「エミリアが好きだ! 今までも、これからも、君の傍にいたい! 君に傍にいてほしい! 君と一緒にいたい! 君と一緒に生きていきたい! 魔女の差別なんて知ったことか! ハーフエルフの偏見なんて知ったことか! 俺は君が、エミリアが好きだ! 優しくてお人好しな君が好きだ! いつも頑張ってる君が好きだ! 怒った顔も可愛い君が好きだ! 泣き方がへたくそな君が、抱きしめたくなるくらい好きだ! 好きだ好きだ大好きだ! いくら言っても言い足りないくらい君が好きだ!」
「わたしでっ、いいの……? 私、ハーフエルフで……魔女のけいるいで、すごーくわがままで、自分勝手で、ほんと……私自身も嫌になっちゃうくらいだめだめで……」
「君が自分を千回だめだめだって嘆くなら、俺は君の凄いところを二千回言う。可愛くて、キュートで、天使な君が俺にとってどれだけ凄い女の子かってことを何回でも言い続けてやる」
「すばる……っ」
「俺の名前はナツキスバル。オレの大好きな、君の名前を教えてほしい」
「……エミ、リア」
「ああ」
「エミリアっ」
「ああ!」
「私の名前はエミリア! すばるが想ってくれる、好きでいてくれる、ただのエミリア! 私はっ、魔女なんかじゃない……っ!」
「──ああ、そうだ。俺が超好きで、大好きな女の子は、魔女だなんて名前じゃない。君はエミリアだよ。どこにいても、誰といても、いつの君も、君は君だ。それだけは絶対、間違いじゃない」
劇的な場面じゃない。
特別な夜でもない。
でも、いつだって大切な時間だった。
想いを伝え、受け入れられる。
そして返ってくる想いを受け取る。
好きと伝える勇気があった。
嫌だと告げる強さがあった。
わからないと答える弱さがあった。
しかし、今、ようやく想いは成された。
結実し、こうして花開く。
花咲くような彼女の笑みは、頬を伝う涙は、満天の星空のごとく美しかった。
何でもない、されど特別な夜に、望月の下、二人の男女が手を結び、言葉を交わし、想いを交わす。
二人の瞳に写るのは互いだけ。瞳の中にいる彼は照れくさそうに笑い、瞳の中の彼女は嬉しそうに気恥ずかしそうに、そうしてはにかむように微笑んだ。
「エミリア、俺と結婚して欲しい」
「はいっ」
世界にとって、それは喜ばしいことではなかったかもしれない。
むしろ妬ましく、いとましいことなのかもしれない。
決して交わってはならない運命の邂逅。
始めてはならない物語。
それでも、ただ一人の女の子と、ただ一人の男の子の逢瀬を、誰が阻めるというのだろう。
世界にとってどれだけ特別でも、互いにとってはただ一人の少年少女でしかない。
だから、今はただ祝おう。
二人の幸せな門出に万雷の祝福を。
それがたとえ、終わりの始まりであったとしても。
◆◇◆
「エ~ミリアたん」
「なあに?」
後ろから軽く抱き着いたスバルに対してエミリアはかわいらしく小首をかしげて応えた。
内心『かわいいいぃぃぃぃぃ!! E・M・T!
