「えー!皆さん!GBPお疲れ様でした!」
『イェーイ!』
宴会場のようなスペースに歓声が鳴り響く。
ここはCiRCLEのラウンジ。先程までGBPに出演していたガールズバンドが7組、その責任者である月島まりな、そしてもう一人の責任者である俺、城見春希が一同に会している。最初の俺のセリフから分かる通り、今は一年の集大成たるGBPが無事に終了し、打ち上げを行っている。
「はーるき、お疲れ様☆」
「おぅ、お疲れリサ」
手始めに緑茶をがぶ飲みしていると、後ろからウェーブがかった茶髪の少女……今井リサが声をかけてきた。
「すごい疲れてんじゃん、やっぱり大変だった?」
「まあなぁ……」
思えば濃ゆい一年間やった。
今通ってる花咲川学園高校に入学する時に大阪から上京してきて、バイト先として選んだのがCiRCLEやった。最初は単なるバイト先にしか思ってなかったけど、この35人と触れ合っていくうちにだんだん特別な場所と考えるようになった。彼女達も時を経るうちに信頼を寄せてくれて、今ではライブ全般の責任者まで任せられるようになった。
……あっという間やったな。
「余所者で、異性の俺にここまで信頼寄せてくれるなんてな……ホンマに感謝してもしきれへんわ」
「なーに言ってんの、アタシ達は春希がいたからこんなふうに結束出来てるんだよ?春希があの時動いてくれてなかったらRoseliaはもう存在してなかったんだから……」
そう言ってリサは塩らしい表情を見せる。
「あー……なんかすまん」
「いいよいいよ!それにさ、アタシは春希の事……」
と、言いかけて言葉を濁す。心なしか顔も赤いけど……?
「……ねぇ、春希。打ち上げが終わってもちょっと残っててほしいんだけど」
「???」
なんや、言いたい事でも……いや待て、これってもしかして?でもただの勘違いやったらめちゃくちゃ恥ずかしいから、とりあえず様子見てみるか。
そして、時刻は夜の9時過ぎ。宴会も終わりに差し掛かり、後片付けも済ませて、後は帰るだけになった。
「じゃあ最後にあれやりましょう!」
と香澄がみんなが作った輪の中に手を出す。
「あぁ、おめーらがやってるあれか」
「ライブの前にしたじゃない」
「いいじゃないですか!これからも一緒に頑張ろうって事で!」
「うん、じゃあやろっか」
と彩を皮切りに香澄の手にみんなが自分の手を重ねていく。
「せーの」
『ポピパ!ピポパ!ポピパ!パ!ピポパー!』
「みんな、お疲れ様ー!」
掛け声を終えると、みんながゾロゾロと会場を後にしていく。
「春希君も帰る?」
「あ、ちょっと残ります」
「オッケー、じゃあ悪いけど鍵閉めといてくれる?閉めたら事務所の鍵掛けにかけてくれればいいから」
「あ、分かりました」
言ってまりなさんはラウンジを後にする。さて、後は彼女を待つだけか……
コンコンッ
「あーい」
「春希……お待たせ」
リサがラウンジの中に入って来た。
「ごめんね、一人で残らせちゃって」
「ああ、それはええねん。それで、話って……?」
「うん……単刀直入に言うね。アタシは君の事が大好き。恋人として……ゆくゆくは夫婦として春希と一緒にいたい!」
うわ、やっぱり告白やった!?
「……嬉しいよ、リサ。でも俺でホンマにええんか?俺より立派な奴なんてごまんといるやん」
「ううん、春希じゃないとダメ……友希那のスカウトの件でRoseliaが解散しそうになった時、春希は誰よりも早く動いてくれた。紗夜達に頭を下げて、アタシ達が本音を吐く機会を作ってくれた。アタシ達だけじゃない。ポピパも、アフロも……みんなを陰から支えてくれた。アタシはね……春希のそういう所に惹かれたの。誰よりも強くて、誰よりも優しいその心に」
「……」
「独りよがりかもしれない、でもお願い。アタシの想い……受け取って」
そう話すリサの表情はどこか儚げだった。まるで、想いが届かなければそのまま泡となって消えてしまうかの様に……
こんな事されたら、選ぶ道はただ一つ。
ギュッ
「!!」
「俺も……俺もリサが好き。いつもみんなを温かく見守ってくれる太陽みたいなリサが大好きや!俺でよければ……喜んで」
「……うん、ありがとう!」
俺の言葉を聞いたリサは満面の表情を見せる。そして、そのまま……
チュッ
リサは俺にキスをした。
「……アタシのファーストキス。責任とってね☆」
……可愛い!なんやこの可愛い生き物!
「おう、よろしくなリサ」
リサと俺以外誰もいないラウンジには甘い雰囲気が漂っていた……が。
「ちょっと待ちなさい!」
「「!!?」」
そこに突然叫び声が聞こえるとともにドアが開け放たれる。その声には聞き覚えがあるような……いや、聞き覚えしかないわ。
「はぁ……はぁ……リサ……抜け駆けするつもり?」
「ゆ、友希那!?」
そう、さっきの声の主こそRoseliaの
「友希那、どうしたんやそんなに焦って」
「一度外に出た時にリサが一人でコソッと戻っていったからついてきたの……」
少しずつ息を整えながら友希那が話す。
「リサ、ズルいわよ!私だって春希の事が好きって言ったじゃない!」
え?ゆ、友希那さん?
