バッドエンドを題して書き始めた今作品ですが、後味の悪い結末には出来なかったというもの。完璧な幸せなどが望めない状況における、最良の結末という仕様になっております。
それでは、ここまでお付き合いをしただき本当にありがとうございました。
After the Episode:『義母と息子の境界線』
墓石の前で手を合わせ、目を瞑って祈りを捧げる。毎年欠かさずに行っていた両親の墓参りに私、青山千晶は今年も訪れていた。
「………」
一人で来るようになってから、どれほどの月日が流れたのだろうか。二人で訪れたのは数えるほどであったものの、あの人と別れてからもここに来ると花が供えられていることがあった。
それはいつも決まって同じ花。あの人と訪れていた時は必ず供えていた花。誰が供えていたのかは分かったものの、私はその思いだけを噛み締めるに留めていた。
「ねぇ……私、本当にこれでよかったのかな。」
墓で眠る両親に向けて、私は答えが得られない問いかけをする。顔も朧気となりそうな父と母の記憶。そんな私と同じような境遇へと追いやった一人息子に対して、罪の意識は未だ消えることがなかった。
「もう……何も元には戻らないんだもんね。」
私という存在を記憶に留めているのは、きっともうあの人だけ。彼さえ私を覚えてくれていればそれで十分であった。例えそれが彼を苦しめていたとしても、それさえも私にとっての幸せなのだから。
「……最低な女よね、私って。」
母でもなく、妻でもなくなった私に、一体何が残されているというのか。家族を失い続けるくらいであれば、今の私を満たしている孤独感さえも幸福に感じてしまう。もう、あんな苦しみを二度と味わうことなんて……
「……あら?」
そんな自分勝手ともいえる幸せを両親の墓前で噛みしめていると、2人の人影が私のもとへと近付いてくる。一人は私よりも一回りくらいは若い女性。そしてもう一人は彼女よりも一回りは年下であろう幼い子供であった。
「………」
「………」
2人は墓前に立っていた私の傍で立ち止まると、小さく頭を下げて挨拶をしてくる。もちろん、彼女とは初対面であったものの、私は挨拶を返すしかなかった。
その一方で、彼女が連れていた一人の幼子。私はその子の顔を見てすぐに理解をしてしまった。そして、その手に持っていた花束が全てを語っているのであった。
◇
私の両親の墓前に花を供えた親子らしき2人。墓石に向かい手を合わせ、祈りを捧げてしばらくすると、彼女は私に向かって話しかけてくる。
「こうしてこちらに来るのは、私もこの子も初めてですから。」
その若さに見合わず、落ち着いた雰囲気を醸し出した女。その一方で衣服の上からでも分かるほど、私以上に豊満な身体をした彼女と共に現れた幼い子供に、私は訝しさを抱いていた。
「あなたは……やっぱり、あの人の……」
「はい。初めまして、千晶さん。橘俊也の元妻の……坂下真希です。」
「えっ……?元?」
「はい、元です。私も、千晶さんと同じですから。」
俊也とは別れたと言ったにも関わらず、前妻の両親の墓へ訪れた真希と名乗る彼女。赤の他人同然の人間がこの場へと訪れる理由は、彼女が連れた子供にだけ残されていた。
「ほら、典也……」
「う、うん……」
「ふ……!っっっ……!?」
その名前を聞いた瞬間、息が詰まり心臓が押し潰されそうな感覚が私を襲う。幼さが残る子供は、真希さんの顔と私の顔を交互に見ながら、躊躇いを見せつつも私に向かって口を開く。
「お、おかあ……さん?」
そう呼ばれる資格は、もう私にはないと思っていた。あの日、俊也に抱きかかえられた我が子に触れることなく去った私が、母親などと呼ばれる日は来ないと。
「わ、わたしは……わたしは……!あなたの……母親なんかじゃ……!」
「うん。オレも、まだよく分からないんだ。その……オバさんのことが、本当のお母さんだって思うことが……あまり出来ないというか……」