……傍目にもわかるほど鼻の下を伸ばしているスバルを見て、はたして意味があるのかはわからないが。
「今日のご飯は何かな?」
「ふふっ今日はクルシュさんと一緒にシチューを作ってみたの」
「シチュー!? ……って、クルシュさんと?」
スバルが大好きな料理シリーズ堂々の一位、それは自分のお嫁さんが作った料理だ。なので、シチューと聞いて弾むように喜んだそのあとで、声に出して喜ぶのを急静止して、話題に出た人の名前を口に出した。
すると、エミリアに抱き着くスバルの背後から声がかかった。
「──ナツキスバル」
「おわっ!? クルシュさん! いつからそこに!?」
「クルシュ」
驚きに慌てふためくスバルの問いには答えず、むっすりとした顔で腕を組む彼女がそこにはいた。その美しく可憐な緑の髪と深い知性を宿した琥珀の瞳を見れば、誰であろうと一目でわかるであろうこの国きっての美女、クルシュ・カルステン公爵その人だ。
「あのー、クルシュさん? どうかされましたでしょうか……? なんだか、背後におっかない空気が見えるんですが? 何事!?」
「クルシュだ。三度は言わないぞ、ナツキスバル」
「お、おう……おはようさんだな……クルシュ」
「うむ」
さすがに二度言われれば意図を理解したスバルはおちゃらけた態度をひそめ、敬称を外して彼女を呼んだ。すると、クルシュは満足そうに一つ頷き、おっかない空気をひそめた。
しかし、おっかない空気こそなくなったものの未だにご立腹そうなクルシュは、困ったように眉をひそめてスバルに問うた。
「卿はいつまで嫁に対して敬称を付ける気だ?」
「いやあ、ははは……クルシュってばこう、大人! って感じがするからどうにもな」
スバルの本心としてはまだクルシュに対して負い目のようなもの、成り行きとこちらの都合で嫁になってもらった手前、気を置かずに接するのが難しかった。
なにせスバルは日本の中流階級の一般家庭で生まれた男児であるからして、公爵令嬢、否、カルステン公爵家現当主である彼女との会話は総じて難易度が高かった。
要するに、日和っていたのである。
ナツキスバルの日和見主義が今回は大いに悪い方向に作用していた。
スバルが適当なごまかしの言葉を返すと、クルシュは困った顔から一転、悲しそうに眉を下げた。彼女はスバルの言葉にごまかしの風を感じたからだ。
「……それは私が年増だと言いたいのか? 確かに、卿の嫁の中では私が最年長だが……我が家の大黒柱は卿なのだぞ? 私に対して遜る必要はない。それとも……年上の私とは対等に接せられないか?」
「違う違う! そういうんじゃなくて! ……悪い。俺また適当なこと言った、ごめんな」
「んっ」
嫁が深く落ち込んでいることをすぐさま理解したスバルは心からの謝罪を口にしながら、クルシュの体を抱きしめた。それはさながら雨に濡れた愛犬を人肌で温めるようなハグであり、スバルの中に一切の不純な気持ちはなかった。
抱きしめられたクルシュは驚き、安心、羞恥の順に表情を変えていき、次第に落ち着いたように彼の腕の中におさまった。
「クルシュは超かっこ良くて、クールで美人な俺の嫁さんだよ。俺には勿体ないくらいにな。だからまだちょっと現実味が湧かないだけで……」
「……それは結局私を対等に見られていないということでは?」
「うっ」
痛いところを突かれたというように胸を押さえて半歩さがるスバル。離れていった温もりに少し物足りない顔をしたクルシュだったが、貴族の一員らしく気持ちを切り替えスバルに接した。
「……ベッドの上ではあれだけ積極的になる癖に、昼間の卿はどうにも弱気だな。そんな卿のことも嫌いではないが、私はもっと遠慮なく接してほしいと思っている」
「ちょっ、夜のことを言うのはなしで! 恥ずかしいから!」
「む? 何を恥ずかしがることがある。卿の立派なペニスはいつも私を──」
「わあああ! 昼間の、それもご飯前にえっちなこと言うの禁止! オーケー!?」
「ん。んむむむむっ、ぷは……どうせなら接吻で塞ぐのはどうだ? その方が男らしくないか?」
「はぁ……少し前まで引き篭もりだった奴にそんなキザなこと期待するのはお門違いってもんだぜ。ていうかそれ、クルシュがされたいだけじゃないのか?」
「……否定はしない」
頬を照れで赤く染めながら顔をぷいとそらすクルシュの姿は、スバルにとって『ギャップ萌え』そのものであり
だから、
「っ!?」
「……今はまだ昼だから、これで我慢してくれよな。ほ、ほら、せっかく作ってくれたシチュー冷めちゃうし早く食おうぜ? みんな待ってるだろうし!」
「ああ……」
恥ずかしさに目をそらしたままのスバルはクルシュが今どんな顔をしているのかわからない。こんなキザな真似をするのはスバルの得意とするところではないのだ。
