※この作品はR-18です。

狂気的な恋 R18版   作:96963

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モルガンの話を書くならトリ子とトネリコに触れるのは必要だと思って書きました
今回はトネリコメインです
後編でモルトリが出ます


ぐだ子がトネリコ・モルガン・バーヴァン・シーに食べられる話・前編

 それは、ある日の事。

 特に何かが起きる気配もない、何でもない一日の事だった。

 

「はぁい、元気ィ? いえ、元気よね? だってオマエ、元気が取り柄だもんな!」

 

 提出するべきレポートとか色々な作業にひと段落ついたので一息ついていると、マイルームのドアでも蹴り飛ばさん勢いで誰かが入ってくる。

 

「…………どしたの、バーヴァン・シー」

 

 入って来たのは、妖精騎士のバーヴァン・シーだった。

 彼女と私の関係は少し複雑だ。

 彼女は私のサーヴァントであると同時に、私の夫であるモルガンの娘なのだから。

 だからといって私達が親娘になる、という訳でも無いけど、モルガンと夫婦になっている以上意識はするもので。

 …………最も、バーヴァン・シーの方はそんなのお構いなくと言わんばかりに絡んでくるけどね! 

 閑話休題。

 マイルームに入って来たバーヴァン・シーは、声こそ上機嫌だったが顔は若干不機嫌そうだった、

 矛盾するその二つの感情に、何かやらかしたかな私、と思いながら来た理由を訪ねてみる。

 個人的な心配と、モルガンの頼みで定期的に様子を見に行ってはいるけど、お節介だっただろうか。

 

「…………別に、アナタには何もないわよ。ただ、ちょっと頼みたい事があるだけだ」

 

 声に乗った感情が伝播したのか、バーヴァン・シーが少し不快そうに顔を歪めながらベッドに腰掛ける。

 どうやら、私が原因で不機嫌な訳では無いらしい。

 頼みとやらに関係してそうだけど、何だろうか。

 

「頼み事? どんな?」

 

 それが気になって、バーヴァン・シーに聞いてみる。

 すると。

 

「ああ、別に難しい事じゃないわよ? ただ、アナタにも関係する事だからちゃんと聞いてね? 実は、お母様───いえ、モルガン陛下に最近、悪い虫が付いてるみたいなのよね」

 

「…………へ?」

 

 まあまあ、いや結構衝撃的な言葉に頭を殴られた。

 

「…………どういう、事?」

 

「あぁ? どういう事も何も、そのままだよ。それとも、バカだからわかんないの?」

 

 そのショックで思わず疑問を溢すと、バーヴァン・シーが思い切りバカにしたような目で見てくる。

 当然だが、私も意味くらいわかる。

 私が疑問を溢したのは、モルガンに悪い虫がいるという、事実そのものだ。

 それは、今の私にとって到底受け入れられない事実だった。

 ガラガラと、足元が崩れていく様な感覚に襲われる。

 

「…………まあ、こっちも言葉足らずだったか。もう一回しっかり説明するから、耳の穴かっぽじって、よく聞けよ?」

 

 私の様子に勘違いしたのか、バーヴァン・シーが呆れながらも言葉を紡ぐ。

 

「事の始まりは、少し前の定例会議だ。内容自体は特に変わりはなかったんだが…………終わり際に、モルガン陛下が妙な事を言ったんだよ」

 

「妙な、事?」

 

「…………何でも、今の陛下には妖精騎士のわたし達も知らないつ…………いや、気になる女がいるんだと。…………メリュジーヌの奴は知っている風だったけどな」

 

「気になる、女」

 

 バーヴァン・シーの説明を、鸚鵡返しに繰り返す。

 思考回路がショートしてしまったかの様に。

 それ程にまで、私の心は揺れていた。

 

「ああ。…………で、オマエならその女について何か知ってると思って来たんだよ。だってオマエ、このカルデアで唯一のマスターだろ? つまりわたしが知らない女のサーヴァントも全て知ってるってワケだ。何せ全員オマエのサーヴァントなんだからな! な、オマエにも関係あっただろ?」

 

 呆然とする私を他所に、バーヴァン・シーが捲し立てる。

 だけど。

 

「…………ごめん、私じゃちょっと、わかんない、かな」

 

 揺れる心では、そう返すのが精一杯だった。

 だって、本当に知らない。

 モルガンからは、何も聞いていない。

 だから、その人の事はわからない。

 だけど、何故だろうか。

 何となく、私はその人には勝てないんだろうなと思った。

 何処からか、劣等感が湧き出す。

 そして、心を暗く染めていく。

 

「…………バーヴァン・シーの勘違い、って可能性はないの?」

 

 劣等感で暗くなる心から逃げる様に、そうであって欲しいという希望を乗せてバーヴァン・シーに問いかける。

 しかし。

 

「いや、それはねえな。…………あの時のお母様は、わたしでも滅多に見ない様な顔をしてたし」

 

 その希望は、バーヴァン・シーの言葉であっさりと打ち砕かれた。

 

「…………そう」

 

 逃げ場が無くなり、心が更に暗くなっていく。

 その時。

 

「…………ったく、振り出しか。ま、それも考えてなかったワケじゃないけど。ほら、行くぞ」

 

「へ? …………うわっ⁉︎」

 

 落ち込む私の腕を掴み、バーヴァン・シーが無理矢理私を立たせた。

 

「ちょ、何っ⁉︎」

 

「何って、決まってんだろ。今から実地で調べに行くんだよ、お母様に付いた悪い虫をな!」

 

 私を引きずる様に、バーヴァン・シーがマイルームの外に向かう。

 

「いや、何で私も⁉︎」

 

 何故巻き込まれているのだろうか、と落ち込んでいる事も忘れてバーヴァン・シーに訊ねる。

 

「ああ? オマエはわたしとお母様のマスターなんだから手伝うのは当然だろ。そ・れ・に…………気になるでしょ? お母様を夢中にさせる女は誰かって!」

 

「…………む」

 

 言われてみればその通りだ。

 モルガンに悪い虫が付いてる、という事実だけで落ち込んでいたけれど、相手が誰か私は知らない。

 その人が良い人なら私が邪魔する理由は無いけど、そうじゃ無いなら話は別だ。

 暗くなっていた心が、かちりと切り替わる。

 私の顔を見てそれを察したのか、バーヴァン・シーがニヤリと笑った。

 

「その通り…………百点中千点のヤツじゃなきゃ、ゴミ箱行きだからな!」

 

「…………そうだね!」

 

 冷静に考えれば厳しすぎるその基準に、本心で頷く。

 だって、私からモルガンを取ったのだ。

 それくらいは無いと、認められない! 

