第1話・ポケモン姉妹
俺には可愛い妹が二人いる。
一人はユキメノコ、そしてもう一人はオオニューラ……言わずもがなのポケモンだ。
この姉妹はまだそれぞれが第一進化の時に引き取られてきた。
そもそもは別々の場所で保護され、我が家において初めて顔を合わせた訳ではあったが、二人はまるで端からそうであったかのよう惹かれ合い、そして姉妹としてのちぎりを結んだ。
お互い、反社会組織の密漁に巻き込まれて生家や従来の家族を失った者同士というシンパシーもあったのかもしれない。
だからこそ引き取った俺もまた『トレーナー』などという他人行儀な関係は抜きにして、そんな彼女らの一家族として振舞うこととした。
そしてそんな家族の中で俺の役割は自然と、二人の『お兄ちゃん』という役どころで落ち着いた訳だ。
先にも述べた通り二人の関係は本当に仲睦まじく、何処へ行くにも一緒ならば、一枚のクッキーでさえ割って分け合うほどの親密さだ。
……しかしながらそんな姉妹であってもただひとつ、分かちがたいものがあった。
それこそは──俺こと『お兄ちゃん』の存在だった。
姉妹のどちらか一人が俺を独占しようものならば、たちどころにこの二人はケンカを勃発させた。
例を挙げるにそれは俺の膝の上の所有権であったり、一緒に寝る時に俺の体がどちらを向いているかや、抱っこや肩車の順番、果ては二人を呼ぶ際にどちらの名前が先にコールされるかに至るまで、とにかく俺が関わる全ての事柄で二人は自分の所有権を主張してやまなかった。
もっともこれは俺の頭を悩ませることの一つであると同時に幸せな状況でもあった。
所詮は些細な争いであり、すぐに二人は元通り仲の良い姉妹に戻ることもできていたから、俺自身もこのことに関してはあまり深刻にとらえようとはしなかった。
そう……あの事件が起こるまでは──。
その日、ユキメノコは定期の健康診断の為ポケモンセンターに預けられることとなり、家には俺とオオニューラだけが残される形となった。
どちらかと二人きりの状況は珍しいことであったが、今までにそんなパターンが無かったわけでもない。
別段特別なことをする訳でもなく、いつも通りに自室のベッドで雑誌など読んでくつろいでいると──ノックも無しにオオニューラが俺の部屋のドアを開けた。
音も無く控えめに開いたそのドアに半身を隠しては、こちらの様子を窺うように覗き込んでくるオオニューラと目が合い、俺は彼女が遊んでほしいのだと察する。
たしかに普段ならばユキメノコとの激しい争奪戦が繰り広げられるような場面である。こういう時にこそ俺を独占しておきたいと考えるのは自然な情というものだろう。
それを理解するからこそ俺も雑誌を閉じると、依然寝そべったままの状態で自分の胸元を二、三度叩いては彼女を受け入れるジェスチャーなど送ってみせる。
それを受けて途端、上目遣いに様子を伺っていたオオニューラの表情が輝いた。
ドアの陰から飛び出し、機敏に二歩でベッドまでの距離を詰めるとあとは猫のようなしなやかさで跳躍して俺の胸元に飛び込んだ。
それからは特に何をするでもなく、オオニューラは添い寝をする俺の胸元や腋の下に鼻先を潜らせてはただひたすらに喉を鳴らして甘えた。
「大きくなっても変わらないなー」
そんな彼女を俺もまた愛しく思いながら存分に撫でてやる。
オオニューラもまた頭を押し付けるがあまり身を丸くしては、俺の体の上で二転三転してみせるのだった。
とはいえしかし、斯様にしてニューラ時代と変わらぬコミュニケーションを取る彼女ではあるが、その肉体に関しては遥かに成長を遂げていた。
オオニューラ特有の長い爪は元より、流し髪のように伸びた片耳と切れ長の瞳の面相は、身内贔屓の欲目を抜きにしても美しいと俺は確信していた。