この子の、典也の言葉はその一つ一つが私の罪を裁くものだった。顔向けなど出来るはずがない。恨まれ、憎まれ、蔑まれて当然だと思っていた。でも、成長した息子が私を見つめる目は、どこまでも幼くて無垢なものであった。
「でも、ずっと会いたいって思ってた。そんな風に思ったらイケナイって……真希お姉ちゃんと一緒に暮らし始めてからは、もっとそうなんだって。それでも……」
「っ……!!!!」
身体が自然と動き、私は典也の顔に手を添え当てていた。腕の中で無邪気に笑っていた赤子が、こんなにも成長をしてしまったという事実。それもまた、私の罪の大きさであった。
「あぁっ……!あぁぁぁ……!ふ、典也……典也ぁっ……!あぁぁぁぁぁ……!」
大粒の涙を零しながら、私は成長した息子を抱き締めていた。決して母親などと名乗ることが出来なくても、この子が私を母と呼んでくれたこと。それが何よりも辛く、何よりも嬉しくて、私は声を上げて泣き叫んでいた。
「ごめんなさいっ!ごめんなさい典也っ!ごめんなさいっ……ごめんなさいっ!あぁぁぁっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「ちょっ……お、お母さんっ!?んぅぅっ……く、苦しい……!」
「本当にごめんなさいっ!ひぐっ……えぐぅっ!ずずぅぅっ……!わたしは……わたし……あぁぁぁぁぁぁっ……!」
『この子が生まれなければ、この子さえいなければ。』
たった一度でも、母親として最低な思いを抱いてしまった自分。そんな私を典也が憎んでくれればどれだけ気が楽だったか。しかし、典也はそんな私の願いを裏切って、私のことを母と呼んだ。
私はこの子に何もしてあげられなかった。ただこの世に生を受けるように産んだだけだった。その命が生まれることさえも、本当に私自身が望んでいたのか定かではなかった。
それでも、私はこの子を抱き締めていた。一人の母親として、自らの罪と不幸を抱き締めているのであった。
「法律上の関係では、典也と私は義理の親子ですが、実際は既に赤の他人となっています。」
「えぐっ……ぐずぅっ……真希さん。あなたが、典也を引き取ったの?」
「ええ。もちろん、俊也さんとの同意の上で。ですから、あの人も今ではたった一人。」
俊也が息子を手放したという事実。しかしそうしたことを、彼の実家が許容したということが私には理解出来なかった。この子は本来、彼の実家が求めた存在なのだから。
「あの人の……俊也の実家とは……」
私がそう問うと、真希さんは不敵な笑みを浮かべて息子の方に手を置く。そして、その笑顔のまま私の問いに答えてくれた。
「とても良いお返事をいただきましたよ。ご実家の方々はみんな……声も出せないほどに。」
「え?」
「なんかお姉ちゃん……お札の入ったバッグでお父さんの家族をみんなぶっ飛ばしたとか……あうぅっ!」
度し難い真希さんの行いを引き気味に話す典也。そんな我が子の身体を後ろから抱き締め、彼女は妖しい声音で囁く。
「ダメよ典也。私がそんな乱暴な真似をするわけないじゃない。お母さんがビックリしちゃうでしょ?」
「あうぅっ……う、うん……んぅぅっ!!!」
「あ、あの……真希さん。あ、あなたは一体……」
典也の口走った話と、彼女の典也に対する接し方。そのどちらもが常軌を逸していた。ただ、その狂気染みた彼女の行動が、俊也の実家を黙らせたということだけは察すること出来た。
「ふふっ!わたしも、もうこの子の母親だなんていえません。だからこそ、千晶さんとこうしてお話が出来たというものですから。」
「あっ……!」
真希さんもまた、典也の母親として大いに悩んでいたことが、その言葉から理解出来た。義母という立場から実母の存在。彼女も俊也と同じく、私の存在が大きく圧し掛かっていたのだと分かってしまうのであった。
「千晶さん、俊也さんが求めているのは、私ではありません。そして私もまた、あの人ではなくこの子を選んだ。私は彼から、全てを奪ってしまったんです。」
「う、奪うだなんて……!それは、私だって……」
真希さんが何を促しているかはすぐに分かった。そしてそんな彼女に続いて、典也もまた私に対して声を上げてくる。