 

「わかってるじゃねえか! さあ、行くぜ!」

 

 いつの間にかミコケルの格好になったバーヴァン・シーが、私の手を握る。

 それに引っ張られる様にして、マイルームを飛び出した。

 

 

 とはいえ。

 

「うーん、こいつも違うな…………」

 

 モルガンが気になる女の人、など今の私達にわかる筈も無く。

 片っ端から当たってみてはいるものの、結果はなしの礫だった。

 勢いで飛び出したものの、早速調査が暗礁に乗り上げつつある。

 

「おい、オマエは何か当てはないのかよ? サーヴァント全員の人となりくらい、ここの誰よりも知ってるでしょ?」

 

「うーん、そう言われても…………」

 

 バーヴァン…………ミコケルに言われるまま考えてみるが、特に思い当たる節は無い。

 モルガンと関わりがあると言えば、ハベにゃんが思い浮かぶけど…………カルデアでの様子を見ると、隣のミコケルに向けているのと似た様な感情な気がする。

 

「ちなみに、バーゲストやメリュジーヌって可能性は無いの?」

 

「無いだろ。まあ、お母様からの信頼は篤いだろうけど」

 

「だよねぇ…………」

 

 モルガンと関わりが深いと言えばで思いついた二人をミコケルに聞いてみるが、予想通り否定される。

 まあ、私も同じ事考えていたから調査から省いたしね。

 後妖精騎士と言えばブリトマートだけど…………こっちはそれにプラス、政治的な意味でも無さそうだなぁ。

 初めて来た時、結構気にしてたし。

 その時。

 

「…………あ」

 

 あれこれとモルガンについて考えていたら、ふと百点中千点の女の子が脳裏に浮かんだ。

 

「お、それはなんか心当たりあるって顔だな? ほら、言ってみろよ」

 

 私の声を耳聡く咎めたミコケルが近づいてくる。

 しかし。

 

「…………」

 

「おい、どうした? 心当たり、あるんだろ?」

 

「…………いや、うん、違うと思うな!」

 

 私がそれを口にする事は無かった。

 違うとわかりきった答えだったからだ。

 何故なら、私の頭に浮かんだ百点中千点の女の子とは、我が素晴らしき後輩、マシュの事なのだから。

 ハベにゃんも一押しの花嫁って言ってたし、マシュならミコケルのお眼鏡にもかなうだろう。

 だけど、そうなる事はないと頭の中の冷静な部分が否定する。

 モルガンとマシュの仲が悪いという訳ではないけど…………あっちも色々、複雑みたいだし。

 …………まあ、自慢の後輩とモルガンがそういう関係になるのを認めたくない自分勝手な部分はあるけども! 

 いやなんかほら、寂しいし? 

 

「ああ? 勿体ぶってないで言えってば! もしかしたら合ってるかもしれねえだろうが!」

 

「いや違うって! ただちょっと浮かんだだけで!」

 

「だからそれを言えって言ってんだろ!」

 

 頭の中で色々と言い訳していると、私の態度に怒ったミコケルが胸ぐらを掴んで揺さぶってくる。

 そのままお互いに廊下でギャーギャーと言い合ってると。

 

「おや?」

 

 ふと、聞き慣れたようでちょっと新鮮な声が耳を叩いた。

 

「マスターさんに、ミコケルさん? お二人とも、こんなとこで何をやっているんです?」

 

 モルガンによく似た声に、お互いの視線が声のした方へ向く。

 そこには、渦中の人物であるモルガン…………ではなく。

 その過去の姿である、雨の魔女、トネリコがいた。

 

 

「…………はあ、なるほど。つまり人探しをしていて、その途中で言い争いになったと」

 

「…………そういう事に、なるかな」

 

 トネリコに見つかった私達は、まずは場所を移動しましょうと提案され、近くの空室に転がり込んだ。

 そして何故か今、私達は正座させられている。

 

「ふむ。…………仲が良いのは結構ですが、時と場所は考えないとダメですよ?」

 

「っ、そう、だね…………?」

 

「…………」

 

 トネリコが、ニコリ、と微笑んで私を見る。

 …………何か怖い。

 顔は笑ってるけど、目が笑ってないような…………

 私何かした? 

 そりゃミコケルとなりゆきで口論になってはいたけども。

 後ミコケルは何で黙っているのだろうか。

 普段ならここで反発しそうなものだけど。

 いやまあ、ミコケルがトネリコの大ファンなのは知ってるけどさ。

 

「ミコケルさんも、わかっていますか?」

 

 珍しく黙っている…………というか無反応のミコケルを見咎めたトネリコが、軽く注意する。

 しかしそれにもミコケルは生返事で、心あらずといった対応だった。

 一体どうしたのだろうか。

 

「…………全くもう。私もモルガンも今は忙しいので、後はマスターさん、お願いしますね」

 

「あ、うん…………」

 

 ミコケルの様子にトネリコが軽くため息を吐きながら、部屋から出て行く。

 …………トネリコの気迫に流されたけど、忙しいって何だろうか。

 なんかイベントでもあったかな? 

 考えるが、それらしい答えは浮かんで来なかった。

 閑話休題。

 今は、モルガンの気になる人を探さないと。

 

「ミコケル、どうしたの? 何か変だけど」

 

 とりあえず、変な様子のミコケルに呼びかけてみる。

 すると。

 

「アハッ、アハハッ、もう最高! オマエのおかげで、ついに見つけられたぜ! でかした!」

 

「っ⁉︎」

 

 いきなりテンションの変わったミコケルが立ち上がって、妙なことを言いながら私の手を包んだ。

 

「…………見つけたって、何を?」

 

「お母様の伴侶に決まってるだろそりゃ! ああもう、何でわたしはこんな簡単な事に気が付かなかったんだ!」

 

「…………へ?」

 

 ミコケルの言葉の意味がわからない。

 先程までに、モルガンに関係する何かがあっただろうか。

 モルガンその人はいたけども。

 

「あ? オマエ、まだ気づいてないのか? 今の見たろ?」

 

「見たって、トネリコの事?」

 

「ああ、雨の魔女様だ! もう最高っ、あれなら千点どころか一万点は軽く超えるぜ!」

 

「…………ん?」

 

 すると、話している内にミコケルの言葉が何だか妙な方向に行ってる事に気付く。

 それを聞いて、頭に馬鹿げた考えが思い浮かんでくる。

 それは私からするとどう考えてもあり得ない考えだった。

 しかし、そう考えるとミコケルの言ってる事に辻褄が合ってしまう。

 

「…………もしかして、モルガンに付いてる悪い虫の正体が、トネリコって思ってるの?」

 

 ミコケルにトネリコの事を恐る恐る訊いてみる。

 違ってて欲しい、と思いながら。

 しかし、予想というのはいつも裏切られるもの。

 

「もしかしても何も、それしか無いだろ! さっき魔女様が、お母様も忙しいって言ってたじゃねえか! 二人揃って忙しいって事はつまり、式を挙げるって事でしょ⁉︎」

 

「…………」

 

 ミコケルから返ってきたのは、あり得ない方だった。

 その言葉に、色々と絶句する。

 だって、トネリコはモルガンの過去の姿…………つまり、モルガン自身なのだから。

 つまり、ミコケルの言う様な事は成立しないのだ。

 だけどミコケルは自信満々な様子で、今から否定しても聞き入れるとは思えなかった。

 

「これなら私も心から祝福出来る! …………こうしてる場合じゃない、早く準備しないと! それじゃあねマスター、本当にありがとう!」

 

「あ、ちょっと!」

 

 どうしたものかと悩んでいる内に、ミコケルが何処かに飛び出していく。

 そしてミコケルの勘違いを訂正する間も無く、すぐにその背中が小さくなった。

 

「…………どうしよう」

 

 空き部屋に、私だけが取り残される。

 処理の追いつかない状況に、呆然とした言葉が溢れた。

 

 

「…………まずは、色々と整理しよう」

 

 部屋のベッドに腰掛けて、先程の混沌とした状況を振り返る。

 

「そもそも、何でミコケルはモルガンとトネリコが結婚するって思ったんだろ」

 

 ミコケルが何故その様な勘違いをしたのか考えていると、ふとサバフェスの記憶が蘇った。

 そういえば、サバフェスの最後の方にモルガンがトネリコの格好をして彼女が寝泊まりしてた家に来たけど、ミコケルの態度が普段モルガンに接する時のものとは違ってた様な。

 具体的には、憧れの人に初めて出会ったみたいな反応だった様な。

 

