※この作品はR-18です。

狂気的な恋 R18版   作:96963

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リクエスト作品です
ようやく後編です


ぐだ子がトネリコ・モルガン・バーヴァン・シーに食べられる話・後編

 ────私がトネリコにわからされた夜から、数日後。

 

「…………」

 

 私は、何故かマイルームのベッドに押し倒されていた。

 そしてベッドに倒れた私に馬乗りになる様に、私を押し倒した張本人…………モルガンが、じっと私を無言で見下ろしている。

 押し倒したまま何をするでもなく、いつも通りの綺麗な無表情で。

 …………だけど、何故だろうか。

 ただモルガンにじっと見つめられているだけの筈なのに、私は蛇に睨まれた蛙の様な気分になっていた。

 何というか、視線という名の重しを乗せられている気分だ。

 

「…………あの、モルガン」

 

「何でしょうか、我が妻よ」

 

「…………何で、私は押し倒されているのかな」

 

 その重圧に耐えきれなくなって、何故こうなっているのかとモルガンに訊いてみる。

 すると。

 

「…………モ、モルガン?」

 

 無表情の中に少し不満を滲ませた様な表情で、モルガンが無言で私に顔を近づけてきた。

 はて、私は一体何をしてしまったのだろうか。

 表情から、モルガンが何故か怒っている事はわかるけど。

 訓練が終わってマイルームで休もうと思ったらいきなりモルガンに押し倒された事もあって、全く見当がつかない。

 とはいえ、ずっと黙っている訳にもいかない。

 このままだと、何かとんでもない事になりそうだし。

 そう思って、何とか理由を探そうと視線を彷徨わせた時。

 

「…………ん?」

 

 視界に入った不機嫌そうなモルガンの顔が、記憶の中の何かと重なった。

 その重なりが気になって、記憶の海を漁ってみると、何故かトネリコの顔が思い浮かんできた。

 数日前私を正座させた、鉄の顔のトネリコの顔が。

 確かあの時は、トネリコがミコケルに嫉妬してた様な…………あ、もしかして。

 

「…………えっと、モルガン」

 

「何でしょうか、我が妻よ」

 

「ミコケルの事なら、トネリコにも言ったけど何も無いよ?」

 

 記憶の中のトネリコに重なるモルガンの顔に、もしかしてモルガンも同じなんじゃないかと思って、恐る恐る聞いてみる。

 しかし。

 

「…………ミコケルなる妖精については確かに気になってはいますが、違います。妖精という意味ならば、間違っていませんが」

 

 帰ってきたのはモルガンのそんな冷たい声で、私が不正解を選んでしまった事を実感するだけに終わる。

 モルガンが他の妖精に嫉妬している、という事はわかったけど。

 だけど、ミコケルじゃないのなら一体誰なんだろうか。

 だって、ミコケルを除いたら私がここ数日で出会った妖精なんて、モルガンしか…………あ。

 その時ふと、電撃的な閃きが頭に走った。

 

「…………えっと、モルガン」

 

「はい」

 

 その閃きのままに、モルガンに訊いてみる。

 

「…………もしかしてさ、トネリコに嫉妬してる?」

 

 モルガンがトネリコに嫉妬しているという、ある種荒唐無稽な閃きを。

 すると。

 

「…………そう、なんだ」

 

 コクリ、とモルガンが小さく頷いた。

 なるほど、どうやら私の閃きは荒唐無稽ではなかったみたいだ。

 だけど…………モルガンがトネリコに嫉妬してるっていうのは、自分で言っておきながらちょっと信じられなかった。

 他ならぬモルガン自身が頷いたとはいえ、モルガンとトネリコは同一人物みたいなものだし。

 でも…………言われてみれば、という納得もある。

 モルガンとトネリコは同じ存在、とモルガンもトネリコも語るけど…………同時に、独立しているとも言っていたから。

 その言葉の意味を素直に受け取るのなら…………多分、モルガンとトネリコは、同一人物であるけど別人、という事なのだろう。

 それならば、モルガンがトネリコに嫉妬するのも納得出来てしまう。

 …………というか、うん、嫉妬する理由しかない。

 だって…………あの日から今日まで、トネリコとしか会ってないし。

 モルガンもトネリコも同じだから、浮気って訳じゃないけど…………少なくとも、モルガンにとって面白くはないだろう。

 自分とは別人の恋人にしか会っていないなんて状況、モルガンじゃなくても面白くないだろうし。

 

「…………ごめん、モルガン!」

 

 だから、素直にモルガンに謝る。

 事ここに至って、モルガンに押し倒された理由をようやく理解したから。

 

「良いでしょう、許します。我が妻が他のサーヴァントと通じている、というなら話は別でしたが…………今回の相手は、私ですからね」

 

 果たして、私の謝罪は通じた様で、モルガンの不満そうな顔が少し緩む。

 しかし。

 

「ですが…………このまま何も無し、というのは頷けません」

 

「モ、モルガン?」

 

 モルガンはまだこの話を終わらせるつもりはない様だった。

 その証拠に、モルガンが私を絡め取る様に抱きしめてくる。

 まるで、もう逃さないと言わんばかりに。

 

「…………私だって、貴女と夜を過ごしたいのですから」

 

「…………っ!」

 

 逃げられない状況で、珍しく顔を赤くしたモルガンが、私の顔を見つめながら囁いてくる。

 それは何というか、普段のモルガンからは考えられないくらい破壊力に満ちた殺し文句で。

 モルガンの滅多に見られない表情と合わせて、理性が音を立てて崩れていく。

 更に。

 

「故に…………この一夜、貴女の時間を貰い受ける事で不問とします。良いですね、我が妻?」

 

 崩れていく理性の隙を突くように、モルガンが畳み掛けてくる。

 冬の女王らしい、背筋の凍る様な声で。

 だけどそれは理性の崩れた私にとって、止めを刺す致命的な一撃だった。

 

「…………流石、我が妻です」

 

 本能のままに、モルガンの声に頷いてしまうくらいには。

 何故なら…………その冷たい声でも隠しきれないくらいにモルガンの声が、私への欲で溢れていたからだ。

 つまりそれは、あのモルガンが取り繕いきれない程に、私を求めているという事を意味していて。

 その事実に気づいてしまえば、残った私の理性は崩れ去るしかなかった。

 そんな私を見てモルガンが妖しく笑い、私の服に手を掛けた。

 すると、身に纏う布がモルガンの手によってあっさりと解かれて、一矢纏わぬ無防備な姿になってしまう。

 だけど私に恐怖はなく、ただただ期待が胸を埋めていた。

 これから、何をされてしまうのかという期待に。

 そして。

 

「ん、む…………っ」

 

 その期待に応える様に、モルガンが私の唇を奪う。

 モルガンとの長い夜が、始まった。

 

 

 当然と言うべきだろうか、モルガンの口付けは一回じゃ終わらなかった。

 一回奪われたのを皮切りに、何度も、何度も、唇を塞いでくる。

 合わせて、モルガンの指が私の身体を怪しく這わせながら、身体を密着させてくる。

 柔らかいモルガンの身体の感触に包まれながら、その指が身体を這う度にゆっくりと、モルガンの存在が私に馴染んで…………いや、私がモルガンに馴染んでいく。

 そして、私の身体がモルガンに馴染んだ頃。

 

「…………っ!」

 

 モルガンの舌が、私の舌を絡め取った。

 いきなりの事に脳が驚くが、モルガンに馴染まされた身体は抵抗する事もなくなすがままにされる。

 モルガンの舌はそのまま私の舌を貪り始め、ぐちゃぐちゃと唾液の絡む淫靡な音が鼓膜を叩く。

 その音はまるで身体が自分の支配下ではなくなった事を認めない私の脳にわからせる様な音だった。

 同時に貪られる快楽が脳を揺らし、音が響く度に最後に残った脳すらも、モルガンに支配されていく。

 更に、全身を撫で回していたモルガンの指が、狙いを見定めたかの様にお腹の方へ伸びていく。

 それはちょうど、子宮のあたりだった。

 そして、モルガンの目が妖しく光り、トン、とモルガンの指が軽くお腹を叩いた時。

 

「〜〜〜っ、ん、ぃ…………っ♡♡♡」

 

 爆発する様な快楽が、脳を灼いた。

 お腹の当たりから、電流の様にビリビリと、快楽が背中ごと灼いて脳を溶かしていく。

 モルガンの様子から僅かに残った理性が、モルガンの魔術の仕業と推測するけど、そこで止まってしまう。

 何故なら。

 

「ん、ぅ…………っ♡♡♡…………ん、ん〜〜〜〜っ♡♡♡」

 