「あの……お父さんはきっと寂しいと思うから。オレもお母さん……じゃなくて、真希お姉ちゃんと一緒にいなくなっちゃたし、今はお父さん……一人ぼっちになっちゃってるから。」
「典也……」
「うふふっ……!典也ってば、私以上に俊也さんが一人になるのを気にしていたみたいですから。」
「うっ……!だ、だって……オレにはお姉ちゃんがいるけど、お父さんには誰もいないのって……なんか、お父さんに悪い気がしただけで……」
こんな気遣いを実の息子にさせてしまうなんて、あの人はどこまで私を呆れさせるのだろう。そして、そんな典也と真希さんの2人は、こんな私の背中さえも押してくれていた。
「どんな顔をして、あの人に会えばいいの?」
「それはさすがに、私の言えることではないかと。ただ、この子に会うよりは気が楽じゃないでしょうか。」
「そ、それはそうでしょうけど……」
「お母さん、やっぱりお父さんのことが嫌いだったの?」
「うぅっ……!」
そう、これは私が求めている以上に我が子が求めていること。だが、いくら実家との問題が片付いているとはいえ、彼との関係が元に戻ることだって簡単だとは思えなかった。
「千晶さん、子供たちのワガママだと思って、聞き届けてはいただけませんか?」
「わ、分かっているわ。ただ少し……本当に少しだけ踏ん切りがつかないというだけ……え?子供……たち?」
どうして複数形なのだろうか。私の息子は典也だけだ。真希さんが俊也との間に子供を作っていてもおかしいことではない。でも、それ以上に彼女の言動には引っかかるものがあった。
「真希さん、あなたもしかして……いえ、やっぱり……典也とは……」
「私から直接お話しても構いませんが、俊也さんも詳しいことは御存じだと思いますよ。」
この会話の最中、典也は顔を真っ赤にして俯いたままだった。我が子のそんな反応が、彼女と息子の関係を大いに語っているのであった。
◇
見慣れた玄関。しかし、その前にたったのは十数年ぶり。思ったよりも緊張はしないまま、私はインターホンを連打した。
『はいっ!はーい!いま出ますから……』
ドア越しに響き渡る聞き慣れた声。そしてその直後、玄関のドアが開かれて一人の男が顔を覗かせる。
「いったいどちら様で……あっ。」
「………」
玄関を開けて姿を見せた彼、橘俊也の顔を私は黙って見つめていた。言葉を交わすわけでもなく、私はただその場に立っているのだった。
「なんだ……もう来たのか。」
「真希さんから連絡はもらっていたんでしょ。だったら、いつ来てもいいようにしておいてほしかったわ。」
十数年ぶりの再会。それでも、棘のある言い方を変えることが出来ずにいた。まるで少し間顔を合わせていなかった友人と接するように、私は不満を口にしてしまう。
「わ、悪い……まさかこんなに早く来るなんて思ってなくて……」
「はぁ……ごめんなさい。急に押しかけてきちゃって。本当は行くかどうか悩んでいたんだけど……」
嘘をついていた。真希さんから話を聞いた後、私はすぐに俊也と会う支度を整えて家を飛び出していた。悩む頭など持つことなく、私は身体の赴くまま彼のもとへと訪れたのである。
「まぁその……あれだ。こんなところで話すのもなんだから、とりあえず中に入って……」
「入っても……いいの?」
「当たり前だろ。だって、この家は俺たちの……おわぁっ!?」
『俺たちの』。俊也がそう言った瞬間、私の中で感情が弾け飛んだ。彼の身体を抱き締め、そのまま家の中へと押し倒していた。
「ちょっ……千晶やめっ……いくらなんでもこれは……!」
「ばかっ……バカッ……バカぁっ!何よ……あんな若い子と一緒になってたのに……あなたのことなんて……これっぽっちも……!」
罵る言葉しか吐き出せなかった。好きだった、会いたかったなんて言うことも出来ず、私は俊也が振り解こうとしても延々と押し倒した彼の身体を抱き締め続けていた。
「嫌い……大っ嫌い!私以外の女と一緒になったあなたことなんて……一生許さないから……!」
