・・・・・・・元から、私の心はおかしくなっていた。いや、『治っていつつあった』と言うべきか。私の心は、彼女との生活で少しずつ少しずつ、情動を取り戻していった。
だから、心が作った壁には、穴が空いていた。
「・・・・・・・きっと、それは貴女の生来の気質なのでしょう。貴女は善人です。善の道をいくもの。・・・・・・・だけど、貴女は全てを許容する。悪であるものわたしを拒絶しない。恐れない。・・・・・・・それは、まるで太陽の様。自分の道を歩みながら、遍くものを照らしていく」
その言葉が穴に刺ささる。壊れたはずの心を埋めるように。ひとりの私を捉えて離さない。
罅が入る。外界と私を隔てる壁が、軋んだ音を立てる。
「・・・・・・・立香、様。奴隷と主人なんていう契約上の関係じゃなくて、わたしと、ずっとずっと一緒にいてください!わたしは、貴女が好きなんです!だから、貴女の心が欲しい。鎖で縛られた関係より、一緒に手を繋げる関係になりたいんです・・・・・・・」
その告白が、止めだった。無菌室の様に外界を隔てる壁は、崩れていく。世界が色を取り戻す。燻んだ色彩は、正しい色彩へと。数年振りに見る世界。初めて見る彼女の貌。感情の回路が心と接続される。私が私に蘇生する。
溢れる情動を処理しきれずに、涙が流れる。数年振りの感覚に、脳が追いつかない。それでも、どうにかして彼女の言葉に食らいつく。
長い沈黙が場を支配する。
「・・・・・・・やっぱり、ダメですかね・・・・・・・エヘヘ・・・・・・・」
彼女の悲しげな声が耳を叩く。
「・・・・・・・・・・・・・・そんなこと、ないよ」
思わず言葉が出る。覆うものが消えた、私本来の喋り方で。
「・・・・・・・じゃ、じゃあ」
答えは、考えるまでもない。私の心は彼女に捕まってしまった。そんな彼女に告白されることは、蘇生した私にとって、初めての喜びだった。
「・・・・・・・喜んで」
これが、あの夜の顛末。
数日後。
彼女──────クリュティエ・・・・・・・ゴッホちゃんは、今日もアトリエに引き篭もっていた。・・・・・・・・・・・・・・うん。正直、前の私はやっぱりどうかしている。告白されて・・・・・・・まあ、その、恋人?と言っても差し支え無い仲になったわけだけど。元に戻った私にとって、恋人を、ファーストネームで呼ぶことは恥ずかしくて。つい、苗字で呼んでしまう。なんで恥ずかしげもなく名前呼べてたんだろうね前の私。
話を戻すと、彼女が引き篭もっているのは仲が悪くなったとかではなくて、単に絵の仕上げに取り掛かっているからだ。今取り掛かっている絵のモデルは・・・・・・・私だ。私を彼女は描いている。しばらくスランプになっていた様だけど、あの夜以降調子を取り戻したのか、今はずいぶん楽しそう。・・・・・・・正直自分が絵になってるのは恥ずかしいどころの話では無いけど、彼女が喜ぶなら、それで良い。
ご飯の時間になれば出てくるから、夕食を作りながら彼女を待つ。
しばらくすると、予想通り彼女が出てきてソファに倒れ込む。昨日までと比べるとなんだかやり遂げた顔をしている。
「・・・・・・・疲れました・・・・・・・」
「お疲れ様、ゴッホちゃん。疲れたにしてはなんだか満足してそうだね」
「エヘヘ・・・・・・・その、ついに、完成いたしまして・・・・・・・」
「それって、私がモデルの?」
「エヘヘ・・・・・・・はい、立香様の絵が、遂に完成したのです!納得いく出来まで長い戦いでした・・・・・・・」
若干くすぐったい。彼女、ゴッホちゃんとの関係は恋人でもあるけど外から見ればいまだに奴隷と主人の関係だ(奴隷の象徴である首輪は無いけど)。それなのに彼女に様付けで呼ばれるのはなんとも言えない。・・・・・・・いや、私もちゃん付けで呼んでる以上大差ないのかもしれないけど。
「・・・・・・・おめでとう、ゴッホちゃん。私も嬉しいよ」
「エヘヘ・・・・・・・ありがとうございます・・・・・・・」
「とりあえず、ご飯にしよ?ゴッホちゃんもお腹空いてるでしょ?」