 間髪入れずにモルガンが、もう一度お腹を叩いたからだ。

 先程と同じ快楽が私を襲い、理性を焼き切る。

 だけど、モルガンの責めはまだ終わらなかった。

 絶頂の余韻も冷めない内に、何度も何度もモルガンがお腹を叩く。

 その度に身体が快楽で灼かれて、玩具の様に跳ねる。

 更に唇を貪られながら絶頂させられているせいか、神経が変な風に繋がっていく。

 貪られるたびに、快楽がどんどん増していく。

 そのまま、唇を貪られるだけで絶頂出来るようになるほど…………モルガンに、絶頂させられた。

 

 

 口付けに満足したのか、モルガンが唇を離す。

 さっきまでずっと唇を塞がれていた事もあって、解放された身体が思い出したかの様に呼吸を荒くする。

 だけど…………息苦しさから解放されたというのに、胸が切なさに包まれていく。

 モルガンの責めが途切れた事への、切なさに。

 

「ふふ…………その様に物欲しげな顔をしなくとも、まだ貴女への仕置きは残っています。望み通り、もっと責め立ててあげましょう…………♡」

 

 私の顔からモルガンもそれを読み取った様で、顔を嗜虐の色に染めながら三日月に口を歪める。

 そして、再び私を責め始めた。

 

「ん…………っ♡」

 

 首筋を舌で撫でながら、モルガンの唇が何度も吸い付く。

 それは確実に痕が残るくらいの強さで、まるでモルガンにマーキングされている様だった。

 おまけに何度も絶頂させられたせいか首筋が敏感になっていて、キスの快楽で絶頂の残り火が再び燃え上がる。

 それがモルガンに痕を刻まれている被虐感と合わさって、ジクジクと、疼くように快楽の波が全体に広がっていく。

 

「モルガンっ、そこ、よわ…………あっ♡」

 

「好都合ですね、もっと責めましょう」

 

 やがて首筋を攻略したモルガンが次に目をつけたのは、私の胸だった。

 逃げられない様に足を絡ませながら、胸に顔を埋めて、じっくりと味わう様に胸を責め立てる。

 それはまるで飴玉でも味わう様な動きで、コロコロと、胸全体をモルガンに弄ばれる。

 更に。

 

「ぃ…………っ♡♡♡」

 

 責めの手を緩ませる事はないという事なのか、モルガンが陰核に手を伸ばす。

 先程のキスで既に固くなっていた陰核は、モルガンに少し触られただけで包皮から顔を出してしまい、モルガンに無防備な姿を晒してしまう。

 当然それを見逃すモルガンではなく、無防備な陰核を丁寧に指でいじくり回す。

 その度に快楽で身体が跳ねて、陰核が更に固くなっていく。

 同時に胸を責め立てるモルガンの舌が乳首を捏ねくり始め、快楽が風船の様に膨らんでいく。

 そして。

 

「ぁ、んっ、あ…………っ♡♡♡」

 

 膨らんだ風船に針を刺す様に、モルガンが少し強く、陰核を摘んだ。

 散々弄られていたせいか、その刺激は強烈で、破裂した快楽が全身を駆け巡って、絶頂する。

 更に。

 

「あっ、ふぁ、あっ♡♡♡」

 

 畳み掛ける様に、モルガンの口が私の乳首を甘噛みして、快楽が更に強くなる。

 その快楽の波に耐えきれず、反射的にシーツを掴んだ。

 すると。

 

「ん、ぃ…………っ♡♡♡」

 

 陰核を虐めていたモルガンの指が、するりと私の膣内に潜り込んできた。

 今まで沢山馴染まされ、絶頂させられたのもあって、私の膣内は抵抗なくモルガンの指を受け入れてしまう。

 そのままモルガンが、膣内に潜り込ませた指をゆっくりと動かす。

 ぐちゅ、と淫靡な水音が響き、快楽にまた身体が跳ねる。

 

「ふふ…………膣内に入れてもいないのに、こんなに濡れているとは…………♡我が妻は、顔に見合わず色好きですね…………♡」

 

「いわ、ない、でぇ…………っ♡♡♡」

 

「ですが、我が妻の顔は快楽に歪んでいるではないですか…………♡」

 

「だって、モルガンが、きもち、いいから…………っ♡♡♡」

 

 私のその様子に興奮したのか、モルガンが私の愛液で濡れた指を見せつける。

 テラテラと光るその指は、私がモルガンの快楽に溺れてしまっている事をこれ以上なく示していて、羞恥で顔が熱くなる。

 だから反射的に否定するけど、モルガンに顔が快楽で悦んでいる事を指摘されて、逃げ道がなくなってしまった。

 

「なら、もっと快楽を与えましょう…………♡」

 

「あっ、ぃ、あっ♡♡♡」

 

 最早快楽に悦んでいる事を自白するしかなくなった私にモルガンが顔を嗜虐に染めながら、責めを激しくする。

 陰核を裏から擦り上げる様に膣内を弄り回し、快楽の鞭で私を叩く。

 時々モルガンの掌が陰核を擦るせいか、内外共に快楽を叩き込まれて、脳が蕩けていく。

 

「ほら、私だけを見て…………♡」

 

 更に、快楽に耐えるために掴んでいるシーツの指をモルガンに絡め取られて、しっかりと握られる。

 そして。

 

「ん、む…………っ♡♡♡」

 

 快楽に嬌声をあげるだけになっていた口を再び塞がれて、快楽を受け取る器官に引き戻される。

 再び舌を貪られ、今度は上下から快楽を叩き込まれる。

 蕩けた脳にそれは覿面で、思考がモルガンと、モルガンに与えられる快楽だけになっていく。

 

「存分に溺れなさい、我が妻…………♡」

 

 私の様子に気づいたのか、情欲に濡れたモルガンの瞳が私を射抜く。

 その瞳にこれ以上ないほどの悦びを覚えながら、私は快楽の沼に沈んでいった。

 

「…………」

 

 私達を見る、視線に気づかずに。

 

 

 

 

 ────ああ、イライラする。

 

「…………チッ」

 

 パタン、と読みかけの本を閉じ、ベッドに身を投げる。

 これ以上読んでいても、この苛立ちは収まらない、と悟ったから。

 でも…………ふかふかのベッドに身体を沈めて天井を眺めても、結果は同じだった。

 

「…………何で、アイツがお母様、それに魔女様と…………」

 

 無意識に、苛立ちの呟きが溢れる。

 アイツ…………私達のマスターの事を考えるだけで、心が騒ついてしょうがなくなったからだ。

 だけど、アイツを私の思考の外に追い出す事も出来ない。

 何故なら…………アイツがお母様、そして魔女様とただならぬ仲であると、気づいてしまったからだ。

 きっかけは、この間のお母様の妻探し騒動だ。

 あの日から、アイツは妙に魔女様と距離が近くなった。

 何をするにも、いつも一緒にいるくらいには。

 それに…………魔女様も、アイツの前で私が見たことない顔をしていた。

 恋人の様な、甘い顔を。

 これでアイツと何も無いって考える方が馬鹿だろう。

 正直、認めたくはないけど。

 でも、それだけならまだ問題はなかった。

 魔女様は私の憧れだけど、別に趣味嗜好まで縛ろうなんて気はないから。

 …………お母様の妻じゃなかった事は残念だけど。

 問題は、お母様の事だ。

 今日、アイツに用があってアイツの部屋を訊ねた時、私は扉の隙間から覗き見てしまった。

 …………お母様がアイツの部屋で仲睦まじく、アイツと恋人の様に交わってるのを。

 

 

「…………悪い冗談、と思いたいけど…………」

 

 その光景を思い出して、あり得ない、幻覚に決まってると一蹴したい気持ちに襲われる。

 でも…………あの場にいたお母様はどう見ても私の敬愛するお母様だったし、魔術で調べてもお母様本人であるという結果は変わらなかった。

 私の感覚だけならともかく、お母様から学んだ魔術でも同じ結果が出るのなら、認めざるを得ない。

 …………お母様が、アイツと男女…………いやアイツも女だからそれは違うか…………ともかく、身体を許す関係だという事を。

 そして…………お母様が時折漏らす、『妻』なる女がアイツであるという事も。

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

 改めてその事実を認めて、訳の分からない激情に囚われてしまう。

 だって、アイツは魔女様にとどまらず、お母様とも通じているのだから。

 しかも漏れ聞こえた声から察するに、お母様があんな事をしていたのは、アイツが魔女様にばっかり構っていたかららしい。

 つまり、お母様を放置したという事だ。

 お母様という人が有りながら。

 それだけで、激情に囚われるには十分だった。

 今すぐにでも呪ってやろうかと思うくらいに、頭がアイツへの怒りで一杯になる。

 実際にやるのは色々と面倒だから、代わりにアイツをシールに変える想像でもして気を紛らわせるけど。

 シールになって無抵抗のアイツを虐めるのは、それなりに楽しい想像だった。

 だってアイツ、そこそこ良い顔してるし。

 綺麗な顔が歪むのは、見てて気持ちがいい。

 そして、アイツを頭の中で一通り虐めて激情を宥めた時。

 

