コンパクトとは(哲学)
「おんやぁ、ベアトリスが一緒とは珍し〜ぃね」
食堂に入ると、仰々しい立ち姿の道化師がいた。
──ピエロだ!ピエロがいる!
ピエロを見るのなんていつぶりだろうか。
今時、ピエロなんて遊園地にもいないからな。
最後に見たのはUSJだっただろうか。
クラスの女子たちと卒業旅行で行ったのだ。
懐かしいなぁ……
降って湧いた郷愁の念に胸を打たれた俺。
だが待て。
「ん~? お客人、どうかしたのか~ぁな?」
「──ッ」
にっこりとこちらに微笑みかけるこのピエロ、いやこの男は──ッ。
──こいつッイケメンだッ!
俺のイケメンセンサーにビビッと引っ掛かってきやがるッ!
道化師メイクでは隠し切れないアマイマスクが透けて見えるッ!
イケメンは男の敵!
「あ、どどどどどどどどうも」
「あ、うん、どぉもね」
何キョドってんねん。
無様にも程があんだろ。
見ろ、ピエロさん引いてるじゃねぇか。
「あ、ロズワール!」
「これはこれはエミリア様。全員お揃いでいらっしゃるとは仲がイイじゃ~ぁないですか。私だけ仲間外れみたいで居心地が悪いですね~ぇ。しかし、それはそれとして、お客人がウチに馴染めているようで何よりだ」
ウチ?
えー、えぇぇぇぇ……ここあーた様のおウチでございましたかぁ……。
まじかよ。え? まじで? ほんと?
うっそだぁ。てんがしんじない。
こいつがベティの親? 似なさすぎじゃね?
それともやっぱりエミリアの? んなわけないわなぁ。
この世界の貴族って皆こんな感じなの?
仮面舞踏会みたいな感じで、目立つお化粧が上品みたいな?
これが異世界カルチャーショックかッ!
「紹介するわねテンガ。この変な人が私がお世話になっているロズワールよ」
変な人て。
「おーぉい、エミリア様ー?」
変な人も困惑してるじゃねぇか。
「エミリア様、それでは些か説明不足かと。お客様、このお方こそこの屋敷の主にして私たちの主人であらせられる、ロズワール・L・メイザース辺境伯です!」
おお。
じゃじゃーん! って擬音語が目に見える。
なんかそれはそれで馬鹿にしてるみたいだな。
ギャグかな? ツッコミ待ち?
俺もクラッカーでファンファーレ決めた方がいいかな。
クラッカー持ってないけど。
「それはそれで固すぎってなもんじゃ~ぁないかい。いんやぁ嘘も誇張もないんだけどね~ぇ」
誇張ないんかーい。
って、危ない危ない。変な世界観に呑まれるところだった。
正気を保て俺。
腕の中のベティの体温を感じるんだ。
慌ててる時こそ深呼吸だ。
すーはー、すーはー
「あ、いい匂い」
ベティの髪からお花の香りがする。
道路の端っこに根強く咲いてるたんぽぽって感じだ。
あれ、褒めてないなこれ。
「なっ、何嗅いでるかしら!」
「だいじょぶだいじょぶ、すっごいいい匂いだよ」
「そういう問題じゃないのよ! やめるかしら!」
恥ずかしがっちゃってもう。
可愛いんだから!
「まぁ、まぁ、立ち話もなんです。細かい話は食事しながらにでも、ね?」
やんややんや、とやっていると態度を切り替えたロズワールからそんなご提案が来た。
「そうね、ロズワール。ほら、テンガも席について。食事にしましょ?」
「はぁい」
俺はエミリアママの言葉に従って席に着いた。
◆◇◆
「──木よ風よ母なる大地よ」
母なる大地? なにそれ大地讃頌?
変な掛け声とともに食事が始まった。
「ん、いただきます」
俺は郷に入れども郷には従わない主義だ。
食事のあいさつくらい日本流でいかせてもらう。
食材と料理した人に感謝を込めて戴きましょう。
感謝と共に鶏肉っぽいスープを口に含んだ。
「んぅ~! 美味しい!」
口の中に広がる生き生きとした肉の味! バジルの風味とコクのあるスープの相性が絶妙だッ!
