頬に感じる心地良い感触でスリーパーは覚醒した。
小さくて柔らかいそれが幾度となく顔に押し付けられて、そしてその表面を撫でてくれる感触はスリープ時代から愛してやまないものだった。
既に眠りから覚めているにも拘らず、しばしスリーパーは目を閉じたままその愛撫に甘えた。
やがてはゆっくりと瞼を開けて、目の前の人物を確認すると──
「あー、スリーパーが起きたよー、ママ―」
想像通り、マイちゃんが小さなモミジの掌でスリーパーを撫でてくれていた。
この目覚めの瞬間こそがスリーパーにとってはもっとも幸福を感じられる瞬間だった。
マイちゃんが愛撫を止め、その元から離れてママの元へ報告に走ると、スリーパーはその場で大きく伸びをひとつしては、寝ぼけまなこに我が身を振り返る。
ここは何処だっただろう? 眠りに落ちる前の自分は何をしていたものか?
それとなく周囲へ視線を巡らせているとここがリビングであり、そして自分は今ソファの上に寝転がっていることが確認できた。
そしてそれを確認した瞬間──途端に直前までの記憶が自我と直結しては、スリーパーは激しくその場に起き上った。
途端に不整脈が強くなり、体中から汗が噴き出す。
思わず自分の体をまさぐるスリーパーは同時、その身が清拭されて清められていることにも気が付いた。
まるで何事もなかったかのよう……あのママと過ごしたレイプの一時は夢幻の如くであったかのようにも思えたスリパーではあったが──すぐにあの瞬間は紛う方なき現実の出来事であったのだと確信するにも至った。
「スリーパー、顔に赤い点々できてる」
戻ってきたマイちゃんがよじ登るようにしてスリーパーの膝に座ったかと思うと、そこからその顔を指差しては鼻に浮いた斑紋をなぞった。
これこそはママが騎乗位で繋がっていた時にスリーパーへと施したキスマークの痕に他ならなかった。
同時に、
「あら、虫刺されかしらね?」
場に響く柔らかい声──過敏過ぎるほどの反応で大振りにその方向へ頭を上げれば……そこには夕食のサラダボウルを両手に持ったママが、あのいつも通りの優しくて朗らかな笑顔のまま歩み進んでくるのが見えた。
ふと視線が絡むと居た堪れなくなって顔を伏せてしまうスリーパーに対し、これまたママはいつも通りに微笑んではマイちゃんへ手を洗ってくるように促す。
何も知らないマイちゃんは元気に返事をすると、これまたロケット花火のような勢いでスリーパーの元を離れ洗面所へと駆けていくのだった。
期せずして場にはママとスリーパーだけが残される。
いつも通りに夕食のテーブルメイクを始めるママの横顔はあんなことがあったにも拘らず、和やかにリラックスしては機嫌も良さそうに見えた。
むしろそんないつもと変わらない様子に戸惑いを覚えるスリーパーではあったがふいに……頭の中にママの声が響いた。
それこそはママの思考をスリーパーが受信したものであったが、その中においてママは、
──『ありがとう……スリーパー』
小さな感謝をひとつ、伝えていた。
それを聞き取り、途端にスリーパーも緊張の糸が緩むのを感じた。
心の声には偽ざるその人の感情が込められる。そして今のママは心からいつもの貞淑で優しいママへと戻っていた。
言うまでもなくそれは、一連のスリーパーとの情事を経てママの過剰なストレスが発散されたことを示している。
そしてそれを知ることは同時に、自分がママの……否、この家族の危機を救ったこともまた悟っては、ようやくに安堵と、そしてその達成感とをスリーパーは実感するのだった。
余談にはなるがこの後、ママとパパの信愛度は全盛期の昂りを取り戻す。
ポケモンとはいえ不倫の事実を抱えたママはそれゆえの罪悪感と、そして改めて自分を内包してくれるパパの愛とを再確認をするに至ったのだ。
罪を犯したがゆえに我が身を振り返ることは皮肉でもあるが、それでも夫婦は互いの愛の再確認が出来た訳である。
そしてその年の暮れにママは懐妊し、さらに翌年にはマイちゃんの弟となる男児を出産しては新しい家族もまた増えるに至る。
ともあれ、ようやくスリーパーは『レイパー』から一介のしがない『スリーパー』へと戻ることが出来たのだった。
ならばこれからはいつも通りに振舞うまでである。
もうじきパパも帰ってくる。そうすればみんなで食卓を挟む楽しい一時が過ごせるのだ。
そんな何気ない日常の復帰を心から愛しく思うスリパーは同時──とある心の声もまた受信した。
最初は気配だった。
何か鋭い感覚に中てられて振り返るスリーパーは、それが視線であることに気付く。
顔を上げ、その気配の元を辿るとそこには──リビングの入り口で、半身をドアの木枠に隠したママがイタズラっぽい笑みでこちらを見つめていた。
そしてその笑顔は、つい先ほどまで確認できていた朗らかな物ではなかった。
それこそは日中、スリーパーを蹂躙した鋭くも妖艶なレイパーの眼差しであった。
それに射竦められ、途端にスリーパーは身を硬直させる。
斯様にしてスリーパーを視線の先に捕らえたまま、ママの艶やかな唇が音もなく動いては何かを囁く。
声などは一切出ていない。それでもしかし今のスリーパーには十分すぎるほどにその内容は伝わっていた。
ママの甘美な声音が脳内に直接流れ込んでくる。
──『明日またレイプしてね……今度は、私達の寝室で♡』
終わりなどではなかった──……。
この日を境に、スリーパーは新たな役割をこの家庭の中で果たしていくこととなる。
それこそはママの欲望を慰める卑猥なレイパー………
これからは自身のペニスによって、この小さな家族の鎹を打ち続ける役割もまた、スリーパーは背負うこととなったのだった。
【 スリーパー the レイパー・完 】