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
生まれてから二百年が経った。
私は懲りずに人を助けていた。
しかし、それは最早惰性に近かった。
助けたいからというより、そうするのが正しいから助ける。それが役目だから、それが生まれた意味だから。そんな惰性が私の無為な行為を続けさせていた。
そんなある日、この世界に同胞が生まれた。
新たなる『魔女』の到来だ。
私と同じく『大罪』を背負う少女……ではなかった。
彼女は、『氷結の魔女』と名乗った。
名を『サテラ』。
私の生まれて初めての、対等な友人だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
サテラという友人ができて、私は変わった。
彼女はとてもお人好しだった。
彼女とともに人を助けるうちに、私の中で今までとは違う価値観が生まれた。
合理的でない彼女の優しさが、私が美しいと感じた世界そのものだったから。
彼女は人を救いたいのではなく、ほうっておけないのだ。
それもあなたの為じゃないんだからね、なんて相手への気遣いまでして人助けを否定する。
すべては自分の為になるから、自分の為なのだと。
私はそれを、美しいと思った。
私も、使命だの大義だのとは言わず、助けたいから助ける、それでいいのではないかと。
私は、変わった。
ああ、思えばその頃からだったのかもしれない。
私に、『エキドナ』としての意識が芽生えたのは。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
それから、色々なことがあった。
私の持つ『力』──オドラグナのかけらである精霊のように世界を満たし管理する『マナ』を扱う術を人間に教えたり、私のような異分子を排除する為に『剣聖』などという特異点が生まれたり、世界の外より異邦人、いいや異邦龍がやってきたりと、本当に色々なことがあったのだ。
それから続々と『魔女』が生まれ、とうとう七つのうち六人の魔女が揃った。
彼女らは、私にとって大切な友人だった。
月に一度は『魔女の茶会』と称して集まった。
純真なテュフォン、過保護なセクメト、奔放なダフネ、内気なカーミラ。
彼女たちの起こす問題を、私と『サテラ』で止める。それが私たちの日常だった。
私と違い、人を裁こうとするテュフォン。
私と違い、個を愛するセクメト。
私と違い、口減らしを行うダフネ。
私と違い、人以外の愛も尊ぶカーミラ。
私と違い、魂より命を優先するミネルヴァ。
そうして、私と違い、人に寄り添うサテラ。
皆が皆、私と違う信念をもって時代を生きた。
それを私は心地よく感じていた。
皆と過ごす日々に私は変わった。
死にたくないと、思うようになった。
そうして、死んで欲しくないとも思うようになった。
自分も、他人も、死なせない。選び取る。それは、なんとも強欲な答えで、私らしい答えだった。
故に、当初は私がすべての魔女因子を取り込み賢者となろうとしていた計画を止めた。
しかし、世界の為に生贄は必要だ。
だから、私は、呼んだのだ。
私の愛するこの世界の人間ではなく、私の知らない、『魔女因子に適合する素養』を持った──異世界の人間を。
召喚は成功した。
呼んだ彼には魂の繋がりがなく、故に愛情を抱くこともなかった。
──良かった、これで安心して彼を生贄にできる。
私は確かに、そう思っていたはずだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いつからだろう。
彼と過ごす日々を愛おしく思ったのは。
いつからだろう。
生贄にされることを自覚していながら、まるでそれが当たり前ように、世界を救うことに協力し自己を犠牲にすることを厭わない彼に、好意を抱いたのは。
いつからだろう。
彼の気を引こうと、『ボク』なんて一人称を使うようになったのは。
ああ、あれはサテラと双子みたいだと言われて差別化を図ろうとしたのだったか……。
いつからだろう。
いつから、だったのだろう。
どうして彼だったのだろう。
いつからか私は、まだ見ぬ人類よりも、身近な彼らと面白おかしく平凡に生きていきたいと思うようになっていた。
世界は救う。それは彼らとこれからも共に生きる為。
彼を生贄にはしない。何か別の方法を考える。
すべては大切な友人たちとの平凡な日々の為。
その、ちっぽけな強欲の末。
──お人好しな彼女が、彼に代わって『嫉妬の魔女因子』を取り込んだ。
私の強欲が、大切な日々を終わらせた。
私が、人類の半分を犠牲にすることで世界を生きながらえさせようとしていることを知った彼女は、自らを生贄としようとした。適正もないのに『嫉妬』を取り込んだサテラは狂い、『嫉妬の魔女』として覚醒した。