「そうですよ」
「リサさん!私も告白したい!」
「い、今井さん……!」
「ハルキさん!私もお慕いしています!」
友希那だけではない。さっき出て行ったはずのメンバー全員が踵を返してこのラウンジに戻ってきて、つい数分前まで静寂が支配していた空間が再び喧騒に包まれる。
「春希……私達の気持ちは同じよ。みんな春希を愛してる。貴方がいたからここまで頑張ってこれた。それだけ私達の中では春希の存在が大きいの」
「春希さん、誰を選んでくれますか?」
周りには35人の少女達が俺の言葉を今か今かと待ち構える。
俺の中には様々な感情が渦巻いていた。最初に出てきたのは、リサを選ぶという選択肢。そら最初に告白してきたのはリサやからな。しかし、残りの34人はどうなるのか?その一方でリサ以外を選ぶという事になれば最初に告白したリサの覚悟を台無しにする事になり、どちらを選んでも誰かの心に失恋という深い傷を残す事になる。
一応、これ以外の選択肢も一つだけ頭の中にあった。でもこの選択肢だけは選んじゃいけないと理性が抑えていた。常識的にありえないし、もし言ってしまえばこれまでのみんなとの関係を全て無に返してしまうかもしれないからだ。一体、一体どうすればええんや……
ギュッ
「ねえハル君、キミの正直な気持ちを聞かせて。どんな返事を返してもあたし達は受け入れるからさ……」
日菜が俺の手をとる。その目は俺を心の底から信頼している目だった。
……よし、決めた。
言おう、心の底からの最低な本音を。軽蔑されても良い、殴られても良い、刺されても良い。それを言う事こそ彼女達への礼儀なのだから。
「俺は……最低な人間や。選べって言われても誰も選べない最低な人間や。俺は誰も悲しませたくない!今ここにいる全員が大好きや!お前らの為やったら尊厳も、生命も、全部捧げる!頼む、俺に……みんなを選ぶという選択肢を選ばせてくれへんか!」
嗚呼、言ってもうた。頭を下げてるから彼女達の表情は窺い知れない。ここで顔上げたらそこには鬼の形相があって、『please choose hell or hell?』とか言って大事な所をナタで切られるんやろな……
「春希、顔を上げて」
これから起こる戦慄に体を震わせていると上から何やら声がかかる。顔を上げると千聖が慈しむような表情を浮かべていた。あかん!この表情は嵐の前の静けさ的なやつや!
「……なんでさっきより震えてるのよ」
「や、やって……なぁ」
お説教(物理)するつもりなんやろ!?くっ、殺せ!
ギュッ
「……え?」
「……正直に言ってくれて嬉しいわ」
「春希さん、優しいから誰も不幸にしたくないと思って選べないだろうな〜って思ってたけど、ほぼ予想通りになっちゃったね」
「う〜ん!これよ!やっぱりあたし達の大好きな春希ね!」
「……本来なら風紀どころではありませんが、ある意味一番春希さんらしい結論でしたね」
「おねーちゃんと一緒の彼氏……すんごくるんっ♪てきたよ!」
「いざとなったらこころの力で法律作るか、中東に飛んでみんなで結婚しちゃいましょうか(汗)」
「さっきの告白、すごいカッコ良かったぜ!春希さん!」
「リサに先を越されたのは悔しいけど、貴方と結ばれて本当に良かったわ」
「春希先輩!私達、家族ですね!」
ラウンジに次々と響く声は俺が想像していた罵倒とは180度違うものだった。みんなそんなハーレム耐性あったん?普通の人ならめっちゃ嫌な顔すると思うんだけど……
「……さて、春希。これが私達35人の答えよ」
「……ええんか?千聖。35股しようとする根性なしやで?」
「ええ、私達を幸せにするために自分の人生を擲って言ってくれる優しい春希が私達は大好きなの。そこまで言ってくれるのなら私達も春希に全てを賭ける覚悟を決めるわ。いいわよね?みんな!」
『うん(ええ)(勿論)(もち〜)(Of course)!』
千聖の言葉にケチをつける者は誰もいなかった。どうやら全員俺の告白を受け入れてくれたようだ。
「リサ……なんかごめんな」
「ううん、気にしなくても良いよ。春希はちゃんとみんなを平等に愛してくれるんでしょ?それなら何も異存はないよ!」
リサは俺の両肩に手を乗せてそう言い聞かせる。
「……ありがとう、みんな!絶対幸せにするから、これからもどうか俺の側にいて下さい!」
『勿論!みんなで幸せになろう!』
こうして、俺達は付き合う事になった。幸せに出来るといいな。
皆さん、お久しぶりです。
以前は『鉄のハーレム堪能記』という作品を書いていましたが、諸事情があってこの作品をリメイク版として出す事にしました。今後はこの『ガールズバンドを愛でる』をご愛顧頂ければありがたいです。