「そ~ぅだろうそうだろう。レムの料理はちょっとしたものだからね~ぇ」
テンガの言葉にご機嫌なロズワールが反応を返す。
「我が物顔する変態がいなければもっと美味しい!」
「酷い言い草だね~ぇ」
なぜ、俺は男と食事を取っているのだろう。
忘れたい。ここに男はいない男はいない。
俺は女の子に囲まれて食事をしてるんだ。
「こんなに可愛いメイドたちに、朝食を取らせない悪いご主人様には相応の扱いじゃないかな?」
「手厳し~ぃねぇ。ふむ。彼はそう言っているが、レム、ラム、どうする?」
む、そんなのイエスなんて言えるわけないだろ。
なんてセコイ奴なんだロズワール……!
「いえ、私どもは……」
「はい、私たちも一緒に頂きたく存じます」
「姉様」
双子で意見が食い違ったな。
ていうか、言えるんだ。すげぇな。
思ったりカジュアルな関係なの?
アットホームが売りのホワイト企業なの?
「めったにない客人の気分を害するのもよくない。ならば、君らも共に頂こうじゃ~ぁないか」
「……よろしいのですか?」
レムが困惑したように問う。
「ああ、レム。今日は無礼講だ」
「……ご配慮、有難く存じます」
レムちゃん固ったいなー。
でもこれで男女比2:4!
男成分が薄まったぞ!
花が増えるね!
ロズワールの両サイドに丁度二人が収まった。
けっ、両手に花かよ。
だが、それなら俺も負けちゃいない!
「ほら、リア。あーん」
「あ、あーん……? んっ」
どうだ見たか! エミリアにあーんしてやったぜ。
「ほら、ベティも」
「子供扱いするんじゃないのよ、あむ」
ツンデレッ!
ほんと可愛いが過ぎるぞお前。
「おやまぁ、ず~ぃぶんと仲がよろしいようだね~ぇ」
「ふっ、似非ホワイト企業の君とは違うんだよ」
「おんやぁ、さっきと態度が変わっていないように思うんだけどね~ぇお客人」
こちとら真のハートフル。
ここに愛はあるんだよ。アイフル。じゃないロズワール。
「同族嫌悪って奴だよ、
「同族嫌悪、ねぇ~……。なるほど。言い得て妙だ。確かに君と私はすこ~ぉし似ているかもしれない」
む! まさかこいつも俺の秘めたる変態性を見抜いているのか!?
※秘められてねぇよ。もっと秘めろよ。頼むから。
こいつッ侮れない!
と、
「ん、リア、ピーマン残してる?」
「ぎくっ。な、なんのことかなぁ」
「ぎくっ。って言ってるし。ほら、好き嫌いしちゃだめでしょ。あーん」
「や、やめ……」
ピーマルを掬い取って先ほどと同様に差し出す。
「リアは人が作ってくれた料理を食べられるいい子? それとも悪い子?」
「ううっ、テンガのいじわる……」
「ほら、噛んで~飲み込む♪」
「ごくっ……にがい……」
ピーマン単体ではそりゃ苦いだろうな。
俺だって好きじゃない。
でもこうやって人に食べさせてもらうと案外食べれるものだ。
なんでかはわかんないけど。
大事なのは、食べきったことをちゃんと褒めることだ。
「リアは偉いね~、いいこいいこ」
「ん……えへへ」
え、かわよ。
顔ふにゃふにゃだよ。
赤ちゃん? ママと見せかけてロリっ子属性だとっ!?
「ん、ん」
「あれ、どしたの?」
「ベティもピーマル食べたのよ」
おやおや、これはもう完全にデレ、ですね。
くっ、なんということだ。
俺の中の存在しない母性が刺激されている!?
「ベティもいいこいいこ」
「ふ、ふん、当然なのよ」
撫でられながらピーマルを食べる幼女。
いい子すぎん? おかしいな。
俺ロリっ子は守備範囲外だったのに、すっごい可愛く見える。
食べちゃいたい。
「……まるでお母さんですね……あっ」
「ん?」
レムレムが何か言ったような。
「お客様、お茶をお注ぎします」
「お、ありがと~ラム」
ラムラムがお茶を注いでくれた。
食事を取りながらもこっちへの気配りを忘れないとは。
ラムラム、できるメイドだ。
逆から読んで、ムラムラ。えっちなメイドだ。
ということはレムレムは、むれむれ……?