友人が、友人が、友人が、友人が影に飲み込まれていくのを見ていた。
『嫉妬の魔女』を殺そうとする数多の龍をただ一人で大瀑布へ叩き落とし、自らもまた大瀑布に落ちた友人がいた。
狂い、泣き喚きながらも、世界を飲み込み、救済しようとする、『救済の魔女』と成り果てた友人が、否、親友だったものがいた。
奇特で心優しい『龍』と、綺麗な女に目がない『棒振り』、そして、彼女を誰よりも思う『彼』が、私の指揮のもと、彼女を封印するために動いた。
私の強欲は、何一つ叶わず、私は、『六つの魔女因子を取り込んだ彼を犠牲にする』ことでようやくただ一人の、命だけを、その可能性を繋ぎとめることができたのだ。
すべて失った。
すべては、私の強欲故に。
犠牲にならなければいけなかったのは、私だった。
私が私の命を顧みなければ、無謀な待望を抱かなければ、する気もない人類の生贄計画など立てなければ、──醜い強欲を抑えられていたなら、今も彼らは平穏に過ごせていたのではないのか。
すべては過ぎたこと。過ぎ去ってしまった出来事。
決して時間が巻き戻ることはない。やり直すことはできない。
それでも、やらなければならない。
彼も彼女も、すべてを台無しにして、私だけが生き残った。
生き残ってしまった。
残ったのは、嫉妬に狂い永劫苦しみ続ける親友と、きっとまた会うという彼との約束だけ。
だから、私は──。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「──あ゛ァァァぁぁああっ♡」
「──ふぅ」
記憶が、見えた。
長い、長い記憶だ。
今まで一度だってこんなに長い記憶を見たことはない。
ケツ穴を抉り、雄汁を吐き出し、魂をマグワせる。
与える『愛』、受け取る『記憶』。
それがクピドの暴食。
やればやるほど互いを理解していく。
「そら、まだたったの七回だぞ。まだまだいけるだろ?」
「──はぁ……はぁ……っ♡」
エキドナの眼はどこも見ておらず、呆然としている。
与えられる愛に酔い、奪われていく自分に疲弊してる。
エキドナは困惑し、疲労し、抵抗すらできずにいる。
凄まじい快楽、技量、権能。
理由はたくさんあるが、何より、
──もっと、もっと……してほしい。
そう思い始めている自分の思考に戸惑っている。
止まらない汗をかき、ザーメンでぐちゅぐちゅになって、すでに小慣なれてきてしまったお尻の穴を容赦なく突かれ、乳首も胸も適度にどこまでも感じるように弄られて最早何をされても感じるようになってしまった。
それに──
「おら、下品に鳴いて媚びて見せろ」
パンッ、そんな音が響くと、
「んああぁぁぁぁああッ♡♡♡」
エキドナが一際強く喘ぐ。
それは思い切りお尻を叩いた音。痛みを感じなくなっているエキドナに、それは刺激的に過ぎた。叩かれれば強く潮を吹き、アナルを締め、男を喜ばせるような下品な喘ぎ声を披露する。
パン、パンと叩き、ストロークを繰り返し、アナルのいいとこを突き、何度も何度も、徹底的に、心が折れるまでイかせる。
「ああぁぁっ♡ あっ♡ ぐっ♡ ぃぃぃいっ♡ ──ああっ♡」
耐えられるはずもなく、すでにエキドナは五十を超える回数絶頂を迎えていた。
思考は微睡、身体は勝手に更なる快楽を、──膣での中出しを求め、権能によって、目的や思考、自分が今感じている快楽すらも理解され、丸裸にされている。
まさしく肉体、思考、魂、そのすべてを掌握されている状況にある。
それでも、それでも、
「──それ、れもッ♡♡」
「──わたしはっ♡」
「──大義っ♡ お゛っ♡♡」
彼女はまだ、挿れてくださいとは口にしない。
「……」
「約束だからか」
「そうらっ♡」
「世界を救うためか」
「そう、だっ♡」
「──ただ一人の親友を見捨ててか」
「──そうだッ!! うぐっ♡♡」
「もう、我儘は言えないか」
「そうだよっ♡ もうっ♡ あっ♡ わたしの、強欲でぇっ♡ 世界を危険にさらすわけにはっ♡ ──ああっ♡」
「嫉妬の魔女を救うのは諦めるのか」
「……彼女は……もうダメだ。もう助からないっ、だから、殺してあげるしかっ──あ゛っ♡」
「──親友を殺す覚悟をしておいて、自分だけ男と幸せになることはできないか」
「……………………そう、だよ…………そんなこと、できるわけ、ないじゃないか……わたしは、そんな恥知らずな魔女でありたく、ないっ」
「…………なるほどな」
無理やりイかせるようなピストンを緩め、スローペースに切り替えたクピドは会話する。
記憶を共有、というよりは一方的にわかった過去の背景。
見えた『彼』の存在。『彼女』の存在。『エキドナ』という少女の存在。
