第1話・マザーファッカー
マイちゃんのスリーパーには特殊な能力が一つある──それは相手の思考を読めるということだ。
もっともそれも些細な才能程度のものだったから、スリーパーが心を読める相手はごく身近な、それも親愛する者のみに限られた。
そんなスリーパーは夏のある日──とんでもない家族の思考を読み取ってしまうこととなる。
その日──マイちゃんは学校・パパは仕事と、家にはスリーパーとマイちゃんのママの二人だけがいる状況だった。
この組み合わせはさして珍しいものでもなく、平素ならば各々で家事や趣味にと思い思いの時間を過ごすはずであったが……この日に限り、そんな『日常』の均衡が壊される事件が起きた。
──『セックスしたい……』
ふいにそんな声が聞こえた。
あまりにも強くはっきりしたそれゆえに最初、スリーパーは直接語り掛けられたのかと我が耳を疑ったものだ。
しかしマイちゃんの部屋で過ごすスリーパーの周囲には誰もいない。そしてその後もハッキリと聞こえ続けてくる声は、どうやらリビングで過ごしているであろうママの思考が漏れだしてきたものと思われた。
──『めちゃくちゃにしてほしい……胸をワシ掴まれて、アソコを掻き回されて、道具みたいに弄ばれたい……』
その内容にスリーパーはただ事ではないものを感じては慄然とする。
既に種の最終進化系で心身共に成長を果たしているスリーパーには、世の道徳や倫理観というものは恙無く備わっている。
そしてだからこそ、あの普段は優しくて貞淑なママがそんな思考を抱いていることにショックを受けざるを得なかった。
しかしながら事態はさらに危うい方向へと展開していくこととなる……。
──『そうだ……外に出てこよう。そして誰かに声を掛けてみよう……若い子でも歳をとっていてもホームレスでも誰でもいい……派手な格好してふらついて、それに釣られて声を掛けてくる人とセックスしよう……』
これにはスリーパーも立ち上がらずにはいられなかった。
言うまでもなくこれは一家の危機だ。
もしママが今の思考通りの行動に出たならば、間違いなくこの一家は終わる──スリーパーの大好きな人達が斯様にして離散してしまうことなどあってはならない。
『誰でもいい』──ママは確かにそう言った。
ならば、その役は自分が務める──自身がママを襲うレイパーとなれば、ママの名誉も立場も傷つかない。
手飼いのポケモンに襲われた哀れな被害者たるママに同情こそは集まれど、一時の享楽に耽った淫売とはだれも思うまい。
……もしかしたら、これこそは自分とこの家族の絆を断ってしまう一事になるやもしれない。
それでも彼女の名誉・家庭・未来──そんなママの全てを守るために、スリーパーは今、明確な意思を以てママの慰め役になることを決意した。
立ち上がりリビングへと急ぐと、そこには既に立ち上がり、ソファの背もたれに両手を掛けては何やら物思いにふけっている様子のママが発見できた。
同時に、
──『どこに出かけていけばいいのかしら……? 女の人ならだれでもいいような、そんな男の人ってどこにいるのかしらね……』
具体的な外出のプランを頭に描きだしているその様子にスリーパーの焦りはさらに強くなる。
もはや時間は無い……スリーパーは問答無用でママへと近づいていくや、
「……──あら? どうしたのスリー……ん、んぅッ?」
ママを抱きしめるなり、スリーパーは強引にその唇を奪った。
それによってママの体が硬直をして自由を失うと、同時にスリーパーの右手がママの乳房を握りしめる。
彼女が望んだよう無秩序に、そして出来る限り粗野で乱暴にママの乳房を揉みしだいた。
依然としてキスをしたまま行う愛撫にママの体が脱力していく様子が窺える。
それでもしかし最後の理性かあるいは体面というものもあったのだろう、ママは最後の力と理性とを振り絞ってスリーパーを押しやると、
「や、やめなさいスリーパー。イタズラにしても酷いわよ!」
毅然とママはこちらを見つめながら注意をした。
そんな向かい合うママの瞳はしかし、すっかりと熱に浮き上がっては抑えきれない期待と興奮の光をそこに宿いていた。
むしろ心の中では……
──『もっと続きをしてほしい……無理矢理に、力づくで……催眠術でも何でも使って、私の体を拘束して……!』
もはや会話ともつかない明瞭さで、そんな心の声がスリーパーを捉えていた。
そしてその望み通りに、スリーパーは自身の持つ振り子をママの眼前に晒す。
そこから振り子が左右へと揺れ始め、その動きを目で追うママは──途端に抵抗を止めた。
ただ茫然とそれを見つめたまま立ち尽くすと、もはやその顔からは表情すら消えていた。
その様たるや完全にスリーパーの催眠術にかかっている様子だがしかし……その実スリーパーは何の術も仕掛けてはいなかった。
ただ振り子を目の前で揺らしただけではあったが、『催眠術により操られる』ことが既定路線として確立されているママにとっては、それでだけでもう『自分は一切の抵抗が出来ない』状態に陥ることができた。
やがては立ち尽くしたままの彼女をすっかり意のまま……もっともスリーパーにとってはこのレイプからして本意ではないのだがしかし、ともあれママの行動を手中に収めた形となったスリーパー。
そして今後を考えた時──スリーパーは頭を抱えた。
ママを慰めるのは良しとして、いざそこから何をしたらいいものかスリーパーには皆目見当もつかなかったのだ。
人間の交尾による知識は元より、自身ですらもがまだそれを体験していない身だ。
そんな折、スリーパーはあることを思い付く。
それはこのリビングに設置されたテレビにあった。
ママをテレビの正面のソファに座らせると、その隣にスリーパーもまた腰かけてはリモコンの操作をする。
そしてメニューから有料放送のチャンネルをいくつか操作すると──スリーパーはアダルトチャンネルのそこまで画面を移行させた。
……時折り、深夜にパパさんがこうしてこのチャンネルを嗜んでいるのを密かに目撃していたスリーパーは、そこまでを辿る方法を覚えていたのであった。
ともあれそこに表示される数々の動画サムネイルを確認する。
まだ上手く字は読めないが、半裸あるいは全裸でパッケージを彩る女性達の隣にはそれは卑猥な単語が並んで入いることだろう。
その中のひとつに人妻モノの……しかもエプロン姿の家庭的な女優が映ったコンテンツを発見するとそれの再生をスリーパーは開始した。
上映までのわずかな読み込み時間の中でスリーパーはとりあえずの安堵のため息をつく。
後は流される映像をなぞってその通りのプレイをママに施していけばいい。
そんな安易で安直な安堵ではあったが──この時のスリーパーは、自分が何の動画を再生させたのか何ひとつ分かっていなかった。
そのAVのタイトルこそ、『6時間耐久! 不倫人妻壮絶レイプ! 目覚める人妻の本能!』……──
レイパー・スリーパーの長い一日が始まろうとしていた。