……微エロ? 微凌辱?
「はっ……はっ……」
走る走る、森の中をひたすらに走る。
後ろからドォン、ドォンと木々の倒れる音が響く。
逃げる俺へと迫りくる強大な何か、その正体を俺は知っている。
「くそっ、行き止まりか」
走り続けた先、そこにあったのは自然に生まれた山の壁だった。
足を止めれば後ろから聞こえてくる。
ちゃりん……ちゃりん……
金属が触れあい跳ねる音。鎖の音だ。
まだ朝日は遠く、闇に包まれた森の奥からそれは近づいてくる。
どんどんと音は近づいてきて──刹那、球状の何かが頬をかすめた。
「──っ!」
あっぶねぇ! 直感で避けてなかったら頭いかれてたッ。
ドォォォンと大きな音を立てて、崖壁が崩れ落ちていく。
このままじゃジリ貧だ。なんとか解決する手を……!
「なぁ! 一旦話し合わないか……? 何か誤解とかあるかもしれないしっ! おーい!」
…………返答がない。
ダメか。万事休すって奴?
──いや。
静まり返った森の中から、一人の少女が歩いてくる。
その手には鉄でできたモーニングスターを抱えている。
見慣れたメイド服に見知った顔、そして特徴的な【青髪】をもった少女。
「っ、ようやく話し合ってくれる気になったのか?」
「……。」
人を殺しそうな、というより絶賛俺を殺そうという目で彼女──レムは俺を見た。
とりあえず、両手を上にあげて敵意がないことを……
──鉄球が振るわれた。
そう認識した瞬間──俺の身体は“く”の字に折れて、後方へ吹き飛ばされた。
「──っ、ぁ゛あッ」
「──。」
肺の中にあった空気が外からの衝撃で強引に吐き出される。
吐き出したソレには血が混じっていた。
突っ伏した状態で立ち上がることもできないテンガ。
蹲り、なんとか動こうとするもまるで微動だにしない。
「ぐ、ふっ」
そんなテンガを、レムは蹴り上げた。
再び吹っ飛び、今度は仰向けで地に転がった。
甚振る気か……?
こんなことされる心当たりは……まぁ、あるけど、普通ここまでするっ?
するか。するかも。するかもな。
……レムは姉様第一だもんな。
でも、ここで殺されてやるわけにはいかないッ。
せっかくラムと……なのにここでレムに殺されて終わりなんてあんまりだ。
「な、ッなぁ……ラムの事だろ? お前が怒ってるのは……」
「……」
ピクっと彼女の手が反応して、レムの進む足が止まった。
やっぱりか。なら
「ッ、俺が悪かった……俺が、悪かったから……一旦姉様を交えて話し合いを──アぐあッ!」
「──お前が姉様のことを口にするなッ‼」
──衝撃。
脳が揺れ、意識が飛びかける。
くそっ、話くらい、聞けよッ
「げほっ、かはっ……はっ……っ……」
「……」
やば、そろそろほんとにやばい。死ぬ。
お腹痛いのとか頭痛いのとか薄れてきた……。
これほんとにやばいやつ……俺が言うんだから間違いない。
──レムが腕を振り上げた。
らむ……まだ、死ぬわけには……またッ、あんな思いするのはッ、いやだッ!
「……」
──ドォン
衝撃が体を通って、意識が飛び……
「まだ気絶してもらっては困ります」
次の瞬間、体が熱くなる。
死にそうなのに、死ねない。
あ、これ……生き地獄だ。
「はっ……かひゅ……」
「……少しやり過ぎましたか。でも、まだ話せますよね」
話せねぇよ、馬鹿野郎。手加減ってのを知らないのか?
こちとらただの高校生だってのに……なんだって、こんな可愛い女の子がこんなに強いんだよ。ふざけてるだろ、まじで異世界、勘弁してくれ。
「──貴方は魔女教の関係者ですか?」
「まじょ、きょう……?」
は、ぁ? なんだよそれ。知らねぇよ。
「とぼけないでください。貴方が魔女教の関係者なのは分かってるんですッ」
「……しらねぇ」
「ッ、この期に及んで、まだしらを切るつもりですか?」
「あ゛ぁっ」
手を踏み潰される。
「それだけ【発情の匂い】を漂わせて! 関係者じゃないなんて、そんなのッ、白々しいにも限度がありますよッ!」
「……」
レムの中で怒りが膨れ上がっていくのが分かる。
私怨か。無害な一般人殺しちゃうほど憎んでるのか。
俺が無害を名乗るのは無理があるって?