「…………そういえば」

 

 ふと、この前の妻探しの事が脳裏を過った。

 何も知らない私が、お母様の妻を探すのを手伝えとアイツに頼みに行った時、アイツが絶望した様な顔をしてい事を。

 今思えば、アレはお母様の妻が自分以外にいると、ショックを受けた顔だったんだろう。

 つまり、アイツはそれだけお母様に入れ込んでるという事だ。

 いやお母様の妻になるならそれくらい当たり前だけど、少なくとも妻の自覚はあるという訳だ。

 

「…………それなのに、アイツが浮気なんてする?」

 

 数日前のアイツを思い出して、疑問が脳裏を過ぎる。

 …………認めるのは少し癪だけど、アイツはしつこいくらいに真摯な奴だ。

 こんなサーヴァントとしては最悪の私でも、最後までずっと付き合ってくれた様に。

 だから…………お母様とそういう仲になる事自体は、あってもおかしくないと、正直思っていた。

 認めたくはないけど。

 だって、私も…………なのだから。

 違う、今の無し。

 ともかく…………そんなアイツが浮気なんてお母様の顔に泥を塗るような事、するだろうか? 

 

「…………」

 

 冷静になった頭で考え込むが、わからなかった。

 アイツの性格を考えたららしく無い…………とは思うけど、実際にアイツはお母様と魔女様、二人と通じてるし。

 考えれば考える程、迷路に迷い込む様だった。

 

「…………よし」

 

 そして私は、考えるのをやめた。

 正確には、直接聞く事にした。

 浮気をしている、張本人に。

 それで納得の行く説明を得られたらそれで良し、得られなかったら…………

 

「フルコースで、オシオキな?」

 

 

 

 モルガンのお仕置きから、数日経った頃。

 ────私は何故か、見知らぬ部屋でベッドに縛り付けられていた。

 

「…………え?」

 

「お、やっと起きたか、マスター♡」

 

「バ、バーヴァン・シー⁉︎」

 

 目覚めたらいきなり知らない場所にいた上に身体が動かなくなってしまった状況に、起き抜けという事もあり思わず頭が真っ白になる。

 すると、とびっきりの笑顔をしたバーヴァン・シーが上から覗き込んできた。

 それに驚いて身体が飛び起きようとするが、ジャラリ、という金属音と共にいきなり身体が引っ張られて、反動でベッドに引き戻される。

 その音でどうやら鎖でベッドに縛り付けられているらしい、と気づくけど…………それ以外の事は、何一つとしてわからなかった。

 

「ど、何処ここ⁉︎というか何で私縛られてんの⁉︎」

 

「オマエ、覚えてないのかよ? 今日、ここに来いって言っただろ?」

 

 一切不明の混乱に耐えきれず思わず叫ぶと、バーヴァン・シーが思いっきりバカにした様な口調で私を見下してきた。

 バーヴァン・シーのその言葉に、意識を失う前の記憶を掘り起こす。

 すると、確かにバーヴァン・シーと会話した記憶が蘇ってきた。

 確かバーヴァン・シーに話があるって言われて、バーヴァン・シーの部屋に行ったんだ。

 そこでバーヴァン・シーに紅茶を出されて、それを飲んだら意識が暗くなって…………

 

「あ、気づいた? そう、私がやったの!」

 

 今私がベッドで縛られている原因を思い出した事を私の表情から察したのか、バーヴァン・シーが楽しそうに自白する。

 

「何、で…………」

 

 バーヴァン・シーのその暴挙に、何でこんな事を、と訊ねようとしたその瞬間。

 

「…………っ⁉︎」

 

 いきなり、バーヴァン・シーが私の上にのし掛かってきた。

 その衝撃に息が詰まり、思わず言葉が途切れる。

 

「…………何で? そんなの、決まってるでしょ?」

 

 その隙を突くように、バーヴァン・シーが顔を近づけてくる。

 まるで、恋人がキスをする様に。

 最も…………バーヴァン・シーの瞳には、恋人の様な甘い感情は、何処にも見えなかったけど。

 そして。

 

「…………オマエには、絶対に聞かないといけない事があるんだから」

 

 何かを押し殺した様な声で、バーヴァン・シーがこの暴挙に至った理由を、囁いた。

 

 

 

「…………聞かないと、いけない事?」

 

 どうやらそれが、私が今、こうして監禁されている理由らしい。

 だけど…………その理由を聞いても、バーヴァン・シーが監禁までして聞き出さなければならない何かがあるとは、思えなかった。

 

「…………惚けなくてもわかってるでしょ?」

 

 そんな私の様子が癇に障ったのか、バーヴァン・シーが苛立った声を出す。

 しかし、本当に心当たりが無いのだ。

 バーヴァン・シーが、こんな暴挙に出る程、私に対して怒ってる理由への。

 

「…………そう。あくまで白を切るつもりなのね。あるいは本当に、わからないのかしら…………なら逃げられない様、はっきり言ってあげる。オマエ、浮気してるだろ? それも、お母様と魔女様に」

 

 すると、痺れを切らしたのかバーヴァン・シーが怒りの理由を私に突きつけてきた。

 だけど。

 

「…………はい?」

 

 その理由は、私からしたらありえないものだった。

 だって。

 

「私が、浮気? モルガンと、トネリコに?」

 

 モルガンとトネリコは、同一の存在なのだから。

 浮気になんて、なり様がない。

 それなのに、何でバーヴァン・シーは怒っているのだろう。

 意味がわからなくて、思考が更なる困惑に包まれる。

 すると、思った通りの反応が得られなかったからか、バーヴァン・シーが更に苛立った顔をした。

 その時。

 

(…………あ)

 

 ふと、このタイミングを狙っていたかの様に、忘れていた事実が、脳裏を過った。

 即ち…………バーヴァン・シーが、トネリコとモルガンの関係を知らないという、この状況の答えになる、事実に。

 そういう事なら、バーヴァン・シーがここまで激情に駆られるのも理解できる。

 バーヴァン・シーにとって、モルガンもトネリコも…………とても大切な存在だからだ。

 それなのに、私が二人と…………その、そういう仲だとバーヴァン・シーが知ったら、それはもう怒り狂うだろう。

 こんな暴挙に出るくらいには。

 おまけに、この間のお仕置きも見られてたみたいだし。

 バーヴァン・シーからしたら、私はモルガンを悲しませる大罪人、という事になってもおかしくない。

 

(…………ん?)

 

 そこまで考えた時、背中をふと悪寒が襲った。

 気づいてしまったからだ。

 バーヴァン・シーに、モルガンとトネリコの関係について伝える事が出来ないと。

 私もたまに見るけど、バーヴァン・シーとトネリコは、モルガンとの関係とはまた違った師弟関係を作っている。

 それはきっと、バーヴァン・シーがトネリコの正体を知らないからだ。

 知ってしまえば、その関係はきっと壊れてしまう。

 だから、私が勝手にそれを伝える事は、出来なかった。

 だけどそれは、この状況を切り抜ける手段が無いという事も意味していて。

 どうすれば良いのか、思考が袋小路に迷い込む。

 

「…………黙ってないで、何か言えば? それとも、このままオシオキされたい?」

 

 無言のままの私に我慢の限界なのか、バーヴァン・シーが杭を取り出しながら物騒な事を言う。

 だけど、どうやってもバーヴァン・シーを納得させる言葉は思い浮かばなかった。

 だから。

 

「…………違う」

 

「…………今、なんて言った? よく聞こえなかったから、もう一回お願い」

 

「浮気じゃ、ない。…………理由は言えないけど、私は浮気なんて、してない」

 

「へぇ? それじゃあ、魔女様かお母様のどっちかは誤解って事?」

 

「…………それも、違う。私は、確かにモルガンとトネリコ、二人とバーヴァン・シーの言う通りの関係だよ。でも、浮気じゃない」

 

「…………っ」

 

 いつかの様に、答えられないと答える事にした。

 でもこれは…………きっと、最悪手だ。

 二人と恋仲になってる事を肯定して、浮気じゃないと疑いを否定する癖に、その理由は説明しないのだから。

 だけど、誤魔化したところでバーヴァン・シーはきっと納得しない。

 それに、浮気したと勘違いされるのも嫌だし。

 つまり…………誤魔化さずに本当の事を言うしか、この状況で私が選べる選択肢は無かった。

 それが、バーヴァン・シーの怒りに火を注ぐだけになったとしても。

 私は…………バーヴァン・シーに、出来る限り真摯に向き合いたい。

 だからせめて、どんな事になっても目だけは逸らすまいとバーヴァン・シーの顔を見つめ返す。

 しかし。

 