「・・・・・・・そうですね。ずっと集中してたからお腹減っちゃいました、エヘヘ・・・・・・・」
彼女と夕食を一緒に食べる。絵が完成したからかゴッホちゃんの顔は晴れやかで、いつもよりも明るい雰囲気で食事の時間が進んでいく。
そして、食べ終わって洗い物をしている時。
「・・・・・・・あの、立香様、今日も・・・・・・・ウフフ・・・・・・・」
彼女から夜のお誘いが来る。
それに対するわたしの返答はもちろん。
「・・・・・・・良いよ」
数時間後、彼女のベッドにて。
私とゴッホちゃんは裸で向き合っている。ここ最近・・・・・・・つまり、彼女が告白してから毎夜こうしているいる気がする。でも、今回はちょっと違うらしい。
「・・・・・・・あの、今夜はわたしに、リードさせて欲しいのですが・・・・・・・いつも立香様がリードしてますし・・・・・・・」
彼女にそう提案される。確かに、ずっと私がイかせてばっかりだったな、と振り返る。
「・・・・・・・ゴッホちゃん、出来るの?」
告白の夜の醜態を思い出し、そして自分の中の不安を隠す様に彼女に尋ねる。
「・・・・・・・えっと、勉強したので、多分・・・・・・・ダメ、でしょうか・・・・・・・」
ゴッホちゃんに上目遣いで見られる。不安そうな彼女を見ると、どうしてもダメとは言えない。別に断る気も無いけどね。
「・・・・・・・うん、良いよ。よろしくね」
「・・・・・・・エヘヘ・・・・・・・!今日は、わたしが・・・・・・・!」
大丈夫かなぁと思いつつ、温かく見守ろう、と思う。
しかし、そんな私の慢心は、完膚なきまでに打ち砕かれることになる。
「えっと、じゃあまず・・・・・・・オナニーから・・・・・・・見せ合いっこ・・・・・・・エヘヘ・・・・・・・」
お互いに自分を慰める。いつも通りに。
「んっ・・・・・・・あっ♡」
思わず甲高い声が漏れる。何故だろう。無性に気持ちよくて、つい変な声が出てしまう。ゴッホちゃんに見られているからだろうか。見下ろすと、秘部がもう濡れていた。
「エヘヘ・・・・・・・立香様、もう感じているんですか?実は、わたしもなんです・・・・・・・♡」
彼女を見ると、彼女も既に濡れている。
「お互い、もう感じているみたいですね・・・・・・・♡ では、立香様はそのままで・・・・・・・今夜は、わたしがご奉仕するので・・・・・・・ウフフ・・・・・・・♡」
優しくベッドに寝かされ、彼女に乗られる。そして、ゆっくりと唇を塞がれる。
それは、とても背徳的な喜びだった。何度も何度も、傅くように優しいキスをされる。唇を塞がれるたび、主人であるゴッホちゃんに奉仕されてることを認識して、体が疼いていく。
溶けるような甘さに包まれ始めた頃、突然強く襲われる。それは捕食者の様だった。抱きしめられ、口内に彼女の舌が侵略してくる。抱きしめられているから、逃げることが出来ない。
まるで今まで小動物の皮を被っていたかのように、強く締め付けられる。
「〜〜〜〜〜〜〜‼︎」
長く、長く、ねちっこく攻められる。長い、長いキスで意識が消えそうになる頃、唇が離される。
「・・・・・・・ぷはっ。どうでしょう、立香様・・・・・・・♡」
「・・・・・・・うそ。こんなに、きもちいいなんて」
酸欠で痺れる頭で、どうにか答える。
正直、舐めていた。ゴッホちゃんがこんなにキスが上手いなんて。そして、自分の身体も。こんなに感じやすいなんて。
「・・・・・・・エヘヘ。立香様、これだけじゃ・・・・・・・ないですよ・・・・・・・ウフフ・・・・・・・」
捕食者の様に獣欲に潤んだ瞳で彼女が笑う。
──────私は、後悔した。
「あっ・・・・・・・そこ、やめてぇ・・・・・・・」
「エヘヘ、嫌です・・・・・・・♡」
「あ、ああっ・・・・・・・♡イく、またイっちゃうぅぅ♡」
この前の仕返しとばかりに、彼女に色々な場所を舐められる。