「……ああ、それでいいよ。俺も、許してもらおうなんて思ってないから。」
「うぅっ……ひぐっ、えぐぅっ……うぅぅっ……あぁぁっ……あぁぁぁぁぁっ……!!!!」
また、泣いてしまった。典也の前で枯れるほど流したはずなのに、俊也の前では泣かないと決めていたのに。私を受け容れようとしてくれた彼の前で、自分の心に嘘をつくことなんて出来なかった。
「でも……でもぉっ!わたし……あなたに……本当のことなんて何も……!」
「もういいんだ。全部終わったことなんだから。俺の実家のことも、典也のことも、お前が背負うものはもう……」
「あぁぁぁぁぁ……!あぁぁぁ……ごめんなさい……!わたし……あなたにも……うぅぅっ……ひっぐっ……ずずぅっ……!えぐぅっ……!」
俊也の腕の中で、私は子供のように泣き続けた。一人でいた時は出そうと思っても出なかった涙が、息子と夫の前では止めどなく溢れてくる。
「ち、千晶……その……このままだと本当に……んぅぅっ!!!」
「ぐずぅっ……どうしたの?んんぅっ……あら?」
彼が悶えるような声を上げたので、私は起き上がって身体を少しだけ動かしてみる。すると、下半身に妙な固さのある異物感を覚え、それが何であるかもすぐに理解出来てしまった。
「あ、あなた……!」
「うぅぅっ……わ、悪い……そんなつもりは全然なかったんだけど……」
驚きの声を上げた私に対して、俊也は咄嗟の判断で謝ろうとする。でも、そんな必要はないと私は言葉を続ける。
「もう……独り身になって、しっかり処理をしていなかったの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。その……千晶だから、しちゃったというか……」
「うぅっ……!そ、そんな恥ずかしいことを言わないで!自分の齢を考えなさいよ!」
「歳って……お前だって同い年だろうが!」
ああ、どうしてこう言い争いになってしまうの。さっきまでは感動の再会という雰囲気だったのに、もういつも通りとなってしまっていた。
「そういうお前こそ、その……したいとか……思ってないのか?」
「うぐっ……!?わ、わたしは……別に……あ、あなたが……どうしてもっていうんだったら……」
ただ齢を重ねただけで、何も変わってなかったのかもしれない。でも、齢を重ねた私でも勃ってくれたことは、心の底から安堵をしていた。そんな彼と、私は十数年ぶりの口付けを交わして、互いの身体を求め始めるのであった。
◇
「んちゅっ……んぶっ、ぢゅぶっ……んちゅっ……!ぢゅるぅっ……れろぉっ……!」
「んんぅっ……ぢゅるっ……ちあきっ……んぷっ……ちゅぷっ……!」
再会を果たした格好のまま、私と俊也はかつて毎晩のように互いを求めたベッドの上で、激しいキスを繰り返す。失っていた時間を取り戻すように、年甲斐もなく下品な音を立てて唇を重ねていく。
「んぷっ……ちゅぷ……んぢゅっ……ぷはぁっ!どう?あの子の……真希さんとしたキスよりも興奮した?」
「なんでそんな……嫉妬でもしているのか?」
「当然でしょ。私よりも若くて、胸だってあんなに大きい子なんだから。よくあなたみたいな男があんな良い子と一緒になれたわね。」
「そこまで言うか!?まぁ……否定は出来ないんだけど……」
ベッドの上で身体を重ねながら、他の女について語る私と俊也。以前の私たちであれば決してしないような話。もしかすると、これが齢を重ねた証拠なのかもしれない。
「なぁ……俺が脱がしてもいいのか?」
「えっ?ええ……でも、そんな見たいの?」
「見たいのって……そりゃ脱がなきゃ出来ないって……」
「そうじゃなくて、私の裸を見たいのかってこと。もう……人に見せられるような身体なんかじゃ……」
自信などあるわけがなかった。健康にはそれなりに気を遣い、体型の意地にもある程度は努めていた。ただそれは誰かに見せたりするわけではなく、自分のためという範囲で行っていることでもあった。
「千晶が見せたくないっていうなら、俺は別に……」
