この辺りはスピンオフ元の回想、及びヒロイン視点の感想という側面が非常に強くなっています。マキに関しては、一人称で作品を書いたことがありませんからね。
次回からが本番となります。何か大事なことを確認しないままのセックスとなります。
「橘さん、本日も残業を?」
「ん?ああ、少しだけだよ。今日中に片付けておいた方が、明日スッキリしていそうだし。」
「そう……ですか。あまり無理はしないでくださいよ。」
後輩に気を遣われる程度に、私は仕事に打ち込んでいたようであった。特段に立て込んでいるわけでもないものの、働くことに妙な充実感を得ているのは確かであった。
「おう、精が出るねぇ。」
「ん?お前は上がらないのか?」
「ああ、大好きなお前を待っているんだ。」
「気持ち悪いからやめてくれ。」
腐れ縁の同僚はそう言いながら、デスクを挟んだ向かい側に置かれた椅子に跨いで座り、私の仕事ぶりを見つめていた。
「お前も所帯持ちになったんだろ?だったら早く帰った方がいいんじゃないか?」
「うちは嫁さんも働いているんだ。あんまり早く帰っても誰もいないよ。」
暇潰し、ということで私の仕事をただ眺めているらしい。傍迷惑な話ではあったが、邪魔になるということもなく、私は一人黙々と仕事を続けるであった。
「ちょっと前まではお前の方がさっさと上がっていたのに、一体どういう風の吹き回しなんだ?」
「まぁ……色々と……な。」
マキとゲームをした日から幾分かの月日が流れていたが、私が彼女の接客を受けることはなくなっていた。店に足を運んだことあったものの、運が良いのか悪いのか、彼女は不在であったり他の客の相手をしていることが続いてもいた。
「わかった、女だろ。女にフラれたな。」
「真っ先にそれを考えるか?まぁ……あながち間違ってもいないが……」
私は彼女を恐れ、疑い、距離を置こうとしていた。いくら親密といえる仲であったとはいえ、所詮は娼婦と客という間柄。私が彼女に会おうとしない限り、決して顔を合わせる機会もないのであった。
「うーん……やっぱり人生の先輩としてのお前に、教えてもらうわけにはいかないか。」
「教えるって……何をだよ。」
「ほら、俺より先に結婚もしているしさ。アドバイスを授かりたいと思ってな。」
「アドバイス出来ることがあると思うか。」
「いや、ないだろうな。」
長い付き合いであるため気にはなりはしたものの、結婚式に招待をされる以上の付き合いはなかった。他人の家庭に首を突っ込めるほどの余裕も度胸もありはしなかった。
「ま、反面教師にくらいにはなると思うけどな。」
「うーん……そいつも難しいだろうな。お前と千晶ちゃん、すっげぇラブラブだったじゃん。」
「それじゃあ、普通に参考としてくれればいいよ。」
同僚の言っていることがすべて正しいわけではなかったものの、千晶の存在は今でも私の足枷となっていた。きっと私はもう、自分の意思では前に進むことが出来ない。他愛のない会話の中でそう思ってしまうのだった。
◇
転機が訪れたのは、それからさらにしばらく後のことであった。
「マキちゃんが私を?」
『ええ、そうなんですよ。あの子ってば、橘さんがしばらく来ないのが心配みたいで。』
電話の相手は娼館の管理責任者。言葉遣いは女である一方、その声は紛れもなく男のものであり、店で会った際も間違いなく男ではあった。
『時間のほうはマキちゃんが指定した時ですけど、橘さんが来店すれば必ず会いたいと言っていますので。』
「えっ……!?そ、そうまでして私なんかと……!?」
『ふふっ!あの子が珍しくワガママ言うものだから、お店としても協力しないわけにはいきませんでした。』
逆指名とでもいうべきなのか。娼婦の方から客を呼ぶという事態に、私は些か困惑していた。しかし、店から連絡である以上、法度に触れるような状況ではないと安堵も出来るのであった。
「わかりました、それじゃあ……」
『ありがとうございます。それでは、橘さんのご来店をお待ちしておりますね。』
一番気掛かりなのは、マキ自身の意思を全く確認出来ないことであった。彼女が疎遠となりつつある私をどう思っているのか。だがそれを確かめるにも、私自身が彼女に会わなければならなかった。