そうして、『強欲の魔女』という存在。
強欲の魔女、それは彼女の過去であり、今だ。
原初の強欲、初めの願い。
彼女は地上で生きるうちにその強欲が増えた。
彼女の生き様を鑑みれば特段不思議なことではない。
欲望など、降って湧いて増え続けるものだ。
しかし、彼女は強欲であるがゆえに、二律背反な、矛盾した強欲をも叶えようとした。
それが失敗したことで、『エキドナ』は否定された。
故に、今の彼女は『強欲の魔女』として生きているのだ。
それはなんとも、
「──馬鹿みてぇな話だな」
「なん、だって──?」
「馬鹿みてぇだって言ったんだ、よッ!」
「──ぐっ♡ 何が、君に何がわかるっ!」
「わかりたくもねぇなぁ! そんなどっちつかずな強欲! ビビってるもいいとこだ!」
「私がッ、何をっ」
「──俺は、魔女としてのお前も、女としてのお前も、愛してやるってんだよ」
「…………」
「女として生きてぇんだろ? そんでもって世界も、その彼女ってやらも救いてぇんだろ? なぁ、エキドナ。欲しいもんはぜんぶだ。そうでなきゃ、強欲じゃねぇ」
「…………そんなこと」
「──できないってか? できなかったんだろうな。お前には。お前だけじゃねぇ、お前も、トカゲも、脳筋も、そんで過去のオレも」
「…………え?」
「だが関係ねぇ、関係ねぇんだ。お前が望むなら、俺が叶えてやる。この強欲のクピドが、お前の強欲を肯定してやる」
「ま、待てっ、今君はッ」
「だから関係ねえんだって。……お前はただ言えばいいんだよ。頼ればいいんだ」
──俺に、お前の強欲も背負わせてくれ。
「…………どうして」
「俺がお前を──強欲で、一生懸命で、人のこと言えないくらいお人好しなお前を、大好きだからだ。愛してるからだ。泣かせたくねぇってそう思うからだよ!」
「…………そんなの、そんなこと言われたって……許されるはずないじゃないか、彼女をおいて、世界を見捨てて、そんなのっ、そんなことっ!」
「だぁから、──俺が救ってやる。サテラも世界も、どっちも俺が救ってやる」
「そんなこと……」
「──できないとでも? ──俺は強欲のクピドだぜ?」
「……………できるのか? そんな、都合のいいこと」
「──やってやるさ。良かったな、お前は一人じゃない」
「わた、しは……」
「俺がいて、お前もいれば、やってやれねぇことはねぇ──手を貸してくれるか、エキドナ」
「……──はい」
それは、きっと、凝り固まった心を、冷えて凍えた心を、温め、凝りほぐすだけのことだったのだと思う。ただ、それが四百年越えのものだっただけで。
心の底では、受け入れたかったのだ。認めたかったのだ。喜びたかったのだ。
また、彼と会えたことを。
また、みんなで暮らせることを。
まだ、彼女の為に、できることがあることを。
今度こそ、彼と想いを遂げられることを。
本当は嬉しかった。愛してると言われて、魔女としての自分も、女としての自分も受け入れてもらえて、好きだと言ってもらえて、手を貸してくれと言ってくれて、一人じゃないと言ってくれて、嬉しかった。
本当に、心の底から、嬉しかったんだ。
いいのだろうか。
まだ、諦めなくて。いいのだろうか、これ以上を望んで、ハッピーエンドを望んで、いいのだろうか。
「──俺はその為にいるんだ。君を幸せにする為に」
その声の懐かしさと暖かさに、最後の抵抗心が解かれて、
気づけば、ボクはそれを口にしていた。
「──ボクの中に、挿れてください」
「──エキドナ、好きだ」
それ以上の言葉は要らなかった。
クピドとエキドナの唇が、今初めて重なり、同時に、体も重なった。
◆◇◆
これがまごうことなきEMT(エキドナたんまじの天使の略)
もしかしたら次回のタイトルもEMTかもしれない。
エキドナたんマゾ天使で。
※我ながら過去捏造がひどいね。天上から、観覧者が地上に降りてくることが堕天だとしたらクピドはなんなんだよ。まぁ、オドラグナとの繋がりを断ち切ることを堕天というのであればまぁ、なくはないか。
過去に関しては原作とまったくもって違うし明かされてる情報に対して辻褄が全然合わないこともわかってるんだけど……正直、エミリアの母親の情報がかけらもない時点でお手上げなんですよね。個人的にミネルヴァがエミリアの母親とは考えてないので。だいぶあり得るけど、個人的にそうであって欲しくはないんですよねぇ。まぁとにかく、わからない分妄想は捗った結果こうなりましたとさ。
第五回 どんなのが一番読みたいですか~。凌辱が多い気がしなくもないけど……きっと気のせい!
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