「……やっぱり、真希さんの身体と比べるつもりなんでしょ。」
「なんでそうなるんだよっ!?くぅっ……こうなったら……!」
「あっ……ちょっ……そんな強引に……あぁんっ!」
裸を見せることに躊躇いを見せた私を見兼ねて、俊也は強制的に私の衣服を剥ぎ取り始める。そんな彼の行為に、私は声を上げるだけで抵抗はせず、年相応の下着だけを身に着けた格好となってしまう。
「うぅっ……見事なまでのオバサン下着。」
「悪かったわね。昔の下着なんか処分しちゃったわよ。もう……誰にも見せるつもりなんてなかったんだから。」
「うっ……!?」
垂れ始めた乳房、張りが無くなくなろうとしている肌。人並みの努力などでは、年齢による身体の崩れなど抑えることが出来なかった。そんな私の身体で、眼前の男は年甲斐もなく情欲を滾らせようとしていた。
「ほら……まだ下着が残っているわ。早く脱がせて。」
「あ、ああ……!」
私に促され、俊也は息を荒くしながらブラジャーのホックを外し、乳房の先端を露わにさせる。加齢によって黒さが増した乳頭を晒すことで、全身が羞恥の熱さに支配されていく。
「あまり昔と変わらないな。」
「んんぅっ……!そう……かしら?そんなに気を使ったりはしていなかったんだけど。」
典也に授乳していた時期も長くはなかったので、それほど乳頭を咥えられることもなかったのが原因かもしれない。ただ、俊也に凝視されることで身体は正直に反応しようとしていた。
「んんんぅっ!」
「お、もう固くなってきた。もしかして千晶も……」
「はぁ……はぁ……胸ばかりじっと見てないで、早く全部脱がしなさいよ……!」
「ああ、分かってるよ。」
私を弄んで満悦そうな笑みを浮かべる俊也。そのあくどい笑顔ですら懐かしく、私の身体を火照らせる。そして、下半身を覆う最後の布地に彼が手を掛けて、一気に足元へと降ろしてくのであった。
「んぅぅぅっ……!ダメっ……やっぱり恥ずかしいわ……!」
「恥ずかしいって……もうそんなことを言う年頃なんかじゃ……」
「悪かったわね!こんなの……誰かに……あなたに裸を見せるのなんて本当に久しぶりだから……!」
全てを脱がされて、生まれたままの姿となった私。無造作に茂った陰毛は湿り気を帯びており、身体が快楽を求めていることを誇っているのだった。
「こんなに濡れて……なぁ、本当に久しぶりなのか?」
「そうだって言ってるでしょ……!?なによ、私がもっとふしだらな女だったほうが嬉しいっていうの……!?」
「い、いや……そういうわけじゃないんだけど。」
私がそう言うと、彼は思った以上に大人しい反応を示していた。後妻であった真希さんとの関係を感じたものの、今の私にとってはどうでもいいことであった。
「ねぇ、いつまで私だけ裸のままにしているの?あなたも早く脱ぎなさいよ……!」
「わ、わかってるよ……んっ、んぅぅっ……!」
私に脱ぐようせがまれ、俊也は渋々といった様子で自身の衣服に手を掛ける。そして、速やかに下着一枚となり、私の前でその一枚もずり下ろしていく。
「ああっ!す、すごいっ……!」
昔と変わらない、雄々しく反り返ったペニス。包皮が完全に剥け去り、天を突くように屹立した肉の棒。私は自らの下半身、膣穴ではなく子宮が疼く感覚を得ていた。
「な、なによ……そんなに勃起して。ホントに全然抜いてなかったの?」
「いや、俺だってこんなに固くなるのは久しぶりだし。」
「えっ……?久しぶり?」
「その……あれだ。彼女と一緒になってからは、あまり……上手くいかなくなってたりして……」
真希さんと結婚する前は、互いを激しく求め合っていたと語る俊也。しかし再婚をした後、彼女との夜は味気ないものとなり始め、さらに彼女が一人目の子供を産んでからは、さらに衰えていったのだと告白してくれた。
「それじゃあ……なんで今になってこんな大きくなったのよ?」
「そ、そんなの……い、言わなくても分かるだろ!?」
彼は私で勃起をしていた。真希さんではなく私という女で。歳を取り、身体が相応に崩れ、女盛りが後半へ差し掛かっている私なんかで。そう感じた瞬間、全身に悦びが駆け巡り、底知れぬ優越感が芽生えてしまうのであった。
