周囲からの呼びかけで我へ返ったのは、リットもエンニュートも同時であった。
それでもしばし互いから視線を外さずに見つめ合う二人であったが──やがてはエンニュートがそれを振り切る形で一行は客席への行進を再開した。
そうして去りゆく彼女達の背後を見送りながらまだ白昼夢から覚めやらぬといった様子のリットへと、
『あれが純白姫のエンニュート……この劇場の看板スターさ』
新しいビールのジョッキを煽ったエルが説明をした。
店の看板に描かれているエンニュートも彼女であるらしく、そもそもこの劇場が今日の格式を誇るに至ったのも彼女のショーが始まりだったのだという。
見目麗しい彼女の美しさに魅了されて、連日この劇場は彼女のファンやそのリピーターが詰めかけるのだそうだ。
「それも分かるような気がするよ。あんなに綺麗なポケモンなんて見たことが無い」
「だろ? ……この後のお楽しみになるがな、この劇場は最後にお気に召したポケモンと一夜を共に過ごせるかもしれないってサービスがあるんだ」
「それってどういうこと?」
「ここのポケモン達は最高級のコールガールでもあるのさ。気に入った踊り子がいて、なおかつ彼女のお眼鏡に適えばここの踊り子達を抱くことだって出来る」
思いもよらぬエルの言葉に、リットは目を皿のようにしては見返した。
胸中に満ちていた思いは『信じられない』の一語に尽きたが、それはポケモンと性交を交わすことにではなく、むしろあんなエンニュートを抱くことが出来るのだという事実に対する驚きであった。
しかしながら、
「でもよ、あのエンニュートだけは今までに誰一人オトした奴はいねーんだ……それこそ中には国家予算並みの金額を提示したって富豪もいたそうだが、それでもエンニュートは鼻にも掛けなかったそうだぜ」
まだ誰の手も触れられていない純白の花を想像してリットは不思議な安堵を覚えていた。
しかし同時にそれは、彼女が自分如きには絶対に手の届かない高嶺の花であることの証明でもある。
そのことに気付くとようやくにリットは冷静さを取り戻せたような気がして小さく鼻を鳴らした。
「ともあれ、今夜はここで宿泊だ。お前も目当ての踊り子に見当付けておけよ? もっとも一人寝の個室も用意はしてくれるけどな」
「人間とすら経験も無いのにいきなりポケモンだなんてハードルが高すぎるよ」
思わぬリットのジョークにエルも弾けるよう笑い声をあげると、場には劇場側からのアナウンスコールが響き渡った。
『今宵も紳士淑女の殿堂シアター・アローラへお越しいただきありがとうございます! これより始まりまするは10人の踊り子達による妖艶の饗宴! どうぞ皆様お楽しみくださいませ! そしてキャンディタイムではどうか踊り子達よりキャンディをお買い求めいただきますよう願いいたします。それが今宵の踊り子達へのチップとなっております』
おそらくは何千回と繰り返しているであろう口上には一切の淀みも無く、うっかりしたならばそのまま聞き逃してしまうほど流暢にアナウンスされた。
同時、ホールに大音響のBGMが流れ出すとステージがスポットライトの集中砲火で眩く彩られた。
そしてその光の元へ歩みだしてきたのは──その長い手足が艶めかしいヒスイ・ドレディアの姿であった。
風呂上がりよろしくに身を包み込んだバスタオルの裾から伸びた御美脚(おみあし)にリットの心は再びときめかされる。
もとより植物学者ということもあってか、草系ポケモンにはめっぽう目が無い。そんなリットにしても、ここまで美しい足を持ったドレディアは初めてであった。
衆人環視の中、その美脚を高々と上げ、さらには氷上のフィギアスケーターの如く華麗に舞い踊りながら身を包むバスタオルを脱ぎ捨てると──その下にはたわわに実った二つの巨乳に加え、妊婦よろしくに大きく張りだした腹部もまた披露された。
場所が場所であるからここに揃えられる踊り子達は皆がスレンダーでスタイルの良い者達が集められているだろうに、どうして斯様な体型のドレディアがステージに上がれるのかと不思議に思うリットではあったが──その謎はすぐに明かされることとなる。
背を向けて腰を折り、観客達へ自分の局部が良く見えるよう尻を突き出したドレディアは次の瞬間──客席へと撃ち放つよう、膣から何かを弾け出させた。
集中した照明の下、体液を光の粉のよう纏いながら放物線を描いて飛んでいくそれはやがて……客席のリットの手の中へと落ちた。
思わぬそれを受け取ると観客達からは歓声が上がる。
「良かったな!」と囃し立ててくる傍らのエルに戸惑いつつも手の中を見ると、そこにあったものはドレディアの愛液にまみれたモンスターボールであった。
潤沢な粘液の感触に生唾を飲み込むと、本能的にリットはそれを鼻先へと運んでしまう。
上唇に彼女の粘液を感じながら大きく息を吸い込むと、鼻腔内には柑橘系を思わせるような南国の香りが広がった。
その中にも生物特有の艶めかしい体臭も混じってはむしろ、これこそがドレディアの膣の香りであると実感して、その擬似クンニリングスにリットは興奮を胸に募らせた。
──もし見染めてもらえるなら彼女がいいな……
その香りに忘我しながらステージ上を見遣ると、そこには次々と客席へボールを播種させてはその数を観客達へカウントさせているドレディアの姿があった。
そのつど妖艶にポージングをしながらモンスターボールをひり出す彼女は、膣から16個・アナルから26個──都合42個のモンスターボールをひり出してショーを終えた。
終わる頃には、始まりの時のボテ腹が嘘のように解消された見目麗しいスレンダーなドレディが、客席へと綺麗なお辞儀を一つする。
「彼女、いいなあ。もし叶うならあのドレディアをもっと見たいんだけど、それにはどうしたらいいんだい?」
「なんだ、もう決めちまうのか? もしお気に入りの踊り子が居たら、この後のキャンディタイムでチップを弾んでやればいいのさ」
エルの説明するこのシアターでのシステムはこうだ。
まずは踊り子によるショーが披露された後、その踊り子がキャンディを売りに客席を回る。
客達はその労をねぎらう傍らでチップを払いキャンディを買ってやるわけだが、もし彼女と一夜を共にしたいと言うのであれば、その時に踊り子の膣に収められた棒キャンディを所望する。
それの売買に踊り子が応じれば交渉は成立となるが、もし断れればそれまでということである。
「あのドレディアもキレイどころだが、草ポケモンはそんなに買う奴もいないだろからイケるんじゃないか? ……でも金はそれなりに掛かるぜ?」
「カード使えるかな?」
そんな話をエルとしていると、ホールにはどよめきににも似た歓声が上がった。
さてはドレディアのキャンディタイムが始まったのかと、その方向へ視線を投じたリット達であったが──目の前の光景はそんなリットの予想を上回るものであった。
神々しく純白の体躯にスポットライトを纏い、さながら十戒のワンシーンのよう人ごみの断ち割かれたその花道を歩んで来るのはドレディアではない。
リットまでの一直線を優雅に歩み進んでくるのは──誰でもない、あの純白のエンニュートであった。