「…………もしかして、ミコケルはトネリコとモルガンの関係を知らない?」

 

 記憶が導き出した答えは、そう言っている。

 なるほど、そう考えたらミコケルの行動に納得がいく。

 だけど。

 

「…………これ、どうミコケルに教えたら良いんだろ」

 

 それは、状況を更に複雑にするだけだった。

 ミコケルもといバーヴァン・シーがトネリコとモルガンの関係について知らないという事は、バーヴァン・シーの母であるモルガンはその事実を恐らく彼女に教えていない、という事を意味する。

 つまり、私が教えるとモルガンが怒る可能性がある。

 それは避けたい。

 とはいえ、このまま放置するのもそれはそれでめんどくさい事になるのが目に見えている。

 

「…………モルガンの気になる人ってのもわからないし、本当にどうしよう…………」

 

 目の前に積み上がってきた色々な問題に、どうすれば良いのかと頭を抱える。

 状況を整理するつもりが、更に複雑になってしまった。

 その時。

 

「私の気になる人? 一体誰の事ですか?」

 

 何処からか、聞き覚えのある凛とした声が耳朶を叩いた。

 

「誰って、モルガンが会議で言ってたらしい女の人の事だけど…………」

 

 その声は何だかとても頼もしく、誰かもわからないのについ応えてしまう。

 すると。

 

「はあ。それって、貴女以外の誰があり得るんです?」

 

「へ?」

 

 声の主が、物凄い呆れた様子で変な事を言い出した。

 流石にそこで違和感に気づき顔を上げると、声の主と視線が合う。

 そこには。

 

「ト、トネリコぉっ⁉︎」

 

「はい、貴女のトネリコですよ?」

 

 先程いなくなったはずのトネリコが、救世主の姿になって私を見下ろしていた。

 

 

「な、なんでここに…………っ⁉︎」

 

 予想外の闖入者に驚き、反射的に身体が跳ねる。

 それで足がもつれて、背中からベッドに倒れ込んでしまう。

 ぼすん、と身体がベッドに沈み込む音がする。

 

「おや、なんでとはひどい言い草ですね。悩めるマスターの声が聞こえたから駆けつけたというのに。それとも、私ではダメですか?」

 

 そんな私の様子に呆れたのか、溜息を吐きながらトネリコが手を伸ばす。

 

「いや、別にダメって訳じゃないけど…………忙しいんじゃなかったの?」

 

 その手を掴んで起き上がりながら、ここにいる理由を訊ねる。

 確か、雨の魔女のトネリコが、モルガンも自分も忙しいって言ってたはず。

 だから救世主のトネリコも、忙しいと思ってたんだけど。

 

「…………あっ」

 

「あ?」

 

 すると、トネリコから妙な声が漏れた。

 それはまるで「あ、そんな設定だった様な」と言ってる様に聞こえる声だった。

 普段のトネリコからはあまり聞かない声に、つい訊き返してしまう。

 

「いえ、何でもないですよ? 確かに忙しいですけどそれはそれ、それよりもほら、貴女の話です。私は貴女のサーヴァントなんですから」

 

 しかし、流石救世主と言うべきなのか。

 トネリコが取り乱したのは一瞬で、すぐにいつもの落ち着いた雰囲気に戻る。

 それはとても自然な様子で、先程の動揺が幻の様に思える程だった。

 …………トネリコの目が僅かに泳いでいるのに気づいていなければ、の話だけど。

 だけど、それを追及しよう、という気にはならなかった。

 何故なら。

 

「…………じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 それ以上に、トネリコの言葉が気になったからだ。

 

「…………私以外にあり得ないって、どういう事?」

 

 トネリコが部屋に入って来た時の事を訊ねる。

 私以外にあり得ない。

 それはつまり、モルガンの妻は私のまま、って事になるんだけど。

 すると。

 

「どういう事も何も、そのままですよ。今の私(モルガン)が気になる人…………言い換えれば、恋慕の情を向けているのは貴女だけです」

 

 心底呆れた様子で、トネリコが私の考えを肯定した。

 あり得ないと思っていた答えに、混乱で思考がフリーズする。

 

「雨の魔女、救世の妖精、水妃と独立している私達ですが…………その奥にある想いは一つです。だからわかります。今の私(モルガン)が恋慕うのは、貴女だけだと」

 

 トネリコが更に畳み掛ける。

 トネリコはいつも通りの、優しさと固い意志を秘めた鉄の顔をしている。

 しかしその裏には仄かな怒りと悲しみが滲んでいて、混乱に惑う思考の中でもトネリコの言葉が真実だと本能的に理解してしまった。

 だけど、それだとバーヴァン・シーの言葉と矛盾が生じてしまう。

 矛盾を解消するために思考を回したその時、かちりとピースの嵌る音がした。

 バーヴァン・シーは、雨の魔女の事を知らなかった。

 もしかしてそれは、トネリコ達と私の関係にも同じ事が言えるのではないだろうか。

 つまり、バーヴァン・シーの言った悪い虫とは…………

 

「…………ぁ」

 

 その考えに至った時、激しい後悔が私を襲った。

 私がもっと考えていれば、トネリコ達を疑わなければ、トネリコにそんな顔をさせる事もなかった。

 それを理解してしまったが故に、そんな考えが槍の様に胸を刺す。

 そして貫かれた穴吹き上がった悔恨が私の身体を絡め取って縛り付ける。

 まるで全身に鉛を詰め込まれた様に身体が重くなり、思考が鈍化していく。

 足元がガラガラと崩れる様な感覚に呑まれ、色彩が落ちていく。

 だけど。

 

「…………っ」

 

 罪悪感に絡め取られたまま止まってしまう事は、私には出来なかった。

 何故なら、目の前にトネリコがいるからだ。

 トネリコは私に、これ以上無いほどに気持ちを示してくれた。

 それに答えを出さないまま、止まってしまう事なんて私には出来ない。

 疑ってしまってとはいえ、今も私はトネリコの…………モルガンの事が好きなんだから。

 ギリ、と歯を食い縛って止まりそうになる思考を叩き起こし、何故こんな勘違いをしてしまったのかを考える。

 意外な事に、その答えはすぐに見つかった。

 …………いや、どちらかと言えば今まで目を背けていたものに向き合わざるを得なくなったというべきか。

 ともかく、答えは出た。

 

「マスター?」

 

「…………ごめん、トネリコ。私、酷い勘違いをしてたみたい」

 

「全くです。一体、何をどうしたらそんな発想になるんでしょうか。廊下で聞いた時は思わず、『しばらく宝石に変えて胸にしまい込んでわからせてしまおうか』なんて思っちゃいましたよ」

 

 トネリコが呆れた声で物騒な事を言う。

 しかし、その裏にはトネリコなりの好意が見え隠れしていた。

 だからなのか、物騒な事を言われているのについ安堵してしまう。

 …………トネリコ達の好意を疑ってしまった手前、自分勝手だとは思うけど。

 おかげで、ちょっと勇気が出た。

 トネリコに、私の矮小さを告白する勇気が。

 

「…………トネリコの事も、モルガンの事も、好き。好き、だけど…………好きだから、怖かったの」

 

「怖い?」

 

「…………」

 

 勇気は出たけど、口が重い。

 自分の肉を抉る様なものだ。

 告白する口も、相応に重くなってしまう。

 だけど、止まるわけにはいかない。

 今止まってしまったら、私の気持ちさえも、嘘になってしまう気がしたから。

 それはきっと…………トネリコを…………モルガンを、また、傷付ける。

 だから、私は進むしかない。

 