「なぁ……もう挿れていいか?」
「んんぅっ……はぁ……はぁ……か、勝手にしなさいよ……!んぅぅぅっ……!!!」
限界だった。言葉だけは強気なまま、私は自ら大きく足を開いて、俊也に対して挿入を求めていた。濃い茂みに覆われた淫裂はしっかり閉じていたものの、彼のペニスが押し当てられたことで容易く開いてしまう。そして
「んんっ!は、入ってくる……俊也のペニス……お、おチンチンが……ナカに……あぐぅぅぅっ!!!」
「うぅっ……千晶……千晶っ……あぁぁぁぁっ!!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!あぁっ……!これ……すごいっ!久しぶりなのに……わたし……あぁぁぁぁんっ!!!!」
「くぅぅっ……千晶のナカ、すごい締め付けで……本当に使っていなかったのか……!?」
「つ、使うって何よ!?人をモノにみたいな言い方して……あぁぁんっ!!!」
以前の彼に比べると、言葉の端々に下品さが垣間見えていた。それもきっと、真希さんと身体を重ねたことでセックスに対する価値観が変わったこと影響しているのかもしれない。
「わ、悪い……!でも、本当に……締まりが良すぎて……んぅぅぅっ!!?」
「んひぃっ!と、当然でしょ……!10年以上……誰にも許してなかったんだから。あぁぁんっ!こんな……ぶっといおチンチンが入るのなんて……あぁぁぁっ!!!」
最近は玩具どころか、指すらもまとも挿れずに性欲の処理をしていた。しかし、決して性欲が衰えたわけではなく、むしろ身体はペニスを激しく求めていた。そしていま、私の膣内にはその全てを満たしてくる俊也のペニスが挿入されているのであった。
「はぁ、はぁ……本当にご無沙汰だったんだな。挿れたらすぐに分かったよ……んぅぅっ!!!」
「あぁんっ!ほ、本当に失礼ね……!久しぶりのおチンチンが、あなたのなんかで損した気分よ!」
「くぅぅっ……お、俺だって……お前とまたこんな……ふんぅぅぅっ!!!」
「ひゃぁぁんっ!!!あっ、あぁんっ!やめっ……いきなり激しく動いちゃ……いやぁんっ!!!あっ、あぁぁっ!!!あぁぁぁぁんっ!!!!」
心にもないことを口にして、俊也を挑発して情欲を煽り立てる。それだけ彼は怒張したペニスを激しく膣内へと突き込み、私を知り尽くした快楽で満たしていく。
「あぁぁんっ!あっ!あっ!あぁんっ!すごいっ、おチンチン、おチンチンすごいのぉっ!あぁぁぁんっ!!!んぅぅぅぅっ!!!」
「んぅぅっ……ふぅぅっ……んぅぅっ!!!だ、ダメだ……腰が勝手に……ち、チンポも固くなり過ぎて……ふんぅぅぅぅっ!!!」
「いやぁぁぁぁぁっ!!!あっ、あぁぁっ!!!いやぁぁんっ!!!なんで……あぁんっ!どうしてこんな……久しぶりなのに……おチンチンがこんなのに気持ちいいのぉ!?あぁぁぁっ、いやぁぁんっ!!!!」
身体が覚えていた。忘れていなかった、といったほうが正しいのかもしれない。どれほどの歳月が経っていても、私の身体は彼とのセックスを忘れてはいなかった。
何もかもが変わっていたはずなのに、セックスの気持ちよさだけは変わっていなかった。私は自分の淫らな性を、初めて嬉しく思って肯定することが出来ていた。
「あぁぁぁぁぁんっ!!!!おチンチンいいのぉっ!ねぇ、気持ちいい?わたしの……おマンコ気持ちいい?」
「あ、ああ……!俺も……こんなに久しぶりなのに……んんぅぅぅっ!!!」
「んぅぅぅっ!あぁんっ!わたしもっ……わたしも久しぶりなのに……あぁぁんっ!!!あなたのおチンポで感じすぎちゃって……ひゃぁぁんっ!!!」
俊也の一突き一突きが、私の身体を若返らせているようだった。亀頭が膣壁を擦り上げ、肉穴をこじ開けながら何度も抽挿を繰り返すことで得られる快感。玩具では決して味わうことが出来ない、彼の意志と熱意が籠ったペニスの気持ちよさに私は溺れていく。