「…………なに、それ…………っ」

 

 バーヴァン・シーが見せたのは、私が予想していた様な顔では無かった。

 しかも。

 

「…………バーヴァン・シー…………泣いてる、の…………?」

 

 見間違いでなければ、目の前のバーヴァン・シーの顔には、涙が流れていた。

 私の予想とは全く違ったバーヴァン・シーの表情に虚を突かれて、思わず声が漏れる。

 

「…………っ、違う! …………私、は…………!」

 

 私の声で自分の頬に流れるものに気づいたのか、バーヴァン・シーが動揺した様な顔を見せる。

 それは、何か致命的なものが壊れてしまったかの様な表情だった。

 その顔に一体何があったのかと、自分の状況も忘れて心配な気持ちになる。

 しかし。

 

「…………っ!」

 

「ちょ、ちょっとバーヴァン・シー!?」

 

 心配するのも束の間、いきなりバーヴァン・シーが部屋から出ていってしまった。

 呼び止めるもバーヴァン・シーが振り返る事はなく、そのまま廊下に消えていく。

 …………私を、ベッドに置き去りにしたままに。

 

「っ、解けてよ…………っ!」

 

 あの状態のバーヴァン・シーを放っておくのは不味い。

 そう思って、追いかけるために鎖を解こうとするが、頑丈な鎖は私の力では解ける気配がない。

 それでもどうにかしなきゃ、と焦燥感が募っていく。

 そして、焦燥感がこれ以上ないというくらい募った時。

 

「…………これは一体どういう状況なんですか、マスター?」

 

 ひょい、と魔女のトネリコが廊下から顔を見せた。

 

 

 

 

 

「クソ…………っ!」

 

 ガン、と逃げる様に忍び込んだ空き部屋の壁を、激情のままに蹴り込む。

 すると。

 

「…………っ!」

 

 力加減でも間違ったのだろうか、壁が傷つく事はなく、代わりに鈍い痛みが私を襲った。

 ジクジクと、疼く様に私を蝕むその痛みに堪らず、身体がベッドに倒れ込む。

 だけど。

 

「なんで、消えないのよ…………!」

 

 いくら時間が経っても痛みは良くならず、むしろ酷くなる一方だった。

 まるで、呪いに振り回されていた時の様だ。

 この私は、呪いなんてとっくに超えた筈なのに。

 妖精騎士バーヴァン・シーとして再起したあの瞬間を嘲笑う様に、腐る様な痛みが広がっていく。

 

「…………ああ、そうか」

 

 その時、ふと気づいた。

 この痛みが、先程の乱暴で齎された痛みでは無い事に。

 

「…………私、バカだなぁ…………」

 

 これは…………私の心が、軋む痛みだ。

 果たす事の出来ない、アイツへの…………とても狂おしい、慕情に。

 

 

 

 アイツ…………マスターへの、始めの認識は、ただの玩具だった。

 そりゃお母様が従うんだし、娘の私も世界を救うグランドオーダーとやらを手伝う気はそれなりにあったけど。

 所詮、お母様の縁から気まぐれに呼ばれただけのサーヴァントが、私だった。

 だからアイツへの認識も、出会った時は壊しちゃいけない玩具、くらいで。

 壊れない程度に、忘れられないトラウマでも作って遊んでやろうかと思ってた。

 正直、今だってそういう気持ちはある。

 ザンコク、ワガママ、サイアク。

 それらを核にしている妖精が、私なのだから。

 悪の華は、悪の華。

 どこまで行っても…………その本質が、変わる事はない。

 …………だけど。

 アイツは、そんなサイアクな私から、ずっと離れなかった。

 悪い事をしたら、ウザいくらいに叱って来て、止めに来るけど…………だからといってアイツが私を見捨てる事は、無かった。

 いつか、改心なんてしない、とまで言った事がある。

 そしたらアイツ、どうしたと思う? 

 それでも私は自分のサーヴァントだと、当たり前の様に言い切った。

 …………だから、だろうか。

 いつからか私の中には、アイツへの慕情が生まれていた。

 今の今までずっと、気づいていなかったけど。

 …………分かってる。

 アイツが、どんなサーヴァントに対しても同じ対応をするだろうって事は。

 カルデアの誰が何を起こそうが…………それがカルデアの害になる事なら、アイツは絶対止めに来るし、叱る。

 そして、絶対に見捨てない。

 でも…………それが分かっていても、アイツへの想いは止まらなかった。

 私を、私のまま認めて、離れなかったアイツ。

 自分の事ながら軽いと思うが、それだけで、十分だった。

 私が、アイツに絆されて…………玩具以外の感情を、抱くには。

 最も、私はそれを認めたくなくて、自分でも見ないフリをしてたみたいだけど。

 …………でも。

 

「…………」

 

 この想いが、果たされる事はない。

 だって、アイツにはもう、相手がいるからだ。

 勿論、自他(お母様)共に認めるサイアクのサーヴァントである私が、その程度で諦める筈がない。

 並の相手なら、きっと無理矢理奪って絶対に私のものにしていた。

 …………さっきまでこの感情に気づいていなかった私がそれをやるかはともかく。

 でも…………アイツの相手は、お母様と、魔女様だ。

 だからアイツを奪うなんて事、出来る筈がない。

 そもそもお母様と魔女様に敵うわけが無い、ってのもあるけど…………それ以前に、見えてるからだ。

 お母様と魔女様が、悲しむ未来が。

 だからこそ、この想いは果たされない。

 

「…………そうか。そういう事だったのね」

 

 そこまで考えた時、私は漸く、あの訳の分からない激情の正体に気づいた。

 あの時の私は、アイツが浮気してると思って怒ってると思っていた。

 だけど、それは違った。

 そもそも、冷静に考えてみればアイツがお母様と魔女様、どちらかに浮気してるなら今も無事な筈がない。

 間違いなく、どちらからも制裁を食らってる。

 それに、あの時の私だって疑問に思ってた。

 アイツが、そんな事するのかって。

 でも、私はその疑問の答えを出せなかった。

 正確には、出す気がなかった。

 その答えを出してしまえば…………お母様のための怒りというメッキが、剥げてしまうから。

 そう。

 私は、別の感情をお母様を裏切ったアイツへの怒りと誤魔化していた。

 それは…………アイツに対する、理不尽な怒りだった。

 だって、アイツの中に私の席は無い。

 それに、アイツの中はお母様と魔女様が座っていて、奪うことも出来ない。

 きっと私は、その事に無意識のうちに気づいていた。

 だから、あんな事をした。

 奪えないならせめて、アイツに私を刻もうとして。

 でも…………出来なかった。

 アイツの真っ直ぐな目に、自分を誤魔化していたメッキが、剥げてしまったから。

 だから、逃げた。

 この想いを果たす事が出来ないと、どうしようもなく思い知らされたから。

 

「…………ごめんなさい」

 

 ぐちゃぐちゃになった心から、誰に向けたのかすらわからない謝罪が溢れる。

 そして、その声を聞いてくれる誰かは、何処にもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、何でマスターさんはバーヴァン・シーさんの部屋で、縛られてたんですか? しかもバーヴァン・シーさん、泣いてたみたいですけど…………」

 

「えっと、それは…………」

 

 バーヴァン・シーの部屋。

 ひょっこり現れたトネリコに、どうにか鎖を解いてもらった私は、取調べと言わんばかりにトネリコと向かい合っていた。

 何故か私が拘束されていた事に加えて、自分の弟子であるバーヴァン・シーが泣いていたという側から見たらよくわからない状況のせいか、トネリコもかなり困惑気味だ。

 とはいえ、私も詳しい事はわからない。

 わかるのは、バーヴァン・シーが私とモルガン、トネリコの関係を浮気と疑い、拘束した事と、それをはっきり否定したらいきなり動揺して逃げ出したという事くらいだ。

 

「私と、水妃の私の関係を伝えずに否定したら、いきなり逃げ出した、かぁ…………うーん…………」

 

 その旨を伝えると、トネリコが顎に手を当てて考え始める。

 どうやらトネリコ側からしても、浮気を否定したら逃げ出したというのがよくわからないらしい。

 そのまま、トネリコと一緒に頭を捻り合う。

 …………って。

 

「こんな事してる場合じゃない! バーヴァン・シーを探さないと!」

 

 拘束からの解放で、少し気が緩んでたけど、よく考えたらこんな事で時間を浪費してる場合じゃない。

 あんな状態のバーヴァン・シー、放っておける訳がない。

 だから早く、バーヴァン・シーを探さないと。

 最後に見たバーヴァン・シーの顔が何度もフラッシュバックして、焦燥感がどんどん募っていく。

 しかし。

 

