数日後。
わたしと立香は、一応は普段の関係に戻っていた。彼女に周りの世話をされて、彼女をモデルに絵を描き続ける。
ああ、変わった点が一つあった。
「クリュティエ様、そろそろ休まれてはどうでしょうか」
立香に名前を呼ばれる。そう、立香に名前を呼ばれるようになった。奴隷と主人という関係から進んだようで、嬉しい(奴隷という面で見たら、失格かもしれないが)。
そんな感じで、日々平和に過ごしている。
しかし、物足りない。いや性的に物足りないとかそうではなくて、何か物足りない。それは、彼女の絵だ。彼女をモデルに描いた絵はほとんど完成しているが、後一歩が足りない。無理矢理完成させることも考えたが、それじゃわたしが納得出来ない。きっと、彼女の本質を掴みきれていないせいだろう。あの夜に彼女の本質は見えた気がするけど、描こうとすると手からすり抜ける。
やっぱり早まってしまったか。後悔と罪悪感に支配されかける。・・・・・・・けれど、ここから一歩ずつ進んでいけばいいのだ。絵と一緒だ。焦りは禁物。わたしはそれをようやく思い知ったのだ。
そんな、ある日のこと。
「あ、あの、立香さ、立香、お願いがあるんですけど・・・・・・・」
「なんでしょう?クリュティエ様」
彼女なら受け入れてくれると信じながら、断られたらどうしようと少し不安になりつつ、告白する。
「あの、今夜・・・・・・・一緒に、寝てもらえないでしょうか・・・・・・・」
「・・・・・・・えっと、それは」
「エヘヘ・・・・・・・はい、その性的な方で・・・・・・・」
──────彼女を抱きたい、というお願いである。
「それは、もちろん・・・・・・・私は貴女様に従うのみですので・・・・・・・理由を聞いても?」
「エヘヘ・・・・・・・あの、それはですね、最近どうしても絵が描けなくて、スランプになっていまして・・・・・・・それの解消に、と思いまして・・・・・・・どう、ですかね・・・・・・・エヘヘ・・・・・・・」
絵が描けないストレスで卑屈になりながら彼女に説明する。そう、最近わたしは絵が描けない。いや、描けないというか、彼女の絵がどうしても完成しない。息抜きに描いた適当な習作は何枚も完成するのだが、本命の彼女の絵が出来ない。焦らずに少しずつ進んでいけばいいとかこの前思った気がするけど流石に後少しで完成する絵がなかなか完成しないとなると焦りも出てくる。
描けない理由は考えるまでもない。それはわたしが彼女に惹かれた理由、彼女の本質だ。あの日の凶行で少し掴めた気がするけど、今はすっかり消えてしまった。外見だけでは絵は完成しない。外見に滲み出る中身、本質も表現しないと。本質を掴めていないわたしでは描けないのも当然の理だろう。
そして、本質を掴むためにどうすれば良いのか。考えた結果、あの日の凶行を再現することにした。あの日の凶行で掴めたなら、同じ状況でも掴めるんじゃないかと思い、彼女に頼む・・・・・・・正直、罪悪感が強すぎるけど。
「かしこまりました」
「・・・・・・・あ、ありがとうございます!」
彼女が受け入れてくれたことに喜び、若干反応が遅れる。
「・・・・・・・あの、クリュティエ様はご主人様なので、私に敬語を使うのは・・・・・・・」
立香が若干気まずそうにこちらを見る。
「エヘ、エヘヘ・・・・・・・そ、その今自信が無くて・・・・・・・許してください・・・・・・・」
絵が描けないといつもこうだ。別に絵以外が出来ないってわけじゃないけど、苦手だ。それに絵を描くことが好きでついついそっちにのめり込んでしまう。結果的に、絵以外に誇れるものがない人間になってしまった。だから絵が描けないことは自信の喪失に等しい。絵が描けるから生きていける人間が絵を描けない。それはもうただの役立たずじゃないか。ああやっぱりわたしは彼女の主人に相応しくないだけど立香から離れたくない─────黒い炎が再び湧き出してくる。