「んひぃぃっ!あぁんっ!う、ウソよこんなの……こんなおチンチンが……あぁぁんっ!久しぶりのセックスだなんてぇっ!あぁぁぁんっ!!!」
「ほ、本当だってば……!お前でこんなに勃起が……んぅぅぅっ!!!」
「なによぉっ……!あの子で……んぅぅっ!!!真希さんで勃たないなんて酷いわよっ!あなたなんて捨てられて当たり前の……最低な男なのよっ!」
「うぐぅぅっ……!くぅぅぅぅっ!!!」
このペニスが衰えていたなんて、信じることが出来なかった。しかも、私よりも遥かに若く、豊満な身体をした女と一緒にいたというのに。真希さんへの嫉妬が消えたわけはなかったものの、それ以上にこの男が彼女で勃たなくなったという事実に憤りを覚えていた。
「わたしなんかで勃起して……んぅぅっ!!!あの子じゃ勃起出来ない……この意気地なしっ!」
「くぅぅっ……このっ……言わせておけばぁっ……!」
「んぐぅっ!?んっぐぅぅぅぅぅぅ!!!!あぁぁぁっ!!!きたぁっ!おチンチンっ、おチンポっ、チンポっ!俊也のチンポがわたしのおマンコの奥まで……んっひぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
「はぁっ……はぁっ……!この家で……このベッドで俺が真希と……彼女を抱いたときに……どうしてもお前のことが……ふんぅぅぅっ!!!!」
「あぁぁぁっ!!!あぁっ!いやぁぁぁぁっ!!!バカっ……何をいって……んぅぅっ!!!あひぃっ!おチンチン激しすぎて……あぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
俊也は真希さんと一緒になってからも、決して私のことを忘れていなかった。それは彼女に対してとても失礼だと思う一方で、私もまた彼に対する思いが消えていなかったこともあり、嬉しさが込み上げてしまうのであった。
「バカっ、最低っ!浮気者っ!再婚しても私のことを思ってるなんて……あぁぁっ!!!だめっ……わたし……もう……絶対に……あぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
心を満たした喜びが全身へと広がり、身体を否応なく悦ばせていく。こんな私で昂っているという屈辱、若い妻で勃たなくなったという憤怒。それら負の感情が快感へと昇華され、激しい抽挿によって快楽の頂点を目指していた。
「あなたみたいな男は私で十分よっ!一生私のおマンコだけで満足すればいいのよっ!あひぃっ!!!あぁぁぁんっ!!!わたしだって……あなたのおチンポだけで……んぅぅぅぅっ!!!」
「ああっ……当たり前だ……俺はもう……お前のことを……絶対に……んぅぅぅぅっ!!!!」
「あぎぃっ!?んぐぅぅぅぅぅぅっ!!!イクッ、イっちゃうっ!わたし……もうっ……俊也のおチンポで……んんんんんぅっ!!!!!」
ひとしきり罵る言葉を吐きだして、あとは絶頂を迎えるだけ。好意なんて必要ない。心と身体が繋がっていればそれで十分な関係。その繋がりを確かめるため、私と俊也は共に達しようとしていた。
「千晶……俺も……もうっ……!」
「いいわよっ、出してっ!おマンコの中にいっぱい出してっ!おチンチンから一番気持ちいいのいっぱい出してぇっ!」
「んぐぅっ……!でも……お前……んぅぅっ!!!」
「いいの……先のことなんてどうでもいいっ……!今さえよければなんでも……わたし、わたしも最低だからっ……!」
最低な男に相応しい最低な女。共に落ちるところまで落ちて、待ち受けるかもしれない不幸な未来を受け容れたい。ずっと不幸でいられれば、幸せを失うこともないから。私は俊也と一緒に、末永い不幸を享受したいのであった。
「ああ……そうだな。先のことなんて、俺たちが考える必要は……んっ、ぐぅぅっ!!!ち、千晶っ!」
「出してっ!中に出してっ!おマンコの中にちょうだいっ!おチンポから気持ちいいの全部出してぇっ!わたしをあなたの気持ちいいのでいっぱいにしてぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