おっぱいとかおっぱいとか、おっぱいと腕の間とか、むっちむちな白タイツの太ももとかが蒸れ蒸れなのかな……なにそれエロい!
俺の妄想力が搔き立てられる!
「さて、食事も粗方済んだことだ。すこ~ぉし、大事な話をしようじゃないか」
「うん?」
和んだ空気を引き締めるように、一段トーンの下がったロズワールの声が響いた。
「──お客人、【願い】はあるかな?」
願い?
お願い?
えー、なにさ急に。
「なに?誕プレ? ならスイーツで、甘い物がいいな」
「いんやぁ、もっと大きな願い事だ。──エミリア様をお救いした君に、私はできる限りの褒賞を差し出す義務がある。ルグニカ王国が辺境伯ロズワール・L・メイザースとして。私は君に問おう。君は何を欲する?」
──圧。
腕を組んでこちらを見る道化の瞳は、その道化の姿に見合わず、こちらを品定めするような意思を感じた。
「さぁ、何でも願いを言いたまーぁえよ」
試されてるな。
ここで何を答えるか。
はて、何か望みあったかな。
……。
……。
……。
え、あるよ。えっちしたい!
「はい! レムやラムみたいな可愛い女の子とえっちなことがしたいです!」
「「「「「……」」」」」
おおっと、ゴミを見る目ですね。
ロズワールだけは愉快そうに目を細めているが、それはどうでもいい。
女性陣の目が終わってらぁ。
「あのね、テンガ」
「あ、はい」
「私が助けてもらったことで二人に何かさせるのは違うと思うの」
「はい、ごめんなさい……」
マジトーンで怒られました(´・ω・`)
※ざまぁみろ。
「だからねっ、その、え、えっちなことがしたいなら、私がその、するべきでっ、だからっ」
※おーい。落ち着け。早まるんじゃない。
「ステイ、エミリアステイ」
「あぅ、ごめんなさい……」
どうしてこうこの子ってば謎にえっちに寛容なんだ。
もしかしてハマっちゃった? その可能性も無きにしも非ずだけど……
お人好しで世間知らずな子とはいえ、そこまで男に身体を許せるものだろうか?
なんだか、不自然。歪だ。
しゅ~と頭から湯気を出して顔を真っ赤にして恥ずかしがるエミリア。
自分が何を言ってるのか気づいたのだろう。
はぁ。ま、そんなわけでレムラム美少女双子メイドを美味しく頂こう作戦は却下と。
と、なれば、俺が願うべきは一つ。
「──世界の半分を俺にくれ」
「無理だねーぇ」
ですよねー。
じゃあもうなんでもいいよ。
「ここで働かせてください!」
「んー? そんなことでいーぃのかい?」
「ここで働きたいんです!」
必殺! 千と千尋式、就職祈願!
「んまぁ、君がいいならそれでいいけど」
っしゃあッ‼
「これで合法的にメイド二人に近づけて、エミリアと一つ屋根の下で暮らせるぜ! あ」
おっとぉ、ゴミを見る目ですね。
「ロズワール様……」
「安心したまえよ、何かあれば私が対処する。お客人、改め使用人くんもそれを努々忘れないよ~ぅに」
やべぇこれ手出したら死ぬ奴だ。
「イエッサーッ!」
ここは大人しく従っておこう。
「しかしそれだけじゃ~ぁ到底命の対価にはつり合わない。他にも何かあれば叶えるが、どうする?」
え、まじで? 太っ腹だね。ロズワールしゃまだいしゅき。
とはいえ、何も思いつかんな。
ベアトリスに抜かれたせいか、いまいちえっちな想像ができない。
うん。
「今のとこ欲しいものないから、今度でいいかな?」
「それもそうだぁね。言われてすぐに思いつくものでもないだろう。ならば欲しいものが見つかったら言うといい」
「りょ~かいです!ご主人様!」
「切り替えが早いね~ぇ。い~ぃことだよ」
兎にも角にも働き口ゲットだぜ!
今この時より、俺の異世界使用人性活の開幕だ!
……一週間で、エロまでいけなかった。
次こそは。来週は楽しみにしててね……怒涛のエロ展開になるはずだから……
ごめんよぉ
これも至高のえろに辿り着く為のエッセンスだと思って何卒。
それにしては可愛いが過ぎたかもしれない。おかしい。