そんな風に卑屈のスパイラルに陥っていると、急に抱きしめられる。
「りっ、か?」
立香に抱きしめられる。その腕はぎこちなかったが、しっかりわたしを包んでいた。
「・・・・・・・別に、良いですよ。貴女が辛いなら吐き出してください。わたしはどんな貴女も受け入れます」
「エヘヘ・・・・・・・では、しばらくこのままで・・・・・・・」
彼女に抱きしめられる。
数分ほどしただろうか、わたしの黒いものは小さくなった。とりあえず、大丈夫。彼女から離れる。
「ありがとうございます・・・・・・・見苦しいところを・・・・・・・エヘヘ・・・・・・・すみません・・・・・・・」
「別に、大丈夫です・・・・・・・」
「・・・・・・・エヘヘ、勇気が出てきました。しばらく引き篭もりますね・・・・・・・また、後で」
「はい、また、後で」
もう一度、チャレンジしてみよう。今度は何か、違う気がする。
数時間後。
「・・・・・・・結局、ダメでした・・・・・・・」
ダメだった。どうしても最後の部分に取りかかれず、習作を描くだけになってしまった。・・・・・・・でも、今日はいつもと違って、焦りは無かった。立香が、抱きしめてくれたからだろうか。
「・・・・・・・ごはん、食べよう・・・・・・・」
彼女が作ってくれた料理を食べて夜に備え、お風呂に入ったりと諸々の準備を整える。
「・・・・・・・では、行きましょうか・・・・・・・」
「はい」
彼女と一緒に寝室へ向かう。
寝室にて。
「・・・・・・・えと、こういう時ってどうすれば良いんでしたっけ・・・・・・・?」
わたしは、フリーズしていた。お互いに服を脱いでベッドの上で彼女の上に乗ったは良いが、そこから頭が真っ白になっている。
「・・・・・・・あの、クリュティエ様・・・・・・・」
立香が呆れた目で見てくる。数日前散々自分を襲った人間がやり方を忘れてるなんて、冗談もいいとこだろう。
「・・・・・・・すみません・・・・・・・あの時は無我夢中で正直よく覚えていなくて・・・・・・・」
「・・・・・・・はぁ」
「うっ・・・・・・・見ないでください・・・・・・・」
呆れた目で見つめてくる彼女の瞳は雄弁で、本当に不感症なのだろうかと思うほどである。
「・・・・・・・仕方ないですね・・・・・・・私がリードしても良いですか?」
「はい・・・・・・・すみません・・・・・・・」
彼女の上から降りる。
「別に私も、女性前提で調教されたわけではないのですが、まあクリュティエ様よりはいけるでしょう」
「はい・・・・・・・お願いします・・・・・・・」
「では、まず・・・・・・・オナニーをしてもらっても、良いでしょうか?」
「・・・・・・・え゛」
いきなり自慰をしろと言われて、ただでさえフリーズしてる頭が余計に凍る。
「変な意味ではないのですが・・・・・・・その、女同士なら、どこがどう感じるかを知った方がいいので・・・・・・・」
「あ、そういう・・・・・・・」
そういう事なら、と納得し。恥ずかしいけど自慰を始める。
自分の指で、秘部を弄って慰める。
「んっ・・・・・・・ふぅ・・・・・・・はぁ・・・・・・・」
彼女に見られていると、いつもより感じてしまう。
「あっ・・・・・・・んっ・・・・・・・」
「なるほど・・・・・・・これが・・・・・・・」
彼女は虚な瞳のまま、こちらを見つめてくる。
彼女にそういう気がないのはわかるけど、まるで見下されているようで、普段よりも興奮する。愛液が溢れ始める。わたしに、こんな被虐趣味があっただろうか・・・・・・・