加えて僅かに乳房の膨らみが窺える胸元と、腰元のくびれとメリハリがついた臀部のプロポーションなどは、数ある人型ポケモンの中においても頭一つとびぬけた美人であると俺などは思う。
うちに引き取られた頃には、雄雌の区別すらもつかないニューラであったことを知る俺には、そんな彼女の成長がなんとも感慨深かった。
そんな想いに耽っていると、いつしか体の上のオオニューラが大人しくなっていることに気付く。
さては眠ってしまったかと胸の中を見下ろせば──そこから俺一点を見つめている彼女と目が合って俺はぎょっとした。
思わぬ視線の絡み合いに驚いたのではなく、普段身近なはずのオオニューラが、その時はひどく艶めかしく思えたからだ。
それこそは家族というよりは、男女の仲を彷彿とさせるときめきを感じてしまったことに俺は動じた。
そしてその感情は今もなお振り切れずにいる。
潤んだオオニューラの赤い瞳は俺を真っすぐに捕らえたまま、僅かに唇を開いては声にならぬ声を上げては俺に何か訴えているかのようだった。
おそらくは俺の名を呼んでいたのだろう。そんな空気の中で彼女が一層に身をすり寄せてくると、乳房や太腿の弾力といった肉の隆起がよりダイレクトにその形と温もりとを伝えた。
もはや一個の女性と変わらないオオニューラの肉体とアプローチに、俺はそれらの一切を拒むことも出来ず、ただ流されるがままに受け入れてしまう。
やがては徐々に彼女は俺の体を登り、そして互いの鼻先同士が限界まで近づくと遂には──俺達の唇は親密に結びあい、『家族』の一線を越えた触れ合いをそこに果たしてしまうのだった。
舌先同士が唾液を撹拌する粘着質な音が室内に響く中、斯様なキスを繰り返しながらも俺の手は自然とオオニューラの胸元に添えられる。
そうして掌に乳首の頂点を感じながら、僅かにそれを萎ませて乳房全体を覆うが如くに揉み上げると──オオニューラはキスを振り切っては喉を反らせ、強く眉元をしかめさせては身を内震わせる。
それを組み敷かれた下から見上げながら、よもや絶頂を迎えてしまったのかと俺も驚きを禁じ得ない。
しばしその姿勢のまま余韻に震えていたオオニューラであったが、大きなため息と共に脱力すると再び俺へと視線を結んだ。
赤く光彩の煌びやかな瞳が泣き潤んでいた。
美しい──本当に、美しい。
見惚れる俺はその頬に手を添えると、オオニューラもまた小首をかしげてはそれに頬ずりをして深い愛情を返した。
そうして見つめ合ううちに、いつしか俺達は再び口づけを交わしていた。
もはやこの時の俺は、完全に我を見失っていた。そしておそらくはオオニューラもそうだったのだろう。
後は本能の赴くまま、行きつく先まで過ちの逃避行を二人で辿ろうとしたその時──廊下から聞こえてくるけたたましい足音で俺達は我に返った。
その聞き覚えのあるリズム感に思わず寝室のドアを振り向くのと、そしてそのドアがけたたましく開け放たれたのは同時であった。
視線の先には──ユキメノコがいた。
診断が終わる時間を見計らい迎えに行くはずが、どうやら自分の足で帰って来たらしい。
そして帰宅するなり、家の中のいつにない不穏な空気に気付いたユキメノコは俺の部屋まで直行し……そしてその最悪の予想は当たってしまっていた。
ユキメノコの視界には俺の上に重なりながら今にも親密なキスを交わそうとしているオオニューラの姿が映っているはずだ。
同時にこれは過去最大のケンカの発端になることを察知した俺は急いで彼女に声も掛けようとしたが──……すべては手遅れであった。
ユキメノコはこれまでに聞いたこともないおどろおどろしい絶叫を発するや、その声の尾を長く引きながら俺達へと躍りかかるのであった。