ペニスが激しく震え、膣内で限界だと訴えていた。そして私もまた、そんな彼と共に久方ぶりのセックスで達するのであった。
「イクぅっ!イくぅぅぅぅっ!!!おマンコ!おマンコっ!おマンコでイくぅぅぅぅっ!!!!いくいくいくいくぅっ……イっくぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!」
「んぐぅぅぅっ……ち、千晶っ、あぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!あぁっ……!精子……ビュルビュルって……おマンコのナカにたくさん……あぁぁぁぁぁぁぁ……!」
膣内射精と共に迎える最高の快楽。ずっと、あの日からずっと求めていたものだった。私の枯れ始めた、乾いた身体を潤す大量の精液。歳を取ったとはいえ、まだ子を成すことが出来る身体に注ぎ込まれた多くの子種。
この行為がもたらす結果と可能性を理解しながら、私は膣内射精の快感を求めていた。自分勝手などとは百も承知。そうじゃなければ彼に求めることが出来なかった。
「んんっ……あぁんっ!だめ……こんなの、わたし……全然足りないかも……あぁっ……!」
「そんな無理を言うなよ……んぅぅっ!やば……こんなに出るとか……うぅっ!?」
私の膣内へと存分に精を放った俊也のペニスは、絶頂の余韻が収まるのと共に萎え衰えていく。そして、膣口から抜け落ちるのと同時に白濁が零れてくるのであった。
「もう……こんなにいっぱい出すなんて。ちゃんと抜いておきなさいよ。」
「うぅぅ……ぬ、抜くにしたって、こんなに勃つことが出来ないんだから……おわぁっ!?」
男としての衰えを恥じている様子の俊也。私はそんな彼を不意に抱き寄せて、互いの身体を密着させながら言葉を続ける。
「本当に……どうしょもない人。真希さんだけじゃなくて、あの子にまで気を遣わせたりして。」
「あの子って……典也が何か言っていたのか?」
『お父さんを一人にしないで』。そんな息子の願いを私はただ受け容れただけ。多くを与えることが出来なかった母親としての私に、息子が求めたささやかな願い。でも私はその願いに、俊也と典也の過ごした時間の重さを感じていた。
「……あなたには教えてあげないわ。私と典也の秘密だから。」
「な、なんだよ……余計に気になるだろ。」
「あの子にも私にも、隠し事の一つや二つくらいあってもいいでしょ。もう……信じるとか信じないなんて関係でもないんだから。」
「それは……!ああ、そうだな。お前みたいな女を、誰が信じたりするか。」
見つめ合う私たちの顔には、自然と笑みがこぼれていた。決して仲良くなんてならない、一生いがみ合い続ける関係。私はこの最低な男と、生涯を誓ってしまったのだから。
「あ、そうだ。今日私が帰ってきた用なんだけど……」
「なんだ、俺に会いたくて帰って来たんじゃないのか。」
俊也の自惚れを適当に聞き流しつつ、私は彼に要件を切り出す。
「典也と真希さんの関係だけど……あなた、どこまで知っているの?」
「え?あー……それは……ええっと……」
瞬く間に目が泳ぎ始める眼前の男。言葉も詰まらせ、出来れば私をはぐらかしたいという雰囲気が滲み出ていた。
「やっぱり、教えなくちゃ……ダメ?」
「私はそれを聞きに帰ってきたの。あなたに会いたかったのはそのついで。さぁ、全部話してちょうだい。」
「いや、俺だって……全部なんて知らないし……大体どこから話せばいいのかも……」
真希さんと息子の典也がただならぬ関係であることは、既に私も理解していた。それをこの男はどこまで知っているのか。私は一人の女ではなく、一人の母親として俊也を問い詰めるのであった。
「どこからでもいいわよ。時間だったら、まだいっぱいあるんだから……ね。」
そう、時間は多く残されていた。少なくとも、この十数年を語り合うだけは十分すぎるほどに。私とこの男は、これからもずっと一緒にいなければいけないのだから。