「落ち着いて、マスターさん。今の状況で貴女が探しに行っても、多分状況が悪くなるだけですよ」

 

「う…………」

 

 トネリコに諭されて、逸って飛び出しそうになる気持ちを地面に縫い止められてしまう。

 確かに、トネリコの言う事は正しい。

 バーヴァン・シーが逃げた理由はわからないけど…………きっと、原因は私だからだ。

 それなら下手に私が探しても、状況が悪化するだけの可能性が高い。

 でも。

 

「じゃあ。どうすれば良いの…………?」

 

 バーヴァン・シーが心配な事には変わらなくて。

 そのままならない気持ちをぶつける様に、トネリコを見つめる。

 すると。

 

「マスターさんはここで待っていてください。私が彼女を迎えに行きます」

 

「え?」

 

 トネリコがにっこりと微笑んで、立ち上がった。

 

「彼女は、私の弟子ですからね。マスターさんじゃダメなら、私が適任でしょう」

 

「それは、そうかもしれないけど…………」

 

 私が食い下がる暇も与えないまま、トネリコが扉の方に向かっていく。

 そして、トネリコがバーヴァン・シーの部屋を出ようとした時。

 

「ああ、そう言えば一つ、マスターさんに聞きたい事が」

 

「…………何?」

 

 トネリコが、不意にこちらを振り返って質問を投げかけてきた。

 それは口調こそついでに聞いておく、くらいの軽いものだったが…………その言葉を投げたトネリコの顔は、とても真剣な色をしていた。

 思わず、身構えてしまうくらいには。

 

「バーヴァン・シーさんの事、どう思ってますか?」

 

「どうって…………」

 

 トネリコの投げた質問は、渦中の人物に私が抱く、感情についてだった。

 バーヴァン・シーについて、私がどう思ってるか。

 このタイミングで聞いてくるって事は、多分トネリコ的に重要な事なんだろう。

 だから、胸の内をひっくり返してバーヴァン・シーという女の子への想いを、探ってみる。

 

「…………多分、色々あると思うけど…………一言で言えば、放っておけない、かな」

 

 その結果、出てきたのは…………放っておけないという、我ながらよくわからない感情だった。

 バーヴァン・シーは、別に良い子じゃない。

 結構問題児だし、騒動を起こしたことも何回かある。

 でも…………その態度の裏にはどこか、あっさり壊れてしまいそうな脆さが見え隠れしていて。

 そしてその脆さは、事実だった。

 だからだろうか…………私は気付けば、モルガンの娘という事を抜きに、バーヴァン・シーの事を放っておけなくなっていった。

 バーヴァン・シーが脆さを強さへと昇華した今も、変わらないくらいには。

 

「放っておけない、ですか…………なるほど、ありがとうございます」

 

 果たして、私の答えはトネリコにとって満足のいくものだった様で、トネリコが緊張を緩める。

 そして。

 

「では、バーヴァン・シーさんのとこに行ってきます。さっき言った通り、マスターさんはここで待っていてくださいね」

 

 私を安心させる様に笑いかけて、バーヴァン・シーの元に駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

「ん…………」

 

 目を開けば、そこは私の部屋では無かった。

 …………どうやら、逃げ込んだ空き部屋の中でそのまま、眠ってしまったらしい。

 どれくらい眠っていたのだろうか。

 ぼんやりと、起き抜けの回っていない頭で状況を把握しようと、頭を動かす。

 その時。

 

「お、目覚めましたね。大丈夫ですか、バーヴァン・シーさん?」

 

「…………ふぇ?」

 

 不意に、こちらを覗き込む魔女様と、視線が合った。

 

「ま、魔女様⁉︎」

 

 それに驚いて慌てて飛び起きると、目の前には確かに雨の魔女、トネリコ様がいた。

 

「な、なんでここに⁉︎」

 

「貴女が心配だったからです。…………その、勝手な真似とは思いましたが、部屋から駆け出す貴女を見てしまったので」

 

 驚きのままに理由を尋ねると、そんな答えが返ってくる。

 どうやら、アイツとのやり取りを見られていたらしい。

 それで私を心配してくれた事に、私を見てくれたという歓びが心の中に浮かぶ。

 …………だけど、すぐにその気持ちは沈んでいく。

 魔女様を見ていると、どうしてもアイツの事を思い浮かべてしまうから。

 それが気まずくて、思わず魔女様から目を逸らす。

 その時。

 

「…………ん?」

 

 私に向き合う魔女様が、正座の様な姿勢をしている事に気づいた。

 しかも、魔女様のローブには妙なシワがある。

 まるで、人の頭を乗せていたかの様なシワが。

 …………そう言えば、起きた時に枕の様なものが頭の下にあったけど、私、枕なんてしていただろうか。

 …………まさか。

 冷たいものが背中を走る。

 

「えっと、魔女様」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「あの…………もしかして、私…………魔女様の膝を、枕にしていましたか?」

 

 冷や汗をかきながら、悪い予感を否定するために魔女様に問う。

 だけど、悪い予感というのは当たるもので。

 

「はい、そうですよ? とても可愛らしかったです」

 

 にこり、と可愛らしく笑いながら、魔女様が私の問いを肯定した。

 その笑顔に、やらかした、と血の気が失せる。

 魔女様に心配をかけて探しにきてもらった上に、私が起きるまで枕になっていたなんて。

 どうしよう、と申し訳ない気持ちになってしまう。

 その時。

 

「落ち着いて、バーヴァン・シーさん」

 

「あっ…………は、はい…………」

 

 魔女様が私の手を握った。

 いきなりの事に動揺するけど、魔女様の手はとても暖かく、動揺に慌てる心が落ち着きを取り戻していく。

 

「すいません、魔女様…………お見苦しいところを…………」

 

「私がしたくてした事ですから、問題ありません。それに…………貴女に、聞きたい事もありますしね」

 

「聞きたい、事…………?」

 

 そして、心が落ち着いて何とかまともに魔女様の顔を見る事ができる様になった時。

 魔女様が、気になる事を言った。

 私に聞きたい事があるって、なんだろうか。

 

「単刀直入に聞きます。…………バーヴァン・シーさん、貴女は…………マスターさんの事を、どう思っていますか?」

 

「…………っ!」

 

 果たして、その目的はすぐに示された。

 魔女様の目的は、アイツ…………マスターに抱く、私の気持ちだった。

 …………アイツへの、私の気持ち。

 そんなもの、決まっている。

 好き、としか言いようがない。

 さっきまでの私なら、きっと誤魔化せていただろうけど。

 自覚してしまった今の私に、自分を誤魔化す方法なんて、存在していなかった。

 …………だけど。

 この想いを、目の前の魔女様に語ることなんて、出来ない。

 魔女様は…………もう、アイツと結ばれているから。

 その邪魔なんて、私に出来るわけがない。

 

「どう…………とは」

 

 だから、アイツへの想いに蓋をして、魔女様の言葉に惚けた様な振りをする。

 しかし。

 

「心に蓋をしないで、バーヴァン・シー。私は、そんな事望んでいません。どうか、貴女の心のままに」

 

「魔女、様…………」

 

 魔女様はそんな私の逃げを、許してはくれなかった。

 抑えようとした心の蓋を取られて、アイツへの想いが剥き出しになる。

 そして…………剥き出しになった想いはもう、私では抑えられなかった。

 気づけば。

 

「好き、です…………アイツの…………マスターの、事が」

 

 語ってはいけないはずの想いを、魔女様に溢していた。

 

「…………そうですか」

 

 私の溢れた想いに、魔女様が目を伏せる。

 その様子に、やはり蓋をしておくべきだったと、目の前が暗くなる様な浮遊感に囚われる。

 そして。

 

「なら、問題ありませんね!」

 

「…………え?」

 

 ────罪人の様に魔女様の言葉を待つ私の前で、憂いは晴れた、と言わんばかりの笑顔になった魔女様が、よくわからない事を言い出した。

 

 

「あの、魔女様…………それは、どういう…………」

 

「言葉通りです。バーヴァン・シーさんは、マスターさんの事が好き。それで何も問題無いじゃないですか。私もモルガンさんも、特に反対しませんよ?」

 

「は…………え…………?」

 

 魔女様の言葉の意味がわからなくて思わず訊き返すけど、さらによくわからない言葉が返ってくる。

 

「…………魔女様とお母様は、アイツ…………マスターと、その…………ただならぬ関係だと、マスターから聞いたのですが」

 

「ええ、そうですね。私達もそう思ってます」

 

「ならば、何故…………?」

 

 魔女様の様子に、もしかしてあの二人の関係は私が思うものでは無いのだろうか、という荒唐無稽な考えが浮かぶけど、どうやらそういう訳でもないらしく、ますます意味がわからなくなる。

 そして。

 