クルシュが今どんな顔をしているのか、その表情がもしもネガティブなものであったなら、とてもではないが耐えられない、一週間は部屋に引きこもると脳内で決意を固めていたところ、ぎゅっと目をつぶるスバルの顔をそっと包み込む手があった。
そうして、驚いたスバルが瞼を上げると、そこには幸福にほほ笑む絶世の美女がいた。
「卿のそういうところが、いつも私の深いところに温かいものを与えてくれる。愛しているぞ、旦那様」
そう言ってクルシュはご機嫌に、されどクールに台所を出て、ダイニングへと向かった。
残されたスバルは足腰から力が抜けたように倒れそうになって、エミリアに支えてもらっていた。
そうして、先ほどまでの会話を見ていたエミリアは言ったのだった。
「クルシュさんって、すごーくスバルのこと好きよね。それに、とっても積極的」
「……俺もすごーくありがたいと思ってるよ。カルステン家にはすげぇお世話になってるし、俺にはできない貴族との橋渡しやらあれもこれも……」
「もう、そうやって茶化さないの。スバルがクルシュさんのこと大好きなこと、私もみーんなもわかってるんだから」
相も変わらず花咲くような笑みを浮かべるエミリアは、現状に何一つ不満を覚えている様子はなく、むしろスバルと仲良さげにしているお嫁さんたちを嬉しそうに眺めていた。
「それでも、男の子には素直になれない男心があるわけで、ぐぬぬ……」
「でも、なんだか嬉しいな」
「嬉しい、って何が?」
「私と全然違う、強くてかっこいいクルシュさんでも、スバルのことが大好きで、スバルの前だと一人の女の子になっちゃう……私たち全然違うのに、同じところもあるんだって、一緒なんだって思えて嬉しいの」
スバルと彼のお嫁さんたちと一つ屋根の下で過ごす日々は、過去心寒い日々を送ってきたエミリアにとって得難い思い出だった。
そのどれもを大切そうに胸にかかえて、その温かさを肌で感じる。愛おしそうに胸の前で腕を抱く彼女の姿はまるで一枚の絵画のようで、舞い散る桜の花びらのように儚く、神聖で不可侵な光景だった。
「エミリアたん……エミリアたんはさ、今幸せ?」
「それって、スバルがすごーくたくさんお嫁さんを作って『はーれむ』してることを言ってる?」
「う、うん……」
直接言葉にして伝えられると、現状の気まずさにしどろもどろになるスバル。何をどう考えても元の世界では許されることではなく、日本での道徳観を引き継いでいるスバルには負い目を感じるものだった。
だが、それもひっくるめて受け入れ、彼女らを幸せにするのだとスバルはもうずっと前に決めたのだ。
だから、彼女の正直な気持ちも憮然とした顔で受け止める。
「正直、すごーく勝手だと思ってる。あれだけ格好良くプロポーズしてくれたのに、私がスバルのこと独り占めできたのってとっても短かったから」
「面目次第もありません……」
そんなスバルの理論武装も彼女の前では形無しだ。
だが、「でも」とそう彼女は続けた。
「さっきも言ったけど、私、ほん~っとうに嬉しいの! クルシュさんやレム、ラムにベアトリスだって、み~んなで一つの家族になってこうして一緒に暮らせることが」
「じゃあ、エミリアたんは今、幸せ?」
「──もちろん。きっと私は今が人生で一番幸せだわ。だから、ありがとうスバル、私を家族にしてくれて、私と一緒にいてくれて」
「エミリアたんには適わないな……」
エミリアがそう言ってくれることにどれだけスバルが救われていることか。きっと彼女は理解していない。
でも、それを幸福という形で彼女に伝えることをスバルは選んだのだから。迷うことは何もない。今も、これからも、こうやって気持ちを伝えていく。それだけなのだから。
「またそうやって……私、ベッドの上でスバルに勝てたこと一回もないんだから」
「今いい話だったからえっちなこと挟むのやめようね!? んむっ!?」
「──ちゅ……ばかなこと言ったお仕置き、ね? ほら、行きましょ、みんなでいただきますしないと始まらないもの」
「……そうだな」
やっぱり、適わないなぁとそう心に刻んだスバルであった。
そうやって、二人はシチューの入った鍋を抱えてキッチンを出る……その前に、
「なぁ、エミリアたん」
「なあに?」
「──俺も、今が一番幸せだよ。君とみんなの為なら、俺はどんなことだってできる。だから、悩んでることがあったらいつでも言ってくれよな」
「もう………うん、わかった」
結婚を誓って一年。
毎日のように行為を重ねている二人だったが……未だ、彼女のお腹が膨らむことはなかった。
◆◇◆
「原因はわかっているのか?」
「それが、まったくわからなくて……ベアトリスにも見てもらったんだけど」
「ベアトリス様にもわからなかったのですか?」