「…………トネリコ達が、離れる事が」

 

「私的には、離れる理由は無いと思いますけど」

 

「…………私には、貴女達に誇れる様なものが、ないから。だから、置いていかれるかもしれないって怖さがいつもある」

 

 私はどこまで行っても、ただの凡人だ。

 マスターとしての経験なら自信はあるけど、それ以外はからっきし。

 その経験だって、あの日たまたま私がカルデアにいたから積む事が出来たってだけのものだ。

 誇れるものなんて、私にはない。

 …………だから、怖い。

 いつからか、モルガン達が私を置いていってしまうのではないかという不安が胸に巣食う様になっていた。

 勿論、モルガン達が私の能力を求めてるなんて思い上がった事を考えてる訳じゃない。

 だけど、どれだけ頭でわかっていても胸に巣食った不安が消える事はなかった。

 …………だから蓋をして、見ない様にした。

 ゴミ箱に棄てる様に、蓋で押し込んでいつか消える事を願った。

 でも、そう上手くはいかなかったみたいだ。

 押し込んで棄てたはずの感情は、気づかない内に肥大して溢れ始めていた。

 そしてバーヴァン・シーの言葉をきっかけにして、今日、蓋が外れた。

 

「…………それが、貴女の勘違いの理由ですか」

 

 こくり、と頷いてトネリコの言葉を肯定する。

 開いた箱から溢れた感情が不安を煽り、見たくない事実を突きつけた。

 それは忘れようとしていた私に耐え切れるものではなく…………楽な方に逃げてしまった。

 バーヴァン・シーの言葉の裏を取り、モルガンを信じるのではなく…………その言葉を鵜呑みにして、諦めてしまう方に。

 そうしないと、軋んだ心が割れてしまいそうだったから。

 だけど、そんな事は目の前にいる彼女達には関係ない。

 自分の心の小ささでトネリコ達に傷を付けてしまった後ろめたさに、思わず目を逸らす。

 しかし。

 

「っ⁉︎」

 

 トネリコはそれを、許してくれなかった。

 いきなり顎を掴まれ、持ち上げられる。

 丁度、トネリコと視線が合う様に。

 

「いつか貴女は言いました。怒る様な、拗ねる様な顔で、『最終的には、救えなかったじゃん』と。その言葉は、救世主である事以外のアイデンティティーを見失っていた私の間違いを正してくれた。それなのに、今度は貴女がその間違いを犯すのですか?」

 

 トネリコが怒る様な、拗ねた様な顔をしながら私に問いかける。

 トネリコの言葉は、痛いとこを突いていた。

 救世主である事だけをアイデンティティーにしていたトネリコと、何も無い事を理由に諦めようとしている私。

 構図としては良く似てる。

 でも。

 

「…………わかってる。わかってる、けど」

 

 私はトネリコの様に、自分の言葉を受け入れる事ができなかった。

 トネリコ達への思いを諦めたじゃ無い。

 むしろトネリコ達に告白されたおかげで、諦めきれなくなってしまった。

 だけど、その心のままに手を伸ばす事を、私自身が許せなくなっていた。

 だって私は、その間違いでトネリコ達を傷つけてしまったからだ。

 そんな私が、他に渡せるものが何も無い私が、また手を伸ばして良いのだろうか。

 何も無いからこそ、私の言葉がとびきりの棘になって私の心に突き刺さった。

 そしてその棘は不安というノイズに汚染された思考と相まって、躊躇いとなって進もうとする足を阻んだ。

 

「…………はぁ。全くもう」

 

 自分で自分を縛っている私に、トネリコが至極呆れた顔をする。

 さもありなん、と私も内心嘆息する。

 その時。

 

「荒療治になるけど、しょうがないか」

 

「え?」

 

 呆れた顔に少しの笑みを滲ませたトネリコが、妙な事を言った。

 自分の内面にばかり目を向けていたせいだろうか、私はそれに反応出来ず、間抜けな声が漏れる。

 次の瞬間。

 

「──────⁉︎」

 

 何か柔らかいものが、私の唇を塞いだ。

 それは、トネリコの唇だった。

 いきなりの衝撃に、身体が上手く動かない。

 それを良いことに、トネリコが唇を好きに貪り始めた。

 挨拶代わりに、唇を何度も落とされる。

 短い間隔で落とされるそれらに、息をする事も出来ず、堪らず唇が開いてしまう。

 開けられた門に突撃する様に、トネリコの舌がその隙を突いて蛇の様に蠢く。

 舌が口の中を舐め取り、強烈な甘さを私に叩きつけてくる。

 だけど、私が動くことは許されなかった。

 私を支配する様に、トネリコが的確に口の中を責め立てるからだ。

 そのせいで力が抜けて、なすがままにされてしまう。

 全身を絡め取らる様に、じっくりとトネリコの舌に嬲られる。

 やがてトネリコの舌から解放された時、私の頭は舌に叩きつけられた甘さのせいで色々と吹き飛んでしまっていた。

 

「トネ、リコ…………なに、を…………?」

 

 若干荒くなった息を整えながらトネリコに先程の行動について訊ねる。

 

「言ったでしょう、荒療治です」

 

 すると、よくわからない答えが返ってきた。

 …………若干誇らしそうな顔をしたトネリコと共に。

 

「あら、療治…………?」

 

「はい。マスターはどうやら自分に囚われていた様なので、その檻を壊してやろうかな、と。ほら私、魔女ですから。マスターが何を考えていようが、虜にしてしまえば関係ないでしょう?」

 

「なる、ほど…………?」

 

 トネリコの誰かを思い出す様な発言に、さっきまで胸にあった重いものが無くなっている事に気づく。

 とってもクリアな気分だ。

 虜になったか、って言われたら微妙だけど。

 好きな気持ちは元からあるものだし。

 

「今回の件で思うとこはありますけど、それで私達が貴女を手放すなんて事はありませんからね。貴女が離れようなんて思っても、考慮してなんてあげません。そんな気持ち、粉砕してあげます」

 

 トネリコが笑いながら物騒な事を言う。

 お前の心なんて関係ないという私の心を無視した様な言葉。

 だけどその言葉は、今の私にとってはとても安心する言葉だった。

 だってそれは、私がモルガンから離れる事は出来ないという事をこれ以上なく示した言葉だったからだ。

 心が悦びに染まっていくと共に、溢れた感情達が消えていく。

 

「…………ありがとう、トネリコ。私の間違いを壊してくれて」

 

「私は自分の権利を使っただけなので、お礼を言われる程の事では。でもそうですね、お礼というなら…………」

 

 トネリコが私の身体を抱き寄せて、目を閉じる。

 トネリコが望む事に見当が付き、胸がドキリ、と高鳴る。

 五月蝿いくらいに鼓動が早くなっていくが、ここで逃げちゃいけない。

 だって、トネリコは私の檻を壊してくれたんだから。

 なら、トネリコの…………モルガンの妻としては、それに応えないと。

 そう思いながら、顔を近づける。

 

「ん…………」

 

 やがて唇同士が触れた時、さっきよりも優しい甘さが舌を蕩けさせた。

 

 

 

 

 

 そして、トネリコとの長いキスを終えた後。

 

「…………あの、トネリコ?」

 

「…………では、説明してもらいましょうか」

 