「実はですね、ここに来る前にモルガンさんと色々話をしたんですが…………バーヴァン・シーさんが望むのなら、マスターさんとそういう関係になっても良いんじゃないか、という事になりまして」

 

「…………え?」

 

 ────特大の爆弾を、魔女様が投げ込んできた。

 マスターとそういう関係になっても、良い。

 気のせいだろうか。

 今目の前の魔女様は、この想いを果たして良い、と言った様な…………

 

「あ、でもマスターさんを全部譲るって訳じゃありませんよ?」

 

 魔女様の言葉について考えていると、にこり、と冗談めかして魔女様が釘を刺してくる。

 どうやら、聞き間違いでは無かったらしい。

 つまり、魔女様もお母様も…………この想いに蓋をしなくても良いと、認めているのだ。

 その事実に、今までずっと痛んでいた心から痛みが消えていく。

 …………でも。

 

「なんで、ですか?」

 

「え?」

 

「なんで、魔女様とお母様は…………私の事を、認めてくれたんですか?」

 

 何で、この二人は私を認めてくれたんだろう。

 私がお母様か魔女様の立場なら、私の事なんて認めないと思うけど。

 そう思って、訊ねてみる。

 すると。

 

「…………魔女様?」

 

 魔女様が、私の身体を優しく抱きしめた。

 そして。

 

「…………それは、とても簡単な事です。私もモルガンさんも、貴女の事がとても大切だから、貴女に笑っていて欲しいんです」

 

 とても暖かい声が、私の心を揺らした。

 魔女様とお母様の感情がダイレクトに伝わってきて、胸の内が暖かいもので満たされていく。

 気づけば。

 

「…………なん、で…………悲しくなんて、ないのに、嬉しい、筈なのに…………っ」

 

 心に収まりきらなくなった熱いものが、頬を濡らしていた。

 それが魔女様のローブを汚している事に気づいて、慌てて止めようとする。

 だけど、それ以上に二人の暖かさへの喜びが強くて、ただ涙が溢れていくだけだった。

 

「良いんです、バーヴァン・シーさん。貴女が笑顔になるのなら、いくらでも泣いてください」

 

 そんな私を、魔女様は離さなかった。

 そうなってしまうともう、私に涙を止める術はなかった。

 魔女様の胸に甘えて、涙が止まるまで、喜びの涙を流し続けた。

 

 

 

 

 

 トネリコが出て行ってからしばらく経っても、音沙汰は無かった。

 それが心配で、私もこのまま飛び出してバーヴァン・シーを探しに行きたいという衝動に駆られる。

 だけどトネリコと約束した手前そうする訳にもいかず、バーヴァン・シーのベッドに腰掛けながらやきもきしていると。

 

「…………よお」

 

「あ、バーヴァン・シー!」

 

 心配していた渦中の人物が、不意に戻ってきた。

 どうなることかと不安だったので、戻ってきてくれた事にとりあえず安心する。

 

「…………やっぱり、アナタはそうなのね」

 

「ん、何か言った?」

 

「いや、別に? オマエの聞き間違いじゃない?」

 

 そんな私の様子を見てバーヴァン・シーが何か言った気がしたけど、どうやら気のせいの様で、いつもどおりの尖った声が返ってくる。

 バーヴァン・シーのその様子にいつものバーヴァン・シーに戻ったみたいだ、と胸を撫で下ろしていると、バーヴァン・シーが隣に座ってきた。

 そして。

 

「…………さっきは、悪かった。あんなダサい真似して」

 

「え?」

 

 バーヴァン・シーらしからぬ、謝罪の言葉が飛んできた。

 

「…………さっき、マスターを鎖で縛った事だよ。今思えば、ダサい真似にオマエを付き合わせちまった。だから、その詫びだよ」

 

「あ、そういう事ね。良いよ私は。特に気にしてないし。私もバーヴァン・シーも、結果的には何も無かったし。確かに、さっきのバーヴァン・シーはちょっとびっくりしたけど…………言ってることは、正しかったから」

 

 それに驚いて訊き返してみるとどうやら、バーヴァン・シーなりにさっきの事を気にしていたらしい。

 とはいえ、私的にはそこまで引きずる事でもない。

 バーヴァン・シーが私に怒るのは、正しいから。

 それよりも、泣いて出て行ったことの方が心配だ。

 一体、アレは何だったんだろうか。

 

「…………全く、オマエは…………ま、それならそれで良いわ。私がケジメを付けたかっただけだし、オマエが気にしてないってならこっちも言うことは無しよ」

 

 怪訝そうな私の思考が顔に出てたのだろうか、バーヴァン・シーが呆れた様に溜息を吐く。

 そして、次の瞬間。

 

「…………え?」

 

 私は、バーヴァン・シーに押し倒されていた。

 

「あの、バーヴァン・シー?」

 

「じゃあここからは、別の話な?」

 

 再びベッドに押し倒された事に驚いて、バーヴァン・シーを見上げる。

 すると、そこには嗜虐的な色に染まったバーヴァン・シーがいた。

 

「別の話って、何を…………」

 

「ああ、それな? 簡単な話だよ。私、オマエの事が好きだから。堕とす事にした」

 

「は…………はい⁉︎」

 

 そして。

 いきなりの展開についていけない私に更に畳み掛ける様に、バーヴァン・シーが爆弾を投げてきた。

 

「好きって…………私を⁉︎」

 

「この状況で他にいるかよ」

 

「で、でも私は…………」

 

「ああわかってる。お母様と魔女様って相手がいるんだものな?」

 

「なら、何で…………」

 

「そのお母様と魔女様に、許されたからだよ」

 

 爆弾発言を処理できないままバーヴァン・シーに訊き返すと、こちらの目を見ながらバーヴァン・シーが皮肉混じりに返してくる。

 どうやら、本気らしい。

 しかも、モルガンもトネリコも噛んでいる様だ。

 バーヴァン・シーが、モルガンとトネリコの事で嘘をつくとは思えないし。

 …………だけど。

 

「…………バーヴァン・シーが私の事を好きだとしても…………私が応えられるって訳じゃないよ。好きになってくれたのは、嬉しいけど」

 

 モルガンとトネリコが認めてるからって、私がその想いに応えられるって決まった訳じゃない。

 確かに、バーヴァン・シーの事は放っておけない、と思ってるけど…………私が好きなのは、あくまでモルガンと、トネリコなのだから。

 

「…………わかってるよ、そんな事は。お母様と魔女様を愛そうってやつが、簡単に私に振り向くなんて、思ってないし。むしろ、同情なんかで振り向いたらその時点で呪うわ」

 

 だけどバーヴァン・シーがそれに怯む事はなく、むしろ真っ直ぐに私を見つめ返してくる。

 

「…………でも、それでも、もう抑えきれないの。オマエが好きで好きで、たまらなくて…………どうしようもなく、アナタが欲しい」

 

 だから、とバーヴァン・シーが続ける。

 

「…………私に、機会を頂戴。アナタを堕とす、機会を」

 

 灰色の目が、私を覗き込む。

 そこに宿った意志はとても真剣で、引く気が無い、という事が痛いくらいに伝わってきた。

 

「…………私の事、放っておけないんでしょ? 魔女様から聞いたわよ?」

 

 更に、バーヴァン・シーが痛いところを突いてくる。

 確かに私は、バーヴァン・シーを放っておけない。

 普段ならともかく、こんな真剣なバーヴァン・シーなら、尚更。

 惚れた弱み、って訳じゃ無いけど…………私が、どこかバーヴァン・シーに甘いところがあるのは事実だ。

 …………だから、だろうか。

 

「…………どうすれば、良いの?」

 

 気づけば、私はこくり、と頷いて…………私を堕とす、というバーヴァン・シーの誘いを…………受け入れてしまっていた。

 

「…………ありがとう、マスター」

 

 私の答えに、バーヴァン・シーが安心した様な顔を見せる。

 その顔に、私もどこか安心を覚えながら…………長い夜が、始まった。

 

 

 

 

 

 一足先にシャワーを浴び終えた私の耳に、ザーザーと、シャワーの水音が響く。

 その音が鼓膜を揺らすたびに、妙にそわそわとした気持ちになってしまう。

 何故なら…………今シャワーを浴びているのは、バーヴァン・シーだからだ。

 私に好意をぶつけてきた人が、すぐ近くで裸になっている。

 それは私の平常心を乱すのに、十分な事実だった。

 だけど私にはこの妙な気持ちをどうする事も出来ず、ただバーヴァン・シーのベッドの上で、彼女が浴び終わるのを待つ事しかできなかった。

 

「…………」

 