私は奴隷として調教されている。精神的な問題で感じこそしていなかったが、開発はされている。ここ数日間は意識していなかったが、さっきの自慰とキスで、それを意識してしまった。
─────今、その成果を身をもって味わっている。
私の身体は彼女に少し舐められるだけで感じ、深く舐められたら絶頂してしまう。快楽神経が繋がっていく。
「・・・・・・・舐めているだけなのに、こんなにイっちゃうなんて・・・・・・・えっちですね、立香様?」
「・・・・・・・やめてぇ・・・・・・・恥ずかしい・・・・・・・」
制御できない自分の身体が恥ずかしくて、顔を覆ってしまう。
「恥ずかしいことなんてないですよ立香様・・・・・・・とっても、可愛いです♡」
そんなことを言われると、被虐心が刺激されて、悦んでしまう。身体が勝手に愛液を垂れ流す。
「・・・・・・・お耳ががら空きですよ、立香様♪」
「っ♡♡♡」
突然彼女に耳を舐められて、またイってしまう。前回のように、私がやったことをやり返される。
更に
「ゴッホちゃ、やめっ、吸わないでっ♡♡」
「エヘヘ・・・・・・・嫌です♡ 立香様のお汁、美味しい・・・・・・・♪」
彼女に愛液を啜られる。自分の分泌液が啜られることに、恥辱で気持ちよくなり、また絶頂し、愛液が垂れ流される。
「・・・・・・・最後は、ここです♡」
「あっ、やめ、あっ、ああっ♡」
彼女にクリトリスを虐められる。これまでの攻めで私のクリトリスは痛いほど勃起していて、発情している。息を吹きかけられ、飴玉のように丁寧にしゃぶられる。そんな弱い刺激でも、イってしまう。
そして最後に止めを刺される。
かぷっ。
音にすれば、そんな軽い音。でも
「あっ♡、これだめっ♡こわれちゃう♡あ、イく♡イっちゃう♡やめっ♡あ、あああああぁぁぁぁぁぁぁっ♡♡♡♡」
快楽で散々融けた私の身体には、それで十分だった。彼女に甘噛みされた私のクリトリスは、その快感を余すことなく伝え、私の脳を焼く。あまりの熱量に融けてしまう。
「どうでしたか、立香様・・・・・・・♡」
「まるで、とける、ようだった」
融けた思考で、どうにか答える。
「・・・・・・・それなら良かったです♡ では、わたしも・・・・・・・♡」
彼女の求めるままに、立場を入れ替える。お互いに快楽で脳を融かしながら、永い夜が過ぎていく。
──────しばらく後。
ゴッホちゃんの新作が発表された。タイトルは「ある少女」。私をモデルにした絵で、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホのフォロワーとしても有名な彼女が描いた新作として、たちまち注目を集めた。贔屓目もあるけど、モデルの私から見ても魅力的な絵だった。彼女の弟経由ですぐにどこかの美術館に購入され、衆目を集めているとか(尚、この時初めて彼女の弟のテオドルスさんと会った。ゴッホちゃんは最初は隠そうとしていたがすぐにバレて怒られていた。お説教で沈む珍しいゴッホちゃんが見れたなあ、と印象的だ。最終的には、テオドルスさんの方が折れていたけど)。
そして、今。
私とゴッホちゃんは、墓地に来ていた。私の両親のお墓参りだ。
・・・・・・・正直、両親のことはそこまで傷になっているわけじゃない・・・・・・・先に置いて逝かれて寂しいとは、思ってるけど。・・・・・・・でも、大丈夫。私を見つけてくれた彼女が、隣にいる。
両親に別れを告げて、彼女と手を繋ぐ。
「行こう、ゴッホちゃん。どこまでも一緒に」
「・・・・・・・はい!」
ありがとう、ご主人様。私を見つけてくれて。ずっと。ずっと着いていくから。
書いてて楽しかった(こなみ)
前後編って言ったくせに前中後後になってしまった。
続きを書くなら
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快楽堕ち(ビーストカーマ)
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カジノ敗北所有物(Wコヤンスカヤ)