「その通りかしら。面目ないのよ。少なくともエミリアに身体的な問題はなかったはずかしら」
「そうなると原因は一つ──バルスが玉無しということね」
「姉様、スバルくんのスバルくんは今日も正常でした。スバルくんが玉無しなはずありません」
「……レム、わかってて言っているのでしょうけど、私の前で貴方たちの夜の話をするのはやめなさい。八つ裂きにしてやりたくなるわ、バルスを」
「もう、姉様……」
「話をずらすのはやめるかしら、姉妹の姉。スバルにも当然問題はなかったかしら、ベティが毎回確かめてるのよ」
「……そうですか」
「スバルの絶好調ぶりはお前も知っているはずかしら」
「……黙秘します」
「別にいいかしら。話を戻すのよ。貴族の娘」
「ああ、私の方からもフェリスに頼んでみよう。フェリスなら何かわかるかもしれない」
「お願いするのよ、ベティも禁書庫から何かわからないか探してみるのよ」
「べアトリス……クルシュさん……本当に、すごーくありがとう」
「お礼は原因がわかってからにするかしら」
「ふ、エミリアの頼みを私が断るはずもなかろう。それに、正妻が孕むより先に我らが子を授かるわけにもいかないからな」
「えっ、ええ!? だ、だめよ、そんなの! みんな、私のせいで子供を我慢するなんて、そんなの……!」
「エミリア、落ち着け。何も夜伽を止めるわけでもないのだ。少しの間、旦那様との二人きりの時間を楽しむというのも悪くないだろう? 子ができては、少なからず掛かりきりになるだろうからな、特に私は家の事情で一大事になる」
「クルシュさん……」
「──私は反対よ。子は孕めるときに孕んでおくべきだわ」
「姉妹姉」
「姉様……」
「エミリアはハーフエルフだからいいけれど、クルシュや私は孕める時期がある程度決まっているもの。レム、貴方だって本当は子を産みたいはずよ。貴方も鬼族なのだから」
「……姉様に嘘はつけません。レムも、本当はスバルくんの子供が欲しいです。エミリア様が正妻であるとわかっていても、レムは誰よりもはやくスバルくんの子供を産みたいと、そう思ってしまいます」
「それなら──」
「それでも! レムは、そんなスバルくんに顔向けできないような卑しい女の子にはなりたくないんです! 悔しいですけど、スバルくんの子供を一番に孕むべきなのはエミリア様だと思います」
「レム……」
「姉様が私を想って言ってくれているのはわかっています。でも、私は……」
「……そう。ごめんなさいね、貴方の覚悟を侮っていたわ。そういうわけだから、前言は撤回するわ。忘れなさい」
「傍若無人極まれりなのよ」
「本当に、すごーくありがとう……そしてごめんなさい」
「エミリア。そうと決まった以上、ラムも全力で協力するわ。手伝えることがあったらなんでも言いなさい」
「……うん!」
「話は纏まったようだな、では、私は早速フェリスの下へ赴こうと思う。──エミリア、話してくれてありがとう。必ずフェリスを連れてこよう」
「……ありがとうっ」
「ではな」
そう言って、クルシュは相も変わらず恰好良く部屋を出ていった。
「ベティも行くかしら」
「では、私は夕食の準備を」
「私も手伝うわ、レム」
「いえ、姉様は居間で大人しくしていてください」
「レム……」
姉様第一にしては珍しい毒を吐きつつ二人と小さな妖精は部屋を後にした。
一人残ったエミリアは、自分の部屋の布団に腰かけていた状態から体を後ろへ倒した。
涙を流して少々腫れた瞼を擦り、涙の後を拭ったエミリアは、一回かっと目を見開いて、自身の頬をパンッと思い切りよく叩いた。
「──よしっ! 私も、すごーく頑張らないと!」
不妊に悩む少女は折れない。
一人だったら悩み苦しんだかもしれない、普通に子供を生める人に『嫉妬』を抱いたかもしれない。
しかし、少女にはたくさんの悩みを相談できる家族がいる。
それは、今のエミリアにとって何物にも代えがたい大切な宝だ。
だから、エミリアは頑張れる。エミリアは堕ちたりしない。スバル以外にも大切に思ってくれる人たちがいる。スバル以外にも、大切に想える人たちがいる。でも、何よりも、大好きな人の子供を産みたいと自分が思うから。
エミリアは今日も元気に、幸せに、日々を過ごせるのだ。
◆◇◆
嫁同士の会話ってなんでこんな面白いんだろう。
何故か嫁の中に入ってるクルシュさん。
ほとんど胡蝶の夢みたいなもんだな。
妹にぞんざいに扱われる残念姉様かわいくない? 超かわいくない?
※修正・超加筆 主にクルシュとの絡み 2024/10/11 未だにクルシュとエミリアとラムを書いていないことが判明。書けよ。あと学園リゼロでも一本書きたいな。通い妻幼馴染概念レムを書きたい。あと転入生ラブエロコメディなエミリアたん。書こ。