 …………バーヴァン・シーが私に求めたのは、しばらくの間この部屋で共に過ごす、というものだった。

 これから数日間、夜から、次の日の朝まで…………この部屋で、バーヴァン・シーと共に過ごす。

 それ以上でも、それ以下でも無い。

 ただ、それだけの事を…………バーヴァン・シーは、求めた。

 あの時の私ならきっと、流されるままにそれ以上の事でも、受け入れてしまったと思うのに。

 …………いや、違うか。

 バーヴァン・シーはきっと、本気だから…………これだけを、求めたんだ。

 私が、バーヴァン・シーに堕ちて…………自分からバーヴァン・シーを、求める様になるのを狙って。

 そうなってしまえば、私はもう、何も言い訳出来なくなるから。

 そして私は無意識に、その未来を思い描いてしまってるのだろう。

 だから、妙に気分が浮ついてしまう。

 …………というか、平常心なんて保てる訳がないというか。

 元々モルガンとトネリコに色々と染められた身だ、好みだって染められてる。

 その意味では、バーヴァン・シーはピッタリで。

 スタイル良いし、モルガンとトネリコに似た傾向の美人だし。

 それに、嫌いか好きで言えば…………好き、な方ではあるし。

 そんな人が、すぐ近くでシャワーを浴びている。

 私を、堕とすために。

 そんな状況で、平常心なんて保てないに決まってる。

 …………と、頭の中で色々と軽い自分への言い訳をしていると。

 

「…………お待たせ」

 

 シャワーを浴び終えたバーヴァン・シーの声が、私の思考を揺さぶった。

 

「あ、バーヴァン・シー…………っ⁉︎」

 

 それに釣られて、反射的に声のした方を振り向くと。

 

「…………何? 私の格好がどうかした?」

 

 バスタオルを一枚だけ巻いた、バーヴァン・シーがいた。

 その姿に驚いて、言葉が詰まる。

 さっきまで色々と考えていたのもあるけど…………それ以上に、バーヴァン・シーの姿に見惚れてしまっていた。

 バスタオルだけを巻いたバーヴァン・シーの姿は、これ以上なく彼女のスタイルの良さを示していたからだ。

 そんな私の様子を不審がったのか、バーヴァン・シーが怪訝そうな顔をする。

 しかし。

 

「…………あ、そっかぁ」

 

「な、何?」

 

 その顔はすぐに、嗜虐の色が混じった笑顔に変わった。

 

「ふふ、何でもな〜い」

 

「…………っ」

 

 訊き返すと、惚けた声で返される。

 バーヴァン・シーのその様子に見抜かれた、と顔が熱くなる。

 そんな私の様子に気をよくしたのか、バーヴァン・シーが私の隣に腰掛けた。

 それがシャワー上がりの良い匂いと合わさって、バーヴァン・シーが近くにいると強く実感して、鼓動が跳ねる。

 すると。

 

「…………前から思ってたけど、アナタって結構綺麗よね」

 

「へ⁉︎」

 

 バーヴァン・シーが私を見つめながら、予想外の言葉で殴りつけてきた。

 

「ど、どういう事⁉︎」

 

 その言葉に、まだ形を保っていた理性が容赦なく揺さぶられる。

 

「どうって、そのままの意味よ。どれくらい綺麗かって言えば、このまま噛み付いてしまいたいくらい綺麗ね」

 

 動揺する私に畳み掛ける様に、アナタが望むまでしないけど、とバーヴァン・シーが続ける。

 見れば、その瞳はどこか情欲の色が見え隠れしていて、本心から思っている事が伝わってくる。

 情欲に濡れた灰色の瞳に射抜かれて、心臓が更に跳ねる。

 まるで、バーヴァン・シーの情欲が私に伝染したかの様だ。

 だけど。

 

「ま、良いわ。夜も遅いし、もう寝ましょ」

 

 バーヴァン・シーはすぐにその色を引っ込めて、ベッドに横になってしまった。

 散々こっちを引っ掻き回しておいて最初に言った事以上の事はしないバーヴァン・シーに、どこか釈然としないものを感じながら、私も横になる。

 

「〜〜〜〜♪」

 

「…………っ!」

 

 すると、バーヴァン・シーが楽しそうな声を出しながら、私を抱きしめてきた。

 しかも、巻いていた筈のバスタオルはどうやら脱いでる様で、私が薄着なのもあってその身体の柔らかい感触がダイレクトに伝わってくる。

 更にバーヴァン・シーの甘い匂いがさっきよりも濃く伝わってきて、グラグラ揺れていた理性が更にクラクラとしていき、思考能力が奪われていく。

 代わりに私を抱きしめるバーヴァン・シーへの欲望が強くなり、このままその欲求に身を委ねてしまいたい、という思考に駆られる。

 …………だけど。

 このまま振り返って、バーヴァン・シーを求める事は…………私には、出来なかった。

 初日の今日の時点で既に自分が吐いた言葉を忘れてバーヴァン・シーの誘惑に耐えきれていないのがちょっと恥ずかしい、っていうのもあるけど…………それ以上に、このままバーヴァン・シーを求めて良いのか、わからなかったから。

 別に、モルガンとトネリコの事を気にしてるって訳じゃない。

 二人の性格を考えたら、バーヴァン・シーの言った事は本当だろうし、きっと二人もそれを望んでいる。

 ただ…………私が抱くバーヴァン・シーへのこの気持ちは、果たして彼女の望むものなのかと、気になっただけ。

 好きか嫌いかで言えば、バーヴァン・シーの事は確かに好き、だと思う。

 でもそれは、バーヴァン・シーを放って置けないって心配から生まれたもので。

 つまり、バーヴァン・シーが嫌う同情…………になってしまうんじゃないかと、立ち止まってしまう。

 その時。

 

「…………何かくだらない事考えてそうだから、言っとくけど。私がアナタを好きになったのは、アナタだからよ。だから…………アナタがアナタのままに私を求めるなら…………私は、それで良い」

 

 どこか呆れた様子のバーヴァン・シーの声が、立ち止まる私の手を引っ張った。

 

「…………」

 

 その言葉に、さっきまで考えていた余計なモノが消えていく。

 そして…………余計なモノが消えた先には、バーヴァン・シーへの欲望だけが残った。

 あんな事言っておいてすぐにこれって、軽いなぁと自分に苦笑するけど、欲望は抑えられそうになかった。

 だから。

 

「…………ね、バーヴァン・シー」

 

「何?」

 

「…………貴女が、欲しい、な」

 

 自分から、堕ちる事にした。

 

 

「あれだけ自信ありげに言っといて、すぐにこれとか…………オマエ、ほんっとバカ!」

 

 薄暗い部屋の中、私に馬乗りになったバーヴァン・シーが釈然としない顔で私を見下ろす。

 流石に今日こうなるとは思っていなかったらしい。

 だけど自分の宣言通り、求めに応じてくれるのはどこか真面目なバーヴァン・シーらしい、と見てて嬉しくなる。

 

「…………何笑ってんだよ」

 

「ごめん、バーヴァン・シーが可愛いから嬉しくて」

 

「〜〜〜〜っ!」

 

 それが顔に出ていたのか、バーヴァン・シーが不機嫌な顔になった。

 別に怒らせたかった訳じゃないので素直に謝ると、バーヴァン・シーの顔を赤くして口ごもる。

 そして。

 

「あーもういい! 最初くらい優しくしてやろうと思ったけど、やめだやめ! よく考えたらオマエ、お母様と魔女様に手を出したんだし、その分もかねてたっぷり虐めてやる!」

 

 どこか照れ隠しの様に怒りながら、バーヴァン・シーが私の服に手をかけた。

 そのまま服を剥ぎ取られて、抵抗も出来ないまま(する気もなかったけど)ぽいぽいと投げ捨てられる。

 あっという間に一糸纏わぬ姿にされて、これからどうなってしまうのかと、少し期待を込めたその時。

 

「ん、ぅ…………っ⁉︎」

 

 徐に、バーヴァン・シーが唇を奪った。

 唇をこじ開ける様にして、バーヴァン・シーの舌が中に入り込んでくる。

 その異物感から反射的にバーヴァン・シーの舌を押し返そうとするけど、舌を絡め取られるだけに終わる。

 モルガンにお仕置きされた後遺症だろうか、無理矢理なのにぐにぐにと舌を弄ばれているだけで異物感が段々消えていく。

 代わりにじわじわと甘い疼きが身体を侵して、身体の力が抜けていく。

 それに合わせる様にして、バーヴァン・シーの舌がもっと奥に入り込む。

 だけど、もう私に抵抗する力は無く。

 バーヴァン・シーのなすがままに、唇を貪られる。

 お互いの唾液が絡み合う、淫雛な音を響かせながら。

 そのままじっくりと唇を貪られていると、バーヴァン・シーの指が、不意に私の背中を撫でた。

 既にキスで興奮しているせいか、背中は敏感になっていて、指が背中を撫でるたびに甘さで蕩けてしまいそうになる。

 でも。

 