「マキ……」
管理責任者の口ぶりから察するに、彼女が私を客として真っ当な客として呼んでいることはなさそうであった。しかしそれでも、蓋をして忘れようとしていた私の彼女に対する思いだけは、噴き出して溢れそうになっていた。
◇
「いらっしゃいませ。お客様、本日は……あっ。」
「今日予約をしていた橘です。ええっと……」
以前と変わらぬまま、私は店へと足を踏み入れる。すぐに下の飲食店で仕事していた従業員が駆け付け、私が事情を説明する前に声を上げる。
「お話は伺っています。マキちゃんでしたら、すでにVIPルームでお待ちしていますので。」
「VIPルーム!?いや、そんな高い部屋を予約なんて……」
「大丈夫です。本日の料金は、全て彼女が支払っていますから。」
「なっ……!?」
平常心を保とうとしていたものの、それは入店してすぐに維持が困難となる。マキはいつもなら私が払っている金を、自らで支払っていた。それはつまり、自分で自分を買うという理解し難い行為でもあった。
「あのー……橘さんは、何も聞いていないんですか?」
「え、ええ……ただ、今日来てほしいという連絡が、店のほうからあっただけで……」
「はぁ……もう、あの子ってば。これじゃあお客様をビックリさせるだけじゃないの。」
マキの同僚である従業員は、笑みを浮かべて彼女の行為に呆れていた。どうやら私が狼狽える姿を見せることは、店側にとっても想定外の事態であるようだった。
「とりあえず、あの子が取っているお部屋に行ってください。後はおそらくいつも通りですので。それでは、失礼します。」
「は、はい……」
ますます彼女が何を考えているのかが分からなくなりながら、私は足を進めるしかなかった。だが、その何を考えているのか理解が出来ない彼女に、私は間違いなく惹かれているのであった。
◇
先程の従業員や他のスタッフにも案内され、私は彼女が待っている部屋の前に辿り着く。
「うっ……!」
少し前まではいつも合わせていた顔だというのに、謎の緊張感が私を支配する。まるで初対面の相手、あるいはそれ以上に得体の知れない何かと遭遇するような気分であった。
『……どうぞ。』
部屋のドアをノックすると、中からは聞き慣れた声がドア越しに聞こえてくる。入室の許可を得た私はドアノブに手を掛けると、ゆっくりとそのドアを開いて室内を伺う。
「お久しぶりです、俊也さん。」
いつも接客を受けている部屋よりも、豪華さが際立った室内。決して派手ということはない一方で、この部屋を利用する人間の富を感じさせる空間。その部屋の中でマキは椅子へと座り、目の前にテーブルに並んだ酒瓶を開けているのであった。
「マキちゃん……これは一体?」
「一人で飲むのは寂しいですから、一緒に飲んでいただける相手が欲しいと思っていまして……んっ、んっ……」
拍子抜けをした一方で、一人で酒を嗜む彼女の姿に訝しさを感じもする。いつものような娼婦の出で立ちではなく、私が今まで見たことがない雰囲気を彼女は明確にしていた。
「そうやって飲んでいるってことは、今日は仕事じゃなくて……」
「はい。今日はこの部屋を利用しているだけ。私のプライベートです。」
そう言葉を口にする彼女の顔が、何よりも説得力を有していた。いつものような艶やかな化粧は一切しておらず、おそらくはスッピンといえる状態を私に見せていたのだった。
しかし、化粧をしてないからといって別人となっているわけでもなく、整った顔立ちをそのまま地味にしたような雰囲気を醸し出していた。それ以外に変わったところといえば、髪を短くしていたという点であったが、私はそれ以上に化粧をしていないことに気を取られた。
「驚きましたか?化粧をしないまま、男性の前に現れる女だなんて。」
「いや、確かに驚きはしたけど……こんなマキちゃんだって……その。」
既に酔い始めているのか。顔は赤みを帯びて、私に対して放たれる言葉はいつも以上に饒舌となっていた。そして彼女は、テーブルに置かれていたボトルを手に取って、改めて私に語る。
「俊也さん、ご一緒していただけますか?」
「あ、ああ。でも……どうして今日だったの?」
「ふふっ!俊也さんにはお伝えしていませんでしたね。今日は、私の誕生日なんです。」