 何故か私は、床に正座させられていた。

 困惑する私を、トネリコが鉄の顔で見下ろしている。

 確かに今回の件で悪いのは私だけど、これ以上説明する事なんてあっただろうか。

 私の胸の内はもう吐き出しきったし、重いものも綺麗さっぱり消えたんだけど。

 自覚があるからこそ、この状況の意味がわからなくて脳内に疑問符が駆け巡る。

 しかし、疑問符は駆け巡るだけで答えを出す事は無かった。

 答えの出ない状況に、知らぬ間にトネリコを傷つけてしまったのでは無いかという不安が湧き出てくる。

 新たなに湧いてきた不安に、身体が竦みそうになる。

 だけど、さっきと同じ間違いを犯すわけにはいかない。

 だから。

 

「…………えっと、何を?」

 

 勇気を出して、絞り出すような声で目の前にトネリコに訊ねる。

 いくら考えても埒が明かないままなら、直接訊いた方がまだマシだ。

 …………例えそれで、お互いにまた傷つき合うとしても。

 きっと今よりは、良くなるはずだから。

 そう思っていると。

 

「何って、決まっているでしょう? 貴女とミコケルさんの事ですよ」

 

「…………へ?」

 

 トネリコがにっこりと笑いながら、妙な事を言い出した。

 予想外の言葉に、色々と思考が吹き飛ぶ。

 

「ミコケルって…………?」

 

 トネリコの言葉の意味が分からず、鸚鵡返しに聞き返す。

 すると。

 

「誤魔化さなくても良いんですよ? 私、怒っていませんから。貴女が私達について疑心暗鬼になって、かわいい妖精のミコケルさんと内緒の何かをしていた事なんて、何も怒っていませんから。ただ、説明してくれればそれで良いんです」

 

 ね? 、とトネリコが笑いながら言葉を紡いできた。

 ただ、言葉と裏腹にトネリコが怒っているのは火を見るより明らかだった。

 だって、笑っているのは口元だけで目が全然笑ってないし、威圧感みたいなオーラが凄いし。

 さっき会った雨の魔女の方のトネリコを思い出すような、怖い笑顔だ。

 とはいえ、雨の魔女の方のトネリコに説明した通り、ミコケルは一緒に人探しをしていただけだ。

 ミコケルと疚しい何かがあったなんて事は無い。

 そもそも、ミコケルもといバーヴァン・シーはモルガンの娘だし。

 なのに、何でトネリコは私を疑っているのだろう。

 

「…………あ」

 

 その時、ある事を思い出した。

 トネリコが、ミコケルを汎人類史の妖精だと勘違いしていた事だ。

 その時はなんとなく流してしまっていたが、ミコケルもといバーヴァン・シーがモルガンにミコケルである事を隠したがっていた事と照らし合わせると、一つの答えが思い浮かぶ。

『トネリコ/モルガンはミコケルの正体を知らない』という、答えが。

 意外だけど、バーヴァン・シーはトネリコとモルガンの関係、私とモルガンの関係を知らなかったのだ。

 モルガンがミコケルの事を知らないという事も、有るのかもしれない。

 

「…………ん?」

 

 その答えを思いついた時、何かが腑に落ちた。

 何だろうと思って頭の中を探ってみると、救世主のトネリコが部屋に入って来た時の記憶が出てくる。

 そういえば、あの時のトネリコは、何かを誤魔化していた様な…………あ。

 

「…………もしかして、あの時ミコケルに嫉妬して、忙しいって言ったの?」

 

「っ⁉︎」

 

 疑問の答えが出ると同時に、トネリコから妙な声が漏れた。

 何でだろうと思ったら、考えが口に出てしまったらしい。

 でも、反応を見るに正解だったようだ。

 わざと誤魔化されたけど、あの時のトネリコ、不自然だったし。

 忙しいって言ってたのに、こっちの方が優先だって。

 多分だけど、雨の魔女のトネリコが忙しいって言ってたのは、その場を早く立ち去るための適当な嘘だったんじゃないだろうか。

 ミコケルへの嫉妬を抑えるための。

 その後部屋の近くにいた雨の魔女のトネリコが私の言葉を聞いて救世主の姿でやってきた、みたいな。

 そう思ってトネリコを見上げると。

 

「そんな、事は…………ないですよ?」

 

 さっき誤魔化された時よりも不自然に誤魔化す、トネリコがいた。

 ぱっと見はいつもの鉄の顔だけど、目がかなり泳いでいる。

 多分私じゃなくても、図星だってわかるくらいには。

 その姿を見ていると、さっきのキスの事を思い出して胸が温かくなる。

 

「む。何を笑っているのですか」

 

 トネリコが誤魔化す様に怒った声を出す。

 釣られて顔に出てたみたいだ。

 

「ごめんごめん。トネリコが嫉妬してるって思ったら、なんか嬉しくなっちゃって。…………でも、安心して。ミコケルとの間には、何もないよ。雨の魔女の方のトネリコに言った通り、ただ一緒に、人探しをしていただけ」

 

「…………嘘はついてないみたいだけど…………後、怒ってないから。それじゃあそもそも、何でミコケルさんと人探しを? というか、誰を探していたの?」

 

「それ、は…………あー…………」

 

 どうしよう。

 ミコケルと何も無かったというのを信じてもらえたのは良いけど、更に深く探られると思っていなかったから、答えに詰まってしまった。

 勿論、私とミコケルに疚しい事は無い。

 しかし、ミコケルと人探しをしていた理由を説明する事は出来ない。

 何故なら、それは必然的にミコケルの正体に触れる事になってしまうからだ。

 ミコケルもといバーヴァン・シーは正体をトネリコ/モルガンに隠している。

 なら、私がそれをモルガンの前で暴いてしまうのはバーヴァン・シーの気持ちを踏み躙ってしまう事になる。

 そんな事は私には出来ない。

 とはいえ、下手な誤魔化しをしてもトネリコはすぐに見抜いてしまうだろう。

 例え妖精眼が無くても、私くらいの嘘なら見抜いてしまうはず。

 どうしたものかと思考を巡らせる。

 しかし、良い答えは出なかった。

 

「…………ごめん。ミコケルと探していた理由については、私からは答えられない。でも、トネリコの疑ってる様な事は無いから。信じられないなら、私を暫く宝石にしても良い。…………マスター業務に支障の出ない範囲でだけど」

 

 だから、素直に答えられないと謝る事にした。

 誤魔化したって、多分見抜かれる。

 それに、個人的にはトネリコ達に正直でいたい。

 なら、これしか方法は無い。

 

「…………別に疑ってる訳じゃないけど…………貴女がそこまで言うなら、うん、信じてあげる。それに、こういう時の貴女は、頑固だしね。私が何をしても、口を開く事はないでしょう」

 

 果たして、言葉は届いたらしい。

 トネリコが信じてくれた事に、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「でも、誰を探していたのかは教えて。ミコケルさんについてはって事は、誰を探していたのかは教えてくれるんでしょ? 雨の私の時は、なんか誤魔化されてたし」

 

 しかし、トネリコの追及はまだ終わらないようだ。

 そういえば、雨の魔女のトネリコの方に説明した時はまさか本人にモルガンの好きな人を探していますとも言えなくて誤魔化した気がする。

 まあ、結果的に言えばその人物はいたけどいなかったという事になるんだけど。

 だってバーヴァン・シーの言葉をきっかけに探し始めたモルガンの好きな人は、私の事だったんだから。

 自分で自分を探す事は出来ない。

 …………振り返ってみると、自分が空回りしていたと改めて思い知り、ちょっと恥ずかしくなる。

 でも、私が恥ずかしいくらいなら答える分には別に問題無い。

 トネリコの言葉に頷き、口を開く。

 