「・・・・・・・立香、あっ、立香ぁ・・・・・・・んっ・・・・・・・」
わたしは自慰に夢中になり、気づけば、無意識のうちに立香の名前を呼んでいた。
「・・・・・・・なんでしょう、クリュティエ様」
「っ⁉︎あっ、あっ・・・・・・・」
彼女に声をかけられて、反射的にイってしまう。小さな快感だったけど、身がゾクソク震えるような快感だった。
「・・・・・・・とりあえず、把握はしました。では、攻めさせていただきます」
そこから、立香の容赦ない攻めが始まった。
まず、唇を奪われる。この前の意趣返しの様に。
初めは優しく、触れるだけ。それを何度も何度も繰り返す。そのうち、物足りなくなって切なくなってきた頃、
「〜〜〜〜〜ッ⁉︎」
突然口内を彼女の舌に蹂躙される。わたしがこの前したキスとは大違いだった。あのキスは苦く、辛いものだった。しかし、今のキスは違う。彼女に口を蹂躙されているのに、甘く、痺れる様な快感がわたしを襲う。
「〜〜〜〜〜っ♡」
それだけで、また軽くイってしまう。イったのを確認したのか、彼女が口を離す。
「・・・・・・・ふぅ。どうでしょう、クリュティエ様」
虚な、綺麗な瞳で問いかけられる。その視線に射抜かれると、身体が悦んでしまう。
「・・・・・・・エヘヘ・・・・・・・とっても、気持ちいいです・・・・・・・♡」
ああダメだ。身体が蕩けていく。彼女にドロドロに溶かされていく。彼女に支配されていく。
「では、行きますよ」
「ハウッ・・・・・・・」
彼女に耳を舐められる。キスですっかり出来上がってしまったわたしの身体は立香に舐められるだけで、容易に快楽への門を開けてしまう。耳に与えられる、温かく濡れた舌の感触が、わたしの被虐心を刺激する。
「あっ・・・・・・・♡」
また軽くイく。
その後も、彼女は容赦無かった。
優しく全身を舐められる。
「はうっ・・・・・・・♡」
鎖骨をわざと水音を立てて舐められる。その刺激で子宮が疼きイく。
「あっ、また・・・・・・・♡」
脇腹をじっくり舐められる。神経が刺激されて血流が集まる。更に子宮が疼いてイく。
「むね、やめてぇ・・・・・・・あっ、んっ・・・・・・・」
円を描く様にゆっくりとわたしの貧相な胸を嬲られる。丁寧に丁寧に、焦らすようにゆっくりと。
やがて、わたしを責める舌は頂点の突起に辿り着き、そこで盛大に─────イけ無かった。
いや、イけたのだが、さっきと同じように軽いモノだ。発散しきれなかった快感に耐えられず、思わず呻く。
「ぁ、え・・・・・・・?」
「まだ、ダメですよ・・・・・・・我慢して・・・・・・・」
立香にそう言われると、大人しく我慢するしかない。従うしかないと思わされる。
次は、秘部を舐められる。チロチロと妖しく動く彼女の舌が、わたしの秘部をなぞっていく。小刻みな快感に、身体が震える。
蓄積される快感が膨れ上がっていく。はやくこの快感を解放させて欲しいと、身体が叫んでいる。
そして、その時が来る。
「では、どうぞ」
時には膣内を、時には尿道を、わたしの秘部のいろんなところを舐める彼女の舌が、わたしのクリトリスへと達する。しばらく飴をしゃぶる様に丁寧に嬲られた後、突然甘く噛まれる。
「あっ♡♡♡」
快感を溜めている壁を壊す様に、稲妻の様な快楽が脳を焼く。それを呼び水に、今まで発散しきれなかった分の快感が身体を貫く。
「あっ、ああ、イく、イっちゃいますううううううううっ♡」
今までと比べものにならない程大きな絶頂。解放感と多幸感がわたしを支配す
「──────まだですよ」
彼女に囁かれる。そして、耳を舌で再び舐められる。一度屈服した耳は、簡単に倒れ、快楽の波を余す事なく脳に伝える。
「あっ、ああああ・・・・・・・っ♡♡♡」