「えっ……?ええぇっ!?」
教えてくれていれば、何か渡せるものを持ってきていたのに、見事なまでに手ぶらで訪れてしまっていた。しかも、この催しは全て彼女が自腹という状況。多くの疑問や訝しさは解消された一方で、私の中では新たに彼女への申し訳なさが芽生えようとしていた。
◇
「それじゃあ、マキちゃんの誕生日を祝して。」
「はい。」
マキと私は2人きりの空間でテーブルを挟んで向かい合って座り、酒が注がれたグラスを鳴らす。思わぬ状況であった一方で、こうして彼女を祝う場所に招かれたこと自体は嬉しいというものだった。
「髪を短くしたのも、齢を重ねた記念だったりする?」
「あっ……いえ、これはまた、それとは別のことで……」
「あれ?違ったの?まぁでも、ショートヘアも似合っているからね。」
「もう……俊也さん、まだ飲んでいないのに酔っているんですか?」
こうして異性と2人きりで酒を共にするのは、もちろん千晶以来だった。結婚をする前は彼女と酒を飲み、一晩中ベッドの上で快楽を貪り合う日々を繰り返していたと、グラスの中身を飲みながら思い出していた。
「どうしました?あまり、お口に合いませんでしたか?」
「あっ……いや、ごめん。そんなことはないよ。」
セックス以外の、快楽が伴わない時間を過ごしていても、私はマキに対して千晶を重ねてしまっていた。そんな自分が嫌となり、私は思わず彼女に対して詫びの言葉を口にしていた。
「私のほうこそ、突然お呼びしたりして、ご迷惑じゃなかったでしょうか?」
「そんなこともないよ。むしろほら、私のほうからマキちゃんに会いに行く機会を逃していたりもしたからさ。」
仲直り、というわけではなかったが、私自らが距離を置いていた彼女と会う機会は望んでいた。しかし、それがこうして彼女の方から誘いに来るというのは、さすがに想像もしていなかった。
「マキちゃんもお酒を飲める子だったんだね。」
「意外、だと思いました?」
「うん。真面目な子だから、そういった付き合いとかもあまりしてないのかな、とか思ってたから。」
「そうですね……あまりそういったイメージで間違ってはいないと思います。お酒を飲む機会はほとんどありませんでしたし、このお店に入ってからも1度きりでしたし。」
自身と酒に関する話を、詳らかに語っていくマキ。私も酒が進む中、彼女に対して少しだけ意地悪な質問をしてみたくなった。
「こうして男と酒を飲むのも、久しぶりだったりする?」
「それは……!?は、はい……こうして男性と2人で飲むのは、お店に入る前にあっただけですから。んっ、んっ……」
少々の焦りは見せたものの、彼女は正直に私の質問に答えてくれた。私としてはそれで十分だった一方で、彼女はグラスの中身を一気に飲み干すとさらに言葉を続ける。
「どうしても思い出してしまいますね。あの日も、こうして2人きりでお酒を飲んで楽しく過ごしていたのに……」
「あの日って?」
「二十歳になった誕生日のことです。あの日の私は彼と……ご主人様と本当の大人になった記念に、一緒にお酒を飲んでいたんです。」
興味本位で聞いたことが、彼女の触れてはいけない場所に届いていたらしい。だが、私は彼女が語る言葉を遮ることが出来ず、遮る気にもならなかった。
「楽しくお酒を飲んだ後、彼は私をお祝いしたいといって、いつものように部屋へと連れ込んだんです。」
「そりゃあ、酒を飲めばそういう気分になって、その……うん。」
へたれた男というに相応しい返し方。とはいえ、私と千晶だって結婚前はそうした恋愛を繰り返していた。彼女が交際相手を『ご主人様』と呼ぶことには些か疑問を持っていたが、ごく普通の恋愛なのだと考えていた。少なくとも、この時までは。
「その連れ込まれて部屋で、私はご主人様のお友達のお相手をしちゃったんですよ。」
「え?お、お友達……?その……恋人の男以外の……ええっと……つまりは……」
「はい。多くの男性に、たくさん犯されてしまいました。酔った私を、何人……何十人という男性がレイプしたんです。」
言葉が出てこなかった。彼女が語る壮絶な経験に、私は絶句するしかなかった。しかしそれ以上に、それを何食わぬ顔で話す彼女に異常さを感じていた。