「多分、トネリコも聞いていたと思うんだけど…………ミコケルと探していたのは、モルガンの好きな人、なんだ」

 

「ん? どういう事? 貴女(私達が好きな人)が私の好きな人を探す? …………ああ、そういう事。だからあんな妙な事を言ってた訳だ」

 

「うん。雨の魔女の方のトネリコが廊下で見たのも、モルガンの好きな人が誰かって、ミコケルと言い争ってただけ、で…………」

 

 すると、話している内にトネリコの雰囲気が変わった。

 そして。

 

「うわっ⁉︎」

 

 次の瞬間、ふわりと正座していた筈の身体が浮き上がり、ベッドに優しく叩きつけられた。

 更に、息つく間もなくトネリコが私に馬乗りになる。

 

「トネ、リコ…………?」

 

 視界に映るトネリコの雰囲気は、これまで見た事のない不思議なものだった。

 モルガンを思い出させる妖艶な色と、トネリコらしい少女の色が混ざり合いながら変わっていると言えば良いのだろうか。

 刻一刻と移り変わるその様子は、まるで揺らめく水面の様だ。

 見た事のないトネリコの様相に見惚れてドキリと胸が跳ねる。

 そのせいで身体の力が抜けて、トネリコから逃げられなくなってしまう。

 最も…………トネリコから逃げる理由なんて、私には無かったのだけども。

 

「なるほど…………つまり今回の一件は全て貴女の間違いが原因だった、という事ですね」

 

「う、うん…………」

 

 雰囲気の変わったトネリコが、薄く笑いながら私を見下ろす。

 その雰囲気に呑まれ、トネリコの言葉につい頷いてしまう。

 すると。

 

「ふふ…………そういう事なら、ミコケルなる妖精の事については不問としましょう。ですが…………『我が妻』については別です。冬の女王とも言われた私ですが…………貴女と国、両方を取りこぼさないと言ったあの言葉は、嘘じゃないんですよ?」

 

「うっ…………それ、は、ごめん…………?」

 

 困った様に笑いながら、トネリコが囁いてくる。

 痛いとこを突かれて、罪悪感で思考が鈍る。

 しかし、同時に奇妙な違和感が私を襲った。

 何故なら、その声はトネリコではなくモルガンのものだったからだ。

 ただ声が変わっただけなら、モルガンの人格が表に出てきただけだと思ったかもしれない。

 モルガンとトネリコは、本質的に一緒の存在だから。

 でも、あの不思議なトネリコを見たせいだろうか。

 私の頭は、彼女をモルガンだと思う事が出来なかった。

 鈍った思考でも拭い切れない違和感が、モルガンの声にはあった。

 

「ええ。全く、廊下で聞いた時は肝を冷やしましたよ。終わってみれば、悪いものではありませんでしたが。しかし…………今後もこの様な事があっては困ります。ですので、わからせる事にします。我が妻を、私達がどれほど愛しているかを」

 

 艶やかな色を持ったモルガンの声が耳を撫でる。

 それは実にモルガンらしい、支配する者の声だった。

 そして完璧にモルガンの声をしているからこそ、違和感が更に大きくなる。

 何故なら、所々に普段のモルガンが見せない様な明るさが滲んでいたからだ。

 それに気づいた時、違和感が確信に変わった。

 そんな私をおいて、モルガンの様に笑う彼女が唇を近づける。

 

「…………待って!」

 

「…………どうしたんですか、我が妻? まさか、私達を拒むとでも?」

 

 指を立てて近づく唇を制止すると、唇を止められた彼女が、不満気に口を尖らせる。

 モルガンというよりトネリコらしいその顔に、より確信が強まった。

 

「…………トネリコ、だよね?」

 

「…………バレちゃったか。結構上手く出来てたと思うんだけどな」

 

 そして確信を口にした瞬間、トネリコの纏う雰囲気が霧散していつものトネリコに戻る。

 違和感の通り、モルガンの声はトネリコが声真似をして出していただけらしい。

 

「なんで、モルガンの振りを?」

 

「…………笑わない?」

 

 訊ねてみると、トネリコがちょっと恥ずかしそうに聞いてくる。

 滅多に見ないトネリコの様子に珍しい、と思いながら頷く。

 

「その…………貴女の言葉にこう、カッとなってわからせてやろうと思って押し倒したまでは良かったんだけど…………今の私にそういう経験って無いからどうするのかわからなくなってさ。だからこんな時、未来の私ならって思ったらこうなっちゃって…………」

 

「──────」

 

 すると、赤面しながらトネリコがそんな事を言った。

 その言葉に、時が止まったと錯覚するほどの衝撃が走る。

 ちょっと力押しなとこがあるとは言え、普段から完璧な姿を見ているせいだろうか。

 私の上で赤面している今のトネリコとのギャップは、凄まじい破壊力だった。

 その姿に堪らず、トネリコを抱きしめる。

 

「うわっ⁉︎な、何⁉︎」

 

「…………普段と違うトネリコがかわいくて、離したくないなって思って」

 

「そ、そう。…………こうなるなら、慣れない真似なんてしなくても良かったかも。まあ、結果オーライって事で」

 

「どうしたの?」

 

「何でもない。それより」

 

 トネリコが小声で何か言った気がしたが、よく聞こえなかった。

 まあ、トネリコが良いというなら良いのだろう。

 そう思っていると、トネリコに抱き締められ、再びベッドに押し倒され、先程のキス寸前の体勢に持ち込まれる。

 

「トネリコ?」

 

「さっき私(モルガン)の振りをして言った事、中身は本気だから。だから、もう二度と同じ事が起きない様、わからせてあげる」

 

 トネリコ自身の言葉で、先程と同じ宣告をされる。

 だけど今度は、それを止める気にならなかった。

 こくり、と頷くと色々と吹っ切れた様な顔でトネリコが笑い、唇を近づける。

 やがて唇同士が触れ、三度目の甘い味が広がった。

 

「んむ…………っ」

 

 さっきと同じ様に、トネリコが私の唇を貪る。

 刻みつける様に唇を落とされ、酸素の代わりに甘い息を流し込まれる。

 それが媚薬の様に私の頭を溶かし、興奮を否応なく高めてくる。

 やがて口の中がトネリコの甘い息で埋め尽くされ、酸素が隅に追いやられてしまう。

 そのせいか、脳が新鮮な酸素を求めて、無意識に唇が開く。

 まるでさっきの焼き直しの様な展開。

 だけど。

 

「…………?」

 

 トネリコは、さっきの様に隙だらけの私を更に貪る様な事はしなかった。

 代わりに再び唇を落とされ、また甘い息を流し込まれる。

 そのせいで、酸素を取り込んでも取り込んだ端からトネリコに上書きされてしまう。

 どんどん酸素が押しやられていって、まるで肺の酸素全てがトネリコに置き換えられてしまった様な錯覚に陥る。

 だからなのか、呼吸をする度に脳がトネリコという存在に染められて、蕩けていく。

 そして、脳がトネリコの甘さに蕩けきった時。

 

「…………あん? 鍵が閉まってる。まだいるのか、アイツ? ったく、忙しいんだか暇なんだかわかんねえ奴だな…………」

 

「っ⁉︎」

 

 扉の向こうから、ミコケルの声が響いてきた。

 その声に、一瞬にして脳が現実に引き戻される。

 

「マスター、いるんでしょ? ちょっと忘れ物したんだけど、開けてくれる?」

 