ああ、そうかもね。しらん。
って……ふざけてる場合じゃないって、死んじゃう。
「はぁぁ…………そんなに怒ると……可愛い顔が台無しだよ、レム……」
「──ッ‼」
なにこんな時まで口説いてんだよ。馬鹿かよ。
あーあ、ブチギレてるよ。これ死んだかな。
ラム……たすけにきてくれないかなぁ……
……無理か。そうだよな。
誰も俺なんか助けてくれない。
◆◇◆
「──ッ!」
怒りのままに鉄球を振るった。
許せなかった。
こんな男が、こんなクズが姉様をッ!
口に出すのも憚られる最低な行い。
こいつは姉様を穢し、犯したのだ。
──絶対に赦せない。
殺意で塗り固められた思考で振るわれた鉄の塊は正確に男の頭部を叩き潰した。
──はずだった。
「──あっは♡ あっはっは♡」
男が、嗤った。
次の瞬間、男はまるで気負いなく立ち上がった。
「っ!? このっ!」
すぐさま武器を振るった。
動揺に威力はブレたが、問題ない。
この男の実力は分かっている。魔法も身体能力も大したことない。
ただの一般人…………本当に?
「ふふっ♡」
「──っ」
男は不敵に笑い──唱えた。
「──【
陽魔法!?
──ただ一言で、状況は一変する。
唱えるや否や、レムの鉄球と男の拳がぶつかり合う。
「せーのっ!」
そうして刹那、レムは見た。
──鉄球が砕け散り、男の拳がこちらへ迫りくる瞬間を──
──殴られるっ!
レムは咄嗟に目をつぶった。
「──ぁっ!」
しかし拳がレムに当たることはなかった。
だが、レムが怯えて目をつぶった瞬間に男の足がレムを引っ掛ける。
地面にしりもちをついたレムはすぐさま立ち上がろうとしたが失敗する。
──なにこれっ、鎖が──ッ!
レムの足をモーニングスターのチェーンが絡めとっていた。
「くッ」
「ちょっと失礼するね。暴れられても面倒だから」
男はレムのお腹の上に座り込み、レムの両腕を片手で封じた。
抵抗しようと藻掻くもまるで意味がない。
──陽魔法の身体強化。
確かに魔法は使えなかったはずなのに。
隠していた? それとも突然使えるようになった?
わからない。わかるのは、失敗したということだけ。
──失敗した。失敗した。失敗した。
魔女教に負けるということ──それが何を意味するのか。
彼女は戒めをもって知っているのだから。
「いやっ、やめてっ!」
「ふ~ん♡ 嫌なの?」
「……っ!」
怖い。
「そっか。じゃあ~、──僕がえっちなこと大好きにさせてあげる♡」
男の歪んだ瞳が、私を逃がさないと告げていた。
◆◇◆
──パンパン、パンパンと変な音が鳴っていた。
それは暑苦しい夜の事だった。
まだ眠いにもかかわらず外は明るく、寝ぼけ
「…………」
そこに広がっていた光景は、今も目に焼き付いている。
──崩壊した里の光景。
炎が燃え広がり、闇夜を照らす様。
里の中央には炎の影となって人々のシルエットが映し出されていた。
「あぁっ、うぐっ」
「もうやめてぇ……おぐっ」
「ぁ……ぁっ……」
くぐもったような里の女の人たちの声。
「ぁっ♡ ぁ、あ、あっあ゛…………ッ♡」
「イくぅ゛♡ …………っっ♡ ぃくッ♡ いく♡」
「ぅう…………ッッ♡ ぎ、ぃうう゛~~っっ♡」
「え゛ぅッ♡ ぁ゛~~~♡ ぁ゛~~~♡」
「お゛っ♡ お゛っ♡ お゛ぉおおおお゛っ♡」
それと同時に聞こえてくる苦しみとも快楽ともつかない声。
「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」
そうして、彼女らに覆い被さる黒ローブの男たち。
何をしているのか、幼い自分にはわからなかった。
男が女性に群がり声を上げさせている。
一人の女性に一人、二人、三人とたくさんの男が群がっている。
「……ッ」
その時、私は本能的な恐怖を感じた。
目の前の光景の異常性を受け入れられず、しかし扉の中に閉じこもることもできない。
どうしてなのだろう。
私は助けを求めて、姉の姿を探した。
そう、私は助けを求めたのだ。
助けを求めて、姉の姿を探して、そうして──。
……その時に犯した過ちを、私は一生忘れない。
だからきっと、これは罰なのだ。
自らを組み敷き、怪しげに微笑む男を前にして、レムはそう思った。
いやぁ……上手くなりたいもんです。
長すぎも良くないってんで前話修正しました。よろしく。