「本当に凄かったんですよ。嫌がって、泣き叫ぶ私の服を剥ぎ取って、ベッドへと押し倒し、愛撫もそこそこにマンコにチンポをねじ込んで……」
「うぅっ!んぅぅ……!」
「んっ、んっ……はぁぁ……マンコの中に容赦なく中出しをされて、チンポが抜けたらまたすぐに別の男性がチンポをぶち込んできて……ふふっ!私のことなんて何も考えない、最低な人たちでした。」
どうして笑うことが出来るのか。まるで他人事のように自らの体験を語り続けるマキ。そして、そんな話を聞く私の身体には、これまで経験したことがない感情が込み上げていた。
「泣いても、叫んでも、謝っても、彼らが私を犯すことはやめませんでした。いつの間にかご主人様はいなくなっていて、私は穴という穴にチンポを挿入されて……気持ちよくなろうしていました。」
「き、気持ちよくって……そ、そんなことをされて本当に……!」
「本当ですよ?マンコにもアナルにも、チンポを突っ込まれて続けているうちに気付いてしまったんです。」
ようやく彼女の歪な娼婦としての魅力が理解出来た。しかしそれは、決して私が知っていいようなことはなかった。だが、彼女はそれを私に明らかとしていた。そんな彼女の意図にも、私は気付くしかないのであった。
「ずっと犯されているうちに分かったんです。自分がどんなチンポでも気持ちよくなれてしまうって。そうしたら急に涙が止まって、嬉しくなってきたんです。」
「それで君は……どんな男でも受け容れることが女になってしまったと?」
「いいえ、受け容れるのではなく、食べてしまうんです。精液を搾り尽くして、チンポが勃たなくなるまで……命が尽き果てるその時まで……ずっと、ずぅぅぅっと。」
肉食女子、セックス依存症、そんなカテゴリすらも超えた先に彼女は君臨していた。おそらく娼婦として働いているのも、金銭ではなくセックスが出来るからという理由なのだろう。本来彼女は、金銭欲すらも捨て去った性欲の権化となっているのだろうから。
「でも、どうして……マキちゃんがそうなるまで、付き合っていた人……その、ご主人様?という人と付き合うことになんて……」
「……あの人も、とても可愛そうな人でした。私に……私なんかに出来ないことを求めていたんですから。」
そうかつての恋人を語るマキの顔には、一抹の寂しさが笑顔の中に滲んでいた。そんな彼女の様子から、ある程度の察しはつくのだった。
「やっぱり……その彼と付き合うきっかけというのも……」
「はい。二十歳になる前の私が、彼と一緒にお酒を飲んで……酔った私はそんな彼に……初めてを奪われてしまいました。」
もはや驚きはなかった。多くの男に凌辱されたという過去に比べれば、一人の男に酔姦されて純潔を散らしたことなど些細な話とさえ思えるものであった。
「俊也さん、大丈夫ですか?少し刺激の強い話だったかもしれませんし、お身体の具合が悪くなっていなければいいのですが。」
「いやっ……だ、大丈夫……だから。」
少しどころではなかったし、身体の一部の具合は悪いどころか良くなり過ぎていた。彼女の話を聞いた私は、愚息をはち切れんばかりに勃起させてしまっていた。
「いいえ、絶対に大丈夫ではありません。だって……ほら。」
「んぅぅぅっ!?」
テーブルを挟んで向かい合っていたマキは、パンプスを脱ぐと自らの足を延ばしてストッキング越しに私の股間を押し潰してくる。
「んぐっ……やめっ……マキちゃんっ……あぁぁっ!!!」
「うふふっ!わたしがレイプされたと聞いて、チンポが勃起したんですか?それとも、マワされてしまったと知って、興奮していただけたんでしょうか?」
「ま、マワすって……そんな……んぐぅぅっ!!!」
「大丈夫です。そんな経験はそれほど多くはありませんから。もちろん、汚れた身体に変わりはありませんけどね。」
マキが何を求めているのか、私にはそれが分かっていた。自身の全てを曝け出した上で、改めて彼女は私に問う。
「俊也さん、こんな私を抱いていただけますか?娼婦としてではなく、汚れ切った一人の女として、私を愛でていただけますか?」
もう、彼女が千晶と重なることはなかった。そして彼女、マキこと坂下真希の過去は、私にとってさらなる興奮を得る糧でしかないのであった。