「ぁ。え…………?」

 

 甘さに蕩け切ってしまう前に、バーヴァン・シーが唇を離してしまった。

 中途半端なとこで止められたせいか、強烈な物足りなさが私を襲い、もっと欲しい、と切ない声が漏れる。

 すると、バーヴァン・シーが嗜虐の色に染まった顔で笑い、

 

「安心して。オマエへのオシオキはまだこれからだから♡」

 

 噛み付くように、バーヴァン・シーが私の胸に唇を落とした。

 

「あっ、ん…………っ♡♡♡」

 

 ゆっくりと味わう様に、バーヴァン・シーの舌が胸を撫でる。

 同時にバーヴァン・シーの手が太ももを撫でて、少しずつ上に登ってくる。

 焦らすようなその動きに否応無く興奮を煽られて、頭がグツグツと煮えたぎった様な感覚に囚われる。

 

「ぃ…………っ♡♡♡」

 

 痕を刻みつける様に何度も胸に吸い付き、離れるバーヴァン・シーの唇に翻弄されていると、バーヴァン・シーの指が陰核に伸びる。

 快楽を燻らせるように責められているせいか、既に陰核は興奮で固くなり始めていて、触られるだけで気持ちよくて、嬌声が漏れる。

 それを機にバーヴァン・シーの責めが更に激しくなって、コロコロと飴玉を転がす様に乳首を、陰核を弄ばれる。

 勘所を外さない的確なその責めに、快楽が高まって、後少しで絶頂しそうなくらいになる。

 でも。

 

「なん、で…………っ♡♡♡」

 

 絶頂する直前で、バーヴァン・シーが責めの手を緩めてしまった。

 後少しというとこで止められたからか、快楽の波が急速に落ちていく。

 しかし快楽は完全には消えずに、燻る様に私の身体を苛む。

 それは飢餓感にも似た物足りなさになって、思わず懇願する様な声が漏れる。

 

「ぃ、あ…………っ♡♡♡」

 

 だけどバーヴァン・シーは私の声に応える事はなく、ニヤニヤと笑いながら陰核を責めていた指を、膣内に滑り込ませた。

 興奮してるせいか膣内は抵抗なくそれを受け入れてしまい、快楽が私を襲う。

 そのまま、バーヴァン・シーの指が探るように膣内を弄る。

 するとぐちゅ、と粘着質な水音が響いた。

 

「ふーん…………触ってないのにもうこんなに濡れてるとか、オマエ、相当淫乱だな♡」

 

 バーヴァン・シーが私の愛液で濡れた指を見せつけながら、嗜虐的な笑顔で詰る。

 その指は軽く糸を引いた私の愛液に濡れていて、言い訳不可能なくらいに私が悦んでいるのを示してしまっていた。

 

「それは、バーヴァン・シー、がよわいとこばっか、いじる、か、ら…………ぁ、っ♡♡♡」

 

 それが恥ずかしくて、思わず誤魔化しながら目を逸らした瞬間。

 再びバーヴァン・シーの指が、膣内を弄った。

 

「へえ、私のせいって訳? 良いぜ、ならもっと弄ってやる♡」

 

「ぁ…………っ♡♡♡ごめ、やめ…………っ♡♡♡そこ、よわ…………っ♡♡♡」

 

「ここがアナタの弱点なのね…………♡ならもっと虐めないと♡」

 

 バーヴァン・シーの嗜虐心に更に火がついたのか、膣内を執拗に弄られる。

 それだけでも強烈な快楽だったが、バーヴァン・シーが私の弱点を見つけてからは、更に苛烈になった。

 擦り上げる様に、あるいは指で押し潰す様に責め立てられ、快楽で灼かれていく。

 

「ここ、やば…………っ♡♡♡はな、して…………っ♡♡♡」

 

「本気で言ってるの? 全然離さない癖に♡」

 

 それが怖くてバーヴァン・シーに懇願するけど、身体は正直で。

 バーヴァン・シーの指を咥え込んだまま離さないくらい感じてしまっている事を本人に指摘されて、羞恥で顔が熱くなる。

 それに気をよくしたのかバーヴァン・シーの責めが激しくなり、また絶頂してしまいそうなくらいに快楽が高まっていく。

 だけど。

 

「ま、た…………っ♡♡♡なん、で…………っ♡♡♡」

 

 さっきと同じ様に、バーヴァン・シーが責める手を緩めてしまった。

 そのせいで快楽の波が引いて、また物足りなさに襲われる。

 

「言ったろ? 虐めてやるって♡このまま、最後の最後までイかせてなんてあげないから♡」

 

「そん、な…………っ♡♡♡」

 

 燻る快楽の炎に灼かれながらバーヴァン・シーを睨むと、とても楽しそうな笑顔と共に、絶望的な事を言ってきた。

 つまり、バーヴァン・シーはずっとこの寸止めを続けるつもりらしい。

 その事実に、どうしようもないくらい切ない気持ちが胸から込み上がってくる。

 

「あははっ、何その顔! 冗談だよじょ・う・だ・ん♡堪え性のないマスターにイラついたから、ちょっとオシオキしてやっただけ♡」

 

 絶頂させてもらえない事を知った私の顔がよっぽど面白かったのか、バーヴァン・シーが吹き出す。

 

「だから…………これからは、もっと気持ちよくオシオキしてあげる♡」

 

「あっ、ふぁ、あ、んっ♡♡♡」

 

 そしてニヤニヤと笑いながら、さっきと同じ様に、私の身体を責め始めた。

 いやらしい水音と共に、バーヴァン・シーの指が膣内を掻き回して、快楽を叩き込んでくる。

 その動きはさっきと比べても尚容赦なくて、散々焦らされた事もあって快楽がどんどん膨らんでいく。

 そして。

 

「ほら、イけ♡」

 

「あ、ぃ、あ、ぁ〜〜〜〜っ♡♡♡」

 

 膨らんだ快楽が破裂しそうになった瞬間、バーヴァン・シーの笑顔と共に一際強く弱点を責められて絶頂した。

 ようやく絶頂出来て、今まで燻っていた快楽が激しく燃え上がる。

 それは私の何もかもを吹き飛ばすような強烈なもので、頭が真っ白になる。

 しかし。

 

「ぃ、あっ⁉︎♡♡♡」

 

 それは一瞬の事で、真っ白になった頭を新しい快楽で叩き起こされる。

 

「何寝てるの? 私を求めたのはアナタなんだから、私が満足するまで寝るなんて出来るわけないでしょ? だからほら、もっとイけ♡オマエへのオシオキはまだ続いてるんだから♡」

 

 どうやら、バーヴァン・シーは私をまだ離してはくれないらしい。

 その事実に悦びながら…………私は、快楽の沼に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 バーヴァン・シーとの夜から、数日後。

 

「では、説明してもらいましょうか」

 

 私は、何故か正座させられていた。

 目の前には、鉄の顔になった救世主のトネリコがいる。

 

「貴女とミコケルさんとの、関係を!」

 

 何故こうなっているのだろうと思っていると。トネリコがミコケルと私が並んでいる写真を見せてきた。

 どうやら、バーヴァン・シーもといミコケルとの関係を疑われているらしい。

 

「随分と仲が良さそうだけど…………私、バーヴァン・シーさんとの関係以外は認めた覚えないんだけど?」

 

 後ろに炎が見えそうなくらいに圧を掛けながら、トネリコが迫ってくる。

 どこか既視感を覚えるその展開に、内心苦笑する。

 とはいえ、どうすれば良いかな。

 バーヴァン・シーの時と同じ様に、ミコケルの事をトネリコに話せるわけもないし。

 この前は誤解だったけど、今回は誤解じゃないし。

 どうしよう。

 打つ手なし、八方塞がりだ。

 このまま宝石にされるしかないのかな。

 と、内心諦め掛けたその時。

 

「あ、魔女…………救世主の魔女様! ちょっとコイツ、借りていきますね!」

 

「え?」

 

 たまたま通りがかったのだろうバーヴァン・シーが、私の手を引いて駆け出した。

 

「ちょっと、待ちなさい!」

 

 当然トネリコがそれを許す筈もなく、私達を追いかけてくる。

 

「このままほとぼり冷めるまで逃げるぞ、マスター!」

 

 バーヴァン・シーが追いかけるトネリコを見て私をお姫様抱っこの様な形で抱きながら、ボーダー内を駆けていく。

 このカオスな状況にこれは夜お仕置き確定だなぁ、と近い未来に思いを馳せながら、バーヴァン・シーに身を任せた。

 こうやってドタバタ出来る様になって良かった、と思いながら。




楽しかったです

続きを書くなら

  • 快楽堕ち(ビーストカーマ)
  • カジノ敗北所有物(Wコヤンスカヤ)
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