 コンコンと、扉を叩きながらミコケルの声が響く。

 だけど、この状況で扉を開けられる訳がない。

 今この状況をミコケルに見られたら、とんでもない事になる。

 そんな焦りが脳を支配して、心臓の鼓動が早まり、思考がぐちゃぐちゃになる。

 その時。

 

「…………っ⁉︎」

 

 ぐちゃぐちゃになった心を更に掻き回す様に、トネリコが有無を言わさず開いた唇を通して舌を絡ませてきた。

 突然の行動に心が更に跳ねるが、トネリコに蕩かされた身体は抵抗なくそれを受け入れてしまう。

 それを良い事に、トネリコの舌が甘い息に侵された口を丁寧に撫でる。

 すると、吐息よりも濃厚な甘さの唾液が私の唾液と絡まって、淫靡な水音とともに醒めた理性が再び蕩けていく。

 まるで私だけを見て、とトネリコに刻まれている様だ。

 それは扉を挟んでミコケルがいる、というスリルと合わせてゾクゾクとした背徳の悦びを私に与えてきた。

 その背徳に、蕩けた理性が限界を迎えて崩れてしまう。

 理性の消えた頭は目の前のトネリコの事以外何も考えられなくなり、抵抗する力が抜けていく。

 すると、無抵抗になった私に興奮したのかトネリコが更に激しく舌を絡ませてきた。

 これ以上無いという程の甘さと共にトネリコの愛が叩き込まれて、宣言通りにわからされてしまう。

 だけど、トネリコはまだ満足してない様だ。

 それを示す様に、トネリコが私の手を握る。

 そのまま、ミコケルが離れていくまでトネリコに貪られた。

 

 

「…………何だ、いないのね。何かの手違いで鍵でもかかったのかしら。壊すと面倒だし、管制室の連中のとこに行くか…………」

 

 長い様な短い様な狂った時間感覚の中、諦めたのかミコケルが扉から離れていく。

 同時に、トネリコが唇を離した。

 

「…………ぷは…………っ!」

 

 解放された瞬間、思い出したかの様に身体が酸素を求める。

 ぜいぜいと息が荒くなる私を見下ろしながら、トネリコが顔を撫でた。

 

「…………忘れてた。そういえばここ、雨の私が貴女とミコケルさんを連れ込んだ空き部屋だったね。いつ誰が来るかもわからないのに、つい夢中になっちゃった。邪魔されたく無かったから咄嗟に鍵をかけちゃったし、ミコケルさんにも貴女にも悪い事しちゃった」

 

 興奮と衝撃で霞む視界の中、ごめんね? 、とトネリコが小さく首を傾げながら謝る。

 最も、その顔は笑っていてやった事への後悔自体は微塵も感じられ無かったが。

 興奮で蕩けてあまり動かない頭でそう思っていると、トネリコが不満気な顔をする。

 

「…………でも、まだまだ足りない。貴女に私達をわからせるには、もっと、もーっと色々しないと…………」

 

 そして物騒な事を呟きながら、雨のトネリコともモルガンとも違う救世主のトネリコらしいにっこりとした笑顔になり、甘い声で囁いてくる。

 

「…………だから、今度は誰も来ない様、貴女の部屋で続きを…………ね?」

 

 いいでしょ? と続けながら甘い声が私を誘惑する。

 蜜の様に甘いその声はトネリコに侵されきった身体には麻薬の様な魅力があって、はい、と頷く事以外出来なくなってしまう。

 最も…………それ以外の選択肢なんて、私の胸には始めから無かったけど。

 

「よかった。じゃあ、一緒に行こうか」

 

 トネリコが差し出した手を握る。

 その指を甘く絡ませながら、期待と共に部屋を後にした。

 

 

 カチャリ、と鍵のかかる音が響く。

 言うまでもなく、私の部屋に私が鍵をかけた音だ。

 今日はもうやる事も無く、誰かが部屋に来る予定も無い。

 その上で、怒っているトネリコと2人きりの状況に、望んで踏み込んでしまった。

 それはつまり、これからトネリコに好き放題されても文句は言えないという事で…………

 改めてその事実に気づいた時、ゾクゾクとした電流が脊髄を走った。

 それは、これから始まる事への期待に満ちた悦びだった。

 生まれてこの方誰かとそんな事になった経験なんて無いのに、何故だろうか。

 トネリコのキスで蕩けさせられた頭は、初めての癖にそれ以外のものを忘れ去っていた。

 

「ふーん…………これから魔女に食べられちゃうのに、貴女はそんな顔をしちゃうんだ…………」

 

 そんな私の内心は筒抜けだった様で、トネリコが悪戯な笑みを浮かべて私を見つめる。

 モルガンを思い出させる様なトネリコの顔はとても蠱惑的で、矢で射抜かれた様に身体が固まってしまう。

 その隙を突いてトネリコが服のボタンに手を掛けて、耳元で囁く。

 

「…………なら、手加減なんてしてあげない。貴女の望み通り、徹底的にわからせてあげる」

 

 ゆっくりと、身に纏う布を解かれながら囁かれる声は私を逃がさないという興奮の色に濡れていて、私が魔女の胃の中に収められてしまった事実をこれ以上なく示していた。

 その事実に蕩けた頭が更に溶かされ、悦びで何も考えられなくなる。

 気づくと、私は一糸纏わぬ姿でトネリコに抱き抱えられていた。

 そのままベッドに運ばれ、優しく組み伏せられる。

 そして。

 

「覚悟して。今日は寝かしてなんて、あげないから」

 

 耳元で楽しそうに囁くトネリコの囁きと共に、長い夜が始まった。

 

 

「ふふ…………まずは、さっきの続きから始めようか。私も物足りなかったし…………貴女も、物足りないでしょ?」

 

 揶揄う様にトネリコが微笑みながら、身に纏う鎧を解いて一糸纏わぬ姿になる。

 綺麗なその身体に魅入られ、トネリコに組み伏せられているという状況も相まって否応なく鼓動が跳ねてしまう。

 そして。

 

「んむ…………っ」

 

 その興奮で乱れる心の隙を突くように、トネリコの唇がそっと私の唇を塞いだ。

 唇同士が触れる柔らかい感触と共に、もう何度味わったかわからない甘さが脳を侵す。

 しかし私の脳はその甘さに飽きる事はなく、むしろもっと欲しいという渇望に囚われてしまった。

 それに追い討ちを掛ける様に、トネリコが身体を絡めてくる。

 服越しに抱き合っていた時とは違い、直に柔らかい身体の感触が伝わってくるせいで、理性が容赦なく蹂躙されてしまう。

 そして、擦り潰されていく理性の代わりに、トネリコに貪られる悦びに頭を塗り替えられてしまった頃。

 

「〜〜〜っ!」

 

 私の奥に入り込む様に、トネリコの舌が私の中に侵入ってきた。

 トネリコの舌が弄ぶ様に私の舌を絡め取り、お互いの唾液を掻き混ぜるいやらしい音を立てながら、蕩ける様な快楽を叩き込んでくる。

 これまでのキスでトネリコに骨抜きにされてしまった身体がそれに悦び、くぐもった嬌声と共に全身の力を抜いてしまう。

 すると、脱力に合わせてトネリコの舌が妖しく蠢いて、更なる快楽と興奮に晒されてしまう。

 そのせいで、トネリコの手繰る糸で操られる人形にされてしまった様な錯覚を覚える。

 そのままトネリコに好き放題舌で嬲られていると、太もものあたりにトネリコの指が触れた。

 しかし、全身が脱力してしまっている私に抵抗する術は無く、キスの動きに合わせてゆっくりと這う様に太ももをトネリコに撫で回されてしまう。

 それはまるで、獲物をジワジワと追い詰める様な動きだった。

 そのせいか、トネリコの指が太ももの付け根に近づくに連れてトネリコという魔女に食べられる事への本能的な恐怖と悦びが混じった悪寒の様な快楽が脊髄を侵す。

 そして、トネリコの指がふともも付け根…………鼠蹊部にまで辿り着いた時。

 