あまりの快楽に、尿道から水音を立てて、何かが出る。それは、潮だった。大きな潮を、吹いている。
──────気づけば、奴隷と主人の立ち位置は逆転していた。今、わたしは彼女に支配されている。彼女に快楽を完全にコントロールされてしまった。ああ、でも─────幸せだ。彼女に包まれて、安心感を感じる。まるで、太陽の様な暖かさ──────
「どうでしょう、クリュティエ様・・・・・・・」
「えへへ・・・・・・・立香『しゃま』、気持ちよかったでしゅ・・・・・・・♡ もっと、もっとわたしに気持ちいいの、くだしゃい・・・・・・・♡」
溶けている思考のせいか、呂律が回らない。もっと、もっとと子供のように彼女に強請る。
「・・・・・・・あの、クリュティエ様。私は、奴隷なのですが・・・・・・・」
「・・・・・・・ハウっ⁉︎わたしは一体、何を・・・・・・・いえ」
彼女の言葉に、現実へ引き戻される。恥ずかしいことを口走ってた気もするけど──────掴んだ。
「?」
「・・・・・・・今わかりました。立香『様』。わたしが貴女に惹かれた理由。貴女に執着する理由」
彼女に向き合う。
「・・・・・・・それは、なんですか」
「・・・・・・・きっと、それは貴女の生来の気質なのでしょう。貴女は善人です。善の道をいくもの。・・・・・・・だけど、貴女は全てを許容する。悪である
彼女は、わたしに困惑していたが、凶行に走るわたしを拒絶しなかった。それは、受け入れてる、という事。奴隷として調教されたのを加味しても、いきなりの凶行には多少なりとも拒絶反応はあるはずだ。
「・・・・・・・それが、クリュティエ様がわたしに執着する理由と何の関係が?」
「・・・・・・・わたしは、ダメ人間です。更に人間不信。弟以外信じられない。かのゴッホのよう、とも言えますね。そんなわたしでも、家族以外の、受け入れてくれる人をずっと無意識に探していたんです。・・・・・・・だから、太陽の様なあり方を持つ貴女を、あの時欲した」
「クリュティエ、様・・・・・・・」
わたしが昔から無意識に、向日葵のように追い焦がれていた太陽。きっとそれは、貴女だったのです。
だから、この気持ちを伝えよう。
「・・・・・・・立香、様。奴隷と主人なんていう契約上の関係じゃなくて、わたしと、ずっとずっと一緒にいてください!わたしは、貴女が好きなんです!だから、貴女の心が欲しい。鎖で縛られた関係より、一緒に手を繋げる関係になりたいんです・・・・・・・」
気持ちを伝えるにつれて、勢いが落ちていく。拒絶されたら、と思うと、力が抜けていく。
「・・・・・・・・・・・・・・」
彼女は虚な瞳で沈黙するままだ。
「・・・・・・・やっぱり、ダメですかね・・・・・・・エヘヘ・・・・・・・」
長い沈黙に、やっぱりダメだったかと俯く。いくら取り繕っても、わたしは彼女を買った。奴隷として。そんな女が、奴隷以外の関係を求めるなんて、やっぱり図々しい、か。
「・・・・・・・・・・・・・・そんなこと、ないよ」
「・・・・・・・あ」
彼女の声に顔をあげる。彼女の顔には涙が流れていた。そして、虚だったはずの瞳には、本来の彼女が持っていただろう、輝きがあった。
「・・・・・・・じゃ、じゃあ」
「・・・・・・・喜んで」
「あ、ああ・・・・・・・立香様ぁ!」
「うわっ⁉︎」
感極まって彼女に抱きつく。強く抱きしめたせいか、押し倒してしまった。
「・・・・・・・エヘヘ。これから末永くお願いしますね、立香様?」
「・・・・・・・うん」
彼女の唇に唇を落とす。甘い甘い、とろけるようなキスだった。
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