「っ⁉︎♡」

 

 キスで貪られる快楽とはまた違った、電流の様な快楽が私を襲った。

 トネリコの指が、私の陰核に触れたのだ。

 キスで興奮しきっているせいか陰核は既に固くなっていて、触れられるだけで快楽に身体が跳ねてしまう。

 しかし、トネリコが触れるだけで満足する事は当然無かった。

 トネリコが瞳を嗜虐的な色に染めると共に、陰核を責め始める。

 最初は、丁寧な愛撫だった。

 まるで壊れ物を扱うかの様にゆっくりと、丁寧に陰核を撫で回される。

 それだけでも快楽は強烈で、撫でられる度に快楽が脳を焼く。

 そして撫で回されている内に、快楽で興奮した陰核が包皮から顔を出す。

 まるで、もっと虐められたいとアピールする様に。

 それを知ってか知らずか、トネリコの責めが豹変する。

 先程の丁寧な責めとは逆に、まるで玩具を弄ぶかの様な手つきで陰核をこねくり回される。

 上手く加減しているのか、さっきよりかなり乱暴に扱われているのに痛みは全く無かった。

 その代わりに、先程以上の快楽で脳を蹂躙される。

 陰核をくりくりと捏ね回され、時折指で潰されるのはじっくりと解された身体には毒としか言いようがない甘い快楽を持っていて、癖になったら戻れなくなると本能的に思う程だった。

 しかしトネリコはまだ満足していない様で、責めが更に激しくなる。

 もっと奥へと言わんばかりに、陰核を責めるトネリコの指が陰核よりも下に伸びて、秘部に挿入ってくる。

 いきなり挿入りこんできた指に一瞬異物感を覚えるが、散々快楽を与えられたせいか身体がすぐに抵抗をやめてしまい、異物感が霧散する。

 それを示す様に、トネリコの指に膣内を弄られ、ぐちゃぐちゃと唾液の混ざり合う音とはまた違った淫靡な音に耳朶を叩かれた。

 碌に触られてもいないのに愛液でドロドロに濡れている事をトネリコに暴かれて、僅かに残った理性が羞恥の炎で焼かれるが、膣内を弄る快楽の炎はその羞恥すら飲み込んでしまうほど大きかった。

 更に快楽を味わった身体が勝手に動いて、トネリコの指をもっと奥へ誘いこむように締め付けてしまう。

 それにまた羞恥の炎が燃え上がるが、再び快楽の炎でかき消される悪循環に陥ってしまった。

 そして、羞恥と快楽の循環を繰り返してトネリコの指が私の奥へ達した時。

 

「…………っ、っ⁉︎♡♡♡」

 

 今までとは桁違いの快楽が、脳を灼いた。

 あまりの快楽に、今までの責めで蓄積された快楽が纏めて弾け、軽く絶頂してしまう。

 どうやらトネリコが偶然、私の弱点を掘り当ててしまったらしい。

 絶頂の余韻で上手く纏まらない思考でそう考えるが、すぐにそんな考えも消えてしまう。

 何故なら、先程より嗜虐的な色に濡れた瞳をしたトネリコが、弱点を執拗に責め始めたからだ。

 同時に口の方の責めも激しくなり、上と下から快楽の鞭で嬲られる。

 声を出せない状況に持ち込まれてるせいで快楽から逃げる事も出来ず、ただただ無性に快楽が溜まっていく。

 そして。

 

「…………っ♡♡♡、っ、っ〜〜〜〜〜〜っ♡♡♡」

 

 タイミングを合わせる様に、トネリコが一際強く唇と膣内を責めた。

 同時に与えられる快楽に私は耐えきれず、さっきよりも強い絶頂に襲われる。

 それは一度だけでは終わらず、何度も何度も私の頭を快楽で塗り潰していく。

 まるで水の中に沈められた様な感覚だったが、不安は無かった。

 トネリコが私の手を離さない様にしっかりと握っていたからだ。

 それに安心して、快楽の底にどんどん堕ちていく。

 そのまま、飽きる程の絶頂を繰り返した。

 

 

 

 

 

 私が落ち着いた頃を見計らって、トネリコが唇を離す。

 長い間繋がっていたからか、離れても唇同士が淫靡な糸で繋がっていた。

 快楽に溶かされた頭でそれをぼーっと見ていると、不意にそれが千切れる。

 その光景に何となく、トネリコと離れてしまったという感情が沸いてくる。

 そのせいで無性に寂しさを覚えてしまい、熱に浮かされた頭が冷めてしまう。

 

「…………全く。貴女をわからせるつもりで色々したのに」

 

 すると、トネリコが呆れた様に不満気な顔をしながら、私の顔に手を添える。

 

「私が離れる事なんて無いって言ったのに、まだそんな顔をするの? うーん、わからせが足りなかったかな…………」

 

 言葉から察するに、トネリコは私がまだ不安がっていると思っている様だ。

 寂しさを覚えたのは確かだけど、顔に出ていたんだろうか。

 でも、それはトネリコが何処かに行っちゃうかもしれないという不安からじゃない。

 だから、首を横に振る。

 

「ん? 違うの? じゃあ何でそんな顔を…………わっ」

 

 私の返答に怪訝な顔をするトネリコを抱き締める。

 いきなり抱き締めたからか、妙な声が聞こえた気がする。

 でも許して欲しい。

 だって…………いくら好きな人でも、こんな事、顔を合わせて言うには少し恥ずかし過ぎる。

 そう思いながら、耳元で囁く。

 

「…………もっと、欲しくて。その、トネリコにわからされるの、とっても気持ち良かったから…………」

 

「…………」

 

 そう。

 私が寂しさを覚えたのは、トネリコとのこの時間が終わってしまうのが嫌だったからだ。

 だけどそれを直接言うのは恥ずかしくて、こうなってしまった。

 私の返答はトネリコにとっても意外だったのか、しばらく無言の時間が流れる。

 その反応に、やらかした、と羞恥で顔が熱くなった。

 それは時間感覚が無くなる程の羞恥で、ふっと気が遠くなる様な錯覚を覚える程だった。

 そして、何秒だか何分だかわからない羞恥に焼かれる時間が経った時。

 

「…………ふぅん」

 

 と、とても楽し気な声がトネリコから聞こえた。

 

「なるほど、それであんな顔を…………全く、貴女は。弱気なんだか強気なんだかわからなくて困っちゃう」

 

 クスクスと、困った様に笑いながらトネリコが囁いて、私を見下ろす。

 その顔は先程の様な嗜虐の色に濡れていて、とても楽しそうだった。

 

「良いよ。手を抜いたつもりはなかったけど…………もっと、わからせてあげる」

 

 その言葉と共に、トネリコが再び私の身体を絡め取る。

 そして、終わらない夜に叩き落とされた。

 

 

 

 

 




次は予告通りゴッホちゃん書きます
なるべく早く書き上げたい

続きを書くなら

  • 快楽堕ち(ビーストカーマ)
  • カジノ敗北所有物(Wコヤンスカヤ)
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